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三章 個人探求者
第18話 打ち破る言葉
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左膝をついた体勢で防御結界を張る聖名夜ちゃん。
伶羅ちゃんたちは、その結界に触れるたびに何かしらの漢字を表して消えていく。
たとえば『風』だったら風が吹いて、『眠』だったら弾けるみたいなかんじで。
聖名夜ちゃんは列の端っこにいるから一人分の行進なんだけど、右から左から来るから動けないことに変わりない。
「……」
その間、聖名夜ちゃんは思考をめぐらす。
まずは冷静に。
落ち着いて考えよう。
はじめに伶羅ちゃんは、床へ沈むようにして消えたり、目の前に現れたりしてたわね。
そして分身を使ったり、認知の魔法も使う。
だから行進する集団は、おそらく伶羅ちゃんの分身で、数が多いから一人一人が簡単なものになっていると思う。
その一人一人が一文字であるけど、たくさんの漢字を内包し、音楽を奏でるようにして行進してくる。
いまはその中にいる状態。
──でも、いろいろと疑問点、おかしな点がある。
一つは室内が真っ白になっていること。
行進の中に聖名夜ちゃんを入れさせたいなら、何も室内を変えることはない。
狭い室内と感じさせた方がプレッシャーにもなるはず。
それに、人数と、漢字。
千二百人規模を動かし、漢字の意味を割り当てる、魔力の使い方。
あきらかに非効率的。
整列して行進させるなら、三百人でも効果は期待できるんじゃないかな。
実際、機能しているのは左右を行く行進分だけだし。
となれば考えられるのは、幻術ね。
空間を拡張したように見せかけ、大行進がやってくるように思わせる。
聖名夜ちゃんは最初からそれを疑って、氷結の魔法を放って確かめたんだろうけど、それは本物だった。
それは?
まって、もし聖名夜ちゃんが確かめるのを想定して、その分だけ本当の分身だったら、できないことはない。
門を通ってくるのは幻術の伶羅ちゃんだけなんだけど、反応するものがあれば全部が実体のある分身だと思うよね。
あー!
凍結させた伶羅ちゃんを、後続の伶羅ちゃんが通り抜けてた。
そうそう。
その時、漢字は発動していない。
間違いないわね。
そして、聖名夜ちゃんに近づいたものだけに漢字の意味を効かせるようにすれば、規模を大きくみせつつ魔力の消費を抑えられる。
うん。
たぶん仕組みとしてはそうだと思う。
問題はそれから、どう打ち破るかだ。
たとえば──。
伶羅ちゃんは空間魔法で隠れているからそれを暴く。
いったん、この空間を打ち破る。
このまま耐えて持久戦にもつれ込む。
うーん。
魔力を出して結界を張っているんだから、そこからさらに魔法を使うと聖名夜ちゃんは相当な負担になる。
持久戦だってそう。
それにやったからといって、それが勝つことに繋がるとは限らない。
……。
……。
そもそもなんで漢字?
表意文字だから?
色をつけてはいたけど、英語で『fire』とかだったら四文字読まなきゃならないから、より混乱させられる気がする。
それに漢字といえば伶羅ちゃん、自分は名前に伶の字がつくから音楽に関する能力を持ってるって言ってたのよね。
クラスメイトの伶子ちゃんは、俳優の意味があるから芸能人になるって言ってた。
聖名夜ちゃんと会った時、勝ったわね、なんて言うくらい美には自信のある子なんだけど。
もし……、伶羅ちゃんも伶子ちゃんと同じ意味を持っているとしたらどうだろう。
音楽……、演奏……、俳優……、演技……。
エンターテイナー?
お楽しみください、とか言うセリフからもそれが想像できる。
だとしたら、これら全てがエンターテイメントのかたちをした魔法なのかもしれない。
ステージで幕が上がって始まり、幕が下がって終わるみたいな。
じゃあ、行進が終わるまで待つ?
いや、いや、いや。
これで終わりか分からないし、防御を続けていては聖名夜ちゃんがもたない。
伶羅ちゃんがエンターテイナーで、その矜持を持っていて、これがパフォーマンスだとしたら、今すぐ止めさせる方法があるけど……。
「……」
聖名夜ちゃん、何か打開策を思いついたみたい。
結界を張ったまま、その口はゆっくりと開いた。
「Reira !」
え、英語?
