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第五章
氷姫は機嫌良く歌わない③
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階段を降りると、廊下の一番奥の部屋から灯りが漏れていた。
あそこって‥。
私は急いでその場所に向かって走る。
普段は廊下を走ったりなんかしない。
でも、いても立ってもいられなかった。
だって、あの場所は‥。
灯りが漏れる保健室の前で立ち止まる。
少し扉が開いていた。
中から話し声なるものは聞こえない。
代わりに、コポコポと何か入れる音が聞こえてきた。
深呼吸をしてゆっくりと吐く。
私は拳に力を入れて、扉を勢いよく開けた。
「きゃっ!」
驚いた声が中から聞こえてくる。
ガタン、とキャスター付きの椅子はそのまま壁にぶつかった。
「びっくりした‥。そんなに慌ててどうしたの?」
手に持っていたコーヒーポットを元の場所に戻して問いかけてくる。
保健室の中にいたのは真野先生だった。
私は辺りを見渡すが、真野先生の姿しか見えない。
ひとまず胸を撫で下ろすが、すぐに疑問が頭に浮かぶ。
「先生、今日って‥」
「あ、言いたいことは分かるわ。とりあえず、座って?」
いつもの落ち着く声で真野先生が椅子をすすめた。
私は戸惑いながらもその椅子に座る。
真野先生は入れたばかりのコーヒーを一口飲み、満足げに頷いた。
「あの、先生」
「一ノ瀬さん、顔が赤いわよ?」
真野先生は私の額に手を当ててくる。
その温かい手の温度に、頭がぼんやりする感覚に襲われた。
変な、感じ。
入学当時から真野先生にはよくしてもらっていた。
でも、こんな変な感覚に襲われるのは、最高学年になってからだ。
「あ、大丈夫です」
私は少し力が抜けた手で、真野先生の手を払った。
「そんなことより先生、何か知ってるんですか?」
「何かって?」
とぼけたように首を傾げる先生に流石に苛立ちを覚える。
「だから、何で学校に誰も居ないか、ということについてです」
またコーヒーカップに口をつけ、真野先生はふふふ、と悪戯っぽく笑った。
「何でって、全ては貴方の為よ」
「私の?」
「えぇ。今日は、一部の生徒以外学校を休ませているわ」
「なにを、言ってるんですか?」
私は椅子から立ち上がる。
違和感。
それは正しかった。
今いる先生は、確かに真野先生だ。
でも、身体中がこの場から離れるように危険信号を鳴らしている。
「先生、私、帰ります」
「あらぁ、そう。でも折角来たのだから、せめていつものカウンセリングだけでも受けましょう」
白衣のポケットからスマホを取り出し、画面を操作している。
「失礼します」
私が扉に手をかけると、凄い勢いで肩を掴まれた。
そして、妖しく光る画面を見せてくる。
「ほらぁ、リラックスして‥」
真っ黒な画面に、ぐるぐると回る白の線。
グルグルと、回る。
「大丈夫よ。私に任せて」
白が、変わる。
赤、青、黄色。
一つの色が段々と増えていき、同じように螺旋状に回る。
肩の力が抜ける。
肩だけではない、腕も、足も、表情筋ですら緩む感覚。
この感覚を、私は知っている。
「さぁ。悩みなんて何一つない、微睡の世界へ」
全ての力が抜け、私はその場に崩れる。
それを支えてくれる誰か。
その人の体温を直に感じ、暖かな気持ちに包まれる。
気持ちいい‥。
様々な色が混じり合ったあと、一瞬画面が消え、その後強い光が目に飛び込んできた。
私の意識はそこで途絶える。
あそこって‥。
私は急いでその場所に向かって走る。
普段は廊下を走ったりなんかしない。
でも、いても立ってもいられなかった。
だって、あの場所は‥。
灯りが漏れる保健室の前で立ち止まる。
少し扉が開いていた。
中から話し声なるものは聞こえない。
代わりに、コポコポと何か入れる音が聞こえてきた。
深呼吸をしてゆっくりと吐く。
私は拳に力を入れて、扉を勢いよく開けた。
「きゃっ!」
驚いた声が中から聞こえてくる。
ガタン、とキャスター付きの椅子はそのまま壁にぶつかった。
「びっくりした‥。そんなに慌ててどうしたの?」
手に持っていたコーヒーポットを元の場所に戻して問いかけてくる。
保健室の中にいたのは真野先生だった。
私は辺りを見渡すが、真野先生の姿しか見えない。
ひとまず胸を撫で下ろすが、すぐに疑問が頭に浮かぶ。
「先生、今日って‥」
「あ、言いたいことは分かるわ。とりあえず、座って?」
いつもの落ち着く声で真野先生が椅子をすすめた。
私は戸惑いながらもその椅子に座る。
真野先生は入れたばかりのコーヒーを一口飲み、満足げに頷いた。
「あの、先生」
「一ノ瀬さん、顔が赤いわよ?」
真野先生は私の額に手を当ててくる。
その温かい手の温度に、頭がぼんやりする感覚に襲われた。
変な、感じ。
入学当時から真野先生にはよくしてもらっていた。
でも、こんな変な感覚に襲われるのは、最高学年になってからだ。
「あ、大丈夫です」
私は少し力が抜けた手で、真野先生の手を払った。
「そんなことより先生、何か知ってるんですか?」
「何かって?」
とぼけたように首を傾げる先生に流石に苛立ちを覚える。
「だから、何で学校に誰も居ないか、ということについてです」
またコーヒーカップに口をつけ、真野先生はふふふ、と悪戯っぽく笑った。
「何でって、全ては貴方の為よ」
「私の?」
「えぇ。今日は、一部の生徒以外学校を休ませているわ」
「なにを、言ってるんですか?」
私は椅子から立ち上がる。
違和感。
それは正しかった。
今いる先生は、確かに真野先生だ。
でも、身体中がこの場から離れるように危険信号を鳴らしている。
「先生、私、帰ります」
「あらぁ、そう。でも折角来たのだから、せめていつものカウンセリングだけでも受けましょう」
白衣のポケットからスマホを取り出し、画面を操作している。
「失礼します」
私が扉に手をかけると、凄い勢いで肩を掴まれた。
そして、妖しく光る画面を見せてくる。
「ほらぁ、リラックスして‥」
真っ黒な画面に、ぐるぐると回る白の線。
グルグルと、回る。
「大丈夫よ。私に任せて」
白が、変わる。
赤、青、黄色。
一つの色が段々と増えていき、同じように螺旋状に回る。
肩の力が抜ける。
肩だけではない、腕も、足も、表情筋ですら緩む感覚。
この感覚を、私は知っている。
「さぁ。悩みなんて何一つない、微睡の世界へ」
全ての力が抜け、私はその場に崩れる。
それを支えてくれる誰か。
その人の体温を直に感じ、暖かな気持ちに包まれる。
気持ちいい‥。
様々な色が混じり合ったあと、一瞬画面が消え、その後強い光が目に飛び込んできた。
私の意識はそこで途絶える。
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