上 下
294 / 303

第292話 竜の谷登頂。黒竜との接見

しおりを挟む
登る前にサンガとランガさんとサファーレに挨拶して迷路を改良してまた暫しのお別れ。

嫁が8人に成ってからも定期的に迷路改良に来ているので驚きは無し。
今まで俺とランガさんだけがサンガに触れられた。そして予想通りにオメアニスも触れられサンガが大喜び。

元神の力とイグニースの架け橋が合わさった偶然の産物。
以降はオメアの訪問も必須に成った。

サファーレの懐妊はまだ。余計なお世話で男の秘薬を大人2人へ詳細説明をした上で。
「使ってみる?」
「使って…みたいです」
「使われてみたいです!」
即答を頂いたのでお試し2本を置いて撤収。

最果て町で2泊してたっぷり英気と愛を養い。気合い充分で挑む竜の谷。

魔境から北西方面へ入っても。デスパレイドから分岐に入っても殆ど谷までの距離は変わらないので魔境を選択。

地竜の巣窟のその先が竜の谷へと繋がる道。
冷やかな地下。天然の鍾乳洞エリアを抜けた。
地竜の皮以外特殊ドロップは無し。手前で出会した黒馬のキングを狩ってみたが黒蹄鉄は出なかった。
今まで運が良すぎてその揺り戻しが来ているんだろうと皆で無理矢理結論付けた。

頂上は下からだと良く見えないが6千m級の尾根が続く大山脈。黒竜様の玉座はそのド真ん中。

進行している南ルートは一般的ではない。しかしデスパレイドからの南西ルートも序盤と中盤前までしか登れていないらしい。ベルさんとレイルとカタリデ以外は。
飛ばなかったのはベルさんのみ。必要な道具類は自作したに違いない。

他にも最果て町の北部の東ルート。ランガ家の在る北西ルートをクワンが見付けてくれたが夫婦の営みを邪魔する訳にも行かず。未発見だった東ルートなんて使った日にゃ黒竜様もプッツン。

順当にベルさんの足跡を追った。
とは言え最初は恐らく2百年以上前。2回目の訪問が50数年前。魔王戦が始まる少し前辺り。痕跡なんて有りゃしない。

「アンカー打ちした形跡が何処にも見当たらない」
「岩肌が綺麗で崩れてないね。序盤は跳躍でショートカットしたのかな。火竜や氷竜や飛竜と遭遇するまでは」
「ん~。谷全体が天然迷宮みたいに生きてるとしたら痕跡が自然治癒したみたいな感じかも」
「有りそう~。黒竜様のお膝元なら何でも。レイルは詳しくない?」
「私もカタリデも飛び越して知らないわよ。地上なんて」
「飛んで行けるのに態々潜らんでしょ」
「「まあね」」

序盤は皆で跳躍。ヤンキー火竜の溜まり場を訪問。
「待て。俺たちは戦いに来た訳じゃ」
問答無用で火を吹かれ全身に浴びても皆無傷。
「温かいのは嬉しいが邪魔をするなら死んでしまうぞ。地上を歩く吸血姫も居れば元神も居るし。期待の新鳩神と大先輩のバグナーデまで居るんだぞ。良いのか?」

途端に大人しく成る火竜たち。
「バグナーデ様を出してくれ」
腕からルーナを出して。10m位に拡大。
「何だ」
「何だ、じゃねーですよ。どうして俺らを捨てて独りで行くんすか」
「我が黒竜様に捨てられたのだ。早く出なければお前たちまで粛正されていた。仕方が無かったのだ」
「せんぱーい」
他の火竜も集まり組んず解れつ。端から見てると大乱闘の喜びの表現。

感動の再会も一入に。道を空けてくれたので先へ進み。平場を見付けてコテージで一泊。

ベルさんの攻略本には図解が無く文章だけ。中腹の何処かに横穴が有りそこから頂上まで行けると記載。

レイルもカタリデもそんなもんは知らんと。
「地道に南西から西側探すかね」
「ですかねぇ」
コテージの中から双眼鏡でフィーネと2人。
「攻略本では氷竜ゾーンを抜けた先辺り」
「でもでもその氷竜が見当たらない。中腹なら2千5百から3千越え。だと思うんだけど」
「西端は最高でも4千弱。なら1つ奥の山間ぽいかな」
「東に回り込めそうなのは…。5km先と15km先の谷間からか。50ちょい先にも1つ在るね」
「環境的には吹き下ろしの強風が荒れてる谷間。それを基準に明日はその3つを探って3千付近で1泊だな」
「高山病予防も忘れずにと」

