白い瞳の猫

木芙蓉

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4章 紡ぐ

幸せの糸口

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 8月に入り、暑さの厳しさが増す。この年は例年以上に厳しい。ゼンは元気を失っていた。出会ってから1年以上経つのに、体はガリガリに痩せ細ったままだ。定期的に獣医に連れていき栄養剤をもらうが、体格が良くなることはなかった。
 ゼンの物語を紡ぐ作業は全然進まなかった。幸せの糸口が見つからなかった。僕の人生と一緒。此処から幸せになる、そんな想像がつかなかった。体が痩せたままなのはまだ今はゼンは哀しみの中にいるのかな?この先は現実社会でゼンの幸せな日々にしてあげたい。なのにその形がわからないんだ。挫けそうにもなった。いつもの僕なら諦めていただろう。


 でも僕は諦めなかった。僕一人の為じゃないから。ゼンの為に。本当に彼の為になるかはわからなかったけど、彼を導く為には僕がしっかりしなきゃいけない。手探りで、紡ぐ作業を再び進めた。



➖ボクは来る日も来る日もひとりぼっちで待ってたんだ。母さんがまた寂しさから助けに来てくれる。ずっと信じてた。
  いつからか、そんなボクをからかいにくる女の子がいるんだよ。なにかをボクの目の前に吊るすんだけど、ボクが取ろうとしたらあの子はさっと引いちゃうんだ。意地悪だけど、いつのまにか夢中になっちゃう。後から美味しいご飯もくれるし、あの子の事大好きなんだ。


 夢で見たゼンの思い出に出てきた少女はきっとゼンにとって大切な存在な筈だ。それは彼女にとってもゼンは大切な存在だった筈だと思っていた。この辺りは彼女が出てきたのは一緒だったから僕の割合が多い。いや想像と言うより願いだ。少女がゼンを虐める存在ではいて欲しくなかった。だがそれがまた僕の意地の悪さを実感する事になる。

➖あの子は毎日此処に来るようになった。そして夜暗くなるまで一緒に居てくれるようになった。この子のお母さんはどんな人かな?心配してないかな?でも一緒に遊べて楽しいよ。
 今日も暗くなってきたそろそろバイバイかな?でもあの子は帰らない。ボクと一緒に居てくれるの?嬉しいな。でもなんか哀しそうな顔してる。ついには泣き出しちゃった。言葉は通じないけど、きっと寂しいんだね。わかるよ。泣かないで、ボクも泣きたくなってしまう。空も二人の気持ちと同じなのかな?優しい雨が降り出した。
 雨がやんだ頃あの子は泣き止んでた。にっこり笑顔今でも覚えているよ。しばらくして女の子のお母さんが迎えに来た。せっかく泣き止んだのにまた泣いちゃってた。女の子は最後に手を振りながら笑顔でお母さんと帰っていった。ボクも一緒に行きたかったな。
 あの日以来その子が来る事はなかった。寂しかったけど、また何処かで会えるそんな気がずっとしてた。


 ゼンは痩せたままだけどずっと元気だった。だけどこの年の暑さは異常だった。夏バテかな?ぐったりする時間がながくなっていた。
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