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4章 少年と竜騎士
4話 面影
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――泥棒騒ぎの翌日。
「レイチェル姉ちゃん、これは、どこに置けばいいかな?」
「あ、それはパントリーの中段に置いといてくれる?」
「わかった!」
昨日入ったばかりなのに、朝早くからテキパキと動くフランツ。
実はわたしよりも早起きして手伝ってくれていた。立つ瀬ないなぁ……。
「ベル姉ちゃん、パンケーキミックス持ってきたよ!」
「ありがとー!」
「ウーーッス……。ん? なんだオマエ、早いな」
「なんでもするって言ったから、ちゃんとやるよ」
「ふーん。貴族だろ? オマエ。手伝いとかできんのな」
「父上がね、貴族だからって召使いまかせで自分のこと何もできないんじゃダメだって、料理とか掃除とか、色んなことを教わったんだ。身の回りのことならちゃんとできるよ」
「あら、素敵なお父様。うちのボンクラオヤジとはエライ違いよ」
「『ボンクラオヤジ』ってベル……」
「あれ!? ねえ、あれって飛竜!?」
「えっ」
フランツが食堂の窓の所から外を眺めてはしゃぐ。目線の先――砦の屋上に、飛竜が下りてくるのが見えた。
「ホントだ……人が乗ってるわね。ねえ、あれって隊長さんの友達の竜騎士の人よね? 確かクライブさんっていう」
「うん……たぶん」
いつもは徒歩で来るけど、飛竜で来るのは初めてかな?
ていうか、一昨日来たし、今日は来る日じゃ――「すげーーーーっ!!」
「えっ」
「すげーーーー! 飛竜だ! 竜騎士だ! おれ、見せてもらおー!」
「あっ、フランツ!」
大興奮のフランツが、食堂の扉を開け駆け出す。
(どうしよう? 何か仕事の途中だったら迷惑になっちゃうかな?)
わたしは一拍遅れてフランツを追いかけた。
意外と走るのが早いフランツに追いついたら、ちょうど階段を下りてきたクライブさんに話しかけているところだった。
「こんにちは! 竜騎士の人ですかっ!?」
やっぱりキラキラの目でクライブさんを見つめるフランツ。
「え……ああ、こんにちは。君は……?」
「あ、すみません。おれ、フランツ・シュタインドルフっていいます! あの、飛竜を見せてもらっていいですか!?」
「ああ、いいけど。……少し用事があるから、待っててくれるかな」
「はい!!」
「うん」
クライブさんがフランツに優しく微笑む。
(かっこいいな……)
「あ、君。グレン、いるかな?」
「あ、はい……たぶん。少し、お待ち下さい……」
と言いかけたところで、近くにある隊長室の扉が開いた。
「あ、グレンさん。おはようございます」
「ああ、おはよう。……あれ? ……先輩」
(『先輩』……?)
「やあ」
「ああ……、今日は?」
「渡しそびれたものがあって」
「ふーん。まあ、こっちへ」
と言ってグレンさんは隊長室へクライブさんを促す。
「何か、飲み物お出ししましょうか?」
「いや、いい」
「ありがとう。悪いね」
クライブさんはにこっとさわやかに笑って隊長室に入る。そしてバタンと扉が閉まった。
その後、用事が済んだクライブさんに飛竜を見せてもらったフランツが、飛竜の翼がどれくらい開いたか、ウロコや皮膚はどんな感触だったかなどをわたし達に大興奮で教えてくれた。
無邪気な彼の話に相槌を打つ一方、わたしはなんともいえない気分になってしまった。
話を聞いている途中にちらっとジャミルを見ると、複雑な表情――きっと、わたしと同じ事を考えていたんだろう……。
――すげーーーー! 飛竜だ! 竜騎士だ! おれ、見せてもらおー!
『兄ちゃん、レイチェル、見ろよ! 飛竜だ、飛竜がいる! ……すげーなー! 見せてもらおうぜ!』
小さい頃、みんなで竜騎士団領に行ったあの日、飛竜を見つけたカイルが同じようにはしゃいだ――。
(ダメだ……泣いちゃいそう……)
フランツ……あの子、カイルに似ている……。
「レイチェル姉ちゃん、これは、どこに置けばいいかな?」
「あ、それはパントリーの中段に置いといてくれる?」
「わかった!」
昨日入ったばかりなのに、朝早くからテキパキと動くフランツ。
実はわたしよりも早起きして手伝ってくれていた。立つ瀬ないなぁ……。
「ベル姉ちゃん、パンケーキミックス持ってきたよ!」
「ありがとー!」
「ウーーッス……。ん? なんだオマエ、早いな」
「なんでもするって言ったから、ちゃんとやるよ」
「ふーん。貴族だろ? オマエ。手伝いとかできんのな」
「父上がね、貴族だからって召使いまかせで自分のこと何もできないんじゃダメだって、料理とか掃除とか、色んなことを教わったんだ。身の回りのことならちゃんとできるよ」
「あら、素敵なお父様。うちのボンクラオヤジとはエライ違いよ」
「『ボンクラオヤジ』ってベル……」
「あれ!? ねえ、あれって飛竜!?」
「えっ」
フランツが食堂の窓の所から外を眺めてはしゃぐ。目線の先――砦の屋上に、飛竜が下りてくるのが見えた。
「ホントだ……人が乗ってるわね。ねえ、あれって隊長さんの友達の竜騎士の人よね? 確かクライブさんっていう」
「うん……たぶん」
いつもは徒歩で来るけど、飛竜で来るのは初めてかな?
ていうか、一昨日来たし、今日は来る日じゃ――「すげーーーーっ!!」
「えっ」
「すげーーーー! 飛竜だ! 竜騎士だ! おれ、見せてもらおー!」
「あっ、フランツ!」
大興奮のフランツが、食堂の扉を開け駆け出す。
(どうしよう? 何か仕事の途中だったら迷惑になっちゃうかな?)
わたしは一拍遅れてフランツを追いかけた。
意外と走るのが早いフランツに追いついたら、ちょうど階段を下りてきたクライブさんに話しかけているところだった。
「こんにちは! 竜騎士の人ですかっ!?」
やっぱりキラキラの目でクライブさんを見つめるフランツ。
「え……ああ、こんにちは。君は……?」
「あ、すみません。おれ、フランツ・シュタインドルフっていいます! あの、飛竜を見せてもらっていいですか!?」
「ああ、いいけど。……少し用事があるから、待っててくれるかな」
「はい!!」
「うん」
クライブさんがフランツに優しく微笑む。
(かっこいいな……)
「あ、君。グレン、いるかな?」
「あ、はい……たぶん。少し、お待ち下さい……」
と言いかけたところで、近くにある隊長室の扉が開いた。
「あ、グレンさん。おはようございます」
「ああ、おはよう。……あれ? ……先輩」
(『先輩』……?)
「やあ」
「ああ……、今日は?」
「渡しそびれたものがあって」
「ふーん。まあ、こっちへ」
と言ってグレンさんは隊長室へクライブさんを促す。
「何か、飲み物お出ししましょうか?」
「いや、いい」
「ありがとう。悪いね」
クライブさんはにこっとさわやかに笑って隊長室に入る。そしてバタンと扉が閉まった。
その後、用事が済んだクライブさんに飛竜を見せてもらったフランツが、飛竜の翼がどれくらい開いたか、ウロコや皮膚はどんな感触だったかなどをわたし達に大興奮で教えてくれた。
無邪気な彼の話に相槌を打つ一方、わたしはなんともいえない気分になってしまった。
話を聞いている途中にちらっとジャミルを見ると、複雑な表情――きっと、わたしと同じ事を考えていたんだろう……。
――すげーーーー! 飛竜だ! 竜騎士だ! おれ、見せてもらおー!
『兄ちゃん、レイチェル、見ろよ! 飛竜だ、飛竜がいる! ……すげーなー! 見せてもらおうぜ!』
小さい頃、みんなで竜騎士団領に行ったあの日、飛竜を見つけたカイルが同じようにはしゃいだ――。
(ダメだ……泣いちゃいそう……)
フランツ……あの子、カイルに似ている……。
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