他の人にも双眼鏡を回して。
「自分なりに各自ルート探索。黒竜様の眼下でイチャイチャは厳禁。死にたい人は自己責任で。流石に救えませんので悪しからず」
「地面が流動的なら転移で戻り難いと考え。南極拠点へは行かない方針です。偶には1週間位我慢してみましょう。特に私!」
レイルがニッコリ。
「順番的には私とオメアがスターレンと添寝よね」
「添寝までなら大丈夫」
「むむ。抜け目無いわね。スタンさんを裸に剥かないようにお願いします」
「断固拒否します」
「解ってる。そもそも黒竜は人型の営みに興味なんて無いわよ」
「自制心を保ちつつ添寝を」
レイルの言葉を信じて今夜は安眠。

456妃が自宅待機班なので1日は1人で寝られる。なんて事は許されず。添寝は休み無くローテ。

フィーネからペリーニャ。レイルとオメア。
アローマとプレマーレ。遠征時はこの組合せ。

アローマとプレマーレとレイル以外とは添寝をせず1人でグッスリ寝られるソプランがちょい羨ましい。
贅沢な話ですが。




-------------

9月29日。竜の谷アタック2日目朝。

添寝で留めてくれた2人に感謝のキスでお目覚め。
朝食後の身支度を済ませ。温暖化ゾーンを脱出。

足場を確認しながら慎重に進行。昨日決めた3箇所以外にも各員が気に成った場所を探索。

結局50km地点の谷間が下ろしの風が吹き荒れていた。
双眼鏡で周辺を確認し終え。
「居た居た。奥の山間の一角に氷竜の集団」
「おー居ますねぇ。大小数は…百数十。時間が経って復活したのも有りそ」

谷間手前の開放部の岩場を本日の野営地と決め一泊。

9月30日。アタック3日目朝。

昨日のペアにお目覚めのキスをお見舞いしたが為にアローマとプレマーレにも贈り届けた。2人共起きてるのに。
「待たなくてもいいのに」
「嫌です。遠征中しか私には無いので」
「レイルダール様を差し置く事は出来ません。…キスで我慢する身にも成って下さい」
俺も同じなんですが…。

人型ペリーニャ以外全員防寒コートを着用で作戦会議。
「氷竜のボス。氷帝竜アソドタイデムはルーナ一択。
他はフィーネのハンマー。ブラン装備のペリーニャが時雨剣で表層破壊。補助でグーニャ。プレマーレのランス。
他は防御壁張りながら見物でいいかな、と考えますがフィーネさん」
「異議無し。ここで躓いてるようだと奥の飛竜戦でお話に成らない。防衛側のスロット付き武器には既に炎属性入ってて問題無し。防壁はソプランの壁とオーラの障壁で余裕で過剰。懸念は無いと思うけどアローマ」
「私も特に有りません。お二人の案で。防衛側の足場が崩されても障壁で確保。分散が必要と成るのは次。
飛翔戦術が必要と成るのも次。有翼展開が必須の四名様の防寒着を如何するかが悩み処です。
レイル様はコートを脱いでもフレア装備と闇黒装が有るので以外の方は一時的に寒さに耐えるか、ですね」

その3名。フィーネとロイドとプレマーレが悩ましげ。
「上空戦力は足りてるから」
「地対空迎撃で充分かと」
「足場を確保しながら風で巻き上げられないように。氷竜戦が参考に成ると思われます」

