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第一章
門出①
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窓から吹き込む心地よい春風が髪を撫でる。
鏡の前で身なりを整えた僕は、よし、と小さく意気込んだ。
いよいよ、念願の教師生活が始まる。
父の会社から転職をし、母校の私立先帝高等学校に今日から赴任する事となる。
まさか、僕が教師になれるなんて。
今まで父親の敷いたレールを歩いてきた。
「一流の学校。一流の会社。常にトップに立つ。それが、大門家の長男の宿命」
その言葉通り身を焦がすような思いで必死にトップを取り続けた。
常に見られていると感じながら。
その呪縛は、父が生きているまでずっと続く思っていた。
しかし、何の運命の悪戯か。健康的に何一つ問題が見つからず、長寿を謳われていた父は交通事故に遭いあっさりとこの世を去った。
葬儀には数多くの人達が集まり、皆父の死を嘆いた。
母や弟の翔も涙を流す中で、僕は、涙一つ流さなかった。
心の中では泣いている。周囲はそんな風に思ってくれただろうか?
哀愁を帯びた顔は作ったつもりだが。
悲しいわけ、ないだろう。
父さん。あなたも、そんな事望まれないでしょう。
父は大手メーカーの社長で、父に何かあったら僕が跡を継ぐ事になっていたらしいが、その権利を弟の翔に渡した。
「兄さん、なんで」
翔が涙を流し、僕に理由を求めてくる。
そっと肩に手を置き「やりたいことがあるんだ」とだけ伝えた。
翔は僕よりは劣るが優秀な人材だ。色々と社内で賛否はあったが、結果翔が社長の座に着く事になった。
「あら、似合ってるわね」
玄関まで見送りに来てくれたのは、ここ三日間お世話になった母の妹の幸恵叔母さんだ。
「お世話になりました」
「もう少し居てくれても良かったのに」
「いいえ、美兎ちゃんもいるので」
階段からバタバタと降りてくる音が聞こえる。
「入人くん!もう行くの?」
「あぁ。新人教師は朝が早くてね」
「今日は帰ってくるんでしょ?」
「いや、元々家が整うまでの三日間だけ無理を言ってお願いしていただけだから。今日から借りているアパートに帰るよ」
「ずっと居ればいいのに」
膨れっ面をしているのは、叔母の娘の美兎だ。彼女は赴任先の高校ニ年生で生徒会の書記をしているらしい。
「これから同じ高校に通うからね。そこは一線を引かないと」
「入人くん」
「それと、学校ではちゃんと大門先生って呼ぶように。美兎ちゃんも着替えて準備しな」
「そうよあなた。寝巻き姿でだらしのない」
美兎は顔を真っ赤にさせながら、髪を整えて、顔を手で覆った。
柔らかい素材の兎の絵がプリントされている寝巻きを見られたのが恥ずかしかったのか。
いや、寝起きの顔を今さらながら見られたくないのだろう。
ぱっちり二重のくりっとした目に、肩まで伸ばしたストレートの黒髪。
美兎ちゃんは校内でもファンが多いと聞いていたが、納得だ。
「それじゃあ、また学校で。叔母さん、また」
顔を隠しながら片手で手を振ってくる美兎と笑顔の叔母さんに見送られ、僕は家を出た。
鏡の前で身なりを整えた僕は、よし、と小さく意気込んだ。
いよいよ、念願の教師生活が始まる。
父の会社から転職をし、母校の私立先帝高等学校に今日から赴任する事となる。
まさか、僕が教師になれるなんて。
今まで父親の敷いたレールを歩いてきた。
「一流の学校。一流の会社。常にトップに立つ。それが、大門家の長男の宿命」
その言葉通り身を焦がすような思いで必死にトップを取り続けた。
常に見られていると感じながら。
その呪縛は、父が生きているまでずっと続く思っていた。
しかし、何の運命の悪戯か。健康的に何一つ問題が見つからず、長寿を謳われていた父は交通事故に遭いあっさりとこの世を去った。
葬儀には数多くの人達が集まり、皆父の死を嘆いた。
母や弟の翔も涙を流す中で、僕は、涙一つ流さなかった。
心の中では泣いている。周囲はそんな風に思ってくれただろうか?
哀愁を帯びた顔は作ったつもりだが。
悲しいわけ、ないだろう。
父さん。あなたも、そんな事望まれないでしょう。
父は大手メーカーの社長で、父に何かあったら僕が跡を継ぐ事になっていたらしいが、その権利を弟の翔に渡した。
「兄さん、なんで」
翔が涙を流し、僕に理由を求めてくる。
そっと肩に手を置き「やりたいことがあるんだ」とだけ伝えた。
翔は僕よりは劣るが優秀な人材だ。色々と社内で賛否はあったが、結果翔が社長の座に着く事になった。
「あら、似合ってるわね」
玄関まで見送りに来てくれたのは、ここ三日間お世話になった母の妹の幸恵叔母さんだ。
「お世話になりました」
「もう少し居てくれても良かったのに」
「いいえ、美兎ちゃんもいるので」
階段からバタバタと降りてくる音が聞こえる。
「入人くん!もう行くの?」
「あぁ。新人教師は朝が早くてね」
「今日は帰ってくるんでしょ?」
「いや、元々家が整うまでの三日間だけ無理を言ってお願いしていただけだから。今日から借りているアパートに帰るよ」
「ずっと居ればいいのに」
膨れっ面をしているのは、叔母の娘の美兎だ。彼女は赴任先の高校ニ年生で生徒会の書記をしているらしい。
「これから同じ高校に通うからね。そこは一線を引かないと」
「入人くん」
「それと、学校ではちゃんと大門先生って呼ぶように。美兎ちゃんも着替えて準備しな」
「そうよあなた。寝巻き姿でだらしのない」
美兎は顔を真っ赤にさせながら、髪を整えて、顔を手で覆った。
柔らかい素材の兎の絵がプリントされている寝巻きを見られたのが恥ずかしかったのか。
いや、寝起きの顔を今さらながら見られたくないのだろう。
ぱっちり二重のくりっとした目に、肩まで伸ばしたストレートの黒髪。
美兎ちゃんは校内でもファンが多いと聞いていたが、納得だ。
「それじゃあ、また学校で。叔母さん、また」
顔を隠しながら片手で手を振ってくる美兎と笑顔の叔母さんに見送られ、僕は家を出た。
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