上 下
67 / 385
6章 ことのはじまり

3話 妙な三人組とステキな砦

しおりを挟む
 翌日、オレ達はギルドの前に集合した。ルカはグレンにくっついてきていた。
 
「家に来たりしなかったんか」
「ああ、大丈夫だ。『来るのを控えられたらパンケーキを食わせてやる』と言っておいた」
「……大変だな」
 
 
 ◇
 
 
 出前を運んだりとかはしたことがあるけど、冒険者ギルドに入って内部をじっくり見るのは初めてだった。
 ガチムチの戦士とか武闘家とか、魔法使いとかなんかそれっぽいのが色々いる。
 ギルドマスター? みたいな奴もいる。ガチムチだ。強くないとタチの悪い冒険者が来た時対処できないのかもしれない。
 正直冒険者だのギルドだの、オレには関わりのないものだと思っていた。
 学校卒業したあとは料理人やってるけど、他は町役場に就職考えてたくらいだし。
 
 壁の掲示板には色んな依頼が貼ってあった。
(手紙、荷物の配達、護衛、魔物退治、採取、採掘、宝物の散策、傭兵任務……ふーん。そういやオヤジも昔冒険者で腕鳴らしたって言ってたっけな)
 オヤジはガチムチの剣士だった。
 前住んでた街には、近所にオヤジと昔パーティ組んでた斧戦士のおっちゃんも住んでいた。こっちもガチムチだった。
 母親同士も仲良くて家族ぐるみの付き合いもしていた。二人共筋肉フェチらしい。
 
 ところでそのおっちゃんのとこには娘がいた。
 2コ下なのに背がでかくてオレと同じくらい、背の順でもずっと後ろだったらしい。
 昔は弟も一緒になってよく遊んでいたが、成長につれなんとなく付き合いがなくなった。お年頃ってやつだ。
 そこの街から引っ越してきて、今年で5年目に入る。
 親同士はやり取りをしているみたいだが、ソイツが今どうしているかは知らない。
 わざわざ連絡を取ろうという気にも、ちょっとならない。
 
 
 ◇

 
「ジャミル君。ちょっといいか?」
「えっ ああ……」
 
 ボーッと掲示板を見ている間にグレンが貸し砦についてギルドの「賃貸担当」の人間に尋ねていたらしく、話を聞くことになった。
「賃貸担当」って。そんな部署あんのかよ、ギルド奥が深ぇな。
 で、砦の賃貸相談の部屋へ通された。そんな部屋あんのかよ、ギルド奥が深ぇな。
 
 ――話によれば、砦を借りるには条件があるらしい。
 一つ冒険者ギルドに登録済みであること、二つ定期的に冒険に出ているパーティであること、三つ冒険に出た記録はギルドに上げること。
 
「ただ借りてるだけじゃダメってことか……教会行きてえだけなのに。ちなみに家賃? っつーか、レンタル料は」
「月70万」
「ななっ……!? たっか!! オレの給料の3ヶ月分でも足りねーぞ!」
 ちなみに酒場の厨房でのオレの月給は22万だ。
「まあ、それは大丈夫だけど。俺金持ってるし」
「か、金持ってるっつってもよ……」
「あー、ちなみに半年契約ですとー、350万になりますよぉ」

 オトクでしょう? とばかりにギルドの担当者がニコニコと言う。語尾がいちいち伸びる。つか、高ぇわ。

「一ヶ月まるまるタダってことか? お得だな」
「お得か!? 350だぞ!? しかも半年って」
「半年で呪いが解ける保証がないだろう」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
 
 そう聞くとげんなりする。
 半年……いやひょっとしたらそれ以上の期間、こいつらと行動を共にしないといけない。
 しかも砦を借りたら最後、砦を借り続けるためになんか冒険まで出かけないといけない。
 オレは絶対に嫌だ。それなのになぜかグレンは乗り気だ。
 
「……アンタ、なんか乗り気じゃね? なんでなんだよ」
「乗り気というわけじゃない。厄介払いできるなら月70万払っても痛くないというだけだぞ」
「……」

『厄介』ってのはルカのことだろう。今もグレンの横にイスをピッタリくっつけて座っていた。
 そんな言われようだとさすがに気の毒になるが、じゃあオマエの家に泊めてやれよと言われたらそれは困るので黙っていた。
 
「ここの砦なんてどうですー? 森に囲まれて、野鳥の声なんかも聞こえて静かでのどかですよぉ」

 グレンの反応を見てか、ギルドの人間がグイグイきはじめる。

「森に囲まれた静かでのどかな砦……それは砦なんですか?」

 グレンは『砦』にくっついている牧歌的な言葉にあごに手をやりながら首をかしげる。
 確かに、それだけ聞くとロッジとかコテージっぽいな……。ってか、なんでそんなステキなところで野鳥の声聴きながらわけわからん連中と一緒にいなきゃなんねえんだ。
(クソッ、なんでオレはあんな剣を拾っちまったんだ!)
 
「まあでも、訓練場や瞑想室に、飛行動物の発着場もありますし、必要な施設は一通りありますよ。それにー、厨房が立派なんですよぉ」
「……厨房」
「はいー。最近厨房の設備をリフォームしまして、最新の設備が入っておりますー」
「最新の設備……」
「はいー。前使ってらした方が壊してしまいましてー。オーブンなんかがですねぇ、いいやつになりまして。今でしたら風と氷と水の魔石それぞれ3セットついてきますよぉ」

『厨房』関係の単語に反応したオレを見て、ギルドの人間は今度はオレにロックオンしてきた。

「いやいや……、まだそこにするって決めたわけじゃ。そもそも借りることだって決めてない――」
「いや、そこに決めよう」
「……は!?」
「ここからならギルドも近いし、アディントンの街とか王都へのアクセスもいいから出発しやすい。それに他の所は少し賃料が高いみたいだし――」

 そう言いながら、グレンは渡された砦の写真付き資料をペラペラめくって見比べている。

「マ、マジで言ってんのかよ!? 冗談じゃねぇ――」
「――すみません。ちょっとメンバーで話し合いしたいので、席を外してもらっても?」

 オレが大声を出し始めたからか、グレンがギルドの担当者に笑顔で促す。

「あ、あ、はいー!」

 担当者の女は少し顔を赤くしながら退室していった。 
 
「――だから、借りるためには冒険者登録してパーティ組んで冒険出なきゃなんだろ? アンタオレと冒険したいのか!? オレは嫌だからな!」
「安心してくれ、俺も嫌だ。……斬りかかられたくないし」
「く……っ」

 そう言われちゃ何も言い返せない。

「毎週末教会に行ったり呪いを解く情報集めをするんだから、よその街に行く機会もあると思う。ギルドでその街が目的地の軽い依頼を受けておいてこなしていけば、一応借りる面目は立つんじゃないかと思うが」
「そりゃあ、そうだけど……けど70万って」
「まあ金は心配いらない。……そういえばルカは金は持っているのか」
「カネ。ヒトはカネを作り出した。カネはヒトが作ったモノでも最下級のモノ。ヒトはカネで魂のやりとりをしている汚い存在」
「「…………」」
(クソ怖ぇ……!)
 
 言わんとすることは分かるけどめちゃめちゃ怖い。
 横を見ればグレンもかなり引きつった顔をしている。確かにこれが家に押しかけてきたらイヤだろうな……。
 
 
 話し合いの末、オレたちはその「森に囲まれた静かでのどかな砦」を借りることにした。
 ルカはここに仮住まい。金はグレンが出す。オレはルカのメシを作ることになった。
 
 昔、弟と幼なじみと3人でこっそり森で猫をかくまって餌をやったりしてたことを思い出した……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...