白い瞳の猫

木芙蓉

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6章

白のとき

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 ある時期まで僕には記憶、思い出がほとんど残っていない。唯一、脳裏に焼き付いている場面が目の前で誰かが泣いているところ。おそらくそれは中学の卒業式で、泣いている誰かは同級生なのだろう。泣き崩れそうになる顔ははっきりと覚えているのに、それが誰なのか、名前も浮かばない。そんなはずは無いが、その子に会ったのはその一度切りなのではないかとすら思う。その時以外にその人との記憶はない。

    何故泣いているんだろう?言葉で説明出来て理解できても、心は理解できなかった。気取った言い方をすれば、心が死んでいた。人を気遣うことも出来ずこの時期僕はますます孤立を深めていっていたのだろう。だから何も思い出せない。覚えてない。何も感じなかったのだから。

  表面的には僕は回復に向かっていると見られていたと思う。僕は引きこもること無く学校へ通い続けていた。親は担任の教師は喜んでくれていたかな?藤井さんはなんと言っていただろう?僕が必死に隠してたモノの存在気付いていたのかな?

    中学2年2学期の転校以来、真面目に出席し続けたおかげで、僕は高校に進学することができていた。決してレベルは高くはない。先生方からみて真面目にしてさえすれば入れる高校だ。先生はようやく厄介者と関わらなくなると一安心だったかな?薄っすらとした記憶だけど、藤井さんが本当に大丈夫?って心配してくれていたこと覚えている。はっきりとはわからないけど、僕が内に秘めていたもの気付いてくれていたのかもしれないな。まだその時は自分自身それに気付いていなかった。
   
    高校に進学したからと言って僕の世界はまったく変わらなかった。相変わらず僕は自分の中に閉じ籠っていただろうし、周りは僕の存在などまるで最初からなかったようなモノだっただろう。まるで覚えていない。周りのクラスメイトも全員変わっているはずだし、毎朝向かう場所も変わっている筈なのに、僕の記憶では全く変わらないルーティンだ。

   何処に行っても僕には居場所なんてないと思っていた。日々淡々と早くこの辛い時間が過ぎ去るのを待っていた。

   鮮明に記憶に残る日はこの翌年、僕が高校2年になる頃だ。その日は唐突にやって来ることとなる。

  
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