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第四章

可憐な少女は扉を開ける③

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まず目についたのは夢野さん。彼女がこの生徒会室で起きていることなんて滅多に無い。なのに今は楽しげに笑っている。
その夢野さんと話をしている高良さんも妙だ。

まるで、アルコールが入っているかのように二人とも陽気だった。

不審に思いながらも、私はとりあえずここに来た目的を果たすことにした。

「で?で?美兎ちゃんはどんな感じでオナニーをするの?」

‥え?

いま、なんて。

「わたしはね~。最近はディルドを使ってるよ~。見る?」

「見たい見たい!」

キャッキャとはしゃぐ夢野さんに、鞄から取り出したそれは、男性の、汚らしい形をした‥

「ちょ、ちょっと!」

私は慌ててそれを手で弾き飛ばした。

あぁ~、とやる気のない声を上げる高良さんに私は必死に話しかける。

「ど、どういうつもりですか!あんなものを、神聖なる学舎に」

よりによって、生徒会室に。
誰もいない筈なのに、不安になった私は辺りを見渡した。

「なんで~?神聖なモノなのに~」

あははっ、と笑う高良さんの目を覗き込む。
その目は私を見ていない。
どこか惚けているような、トロンとした目。

「んっ、あ」

横から、淫靡な声が聞こえてくる。
横を見ると、夢野さんがモゾモゾと動いている。
その手は、自身の下に伸びており、明らかに、触っている箇所は、アソコだった。

何が起きているのかが分からず、私も一瞬呆けてしまう。
しかし声が大きくなり、動作も激しくなり、髪が、上下に揺れる姿を見て、我に返る。

「いい加減に‥」

ガチャ、と扉の開く音がした。

「あら?」

中に入って来たのは、保健室の真野先生だった。
先生は、床に落ちているソレを見つめていた。

全身から血の気が引く感覚に襲われる。

終わった‥。

そう思うと同時に、「違うんです、これは」と言い訳を並べようとする自分がいた。

真野先生はゆっくりとそれを拾い上げ、微笑みかける。

私は一瞬戸惑った。しかしその後、更に衝撃的なことを口にする。

「あら、少し小ぶりなディルドを使ってるのね」

時間が止まった気がした。

何を、言っているのか理解するのに、随分と時間が掛かった。

保健室の天使。
いつも優しい笑顔で生徒達に向き合う、私が安心できる数少ない大人。
それも、良識のある人だから、責任感のある大人だから、安心できたのだ。

その彼女が、アダルトグッズを手に取りいつものように微笑みかけている。

「でも、これくらいの方が気持ち良かったりするのよね」

以前、新入生が真野先生にセクハラの一歩手前の発言をしたことを思い出す。

顔を真っ赤にしながらも、直ぐに平静を取り戻し、その女子生徒に諭すように話しかけていた。
それでも変わらず続けるその女子生徒に、会長が一言、蔑みを込めて言い放った一言で場は収まったが。
そんな女子生徒に対しても真野先生はその後優しく話しかけていた。

そんな、純粋で優しい真野先生が、あろうことか、女子生徒に対して、不適切な発言をしていることに、私はパニックになっていた。


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