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8話
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しおりを挟む櫻子は鞄から1つキャンディを出して、柑菜に渡す。
「これね、すごく落ち着くのよ」
ハーブと蜂蜜でできたキャンディは、綺麗なスプリンググリーンの色をしていて、透き通っている。
柑菜はそれを口に含んだ。
すると、不思議に櫻子の言う通りに、カチカチに固まった心がすうっと柔らかくなっていくのが分かった。
温かい。櫻子の優しい気持ちがそのキャンディに込められている。
「美味しい」
「でしょう? 昔誰かに頂いたのをきっかけに私のお気に入りになったの」
蜂蜜の自然な甘さが、すごく心を穏やかにさせる。
ハーブの香りは新しい風を吹かせてくれるようだ。
「あのね、秋斗さんがフランスに行くことがどれだけ有意義なことかっていうのは分かってるの」
柑菜は先ほどのように涙流すのではなく、淡々と話をしている。
「だから、行って欲しくないって思うことは夢を壊すことだって。……分かってるし、そんなこと言う権利なんてないんだけど、それでもやっぱり寂しいんだ。それに……秋斗さんの元彼女もいる……」
フランスに行って、また2人が同じ時を過ごすようになったらと考えると、柑菜は居ても立っても居られない。
でも柑菜は分かっている、これは、ただの嫉妬。
櫻子は何かを言うわけでもなく、柑菜の話を「うん、うん」と聞いていた。
でも、それが柑菜にとってはとても心地よくて、少しずつではあるけれどいつもの自分を取り戻してきた。
外はもうすっかり暗くなっていて、残念ながら今日の空には星は輝いてはいなかった。
そんな時『ぐう』っとお腹の音が聞こえてきた。
柑菜は恥ずかしそうに「えへへ」とごまかしている。
「櫻子、何か食べない?」
「そうね」
2人が下に降りると、春樹がいつもの通りソファに座って、連続ドラマを観ていた。
「冷蔵庫にあるから、さっきの料理」
「ありがとう」
ぶっきらぼうに言う春樹を見て、さきほどの出来事を思い出した柑菜は急に恥ずかしくなる。
ーー弟の前で、恋愛のことで涙を流すなんて。
「櫻子はフルーツとかでいい? ごめんね、それしかなくて」
「ええ、私はもう夜は食べたから大丈夫よ」
柑菜はぶどうやりんごを食べながら、最近始まった授業のことについて笑いながら話していた。
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