「では後衛の投擲武器と俺を前に出す事が無いようにお願いします。俺に関して冷静さを失い易いレイル以外の3人は特に」
「「「はい!」」」




-------------

9月30日。氷竜戦。

乱戦模様の展開。絶対防御のペリーニャを起点に囲みながらの集団撃破。

黒竜様の加護の影響で多少の破損では直ぐに復活。

中でも氷帝竜とルーナの戦闘が長時間に及んだ。

「久しいなアソド。こうして遊ぶのも」
「この時を待っていたぞバグナ。心行く迄楽しもう」

ルーナも成長し初期の体躯を越えた45m級。しかし氷帝竜はそれを越える50m級。旧知の仲。互いに手の内を知り尽くした激戦。

氷帝竜のみ有翼。全てが互角。

溶けようが壊れようが直ぐに復帰。更に強固に変質。ルーナは氷結させられても中から余裕で破壊。破損しても自力復活。

朝から一晩中。翌31日の昼まで続き。決着はルーナの螺旋炎壁に外装を溶かされ続けた氷帝竜のギブアップ。
「暑い…。暑いぞバグナ」
「満足したか?アソド。止めを刺しても良いが復活までが長引くぞ。我がやると」
「くっ…。まあ良い。先に進むが良いわ。黒竜様からはお前の成長を見よとの指示。相打ちは困難だ。その力が以前に有れば捨てられなかった物を」
「今の主に拾われなかったら。成長なぞしなかったであろうよ。これも巡り合わせだ。オーラ殿であれば瞬殺だったのだぞ」
「…それを従える人間勇者とは何なのだ!」
「さあて。我にも神にも解らぬて。例え黒竜様でもな」

氷帝竜は薄く笑い横穴へ続く道を譲ってくれた。

上質な竜素材は下僕たちから大量ゲットでウハウハ。




-------------

10月5日。山頂付近。

中腹山中を巡り歩き。飛竜の襲撃が激化した方面へと進んだ5日間。漸くゴールが見えて来た。

飛麗竜エラゾータルタ。光沢の有る灰色お肌が鮮やか。
天井の開口部から差し込む光で輝く鱗。

50m級の体躯。しかし他の竜種よりも翼の面積と尾の長さが随一。そこから繰り出される暴風と衝撃波に悪戦苦闘の連続。

地上班はオーラの障壁を一歩でも外へ出ると飛ばされ側壁や崖下へ一直線。

荒ぶる暴風の中で動けるのはブラン装備のペリーニャとクワンのみ。その2人とレイルとオメアは待機組で観戦。

フィーネたちの翼では役立たず。ロイドとプレマーレとグーニャは地面にめり込んで停止。ルーナの火炎は巻き返され延焼して大惨事。今は側壁に埋まってる。

当然蔦鞭は届かない。

「勇者本人と吸血姫や神の加護が無ければ所詮その程度なのか。失望したぞ水天の巫女よ。その他もな」
踏ん張りながら体勢を維持。
「何て風なの…。でも策は有るわ」
フィーネがポセラの槍の次に取り出した物。

これまで強化を重ね。大狼様の牙の欠片を合成した完成体円月輪と散々雷を溜め込んだ避雷の杖。

魔力を盛った投擲は一切の環境を無視して突き進み。飛麗竜の長い尾を根元からカッティング。
「ゴアァァァ」
再生される前に片翼を裁断。円月を飛麗竜の周囲に近距離旋回させて乱雑に鱗を傷付け。仕上げに避雷の杖の雷を円月へと撃ち込んだ。

地表に落下した飛麗竜に水を掛け更に杖をもう一本。
「や、止めっ」
「これ位じゃ死なないわ。安心」
容赦無い雷の追加撃。

叫ぶ煩い口の中に円月輪を捻じ込み。ポセラの大渦で丸ごと洗浄で岸壁に打ち据え叩き洗い。

ゴツい岩肌の地表へ背中から落として張り付け。喉元を突き破って円月を回収。

仰向けの竜胸に槍を突き付け。
「遺言は何かしら?前言撤回して謝ってくれるなら!生かしてやってもいいわ!!」
冷静にブチ切れるフィーネの本気が…これ程とは。

「ま、参った…。前言を謝罪する…」
「私を嘗めるなぁぁぁ!!!」
「済みませんでした…」

観戦中の一同驚愕。外でめり込む面々も。
「フィーネのマジギレ怖えぇ…」
「お嬢が本気でキレるとああ成るのか…。初回が許されたのが奇跡だぜ」
ソプラン真っ青。

「考えを改めようかレイルさん」
「そ、そうね。ちょーっと見直しが必要みたい」
カタリデとピーカー君も絶賛。
「加護無しであそこまでやれるなら充分でしょ」
「僕の出番は当分無さそうで…。工作に専念します」




