ケーキ屋の彼

みー

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9話

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 秋斗と柑菜がお互いに惹かれ合っているのは、はたから見れば分かること。

 今更、誰かが入れる雰囲気じゃない。

「あの人にはきっと他の誰かがいる。でも僕は違う。卒業まであと数年。それに、僕だって大人になったんだ、昔の僕みたいに簡単に人は好きにならないよ」

「違うわ。柑菜ちゃんは秋斗さんに出会ったから大学院のこと考え始めたし、秋斗さんは柑菜ちゃんに出会ったからフランス行きを決意したの」

「フランス行き……?」

 櫻子は口を手で覆った。

 ーー余計なことを言ってしまった……。

 空は鋭い目で櫻子を見る。

 その視線に、櫻子は耐えきれず横を向いた。

「僕なら彼女を1人にはしないよ」
 
 櫻子の予感は的中した。

 きっと彼ならこの言葉を言うと、幼馴染の櫻子にはなんとなくそれが分かっていた。

「…………」

 櫻子は、何も言うことができなかった。

 空の言葉が、紛れも無く本当のことだから。

「僕、ちゃんとした告白するよ」

「それはダメよ!」

 好きでいても構わない、だけどそれだけにしてほしい、櫻子は心からそう願う。

「櫻子こそ、好きな人に告白したらいいじゃないか」

「そんな人……いないわ」

 そう言う櫻子を見る空の顔は、今この時間の中で1番哀しそうな顔をしていた。

 窓から見える、葉の枯れていく木々。

 地面に落ちていく葉は、静かにそっと誰にも気付かれない。

「君はいつまで経っても頑固なんだね。だから僕は……」

 そう言われた櫻子は、無言で空の顔を見る。

 ーーなんで、そんな表情しているの……?

 思わずその空の顔に手を伸ばし、そっと包みたくなる思いが浮かんだが、櫻子はすぐに我に返った。










「なんで今日は3人なのかしら?」

 櫻子と柑菜は、ある秋の休日に大学近くにあるお洒落でレトロなカフェのパンプキンパイを食べに来ていた。

 しかし、そこには空の姿もある。

「いいじゃないか、僕も土橋さんと友達になったんだから」

「あら、そう」

 冷たい声で短い返事をする櫻子に、まあまあと宥める柑菜。

「それより、2人が幼馴染だなんて、びっくりだよ」

「小さい頃の櫻子のほうが可愛かったんだよ」

「それはどう言う意味かしら?」

 柑菜は2人の様子を見ると、つい笑いが出て来てしまった。

 それに、いつもは見ることのできない櫻子の様子が柑菜には別人のように目に映る。

 暫くすると、焼きたてのパンプキンパイが運ばれてくる。

 さっきまで無表情だった櫻子の顔は、それを見ると笑顔を咲かせた。

 それにプラスしホットのダージリンティーも。
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