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第一章
門出②
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朝の全校集会が始まる前の職員室。
そこでは教師たちによる自己紹介が始まっていた。
僕が通っていたのは14年も前の事。流石に知っているのは、当時生活指導をしていた源先生だけだ。優秀な先生だと思っていたが、現在は校長の地位まで登り詰めていた。
元々、彼から声を掛けて貰わなかったら教師を再び目指そうだなんて思わなかっただろう。
今年採用された教員は僕を含めて三名。
一人はフレッシュさ溢れる馬場先生。体育を受け持つらしい。服の上からも分かる筋肉質な体型はいかにも体育教師のそれだ。
次に挨拶をしたのは、木本先生。
あまりにも声が小さく自信なさげな彼は、校長からも「堂々とね」と心配される程だった。
校長に指摘され、更に縮こまる。
こんな調子で大丈夫だろうか?
木本先生の顔をじっと見る。
すると、彼の眼鏡のフロント部分に少しの傷が見えた。
次、という声が聞こえ、僕は我に返る。
「大門入人です。14年前までここに通っていました。あの頃の若々しさはありませんが、子供を思う気持ちは誰にも負けません。よろしくお願いします」
先ほどとは違い大きな拍手が沸き起こる。
源校長が横に来て満面の笑みで説明を始めた。
「彼は高校生だった頃、この学校の生徒会長でね。数々の実績を残し、それはそれは大きくこの学校の知名度アップに貢献してくれた。教師となった今、更に期待しているよ」
「‥精一杯努力します」
再び起こる拍手。
確かな優越感がそこにはあった。
頭が少し痛んだ気がしたが、気のせいだろう。
自己紹介が終わり、そのまま体育館へ移動する。既に何人かの教師は一番端で待機しており、僕もそれにならった。
全校生徒は僕たち新任教師の顔を見て、何やら楽しそうに話をしていた。
すぐ目の前に見えるのは、今年入学してきた一年生達だ。その中の一部男子生徒が、隣にいる木本先生の顔を見てゲラゲラ笑っている。
肩を落とし猫背姿の木本先生に僕は声をかける。
「先生、あの男子生徒達、知っている子ですか?」
「え‥?いや、その」
「もしかして、その眼鏡の傷と関係あったりします?」
木本先生は驚いた顔をして僕の方を見た。
「え‥いや、関係ないです」
「そうですか。何かあれば何でも仰ってくださいね」
僕は笑顔でそう返す。
これは、間違いないだろう。
関係ない、と答える前に木本先生があの男子生徒達の顔色を伺っていた。
ついこの間まで中学生だった彼等が新任教師に手を掛けるなんて想像したくないが。
進学校でもこういう輩が一定数存在するということに溜息が出る。
『それでは今から全校集会を始めます。まずは校長先生からの挨拶です』
前に立ち、マイクに話しかけているのは一人の女子生徒だった。
確か、生徒会長の一ノ瀬唄だ。
なるほど、校長から「かつての君のように優秀」と聞いていたが、確かに周りの高校生とは雰囲気からして違う。
校長がマイクを持つと、先ほどまでざわついていた空気がしんと鎮まりかえり、生徒達は姿勢を正した。
流石進学校だ。メリハリの付け方がしっかりしている。
そこでは教師たちによる自己紹介が始まっていた。
僕が通っていたのは14年も前の事。流石に知っているのは、当時生活指導をしていた源先生だけだ。優秀な先生だと思っていたが、現在は校長の地位まで登り詰めていた。
元々、彼から声を掛けて貰わなかったら教師を再び目指そうだなんて思わなかっただろう。
今年採用された教員は僕を含めて三名。
一人はフレッシュさ溢れる馬場先生。体育を受け持つらしい。服の上からも分かる筋肉質な体型はいかにも体育教師のそれだ。
次に挨拶をしたのは、木本先生。
あまりにも声が小さく自信なさげな彼は、校長からも「堂々とね」と心配される程だった。
校長に指摘され、更に縮こまる。
こんな調子で大丈夫だろうか?
木本先生の顔をじっと見る。
すると、彼の眼鏡のフロント部分に少しの傷が見えた。
次、という声が聞こえ、僕は我に返る。
「大門入人です。14年前までここに通っていました。あの頃の若々しさはありませんが、子供を思う気持ちは誰にも負けません。よろしくお願いします」
先ほどとは違い大きな拍手が沸き起こる。
源校長が横に来て満面の笑みで説明を始めた。
「彼は高校生だった頃、この学校の生徒会長でね。数々の実績を残し、それはそれは大きくこの学校の知名度アップに貢献してくれた。教師となった今、更に期待しているよ」
「‥精一杯努力します」
再び起こる拍手。
確かな優越感がそこにはあった。
頭が少し痛んだ気がしたが、気のせいだろう。
自己紹介が終わり、そのまま体育館へ移動する。既に何人かの教師は一番端で待機しており、僕もそれにならった。
全校生徒は僕たち新任教師の顔を見て、何やら楽しそうに話をしていた。
すぐ目の前に見えるのは、今年入学してきた一年生達だ。その中の一部男子生徒が、隣にいる木本先生の顔を見てゲラゲラ笑っている。
肩を落とし猫背姿の木本先生に僕は声をかける。
「先生、あの男子生徒達、知っている子ですか?」
「え‥?いや、その」
「もしかして、その眼鏡の傷と関係あったりします?」
木本先生は驚いた顔をして僕の方を見た。
「え‥いや、関係ないです」
「そうですか。何かあれば何でも仰ってくださいね」
僕は笑顔でそう返す。
これは、間違いないだろう。
関係ない、と答える前に木本先生があの男子生徒達の顔色を伺っていた。
ついこの間まで中学生だった彼等が新任教師に手を掛けるなんて想像したくないが。
進学校でもこういう輩が一定数存在するということに溜息が出る。
『それでは今から全校集会を始めます。まずは校長先生からの挨拶です』
前に立ち、マイクに話しかけているのは一人の女子生徒だった。
確か、生徒会長の一ノ瀬唄だ。
なるほど、校長から「かつての君のように優秀」と聞いていたが、確かに周りの高校生とは雰囲気からして違う。
校長がマイクを持つと、先ほどまでざわついていた空気がしんと鎮まりかえり、生徒達は姿勢を正した。
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