-------------

10月6日。山頂。黒竜様との接見。

昨年振りですとお土産の貢ぎ物を献上。3種のお酒を味わった後で完熟赤林檎を1個口内で味わいゴックン。
『美味…。青も楽しみだ。酒も熟成が増して深い味わいに育っているな。屑に熟成を操作されたと聞いた時は神域に乗り込んで噛み殺してやる積もりだったが代用が有って良かった』
「良かったっす。ある意味。その他の神様が無事で。巨峰ワインは今年の出荷分も有ります。試してみますか?」
『良いな…。貰おう』

伸ばされた舌先にお酌で1本全部。

巨大なお口をモニュモニュゴクリと。
『やや酸味が強いが甘さは変わらず。面白い酒だ』
「僕らも毎年の楽しみで」
『では来年も頼む。今ぐらいに次は転移を許可する。巨峰は来年分を一本。不作なら無しで良いぞ。その他は同じ分量を』
「承知しました」
黒竜様が上機嫌。平和で善い事この上無いぜ。

『気分が良い…。未来視の娘が読んだ通りの順で宴だ』
上機嫌でもそっちは回避出来ませんでした!

諦めてオーラから順番に模擬戦。


反転領域は天地が逆転した暗黒空間。真上に薄ら山脈の尾根が雲のように浮かぶ。足元は果てしなく続く空。しかし地面だと思い込めば普通に歩ける別次元。

レイル以外は感覚を掴むのに少し時間を要した。

2匹の巨竜とかなり離れた空で。オーラが張ってくれた多重障壁内からの観戦。

開始序盤から黄金と黒色ビットの応酬。
体当たりのド突き合い。頭を打つけ合う首振り。
噛み合い押し合い引っ掻き合い。
それに飽きると最大ブレスの撃ち合い。
オーラはそこに角から熱光線を加えて更にヒートアップ。

地上世界だったなら…東大陸全部消滅してた。

観客席の障壁の最後の1枚が破れ。内側からクワンとオメアの補強を施した所で2匹が漸く止まった。

どうやって戦ったんすかベルさん…。

『楽しいな…。来年もやるか』
『喜んでお相手致す』
殺し合いしてたのに…友情が芽生えたらしい。

隣のフィーネに。
「参考に成るか解らんけど。兎に角頑張るよ」
「うん…。私たち。逃げたら…怒られるよね」
「来年来られなく成るよ?」
「許されないよね…」

気合いを入れ直し。
「クワン。ソラリマ外して。拳じゃ無理!」
「了解です!」

霊廟武装の上にブーツ以外の勇者装備。その上に聖地炎を2つ入れたソラリマを完全武装で挑む。

「お胸をお借り致します!」
『死にはせん…。全力で来い』
「はい!参ります!」

背中からのビットはこちらの5百武装で牽制。
宙を舞い上がり黒竜様の頭上へと飛び出た。
ソラリマを10倍化した上段斬りは難無く躱され。下からではない衝撃波を全身に喰らって地面の空に叩き付けられ転がった。
何が何処から飛んで来るのか解らず見えず。

