210 / 385
10章 "悲嘆"
7話 やっと、会える
しおりを挟む
カラン、コロン……と、授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
3日間続いた試験もやっと終わり。
「はああ、今日のヤバかったぁ~ん……。レイチェル、あれどうだった?」
「確かに難しかったねぇ……問3とか」
「はぁぁ……勉強してたのになぁあああ……」
「みなさん、繰り返し注意しますが、帰り道は十分に気をつけてください。冒険者ギルドに薬草を売りに行くのも禁止ですよ! 他も色々物騒ですから、テスト休み中も外出は控えてください!」
2週間ほど毎日聞かされている注意。ため息交じりに、みんなウンザリした顔をする。でも仕方ないだろう。
「あーあ。物騒なのがいけないんだよ物騒なのがー。いつもの調子出ないっていうかさぁ」
メイちゃんが机にあごを置いてブーブー言っている。
――結局、テスト期間中に賞金首の男の人が捕まることはなかった。
それに加え、ミランダ教の司祭の残忍な殺人事件、さらに今日の朝刊に一面で載った『光の塾』という怪しい組織の話。
わたし達にとっては全てが非日常で、恐ろしくて落ち着かない。
(光の、塾……)
ルカとフランツ、それからグレンさんが関わっていた"光の塾"――フランツがセルジュ様に引き取られたことをきっかけに、セルジュ様の命で聖銀騎士団がその正体を探ってくれていた。
光の塾は、ディオール北部やノルデンで特に信仰されている聖光神団の教えを下敷きに、35年程前に誕生した新興宗教。
最初は本当に塾だったらしいけど子供を暴行の末殺してしまったため北へ逃げ、次第に宗教団体へと変貌していったらしい。
開祖であるニコライは「自分には光の神の声が聞こえる」「私に光の神が降臨した」「私こそが神だ」などと言い始める。
果ては「私は魔法を使うことができない。それはこの世にはびこる"ヒト"の穢れのせいである。"ヒト"の穢れが鎖となり私を封じているのだ。神たる私を縛る者はすなわち悪魔。悪の力が私をこのニコライという小さな器に閉じ込めている。信徒達よ、祈りの力で私を解放せよ。そうすればお前達を悪魔の手から救済してみせよう。私が解放されたとき、聖戦が始まる」とまで。
大元になっている聖光神団は、そんなことは一言も教えていない。
世界を捨てた神に祈りを捧げ「我々の築いた世界を、その成果をせめて一度でも見てもらいましょう」というのが教義。
光の塾の教義と似ているようで違う。光の神様は再臨しない。救わない、争わない。与えないし、奪わない。
「聖戦」なんてない。全て教祖であるニコライという人の虚言、妄想。
何も知らない信徒達はただ祈りを捧げる。そして果てには禁呪の魔器として使われ――……。
(グレンさん……ルカ……)
「……チェル、レイチェル……、レイチェルってば!!」
「えっ!?」
「もー! さっきから呼んでんじゃん!」
「わ、わ、ごめん……帰ろっか」
「いやいや、あんたのこと呼びに来た子が、ホレ」
「え?」
見れば、教室の外に隣のクラスの子が立っていた。
去年同じクラスだった子だ、何の用だろう?
「ごめん、どうしたの?」
「うん、校門で男の人に声かけられて『レイチェルのこと呼んできて』って言われてさ~。カッコイイ人だったよぉ、彼氏??」
「えっ、えええ……」
「えええええっ 彼氏!? ちょっとぉ~ なんであたしに報告がないわけ?? 何、どんな人よ!?」
「メ、メイちゃん」
「えっと、茶髪で、メガネかけててぇ……」
「え?」
茶髪で、メガネ。
それって……。
「…………よう」
「やっぱりジャミルだ。どうしたの? こんなとこ」
校門に立っていたのはジャミルだった。
あまり意識してなかったけど、知らない人からすればジャミルも「カッコイイ人」なんだなぁ……って、それはいいか。
彼の肩に止まっていた小鳥のウィルがパタパタと飛んでわたしの方へ……手を差し出すと、わたしの両手のひらに収まってモワッと丸くなった。モコモコ羽毛がかわいい。
「お迎えに上がりました」
「お迎え」
「ああ、物騒だからな」
「それは、そうだけど」
「というわけで行くぞ。まず家帰るんだよな」
「あ、うん……わっ!」
手のひらの中のウィルが宙に浮き上がって紫色の渦に姿を変え、すぐに扉の姿に。
(えー……)
すごい。すごいけど、これ通って大丈夫なんだよね……?
◇
「うわっ、すごい……ほんとに家だ」
扉をくぐると、すぐに自宅が姿を現した。
方法が違うだけで、ルカやグレンさんの転移魔法と何も変わらない。
「す、すごいね、一瞬で……なんかもっとこう、ヘンな空間を通っていくのかと思っちゃった!」
「………………」
(あれ……?)
褒めたつもりなのにジャミルは浮かない顔だ。機嫌悪いのかな? まるで……。
「……あの……ジャミル」
「用意してこいよ。すぐ行くから」
「あ……うん」
彼に促されたのでわたしは家に入って服を着替え、荷造りを始めた。
(どうしたのかな……ジャミル)
砦を辞めてからあまり会うことはなかったけど、今日の彼は何か様子がおかしい。
そもそも、物騒だからといってなんでジャミルが迎えに来るんだろう? 砦に常駐しているわけでもないだろうし……ベルに会いに行ったついでとかかな?
それにしては元気がない。まるで、あの呪いの剣を持ってた時みたいだ……。
「お待たせー」
「……ああ。じゃ、行くぞ」
「……うん」
なんだろう。なんか、変だな。
――何か、あったのかな……?
◇
「…………!」
「あ……レイチェル、お疲れ様……来てくれたのね」
扉を開けると、そこは砦の医務室だった。
ベッドの傍らに座っているベルがわたしを見て力なく微笑む。
そしてベッドには……グレンさんが青白い顔で横たわっていた。
「え、え……何、どうしたの」
「うん……」
「俺が説明するよ」
「あ、カイル」
医務室の入り口にカイルが立っていた。わたしを見てにこっと笑って見せる。
――いつものようにさわやかに見えるけど、彼もまた表情に翳りがあるような気がする。
「……魔物討伐は今日はお休みなの?」
「うん。まあ、色々と訳ありで」
「…………」
「こいつちょっと魔法を使い過ぎちゃって、魔力欠乏症になっちゃったんだ。そこに風邪もこじらせちゃってさ。魔力欠乏症治すのに上級魔力回復薬飲ませたんだけど、なかなかよくならなくて」
「そう、なんだ……」
「それで……レイチェルは、今日の朝刊見た?」
「朝刊って光の塾の話? 見たよ」
今の病気の話と朝刊の話が何の関連があるかわからない。
「そっか……グレンが、光の塾と関係していたことは」
「あ……うん。知ってる」
「そっか。それなら話は早い……とりあえずこれも見てよ」
「……?」
渡された紙には光の塾のことが書いてあった――見覚えのある字だ、走り書きだけどきれいで丁寧な……これはジャミルが書いたものだ。
昨日聖銀騎士のセルジュ様がやってきて検挙した光の塾についての話をしていったとかで、その話の内容を彼が書いていたらしい。
……今日の朝刊の内容とほぼ同じ。
神様がいないと急に明かされたルカは気が動転して、泣きながら砦を飛び出して行った。
そしてジャミルがルカを捜しに行っている間に、グレンさんはあの"ドルミル草"を飲んで昏倒してしまったという。
「そんな……」
彼は光の塾の下位組織の出身。
その話をする前にルカが飛び出してしまったのでジャミルのメモには書いていなかったけど、新聞にはその記述があった。
ミランダ教でも使っている魔法の資質を調べる盤を使って、まずは資質がある者とない者とで仕分けを行う。
紋章保持者は、目覚めるまではあの盤に反応しない。
神の手で"無能者"から、封じられた神の力――紋章を引き出すために、その子達を特別に厳しい環境下に置き監理と指導を行う。彼らの置かれた環境は、全く酷いもの。
俗説によれば、紋章に目覚める条件は「命の危機に瀕した時」。
子供達はことあるごとに"神の試練"と称した拷問を受ける。
命を落とすほどの暴力――試練を乗り越えることなく死んだら、その子は神に見放された無能者。試練を乗り越えて紋章に目覚めた者は"一段階高い人間"として光の塾へ。
光の塾に行ったあとは真名を書き換えられて"天使"に生まれ変わり、最後の最後には禁呪の魔器にされてしまう。
来るべき"大悪魔との聖戦"のために、その身を捧げ――。
"天使"というのは、フランツが言っていた"上のクラス"だろうか?
ルカはこのままいけば禁呪の魔器にされるところだった?
最初から最後まで、何の救いもない――グレンさんは幼少期、こんな所に閉じ込められて生きていた。
そこから救い出される為に神に祈っていたのに、救いはなかった。その神は神でもなんでもない存在だったからだ。
大災害があったから結果的に彼はこの恐ろしい機関から逃げおおせた。
20年以上経ち大人になっていても、そこの記憶と傷は消えないんだろう。
"ドルミル草"なんかを飲んで無理矢理に眠ってしまうくらいにショックだったんだ。
「グレンさん……、グレン、さん……」
先週会った時に様子が変だった。
――どうしたの? 何か辛いことがあったの?
会いに行って話を聞きたかったけど出かけているかもしれないし、テストが終わってからゆっくり聞こう なんて思っていて……。
「う、うう……っ、ひっ……」
泣き出したわたしの背中をベルがさすってくれる。
わたしはそのままベルに泣きついた。
――早く会いたかったの。声を聞きたかったの。
テストが難しかった とか、そんなくだらない話を聞いてもらいたかった。
それで「頑張ったな」なんて言って、頭撫でて抱きしめてもらいたかったの。
どうしてこんなことになったの?
お願い、早く目覚めて。わたし、なんでも話を聞くから。
辛いことを1人で背負わないで。悲しい気持ちを閉じ込めないで。
お願い、誰もいない世界に行かないで。だってどこにも行かないって、約束したでしょう。
3日間続いた試験もやっと終わり。
「はああ、今日のヤバかったぁ~ん……。レイチェル、あれどうだった?」
「確かに難しかったねぇ……問3とか」
「はぁぁ……勉強してたのになぁあああ……」
「みなさん、繰り返し注意しますが、帰り道は十分に気をつけてください。冒険者ギルドに薬草を売りに行くのも禁止ですよ! 他も色々物騒ですから、テスト休み中も外出は控えてください!」
2週間ほど毎日聞かされている注意。ため息交じりに、みんなウンザリした顔をする。でも仕方ないだろう。
「あーあ。物騒なのがいけないんだよ物騒なのがー。いつもの調子出ないっていうかさぁ」
メイちゃんが机にあごを置いてブーブー言っている。
――結局、テスト期間中に賞金首の男の人が捕まることはなかった。
それに加え、ミランダ教の司祭の残忍な殺人事件、さらに今日の朝刊に一面で載った『光の塾』という怪しい組織の話。
わたし達にとっては全てが非日常で、恐ろしくて落ち着かない。
(光の、塾……)
ルカとフランツ、それからグレンさんが関わっていた"光の塾"――フランツがセルジュ様に引き取られたことをきっかけに、セルジュ様の命で聖銀騎士団がその正体を探ってくれていた。
光の塾は、ディオール北部やノルデンで特に信仰されている聖光神団の教えを下敷きに、35年程前に誕生した新興宗教。
最初は本当に塾だったらしいけど子供を暴行の末殺してしまったため北へ逃げ、次第に宗教団体へと変貌していったらしい。
開祖であるニコライは「自分には光の神の声が聞こえる」「私に光の神が降臨した」「私こそが神だ」などと言い始める。
果ては「私は魔法を使うことができない。それはこの世にはびこる"ヒト"の穢れのせいである。"ヒト"の穢れが鎖となり私を封じているのだ。神たる私を縛る者はすなわち悪魔。悪の力が私をこのニコライという小さな器に閉じ込めている。信徒達よ、祈りの力で私を解放せよ。そうすればお前達を悪魔の手から救済してみせよう。私が解放されたとき、聖戦が始まる」とまで。
大元になっている聖光神団は、そんなことは一言も教えていない。
世界を捨てた神に祈りを捧げ「我々の築いた世界を、その成果をせめて一度でも見てもらいましょう」というのが教義。
光の塾の教義と似ているようで違う。光の神様は再臨しない。救わない、争わない。与えないし、奪わない。
「聖戦」なんてない。全て教祖であるニコライという人の虚言、妄想。
何も知らない信徒達はただ祈りを捧げる。そして果てには禁呪の魔器として使われ――……。
(グレンさん……ルカ……)
「……チェル、レイチェル……、レイチェルってば!!」
「えっ!?」
「もー! さっきから呼んでんじゃん!」
「わ、わ、ごめん……帰ろっか」
「いやいや、あんたのこと呼びに来た子が、ホレ」
「え?」
見れば、教室の外に隣のクラスの子が立っていた。
去年同じクラスだった子だ、何の用だろう?
「ごめん、どうしたの?」
「うん、校門で男の人に声かけられて『レイチェルのこと呼んできて』って言われてさ~。カッコイイ人だったよぉ、彼氏??」
「えっ、えええ……」
「えええええっ 彼氏!? ちょっとぉ~ なんであたしに報告がないわけ?? 何、どんな人よ!?」
「メ、メイちゃん」
「えっと、茶髪で、メガネかけててぇ……」
「え?」
茶髪で、メガネ。
それって……。
「…………よう」
「やっぱりジャミルだ。どうしたの? こんなとこ」
校門に立っていたのはジャミルだった。
あまり意識してなかったけど、知らない人からすればジャミルも「カッコイイ人」なんだなぁ……って、それはいいか。
彼の肩に止まっていた小鳥のウィルがパタパタと飛んでわたしの方へ……手を差し出すと、わたしの両手のひらに収まってモワッと丸くなった。モコモコ羽毛がかわいい。
「お迎えに上がりました」
「お迎え」
「ああ、物騒だからな」
「それは、そうだけど」
「というわけで行くぞ。まず家帰るんだよな」
「あ、うん……わっ!」
手のひらの中のウィルが宙に浮き上がって紫色の渦に姿を変え、すぐに扉の姿に。
(えー……)
すごい。すごいけど、これ通って大丈夫なんだよね……?
◇
「うわっ、すごい……ほんとに家だ」
扉をくぐると、すぐに自宅が姿を現した。
方法が違うだけで、ルカやグレンさんの転移魔法と何も変わらない。
「す、すごいね、一瞬で……なんかもっとこう、ヘンな空間を通っていくのかと思っちゃった!」
「………………」
(あれ……?)
褒めたつもりなのにジャミルは浮かない顔だ。機嫌悪いのかな? まるで……。
「……あの……ジャミル」
「用意してこいよ。すぐ行くから」
「あ……うん」
彼に促されたのでわたしは家に入って服を着替え、荷造りを始めた。
(どうしたのかな……ジャミル)
砦を辞めてからあまり会うことはなかったけど、今日の彼は何か様子がおかしい。
そもそも、物騒だからといってなんでジャミルが迎えに来るんだろう? 砦に常駐しているわけでもないだろうし……ベルに会いに行ったついでとかかな?
それにしては元気がない。まるで、あの呪いの剣を持ってた時みたいだ……。
「お待たせー」
「……ああ。じゃ、行くぞ」
「……うん」
なんだろう。なんか、変だな。
――何か、あったのかな……?
◇
「…………!」
「あ……レイチェル、お疲れ様……来てくれたのね」
扉を開けると、そこは砦の医務室だった。
ベッドの傍らに座っているベルがわたしを見て力なく微笑む。
そしてベッドには……グレンさんが青白い顔で横たわっていた。
「え、え……何、どうしたの」
「うん……」
「俺が説明するよ」
「あ、カイル」
医務室の入り口にカイルが立っていた。わたしを見てにこっと笑って見せる。
――いつものようにさわやかに見えるけど、彼もまた表情に翳りがあるような気がする。
「……魔物討伐は今日はお休みなの?」
「うん。まあ、色々と訳ありで」
「…………」
「こいつちょっと魔法を使い過ぎちゃって、魔力欠乏症になっちゃったんだ。そこに風邪もこじらせちゃってさ。魔力欠乏症治すのに上級魔力回復薬飲ませたんだけど、なかなかよくならなくて」
「そう、なんだ……」
「それで……レイチェルは、今日の朝刊見た?」
「朝刊って光の塾の話? 見たよ」
今の病気の話と朝刊の話が何の関連があるかわからない。
「そっか……グレンが、光の塾と関係していたことは」
「あ……うん。知ってる」
「そっか。それなら話は早い……とりあえずこれも見てよ」
「……?」
渡された紙には光の塾のことが書いてあった――見覚えのある字だ、走り書きだけどきれいで丁寧な……これはジャミルが書いたものだ。
昨日聖銀騎士のセルジュ様がやってきて検挙した光の塾についての話をしていったとかで、その話の内容を彼が書いていたらしい。
……今日の朝刊の内容とほぼ同じ。
神様がいないと急に明かされたルカは気が動転して、泣きながら砦を飛び出して行った。
そしてジャミルがルカを捜しに行っている間に、グレンさんはあの"ドルミル草"を飲んで昏倒してしまったという。
「そんな……」
彼は光の塾の下位組織の出身。
その話をする前にルカが飛び出してしまったのでジャミルのメモには書いていなかったけど、新聞にはその記述があった。
ミランダ教でも使っている魔法の資質を調べる盤を使って、まずは資質がある者とない者とで仕分けを行う。
紋章保持者は、目覚めるまではあの盤に反応しない。
神の手で"無能者"から、封じられた神の力――紋章を引き出すために、その子達を特別に厳しい環境下に置き監理と指導を行う。彼らの置かれた環境は、全く酷いもの。
俗説によれば、紋章に目覚める条件は「命の危機に瀕した時」。
子供達はことあるごとに"神の試練"と称した拷問を受ける。
命を落とすほどの暴力――試練を乗り越えることなく死んだら、その子は神に見放された無能者。試練を乗り越えて紋章に目覚めた者は"一段階高い人間"として光の塾へ。
光の塾に行ったあとは真名を書き換えられて"天使"に生まれ変わり、最後の最後には禁呪の魔器にされてしまう。
来るべき"大悪魔との聖戦"のために、その身を捧げ――。
"天使"というのは、フランツが言っていた"上のクラス"だろうか?
ルカはこのままいけば禁呪の魔器にされるところだった?
最初から最後まで、何の救いもない――グレンさんは幼少期、こんな所に閉じ込められて生きていた。
そこから救い出される為に神に祈っていたのに、救いはなかった。その神は神でもなんでもない存在だったからだ。
大災害があったから結果的に彼はこの恐ろしい機関から逃げおおせた。
20年以上経ち大人になっていても、そこの記憶と傷は消えないんだろう。
"ドルミル草"なんかを飲んで無理矢理に眠ってしまうくらいにショックだったんだ。
「グレンさん……、グレン、さん……」
先週会った時に様子が変だった。
――どうしたの? 何か辛いことがあったの?
会いに行って話を聞きたかったけど出かけているかもしれないし、テストが終わってからゆっくり聞こう なんて思っていて……。
「う、うう……っ、ひっ……」
泣き出したわたしの背中をベルがさすってくれる。
わたしはそのままベルに泣きついた。
――早く会いたかったの。声を聞きたかったの。
テストが難しかった とか、そんなくだらない話を聞いてもらいたかった。
それで「頑張ったな」なんて言って、頭撫でて抱きしめてもらいたかったの。
どうしてこんなことになったの?
お願い、早く目覚めて。わたし、なんでも話を聞くから。
辛いことを1人で背負わないで。悲しい気持ちを閉じ込めないで。
お願い、誰もいない世界に行かないで。だってどこにも行かないって、約束したでしょう。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる