ケーキ屋の彼

みー

文字の大きさ
上 下
67 / 82
10話

1

しおりを挟む
 季節も進み、今は12月初旬。

 雪は降っていないものの、気温は低く息を吐けば白い。

 外を歩く人々の格好は、ダウンジャケットやコート、それにマフラーなどを身につけており、すっかり冬模様だ。

 街中はクリスマスの飾りで色付けられ、サンタクロースの歌が流れている。

「私12月が1番好きだな」

「私も好きよ」

 大学の構内を歩く柑菜と櫻子。

 ここにも巨大なクリスマスツリーが飾られていて、クリスマスモードだ。

 掲示板には音楽学部が行うクリスマスコンサートについての案内がある。

 その曲の中には、作曲専攻の人たちが作った曲もあると書かれていた。

「これって、渡辺くんのもあるのかな」

 掲示板の前で立ち止まって、授業の変更などがないか確認しながら話す2人。

 今はちょうど授業の時間で、人は少なく掲示板のところにも櫻子と柑菜しかいなかった。

「どうかしら」

「そういえば最近忙しくて、ケーキ屋にも行ってないし渡辺くんにも会ってない」

 メールのやり取りはしているものの、2人とは顔を合わせることがなかった。

 そろそろ試験のこの頃は、制作課題も多く、なかなか制作室から出られない。

 とはいうものの、美術が好きな2人にとってそれは苦でもないのだが。

「久しぶりに秋斗さんに会いたいな……」

「今日行けばいいんじゃないかしら?   少しなら大丈夫よ」

「そうだねっ、じゃあ夕方の授業終わったら行ってみる!」

 柑菜は、急に声が明るくなり表情が生き生きとしてきた。

 そして、その時間が早く来ないかと待ちきれない様子だ。

「こんにちは……」

 早速、日の暮れかけている時、柑菜はケーキ屋に来た。

「こんにちは」

 柑菜が小さな声で挨拶をすると、それに返す秋斗。

 柑菜は、嬉しさとドキドキがおさまらずに顔がにやけてしまう。

 久しぶりの秋斗は、前に会った時よりも髪が少し伸びているようだった。

 それがまた大人びて見えて、柑菜は顔を赤らめる。

「お久しぶりですね」

 2人しかいない店内は、とても静かで穏やかな雰囲気である。

 秋斗の声もまた、そのケーキ屋の雰囲気と同じように穏やかだった。

「はいっ」

「今日は何がいいですか?」

 秋斗は店のものとしての姿勢を崩さずに敬語で話している。

 柑菜は少し、その業務的な会話に心を寂しくするも、すぐにその気持ちを消した。

「その……今日は……」

 ーー秋斗さんに会いに来ました。

 柑菜は必死に頭の中で、この言葉を言ってしまうか否かを考えていた。

 なぜならそれはまるで、告白のような言葉だから。
しおりを挟む

処理中です...