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第二章

下準備⑥

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「何をしてもって‥一体何がどうなっているんです」

「催眠アプリの効果ですよ。このアプリを使えばこの通り」

俺は土下座をして「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返している二人を指差した。

「そんな、非現実な事が‥」

「今ここで実際に起こっている。この二人が演技をしているとでも?」

木本は二人を見て首を横に振る。そして、ごくりと生唾を飲んだのが分かった。

「さぁ、どうします?いつもやられている仕返しでもしますか?」

「‥これは、違う」

木本はゆっくりと顔をこちらに向けて、静かに続けた。

「先生が、僕のことを思ってやってくれた事には、感謝します。ただ、これは強制で、心がない」

思った以上に順応が早い。
それにしても、予想外の反応だ。

「何でも出来るんですよ?」

「僕は、そんなこと望んでいない」

声を震わせそう言うが、少し目の奥に迷いが見られる。

アプリを開き、木本遊人のページをタップする。

————————————————————

木本 英雄 22歳。
ランク☆1
一言‥小さい頃から名前をからかわれ、そこから虐めに遭う。自己肯定感は低く、そんな自分を変えたいと思っている。

————————————————————

ほう。
なるほど。自分に自信が無くても、なりたいイメージ像はあるようだ。
☆1なのは、元々かかりやすいタイプなのか、多少信頼されているのか。

さて、とにかくこの男の心の叫びを聞いてみるか。

「木本先生、これを見てもらえますか?」

STARTボタンを押し、画面を見せる。

「これは、あ、れ‥」

すぐに変化が現れる。
☆1がかかりやすいことは実証済みだ。

「我慢は良くありません。あなたが心の底からしたい事をやりましょう」

「‥僕が、やりたいこと」

「何も悪い事をしていないのに酷い事をされたでしょう。この二人が憎くて仕方ないはずだ」

「そう、だ。僕は、何もしていない」

憎悪の気持ちを上げ、人を支配する快感を加える。

「支配する側、選ばれた者になりましょう。それが快感になる。あなたがしたい事をすればいいのです」

「ぼくが、やりたいこと、しはい」

虚な目でそう繰り返す。

俺は大きな音を立て、覚醒させた。

木本は「あ、あれ」と戸惑い俺をみる。

「さぁ、やりたいことをどうぞ」

とぼけ顔から一転。目には憎しみの光が宿り、土下座している二人に対して飛びかかった。

「おほっ」

これはこれは。欲望を解放した彼は中々に凄かった。
今まで溜まっていた鬱憤があったのだろう。

ひとしきり彼がやるところを見て、止める。

「もういいでしょう」

息を切らしながら二人を見つめる彼は、先程までとは別人だった。

「さぁ、どうです?こちら側の人間になった気分は」

「最高、です」

二人を見下ろし薄ら笑いをする。
その笑みを見て俺は一つ閃いた。

「先生、これを」

再度アプリを起動し、催眠状態にする。

「いいですか。今のあなたが本来のあなたです。どんどん自分の欲望を解放させましょう。大門先生の言うことを聞いておけば、あなたの望むべき事ができます」

「大門先生、いうとおりに」

口角をあげ、支配する自分を想像しているようだ。

「ところで木本先生。あなたは女性経験はおありですか?」

「‥女性経験、ありません」

「ほう。それは何故」

「みんな、気味悪がって‥僕と関わろうとしなかった」

その顔は悲痛に歪む。

俺はそれには気にも止めず、先ほどの考えに確信を持つ。
こいつなら、アシスタントとして適任かもしれない。

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