16 / 82
3話
4
しおりを挟む
2人のいる居酒屋は、時間がたつほどに賑わいを増してきた。
それとは逆に、2人の食事はすでに終わりを迎えようとしている。
ここから先はサラリーマンの世界だと言うように、スーツを着た人たちで居酒屋が埋め尽くされた。
「時間も遅くなってきたし、ラーメン食べたら出ようか」
「そうですね」
運ばれてきたラーメンを食べると、たしかに美鈴の言う通り、海を感じることのできるスープの味で、その香りの良さに春樹は目を丸くして彼女の顔を見た。
「美味しいでしょ? 海の潮風! って感じよね」
「確かにそうですね。思ったより、海が強いというか」
何故だか美鈴は、誇らしげに拳を握り一昔前の歌を歌う。
その歌も、半分ほどこの居酒屋の音にかき消されるけれど。
「先輩、おやじっぽい…………」
春樹は、美鈴にわざと聞こえないようにそう独り言を呟いた。
その後、熱々のラーメンを、2人は汗をかきながら最後の一本まで残さず食べた。
夏のラーメンは、熱いけれど美味しかった。
「はーっ、なんだか最後の方はうるさかったね」
「ですね、おっさんたちのストレス発散の場って感じで」
先輩も、という言葉は飲み込む。
外に出ると、夜の駅前ということもあり、学生や大人で賑わっていた。
涼しい風が吹いて、ラーメンを食べ熱くなった2人を冷やした。
ガヤガヤと色々な音やたくさんの声のする場所を抜け、大学へ向かう。
2人の距離は、手が触れそうでなかなか触れることのない、微妙な距離だった。
「春樹くんは、帰る?」
夜の静かな道に、セミの鳴き声と美鈴の声が響く。
「今日は、帰ります」
「ねえ、春樹くん」
春樹が美鈴と反対方向を向いた時だった。
「きっと、柑菜さんなら秋斗とうまくいく思うわ、ストレートに、とはいかないかもしれないけれど。幼馴染が言うなら間違いないでしょ」
美鈴の声があまりにも切なく聞こえて、春樹は思わず叫ぶ。
「それなら先輩はどうなるんですかっ」
春樹は勢いよく美鈴の方に向き直した。
自分に思いが向いてほしいと春樹は思うけれど、好きな人があまりにも悲しげな声で相手のことを思っている声を聞くと、やりきれない気持ちになる。
そして、抱きしめたくなる。
「大丈夫」
今までに、こんなに不安になるような大丈夫を聞いたことがあるだろうか。
遠くから、男子学生であろう声が聞こえて来る。
ははははっと、楽しい夏の夜を過ごしている声が響く。
それは、だんだんと近づいてきた。
「じゃあ、私帰るね」
美鈴はその団体が来る前に、春樹を残してこの場から早足でいなくなった。
それとは逆に、2人の食事はすでに終わりを迎えようとしている。
ここから先はサラリーマンの世界だと言うように、スーツを着た人たちで居酒屋が埋め尽くされた。
「時間も遅くなってきたし、ラーメン食べたら出ようか」
「そうですね」
運ばれてきたラーメンを食べると、たしかに美鈴の言う通り、海を感じることのできるスープの味で、その香りの良さに春樹は目を丸くして彼女の顔を見た。
「美味しいでしょ? 海の潮風! って感じよね」
「確かにそうですね。思ったより、海が強いというか」
何故だか美鈴は、誇らしげに拳を握り一昔前の歌を歌う。
その歌も、半分ほどこの居酒屋の音にかき消されるけれど。
「先輩、おやじっぽい…………」
春樹は、美鈴にわざと聞こえないようにそう独り言を呟いた。
その後、熱々のラーメンを、2人は汗をかきながら最後の一本まで残さず食べた。
夏のラーメンは、熱いけれど美味しかった。
「はーっ、なんだか最後の方はうるさかったね」
「ですね、おっさんたちのストレス発散の場って感じで」
先輩も、という言葉は飲み込む。
外に出ると、夜の駅前ということもあり、学生や大人で賑わっていた。
涼しい風が吹いて、ラーメンを食べ熱くなった2人を冷やした。
ガヤガヤと色々な音やたくさんの声のする場所を抜け、大学へ向かう。
2人の距離は、手が触れそうでなかなか触れることのない、微妙な距離だった。
「春樹くんは、帰る?」
夜の静かな道に、セミの鳴き声と美鈴の声が響く。
「今日は、帰ります」
「ねえ、春樹くん」
春樹が美鈴と反対方向を向いた時だった。
「きっと、柑菜さんなら秋斗とうまくいく思うわ、ストレートに、とはいかないかもしれないけれど。幼馴染が言うなら間違いないでしょ」
美鈴の声があまりにも切なく聞こえて、春樹は思わず叫ぶ。
「それなら先輩はどうなるんですかっ」
春樹は勢いよく美鈴の方に向き直した。
自分に思いが向いてほしいと春樹は思うけれど、好きな人があまりにも悲しげな声で相手のことを思っている声を聞くと、やりきれない気持ちになる。
そして、抱きしめたくなる。
「大丈夫」
今までに、こんなに不安になるような大丈夫を聞いたことがあるだろうか。
遠くから、男子学生であろう声が聞こえて来る。
ははははっと、楽しい夏の夜を過ごしている声が響く。
それは、だんだんと近づいてきた。
「じゃあ、私帰るね」
美鈴はその団体が来る前に、春樹を残してこの場から早足でいなくなった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる