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4話
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しおりを挟む柑菜は、ふと自分の右手を見つめた。
そして、1つのことを思い出した。
「そういえば私、今弟と喧嘩してるんです。ケーキ屋に行くなって言われちゃって」
柑菜は、春樹を一瞥した。
ーーきっと、私を転ばせて手を突かせてしまったことを、ひどく後悔しているはず。多分、あのことを思い出させちゃっただろうな……。
「そんな時は、とりあえずこれ食べてみてください」
秋斗は、テーブルにあるマカロンを1つ柑菜に渡した。
柑菜は、それをゆっくりと口に含む。味わうために、噛み締める。
甘くて優しい味がした。
「きっと、仲直りできますよ」
不思議だな、好きな人に言われると、今までムキになっていた心がすうっと軽くなる。
春樹を見ると、目が合った。
だけど柑菜は、思わず視線を逸らしてしまう。
すると、秋斗が柑菜の手を掴んで、春樹の元へと歩き始めた。
柑菜は、握られた手をじっと見つめる。
暖かい秋斗の手の体温が、柑菜に直に伝わってくる。
ーー心臓、破裂しそう……!
春樹の前に来ると、秋斗は柑菜の手を離した。
柑菜は気まずそうに春樹の顔を見る。
「私と秋斗さんは、美味しい料理でもいただいていましょうか」
「そうだね」
櫻子と秋斗は、2人を残してその場を去る。
すると、春樹が先に柑菜に話しかけた。
「ごめん」
「いいよ、春樹も何か考えてたんでしょ、私こそ無視したりしてごめん」
「頑張れよ……恋」
それが春樹の本心なのかどうなのかは、本人にしかわからないが、柑菜はそれを素直に受け止めた。
「ありがとう」
柑菜は、仲直りしたついでに春樹に1つ確認したいことがあった。
「ねえ、春樹ってもしかして、美鈴さんのこと……」
「はあ!?」
分かり易すぎるほど態度に出る涼に、柑菜は笑いを堪える。
「やっぱりそうなんだ~」
そして同時に、櫻子のことが頭に浮かんだ。
直接聞いたわけでは無い、でも、櫻子の春樹に対する態度は、他の男子と関わる時とは全く違う。
しかし、櫻子は以前にこう言っていた。
『私はどうせ大学卒業したら親が決めた人と結婚するから、恋愛はしないの。もし、好きな人ができてもその人に告白したりはしないわ』
その時は、ただ自由がないことが不便で窮屈そうで大変だとしか思わなかった。
けれど、櫻子の春樹に対する態度を見ると、柑菜はその言葉を思い出し、やるせない気持ちになる。
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