ケーキ屋の彼

みー

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3話

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 2人のいる居酒屋は、時間がたつほどに賑わいを増してきた。

 それとは逆に、2人の食事はすでに終わりを迎えようとしている。

 ここから先はサラリーマンの世界だと言うように、スーツを着た人たちで居酒屋が埋め尽くされた。

「時間も遅くなってきたし、ラーメン食べたら出ようか」

「そうですね」

 運ばれてきたラーメンを食べると、たしかに美鈴の言う通り、海を感じることのできるスープの味で、その香りの良さに春樹は目を丸くして彼女の顔を見た。

「美味しいでしょ?  海の潮風!  って感じよね」

「確かにそうですね。思ったより、海が強いというか」

 何故だか美鈴は、誇らしげに拳を握り一昔前の歌を歌う。

 その歌も、半分ほどこの居酒屋の音にかき消されるけれど。

「先輩、おやじっぽい…………」

 春樹は、美鈴にわざと聞こえないようにそう独り言を呟いた。







 その後、熱々のラーメンを、2人は汗をかきながら最後の一本まで残さず食べた。

 夏のラーメンは、熱いけれど美味しかった。

「はーっ、なんだか最後の方はうるさかったね」

「ですね、おっさんたちのストレス発散の場って感じで」

 先輩も、という言葉は飲み込む。

 外に出ると、夜の駅前ということもあり、学生や大人で賑わっていた。

 涼しい風が吹いて、ラーメンを食べ熱くなった2人を冷やした。

 ガヤガヤと色々な音やたくさんの声のする場所を抜け、大学へ向かう。

 2人の距離は、手が触れそうでなかなか触れることのない、微妙な距離だった。

「春樹くんは、帰る?」

 夜の静かな道に、セミの鳴き声と美鈴の声が響く。

「今日は、帰ります」

「ねえ、春樹くん」

 春樹が美鈴と反対方向を向いた時だった。

「きっと、柑菜さんなら秋斗とうまくいく思うわ、ストレートに、とはいかないかもしれないけれど。幼馴染が言うなら間違いないでしょ」

 美鈴の声があまりにも切なく聞こえて、春樹は思わず叫ぶ。

「それなら先輩はどうなるんですかっ」

 春樹は勢いよく美鈴の方に向き直した。

 自分に思いが向いてほしいと春樹は思うけれど、好きな人があまりにも悲しげな声で相手のことを思っている声を聞くと、やりきれない気持ちになる。

 そして、抱きしめたくなる。

「大丈夫」

 今までに、こんなに不安になるような大丈夫を聞いたことがあるだろうか。

 遠くから、男子学生であろう声が聞こえて来る。

 ははははっと、楽しい夏の夜を過ごしている声が響く。

 それは、だんだんと近づいてきた。

「じゃあ、私帰るね」

 美鈴はその団体が来る前に、春樹を残してこの場から早足でいなくなった。
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