嫌いなあいつの婚約者

みー

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11話

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「やっと1日終わったね」

「う、うん。そうだね」

 授業もホームルームも全て終え帰ろうとした時、聖くんに話しかけられる。

 屈託のない笑顔の裏に隠された事実を知ってしまった今、どう接すればいいのか分からない。

 聖くんの顔を見ようとするけど、目が泳いでしまう。

「あ、そうだ。この前街のカフェで美味しい苺のデザート見つけたんだけど、食べに行かない?」

「えっと…………」

 返事に迷っている時。

「桜」

「りょ、涼くん」

 久々に涼くんに名前を呼ばれた。

 涼くんが現れた時、小さく舌打ちのような音が聞こえたのは気のせい……?

 聖くんの顔を見るとやっぱり笑っていて、逆にそれが怖く感じる。

 でもよく見ると、目には表情がなくて口角だけが上がっていた。

「ちょっと、来てもらえる?」

「え、うん……」

「じゃ、じゃあまたね」

 聖くんは今までに見た事のない冷たい表情で涼くんを見つめていた。そうだよね、鈴華さんに頼まれているんだから。私と涼くんが近付かないようにって。

 涼くんは、何も言わないでひたすら廊下を歩く。

 後ろ姿を見ていると、記憶がないのにすごく懐かしい気持ちになる。 

 窓の外を見ると、見たことのない鳥が飛んでいて、とても気持ちよさそう。

「わっ」

 よそ見をしながら歩いていたから、涼くんが止まったとことに気が付かなくて大きな背中にぶつかってしまった。

「ごめんっ」

「あ、ううん。大丈夫。それより、何の用?」

「これ……」

「それは……?」

 渡された苺のネックレス。

「あれ……」

 頭がずきんずきんと痛くなって、立てなくなる。それと同時に、記憶が押し寄せてくる。

 ああ、そうだ、これは涼が私にくれたやつで、それを鈴華さんが涼に返しておくって……。

「桜っ、大丈夫?」

「涼……」

「もしかして、記憶」

「うん、戻った。涼のことも奏多さんのことも」

「……そっか。よかったね」

 記憶が戻って私は嬉しい。でも、涼はその反対の表情を見せる。 

 記憶が戻っても嬉しくないの?

 でも、1つだけ戻らない気持ちがあった。ううん、正確には戻らないじゃなくてそれを上回るものが出来てしまっただけ。

「涼っ。生徒会始まるわよ」

 タイミングがいいのか悪いのか姿を現す鈴華さん。今しかない。

「鈴華さん」

「なあに? ……記憶、戻ったみたいね」

「私…………涼が好き。だから、鈴華さんに涼は譲れない」

「は? 奏多さんが好きなんじゃないの?」

「確かに、好きだった。けど、涼への好きの方が大きくなったの」

「なにそれ。ふざけないでよ今更」

「あ、あの。2人とも」

 涼の声で我に返る。そうだ、私たちが言い争っていたって意味がない。だって、誰を選ぶのかは私たちじゃなくて涼が決めることなのだから。

「ごめん」

 涼は美鈴さんに向かって頭を下げた。

「僕は、やっぱり桜が好きなんだ。ずっと、桜だけが好きなんだ」


 
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