立ち上がって踏み付け攻撃を紙一重で避けた。避けた先には不可避の尻尾鞭。ソラリマを合わせてみたがあっさり弾かれまたぶっ飛ぶ。

全身の骨が砕けても瞬時に再生。残るのは痛み。その痛みのお陰で意識は飛ばない。
「ありがてえ…」

降り注ぐ翼の先端や爪先。全力の反応速度で避けて避けて避け捲った。

装備に頼り過ぎ。ゼファーさんの言葉が浮かぶ。
性能なんて単なる数字だと。反撃の糸口さえ見えず。まだブレスを頂く領域にすら達していない。

防戦一方。距離すら取らせて貰えない。
ならば答えは1つ。突撃有るのみ!逃げてばかりじゃ進歩は無い。

被弾の少ない胴下へ潜り込み。ベルさんが鱗を剥いだ箇所。盾の形と同じ場所を探した。

在った…。そこは前足首の裏。人間で言うアキレス腱の部位。気付いた瞬間。黒竜様は機動を替え。回避と攻撃速度を増した。

まだ信用は出来ない。弱点だと思わせる演技。
大きすぎる巨体にも騙されている。序盤の衝撃波が上から来たのがヒント。

全身の感覚を研ぎ澄ませて目を閉じた。目に頼らず気配を探る。真実の在処。黒竜様の本体を。

それは無数のビットの中の1つ。それを感じ取った瞬間にブレスが吐かれた。正解だと言わんばかりに。

嬉しさ余ってブレスに真っ向から直進。全身に走る痛みに意識が刈り取られそう。

真実の痛みを辿り上へ上へ。上顎の牙の隙間に全力蹴りを決め。僅かに首が上方へ動いた。

瞬間の隙間。その刹那。首背に隠れていた本体を捉えて真っ向勝負。

ソラリマの一閃は…小型黒竜様の前足の爪に挟まれて制止した。

『見事だ…。最後の勇者よ』
「どう…致しまして…」
意識が飛び。下の空へと身を委ねた。

愛する嫁らに受け止められ…ずに黒竜様に蹴られ。観客席の障壁に突き刺さった。

痛みで意識が舞い戻る。
「死なないからって酷いっすよ!黒竜様!」
『止めを刺していない相手の前で意識を飛ばすな…。馬鹿者めが』
「…返す言葉が、見付からねえっす」

ソラリマを外して濃い竜血剤をガブ飲み。口元を拭い。
「フィーネ。参考に成ったか?」
「ギリで見えたけど…。どうしよ。黒竜様!少し。少しだけお時間を頂けますか」
『駄目だ。素直に待つ敵は存在しない。即断即決。戦局の中で真実を掴め。今度は本体を隠す。逃げるなら…。
何時まで経っても吸血姫を越えられぬぞ』

「解りました!遣らせて頂きます!行くわよプレマーレ。
グーニャとルーナも!」
「あぁ死ねる。これぞ死地。遣りましょう。この震えは武者震い!」
「骨が残ったら拾って下さいニャ…」
「ここで逃げたら二度とお会い出来ない。今こそ覚悟と成長をお見せする時!」

最大まで巨大化したグーニャが地表の空から特攻。
ルーナの背にソラリマ装備のフィーネと竜鱗化でカットランスを構えたプレマーレが飛び乗った。

コートを脱ぎ捨て最上武装での突貫。

自分はと言うと…。レイルの胸枕。ロイドとペリーニャに両腕を絡まれ。オメアとアローマに両脚を解されていた。
「どんな状況やねん!」
「頑張ったご褒美よ」
「ご褒美です!」
レイルと4人が口を揃えて。
「ソプランも止めろよ」
「羨ましい限りだが。主は昔から王様だからよ。全身で受け止めろ」
と言いつつ皆視線は激しい戦いへと向いていた。

「ちょっとオメアさん。濃い目の竜血飲んだばっかなんで今は股間はちょっと…」
「あらま。ついうっかり」
「終わったら拠点確定ね」
レイルの耳への甘い囁き攻撃に。
「は、はい…」
踊る心は一気に南極へ。

しかし戦いは難局へ。

ルーナの拡散火炎。グーニャの最大火球。フィーネの大渦と複数属性の空刃乱射。プレマーレのランス追尾で本体探索。

その悉くを擬態巨体が蹴散らし踏み躙り。4者を分断。追撃は語るに及ばず。黒竜様が何と4体に分身。真にボッコボコの地獄絵図。

勝利への道はプレマーレのカットランスのみ。起き上がり際にランスを呼び戻して飛翔。と見せ掛けて下方へ潜り込みを図った。

俺に似た作戦。と思わせて左右に展開。迫る攻撃を回潜りフィーネの大渦に乗って超高速移動。

グーニャとルーナで撹乱を継続。見事な連携で状況を覆そうとしていた。

継続は力。例え無様でも。徐々に段階を踏み。漸くランスが本体を捉えた。正解を告げる4重奏のブレス。

4方向へ散開。勝負は得意な接近戦。フィーネの槍とプレマーレのランスが本体の両足爪に挟まれて止められた。

『悪くない…。ランスの性能に頼り過ぎなのを除けばな』

強烈な衝撃波と物理打撃を4者が喰らい。地表の空をゴロゴロと転がった。

「痛い…。でも気絶は駄目」
「ランスの性能…。もっと感覚を研がねば…。スターレン様とレイルダール様のように」
「生きてるニャ~」
「この痛み…。懐かしく」

4者が起き上がった所で黒竜様の試練が終わった。
『ここまでで許してやろう。今日は気分が良い…』
「有り難う御座います!」
4者それぞれお礼の土下座。下は空ですが。


