29 / 69
5話
6
しおりを挟む
「はあ、なかなか量が多いね」
「そうでしょ? 一応進学校っていう頭の良い人たちが通う高校だから、宿題の量が多いの。まあ、私はあまり頭良くないけれどね」
「そんなことないよ。この前も授業で答えられてたじゃないか」
「まあ、偶々よ」
午前中から、途中でお昼を挟んで1日図書館に籠っていた。
もう空はオレンジに染まっていて、久しぶりの外の空気が新鮮で美味しい。
夏の夕方は、気温もちょうどよくだけどどこか哀愁じみていて、少しの寂しさと懐かしさを感じさせる。
ノスタルジックという言葉の合うこの時間に、私は無意識に涼に聞いてしまった。
「涼はさ、『桜』のどこが好きなの?」
涼は一瞬私の顔を見て、すぐに窓の外を見た。
「そうだな……。芯が通っていて、だけど名前のようにどこか儚さがあって、周囲の人、友人や両親を大切にするところかな」
「そっか……。早く戻ってほしいね。世界が」
「でも、こうして違う世界の体験が出来るのはすごく刺激的で、面白いよ。桜とも会えたし」
「うん……そうだね」
やっぱり、涼が好きなのは向こうの世界の桜だということが、今の言葉を聞いて100%理解できた。
「私、コンビニよって帰るから、涼先行って」
「でも」
「大丈夫。こっちの世界はそんなに危険じゃないし」
「……うん、分かった」
本当は買いたいものも用事も何もない。ただ、涼の隣を歩くということが今の自分にとっては心がぎゅっとなることで、これ以上一緒に居られる気がしなかった。
ぷらぷらと、暗くなっていく空を眺めながら遠回りをして家に向かう。
奏多さんに会いたい、ぎゅっと抱きしめて欲しい。そしたら、この寂しさも無くなる気がする。
なんでこっちの世界には奏多さんがいないんだろう。癒しの存在がいないんだろう。
それより、どうしてこんなにも涼の言葉が心に重くのしかかってくるんだろう。
どうでもいいのに、涼が誰を好きだろうがなぜその人が好きなのか、そんなの私には1ミリだって関係ないはずなのに。
「戻りたいな……」
もともとの自分の世界はこっちなのに、あっちの世界の居心地がいいもんだからそんなことを思ってしまうんだ。
お嬢様感の強い杏里にも慣れてきたところだった。
杏里が私のために作ってくれたあの苺のお菓子、また食べたい。
甘酸っぱくて、心がキュンとするあのお菓子。
涼は戻ってこなくてもいいから、私だけでもあっちに行きたい。
「私はこっちの世界の方が好きよ」
「え?」
自分の声が、どこからか聞こえてくる。
「いっそのこと、永遠に入れ替わってしまう?」
辺りを見渡しても誰もいない。
「私はそれでもいい」
「じゃあ、そうしましょう」
その瞬間、光に包まれる。と思ったら、どんどんと意識が遠退いていった。
「そうでしょ? 一応進学校っていう頭の良い人たちが通う高校だから、宿題の量が多いの。まあ、私はあまり頭良くないけれどね」
「そんなことないよ。この前も授業で答えられてたじゃないか」
「まあ、偶々よ」
午前中から、途中でお昼を挟んで1日図書館に籠っていた。
もう空はオレンジに染まっていて、久しぶりの外の空気が新鮮で美味しい。
夏の夕方は、気温もちょうどよくだけどどこか哀愁じみていて、少しの寂しさと懐かしさを感じさせる。
ノスタルジックという言葉の合うこの時間に、私は無意識に涼に聞いてしまった。
「涼はさ、『桜』のどこが好きなの?」
涼は一瞬私の顔を見て、すぐに窓の外を見た。
「そうだな……。芯が通っていて、だけど名前のようにどこか儚さがあって、周囲の人、友人や両親を大切にするところかな」
「そっか……。早く戻ってほしいね。世界が」
「でも、こうして違う世界の体験が出来るのはすごく刺激的で、面白いよ。桜とも会えたし」
「うん……そうだね」
やっぱり、涼が好きなのは向こうの世界の桜だということが、今の言葉を聞いて100%理解できた。
「私、コンビニよって帰るから、涼先行って」
「でも」
「大丈夫。こっちの世界はそんなに危険じゃないし」
「……うん、分かった」
本当は買いたいものも用事も何もない。ただ、涼の隣を歩くということが今の自分にとっては心がぎゅっとなることで、これ以上一緒に居られる気がしなかった。
ぷらぷらと、暗くなっていく空を眺めながら遠回りをして家に向かう。
奏多さんに会いたい、ぎゅっと抱きしめて欲しい。そしたら、この寂しさも無くなる気がする。
なんでこっちの世界には奏多さんがいないんだろう。癒しの存在がいないんだろう。
それより、どうしてこんなにも涼の言葉が心に重くのしかかってくるんだろう。
どうでもいいのに、涼が誰を好きだろうがなぜその人が好きなのか、そんなの私には1ミリだって関係ないはずなのに。
「戻りたいな……」
もともとの自分の世界はこっちなのに、あっちの世界の居心地がいいもんだからそんなことを思ってしまうんだ。
お嬢様感の強い杏里にも慣れてきたところだった。
杏里が私のために作ってくれたあの苺のお菓子、また食べたい。
甘酸っぱくて、心がキュンとするあのお菓子。
涼は戻ってこなくてもいいから、私だけでもあっちに行きたい。
「私はこっちの世界の方が好きよ」
「え?」
自分の声が、どこからか聞こえてくる。
「いっそのこと、永遠に入れ替わってしまう?」
辺りを見渡しても誰もいない。
「私はそれでもいい」
「じゃあ、そうしましょう」
その瞬間、光に包まれる。と思ったら、どんどんと意識が遠退いていった。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
アルファポリス表紙作成方法 ド素人がパワポでお金をかけずに簡単な表紙づくり解説【電子書籍表紙作成にも応用可能】
黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスで作品タイトルの横や下に表示される表紙をパワーポイントで超簡単に作る方法のご紹介です❤無料のテンプレートや画像を使い、お金をかけずに簡単にできる作業で、電子書籍の表紙づくりにも応用可能ですm(__)m
運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~
日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。
女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。
婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。
あらゆる不幸が彼女を襲う。
果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか?
選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる