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5話
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数十分歩くと、さきほどのスーパーの横に出た。
「私寄って行くから、先行ってていいよ」
ここに来た本当の理由を知られないために、柑菜はみんなとここで別れようとする。
「待って、私お手洗いに行きたいから一緒に行っていいかしら?」
ーーどうしよう……。
嘘がばれてしまうが、断るのも不自然で、迷う柑菜。
「うん、もちろん」
あまり拒否するのも怪しいと思われるかもしれないと思った柑菜は、そう言った。
柑菜と櫻子はスーパーへ、亜紀と春樹は別荘へそれぞれ進む。
「ねえ柑菜ちゃん、なにかあったの?」
2人から少し離れ、数十台の車が止まっている駐車場に来た時に、櫻子は柑菜にそう聞いた。
さっきまでは気にしないふりをしていた櫻子だが、やはり何かに気が付いていたようだ。
そしてそれはおそらく、春樹も同じである。
柑菜は、これ以上隠すのは無理だと感じ、櫻子に正直に話すことにした。
「ちょっとね……私、秋斗さんのこと諦めようかなあって思ってる」
「あら、どうして?」
驚いた様子の櫻子は、目を丸くしいつもよりも声が大きくなっていた。
しかし柑菜は詳しいことをはっきりとは言わずに濁す。
スーパーから出てくる家族の笑い声や、車の乗り降りする音が駐車場に響く。
その中で、柑菜は何も言わずにその音を聞いていた。
歩く人々は、駐車場で立ち止まっている2人をちらちらと見ていた。
その視線に気づいた櫻子は
「柑菜ちゃんが言いづらいなら、無理して聞かないわ」
と言い、柑菜の手をぎゅっと握る。
秋斗の手とは違い、小さく女の人らしい柔らかい手。
ーー落ち着く……。
その手は、柑菜の固くなった心を徐々に解していった。
「ありがとう、櫻子」
「いいのよ。それに、恋ならきっとまた出会えるわ」
少しだけ、その握られた手が強くなる。
その強さの分、柑菜は心強さも増した。
亜紀と同じことを言う櫻子に、柑菜はつい笑ってしまう。
ーーそうだよね、秋斗さんがこの世界のすべてじゃない。
柑菜は、櫻子のあたたかい眼差しで本来の笑顔を取り戻した。
「私寄って行くから、先行ってていいよ」
ここに来た本当の理由を知られないために、柑菜はみんなとここで別れようとする。
「待って、私お手洗いに行きたいから一緒に行っていいかしら?」
ーーどうしよう……。
嘘がばれてしまうが、断るのも不自然で、迷う柑菜。
「うん、もちろん」
あまり拒否するのも怪しいと思われるかもしれないと思った柑菜は、そう言った。
柑菜と櫻子はスーパーへ、亜紀と春樹は別荘へそれぞれ進む。
「ねえ柑菜ちゃん、なにかあったの?」
2人から少し離れ、数十台の車が止まっている駐車場に来た時に、櫻子は柑菜にそう聞いた。
さっきまでは気にしないふりをしていた櫻子だが、やはり何かに気が付いていたようだ。
そしてそれはおそらく、春樹も同じである。
柑菜は、これ以上隠すのは無理だと感じ、櫻子に正直に話すことにした。
「ちょっとね……私、秋斗さんのこと諦めようかなあって思ってる」
「あら、どうして?」
驚いた様子の櫻子は、目を丸くしいつもよりも声が大きくなっていた。
しかし柑菜は詳しいことをはっきりとは言わずに濁す。
スーパーから出てくる家族の笑い声や、車の乗り降りする音が駐車場に響く。
その中で、柑菜は何も言わずにその音を聞いていた。
歩く人々は、駐車場で立ち止まっている2人をちらちらと見ていた。
その視線に気づいた櫻子は
「柑菜ちゃんが言いづらいなら、無理して聞かないわ」
と言い、柑菜の手をぎゅっと握る。
秋斗の手とは違い、小さく女の人らしい柔らかい手。
ーー落ち着く……。
その手は、柑菜の固くなった心を徐々に解していった。
「ありがとう、櫻子」
「いいのよ。それに、恋ならきっとまた出会えるわ」
少しだけ、その握られた手が強くなる。
その強さの分、柑菜は心強さも増した。
亜紀と同じことを言う櫻子に、柑菜はつい笑ってしまう。
ーーそうだよね、秋斗さんがこの世界のすべてじゃない。
柑菜は、櫻子のあたたかい眼差しで本来の笑顔を取り戻した。
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