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2章 気まずい幼なじみ

1話 世界の成り立ちと魔法

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 人はかつて、神の作った楽園で暮らしていました
 ある日神は人に、永遠の豊穣をもたらす黄金の種を8粒与え、どこかに植えるよう命じました

 しかし、人は「どこに誰が植えるか」で争いを始めてしまいます
 その間に、1粒の黄金の種が枯れて黒くなってしまいました
 神は怒り、人を何もない世界に閉じ込めます
 
 そこは暗くて寒い世界です
 人は絶望し、凍え、次々に死んでしまいます
 それを見ていたある女神が哀れに思い、ふたつの種をその世界に落としました
 
 ひとつが『天』となり、ひとつが『地』となりました
 続いて女神は、種を3粒落としました

『光』が人を、世界を照らします
 空から降る『水』が恵みを与えます
『水』が大地を濡らし、実りをもたらす『土』が生まれました
 女神がもうひとつの種を天と地の間にそっと吹きかけると『風』が生まれました
 こうして新しい世界が出来上がったのです
 
 しかし女神は最後に、人が枯らしてしまった黒い種も世界に落とします
 黒い種は弾け飛んで『闇』となりました
 『闇』は『光』を奪います
 空を、世界を黒く染め上げ、何も見えなくしてしまうのです

 『闇』に恐怖する人のため、女神は最後の一粒をひとりの女に託しました
 これが『火』です
『火』が闇に光を灯し、希望をもたらします
 
 しかし、人は弾け飛んだ黒い種を吸い込んでしまったので、心の中に『闇』を宿すことになってしまいました
 心の中の闇は、外からの光では治すことができません
 女神は火を託した女に言いました

「お前達の中に宿ったその黒い種は、お前達の罪の証。放っておくと、心は闇に覆われましょう。けれど希望を捨ててはなりません。……火を灯しなさい。心に光を持つのです」

 そう言い残し、女神はその世界を去りました
 女神は人間が自分を守れるようにと6つの力を行使できるようにしました
 これが魔法のはじまりです
 
 そして、最初にこの『火』を託された女性こそが、聖女ミランダ様なのです

 
 ◇

 
「……これがミランダ様と、この世界と魔法誕生の神話です。火水土風、光と闇、そして天と地。このうち私達に使うのが許されてるのが火水土風光――あとちょっと闇ね。天と地は神の力だから使っちゃだめ。これは雷とか地震とか、天変地異を司るものなの」
 
 ――お昼前、魔法学の授業。
 わたし達は魔法が使えないけど、魔法の成り立ちや歴史について知りたい人のために、選択授業としてこの教科が存在する。
 聖女ミランダ様の弟子のヒルデガルトという人がこの学校をひらいたとかで、この学校の支持母体もミランダ教。
 だから魔法の成り立ちもミランダ教が元になっている。
 
(やっぱりルカの言ってた神様とはだいぶ違うなぁ……)

「せんせー、『ちょっと闇』ってどういうのですかー?」

 近くに座っている生徒が手を挙げて質問する。

「闇というか『影』ね。光と影の魔石を使って書類を複製したりするのよ。あとは写真ね。影の魔石に光の魔石をこう……ピカッ! とやったらピャッ! となってできあがるわけ」

(ピカッ、ピャッ……)
 
「全然わかんねー!」

 生徒たちがどっと笑う。
 魔法学のジョアンナ先生は、授業は分かりやすくておもしろいんだけど、擬音が多めでちょっと感覚的だ。

「い~のよ、原理なんて知らなくても『ある』ってこと知ってれば! あとは、そうねぇ……こうやって……」

 先生が杖を掲げると先生の影が「みょーん」と伸びて居眠りしている生徒のところへ。そして……。
 先生の「ていっ!」という掛け声とともに影がその生徒をペチンと叩いた。

「あいたっ!」

 生徒が声を上げると、影はすごい早さで先生の元へ戻った。

「……と、このように使えるのよ」
「え? え……?」

 叩かれた生徒は不思議そうに辺りを見回している。
 そこでちょうど、終礼の鐘が鳴った。

「……ま、闇っていうのは使いすぎると呑まれるとか言われてるから、深追いしないようにね~」


 ◇


「ピカッとやって、ピャッ! ……みょーん……」
「レイチェル~ お昼食べよー!」
「あっ メイちゃん」

 別の授業を選択していたメイちゃんと合流する。
 
「ほーん、じゃあ、まあまあうまくいってんだー」
「うん」

 メイちゃんとお昼を食べながら、ルカとのやりとりを話す。

「その子のことはいいとして。たいちょーの方とはもうな~んもないわけ? 『やっぱりカッコいいのね! 胸キュン!』なエピソードとか!」
「ないねぇ……残念ながら」
「えー。……じゃあ、じゃあ! 幼なじみ君はどうなの!? あたしは知らない人だけど!」
「ジャミルのこと? う――ん、それは余計ない……なぁ。ほとんど話さないよ」
「えー、そうなん? 仲良かったんでしょ?」
「子供のときはね。でも今は……」
 

『おはよう』
『おう』
『何しようか?』
『野菜切っといてくれ。あと、パンケーキ100枚焼いてくれ』
『はーい』

 ……こんな感じで彼との会話は必要最低限――業務上の会話のみ。
 世間話に花を咲かせるという雰囲気ではないのだ。
 

「……というわけで、むしろ隊長ともう一人の女の子の方がまだ会話できるくらいなんだよね」
「へー? そうなん? フラグバッキバキってこと?」
「フラグとは……。うーん、ちょっと、何話していいか分からないんだよね……」

 ――決して嫌い合っているわけじゃない。
 ただなんとなく話す言葉を見つけられないまま、1ヶ月経過してしまっている。
 このままじゃよくないって、分かっているんだけど……。
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