上 下
45 / 133
第三章

分岐点

しおりを挟む
電話を切った後も、胃の中のムカムカが治ることは無い。

大きく息を吸い、ゆっくり息を吐く。
大丈夫、俺は大丈夫。
そう、暗示をかけていく。

‥よし。少し落ち着いてきた。

言いたい放題言われたが、確かに、あいつの言う事も一理ある。
俺は、親父から確かに逃げていた。
いつも一方的に喋り、俺の意見なんて聞いてもらった試しはない。

親父亡き後の会社なんぞ、知ったことではないとも思っていた。

‥しかし、別に路頭に迷えばいいなんて思った事もない。俺は、ある意味、親父の‥。

ピコン、とスマホがメッセージを受け取った事を知らせた。

「‥っ!」

送り主は、江口。
前回と同じように動画ファイルが添付されてある。

一体、今度は何だ。
添付ファイルを開いてみると、江口が映った。前回と同様に、真っ白な空間の中心に座っている。

『やぁ。入人くん。調子はどうだい』

変わらずヘラヘラと不気味に笑う。

『もうすぐ一ヶ月が経つが、いい作品は撮れてるかな?‥うん、うん。はぁ‥』

大きくため息をつき、首を左右に振る。

『全然ダメだね。百合路線と痴女路線。まぁ、悪くはないが、甘いよねぇ。もっと壊したらいいのにさぁ』

顔をカメラに近づけ、目を覆っている髪の隙間から怪しげな瞳が見えた。
何で、知っているんだ。

『どーせ、偽善に溢れた君のことだ。可哀想だの、まだ早いだの、理由をつけて後回しにしているんだろう。いいんだよ、そういうの。そこで、これだ』

江口は振り向き、ガサガサと、後ろから何かを取り出した。
なんだ、あれは。

『ベルさ。そのまんま、催眠ベル。これを二度鳴らすと、相手は催眠状態になる。送る事は出来ないから、この後ベルの音源を添付しておくよ』

そう言って江口はベルを二度鳴らす。

ちりりーん、ちりりーん。

何だ、この音色。
頭が、ボーッとする。
最高級の布団に包まれているかのような、安心感。心地よさ。

『さぁ。このベルの音源を相手に聞かせると一度だけ、どんな相手でも君の言う事を聞けるよ。焦ったい君へのプレゼント。どうぞ、有効的に使ってくれ。もっとぐちゃぐちゃに。学校なんて、クソダメだろ』

ちりりーん、ちりりーん。

あぁ、意識が、遠のく。
最後に聞こえてきた江口の声は、何か言っていた気がしたが、分からなかった。

~とある商店街にて~

深夜00時を回った商店街。
そこにはすっかり人気はなく、誰もこの通りを通る人物はいない。
しかし、そんな場所に一つの屋台が怪しげに光っていた。
その屋台に一人の人間が立ち寄る。
真っ暗闇から現れたその男に光が差し、黒から白へと変わった。

「やぁやぁ。どうですか、調子は」

屋台の中から、中性的な声が聞こえてくる。
問いかけられた人物は、含み笑いをしながら答えた。

「これからだ。これから、きっと、ぐちゃぐちゃになる」

「‥重ねますが、規約に触れる事だけはしてはいけませんよ?」

「あぁ」

暗闇の中から一人の不気味な笑い声だけが、誰もいない商店街に響き渡っていた。




しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...