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第二章

解放①

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ピンポーン、ピンポーン。

何度もなるインターホンの音で目が覚めた。

ゆっくりとソファから体を起こす。
ハンマーで何度も叩かれたかのように頭が痛い。

あれ、昨日、何してたっけ。

状況を把握しようとするが、インターホンは鳴り続ける。

舌打ちを軽くし、玄関へ向かった。

「おはよう、入人くん!あれ?スーツのまんま」

扉先に居たのは美兎だった。
手には袋に詰めた食材を持っている。

「こんな朝早くからどうした」

「朝早くって、もう夕方だよ?」

キョトン、と可愛らしく首を傾げた彼女を見て、はドクン、と心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

彼女を下から上へ舐める様に見つめる。

「え、やだっ、そんな見てこないでよ。へ、変な格好?」

紺色のデニムワンピースに身を包む彼女。服の上からでも分かる胸の大きさと、くびれから尻までのしなやかなシルエット。

こいつ、こんないい身体してたのか。

「ちょっと、見過ぎ」

「あ、あぁ。ごめん。それで、何のようだ」

顔を赤くした美兎が「これ、お母さんが渡しに行ってあげなさいって」と髪を触りながら片手で渡して来る。

「わざわざどうも」

中にある食材をチラッと見る。いつもなら感謝の気持ちで一杯になるが、今日は何も感じない。

「ねぇ、もしかして昨日帰って来てから寝てたの?」

「どうやら、そうみたいだ」

「あの、もしかして、会長の一言引きずってる?」

心配そうな顔で見て来る美兎。
駄目だ、ムラムラと心の底から湧き起こる欲情が我慢できない。
だが、俺は。

「あの、会長って一見冷たく見えるけど本当は優しい人でね!いやでも昨日の発言は私も許せなくて、あー、ジレンマ」

一人で頭を抱えている。ま、いいか!と顔をあげ笑顔で「ねぇ、ご飯でも行こうよ!」と誘って来た。

チャンスだ。
手にかける、チャンス‥。

そう考えて、すぐに否定する。

違う。そうじゃない。俺の目的は、そうじゃなくて。

大事なのは、シチュエーションだろ。

「あぁ。お前みたいな可愛い女性に誘われたら嬉しいが、生憎今日は予定があってな。また今度にしてくれ」

「かっ、可愛い?」

顔を真っ赤にさせ、両頬に手をあてる美兎。

「ど、どうしたの?何かいつもの入人くんと違う。熱でも?いや、嬉しいけど」

「俺は俺だよ」

そう言うと、美兎はあれ、と真顔になる。

「ほら、俺だなんて。入人くん、ずっと僕だったのに」

「そうか?‥あぁ、でも、そうかもな。もう我慢するのは辞めたんだ」

首を傾げる美兎。
俺は一方的に「じゃあ、また学校で」と言って扉を閉めた。

ソファに戻り、スマホを手に取る。

メッセージが一件入っていた。
差出人は江口。

メッセージを開くと、『催眠アプリの使い方』と書かれた内容が表示される。

~催眠アプリ使用方法~
—————————————————————
アプリを起動すると、あ行からわ行まで、五十音順で区分されている名簿が出て来る。そこに載っている名前をタップして欲しい。
タップすると、簡単なプロフィールが開かれる。その中で表示されている☆1~5までのランクの意味は、催眠にかかりやすいかどうかの基準となっている。
☆1が一番かかりやすく、☆が上がるにつれかかりにくい。
ランクは君に対する信頼度と、暗示にかかりやすい体質かどうかの二つの要因から決まるものとする。
☆1の対象者は君に絶対的な信頼を抱いているので正直何も工夫せずとも催眠アプリで好きなことができる。
☆4までは工夫と努力で何とか出来るかもしれないが、☆5の人物は完全催眠下に置くことは諦めた方がいいかもね。
プロフィールの下にSTARTのボタンがあるから、それを押して後は相手に向けるだけ。
簡単だろ?

あとは一言っていう欄があるけど、これは参考程度のものだ。役に立つかどうかは分からない。

催眠アプリの効果は一つ。
認識への働きかけだ。
つまり、おかしな状況をおかしいと思えなくしたり出来る。
そこにあるものが無いように思わせることも出来るし、常識変換も可能。感情変化も可能。
まさに何でもできる夢のアプリ。
どうだい、唆るだろう?

因みに、催眠をかけれる相手は名簿に載っている人物限定だからそこだけ気をつけて。

それでは監督。
作品撮影に勤しんでくれたまえ。

—————————————————————
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