10 / 82
2話
4
しおりを挟む
「ねえ、お願いね」
「はいはい」
柑菜の頼みを聞くため来た春樹だったが、実はもう1つここに来る理由があった。
もちろん、それを柑菜には言っていない。
とにかく、それを確かめるために春樹はここまで足を運び、自分の目でそれを見たかった。
「いらっしゃいませ、あら、春樹くん?」
「先輩」
2人の前に立っているのは、いつもの彼ではなく、初めて見る女の人。
そしてその人は、春樹のことを知っている様子だった。
「知り合い?」
「大学院の先輩だよ」
「そうなんだ」
柑菜は、はじめましてとその人に挨拶をする。
そして、この人がきっとあの帽子の人なんだと直感的に思う柑菜。
2人はきっと、相当仲の良い関係だと柑奈は考える。そう思うと、自然と気持ちが暗くなってくる。
それを察したのか、春樹が美鈴に尋ねる。
「このケーキ屋のパティシエは今日は不在ですか?」
「なにか良い食材が手に入るとかで、今少しだけ出かけてるの、何か用だった?」
「いや、……なんでもないです」
春樹は、流石に美鈴に話すのはまずいと思い、それ以上のことを話すことはやめた。
春樹がふと柑菜を見ると、目の表情が落ち込んでいるのが分かった。
そんな彼女の様子に春樹は何を話せば良いのか分からずに、黙ってしまう。
少しの沈黙の後、美鈴はケーキ屋の接客の仕事に戻る。
「今日は何にしますか?」
「ええと、ザッハトルテ、2つお願いします。いいよね?」
前から食べたいと思っていたそれを、柑菜は選んだ。
でも、どうせなら彼に接客して欲しかったと心の片隅で思っている。
「ああ」
それでも、これが彼が作ったものだと思うとそれだけで心が満たされる。
オーストリア名物の、チョコレートのケーキ。
チョコレートの生地を、チョコレートでコーティングしたチョコレート好きには堪らない一品。
また、アプリコットジャムの酸味が、チョコの甘さと絡め合う至極のケーキ。
「あ、あの、パティシエの方に、ケーキすごく美味しいですと伝えていただけますか?」
柑菜は、少しの勇気を振り絞り、美鈴にそうお願いをした。
少し驚いた顔をした美鈴だが、快くそれを受ける。
「きっと、喜んでくれると思います。パティシエ…………秋斗にとって、1番聞きたい言葉ですから」
その言葉を聞いた柑菜は、ケーキを食べた時のようなあの幸せな笑顔を見せた。
「はいはい」
柑菜の頼みを聞くため来た春樹だったが、実はもう1つここに来る理由があった。
もちろん、それを柑菜には言っていない。
とにかく、それを確かめるために春樹はここまで足を運び、自分の目でそれを見たかった。
「いらっしゃいませ、あら、春樹くん?」
「先輩」
2人の前に立っているのは、いつもの彼ではなく、初めて見る女の人。
そしてその人は、春樹のことを知っている様子だった。
「知り合い?」
「大学院の先輩だよ」
「そうなんだ」
柑菜は、はじめましてとその人に挨拶をする。
そして、この人がきっとあの帽子の人なんだと直感的に思う柑菜。
2人はきっと、相当仲の良い関係だと柑奈は考える。そう思うと、自然と気持ちが暗くなってくる。
それを察したのか、春樹が美鈴に尋ねる。
「このケーキ屋のパティシエは今日は不在ですか?」
「なにか良い食材が手に入るとかで、今少しだけ出かけてるの、何か用だった?」
「いや、……なんでもないです」
春樹は、流石に美鈴に話すのはまずいと思い、それ以上のことを話すことはやめた。
春樹がふと柑菜を見ると、目の表情が落ち込んでいるのが分かった。
そんな彼女の様子に春樹は何を話せば良いのか分からずに、黙ってしまう。
少しの沈黙の後、美鈴はケーキ屋の接客の仕事に戻る。
「今日は何にしますか?」
「ええと、ザッハトルテ、2つお願いします。いいよね?」
前から食べたいと思っていたそれを、柑菜は選んだ。
でも、どうせなら彼に接客して欲しかったと心の片隅で思っている。
「ああ」
それでも、これが彼が作ったものだと思うとそれだけで心が満たされる。
オーストリア名物の、チョコレートのケーキ。
チョコレートの生地を、チョコレートでコーティングしたチョコレート好きには堪らない一品。
また、アプリコットジャムの酸味が、チョコの甘さと絡め合う至極のケーキ。
「あ、あの、パティシエの方に、ケーキすごく美味しいですと伝えていただけますか?」
柑菜は、少しの勇気を振り絞り、美鈴にそうお願いをした。
少し驚いた顔をした美鈴だが、快くそれを受ける。
「きっと、喜んでくれると思います。パティシエ…………秋斗にとって、1番聞きたい言葉ですから」
その言葉を聞いた柑菜は、ケーキを食べた時のようなあの幸せな笑顔を見せた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
男爵夫人となった私に夫は贅沢を矯正してやると言い、いびられる日々が始まりました。
Mayoi
恋愛
結婚を機に領主を継いだブレントンは妻のマーガレットへの態度を一変させた。
伯爵家で染みついた贅沢を矯正させると言い、マーガレットの言い分に耳を貸さずに新入りメイドとして扱うと決めてしまった。
あまりの惨状にマーガレットはブレントンに気付かれないよう親に助けを求めた。
この状況から助けてと、一縷の望みを託して。
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる