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第二章

あどけない生徒会書記の裏事情①

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今日も玄関の姿見に映る自分に微笑みかける。
もう何年もやっている私の日課だ。
全身を見る。おかしなところはないかをチェック。前髪も変じゃない。メイクは薄め。
よしっ、大丈夫。

「あらあら、ここ最近は妙に時間がかかるのね」

お母さんが揶揄からかうように言ってくる。

「べ、べつに。行ってくる」

私はカバンを持って家を出た。

毎朝鏡の前で笑顔の練習をし始めたのは、幼い頃の苦い経験があるからだ。
小さい頃の私は今よりもずっと人見知りで、公園で遊ぶ子供達の輪に入れずにいた。
家に誰もいなく、寂しくなったら公園の隅に立っていたのを今でも覚えている。
ブランコも、鉄棒も滑り台も。
私がしたい遊具は他の子供達に使われていた。何よりも羨ましかったのは、みんな楽しそうに笑いながら遊んでいたことだった。

ちょうど真ん中の長い雲梯うんていが、私と彼らを分ける壁のように見えていた。

ある日のこと、チャンスが訪れる。
向こうの世界からボールが転がってきて、私がそれを拾った。やんちゃな男の子にそれを渡すと、その子は声をかけてきた。何の話をしたか覚えていないけど、私はぎこちなく笑うと「変なの!」と言われた。
その何気ない一言は幼い私の心に針のように鋭く刺さった。

それでも、家には居たくなくて公園に行った。
今日も一人‥。そんな私を救ってくれたのが入人くんだった。

「美兎、何してんの」

当時大学生だった入人くんに声をかけられる。久しぶりに帰ってきたらしく、当時の私は大はしゃぎだった。
一方で、後ろから聞こえる子供達の楽しそうな声。それに少し反応して私は後ろを振り返った。
みんな、楽しそう。
入人くんは「ふーん」と一言呟き、私の手を引いてその子供達の輪に入っていった。

私は驚きつつも手を引かれたその大きな手には安心感があった。

「こんにちわ」

明るい口調で入人くんがその場にいた五人ほどに声をかけた。
みんなに自己紹介をする。
サッカーボールの話から始まり、少しボールを蹴って見せる。最初はポカンと口を開けていた子も、それからみるみるうちに入人くんの周りに集まった。
あっという間に子供達の人気者になった入人くんはまるで魔法使い。
遊びに誘われた入人くんは、私の背中を少し押して「この子も仲良くしてあげてね」と言った。
顔の血の気が引いた私は、慌てて後ろに隠れる。

「誰?」という声と、「あ、そいつ!笑顔が変なやつ!」とやんちゃな男の子の声。
それを聞いて、私は俯いた。

チクチク、チクチク。

入人くんは「うーん?」と不思議そうに呟き、しゃがんで私の目を見た。

「こんなに可愛いのに?君は、変って言ったけど、僕はそう思わないなぁ」

その声は決して威圧的なものではなく、優しさに溢れていた。
それを聞いた一人の女の子が「かわいい!」と私に言う。それから周りが続けてそう言って、やんちゃな男の子も申し訳なさそうな顔になった。

「さぁ、じゃあ皆で遊ぼうか。でも、その前に自己紹介しなくちゃね」

私に微笑みかけるその顔は今でも脳裏に焼き付いていて、私はみんなの前で「たから、みうです」と挨拶をした。
子供達はよろしくね、と私の周りを囲み、その日から壁はなくなった。

今にして思えば、あの日からかもしれない。
私が、入人くんの事をすきになったのは。

自転車に乗っていると、風で髪が乱れる。
これ、セットした意味あるのかなぁ。
学校に近づくにつれ、同じ制服の学生が増える。
歩いている生徒は手に参考書を持って通学時でも勉強だ。
みんな本当に真面目だよね。勉強の話はするけど、恋愛の話を聞いた事は数えるくらいしかない。

門のところで立っている風紀委員の風花さんと隣にいる先生に挨拶をする。教師は当番制なので、入人くんにも順番は回ってくる。その時はいち早く登校しよう。
やだ、ちょっとニヤけてる。

でも、最近入人くん何か変わったな。何と言うか、クール、いや、冷たくなった。
それが少し、寂しい。


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