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第5話 戦夜・末ノ時

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「私たちの武器は銃だけじゃないのよね、イブ」
「そうなのよね、ヤエ」

 イブは片翼の女像を、ヤエは両翼を失った女像に目を向けながら背中合わせに言った。

 それぞれ黒塗りの鞘に納められた刀を左手に持ち、いつでも抜刀できるようにしている。

 硬い岩をも断ち、実体のない魔物も斬り捨てる、斬岩斬魔の刀剣。

 それで切断された腕部左右の翼は、切断面からけがれをはらう火花のような白色光を発しながら消滅した。

 本来であれば翼は再生できるはずだが、それはかなわなかった。

「いや! もういや!」

 そう叫びながら両翼を失った象牙色の女像は空中へ飛び上がり、淡灰色の女像も続いた。

 もとより魔力で飛行しているため、翼を失っても問題はない。

 だが、翼をもつものとしての誇りは大きく傷つけられた。

「徹底的に痛めつけてやらなきゃ気が済まない!」

 そう言うと、二体の女像は四階吹き抜けの館内を右方向に旋回しはじめた。

 身体を伸ばし、両足を揃えている様子から空中を飛ぶというよりは泳いでいるように思えた。

 イブとヤエはその場を動かず、目を鋭くしながら女像の出方をみる。

「さあ、火遊びの時間よ」
「存分に踊りなさい!」

 そう言うと女像たちは二メートル大の火球を放った。

 イブとヤエは跳んで避けると、火球は床に広がって炎を上げた。

「まだまだよ!」
「もっと熱くいくわ」

 次々と投下される大型の華炎かえんはエントランスの床で花開いていき、埋め尽くす勢いで少女たちの居場所を奪っていった。

「……」

 熱気によって蒸し暑くなり、大粒の汗をかく少女たち。

 回避運動と加算され、気力体力が削られていく。

 このままいけば逃げ場を失い、女像の炎にその身を焼かれることになる。

 ────すると、少女たちはビー玉のような物をはじいた。

 イブからはあおい光を、ヤエからはあかい光を発しながら、それは光跡こうせきを描いて飛んだ。

 そのまま蒼い光は淡灰色の女像へ、紅い光は象牙色の女像へと向かった。

「なに?」
「魔法?」

 旋回する二体の女像を追いかけ、接触しようと加速してくる。

 しかも光跡は少女の指先から増えていき、結果、じゅうの蒼と紅が女像に迫った。

「ちぃ!」
「やっかいね」

 攻撃を止め、急旋回、急上昇、急降下。

 空中でできるあらゆる回避行動をして逃れようとするが、光跡の先端、光球はしっかりついてくる。

 女像は交差すると、淡灰色の女像へを追いかけていた蒼い群れの半分、五つの光が反転し、象牙色の女像に向かった。

「!?────」

 不意に左右から挟まれ、躊躇ちゅうちょした瞬間、二色の光群は象牙色の女像に激突した。

「きゃああああああああああっ!」

 ドドドドドドドドドドーンと、小さな光球から想像もつかない圧力が象牙色の女像を下方へ押し、床に叩きつけた。

 一方、淡灰色の女像もパートナーの被弾に気を取られた隙に、蒼い光群と接触。

「あっ、あああああ……」

 同じように下方へ押され、イブの放った第二波の光群も受けて、床に伏せられた。

 女像は理解した。

 放たれた光球は、イブとヤエそれぞれの追いかけていたことに。

 そして気づいた。

 自分たちのいた炎が消され、ことに。

 床一面に咲き乱れているはずの華炎は、舞い散る桜の花びらへと変わり、全て消えていった。

「なによ、これ……」
「もしかして私たち。何か勘違いしていたんじゃ……」

 二体並ぶようにうつ伏せになり、顔を向けあいながら話す女像。

 そこへイブとヤエが現れた。

 女像は魔力をき乱され、動けないまま二人の少女を感じとった。

「なによ、なんなのよ」
「私たち、子供がほしいだけなのに……」

「終わりよ」
「覚悟なさい」

 すっと鞘から刀を抜く少女。

 二人はゆっくりと上段に構えた。

 勢いよく振り下ろし、女像の首を斬って仕留めることができる。

 ────それを阻止するように、館の奥の扉から風が吹いた。

 その風は花びらを運び、一枚ずつ女像のほおにのった。

「なるほど」
「わかりました」

 それを見て二人の少女は静かに構えを解いた。

「主が、あなたたちに慈悲をお与えになる」
「せめて来世は人の命を奪うことがないように」

 そう言うと、二人は刀のみねで打つように持ちかえ、イブは淡灰色の、ヤエは象牙色の、それぞれの女像にのった桜に切っ先を添えた。

 と同時に、女像の身体は緑色の光に包まれ、はらはらと桜の葉がこぼれていった。

「さようなら」
「よい来世を」

 イブとヤエが刀を戻し鞘に納めると、数百の葉になった女像の身体は、風が吹いたかのように空中へ舞い上がった。

 舞い上がった葉は、吹き抜けの三階ほどまで届くと、一枚一枚ゆっくりと消えていった。

「……」

 顔を上げ、見送るようにしてその場にたたずむイブとヤエ。

 最後の二枚が寄り添いながら消えていった。
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