嫌いなあいつの婚約者

みー

文字の大きさ
上 下
23 / 69
4話

6

しおりを挟む
「桜、体はもう大丈夫なの? 本当に心配したわ」

「うん、心配かけてごめんね」

 3日間学校を休んで、久しぶりに杏里に会うと、彼女は眉毛をハの字にして本当に私のことを考えてくれているようだった。

 ふわっと柔らかい肌が私の手を包む。

 それはまるで、ふわふわの綿のよう。

 こんなに素敵な友人がいることに、心が温かくなる。

「奏多さんも心配してたわ。あとで会いに行ってあげたら?」

 その事実が、より私の心を解してくれる。

「うん、そうする」










 数日ぶりの授業はひたすら睡魔に襲われて、それに耐えること数時間、ようやく放課後が訪れた。

 涼には杏里と用事があるから先に帰ってと伝え、2人で奏多さんのところに行く。

 嬉しすぎて頬がとろけてしまいそうになるけれど、きゅっと口元に力を入れてだらしない顔をきりっとさせる。

 教室の入り口を覗くと、すぐそこに奏多さんの姿が見えた

「あ、桜さん、体、大丈夫?」

「はい、もう、元気です」

 とはいうものの、まだまだ気持ちの面では100%すっきりするはずもなく、雲がもやもやとかかっている。

 涼が、私のいた世界のような性格の悪い涼だったらこんなに悩まないのに。

 どうして、この世界の涼はあんなに爽やか王子なわけ?

 突き放したいのに、何故か完全に突き放すことができない。

 婚約破棄が出来るのに、どこかで踏み止まっている自分がいる。

 涼の方から、拒否してくれればいいのに、そうしたらそれを受け入れるのに。

 それが私にとっては1番楽なんだ。

 って、今は涼のことなんて考えるよりも奏多さんの会話を楽しまないと損。

「本当はお見舞いに行きたかったんだけど、むしろうるさくて迷惑かなって思ってね」

「そんなことないですよ。……奏多さんなら」

「奏多さんならってことは、もしかして、涼くんは3日間お見舞いに来たのかしら?」

 杏里は私の少ない言葉から、全てを感じ取ってしまう。

「ま、まあ…………」

 奏多さんはふっと笑うと「愛されてるんだね」と言葉にした。

 それが嫌で嫌で、すぐに否定する。

「でも、私は……奏多さんに会いたかったんです。涼なんかじゃなくて。本当に」

「そうね、確かに。体調が悪い時って、好きな人の顔を見たくなるものよね。元気を貰えるっていうか」

「ありがとう、そんなこと言ってくれて」

 そう、まさにそう。

 奏多さんの顔を見ると、心の奥から幸せが湧き上がってくる。

 ふんわりとした優しい気持ちで包み込まれる。

「杏里は、どうなの? その後」

「お話とか、してるわよ。やっぱり、いいわよね」

「杏里も恋をするとは、大人になったなあ」

「もう、奏多さんと1つしか違わないわ」

「ははっ、確かに」

 その顔は、本当に彼のことが好きなんだと分かる表情をしていて、単純に羨ましいと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】初恋の騎士様の事が忘れられないまま、帝国の公爵様に嫁ぐことになりました

るあか
恋愛
 リーズレット王女は、幼少期に一緒に遊んでくれていた全身鎧の騎士に恋をしていた。  しかし、その騎士は姉のマーガレットに取られてリーズレットのもとからいなくなってしまう。  それでもその初恋が忘れられないまま月日は流れ、ついに彼女の恐れていた事態が次々と訪れる。  一途に初恋の騎士を想い続けてきた彼女に待っていたものは……。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...