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第四章

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僕は、世の中が理不尽な事を知っている。

「ほら、やれよ」

その言葉に逆らうとどうなるのかを知っている。
震える手で、自分のズボンを下ろす。

「うわ、見ろよこいつ!高校生にもなってブリーフだぜ」

「うっわ、ダサい通り越してカッケーよ!」

目の前にいる山之内くんが大笑いをする。
そしてその横で多部くんが僕に向かってカメラを向けていた。

震える手の理由が、恐怖だけではないと思い込みたかったが、それは無理だ。

この二人に逆らったら、間違いなくこの学校では生きてられない。それを身体が覚えてしまっている。

「なぁ、真中ぁ。お前さぁ、最近、調子乗りすぎじゃね?」

僕はシャツを精一杯伸ばし、下を向き、歯を食いしばる。
その羞恥行為を何とか耐えようとしていた。
しかし、山之内くんに無理やり顔を持ち上げられてそれも叶わない。

「俺らさぁ、友達だと思ってたんだよねぇ。違ったかなぁ」

ここで大声を出したら、誰か助けてくれるだろうか。いや、無理だろう。

放課後の体育館倉庫。
今はテスト期間中でクラブ活動もないので、体育館を使うバスケ部やバレー部も活動していない。
僕が通っているこの先帝高校は、テスト期間中は部活動を禁止すると決まっている。
文武両道を校訓に掲げているが、やはり学力の方に重きを置いていると言う事なのかもしれない。

教師達も大事な会議があるとの事で、ここに来ることはない。それを見越して今日ここに連れてこられたのだと思う。

でも、その心配はいらないよ。

だってこの学校は、弱者を助けてくれない。

教師も、生徒も。

前に一度同じような事があった。
誰もいない階段で、僕は今と同じ状況だった。
そこで、偶々通りかかった教師の馬場先生。

目で訴えた。助けて!と。

でも、馬場先生は、僕と目が合ったにも関わらず、ゆっくりと来た道を引き返した。

その時、悟ったんだ。
誰も、助けてくれない。

「肥満で根暗で体臭くせーお前を、わざわざ俺たちが孤立から救ってあげたの忘れたか?」

恩着せがましくそう言ってくる。一度も頼んでいないのに。

「なのに、この前逃げたよなぁ?見捨てたんだよなぁ、俺たちを」

この前とは、木本先生に対して暴力を強要された時だ。
大門先生に見つかって反射的に逃げてしまったけど、あの時は我ながらよく逃げたと思う。

「あの日から、俺たちだけ目をつけられて、お前は何のお咎めなしとかおかしな話だよな」

「め、目をつけられたって‥そんなこと」

ドンっと壁を叩く音。

「あるんだよ。じゃなけりゃ俺たちがお前より成績が低いなんてあり得ねーだろ」

それは、君たちがこんな事に時間を費やしてるからだ。

僕が君たちより成績が上なのは、努力の結果なんだ。

見た目が気持ち悪いという理由で昔から虐められてきた僕が勝負できるところは、勉強だけだった。

頭の出来は悪くなかったのか、勉強をすればするほど成績は伸びていった。

受かるかどうかは怪しかったが、何とか滑り込みで先帝高校に入学する事ができた。

「お前のクラス順位が最下位じゃないのはエコ贔屓されているからで、実力じゃねー。だが、教師に言っても聞きやしねぇから、俺たちは考えた」

ねっとりと笑う山之内くん。

「次のテスト、わざと低い点数を取れ。そうしたらこの写真、消してやるよ」

多部くんが見してきた写真は、思わず目を背けたくなる自分の、情けない姿だった。

「そ、そんなことしたら、僕が、落第に‥」

また大きな音がした。
駄目だ、逆らえば逆らうほど、状況は悪くなる。

こんな時、頭に思い浮かぶのは大門先生の顔だ。

大人なんて信用できない。その気持ちは今でも変わらない。
でも、大門先生だけは違う気がした。

僕は、教師が全校生徒の前であんな発言をするなんて思っても見なかった。

『少しのやんちゃは必要。失敗から学ぶ事もある』

ピリピリとしていたこの学校の雰囲気が、あの一瞬だけ緩んだ気がした。

この先生なら‥もしかしたら。
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