反転領域が解除され元の景色へと戻った。

フィーネたちも竜血剤や回復薬を飲み干し治療。

そして黒竜様からのご褒美助言タイム。
『ふむ…。蜥蜴の娘に余の加護は不要。吸血姫に気に入られたのなら。
バグナーデには後で少し手を加えてやる』
「ハハッ!レイルダール様の元で精進を重ねます」
「有り難く!」

『三尾の狐…。まだ虚無に堕ちる危険は有る。主とカタリデを信じて疑うな』
「はい!疑いません!今までもこれからも」

『吸血姫が居なくなると…。張り合いが消えるな』
「北のワンコが居るじゃない。私は遣りたいように遣るまでよ。娘が解放されたらここへ遊びに来るように伝えて置くわ」

『まあ良いか…。連れの人間二人は引き続き足元に注意しろ。宙に浮く道具は…貴様らには合わん』
「「ハッ!」」
「捨てます!」
「諦めます!」

『勇者よ…。地下の塵を処理するなら今だ。年内に魂の残存を砕かねば西の小物に奪われるぞ』
「忘れてました!すんません!」
ヤベえ遊んでてすっかり。

『迷宮内の過去の自分…。微妙だ…。無関係者で彫像を破壊。吸血姫の血を飲ませ…。いや違うな。
小物に消去されれば今のお前が消える。延命させ。過去を断裂し。別場所に封印してしまうのが良いだろう。
未来視の娘に対処方法を読ませろ』
「了解です!」

『水竜もミレアも…。要素は無いと言っているが…。余は違う』
「まだ他に何か?」
『役目を終えた神殺しが消滅していない』
「あ!?そう…言われてみれば」

『あれは太陽に投げ込もうと存在し続ける。別次元へ飛ばす…うーん。丸で見えんな。解体する方法を探った方が良いかも知れぬ』
「探します。出来る限り早急に」

『今はそんな所か…。バグナーデ。伏せよ』
「ハッ!」
土下座姿勢から顎を地に擦り付けた。その頭を前足で踏み付け黒い瘴気が流された。
「ふぉ…ふぉぉぉ」
痛いのか気も良いのか解らないが悶えるルーナ。

短時間の儀式を終え。
『火炎の火力を引き上げた。精進を重ねれば蒼炎を吐き出せる。四方や…。神殺しの溶解に届くやも』
「おぉ有り難い。感謝します。黒竜様」
「やったなルーナ。練習場所は良く考えて」

『では去るが良い。余の気分が良い内に』
「帰らせて頂きます!また来年に」
『うむ…』

片付ける物は無いので即座に礼を返して撤収。




-------------

拠点で愛のカステラを焼いている間に。
お風呂と宴の準備。と打ち合わせ。
「皆様のご協力に因り黒竜様のご機嫌が保てました。待機班も呼びたい所ですがシュルツがぼっちに成ってしまいますのでこの遠征メンバーにて宴を催します。もう気が狂いそうなのでお許しを。

宿題は3つ。
ラザーリア地下のゴミ処理。
スフィンスラー18層の彫像とグズルードの封印方法。
深海遺跡へ奉納中の神殺しの正しい解体方法。

3つ共レイルさんとルーナが鍵を握っています。
宴中のルーナの監督はクワンに一任。局所でブランに向かって吹かせれば問題無しと考えます。
拡大してこの大陸の氷を溶かさないようにお願いします」
「はい!きっちり指導します!」
「頑張って火力を上げる」
オーラも出して。
「黒竜様から学んだ事を実践してグーニャとダメスに還元してやってくれ。俺たちこれから数日未定でここに籠るからさ」
「御意に」

「では皆さん…まだ焼けないか」
「私も気が可笑しく成りそうだけど。普通のご飯も今の内に食べましょう。食べられなく成る前に」
「そやね。一旦落ち着いて腹拵えだ」

皆がそわそわしながら食事の準備。
そして秘密の宴が開幕。
生きてるって素晴らしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

処理中です...