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終章 未来へ

春の風 ※挿絵あり

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 話のあと、わたし達はまた孤児院裏庭の大きな木のところへ。
 レスターさんが木の周りを囲むようにして地面に魔法陣を書き、「よし」と一息つく。

「……さあ、ここに立ってみて」

 グレンさんがレスターさんの言葉に従い、魔法陣の中心へ。

「これは一般的には瞑想――魔力回復に使うものだけど、本来は魔法の集中力を高めるものなんだ。この木と木の陰が魔器ルーンになって、君の転移魔法の力を増幅してくれる。普通の転移魔法と違って呪文が必要になってくると思うけど」
「呪文……真名まなか」
「そう。紋章を発動してから真名を唱え、君の記憶の中にある楓の葉とブランコをイメージすれば、モノと場所が君を引き寄せてくれる――」

「全部仮説で、確証はないんだけどね」と付け加え、レスターさんは肩をすくませ笑う。
 でも……すごい。なんだか本当に行ける気がする。

 グレンさんが一旦カバンを地面に置き、中からご両親の写真を取り出した。ご両親が手助けしてくれると考えたのかもしれない。
 カバンを閉じたあと、彼がわたしの方に手を差し出してきた。わたしがその手を取ると同時に彼が目を閉じ、紋章を光らせる。

「……俺の名は、グレン・マクロード。そして、レオンハルト・ベルセリウス……」
「!」

 2つの真名に呼応するように、紋章がさらにまばゆい光を放つ。
 しばらくして、彼が目を見開いた。

「……行ける……」
「ほんと!?」
「ああ……!」

 ――すごい。正直、雲をつかむようなことだと思っていた。
 レスターさん達のおかげだ――同じことを考えたのか、グレンさんが彼らの方を見て笑った。

「レスター、ノア、エマ……ありがとう。恩に着る」
「お役に立てて何より。……幸運を祈るよ」
「気を付けるのよ、2人とも」
「ヤバいと思ったら引き返すんだぞー。ノルデンの奥なんて、何がどうなってるか分からねえからな」

 繋いでいた手を一度離し、グレンさんが3人に向けて手を上げた。
 そのあとまたわたしの手を取ってうなずいたので、わたしもそれに応える。

「行こう」
「はい……!」

 グレンさんが目を閉じると魔法陣を覆うようにして光が拡がり、視界からリューベ村が消えていった……。


 ◇


「きゃっ……!」
「……くっ!」

 視界が別の景色に切り替わったと思った次の瞬間、わたし達は下に落下した。
 どうやら空中に転移したらしい。

「いたたた~……」
「……っ、ごめん。知らない土地に飛んだからだな……」
「うう……」

 うなりながら散らばった荷物を拾い、辺りを見回す。

「ここがノルデン、リネアの街……?」
「たぶん。……でも、街というか……」
「森みたいですよね」
「ああ。想像と全然違う」

 彼の言う通り、辿り着いた場所は学校の授業で習った"ノルデン"とはまるで様相が違っていた。
「大災害のあと草も木も育たない死の大地になった」という話だったのに、ここには草木があり、花も咲いている。
 どこかの木で、鳥がさえずっている。青い蝶が野花に止まって蜜を吸い、また飛んでいく。
 空気も温かい。5月とはいえノルデンの最北端なら、もっと寒くてもおかしくないはずなのに……。

「レイチェル、あそこ」
「!」

 グレンさんが指さす方向に、大きな楓の木があった。
 根元には古びた木製のブランコが置いてある。

「これが、夢に出てきてたやつですか?」
「ああ。夢で見たのと違って、随分朽ち果ててるけど。……それより、これは一体……」

 ブランコの周りを囲むように銀の杭が数本立ててあり、同じく銀色をした細い鎖が杭と杭を結んでいる。
 ブランコのそばには小さな石碑が置いてある。石碑には『何人なんぴともこの地を侵すべからず ベルセリウスの名において、この地を封印す』と刻まれている……。

「誰だ!」
「!!」

 穏やかな空気を切り裂くような怒声が響く――声の方に目をやると、銀髪の男性と女性が立っていた。
 銀髪……ノルデン貴族の人だ。

「何者だ……どうやってここへ来た。ここは禁足地だ、今すぐに立ち去れ!」

 男性が杖をつきながらこちらに向かってくる。
 足が悪いようでその歩みは遅い。けれど、遠くからでも分かるくらい威圧感がある。
 連れの女性もそれに続く。顔の半分を長い前髪で隠したその女性は、男性ほどの威圧感はないけれど、やはり厳しい表情をしている。
 その手には花束を持っている――一体、この人達は……?

「……申し訳ありません。私達は――」
「え……」

 男性と女性が間近に迫ったところでグレンさんが声を発すると、2人の歩みがピタリと止まった。
 女性が持っていた花束を取り落とし、口元を手で覆う。
 男性もまた驚愕の表情を浮かべている。

「そ……その声、それに、顔……。君は……君の、名前は……?」

 男性が唇を震わせ、すがるようにグレンさんの名を尋ねる。

「レオンハルト・ベルセリウス」
「あ、あ……!」

 驚きからか男性は杖から手を離してしまい、その場に倒れ込んだ。
 グレンさんが男性のそばに寄り、「大丈夫ですか」と彼を助け起こした。わたしもそこへ駆け寄り、杖を拾って男性に手渡す。

「ありがとう、すまない」
「私達はこの地を侵しにきたのではありません。お聞きしてよろしいでしょうか。ここは、"リネア"という場所ですか」
「ああ、そうだ。……私からも聞かせてくれ。君は、レオンハルト。……父の名はシグルド、母の名はウルスラ。……そうだな?」
「はい。ここで両親が眠っていると聞いて」

 そう言ってグレンさんが、持っていた写真の冊子を開いて男性に見せた。

「そ、それは……! 頼む、もっと……よく見せてくれ……」

 泣きそうな顔で懇願してくる男性に戸惑いつつ、グレンさんは写真を手渡した。
 男性の後ろにいた女性が、男性の肩越しにそれをのぞき込む。写真を見た女性の目から涙がこぼれる。

「シグルド……兄様……」
「……兄上……こんなにも若く、幼かったのか……」
「でも……とてもいい顔」
「そうだな……」

 写真を見る2人の表情は嬉しそうで懐かしそうで、……だけどどこか悲痛だ。

「……兄上、とは? あなた方は、一体……」

 グレンさんの言葉に、2人が顔を上げる。

「……すまない、我々の自己紹介がまだだった。私はアウグスト。アウグスト・ベルセリウスという」
「アウローラ・ベルセリウスよ」
「ベルセリウス……」
「私達は君の父シグルドの、腹違いの兄弟なんだ。レオンハルト……よく生きて、ここまで帰って来てくれた。兄も義姉あねも、喜んでいることだろう」

 そう言うとアウグストさんは写真の冊子を名残惜しそうにそっと閉じ、グレンさんに返した。

「レオンハルト。一度、私達の屋敷へ来てもらえないだろうか。……話をしよう。兄シグルドと義姉ウルスラの話を」

 どうするつもりだろう、とグレンさんを見上げると、ちょうど目が合った。
 グレンさんは少し目を細めてからうなずき、アウグストさん達の方に向き直って「分かりました」と返した。

(…………)

 ――一瞬、断るかと思った。
 だってシグルドさんは魔法の力を持たないことで、家族それに召使いからすら虐げられていたと聞いたから。

 けど、こうも聞いた。
「シグルドさんの死後、彼を虐げた人は"例外なく"死んだ」と。
 でも、この2人は生きている。写真を見る彼らの表情からも、兄シグルドさんへの侮蔑の意思は感じられなかった。
 つまり、彼らはシグルドさんを虐げていない。だからこうやって生き伸びているんだ……。


 ◇


 話をするため、転移魔法で森の近くにある屋敷へ飛んできた。
 アウローラさんが用意してくれた飲み物を飲みながら、グレンさんがここへ来た経緯を話した。

「……そのオッシという者には感謝せねばならないな。リネアの屋敷の者にも……。写真を撮ってもらえて、兄も嬉しかっただろう。兄は写真を撮ったことがないから」
「お二方は、父とどういう関係だったのですか」
「私達とシグルド兄上は10歳違いの兄弟。出会ってからずっと、兄は私達の遊び相手をしてくれていた。……私もアウローラも、優しい兄上が大好きだった」
「出会って、から……?」

 妙だと思った言葉を、そのまま復唱してしまう。
 だって、おかしい。お兄さんなんだから、物心がついた時にはそばにいるはず。なのに、どうして「出会う」なんだろう?

「兄は私達の誕生と同時に、屋敷の離れの塔で暮らすことを命じられた。窓からほとんど光も射さない、牢獄のような塔だ。私達が兄の存在を知ったのは、私達が5歳、兄が15歳の時だった。私達が庭を探検している時にそこに迷い込んでしまって……そこで初めて出会ったんだ」

 ――アウグストさん達は、優しいシグルドさんが大好きだった。
 だけど出会ってから数年後、シグルドさんはいなくなってしまう。
 シグルドさんは18歳――成人を機に結婚。
 その後、公爵の命で住居をリースベット地方・リネアの街に移した。
 そこは寒さが厳しい北方の僻地。かつては流刑地、強制労働の地でもあったという。
 屋敷があったけれど、公爵家のそれとは比べものにならないほど狭い。召使いは10人にも満たず、そのほとんどが魔法を持たない黒髪の平民。
 名家の長男としては考えられない冷遇――それは"結婚"の名を冠した"追放"だった。

「お兄様がいなくなって、とても寂しく悲しかったけれど……奥様のウルスラ様は優しい方だったし、きっと2人幸せに暮らしている……そう思うことにしたのよ。だけど……」

 だけど、彼らの幸せは長く続かなかった。
 突然やってきた謎の集団に赤ん坊を奪われ、自分達も命を落としてしまったのだ。

「兄が死んだ正確な日付は分からない。だが……おそらくそれと時を同じくして、公爵家に不幸が起こり始めた」

 グレンさんが聞いた話と同じだ。シグルドさんを虐げ不当な扱いをした人間が不幸に見舞われた……と。

「私達にはシグルド兄上とは別に、2人の兄がいた。異変はその兄の奥方に起こった。何度妊娠をしても必ず流れてしまう。『"畑"が悪いに違いない』と別の女性に手をつけても同じ……そのうち、誰を相手にしても全く子に恵まれなくなった」

 それを皮切りにして、召使いを含む公爵家の人間に次々に不幸が降りかかる。
 当時ノルデンでは、民による反乱が起きていた。のちに言う「ノルデン革命」だ――反乱鎮圧のため、アウグストさん達の2人の兄も出征した。けど、彼らの属する軍が出る日は必ず悪天候となり、それが原因でたびたび敗北。
 それに続き、公爵家の者全員が魔法を使えなくなった。そればかりか、公爵家の者が近づくと、ある一定の範囲内の者全員が魔法を使えなくなるという奇怪なトラブルまで起こり、やがてベルセリウス家の人間は「無能を伝搬する疫病神」と忌避されるようになってしまう。

 さすがにおかしいと思ったルドルフ公爵は、相次ぐ不幸の原因を探らせるため呪術師を呼びつけた。
 やってきた呪術師は開口一番に「お前達一族は呪われている」と言った……。

『怨嗟の声が聞こえる。子を奪われた親の嘆きの声だ。新月の夜、1人の男が紋章を用い、命と引き換えにおぬし達に呪いをかけた。男の名はシグルド――無念を晴らさない限り災いは続く。奪われた彼の子を探し出し、彼らの死地にはほこらを建てよ。家族全員で罪を認め、祈りを捧げるのだ』――。

 アウグストさんとアウローラさんはそこで初めて、兄の死と甥の存在、父ルドルフの凶行を知る。
 2人は父を責めつつ、「赤ちゃんを探して兄上に謝ってください」と訴えた。けれど、ルドルフ公爵はそれを聞き入れることはなかった。

「な……なぜ……?」
「『魔法を持たぬ者は家畜以下の害獣だ、人間が獣に頭を下げる道理はない』と。母も兄2人も同じ考えだった。……それを境に、ついに死者まで出はじめたが、それでも父は言うとおりにしなかった」

 それからも不幸は起こり続け、ノルデン大災害が起こる頃に、呪いがついに彼らの身体と命を喰らい始めた。
 死因はすべて、暴行の末の殺人。遺体はいずれも激しく損傷しており、人としての尊厳はなかった。

 ルドルフ公爵とアウグストさん達はノルデン大災害を生き延び、ディオールに逃れた。
 その頃のルドルフ公爵は呪いのせいなのか身体が痩せ細り、ことあるごとに高熱で寝込んでいた。
 アウグストさん達が「兄上への償いをしましょう」と繰り返し訴えるもやはり聞き入れず、毎日のように「あいつが生まれてきたせいでこんなことに」とシグルドさんへの恨み言を吐いていたという。

「父の最期は惨めなものだったわ。心臓の発作が起きたけれど誰にも気付かれず……私が父の部屋に行ったときにはすでに冷たくなっていたの。……遺体の状況から見て、発作が起きたのは召使いが巡回しているはずの時間だった。父は横暴で差別発言と侮辱を繰り返して召使いに嫌われていた。……発作で苦しんでいるところに遭遇して、そのまま放置されたのでしょうね」
「真相を探ったりはしなかったのですか?」

 わたしの質問に、アウローラさんが静かに首を振る。

「……疲れていたのよ。私もアウグストも、『早く死んでほしい』としか思っていなかったから。それより、これでやっとシグルド兄様のとむらいができるって……その気持ちでいっぱいだったの」

 ――その後、アウグストさん達は呪術師の言葉通り、まずはシグルドさんの住んでいた土地へ。
 オッシさんがお墓を作ってくれていたけれど、大地震のため墓標代わりの木の杭は倒れており、また、地面の掘りが浅かったためか遺体の一部が露出していたという。

 アウグストさん達は召使いとともにそれを全て掘り起こし、新たに作った墓地に埋葬し直した。
 シグルドさんウルスラさん夫婦の遺体は、一番景観のいいところに祭壇を築いて埋葬したという――。


 ◇


「……兄上、義姉あね上。レオンハルトが生きていたんです。特別な転移魔法を使って、兄上達に会いに来てくれましたよ」

 再び、最初に飛んできた地点へ。
 立派な石の祭壇の最奥に、シグルドさんウルスラさんのお墓があった。
 石碑には2人の名前と、"どうか安らかに。もう何者も、ふたりの幸せを壊すことはできない"という言葉が刻まれている……。
 墓前に花束を添え祈ったあと、アウグストさんとアウローラさんがこちらに向き直る。

「……待たせた。さあ、兄に顔を見せてやってくれ」

 その言葉を受け、わたし達は墓前に歩み寄り、ひざまずく。
 お花を用意していなかったので、近辺に咲く野花を摘んで供えた。

「………………」

 ふたり、目を閉じ、手を組み合わせ、祈る。

 ――シグルドさん、ウルスラさん。
 わたし、この人と結婚します。
 絶対にふたりで幸せになってみせますから、どうか安らかに眠ってください。
 いつかわたし達の間に子供が生まれたら、見てください。
 ……また、来ますね。

 そこで目を開けグレンさんの方を見ると、彼はまだ目を閉じたままだった。

 ――今、何を思っているのかな。ご両親に、何を伝えているのかな……。

 そんなことを考えていると、彼の手の紋章が光り出した。それと同時に、突風が吹いた。

「きゃっ……」

 強すぎる風に目を閉じた。ザァ……と、木々と草がざわめく音が耳に入る。
 ――瞬間、風とはちがう"何か"がそばを横切っていく気配を感じた。
 目を開けてみると、そこには銀髪の青年が立っていた。

「え……」
「兄上……っ!?」

 アウグストさんが叫ぶ。

 そう。現れたのはアウグストさんの兄であり、グレンさんの父親――シグルド・ベルセリウスさんだった。
 シグルドさんの身体は透けていて、どう見てもこの世の存在ではない。それに、意識の闇の中と違ってシグルドさん側はこちらを認識していないように思える。
 シグルドさんは辺りをキョロキョロ見渡し、すぐに何かに気付いてにっこりと笑う。
 彼の目線の先にはブランコがあり、そこには黒髪の女性が座っている。

「ウルスラ……お姉様……」

 ウルスラさんがブランコをゆるやかに動かしている。シグルドさんがそこに向かって歩んでいき、それに気付いたウルスラさんが嬉しそうに笑う。

 ――……これは幻? それとも、夢?

 ううん……違う。

 レスターさんが言っていた。
 "モノ"が持つ記憶と思い出は、それが消滅しない限り不変だ――と。
 わたし達は今、この"場所"が持つ記憶を見ているんだ。
 主が死んでも、この場所の時が過ぎ、季節は巡る。カエデの葉は散り、草や花は枯れ……でも、滅びたわけじゃない。新しく生まれ変わって、ずっとずっと引き継いでいる。
 かつてここにいた、幸せなふたりの記憶と思い出を……。

 シグルドさんはウルスラさんの前でうやうやしくお辞儀をしてからひざまずき、手を差し出す。
 ウルスラさんがその手を取って立ち上がるとシグルドさんもゆっくり立ち上がり、ふたり、抱き合う。
 やがて彼らの周りに光の粒子が発生して、ふたりを優しく包み込む。
 しばらくのち、シグルドさんとウルスラさんは抱き合ったまま、光とともに少しずつ消えていった……。



 ◇


「……ありがとう、兄に会わせてくれて」
「俺は、何も……」
「本当に……感謝しているんだ。呪術師の言う通りに兄をまつり、祈り、語りかけてきた。だがそんなことをしても兄は戻らないし、兄の無念が晴れることもない。……無意味なことをしているのではないかと、ずっと思っていた……」

 そう言うとアウグストさんは拳を握り、うなだれる。

 ――この人達もずっと苦しんでいたんだ。
 オッシさんのようにずっと人の――兄の死を悔やみ、悼み。彼ら自身にとがはないのに、何も背負わない人達の代わりにずっと背負い続けてきた……。

 しばらくして、アウグストさんが首を振りながら顔を上げた。

「……君は、5月生まれだったな」
「はい」
「ノルデンの春は短い。5月――ちょうど今時分から温かくなり始めるんだ。冷たく長い冬の時代を過ごしてきた兄と義姉にとって、君の誕生は春の訪れそのものだったろうな……」
「アウグストさん……」
「またいつでも来てくれ。兄も義姉も、それにこの土地も……皆、君を歓迎している」
「ありがとうございます」

 アウグストさんが手を差し出し、グレンさんがその手を取る。

「グレン。ありがとう、ここへ来てくれて。……生きていて、くれて……」

 グレンさんの手を強く握り、アウグストさんが微笑む。そばにいるアウローラさんも笑顔を見せている。
 冷たい印象だった2人が初めて見せる、優しい笑顔だ。

 ――ああ、この人達の長い冬も、やっと終わったんだ。

(シグルドさん、ウルスラさん……)

 "冬"が終わりましたよ。
 わたしと彼、そしてアウグストさん、アウローラさん……みんなが幸せをつかめるよう、見守っていてくださいね。

 心の中でそう唱えると、風がまたふわりと吹いた。
 やわらかく温かい、春の風だ……。

「……いい風ですね」
「ああ」

 ――風がシグルドさん達の代わりに答えてくれたのかな。

 ちょっと、乙女チックすぎる?
 ……でも、そうだといいな……。



 ――――――――――

 お読みいただき、ありがとうございます。
「カラスとすずらん」はあと2回で最終回を迎えます。
 最後までお付き合いいただけると幸いです。
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