しかも大声で言ってる。
「performance evaluation──」
……。
「Bad !!」
聖名夜ちゃんが叫ぶと、伶羅ちゃんたちの動きが一斉に止まった。
まるで、時間が止まったみたいに。
演奏も止まり、しーんと静まり返る。
……。
と、伶羅ちゃんたち全員、スーッとその場から消えた。
千二百人はあったものが消えたから、がらんとして聖名夜ちゃん一人が取り残されたみたい。
そして、真っ白な室内の空間にひびが入っていき、パーンと弾けて、元の姿を現した。
同時に伶羅ちゃんも。
「ああ……」
なんか頭を押さえながら、よろよろとしてる。
「まさか、私の全身全霊をかけた演舞がお気に召さなかったとは……」
……。
えーと。
英語だったから分からないけど、聖名夜ちゃん、伶羅ちゃんの行進とかに対して、ダメ、悪いって言ったのかな。
それでショックを受けた伶羅ちゃんは、全部の魔法を解いて現れたみたい。
少しオーバーなリアクションに見えるけど。
それに、これって私が考えたものと一緒。
ちょっと嬉しい。
「聖名夜様を満足させるものをお見せできず、申し訳ありません」
すると伶羅ちゃんは深く頭を下げて言った。
「聖名夜様、貴女の勝ちでございます」
……。
……。
なんかあまり実感がないけど、勝ったみたい。
伶羅ちゃんたちは、その結界に触れるたびに何かしらの漢字を表して消えていく。
たとえば『風』だったら風が吹いて、『眠』だったら弾けるみたいなかんじで。
聖名夜ちゃんは列の端っこにいるから一人分の行進なんだけど、右から左から来るから動けないことに変わりない。
「……」
その間、聖名夜ちゃんは思考をめぐらす。
まずは冷静に。
落ち着いて考えよう。
はじめに伶羅ちゃんは、床へ沈むようにして消えたり、目の前に現れたりしてたわね。
そして分身を使ったり、認知の魔法も使う。
だから行進する集団は、おそらく伶羅ちゃんの分身で、数が多いから一人一人が簡単なものになっていると思う。
その一人一人が一文字であるけど、たくさんの漢字を内包し、音楽を奏でるようにして行進してくる。
いまはその中にいる状態。
──でも、いろいろと疑問点、おかしな点がある。
一つは室内が真っ白になっていること。
行進の中に聖名夜ちゃんを入れさせたいなら、何も室内を変えることはない。
狭い室内と感じさせた方がプレッシャーにもなるはず。
それに、人数と、漢字。
千二百人規模を動かし、漢字の意味を割り当てる、魔力の使い方。
あきらかに非効率的。
整列して行進させるなら、三百人でも効果は期待できるんじゃないかな。
実際、機能しているのは左右を行く行進分だけだし。
となれば考えられるのは、幻術ね。
空間を拡張したように見せかけ、大行進がやってくるように思わせる。
聖名夜ちゃんは最初からそれを疑って、氷結の魔法を放って確かめたんだろうけど、それは本物だった。
それは?
まって、もし聖名夜ちゃんが確かめるのを想定して、その分だけ本当の分身だったら、できないことはない。
門を通ってくるのは幻術の伶羅ちゃんだけなんだけど、反応するものがあれば全部が実体のある分身だと思うよね。
あー!
凍結させた伶羅ちゃんを、後続の伶羅ちゃんが通り抜けてた。
そうそう。
その時、漢字は発動していない。
間違いないわね。
そして、聖名夜ちゃんに近づいたものだけに漢字の意味を効かせるようにすれば、規模を大きくみせつつ魔力の消費を抑えられる。
うん。
たぶん仕組みとしてはそうだと思う。
問題はそれから、どう打ち破るかだ。
たとえば──。
伶羅ちゃんは空間魔法で隠れているからそれを暴く。
いったん、この空間を打ち破る。
このまま耐えて持久戦にもつれ込む。
うーん。
魔力を出して結界を張っているんだから、そこからさらに魔法を使うと聖名夜ちゃんは相当な負担になる。
持久戦だってそう。
それにやったからといって、それが勝つことに繋がるとは限らない。
……。
……。
そもそもなんで漢字?
表意文字だから?
色をつけてはいたけど、英語で『fire』とかだったら四文字読まなきゃならないから、より混乱させられる気がする。
それに漢字といえば伶羅ちゃん、自分は名前に伶の字がつくから音楽に関する能力を持ってるって言ってたのよね。
クラスメイトの伶子ちゃんは、俳優の意味があるから芸能人になるって言ってた。
聖名夜ちゃんと会った時、勝ったわね、なんて言うくらい美には自信のある子なんだけど。
もし……、伶羅ちゃんも伶子ちゃんと同じ意味を持っているとしたらどうだろう。
音楽……、演奏……、俳優……、演技……。
エンターテイナー?
お楽しみください、とか言うセリフからもそれが想像できる。
だとしたら、これら全てがエンターテイメントのかたちをした魔法なのかもしれない。
ステージで幕が上がって始まり、幕が下がって終わるみたいな。
じゃあ、行進が終わるまで待つ?
いや、いや、いや。
これで終わりか分からないし、防御を続けていては聖名夜ちゃんがもたない。
伶羅ちゃんがエンターテイナーで、その矜持を持っていて、これがパフォーマンスだとしたら、今すぐ止めさせる方法があるけど……。
「……」
聖名夜ちゃん、何か打開策を思いついたみたい。
結界を張ったまま、その口はゆっくりと開いた。
「Reira !」
え、英語?
しかも大声で言ってる。
「performance evaluation──」
……。
「Bad !!」
聖名夜ちゃんが叫ぶと、伶羅ちゃんたちの動きが一斉に止まった。
まるで、時間が止まったみたいに。
演奏も止まり、しーんと静まり返る。
……。
と、伶羅ちゃんたち全員、スーッとその場から消えた。
千二百人はあったものが消えたから、がらんとして聖名夜ちゃん一人が取り残されたみたい。
そして、真っ白な室内の空間にひびが入っていき、パーンと弾けて、元の姿を現した。
同時に伶羅ちゃんも。
「ああ……」
なんか頭を押さえながら、よろよろとしてる。
「まさか、私の全身全霊をかけた演舞がお気に召さなかったとは……」
……。
えーと。
英語だったから分からないけど、聖名夜ちゃん、伶羅ちゃんの行進とかに対して、ダメ、悪いって言ったのかな。
それでショックを受けた伶羅ちゃんは、全部の魔法を解いて現れたみたい。
少しオーバーなリアクションに見えるけど。
それに、これって私が考えたものと一緒。
ちょっと嬉しい。
「聖名夜様を満足させるものをお見せできず、申し訳ありません」
すると伶羅ちゃんは深く頭を下げて言った。
「聖名夜様、貴女の勝ちでございます」
……。
……。
なんかあまり実感がないけど、勝ったみたい。
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