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4話
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「桜、体はもう大丈夫なの? 本当に心配したわ」
「うん、心配かけてごめんね」
3日間学校を休んで、久しぶりに杏里に会うと、彼女は眉毛をハの字にして本当に私のことを考えてくれているようだった。
ふわっと柔らかい肌が私の手を包む。
それはまるで、ふわふわの綿のよう。
こんなに素敵な友人がいることに、心が温かくなる。
「奏多さんも心配してたわ。あとで会いに行ってあげたら?」
その事実が、より私の心を解してくれる。
「うん、そうする」
数日ぶりの授業はひたすら睡魔に襲われて、それに耐えること数時間、ようやく放課後が訪れた。
涼には杏里と用事があるから先に帰ってと伝え、2人で奏多さんのところに行く。
嬉しすぎて頬がとろけてしまいそうになるけれど、きゅっと口元に力を入れてだらしない顔をきりっとさせる。
教室の入り口を覗くと、すぐそこに奏多さんの姿が見えた
「あ、桜さん、体、大丈夫?」
「はい、もう、元気です」
とはいうものの、まだまだ気持ちの面では100%すっきりするはずもなく、雲がもやもやとかかっている。
涼が、私のいた世界のような性格の悪い涼だったらこんなに悩まないのに。
どうして、この世界の涼はあんなに爽やか王子なわけ?
突き放したいのに、何故か完全に突き放すことができない。
婚約破棄が出来るのに、どこかで踏み止まっている自分がいる。
涼の方から、拒否してくれればいいのに、そうしたらそれを受け入れるのに。
それが私にとっては1番楽なんだ。
って、今は涼のことなんて考えるよりも奏多さんの会話を楽しまないと損。
「本当はお見舞いに行きたかったんだけど、むしろうるさくて迷惑かなって思ってね」
「そんなことないですよ。……奏多さんなら」
「奏多さんならってことは、もしかして、涼くんは3日間お見舞いに来たのかしら?」
杏里は私の少ない言葉から、全てを感じ取ってしまう。
「ま、まあ…………」
奏多さんはふっと笑うと「愛されてるんだね」と言葉にした。
それが嫌で嫌で、すぐに否定する。
「でも、私は……奏多さんに会いたかったんです。涼なんかじゃなくて。本当に」
「そうね、確かに。体調が悪い時って、好きな人の顔を見たくなるものよね。元気を貰えるっていうか」
「ありがとう、そんなこと言ってくれて」
そう、まさにそう。
奏多さんの顔を見ると、心の奥から幸せが湧き上がってくる。
ふんわりとした優しい気持ちで包み込まれる。
「杏里は、どうなの? その後」
「お話とか、してるわよ。やっぱり、いいわよね」
「杏里も恋をするとは、大人になったなあ」
「もう、奏多さんと1つしか違わないわ」
「ははっ、確かに」
その顔は、本当に彼のことが好きなんだと分かる表情をしていて、単純に羨ましいと思った。
「うん、心配かけてごめんね」
3日間学校を休んで、久しぶりに杏里に会うと、彼女は眉毛をハの字にして本当に私のことを考えてくれているようだった。
ふわっと柔らかい肌が私の手を包む。
それはまるで、ふわふわの綿のよう。
こんなに素敵な友人がいることに、心が温かくなる。
「奏多さんも心配してたわ。あとで会いに行ってあげたら?」
その事実が、より私の心を解してくれる。
「うん、そうする」
数日ぶりの授業はひたすら睡魔に襲われて、それに耐えること数時間、ようやく放課後が訪れた。
涼には杏里と用事があるから先に帰ってと伝え、2人で奏多さんのところに行く。
嬉しすぎて頬がとろけてしまいそうになるけれど、きゅっと口元に力を入れてだらしない顔をきりっとさせる。
教室の入り口を覗くと、すぐそこに奏多さんの姿が見えた
「あ、桜さん、体、大丈夫?」
「はい、もう、元気です」
とはいうものの、まだまだ気持ちの面では100%すっきりするはずもなく、雲がもやもやとかかっている。
涼が、私のいた世界のような性格の悪い涼だったらこんなに悩まないのに。
どうして、この世界の涼はあんなに爽やか王子なわけ?
突き放したいのに、何故か完全に突き放すことができない。
婚約破棄が出来るのに、どこかで踏み止まっている自分がいる。
涼の方から、拒否してくれればいいのに、そうしたらそれを受け入れるのに。
それが私にとっては1番楽なんだ。
って、今は涼のことなんて考えるよりも奏多さんの会話を楽しまないと損。
「本当はお見舞いに行きたかったんだけど、むしろうるさくて迷惑かなって思ってね」
「そんなことないですよ。……奏多さんなら」
「奏多さんならってことは、もしかして、涼くんは3日間お見舞いに来たのかしら?」
杏里は私の少ない言葉から、全てを感じ取ってしまう。
「ま、まあ…………」
奏多さんはふっと笑うと「愛されてるんだね」と言葉にした。
それが嫌で嫌で、すぐに否定する。
「でも、私は……奏多さんに会いたかったんです。涼なんかじゃなくて。本当に」
「そうね、確かに。体調が悪い時って、好きな人の顔を見たくなるものよね。元気を貰えるっていうか」
「ありがとう、そんなこと言ってくれて」
そう、まさにそう。
奏多さんの顔を見ると、心の奥から幸せが湧き上がってくる。
ふんわりとした優しい気持ちで包み込まれる。
「杏里は、どうなの? その後」
「お話とか、してるわよ。やっぱり、いいわよね」
「杏里も恋をするとは、大人になったなあ」
「もう、奏多さんと1つしか違わないわ」
「ははっ、確かに」
その顔は、本当に彼のことが好きなんだと分かる表情をしていて、単純に羨ましいと思った。
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