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第一章

門出⑩

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家に着き、まずはシャワーを浴びた。
少し落ち着かなければ、あのメッセージを開く勇気が出なかったからだ。

彼とは最後会ったのが中学三年の頃なので、もうかれこれ17年程になる。

あの一件で彼は虐めに遭い学校を辞めた。

最後に彼が僕に言った一言は今でも鮮明に覚えている。

恨みしか抱いていない僕に、今更、一体何の要件が‥。

決まっている。
恨み言だろう。

あのメッセージには動画も添付されてあった。

罵詈雑言の類ならいい。

ただ、もし、万が一...

縄を首にかけ自殺する絵が思い浮かび、首を何度も横に振った。

風呂から上がり、ソファに腰掛ける。

深呼吸を一つして、僕は動画を開いた。

『やぁ!久しぶり!』

予想に反して、画面から聞こえて来たのは明るく元気な声だった。
かつての親友に送るような、そんなテンション。

しかし違和感を覚えたのは、彼の周り。
撮影場所は、どこだ?自宅だろうか。
それにしてはあまりにも生活感がない。真っ白一色の空間で、服も上下白。しかし髪の毛は伸び切っており、無精髭も見られ清潔感が無い。

『あぁ、ここは自宅じゃ無いよ。少し家を間借りしているんだ』

録画なのにリアルタイムで話しているのかと錯覚してしまうくらい、タイミングが合った。

『突然の動画ごめんね。実は、僕はもう死ぬことになっているんだけど、最後に君に伝えたい事があってね」

会話の内容が突拍子もないので思考が追いつかない。
死ぬ?

「ま、まて」

届くはずもない相手に画面越しに声をかける。

『あ、大丈夫。今この瞬間じゃないから。今回僕が動画を送った理由はただ一つ。君に新たな門出を祝い、プレゼントしたかったのさ』

就任、祝い?

『君、念願の教師になったんだってね。おめでとう。僕はとても嬉しい。あの時、僕の唯一の友達だった君の夢が叶うだなんて。あぁでも、君の夢はAV監督だと思っていたよ。覚えてる?AV監督になったら毎日幸せだって2人で笑い合ったよね。忘れるわけないか』

楽しかったなぁと目を細めて言う。

あぁ、忘れるわけないだろう。
あの冗談が発端で、お前は。

『僕に何が出来るだろうと考えたんだけど、一つだけあった。君にはもう一つの夢も叶えて貰おうと思ってね』

夢?情報が多過ぎて頭の中で整理できなかった。

『君にもし罪悪感があるのなら、僕を助けると思って、とりあえず添付されているアプリを開いてよ。
そしたら君は今日からAV監督だ!』

あははっ!と最後は高笑いして突拍子もなく江口からの動画は終わった。

一体、何なんだ。
とても正気とは思えない。
何か、江口の心の中にドス黒い感情が見えた。

僕は、江口のメッセージを下にスクロールしてみる。
すると、URLが貼り付けてあった。
何か裏があるのはわかっていた。それでも僕は、そのURLを開く。

罪悪感?あるに決まっている。


ページが飛び、アプリがインストールされる画面に切り替わった。

「お、おいおいおい!」

まさか、ウイルスじゃないだろうな。

ピコン、という音がしてインストールが完了した。

恐る恐る、そのアプリを開いてみると、画面が真っ黒になった。

慌てて画面をタップすると、【催眠アプリ】と赤い文字で表示される。その下には【START】という文字が、まるで誘うかのように点滅し光っていた。

僕はそれを押す。

すると、白と黒の渦巻きが目に飛び込んできた。それが円運動を行い、白、黒、赤、緑、青‥
様々な色に変わっていく。

吸い込まれるように俺はそれを見つめる。

あぁ、何か、とても、気持ちがいい。

声が聞こえて来た。

君は今、とても深いところにいる。
君は今から無意識で押さえていた欲情を解放したくて仕方がない。
ムラムラムラムラと、人間を見るたびに君は欲情のままに行動したくなる。
催眠アプリを使い、それを実行せよ。
しかし、忘れてはいけない。
君は表の顔は清廉潔白な男子教諭。しかし、裏の顔はAV監督だ。
次に目が覚めたら、必ずそうなるよ。

プツン、と声が聞こえ、僕の意識も途切れた。
どこかで、聞いた気がする、懐かしい声だった。

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