それぞれの希望の詩

木芙蓉

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忘却

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全て忘れてしまう事で、心はいつも穏やか。
今日感じた哀しいことも辛いことも明日には忘れているでしょう。
それだけが唯一の救い。
忘れてしまうから、生きていられる。

目を覚ますとその人はやってきた。
おはようと声をかけられたから、おはようと返した。
この人は誰だろう?きっと初めて見る人。
はじめましてと挨拶をすると何処か哀しそうな表情がうっすらと見えた。

 お腹減ったでしょう?その人は食事を用意してくれていた。
一緒に食事をとり、お互いに自己紹介をした。
食事が終わると公園に連れ出してくれた。
この日は雲ひとつない空、温暖で穏やかな午後だった
そこでこの人と日が暮れるまで話をした。
穏やかな場所で穏やかな人と穏やかな時間が流れていった。それはとても楽しい時間だった。
唯一の心残りは明日になれば全て忘れ去ってしまっていること。
その夜、眠るのが怖かった。この人と語り合い、眠りに落ちることを頑なに拒んだ。
けれどやはり人は人、最後には眠りについてしまった。

季節は春、朝起きるとポカポカの陽気だった。朝目覚めると全て忘れていた。きっと辛いことがあったのでしょう。忘れられることが唯一の救い。目覚めたことに気づき見慣れない人が近くにやってきた。
おはようと穏やかな笑顔で声をかけてくれたから、おはようとゆっくり返した。
はじめまして、というとその笑顔にどこか寂しさが混じっていた。
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