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15章 祈り(前)
17話 手 ※グロ描写あり
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「げ……猊下、これは……!」
「そうだよ、セルジュ。これは、イリアス・トロンヘイムの手だ」
「…………」
水鏡となった円卓――その中心に浮かぶ"手"。
これが奴の腕から腐り果てるようにして落ちたのは、今から1週間ほど前。
それだけ経っていれば、変色したり、それこそ腐敗が始まっていてもおかしくはないはず。
しかし今目の前に浮かんでいるそれは、鮮度――とでも言うべきか、ともかく、色も形もまるで劣化していない。
あの日見た"手"そのものだ。
「……う……っ」
横に座っているカイルが、呻きながら口を抑えて顔を斜め下にそらす。顔色は真っ青だ。
「…………」
俺もカイルも元軍人だ。
一般の人間よりはこういった物への免疫や耐性がある。普段ならこうはならないだろう。
だがこの"手"は、イリアスのもの。監禁され恥辱を受けた忌まわしい10日間の記憶を引きずり出してしまうのもしれない。
俺は俺で、昔「名前を捨てろ」と繰り返し殴りつけてきた神父のことを思い出してしまう。
――吐きそうだ。地震のあと神父は崩れた建物の下敷きになり、瓦礫の下から"手"だけが出ていた……。
「…………、なぜ」
乾いた喉からようやくそれだけ絞り出した。
「なぜ」のあとに続けるべき言葉がありすぎるのに、何も出てこない。
言葉を発した俺と全員の顔を見回したあと、教皇は口を開いた。
「先ほどの言葉だ……私は、君達にひとつの道を示す。行き先を君達に決めて欲しい」
(……道……)
『ねえ、グレン君。どうしてもイリアスへの憎しみを捨て去れず、討ちたいというのなら、私は道を示すことができる』――。
――先日の教皇の言葉だ。
恐ろしくなり、「道とは何だ」と聞き返せなかった。今も同じだ。
だが、否が応でも示されてしまうらしい。
一体、何を……。
「何度も繰り返すが……君達の宿敵であるイリアス・トロンヘイムはもうじき朽ち果てる。人々の記憶から消える。……無論、君達の頭からもだ」
そう言ったところで教皇は、俺でもカイルでも聖女でもない意外な人物に目を向けた。
「……ベルナデッタ・サンチェス」
「えっ……!?」
突然水を向けられたベルナデッタは、目を見開いて肩をすくめる。
「……何か、思うことがあるようだ」
「え……、そ、そんな、わたくしは何も――」
「疑問に思うことがあるのだろう? 言ってみなさい。誰も君の言葉を否定しない」
「あ……」
ベルナデッタは目を泳がせながらうつむく。しかし少しの間のあと顔を上げて、息を軽く吸ってから口を開いた。
「ほ……本当に、彼に関する記憶は消えるものでしょうか……? わたくしは、どうしてもそう思えないのです」
「なぜかな」
「わたくしには……イリアス・トロンヘイムと同じように、皆の頭からは消えているのに、心にこびりついて消えない存在がいます」
「ほう……それは?」
「数ヶ月前、わたくし達の砦にやってきた女性です。とても横暴で……わたくしや仲間を罵倒して嘲り、命を弄びました。……あれほど暴虐の限りをつくしたのに、わたくし以外の仲間の頭からは彼女の記憶がほとんどなくなっています。……セルジュ様も彼女の件で捜査に来られましたが……覚えておいででしょうか?」
カイルの日記にもあった"A"という女のことを言っているのだろう。
ベルナデッタの問いにセルジュは黙って首を振った。続いて彼女は俺とカイルに視線で返答を求めてきた。
だが俺は全くと言っていいほど記憶にない。カイルは少し記憶があるようだが、やはりそれも朧気なもののようだ。
俺達2人が首を振ったり考え込んだりする様を見て、ベルナデッタは手を組み合わせてうつむいた。
「……どうしてわたくしだけ彼女の記憶が鮮明であるか、ずっと考えていました。……あの方は、立ち居振る舞いがわたくしの母と酷似しておりました。あの方と話すと母を思い出し、逆もまた……。わたくしの中で彼女という存在は、母と関連づけられてしまっている。だから、どうやっても消えない……。わたくし達仲間はそれぞれ、イリアスと浅からぬ因縁があります。嫌悪や憎しみの情も強い――ですので、彼に関する記憶は何一つ消えず、わたくし達の頭に焦げ付いて残るのではないかと、そう思うのです」
「ただの憶測、仮説ですけれど……」と小さく付け加え、ベルナデッタは自信なさげに肩をすくめて縮こまってしまう。
教皇はそんな彼女に「意見をありがとう」と微笑みかけ、水面に浮かぶイリアスの手に目を落とす。
「……彼女の言う通りだろう。あまりにも強い遺恨を残すと、相手の存在が消えても、記憶とそれに付随する感情がこびりついてしまう。おそらく、イリアスが消滅しても彼を憎む君達の心には残ってしまう。もはや存在しないものへの憎悪だけが残り続けるのだ。それは、果てしなき苦しみ……だから私は、その心を捨てろと言った――」
そう言うと教皇は目を閉じ、両手を水鏡にかざすように前に出した。
水鏡が光り出し、中心にあるイリアスの手が宙に浮き上がる。
手には亀裂のようなものが入り、その内部から光が広がる――。
「…………!」
「げ……猊下! 何をなさる、おつもり……」
「私が君達に示す"道"とは、この手の行く先だ……」
「行く先……?」
「そう……これを魔器として、イリアスの未来を読む」
「……手を魔器に!? それは、……ぐっ!」
「…………!」
問答の途中、立ち上がっていたセルジュが頭を抑えながらガタンと座り込む。
「あ、ぐ……っ!」
「うぅ……っ!」
教皇と聖女以外の全員が、セルジュと同様に呻きながら頭や耳を抱えこんだ。
――頭が、割れそうに痛む。
未来を読む――それは禁呪だ。
これに使うために、イリアスの手を保管していたのか……!
「……リタ、結界を!」
「はい……!」
苦しみ呻く全員の様子を見て、教皇が聖女に命じた。
聖女が杖を手に目を閉じると、イリアスの手は水鏡ごとドーム状の光――結界に覆われた。
頭痛は治まったが、正直儀式を直視することはできない。
結界に包まれる前に見た、光の亀裂が入ったイリアスの手……恐らく、もうまもなく内部から弾け飛んでしまうだろう。
術の光だけが目に入り、涙が勝手に流れ出す。
教皇は目を閉じて手をかざしたまま。手の示す未来が彼の頭の中にだけ視えているようだ。
かざした両手が、魔力の圧に押されるようにガクガクと震え出す。
歯を食いしばった口元から、血が流れ出す。
――このままでは彼の命も危ないんじゃないのか?
そうまでして、一体どうして……!
「ぐ……ううぅ……!」
教皇が呻き声を上げ始めたところで、結界内で「バァン」と何かが弾け飛ぶ音がした。
「……っ!!」
「きゃああっ……!」
結界は光で満たされているため、結界内で何が起こっているかは見えない。
弾け飛んだ何かが結界を伝って水鏡の中へ落ちる音が聞こえている。
落ちている物の正体は考えたくない――考えたくないのに、耳に入るボトボト、ビチャビチャ、という落下音が事実を勝手に認識させてくる。
「ぐっ……ゲホッ」
「! 猊下……」
教皇が口に手を当て、倒れるように椅子に座り込んだ。
駆け寄ったセルジュと聖女と王太子を「大丈夫だ」と手で制するが、どう考えても大丈夫ではない。
咳で噴き出た血が手を伝って流れ落ち、白い法衣の袖がじわりと赤く染まる。
(……これが、禁呪……)
初めて目にした、人体を魔器にした本物の禁呪――虫や小動物の命を使う"黒魔術"とはわけがちがう。
イリアスが軽々と使っていたから感覚が麻痺していた。肉体の一部を使っただけでこれほどまでに反動があるものなのか。
……恐ろしくてたまらない。額に脂汗がにじむ。身震いを隠すのが精一杯で動けない。
教皇はしばらく咳き込んでいたが、聖女の癒やしの魔法で落ち着きを取り戻した。
しかし顔色は変わらず悪い。
「ゲホッ……、すまない……反動が、やはり……。しかし、この手の未来は読めた」
「手……イリアスの、未来……」
無意識にそうつぶやいてしまった。
教皇はこちらを見て、あの凪のような表情を浮かべ「そうだ」と言った。
「……10日後……新月の夜。イリアス・トロンヘイムは、このシルベストル邸の敷地内にある礼拝堂に現れる。そこで、イリアスは終わる」
「……な……!?」
何かを言おうとするセルジュを静かに手で制し、教皇はさらに言葉を続ける。
「――私が読んだのは、あくまでもイリアスの"終わりの未来"。今この時点で決まっているのは、イリアスがそこで朽ち果てるという未来のみ。定まっていない心の行方は見えない。……定まっていない心とは、すなわち君達の意志のことだ。君達は、私が今読んだ未来――イリアスの最期の瞬間に自由な意志で介入することが出来る」
「え……?」
「……10日後だ。それまでに、君達の意志で彼の"終わり"を決めるといい……」
「………………」
示された道は、イリアスの最期の瞬間。犯行予告などではない、完全に定まった未来。
10日後、奴はこの地に現れる。
俺達はそこに自由意志で介入して、奴の"終わり方"を決めることができる。
終わる瞬間を見届けることができる。終わる前に殺すこともできる。
介入しないこと――奴の終わりをただ待っていることも、また自由。
ただしその場合、恐らく確実にイリアスの記憶が、奴への憎悪が焦げ付いて残る。
だが、憎しみをもって奴の命を奪った場合も同様。
憎悪は残る。そして俺達の道から数多くの光が失われる。教皇……剣士ミハイールのように。
――重い。
「自由意志」と言うが、それは本当に自由なのか。
俺には、首や身体を縛り付ける鎖のように感じられる。
イリアスが消えるまで、あと10日。
与えられたわずかな時間で、俺達は結論を出さなければいけない……。
「そうだよ、セルジュ。これは、イリアス・トロンヘイムの手だ」
「…………」
水鏡となった円卓――その中心に浮かぶ"手"。
これが奴の腕から腐り果てるようにして落ちたのは、今から1週間ほど前。
それだけ経っていれば、変色したり、それこそ腐敗が始まっていてもおかしくはないはず。
しかし今目の前に浮かんでいるそれは、鮮度――とでも言うべきか、ともかく、色も形もまるで劣化していない。
あの日見た"手"そのものだ。
「……う……っ」
横に座っているカイルが、呻きながら口を抑えて顔を斜め下にそらす。顔色は真っ青だ。
「…………」
俺もカイルも元軍人だ。
一般の人間よりはこういった物への免疫や耐性がある。普段ならこうはならないだろう。
だがこの"手"は、イリアスのもの。監禁され恥辱を受けた忌まわしい10日間の記憶を引きずり出してしまうのもしれない。
俺は俺で、昔「名前を捨てろ」と繰り返し殴りつけてきた神父のことを思い出してしまう。
――吐きそうだ。地震のあと神父は崩れた建物の下敷きになり、瓦礫の下から"手"だけが出ていた……。
「…………、なぜ」
乾いた喉からようやくそれだけ絞り出した。
「なぜ」のあとに続けるべき言葉がありすぎるのに、何も出てこない。
言葉を発した俺と全員の顔を見回したあと、教皇は口を開いた。
「先ほどの言葉だ……私は、君達にひとつの道を示す。行き先を君達に決めて欲しい」
(……道……)
『ねえ、グレン君。どうしてもイリアスへの憎しみを捨て去れず、討ちたいというのなら、私は道を示すことができる』――。
――先日の教皇の言葉だ。
恐ろしくなり、「道とは何だ」と聞き返せなかった。今も同じだ。
だが、否が応でも示されてしまうらしい。
一体、何を……。
「何度も繰り返すが……君達の宿敵であるイリアス・トロンヘイムはもうじき朽ち果てる。人々の記憶から消える。……無論、君達の頭からもだ」
そう言ったところで教皇は、俺でもカイルでも聖女でもない意外な人物に目を向けた。
「……ベルナデッタ・サンチェス」
「えっ……!?」
突然水を向けられたベルナデッタは、目を見開いて肩をすくめる。
「……何か、思うことがあるようだ」
「え……、そ、そんな、わたくしは何も――」
「疑問に思うことがあるのだろう? 言ってみなさい。誰も君の言葉を否定しない」
「あ……」
ベルナデッタは目を泳がせながらうつむく。しかし少しの間のあと顔を上げて、息を軽く吸ってから口を開いた。
「ほ……本当に、彼に関する記憶は消えるものでしょうか……? わたくしは、どうしてもそう思えないのです」
「なぜかな」
「わたくしには……イリアス・トロンヘイムと同じように、皆の頭からは消えているのに、心にこびりついて消えない存在がいます」
「ほう……それは?」
「数ヶ月前、わたくし達の砦にやってきた女性です。とても横暴で……わたくしや仲間を罵倒して嘲り、命を弄びました。……あれほど暴虐の限りをつくしたのに、わたくし以外の仲間の頭からは彼女の記憶がほとんどなくなっています。……セルジュ様も彼女の件で捜査に来られましたが……覚えておいででしょうか?」
カイルの日記にもあった"A"という女のことを言っているのだろう。
ベルナデッタの問いにセルジュは黙って首を振った。続いて彼女は俺とカイルに視線で返答を求めてきた。
だが俺は全くと言っていいほど記憶にない。カイルは少し記憶があるようだが、やはりそれも朧気なもののようだ。
俺達2人が首を振ったり考え込んだりする様を見て、ベルナデッタは手を組み合わせてうつむいた。
「……どうしてわたくしだけ彼女の記憶が鮮明であるか、ずっと考えていました。……あの方は、立ち居振る舞いがわたくしの母と酷似しておりました。あの方と話すと母を思い出し、逆もまた……。わたくしの中で彼女という存在は、母と関連づけられてしまっている。だから、どうやっても消えない……。わたくし達仲間はそれぞれ、イリアスと浅からぬ因縁があります。嫌悪や憎しみの情も強い――ですので、彼に関する記憶は何一つ消えず、わたくし達の頭に焦げ付いて残るのではないかと、そう思うのです」
「ただの憶測、仮説ですけれど……」と小さく付け加え、ベルナデッタは自信なさげに肩をすくめて縮こまってしまう。
教皇はそんな彼女に「意見をありがとう」と微笑みかけ、水面に浮かぶイリアスの手に目を落とす。
「……彼女の言う通りだろう。あまりにも強い遺恨を残すと、相手の存在が消えても、記憶とそれに付随する感情がこびりついてしまう。おそらく、イリアスが消滅しても彼を憎む君達の心には残ってしまう。もはや存在しないものへの憎悪だけが残り続けるのだ。それは、果てしなき苦しみ……だから私は、その心を捨てろと言った――」
そう言うと教皇は目を閉じ、両手を水鏡にかざすように前に出した。
水鏡が光り出し、中心にあるイリアスの手が宙に浮き上がる。
手には亀裂のようなものが入り、その内部から光が広がる――。
「…………!」
「げ……猊下! 何をなさる、おつもり……」
「私が君達に示す"道"とは、この手の行く先だ……」
「行く先……?」
「そう……これを魔器として、イリアスの未来を読む」
「……手を魔器に!? それは、……ぐっ!」
「…………!」
問答の途中、立ち上がっていたセルジュが頭を抑えながらガタンと座り込む。
「あ、ぐ……っ!」
「うぅ……っ!」
教皇と聖女以外の全員が、セルジュと同様に呻きながら頭や耳を抱えこんだ。
――頭が、割れそうに痛む。
未来を読む――それは禁呪だ。
これに使うために、イリアスの手を保管していたのか……!
「……リタ、結界を!」
「はい……!」
苦しみ呻く全員の様子を見て、教皇が聖女に命じた。
聖女が杖を手に目を閉じると、イリアスの手は水鏡ごとドーム状の光――結界に覆われた。
頭痛は治まったが、正直儀式を直視することはできない。
結界に包まれる前に見た、光の亀裂が入ったイリアスの手……恐らく、もうまもなく内部から弾け飛んでしまうだろう。
術の光だけが目に入り、涙が勝手に流れ出す。
教皇は目を閉じて手をかざしたまま。手の示す未来が彼の頭の中にだけ視えているようだ。
かざした両手が、魔力の圧に押されるようにガクガクと震え出す。
歯を食いしばった口元から、血が流れ出す。
――このままでは彼の命も危ないんじゃないのか?
そうまでして、一体どうして……!
「ぐ……ううぅ……!」
教皇が呻き声を上げ始めたところで、結界内で「バァン」と何かが弾け飛ぶ音がした。
「……っ!!」
「きゃああっ……!」
結界は光で満たされているため、結界内で何が起こっているかは見えない。
弾け飛んだ何かが結界を伝って水鏡の中へ落ちる音が聞こえている。
落ちている物の正体は考えたくない――考えたくないのに、耳に入るボトボト、ビチャビチャ、という落下音が事実を勝手に認識させてくる。
「ぐっ……ゲホッ」
「! 猊下……」
教皇が口に手を当て、倒れるように椅子に座り込んだ。
駆け寄ったセルジュと聖女と王太子を「大丈夫だ」と手で制するが、どう考えても大丈夫ではない。
咳で噴き出た血が手を伝って流れ落ち、白い法衣の袖がじわりと赤く染まる。
(……これが、禁呪……)
初めて目にした、人体を魔器にした本物の禁呪――虫や小動物の命を使う"黒魔術"とはわけがちがう。
イリアスが軽々と使っていたから感覚が麻痺していた。肉体の一部を使っただけでこれほどまでに反動があるものなのか。
……恐ろしくてたまらない。額に脂汗がにじむ。身震いを隠すのが精一杯で動けない。
教皇はしばらく咳き込んでいたが、聖女の癒やしの魔法で落ち着きを取り戻した。
しかし顔色は変わらず悪い。
「ゲホッ……、すまない……反動が、やはり……。しかし、この手の未来は読めた」
「手……イリアスの、未来……」
無意識にそうつぶやいてしまった。
教皇はこちらを見て、あの凪のような表情を浮かべ「そうだ」と言った。
「……10日後……新月の夜。イリアス・トロンヘイムは、このシルベストル邸の敷地内にある礼拝堂に現れる。そこで、イリアスは終わる」
「……な……!?」
何かを言おうとするセルジュを静かに手で制し、教皇はさらに言葉を続ける。
「――私が読んだのは、あくまでもイリアスの"終わりの未来"。今この時点で決まっているのは、イリアスがそこで朽ち果てるという未来のみ。定まっていない心の行方は見えない。……定まっていない心とは、すなわち君達の意志のことだ。君達は、私が今読んだ未来――イリアスの最期の瞬間に自由な意志で介入することが出来る」
「え……?」
「……10日後だ。それまでに、君達の意志で彼の"終わり"を決めるといい……」
「………………」
示された道は、イリアスの最期の瞬間。犯行予告などではない、完全に定まった未来。
10日後、奴はこの地に現れる。
俺達はそこに自由意志で介入して、奴の"終わり方"を決めることができる。
終わる瞬間を見届けることができる。終わる前に殺すこともできる。
介入しないこと――奴の終わりをただ待っていることも、また自由。
ただしその場合、恐らく確実にイリアスの記憶が、奴への憎悪が焦げ付いて残る。
だが、憎しみをもって奴の命を奪った場合も同様。
憎悪は残る。そして俺達の道から数多くの光が失われる。教皇……剣士ミハイールのように。
――重い。
「自由意志」と言うが、それは本当に自由なのか。
俺には、首や身体を縛り付ける鎖のように感じられる。
イリアスが消えるまで、あと10日。
与えられたわずかな時間で、俺達は結論を出さなければいけない……。
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