嫌いなあいつの婚約者

みー

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8話

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 誕生日パーティー当日、私は大好きな人たちに囲まれていた。

「おめでとう、桜」

「ありがとう」

「おめでとう桜さん」

「ありがとうございます」

 華やかなドレスに身を纏い大広間でおしとやかに振る舞う。流石にいつものように品のない姿ではいけないと、かなり気を遣っていた。

 結局涼からダンスのことは何も言われなくて、今は遠くの方にいる彼の姿が見える。

 で、どうしてなのかあの人もいて。私のパーティーに来てまで2人でいちゃいちゃと話しているなんて、ちょっと常識外れじゃない?

 私の視線が2人に届いたのか、2人は私の姿を捉えると近付いてきた。

「桜さん、お誕生日おめでとう」

 ドレスアップした彼女は、ムカつくほどその姿が似合っている。

「ありがとう」

「桜、おめでとう」

「……ありがとう」

 涼はいつもの表情でいつもの話し方をしている。何か、私に言いたいことはないの。

「今日は楽しんでいってね」

「ええ、ありがとう」

 彼女は涼の腕にしがみついて、まるで私と涼を引き剥がすように元の場所へと戻って行く。それに対して涼は抵抗することはない。

 あの時のあの表情はなんだったの?

 心を搔き乱すあの表情、かと思えば今日は普段通りで。

「桜、皆さまにご挨拶しなさい」

「は、はい。お父さま」

 





「はあ、疲れた」

 一体何人の人に挨拶をして回っただろう、最後に会った人の顔くらいしか覚えていない。

 少し休憩をしようとジュースを飲んでいると、ついにダンスの時間になる。

 奏多さんが目の前に現れて、片手を私の前に差し出した。

「桜さん、いいですか?」

 その片手の上に、自分の手を乗せる。

「ええ、もちろん」

 全ての神経を奏多さんに注目させなければと思っているのに、何故か頭の中は涼のことでいっぱいで、その姿を探してしまう。

 どこ?

 今涼は誰と踊っているの?

 あ、いた。

「……なによ」

 彼女と手を取り合って、音楽のリズムに合わせて優雅に舞う姿が目に入ってくる。それに、なんだかんだ美男美女でお似合いなのがまた恨めしい。

 目の前の奏多さんに集中しなければ。でも、ダメだ。

 どうしても、2人の姿が気になってしまう。2人の表情が頭から離れない。もう、集中しなくちゃ。今この時間に。

 そんな葛藤しているうちに、1曲が終わってしまった。

「私、少し休みますね」

「そうだね、挨拶とかいろいろ疲れただろう?」

「はい」

 主役だとは分かっていながらも、私は外に来た。外だったら、嫌なものも見えなくなるから。

 ベンチに座って一度大きく息を吐く。空を見上げると今日は星が出ていなくてグレーの空が続いていた。

 中はとても賑やかだけど、ここは中から聞こえてくる音が少し聞こえてくるくらいで後は静寂が支配している。

 その静寂が今は心地よい。

「はあ」

 何か、飲む物も一緒に持ってくればと後悔するけれど、もう一度あの空間に行ってここに戻ってくることを考えるとどうも面倒に感じて腰が上がらない。

 そのまま、星のない空を眺める。

「桜さま。どうしました?」

「ちょっと疲れたのよ」

「そうだと思いました。……これ、お飲みください」

 流石私のメイドだわ、と感心しながら飲み物を受け取る。


 
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