70 / 133
第四章
可憐な少女は扉を開ける⑧
しおりを挟む
ハッとしたように身体が反応し、真野先生が私の顔を見る。
「河合さん?」
「今のうちです」
真野先生は戸惑いながらも頷いた。
その場を離れようとしたその時、「未来!」と後ろから大きな声がした。
その声で真野先生の足がまた止まる。
「ちょっと待ってろ。まだ、撮影してないだろ」
木本のその物言いに、真野先生は何かを言いかけ、その場に留まった。
「せ、先生!」
先生の体はまるで金縛りにあったかのようにびくともしない。
「身体が、動かないの」
「早く、逃げないと!」
「う、ん。分かっているの、でも」
「無駄だよ、副会長。そいつ、もう俺の奴隷だから」
先ほどから偉そうにしている男は、本当にあの木本なのだろうか。
いつもビクビク授業をしている木本と、まるで違う。
「監督、大丈夫ですか?」
頭を抱えうずくまる大門入人に心配そうに声をかけている。
「また、例の発作ですね。任せてください」
木本は何かを探すように辺りを見渡し、地面に転がっている一台のスマホを見つけて不気味に笑った。
「そんな所にあったのか。未来、持ってこい」
「あ、あ」
ふらふらと、羽織っていた白衣が落ちたのも気に留めず真野先生は歩き出した。
「せ、先生!」
私の言葉はまるで届いておらず、落ちているスマホを拾いあげ、それを木本に渡す。
「いい子だ。ほら、ご褒美だ」
「はぁ、ん」
真野先生が木本を見上げる形で首を上に上げ、そして、木本も口を開け、そこから‥。
私はその光景から目を逸らす。
これは、夢だ。
悪い、夢。
「監督、これを」
不協和音が耳に届く。
その音は、不快な筈なのに、私はその音を発している先を目で追った。
スマホから出る怪しげで魅力的な光。
それを見ている大門入人の瞳が虚ろになり、画面から光が消えると同時に立ち上がった。
「‥彼は?」
指さす方向にいるのは、木本と一緒に来た一人の生徒。
「新入生の真中信雄です。監督が探してくるように言っていた新キャストです」
「‥ほう。よくやった——」
その言葉に、木本の顔が輝く。
「——とでも言うと思ったか」
空気が、凍りつく。
「お前は本当に余計なことをしてくれる。そいつに暗示をかけているのか?」
「い、いえ」
「暗示もかけていないそいつがもし逃げて、この事が知れ渡ったらどうなると思う」
「そ、それは」
「足りない頭で考えろ。それが出来ないから、目ぼしい人間がいたらまずは教えろと言っただろ。誰が、この場に連れてこいと?」
木本の言葉を遮りながら、ゆっくりと、罵るように紡ぐ言葉は、離れて聞いている私の背筋が寒くなる程、何か恐ろしいモノだった。
「河合さん?」
「今のうちです」
真野先生は戸惑いながらも頷いた。
その場を離れようとしたその時、「未来!」と後ろから大きな声がした。
その声で真野先生の足がまた止まる。
「ちょっと待ってろ。まだ、撮影してないだろ」
木本のその物言いに、真野先生は何かを言いかけ、その場に留まった。
「せ、先生!」
先生の体はまるで金縛りにあったかのようにびくともしない。
「身体が、動かないの」
「早く、逃げないと!」
「う、ん。分かっているの、でも」
「無駄だよ、副会長。そいつ、もう俺の奴隷だから」
先ほどから偉そうにしている男は、本当にあの木本なのだろうか。
いつもビクビク授業をしている木本と、まるで違う。
「監督、大丈夫ですか?」
頭を抱えうずくまる大門入人に心配そうに声をかけている。
「また、例の発作ですね。任せてください」
木本は何かを探すように辺りを見渡し、地面に転がっている一台のスマホを見つけて不気味に笑った。
「そんな所にあったのか。未来、持ってこい」
「あ、あ」
ふらふらと、羽織っていた白衣が落ちたのも気に留めず真野先生は歩き出した。
「せ、先生!」
私の言葉はまるで届いておらず、落ちているスマホを拾いあげ、それを木本に渡す。
「いい子だ。ほら、ご褒美だ」
「はぁ、ん」
真野先生が木本を見上げる形で首を上に上げ、そして、木本も口を開け、そこから‥。
私はその光景から目を逸らす。
これは、夢だ。
悪い、夢。
「監督、これを」
不協和音が耳に届く。
その音は、不快な筈なのに、私はその音を発している先を目で追った。
スマホから出る怪しげで魅力的な光。
それを見ている大門入人の瞳が虚ろになり、画面から光が消えると同時に立ち上がった。
「‥彼は?」
指さす方向にいるのは、木本と一緒に来た一人の生徒。
「新入生の真中信雄です。監督が探してくるように言っていた新キャストです」
「‥ほう。よくやった——」
その言葉に、木本の顔が輝く。
「——とでも言うと思ったか」
空気が、凍りつく。
「お前は本当に余計なことをしてくれる。そいつに暗示をかけているのか?」
「い、いえ」
「暗示もかけていないそいつがもし逃げて、この事が知れ渡ったらどうなると思う」
「そ、それは」
「足りない頭で考えろ。それが出来ないから、目ぼしい人間がいたらまずは教えろと言っただろ。誰が、この場に連れてこいと?」
木本の言葉を遮りながら、ゆっくりと、罵るように紡ぐ言葉は、離れて聞いている私の背筋が寒くなる程、何か恐ろしいモノだった。
0
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる