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5章 兄弟
21話 意外な事実
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「オレ、ここ辞めんだわ」
「えっ」
「えー!」
水曜日に呼ばれて砦の食堂に行ってみると、青天の霹靂。
ちなみにわたしの学校は夏休みに入っている。
「コックさんの仕事に戻るってこと?」
「そーいうこと」
確かに、ずっと仕事に戻りたそうだった。仕方ないのかなぁ。
「そっかぁ。せっかく使い魔とかいうの手に入れたのに、冒険しないのね」
ジャミルの傍らを飛んでるだけだった紫のモヤモヤは、ベルが以前言っていたようにジャミルの『使い魔』となったようで、ミランダ教会にて『契約の儀式』とやらを終え、小鳥の姿になって彼の肩に止まっている。名前を呼ぶといろんな事をしてくれるらしい。
「まあ冒険者っつーのも楽しくなかったわけじゃねーけど、呪いは解けたし酒場の厨房の仕事の方が合ってるから。だからこいつはなんか荷物運びとかに使うわ。てかそもそも視力ガタ落ちしたから戦えねーし」
――そう、彼の眼は結局赤眼になりかけの紫色のまま。
呪いは解けたけど、乗っ取られかかった後遺症なのか視力がかなり落ちてしまったらしい。
今彼は眼鏡をかけているけど、レンズから見える彼の輪郭はかなり内側に歪んでいて相当度が強い物であることが分かる。
闇の紋章の眷属。……今はかわいい小鳥になっているけれど、闇堕ちは怖いものなんだと思い知らされる……。
「じゃあ、ジャミルは文化系に鞍替えなんだね」
「ん? 鞍替えも何も、オレは最初から文化系だからな」
「そうなの??」
「剣術や運動もさほど不得意じゃねーってだけで、オレ学校の成績とか割と良かったんだぜ? ……んで、2人にはオレの仕事を引き継いでもらいてーんだわ。ほいこれ」
そう言いながらジャミルは書類をわたしとベルに配る。
5枚位の紙が綺麗に綴じてあって、表紙に「業務引き継ぎマニュアル」とある。
ジャミルが自分の分の書類を持って話しだした。
「えーっと。2人にやってもらいてー事ってのは、まあ今やってる料理の作り置きだろ、食材の在庫の管理・発注だろ。そんで魔石がなくなりかかった時にこれを発注すんのと――まあこれは直々に買いに行ってもいいけど。そんで廃材の処理。バカみてーに出た生ゴミが土の魔石で土に還元されたら売りに行くんだ。業者に連絡して取りに来てもらってもいいぞ。あと経費の精算、給料の計算、そんでもって――」
「ま、ま、待って!」
「ん?」
「情報量が多すぎる!」
ペラペラとたくさんの業務の話をされて、ついていけないわたしとベル。
「――あ? そうか?」
「ていうかジャミル……それ一人でやってたの?」
「ああ」
「ジャガイモとかニンジンとか、材料大量に皮剥いたり切ったりして、それでいてクオリティの高い料理を提供してくれてて……たまに冒険も出つつ?」
――グレンさんが最初に『不定期に来て料理を作ってくれてるんだけど、一人じゃしんどいって言うから』とか言ってたけど、それだけ仕事やってて更に実は呪いの剣を持ってますって一人でしんどいってレベルじゃないような……。
「まあ、金土日来たときとかにまとめてやってたし。大したことじゃねーぞ」
「金土日だけで!? 大したことすぎるよそれ!」
「ウソぉ……、あたしこんな量こなせないわよぉ……」
「ほんとほんと……。ん?? 給料の計算もジャミルがやってたの?」
「ああ」
「えーっ、じゃあなんでわたし初任給もらった時覗き込んできたのよぉ。知ってたんじゃない」
「実際20万入れたのはグレンだからな。ホントに入れるとは」
「何よそれー……。っていうか、ホントにこれわたし達でやるの? こんなに覚えきれるかなぁ……」
「イケるイケる」
「い、いけませんから……ところでこれ、ジャミルが書いたの?」
「おお」
「ふぇー、すごいわねキミ……」
「うん……」
手元の「業務引き継ぎマニュアル」には業務の内容が要点をかいつまんで、綺麗な字で丁寧にまとめてある。勉強の出来る人のノートという感じだ。
びっしりと書かれているように見えるのは、業務量が多いから……。
(ジャミル、ほんとに勉強できるんだ……)
昔彼が近所に住んでいた時、学校は同じだったけど2学年上だから知らなかった。
――隊長はグレンだけどリーダーはオレなんだよ。
いつかそう言ってたけど、それは正しかったかもしれない……。
「ジャミル~、ほんとに辞めちゃうの? 辞めないでよ~、わたしこんなできない~!」
「あたしラーメンとお菓子しか作れないのにぃ」
「泣き言言うな。できねーと思うからできねーんだ。……オレを見ろ。呪いの剣を拾った上に『この世ならざる者』とやらになりかかったけど、視力が落ちたくらいで今こうやって呪いの大元を手下にしてんだぞ? やってできねえことはねぇんだよ」
「そっ……」
「それを言われると――……うぐう」
説得力の塊。ぐうの音も出ない。
わたしとベルは半べそになりながら卒業予定のリーダーの教えを受けるしかなかった……。
「えっ」
「えー!」
水曜日に呼ばれて砦の食堂に行ってみると、青天の霹靂。
ちなみにわたしの学校は夏休みに入っている。
「コックさんの仕事に戻るってこと?」
「そーいうこと」
確かに、ずっと仕事に戻りたそうだった。仕方ないのかなぁ。
「そっかぁ。せっかく使い魔とかいうの手に入れたのに、冒険しないのね」
ジャミルの傍らを飛んでるだけだった紫のモヤモヤは、ベルが以前言っていたようにジャミルの『使い魔』となったようで、ミランダ教会にて『契約の儀式』とやらを終え、小鳥の姿になって彼の肩に止まっている。名前を呼ぶといろんな事をしてくれるらしい。
「まあ冒険者っつーのも楽しくなかったわけじゃねーけど、呪いは解けたし酒場の厨房の仕事の方が合ってるから。だからこいつはなんか荷物運びとかに使うわ。てかそもそも視力ガタ落ちしたから戦えねーし」
――そう、彼の眼は結局赤眼になりかけの紫色のまま。
呪いは解けたけど、乗っ取られかかった後遺症なのか視力がかなり落ちてしまったらしい。
今彼は眼鏡をかけているけど、レンズから見える彼の輪郭はかなり内側に歪んでいて相当度が強い物であることが分かる。
闇の紋章の眷属。……今はかわいい小鳥になっているけれど、闇堕ちは怖いものなんだと思い知らされる……。
「じゃあ、ジャミルは文化系に鞍替えなんだね」
「ん? 鞍替えも何も、オレは最初から文化系だからな」
「そうなの??」
「剣術や運動もさほど不得意じゃねーってだけで、オレ学校の成績とか割と良かったんだぜ? ……んで、2人にはオレの仕事を引き継いでもらいてーんだわ。ほいこれ」
そう言いながらジャミルは書類をわたしとベルに配る。
5枚位の紙が綺麗に綴じてあって、表紙に「業務引き継ぎマニュアル」とある。
ジャミルが自分の分の書類を持って話しだした。
「えーっと。2人にやってもらいてー事ってのは、まあ今やってる料理の作り置きだろ、食材の在庫の管理・発注だろ。そんで魔石がなくなりかかった時にこれを発注すんのと――まあこれは直々に買いに行ってもいいけど。そんで廃材の処理。バカみてーに出た生ゴミが土の魔石で土に還元されたら売りに行くんだ。業者に連絡して取りに来てもらってもいいぞ。あと経費の精算、給料の計算、そんでもって――」
「ま、ま、待って!」
「ん?」
「情報量が多すぎる!」
ペラペラとたくさんの業務の話をされて、ついていけないわたしとベル。
「――あ? そうか?」
「ていうかジャミル……それ一人でやってたの?」
「ああ」
「ジャガイモとかニンジンとか、材料大量に皮剥いたり切ったりして、それでいてクオリティの高い料理を提供してくれてて……たまに冒険も出つつ?」
――グレンさんが最初に『不定期に来て料理を作ってくれてるんだけど、一人じゃしんどいって言うから』とか言ってたけど、それだけ仕事やってて更に実は呪いの剣を持ってますって一人でしんどいってレベルじゃないような……。
「まあ、金土日来たときとかにまとめてやってたし。大したことじゃねーぞ」
「金土日だけで!? 大したことすぎるよそれ!」
「ウソぉ……、あたしこんな量こなせないわよぉ……」
「ほんとほんと……。ん?? 給料の計算もジャミルがやってたの?」
「ああ」
「えーっ、じゃあなんでわたし初任給もらった時覗き込んできたのよぉ。知ってたんじゃない」
「実際20万入れたのはグレンだからな。ホントに入れるとは」
「何よそれー……。っていうか、ホントにこれわたし達でやるの? こんなに覚えきれるかなぁ……」
「イケるイケる」
「い、いけませんから……ところでこれ、ジャミルが書いたの?」
「おお」
「ふぇー、すごいわねキミ……」
「うん……」
手元の「業務引き継ぎマニュアル」には業務の内容が要点をかいつまんで、綺麗な字で丁寧にまとめてある。勉強の出来る人のノートという感じだ。
びっしりと書かれているように見えるのは、業務量が多いから……。
(ジャミル、ほんとに勉強できるんだ……)
昔彼が近所に住んでいた時、学校は同じだったけど2学年上だから知らなかった。
――隊長はグレンだけどリーダーはオレなんだよ。
いつかそう言ってたけど、それは正しかったかもしれない……。
「ジャミル~、ほんとに辞めちゃうの? 辞めないでよ~、わたしこんなできない~!」
「あたしラーメンとお菓子しか作れないのにぃ」
「泣き言言うな。できねーと思うからできねーんだ。……オレを見ろ。呪いの剣を拾った上に『この世ならざる者』とやらになりかかったけど、視力が落ちたくらいで今こうやって呪いの大元を手下にしてんだぞ? やってできねえことはねぇんだよ」
「そっ……」
「それを言われると――……うぐう」
説得力の塊。ぐうの音も出ない。
わたしとベルは半べそになりながら卒業予定のリーダーの教えを受けるしかなかった……。
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