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第286話 今後の流れを色々
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ボルトイエガル初遠征から帰宅した翌日16日にグリドットが満面の笑みで現われた。
珈琲を一口。フィーネを見ながら。
「いやぁ良く止まってくれました。ペリーニャ様とダリア様に感謝して下さい。上から見てて冷や冷やでしたよ」
「…正妻としてお恥ずかしい。しっかり者の妹分が増えた幸せ者だとの認識で頑張る所存です。蜂蜜はこの後直ぐに買いに走らせます」
「もっと前からそうして下さい。
屑女神が低迷期に突入した今でしか勝利の道は有り得ません。
オメロニアン様とイグニースさんを救った後。最終仕上げに何をするのか。それは偏にモーランゼア王都ハーメリン城の中枢。可逆の歯車に関わる部分のみをこっそり撤去する事です。
さすれば時の女神の力は完全に消え去り世界の時も正常化されます。それが完全勝利。使命の終わりでは無く。
オメロニアン様の力が奪われたままでは叶わぬ所業。順序はお間違え無きように。
第一に白竜から出た金の鍵でエラルズゴーザ迷宮の中枢のロックを解除。エラルズの記憶管理機能が消失。するとゲネルトロ迷宮側の奥の扉が開かれます。手前扉はソプランさんの通常解錠具で結構。
二枚扉を抜けた先に時間牢獄。そこにオメロニアン様が監禁状態。
ガンターネから受け取れる罠解除で牢獄外装の除去。
ハープの音色で最終檻の破壊。
オメロニアン様ご自身の身体に埋め込まれた破滅の小石はレイルダール様が手刀で取り除くと同時に最高硬度の呪詛で包み。クワンティ様が上空まで瞬間で運び解放すると言う流れです」
「「はい」」
「オメロニアン様が檻の外へと出さえすれば屑に奪われた力が戻り。イグニースさんと引き合わせて後はお任せ。
モーランゼアの仕上げは年内後半で訪問する時が最適。ここまで聞けばお解りですねフィーネ様」
「はい。全てを完結出来るのは今この時しか無かったと」
「その通り。ですので今回供与するのは助言のみ。手順の解説に参りました。
キリータルニアの迷宮内では当然。スターレン様、フィーネ様、ペリーニャ様の手出しは御法度。再会を喜び合うのは外に出た後で。
流れ的に全てレイルダール様の御主導で執り行うのが望ましく理想です。如何でしょう貴女様のご意向は」
「ええ理解してるわ。スターレンの為なら幾らでも手を貸す積もりよ。初めから」
「貴方は熟々運の良い御方ですスターレン様」
「全く以て。レイルと出会い。許されてなければあの時点で終わってたね」
「でしょうね。今年の成功失敗に関わらず。来年二月にラザーリアで重大事案が勃発します」
「え?なんで?」
そんな急に?
「その内容は伏せます。天の上から楽しく見物させて頂きます」
「責めてヒント位は」
「どうしよっかなぁ」
我らがクワンの助け船。
「貴方あたしの案内役兼任してるよね。ならあたしにも罰を与える権限が有ると思うのだけど。何なら御方様の私室にお邪魔しようかしら」
「ちょ、それは駄目です。そんな事されたら私は一気に地獄行きですよ」
「だったらヒント出しなさい」
「言うんじゃなかった…。ヒントは、まさかの九人目。ここまで言えば充分でしょ」
「え!?クルシュが?」
「うっそ…」
「女心は秋の空と良く申します。内に秘めた想いは時に同性でも見抜けぬ物。隠すのが上手ならば。大狼様のお膝元で初手に見せたあの反応。フィーネ様が激怒していた事をお忘れですか?」
「「あぁ…」」
2人で顔を見合わせ意気消沈。
「八人目までの謎枠が発表された今。これもしかして自分では?と考える関係御婦人は幾らでも。何せ婚約もしていないのですから当然です。
回避したいならこれから救うお二人の発表を早急に」
「取り敢えずその方向性で。後でスケジュールを見直そうじゃないかフィーネ君」
「そうね。まだ11月からの余力時間は有る。そこで円満解決の道を探りましょ」
「本日の最後に幾つか。
振り返りのネタは尽きましたが殿方の一人休息日は必ず設ける事。この意味は女性陣側がお察しを」
フィーネが女性陣をグルッと見渡し。
「あ!それは非常に困ります!」
「ご理解して頂けて光栄です。今の減り張りは使命を果たした後に真価を発揮します。努々お忘れ無きように」
「はい!何としてでもそれは必ず」
「焦らなくてもいいよ。シュルツが成人迎えた後でもゆっくりと。男のそれは精神的な物だし時間を置けば自然に治るからさ」
「今は全然余裕だ。年齢的に俺の方が早いかもな」
「う、うん。頭の片隅に置きます…」
女性一同が胸を撫でた。
「私の登場予定は後二回。屑に完全勝利の報酬と来年二月を上手くスターレン様が乗り切れたらそのご褒美を考えられて居られるそうです。
完全勝利の方はまた未完成品です。エルラダさんに関わる医療器具でベルエイガ様の最終巻に記載が無く。異世界日本に存在した初歩的な医療技術。スターレン様なら思い出せるかと」
「…ん?何だ?あれ…は違うな」
シュルツの顔を見ながらふと。
「あれか。確かに抜けてた。シュルツ。後で最終巻読み直そう」
「はい!その時にご説明を」
「勿論」
「プレマーレ様。一度だけファルロ様と直接お話出来る道具を持っています。今回か次回何方が宜しいでしょう」
「…次回で。今声を聞いてしまうとガンターネとシトルリンを殺しに行ってしまうので」
「賢明な判断です。では次回にて」
アローマが蜂蜜を買いに走っている間に他事を。
「今のこの流れで異界の神が降臨する可能性は?」
「先ず以て無いです。現状でも水竜様が頂点。クワンティー様が急進勢力。オメロニアン様に力が戻り。アウスレーゼ様が保持したまま。
要素が有るのは只一点。蠅の王を先に魔王様が討伐してしまうその時。今は存在自体知られてません。それを知るガンターネとシトルリンが伏せている状態。複製の方が裏切らなければですが。
魔王様よりも先に討伐。魔王様と決着を着ける時が使命の終わり。屑女神を排除した後なら何時でも。
余裕とは言っても五年以内が望ましいかと」
「そこまでの余裕は無くていいや。2年後には手探りを始める予定だし。安心したよ」
「うんうん」
今回は荷物が少なかったからとアローマが購入したセットの小瓶の方をそのまま持ち帰ったグリドットを見送りシュルツの工房で打ち合わせ。
結局フルメンバーが同席する最中。
「さっきグリドットが言ってた医療器具はペースメーカー。心臓の筋肉。心筋の動きを一定に保つ器具の事」
フィーネとカタリデがあぁと納得。
「だとすると胸に直接埋め込むのですか?」
「そう。だから使える金属はマウデリンかチタン。電気信号を心臓の外側に与えるから雷魔石の粉が必須。
低圧用と高圧用の2種類波形を作り出さないといけないから連鎖の数珠で回路を仕上げる感じだと思う」
「成程。では時計回路のあの項目ですね」
「正解。あの部分を読み解いて準備をして欲しい。間に合いそうにないなら俺かフィーネで解説する」
「読解を楽しんでいる場合では無くなりましたね。五月目処で何とか。無理なら早めにご相談します」
「宜しく」
少し伸びをして。
「開発中のカテーテルとステントの方は順調?」
「はいお兄様。試作品は何品か。処理待ちの豚さんを麻酔で眠らせて臨床試験が始まった段階です。
但し内視鏡の開発が極めて困難。現状ではとても間に合わず上級鑑定ゴーグルを作成するか。ブランちゃんを投入するしか手が無さそうで」
「そっかぁ。元々血管の中を覗くのは無理だったし。中の上のゴーグル作ってマウデリンチップ付与で俺かペリーニャで試そう。ブランは保険で」
「「はい」」
「皆集まってるから聞くけど。明後日18日のクエ訪問はどうする?俺とプレマーレは必須。他はフィーネさん」
「どうしようかしら…。まだ誰も入ってない南倉庫だし。団体で乗り込むと目立つ。衛兵の目はブランちゃんで妨害出来るとしても。レイルは?プレマーレを止める役か。ちょっと脅して西の情報早めに取るか」
「じゃのぉ…。悩ましい所じゃがマーレを止める役かの。西の情報なぞ多寡が知れておるし」
「レイルは確定。ペリーニャは拉致の危険性が有るから却下。慎重さに欠ける私も却下。従者2人は保険で確定。
カルはどうする?」
「同行します。結局心配で覗いてしまうのでいっそ」
「ふむふむ。グーニャは自宅待機。クワンティは勿論同行でと。ダリアの未来視は2日後出来そう?明日にする?」
「念には念をで明日の夜に」
「では明日夜出張メンバーを確定するとします。
明日の夕食までは全員お休み。遠征組は少し残る時差ボケ解消を。
ついさっき注意を受けたばかりですが19から21は秘密の宴。もう我慢が出来ないのでお許し下さい。
22より登山2本目南西口の右ルートを最大1週間。途中であっても撤収します。
今月残りと3月1日は事務棟発足前最終討議。レイルさんとプレマーレ以外は必須参加にて。
それと共に男子休息日を2日程。
私とアローマはお婆ちゃん家を訪問。
3月2日よりスタンさんとペリーニャの新婚旅行1週間。
宿の手配はスタンさんのお仕事です。
中旬にシュルツとスタンさんの個別健全デート。国内は同行しませんが地方へ飛ぶなら監視を2人付けます。
ダリアとファフの休みに合わせて秘密と個別デートを1週ずらしで。
間の数日は希望者と男子何方かで個別を少々。
スタンさんとしたい人挙手!」
名前が挙がった女子3人以外全員。
「予想通りですが困りました。明日の午後我が自宅にお集まりをば。ダリア抜きなのでくじ引きでも。
3月下旬に登山西口ルート。ガス溜りを回避する迂回路作成からなので登山行程は半分で終えるかも知れません。
4月上旬にスタンさんとダリアの新婚旅行。
そろそろ?好い加減?キリータルニアからの調査報告が来るでしょうと予測しまして遠征準備。一応4月一杯想定で空けます。
可能であれば4月末のお城の晩餐会。5月1日の闘技場新劇場の観覧をしたいと言う希望。
無理なら今年は諦め。
ロルーゼの選挙戦終わりを待ちロルーゼへ突入。
以上の予定を明日午前。在宅嫁4人で陛下に報告&昼までお茶会&昼食。シュルツとファフも来るなら同席を。
スタンさんはご自由に遊んで下さい。
エロいお店に行ったら半殺しでは済ませません」
「はい…」
怖いな。恐妻が復活して来た気が。でも幸せ。
「ソプランも同じですがレイルさんにボコられないようにご注意を。アローマ以外は寛容です」
「おぅ」
「イグニースさんへの事前連絡はキリーの進捗に合わせて誰か2人で向かいます。スタンさんが行くと興奮し過ぎで自己発火の危険が有るので他の人で。私が鎮火します。
他何か付け足し抜け漏れ有れば」
特に無し。
「では先程の件以外。明日の夕食まで自由解散とします」
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16日の午後は防音室でのんびり楽器遊び。
17日はソプランを誘い丸々夕方までラフドッグとギリングスで鰻釣りに興じた。その他食材の買い出しも。
ダリアの未来視は予定メンバーで問題無く。
西以外の話が色々聞けるとそのまま確定。
18日午前にロディとファフを誘い。抽出キット持参で南極の薔薇菜園を見に行った…のだが。
「すっご」
「凄いですね。黒と紫の花が一面に」
「香りは優しく心地良い。棘は控え目で一切絡まず自然に整うとは」
花を摘み花弁から蜜を。花片を煮立たせて香水を作ったりと午後の事なんてそっち退けで没頭。
オマケに嘗めても飲んでも問題無しと言う購入品よりも良品が大量に完成してしまった。
男の自分は何ともなかったが。ロディとファフが見詰め合い濃厚なキスを始め。互いの衣服を脱がそうとした所で外へ放り出し。冷気で頭を急速冷却。
「もう直ぐ大事な出張だって」
「こ、これはいけません…」
「な、何と言う魅力。思わず吸い寄せられて…」
冷静に戻って全て瓶詰めに専用棚へ並べた。
「明日投入するのは危険かな」
「でも私たちは覚えてしまったので」
「使います。誰が何と言おうとも」
購入した張本人の俺はもう止めようも無く。
「知ーらない」
「僕も知りません」
仲良く成るならそれで良し!
遅めのお昼をラフドッグの飲食店で済ませ。自宅で着替えていざ出張。の前に明日からのお弁当作りをたっぷり。
鰻はラメル君に全渡しで蒲焼きと酒蒸し焼きを依頼。
クワンが卵を10個納品してくれたのでシュルツには内緒の愛のカステラも作成。
夕食は軽めに全ての準備を整え…。どっちのや!
趣旨がブレにブレたがクワンジアへ出発。
久々のガンターネはこちらの面子を見て少々戸惑った。
「あの時の全員ではないのだな」
「護衛ならレイルだけで充分だろ。これだけでも過剰だ」
「まあ…確かに」
自分で台車を転がしシートを剥がして道具を説明。
「御方様からのご伝言と記憶を戻す切っ掛けの礼だと思ってくれ。今更目が覚めても全てが手遅れ。
元の世界にも戻れない。何処かに居るプレドラも長くこちらに居座り過ぎた。完全に定着してしまった今ではな。
礼品の説明を。罠解除と言っても色々だが主に時の牢獄の外装壁を破るのに使える。その奥の最終壁を破る術は持ってはいない」
知ってます。
「エラルズ側の入口はレイルダール様なら雑作も無く破壊出来るだろう。仕掛けは至って平凡。一層の奥を降りる手前に解除スイッチが側壁に隠されている。
内部構造は全五層。しかし本命は四層の隠し通路。出口向かい左手直ぐ。人一人分の細道が偽装されている。
他の置物は我楽多。屑が独自で集めた物だから罠ばかりだと思う。
どうしてここまで詳しいかは言う迄も無く。私も迷宮作成に関わったからだ。
その頃にはベルは離れていた。屑の危険性を認知して。
ずっと前から。何も知らなかったのは愚かな私だ。説明されても信じなかったに違いない。
使い方は簡単。罠の付近で強制起動させるだけ。形は大きいが他にも使える。旅に役立てると良い」
「助かる。俺の過去の事は何処まで知ってる」
「概要だけはな。詳しくは屑が隠した。ヌンタークとも仲が悪かったし。変態の主もまた変態か」
アローマの感想と一緒。本人はムッとしている。
「グズルードとも深い繋がりは無い。屑に紹介された時には既に一人のプラチナ冒険者だった。その強い身体を何故私に割り当てないのかと問うたが返答は無かった。
只西へ連れて行けと。其れなりの報酬を与えると言われ。それがこの身体だったのには自笑した。無様な道化だ」
一呼吸置き。
「この身体の前。君のスタプ時代に彫刻刀を売った行商はこの私。命ぜられるがまま。しかし君の眼は未来への希望に輝き満ちて。暫し使命も忘れ話し込んでしまった」
「あの時のはお前か…」
「モーゼスへの足掛りを作った所で役目を終えた。もしもあの時…。無駄だな。あの頃からスタプの彫像を使われていたし」
「今更言われてもな」
「そうだとも。西の複製も記憶を戻した。偽り塗れの二人して近場の機材を壊して回ったあの日は忘れまい。
ここの残存も西へ合流し中立を形成する。解体は不可能。山の王と深く関わり過ぎた」
「愚か者め!」
レイルの叱責が飛んだ。
「貴女様の仰る通りです。娘様を連れ去り現魔王を誕生させてしまいました…。実に愚か。謝っても謝り切れない途方も無い罪を。お許し下さるならば後もう少しだけ時間を頂きたい」
「もう良いわ。気分が悪い。西以外を話せ」
「はい。メレディスの残存は昨年消え。ロルーゼ内。ヌンタークの屋敷以外にも少々。
サザビラとノルムと王都内に。アルアンドレフが王位に就けば表に出て自滅する事受合い。
大した戦力も知略も無し。
レンブラントの残党も同じく雑魚。表に出ればローレライ派に粛正されます。
ボルトイエガルは言わずもがな。ニールトンから続く王族と下臣一派。動けば解り易いので潰すのは簡単。
キリータルニア東王都内に複製アデルとウィンキーが一緒に居ます。多少使える道具と劣化版の記憶複製道具もそこに。本体アデルは西に連れて行くので大きなのはそれだけです。
ウィンキーが記憶を自力で戻しニールトンと組めばまあまあの戦力。その程度なら賑やかしとして様子を見られても如何かと。
アデルとニールトンとで座標は何時でも見えます。
盾と隠れ蓑にしていた貧民街は開放されました。仮にウィンキーが空っぽの地下で自身を改造したとしても。先にオメロニアン様を救出してしまえば何も出来ずに複製アデルと共に残りの短い人生を終えるでしょう。
北の氷の城に私の複製が挟まっていますが出ても大狼様に蹴られてお終い。
状況を覆せる要素は本体アデル。屑に毒され過ぎた私と同じ道化の一人。裏切りは容易く。
家族もこの国の北部に在住。先手を打つならその家族をタイラントに移民させるのも手かと。スターレン殿や従者とも面識有りなら容易いかと」
「セントバさんとミゼッタか…。考えて置く。二次移民で2人だけを引っ張る理由が無い。本人たちの意思で動かさないと」
「モーランゼアの雑魚は先日何故か梟集団に喰われて死亡した。何故かな。そこの鳩神様がチラ付くのだが」
「気の所為だ。忘れろ」
「うむ。把握している分は以上。心残りはプレドラ…。今どうしているのか知らないか」
ソプランがプレマーレの背中を優しく押した。
一歩前に出たプレマーレが。
「あんた…ホントに気付いてないの?」
「きづ…?まさか…そ…」
三度の邂逅。通算で言えばどれ程の時を重ねているのだろうか。
竜鱗化してガンターネに近付き胸倉を掴み上げた。
「よくも!よくも娘を生贄にしてくれたわね!」
「そ、そんな…。レイルダール様の…配下に」
「解いて下さったのよ!偽りのクソ女神の呪いを」
「なる…ほど…」
「生かしてあげる。西で存分に地獄を味わうといいわ。
只一言。ベルエイガ様と私たちからの伝言。
性転換までしてきめぇんだよーーー」
見事な腹パンで吹き飛び。
「ガハッ」
大棚を数枚粉砕して止まった。
周囲の護衛は棒立ちで動けず。
「手加減はした。その程度で死ぬなんて許さない!」
残骸の中から這い出たガンターネは血反吐を垂れながら。
「心に、響く…痛みだ…。まだ死ねぬ!ほんの僅かでも、罪を償えるその日まで!西で待つ!」
「勝手にほざいてろ!!」
道具を回収してその場で転移。
深夜に差し掛かっていたが自宅待機組と眠い目を擦るシュルツに成果を報告してその日を終えた。
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3日後の昼過ぎ。現実へと戻ったバスローブ姿の面々を前にご挨拶。
「色々。ホントに色々有りましたが。今回何とキッチン周りの散乱を抑える事が出来ました。ある意味成長です。
狙い通りに女子同士の距離感が縮まり親愛で包まれた絆は強固に。男の俺たちは阻害されるのかと不安でしたがそれも無く。気持ち良くて普段よりも自然に愛情が伝えられました。
皆が満足でハッピーに成れたと思いきや。たった1人浮かない表情のレイルさん。何か嫌な事でも?」
「辛いよ…。将来のお別れが辛いのよ。私に大切な物をこんなに押し付けて。どうしてくれるのスターレン」
急に真面目な話に成ってしまった。
「それは…御免としか」
「プレマーレに人間化を使ったら自分の分が無いの。私だけが残るのよ…」
顔を覆って泣き始めた。それをプレマーレが抱き締め。
「レイルダール様…。従者の私の事など切り捨てれば良いのです。行く末は西で野垂れ死ぬ運命。見届けるお役目は私の方」
「ごめん…そんな積もりじゃ無かったんだ。皆で仲良く成りたいって」
「姐さん…」
ソラリマ装備のクワンが助言。
「かなり信者数も増えたので。スターレン様。あたしの鑑定をどうぞ」
「鑑定?何か付いたの?」
泣いていたレイルも顔を上げた。
特性:異種人間化(対象:仲間と認める者。現在2名分)
「つ、付いてる。もう既に2人分。現在進行形でまだ増えるのか」
「え…」
「これでファフとレイル様の分は確保出来ました。旅を終える頃にはまだ増えそうです。良かったですね」
クワンに抱き着き更に号泣。
「有り難うクワンティ…」
「裏切らないで下さいねレイル様」
「こんなの裏切れないよ。一生付いてく!」
カタリデ&ピーカー君。
「凄いわぁ。信者数に対しての伸び代が。仲間内に特化してるからかな」
「凄いですねぇ。まだ増えるなら僕の分も期待したり」
深く関わってる所為か躊躇い無く。
「まだ安心は出来ないわ。肝心の年代制御が付いてない。性別は維持されるけどレイルとプレマーレ。ファフとピーカー君は人間寿命を遙かに越えてる。私も経験無いし。
レイルもやった事が無いならクワンティと一緒にオメロニアンがイグニースに施す時のを参考に覚えて」
「はい!バッチリ拝見します」
「うん。参考にする」
「でも良かったぁ。足掛りが掴めてるのは」
「ホント良かった。今回で前以上にレイルの事が大好きで大切な人に成っちゃったし」
フィーネも感涙。
「スターレンからも離れてやらないから。子供は産んであげられないけど内縁でも何でも責任取り為さいよ」
「志かとお受け致します。枠は増やせないけどそんな物は形だけ。どうにでも捻じ曲げるさ。シュルツも許してくれるだろう」
「きっと大丈夫。内心解ってる筈だから」
まさかの9人目がここで決まった。
「ではでは片付け掃除洗濯お風呂を済ませて」
「明日からの登山に備えましょう!」
絆がより強まった我が隊。南西登山口右ルートでも滑落者は無し。イチャラブ意気投合で狂いも無く。早々に終えて右奥山頂の景色を楽しみ西口の迂回路をさっさと形成。
3月の準備を万端に2月の登山訓練を終えた。
男の休息日以外俺だけ毎晩行き先が増えてしまったが何のその。愛の為なら男は走る。レイルの方にはソプランを道連れに。プレマーレがセットで居るので問題無し。
そして迎えたペリーニャとの新婚旅行。
リオン側の北1番。温泉宿場に拠点を構え。
「さあどうしようロナ。宿の変更は可能。行き先は多岐。俺が行ってないデオン側の南西1番。南1番。リオン側の東1番2番。南1番も半分残し。北1番のここも全部は見れてない。迷うね」
「迷いますね。南西一番は駄目です。フィーネ様がセラ様と行けるのを非常に楽しみに居られますので」
「はい1つ消えましたと」
南北に縦断するルーナ両国の河川。何処に鰻が居るかよりも川辺面積が圧倒的に多いリオン側が怪しいと目星。
北1番の温泉街は何度も回って調査済。
東の2つはペイルロンドとレンブラントとの街道窓口。そんな所には希少店は置かないだろうと一旦外し。略固定店しか入っていない北2番と南2番だと推定。
しかし初日は王都でペリーニャのお土産雑貨探し。まずは無難に簪を購入。
「…」
無言でその簪と俺を交互に見比べる可愛いペリーニャ。
「好い加減にしなさいロナ。最大想定で10人分。そんなに装飾品の種類が有ると思うかね。男を試す貪欲さは嫌いじゃない。けどそれも程度問題。
何か欲しい物が有るなら言う。差を付けたいならヒントを与える。頻繁に指輪を買えば本来の意味が薄れる。賢く動かさないと男は解らない。
女性に温厚な俺でも終いには怒るぞ?明日で楽しい新婚旅行も終わりだ」
「う、嘘です!冗談です。御免為さい。見て回っている間に自分で考えます。これは一番として」
「宜しい。苛めてごめん」
「いいえ。今ので目が覚めました。我が儘の言い過ぎは良くないと」
「男女問わずだと思うぞ。そう言うのは」
「はい…。甘え下手で済みません」
悄気る彼女を路地裏に連れ込み優しく抱き締めヨシヨシと撫でた。
手繋ぎ王都内の散策を続けこちら時間の夕方。
「朝のような昼をしっかり食べてお腹は程良く空いてる?」
「はい」
「でもここで入れてしまうと半端な時間。宿の夕食が台無しで勿体無い」
「間違い無いですね」
夜間用の提灯や街灯へ移り変わる歓楽街入口に着き。右腕に絡むペリーニャの手が強張った。
「ここは、駄目です」
「夫婦やカップルで来てる客を誘う訳が無い。逃げれば済む話だ。ここは遊郭だけじゃない。普通に夜景を楽しみしっとりお酒を嗜む店もちゃんと在る。なんで俺たち男を信じてくれないのさ」
「…はい。済みません。その目でセラ様を見られるのも嫌なので。信じるとか以前に」
「人の目を気にしちゃ駄目。俺たちは単独でも有名人。毅然とした態度で居れば遊びは寄って来ないよ」
「はい…我慢します」
我慢する程なのか…。
それが女心です。
だろうね…。ロディ。自重は?
御免為さい!
幅の広い緩やかな登り石階段。両側を彩る煌びやかなお店の数々。頂上付近には遊郭が数軒。途中から分岐する夜間営業の飲食店や茶店。
その一角にひっそりと佇む香ばしい煙を昇らせるお店。
「ほらやっぱり在った」
「鰻屋…。細波」
「おぉ~在ったわね」
「地下ではなく堂々と地上に」
「1日の疲れを癒すとか。これから遊びに行くぞとか。店が在るなら絶対ここだと思ってた。誰も入ってない場所」
「歓楽街…。思慮不足でした」
受付さんにお昼の営業を聞くと。
「勿の論でやってます!寧ろ来られるのが遅いです!」
「嫁さんたちが近付くなって邪魔してね」
「御免為さい…」
「成程。イメージとは中々覆せませんものね。ここで一つ歓楽街のご説明を。
ここ一帯の飲食系は昼間も絶賛営業中。頂上付近の遊郭は二種類。お手付き有りの店と健全な無しの店。有りなら桃色の幟旗。無しは藍色の旗が目印。勧誘行動は一切無いのでご安心。
お持て成しするお客様のご気分を害す事など有り得ませんとも。
デオン側にも似たような造りで別種のお店が。そちらにもお足のお運びを。
有りは殆ど異国の殿方が。無しでは花札や双六や扇子投げや芸者たちの舞踊。三味線聴き弾き遊び等々を心行くまで最高級の米酒を楽しむお店です」
「やっぱりちゃんと用意してるよね。健全な方も」
「反省です。帰って報告しないと」
「ロイドに伝えさせるからいいよ気にしなくて」
責任持って伝えるように。
はい!私も反省を。
「お空を舞えるスターレン様には無意味ですが。遊郭を越えた頂上には隣王都まで一望出来る展望台が御座います。お時間有れば是非お立ち寄りを」
「それは良いね」
「行ってみます」
明日の昼に来ますと退店。
「展望台も明日以降に取って置こう。そろそろ宿が」
「良い時間ですね」
夕食メニューは健康的な山菜尽し。プルプル黒ごま豆腐に感動。自分たちでも作ろうと誓い合った。
今宵は出掛けず内風呂露天で水入らずでしっとりと。
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2日目以降は両王都で未踏破エリアの散策。
デオン側には鰻屋の代わりに海鮮点心屋が在った。
南1番で磯焼き尽しを堪能。大蒜醤油が堪らない!
その時だけはクワンが乱入して仲良くご一緒。
小豆入りライ麦シフォンでお茶。
雑貨屋巡りで金銀細工のブレスレットを購入。
南西2番での新装アトラクションツアー等々。
秘湯と大露天風呂も忘れず楽しみ充実した7日間。
あっと言う間にチェックアウト日。
温泉饅頭を土産に最後の足湯。
「名残惜しいけど」
「そろそろ帰りませんと…。セラ様のお後が詰まっていますし。事務棟のお仕事がノータッチで終えてしまいます」
「だよなぁ。事務棟と個別デートと登山。幸せな方向で忙しくなった」
「私は辞退しましたが結局全員。頑張って下さい」
「ういっす。1人1人疎かにせず頑張ります。行き先は決めてくれるから楽だけど」
事務棟2人以外とは正妻フィーネから順番となった。
登山の前には秘密の宴。その前2日は男2人の休息日。
それまで飛び飛びでしか事務棟のデスクに座る事は無い。
自分の仕事は纏め報告書を読むだけなのだが。申し訳無いと言うか何と言うか。
事務棟の主な仕事内容。
城にもロロシュ邸にも入れない一般者向けの申告窓口。何処かで怪しい人物や集団を見掛けた。王都外で悪い噂を耳にした。中央大陸の隠れ迷宮、新迷宮の発見情報。
ギルドに頼めない独自依頼等をティンダー隊で受付面接で篩いに掛ける。
真偽を見極め模擬戦希望ならロロシュ邸内の訓練所を借り受けティンダー隊とサイネルたちでお相手。
強ければタツリケ隊、ゼファー&カーネギ、最終はファフに昇格する。ゼファーコンビも負荷バンドで強化を続けているのでファフに辿り着ける者など存在しない。居たら既に有名人。嘗ての闇商関係者の発掘が主旨。
荷物の配達なら支配人受理後トロイヤたちが担当。行き先での下見調査を含め。調査は複数人で飛ぶ。
表に出せない商品の商談なら裏で上位者が鑑定したり買取りや返却も。
一般商談ならギルド行けや。相談なら城の通常窓口行けやこらとお断り。こちらもティンダーが一手に受付。裏に何か有るなら覆面シュルツと自宅担当侍女衆がファフの護衛付きで臨時対応。
要するに…俺に出番は無い。デスクで本を読み珈琲を飲みラメル君の特性ランチを頂き自宅に帰る一連。
余程の重大事案が飛び込まないと会議室すら稼働しない。勿体無いので自宅リビングで打ち合わせしてる案件を広々スペースで使うとか。暇潰しに来たレイルとお喋りするだとかの日常に転用。
本格稼働させる日は来るのだろうか…。もう来ない気も。
帰宅後翌日に初出勤。の翌日フィーネとの個別デート。
目的地はルーナデオンの南西1番街。
「この町に何か有るの?」
「内緒」
と答える彼女に手を引かれ。辿り着いた先は大きく開けた南西海岸の崖の上。
爽やかな潮風が吹き抜ける絶景スポットだった。
肩を寄せ合い乾いた岩肌に腰掛け。
「気持ちの良い場所だね。風が程良く暖かで。南海の海を一望独り占め。水竜様とお話とか?」
「それも有るけど…。ブリッジの件でレイルにどうして悪用したのかを尋問された思い出の場所。あれが切っ掛けで解除を考え始めた場所なの」
「そっか。ここでレイルとフィーネが決意を固めたんだ。全く逆方向に」
少し笑い。
「ホントそれ。直ぐに解除してたらレイルも怒らなかったのに臆病な私が邪魔をした。スタンに…嫌われたくなくてウジウジ躊躇ってた」
「うん…。俺からも言うべきだった。俺もフィーネがどっかに居なくなるんじゃないかって怖くて言い出せず。やっぱり俺たち」
「似た物夫婦だね。出会った最初から」
顔を寄せてキスを交す。涙は無いのに切ない味がした。
唇を離したフィーネが。
「今後も。人数が増えても個別デート組んでもいいかな」
「勿論。1人1人の時間作らんと。南極も被りたくないから遠征以外は月跨ぎで2つ場所に固定するとか」
「被ると合流しちゃうもんね」
「そそ。個別の意味無くさないように」
「うん。その辺も調整しなきゃね。後の2人が嫌がるかも知れないし。各自宅も使えるんだし。何よりシュルツの心を傷付けないようにしないと」
「だね。彼女自身には辛くても。シュルツが未成年で良かった。成人してたらとっくに勇者隊は崩壊してたと思う」
「間違い無いわ。シュルツはストッパーで私たちの最後の良心ね」
「ピッタリな言葉だ。で、これからのご予定は」
「当然鰻、と言いたい所ですがスタンさんが毎日鰻重に成ってしまいますので諦めまして。デオンタイザの点心お持ち帰りを買いつつ近くでお茶も。その後は言葉にしなくともご理解下さい。自分からは恥ずかしいよ」
「ごめん。今のは俺が悪い。デリカシーが無かった。反省すると共に同じ気持ちです」
「ありがと♡」
いかんいかん。デリケートな女性に対しての配慮を忘れてはいけない。
時間の掛かる点心セットを注文し真向かいの茶店でのんびりと待つ間に王都内外の近況を聞いた。
城での選考では未だ強者は現われず。来年前半で一応の区切りを付けるかも。
先週の旅行中にメルシャンの第一子女児誕生。母子共に健康で名前はライザーが付けたアネモネ。
昨年生まれていたメルフィスの第一子男児はモンテルクと言う名。
マリーシャの所も無事12月始めに男の子。
ミーシャとシルビィもそれぞれ年始めに婚約成立。4月の晩餐会後に同時に婚姻の流れ。もう尻に敷かれてる状態らしい。
ジョゼの料理の腕が全く上達せず。キレたソプランがアローマと一緒にスパルタ教育を実施。何の料理本を読んでるんだと問い正した所。何も読まずに我流だと堂々と答えアローマが平手打ち。首根を掴み幾つか本を読ませてロロシュ邸本棟料理人に弟子入りさせ。整えば来月のお花見会で幾つか出品させる。
ライザーのお相手確定。ウィンザート旧派閥貴族の御令嬢でリシャーノ。こちらも晩餐会でお披露目。直ぐ後5月内に婚礼まで。流石に3度目はシャレに成らないので俺が会うのは婚礼後。もう枠は埋まってますと強く念押し済。
「リシャーノさんは面識無いから大丈夫っしょ」
「そう考えてるのはスタンさんだけよ。クインザの海賊船から助け出した当時16歳の女の子と言えば?」
「ヤバいっす。助かりました」
「予防線を張るのは大変なのです」
話題を変更。
「ジョゼ我流だったのか。フィーネは食べた?」
「壮絶に酷かった。ピーカー君在住時のフラーメよりも味付けが濃くて。焼き物揚げ物煮込み物。全部真っ黒イカ墨入れたんですか?状態まで黒焦げ。ティンダーさん良く死ななかったなと皆で感心した程よ」
「うわぁ~」
「自分事ですが、うわぁ~」
口外出来る世間話を続け点心セットが届き。俺から南極拠点へ誘い夜まで2人切りでしっとり愛を育んだ日。
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順調に個別デートを重ね。
秘密の宴3日前。最後にレイルと。
これまでの営みや秘薬や愛の囁きで全部の壁が壊れた彼女は俺の前でだけ甘えるように進化した。
その日は朝から南極拠点に入り浸り。愛を重ねて彼女の手作り。トマトとベーコンとレタスサンドと苺のムースを昼に食べ。
食べ終わりと同時に膝上に乗り首に巻き付き。
「どうだった?今日のは全部私が作ったのよ」
「とっても美味しかった。サンドのハニーマスタードソースがトマトの程良い酸味と相まって。苺のムースも甘さ控え目で苺本来の味が活きてて濃厚で」
「良かった♡」
流れからの濃厚キス。
辛抱堪らずベッドまで運び押し倒した。
興奮冷めぬままにお顔が接近。
「ねぇねぇスターレン」
「何かな?ご褒美とか?」
「ご褒美は今日と秘密で充分よ。それより私の指輪は何時買ってくれるの?愛人枠なら順番関係無いし何時でもいいのよね?ね?」
「ん~。考えてない訳じゃ勿論無いけど困ったな。来月以降の8人目まで埋まったらじゃ駄目?」
「いーやぁー。遅いよぉ。やる気半減。フィーネじゃないけど救出の手抜きしちゃうよ?」
「それは大問題だ」
レイルの背中と頭を抱きながら暫し考え。
「タイラントじゃ買えないし作れない。今日明日にシュルツとファフに一言入れて。その後ロイドと同じリオンの南2番で買おう。ロイドのとは違う店で他にも2軒良いとこ在ったし」
「うん♡それで良い」
再び濃厚キスからの迷わずもう1回。
その後も夜まで…。
「デレッデレ。魔族の最上位も変われば変わるものねぇ」
「嘗ての面影が…何処にも見付かりません」
夜遅くに帰宅したのでが偶然にもシュルツとファフがリビングで在宅嫁4人と歓談中。
レイルの指輪を先に買いたいと告げると空気が一変。
「それは困りますお兄様」
「困りますね旦那様」
ファフは何時…その呼び名に?
「嫌よ。私は自由枠。序列とは関係無いもの」
「いいえレイル様。これだけは譲れません」
「譲れませんね一歩足とも」
3人の乙女が火花を散らす。その中で冷静にシュルツが。
「妥協案としまして。明日事務棟仕事を放り出し。
私の婚約指輪とファフ様の結婚指輪を都内で購入して頂きます!
レイル様は仮の七番目、と言うのは如何でしょう」
「む…仕方無いわね。ファフがいいなら」
「私もその案に賛成です。誓いの言葉は来年だとしてもレイルさんを心から祝福出来ません」
一瞬で決着。
「ごめんフィーネ。ダリアと事務棟任せてもいいかな?」
「楽勝よ。今日でもエルラダさんと一緒にデスクでずっとお茶しながら編み物してた位だし」
「来月位までは何も起きないと…。未来視ではなく何か起きる要素が皆無で。ゆっくりお買い物を。そちらの方が重要で最優先です」
「じゃあ2人は明日午前トーラスさんの店。レイルは明後日の早朝出発でリオン行き」
「「「はい!」」」
こんな一幕が有りました。どんなに仲が良くても拗れる時は拗れます。多妻って難しい…。
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円満なショート版秘密の宴を乗り越え。登山でも無事に最長不倒をきっちり1週間で果たし。
ダリアとの幸せ絶頂な新婚旅行を経てのお花見会。
ジョゼの外側丸焦げ中は生の謎ハンバーグがお目見えしたがラメル君が修正。焦げを取り除きトマト煮込みと蒸し焼きにして大根下ろしと茸の醤油タレを掛けた和風ハンバーグで出し直された。
「ジョゼさんは…。蒸し料理から始めた方が良いようで」
「私もそう思ってた!」
「思っていたなら最初からお遣りなさい!」
アローマのビンタを喰らって沈んだ。
「これ以上打たないで姉様。余計馬鹿に成る…」
反省の色が違う気がしなくも。
夜は来客を帰し。桜の周囲に壁を張り厳かなキスの嵐。
俺は女性陣全員と。ソプランは自嫁とプレマーレとレイルの限定でたっぷりしっとり長時間。
夜桜の景観もしっかり堪能。
そして遂にやって来たキリータルニアからの報告書と再訪問の案内。
お花見会から2日後の事である。
陛下と関係者の前で読み上げ。
「調査自体よりも根回しに時間を喰っていたようです。両王が呪いで狂っているので仕方無し。
こちらは別案件より必要な鍵と解除対策道具を入手済。
後は飛び込むだけです。陛下のご決断は」
「決断も何も無い。そちらの案件はお前に任せると言ったのだからな。神に囚われた神を救う。前代未聞。誰も成し遂げなかった偉業を為すのだ。
心して掛かれ。出発は何時でも良い。事務棟は稼働させてもダリアの内務業務は今月一杯停止する」
「有り難く」
「御拝命に預かります」
出発は更に2日後の12日早朝に決定した。
珈琲を一口。フィーネを見ながら。
「いやぁ良く止まってくれました。ペリーニャ様とダリア様に感謝して下さい。上から見てて冷や冷やでしたよ」
「…正妻としてお恥ずかしい。しっかり者の妹分が増えた幸せ者だとの認識で頑張る所存です。蜂蜜はこの後直ぐに買いに走らせます」
「もっと前からそうして下さい。
屑女神が低迷期に突入した今でしか勝利の道は有り得ません。
オメロニアン様とイグニースさんを救った後。最終仕上げに何をするのか。それは偏にモーランゼア王都ハーメリン城の中枢。可逆の歯車に関わる部分のみをこっそり撤去する事です。
さすれば時の女神の力は完全に消え去り世界の時も正常化されます。それが完全勝利。使命の終わりでは無く。
オメロニアン様の力が奪われたままでは叶わぬ所業。順序はお間違え無きように。
第一に白竜から出た金の鍵でエラルズゴーザ迷宮の中枢のロックを解除。エラルズの記憶管理機能が消失。するとゲネルトロ迷宮側の奥の扉が開かれます。手前扉はソプランさんの通常解錠具で結構。
二枚扉を抜けた先に時間牢獄。そこにオメロニアン様が監禁状態。
ガンターネから受け取れる罠解除で牢獄外装の除去。
ハープの音色で最終檻の破壊。
オメロニアン様ご自身の身体に埋め込まれた破滅の小石はレイルダール様が手刀で取り除くと同時に最高硬度の呪詛で包み。クワンティ様が上空まで瞬間で運び解放すると言う流れです」
「「はい」」
「オメロニアン様が檻の外へと出さえすれば屑に奪われた力が戻り。イグニースさんと引き合わせて後はお任せ。
モーランゼアの仕上げは年内後半で訪問する時が最適。ここまで聞けばお解りですねフィーネ様」
「はい。全てを完結出来るのは今この時しか無かったと」
「その通り。ですので今回供与するのは助言のみ。手順の解説に参りました。
キリータルニアの迷宮内では当然。スターレン様、フィーネ様、ペリーニャ様の手出しは御法度。再会を喜び合うのは外に出た後で。
流れ的に全てレイルダール様の御主導で執り行うのが望ましく理想です。如何でしょう貴女様のご意向は」
「ええ理解してるわ。スターレンの為なら幾らでも手を貸す積もりよ。初めから」
「貴方は熟々運の良い御方ですスターレン様」
「全く以て。レイルと出会い。許されてなければあの時点で終わってたね」
「でしょうね。今年の成功失敗に関わらず。来年二月にラザーリアで重大事案が勃発します」
「え?なんで?」
そんな急に?
「その内容は伏せます。天の上から楽しく見物させて頂きます」
「責めてヒント位は」
「どうしよっかなぁ」
我らがクワンの助け船。
「貴方あたしの案内役兼任してるよね。ならあたしにも罰を与える権限が有ると思うのだけど。何なら御方様の私室にお邪魔しようかしら」
「ちょ、それは駄目です。そんな事されたら私は一気に地獄行きですよ」
「だったらヒント出しなさい」
「言うんじゃなかった…。ヒントは、まさかの九人目。ここまで言えば充分でしょ」
「え!?クルシュが?」
「うっそ…」
「女心は秋の空と良く申します。内に秘めた想いは時に同性でも見抜けぬ物。隠すのが上手ならば。大狼様のお膝元で初手に見せたあの反応。フィーネ様が激怒していた事をお忘れですか?」
「「あぁ…」」
2人で顔を見合わせ意気消沈。
「八人目までの謎枠が発表された今。これもしかして自分では?と考える関係御婦人は幾らでも。何せ婚約もしていないのですから当然です。
回避したいならこれから救うお二人の発表を早急に」
「取り敢えずその方向性で。後でスケジュールを見直そうじゃないかフィーネ君」
「そうね。まだ11月からの余力時間は有る。そこで円満解決の道を探りましょ」
「本日の最後に幾つか。
振り返りのネタは尽きましたが殿方の一人休息日は必ず設ける事。この意味は女性陣側がお察しを」
フィーネが女性陣をグルッと見渡し。
「あ!それは非常に困ります!」
「ご理解して頂けて光栄です。今の減り張りは使命を果たした後に真価を発揮します。努々お忘れ無きように」
「はい!何としてでもそれは必ず」
「焦らなくてもいいよ。シュルツが成人迎えた後でもゆっくりと。男のそれは精神的な物だし時間を置けば自然に治るからさ」
「今は全然余裕だ。年齢的に俺の方が早いかもな」
「う、うん。頭の片隅に置きます…」
女性一同が胸を撫でた。
「私の登場予定は後二回。屑に完全勝利の報酬と来年二月を上手くスターレン様が乗り切れたらそのご褒美を考えられて居られるそうです。
完全勝利の方はまた未完成品です。エルラダさんに関わる医療器具でベルエイガ様の最終巻に記載が無く。異世界日本に存在した初歩的な医療技術。スターレン様なら思い出せるかと」
「…ん?何だ?あれ…は違うな」
シュルツの顔を見ながらふと。
「あれか。確かに抜けてた。シュルツ。後で最終巻読み直そう」
「はい!その時にご説明を」
「勿論」
「プレマーレ様。一度だけファルロ様と直接お話出来る道具を持っています。今回か次回何方が宜しいでしょう」
「…次回で。今声を聞いてしまうとガンターネとシトルリンを殺しに行ってしまうので」
「賢明な判断です。では次回にて」
アローマが蜂蜜を買いに走っている間に他事を。
「今のこの流れで異界の神が降臨する可能性は?」
「先ず以て無いです。現状でも水竜様が頂点。クワンティー様が急進勢力。オメロニアン様に力が戻り。アウスレーゼ様が保持したまま。
要素が有るのは只一点。蠅の王を先に魔王様が討伐してしまうその時。今は存在自体知られてません。それを知るガンターネとシトルリンが伏せている状態。複製の方が裏切らなければですが。
魔王様よりも先に討伐。魔王様と決着を着ける時が使命の終わり。屑女神を排除した後なら何時でも。
余裕とは言っても五年以内が望ましいかと」
「そこまでの余裕は無くていいや。2年後には手探りを始める予定だし。安心したよ」
「うんうん」
今回は荷物が少なかったからとアローマが購入したセットの小瓶の方をそのまま持ち帰ったグリドットを見送りシュルツの工房で打ち合わせ。
結局フルメンバーが同席する最中。
「さっきグリドットが言ってた医療器具はペースメーカー。心臓の筋肉。心筋の動きを一定に保つ器具の事」
フィーネとカタリデがあぁと納得。
「だとすると胸に直接埋め込むのですか?」
「そう。だから使える金属はマウデリンかチタン。電気信号を心臓の外側に与えるから雷魔石の粉が必須。
低圧用と高圧用の2種類波形を作り出さないといけないから連鎖の数珠で回路を仕上げる感じだと思う」
「成程。では時計回路のあの項目ですね」
「正解。あの部分を読み解いて準備をして欲しい。間に合いそうにないなら俺かフィーネで解説する」
「読解を楽しんでいる場合では無くなりましたね。五月目処で何とか。無理なら早めにご相談します」
「宜しく」
少し伸びをして。
「開発中のカテーテルとステントの方は順調?」
「はいお兄様。試作品は何品か。処理待ちの豚さんを麻酔で眠らせて臨床試験が始まった段階です。
但し内視鏡の開発が極めて困難。現状ではとても間に合わず上級鑑定ゴーグルを作成するか。ブランちゃんを投入するしか手が無さそうで」
「そっかぁ。元々血管の中を覗くのは無理だったし。中の上のゴーグル作ってマウデリンチップ付与で俺かペリーニャで試そう。ブランは保険で」
「「はい」」
「皆集まってるから聞くけど。明後日18日のクエ訪問はどうする?俺とプレマーレは必須。他はフィーネさん」
「どうしようかしら…。まだ誰も入ってない南倉庫だし。団体で乗り込むと目立つ。衛兵の目はブランちゃんで妨害出来るとしても。レイルは?プレマーレを止める役か。ちょっと脅して西の情報早めに取るか」
「じゃのぉ…。悩ましい所じゃがマーレを止める役かの。西の情報なぞ多寡が知れておるし」
「レイルは確定。ペリーニャは拉致の危険性が有るから却下。慎重さに欠ける私も却下。従者2人は保険で確定。
カルはどうする?」
「同行します。結局心配で覗いてしまうのでいっそ」
「ふむふむ。グーニャは自宅待機。クワンティは勿論同行でと。ダリアの未来視は2日後出来そう?明日にする?」
「念には念をで明日の夜に」
「では明日夜出張メンバーを確定するとします。
明日の夕食までは全員お休み。遠征組は少し残る時差ボケ解消を。
ついさっき注意を受けたばかりですが19から21は秘密の宴。もう我慢が出来ないのでお許し下さい。
22より登山2本目南西口の右ルートを最大1週間。途中であっても撤収します。
今月残りと3月1日は事務棟発足前最終討議。レイルさんとプレマーレ以外は必須参加にて。
それと共に男子休息日を2日程。
私とアローマはお婆ちゃん家を訪問。
3月2日よりスタンさんとペリーニャの新婚旅行1週間。
宿の手配はスタンさんのお仕事です。
中旬にシュルツとスタンさんの個別健全デート。国内は同行しませんが地方へ飛ぶなら監視を2人付けます。
ダリアとファフの休みに合わせて秘密と個別デートを1週ずらしで。
間の数日は希望者と男子何方かで個別を少々。
スタンさんとしたい人挙手!」
名前が挙がった女子3人以外全員。
「予想通りですが困りました。明日の午後我が自宅にお集まりをば。ダリア抜きなのでくじ引きでも。
3月下旬に登山西口ルート。ガス溜りを回避する迂回路作成からなので登山行程は半分で終えるかも知れません。
4月上旬にスタンさんとダリアの新婚旅行。
そろそろ?好い加減?キリータルニアからの調査報告が来るでしょうと予測しまして遠征準備。一応4月一杯想定で空けます。
可能であれば4月末のお城の晩餐会。5月1日の闘技場新劇場の観覧をしたいと言う希望。
無理なら今年は諦め。
ロルーゼの選挙戦終わりを待ちロルーゼへ突入。
以上の予定を明日午前。在宅嫁4人で陛下に報告&昼までお茶会&昼食。シュルツとファフも来るなら同席を。
スタンさんはご自由に遊んで下さい。
エロいお店に行ったら半殺しでは済ませません」
「はい…」
怖いな。恐妻が復活して来た気が。でも幸せ。
「ソプランも同じですがレイルさんにボコられないようにご注意を。アローマ以外は寛容です」
「おぅ」
「イグニースさんへの事前連絡はキリーの進捗に合わせて誰か2人で向かいます。スタンさんが行くと興奮し過ぎで自己発火の危険が有るので他の人で。私が鎮火します。
他何か付け足し抜け漏れ有れば」
特に無し。
「では先程の件以外。明日の夕食まで自由解散とします」
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16日の午後は防音室でのんびり楽器遊び。
17日はソプランを誘い丸々夕方までラフドッグとギリングスで鰻釣りに興じた。その他食材の買い出しも。
ダリアの未来視は予定メンバーで問題無く。
西以外の話が色々聞けるとそのまま確定。
18日午前にロディとファフを誘い。抽出キット持参で南極の薔薇菜園を見に行った…のだが。
「すっご」
「凄いですね。黒と紫の花が一面に」
「香りは優しく心地良い。棘は控え目で一切絡まず自然に整うとは」
花を摘み花弁から蜜を。花片を煮立たせて香水を作ったりと午後の事なんてそっち退けで没頭。
オマケに嘗めても飲んでも問題無しと言う購入品よりも良品が大量に完成してしまった。
男の自分は何ともなかったが。ロディとファフが見詰め合い濃厚なキスを始め。互いの衣服を脱がそうとした所で外へ放り出し。冷気で頭を急速冷却。
「もう直ぐ大事な出張だって」
「こ、これはいけません…」
「な、何と言う魅力。思わず吸い寄せられて…」
冷静に戻って全て瓶詰めに専用棚へ並べた。
「明日投入するのは危険かな」
「でも私たちは覚えてしまったので」
「使います。誰が何と言おうとも」
購入した張本人の俺はもう止めようも無く。
「知ーらない」
「僕も知りません」
仲良く成るならそれで良し!
遅めのお昼をラフドッグの飲食店で済ませ。自宅で着替えていざ出張。の前に明日からのお弁当作りをたっぷり。
鰻はラメル君に全渡しで蒲焼きと酒蒸し焼きを依頼。
クワンが卵を10個納品してくれたのでシュルツには内緒の愛のカステラも作成。
夕食は軽めに全ての準備を整え…。どっちのや!
趣旨がブレにブレたがクワンジアへ出発。
久々のガンターネはこちらの面子を見て少々戸惑った。
「あの時の全員ではないのだな」
「護衛ならレイルだけで充分だろ。これだけでも過剰だ」
「まあ…確かに」
自分で台車を転がしシートを剥がして道具を説明。
「御方様からのご伝言と記憶を戻す切っ掛けの礼だと思ってくれ。今更目が覚めても全てが手遅れ。
元の世界にも戻れない。何処かに居るプレドラも長くこちらに居座り過ぎた。完全に定着してしまった今ではな。
礼品の説明を。罠解除と言っても色々だが主に時の牢獄の外装壁を破るのに使える。その奥の最終壁を破る術は持ってはいない」
知ってます。
「エラルズ側の入口はレイルダール様なら雑作も無く破壊出来るだろう。仕掛けは至って平凡。一層の奥を降りる手前に解除スイッチが側壁に隠されている。
内部構造は全五層。しかし本命は四層の隠し通路。出口向かい左手直ぐ。人一人分の細道が偽装されている。
他の置物は我楽多。屑が独自で集めた物だから罠ばかりだと思う。
どうしてここまで詳しいかは言う迄も無く。私も迷宮作成に関わったからだ。
その頃にはベルは離れていた。屑の危険性を認知して。
ずっと前から。何も知らなかったのは愚かな私だ。説明されても信じなかったに違いない。
使い方は簡単。罠の付近で強制起動させるだけ。形は大きいが他にも使える。旅に役立てると良い」
「助かる。俺の過去の事は何処まで知ってる」
「概要だけはな。詳しくは屑が隠した。ヌンタークとも仲が悪かったし。変態の主もまた変態か」
アローマの感想と一緒。本人はムッとしている。
「グズルードとも深い繋がりは無い。屑に紹介された時には既に一人のプラチナ冒険者だった。その強い身体を何故私に割り当てないのかと問うたが返答は無かった。
只西へ連れて行けと。其れなりの報酬を与えると言われ。それがこの身体だったのには自笑した。無様な道化だ」
一呼吸置き。
「この身体の前。君のスタプ時代に彫刻刀を売った行商はこの私。命ぜられるがまま。しかし君の眼は未来への希望に輝き満ちて。暫し使命も忘れ話し込んでしまった」
「あの時のはお前か…」
「モーゼスへの足掛りを作った所で役目を終えた。もしもあの時…。無駄だな。あの頃からスタプの彫像を使われていたし」
「今更言われてもな」
「そうだとも。西の複製も記憶を戻した。偽り塗れの二人して近場の機材を壊して回ったあの日は忘れまい。
ここの残存も西へ合流し中立を形成する。解体は不可能。山の王と深く関わり過ぎた」
「愚か者め!」
レイルの叱責が飛んだ。
「貴女様の仰る通りです。娘様を連れ去り現魔王を誕生させてしまいました…。実に愚か。謝っても謝り切れない途方も無い罪を。お許し下さるならば後もう少しだけ時間を頂きたい」
「もう良いわ。気分が悪い。西以外を話せ」
「はい。メレディスの残存は昨年消え。ロルーゼ内。ヌンタークの屋敷以外にも少々。
サザビラとノルムと王都内に。アルアンドレフが王位に就けば表に出て自滅する事受合い。
大した戦力も知略も無し。
レンブラントの残党も同じく雑魚。表に出ればローレライ派に粛正されます。
ボルトイエガルは言わずもがな。ニールトンから続く王族と下臣一派。動けば解り易いので潰すのは簡単。
キリータルニア東王都内に複製アデルとウィンキーが一緒に居ます。多少使える道具と劣化版の記憶複製道具もそこに。本体アデルは西に連れて行くので大きなのはそれだけです。
ウィンキーが記憶を自力で戻しニールトンと組めばまあまあの戦力。その程度なら賑やかしとして様子を見られても如何かと。
アデルとニールトンとで座標は何時でも見えます。
盾と隠れ蓑にしていた貧民街は開放されました。仮にウィンキーが空っぽの地下で自身を改造したとしても。先にオメロニアン様を救出してしまえば何も出来ずに複製アデルと共に残りの短い人生を終えるでしょう。
北の氷の城に私の複製が挟まっていますが出ても大狼様に蹴られてお終い。
状況を覆せる要素は本体アデル。屑に毒され過ぎた私と同じ道化の一人。裏切りは容易く。
家族もこの国の北部に在住。先手を打つならその家族をタイラントに移民させるのも手かと。スターレン殿や従者とも面識有りなら容易いかと」
「セントバさんとミゼッタか…。考えて置く。二次移民で2人だけを引っ張る理由が無い。本人たちの意思で動かさないと」
「モーランゼアの雑魚は先日何故か梟集団に喰われて死亡した。何故かな。そこの鳩神様がチラ付くのだが」
「気の所為だ。忘れろ」
「うむ。把握している分は以上。心残りはプレドラ…。今どうしているのか知らないか」
ソプランがプレマーレの背中を優しく押した。
一歩前に出たプレマーレが。
「あんた…ホントに気付いてないの?」
「きづ…?まさか…そ…」
三度の邂逅。通算で言えばどれ程の時を重ねているのだろうか。
竜鱗化してガンターネに近付き胸倉を掴み上げた。
「よくも!よくも娘を生贄にしてくれたわね!」
「そ、そんな…。レイルダール様の…配下に」
「解いて下さったのよ!偽りのクソ女神の呪いを」
「なる…ほど…」
「生かしてあげる。西で存分に地獄を味わうといいわ。
只一言。ベルエイガ様と私たちからの伝言。
性転換までしてきめぇんだよーーー」
見事な腹パンで吹き飛び。
「ガハッ」
大棚を数枚粉砕して止まった。
周囲の護衛は棒立ちで動けず。
「手加減はした。その程度で死ぬなんて許さない!」
残骸の中から這い出たガンターネは血反吐を垂れながら。
「心に、響く…痛みだ…。まだ死ねぬ!ほんの僅かでも、罪を償えるその日まで!西で待つ!」
「勝手にほざいてろ!!」
道具を回収してその場で転移。
深夜に差し掛かっていたが自宅待機組と眠い目を擦るシュルツに成果を報告してその日を終えた。
-------------
3日後の昼過ぎ。現実へと戻ったバスローブ姿の面々を前にご挨拶。
「色々。ホントに色々有りましたが。今回何とキッチン周りの散乱を抑える事が出来ました。ある意味成長です。
狙い通りに女子同士の距離感が縮まり親愛で包まれた絆は強固に。男の俺たちは阻害されるのかと不安でしたがそれも無く。気持ち良くて普段よりも自然に愛情が伝えられました。
皆が満足でハッピーに成れたと思いきや。たった1人浮かない表情のレイルさん。何か嫌な事でも?」
「辛いよ…。将来のお別れが辛いのよ。私に大切な物をこんなに押し付けて。どうしてくれるのスターレン」
急に真面目な話に成ってしまった。
「それは…御免としか」
「プレマーレに人間化を使ったら自分の分が無いの。私だけが残るのよ…」
顔を覆って泣き始めた。それをプレマーレが抱き締め。
「レイルダール様…。従者の私の事など切り捨てれば良いのです。行く末は西で野垂れ死ぬ運命。見届けるお役目は私の方」
「ごめん…そんな積もりじゃ無かったんだ。皆で仲良く成りたいって」
「姐さん…」
ソラリマ装備のクワンが助言。
「かなり信者数も増えたので。スターレン様。あたしの鑑定をどうぞ」
「鑑定?何か付いたの?」
泣いていたレイルも顔を上げた。
特性:異種人間化(対象:仲間と認める者。現在2名分)
「つ、付いてる。もう既に2人分。現在進行形でまだ増えるのか」
「え…」
「これでファフとレイル様の分は確保出来ました。旅を終える頃にはまだ増えそうです。良かったですね」
クワンに抱き着き更に号泣。
「有り難うクワンティ…」
「裏切らないで下さいねレイル様」
「こんなの裏切れないよ。一生付いてく!」
カタリデ&ピーカー君。
「凄いわぁ。信者数に対しての伸び代が。仲間内に特化してるからかな」
「凄いですねぇ。まだ増えるなら僕の分も期待したり」
深く関わってる所為か躊躇い無く。
「まだ安心は出来ないわ。肝心の年代制御が付いてない。性別は維持されるけどレイルとプレマーレ。ファフとピーカー君は人間寿命を遙かに越えてる。私も経験無いし。
レイルもやった事が無いならクワンティと一緒にオメロニアンがイグニースに施す時のを参考に覚えて」
「はい!バッチリ拝見します」
「うん。参考にする」
「でも良かったぁ。足掛りが掴めてるのは」
「ホント良かった。今回で前以上にレイルの事が大好きで大切な人に成っちゃったし」
フィーネも感涙。
「スターレンからも離れてやらないから。子供は産んであげられないけど内縁でも何でも責任取り為さいよ」
「志かとお受け致します。枠は増やせないけどそんな物は形だけ。どうにでも捻じ曲げるさ。シュルツも許してくれるだろう」
「きっと大丈夫。内心解ってる筈だから」
まさかの9人目がここで決まった。
「ではでは片付け掃除洗濯お風呂を済ませて」
「明日からの登山に備えましょう!」
絆がより強まった我が隊。南西登山口右ルートでも滑落者は無し。イチャラブ意気投合で狂いも無く。早々に終えて右奥山頂の景色を楽しみ西口の迂回路をさっさと形成。
3月の準備を万端に2月の登山訓練を終えた。
男の休息日以外俺だけ毎晩行き先が増えてしまったが何のその。愛の為なら男は走る。レイルの方にはソプランを道連れに。プレマーレがセットで居るので問題無し。
そして迎えたペリーニャとの新婚旅行。
リオン側の北1番。温泉宿場に拠点を構え。
「さあどうしようロナ。宿の変更は可能。行き先は多岐。俺が行ってないデオン側の南西1番。南1番。リオン側の東1番2番。南1番も半分残し。北1番のここも全部は見れてない。迷うね」
「迷いますね。南西一番は駄目です。フィーネ様がセラ様と行けるのを非常に楽しみに居られますので」
「はい1つ消えましたと」
南北に縦断するルーナ両国の河川。何処に鰻が居るかよりも川辺面積が圧倒的に多いリオン側が怪しいと目星。
北1番の温泉街は何度も回って調査済。
東の2つはペイルロンドとレンブラントとの街道窓口。そんな所には希少店は置かないだろうと一旦外し。略固定店しか入っていない北2番と南2番だと推定。
しかし初日は王都でペリーニャのお土産雑貨探し。まずは無難に簪を購入。
「…」
無言でその簪と俺を交互に見比べる可愛いペリーニャ。
「好い加減にしなさいロナ。最大想定で10人分。そんなに装飾品の種類が有ると思うかね。男を試す貪欲さは嫌いじゃない。けどそれも程度問題。
何か欲しい物が有るなら言う。差を付けたいならヒントを与える。頻繁に指輪を買えば本来の意味が薄れる。賢く動かさないと男は解らない。
女性に温厚な俺でも終いには怒るぞ?明日で楽しい新婚旅行も終わりだ」
「う、嘘です!冗談です。御免為さい。見て回っている間に自分で考えます。これは一番として」
「宜しい。苛めてごめん」
「いいえ。今ので目が覚めました。我が儘の言い過ぎは良くないと」
「男女問わずだと思うぞ。そう言うのは」
「はい…。甘え下手で済みません」
悄気る彼女を路地裏に連れ込み優しく抱き締めヨシヨシと撫でた。
手繋ぎ王都内の散策を続けこちら時間の夕方。
「朝のような昼をしっかり食べてお腹は程良く空いてる?」
「はい」
「でもここで入れてしまうと半端な時間。宿の夕食が台無しで勿体無い」
「間違い無いですね」
夜間用の提灯や街灯へ移り変わる歓楽街入口に着き。右腕に絡むペリーニャの手が強張った。
「ここは、駄目です」
「夫婦やカップルで来てる客を誘う訳が無い。逃げれば済む話だ。ここは遊郭だけじゃない。普通に夜景を楽しみしっとりお酒を嗜む店もちゃんと在る。なんで俺たち男を信じてくれないのさ」
「…はい。済みません。その目でセラ様を見られるのも嫌なので。信じるとか以前に」
「人の目を気にしちゃ駄目。俺たちは単独でも有名人。毅然とした態度で居れば遊びは寄って来ないよ」
「はい…我慢します」
我慢する程なのか…。
それが女心です。
だろうね…。ロディ。自重は?
御免為さい!
幅の広い緩やかな登り石階段。両側を彩る煌びやかなお店の数々。頂上付近には遊郭が数軒。途中から分岐する夜間営業の飲食店や茶店。
その一角にひっそりと佇む香ばしい煙を昇らせるお店。
「ほらやっぱり在った」
「鰻屋…。細波」
「おぉ~在ったわね」
「地下ではなく堂々と地上に」
「1日の疲れを癒すとか。これから遊びに行くぞとか。店が在るなら絶対ここだと思ってた。誰も入ってない場所」
「歓楽街…。思慮不足でした」
受付さんにお昼の営業を聞くと。
「勿の論でやってます!寧ろ来られるのが遅いです!」
「嫁さんたちが近付くなって邪魔してね」
「御免為さい…」
「成程。イメージとは中々覆せませんものね。ここで一つ歓楽街のご説明を。
ここ一帯の飲食系は昼間も絶賛営業中。頂上付近の遊郭は二種類。お手付き有りの店と健全な無しの店。有りなら桃色の幟旗。無しは藍色の旗が目印。勧誘行動は一切無いのでご安心。
お持て成しするお客様のご気分を害す事など有り得ませんとも。
デオン側にも似たような造りで別種のお店が。そちらにもお足のお運びを。
有りは殆ど異国の殿方が。無しでは花札や双六や扇子投げや芸者たちの舞踊。三味線聴き弾き遊び等々を心行くまで最高級の米酒を楽しむお店です」
「やっぱりちゃんと用意してるよね。健全な方も」
「反省です。帰って報告しないと」
「ロイドに伝えさせるからいいよ気にしなくて」
責任持って伝えるように。
はい!私も反省を。
「お空を舞えるスターレン様には無意味ですが。遊郭を越えた頂上には隣王都まで一望出来る展望台が御座います。お時間有れば是非お立ち寄りを」
「それは良いね」
「行ってみます」
明日の昼に来ますと退店。
「展望台も明日以降に取って置こう。そろそろ宿が」
「良い時間ですね」
夕食メニューは健康的な山菜尽し。プルプル黒ごま豆腐に感動。自分たちでも作ろうと誓い合った。
今宵は出掛けず内風呂露天で水入らずでしっとりと。
-------------
2日目以降は両王都で未踏破エリアの散策。
デオン側には鰻屋の代わりに海鮮点心屋が在った。
南1番で磯焼き尽しを堪能。大蒜醤油が堪らない!
その時だけはクワンが乱入して仲良くご一緒。
小豆入りライ麦シフォンでお茶。
雑貨屋巡りで金銀細工のブレスレットを購入。
南西2番での新装アトラクションツアー等々。
秘湯と大露天風呂も忘れず楽しみ充実した7日間。
あっと言う間にチェックアウト日。
温泉饅頭を土産に最後の足湯。
「名残惜しいけど」
「そろそろ帰りませんと…。セラ様のお後が詰まっていますし。事務棟のお仕事がノータッチで終えてしまいます」
「だよなぁ。事務棟と個別デートと登山。幸せな方向で忙しくなった」
「私は辞退しましたが結局全員。頑張って下さい」
「ういっす。1人1人疎かにせず頑張ります。行き先は決めてくれるから楽だけど」
事務棟2人以外とは正妻フィーネから順番となった。
登山の前には秘密の宴。その前2日は男2人の休息日。
それまで飛び飛びでしか事務棟のデスクに座る事は無い。
自分の仕事は纏め報告書を読むだけなのだが。申し訳無いと言うか何と言うか。
事務棟の主な仕事内容。
城にもロロシュ邸にも入れない一般者向けの申告窓口。何処かで怪しい人物や集団を見掛けた。王都外で悪い噂を耳にした。中央大陸の隠れ迷宮、新迷宮の発見情報。
ギルドに頼めない独自依頼等をティンダー隊で受付面接で篩いに掛ける。
真偽を見極め模擬戦希望ならロロシュ邸内の訓練所を借り受けティンダー隊とサイネルたちでお相手。
強ければタツリケ隊、ゼファー&カーネギ、最終はファフに昇格する。ゼファーコンビも負荷バンドで強化を続けているのでファフに辿り着ける者など存在しない。居たら既に有名人。嘗ての闇商関係者の発掘が主旨。
荷物の配達なら支配人受理後トロイヤたちが担当。行き先での下見調査を含め。調査は複数人で飛ぶ。
表に出せない商品の商談なら裏で上位者が鑑定したり買取りや返却も。
一般商談ならギルド行けや。相談なら城の通常窓口行けやこらとお断り。こちらもティンダーが一手に受付。裏に何か有るなら覆面シュルツと自宅担当侍女衆がファフの護衛付きで臨時対応。
要するに…俺に出番は無い。デスクで本を読み珈琲を飲みラメル君の特性ランチを頂き自宅に帰る一連。
余程の重大事案が飛び込まないと会議室すら稼働しない。勿体無いので自宅リビングで打ち合わせしてる案件を広々スペースで使うとか。暇潰しに来たレイルとお喋りするだとかの日常に転用。
本格稼働させる日は来るのだろうか…。もう来ない気も。
帰宅後翌日に初出勤。の翌日フィーネとの個別デート。
目的地はルーナデオンの南西1番街。
「この町に何か有るの?」
「内緒」
と答える彼女に手を引かれ。辿り着いた先は大きく開けた南西海岸の崖の上。
爽やかな潮風が吹き抜ける絶景スポットだった。
肩を寄せ合い乾いた岩肌に腰掛け。
「気持ちの良い場所だね。風が程良く暖かで。南海の海を一望独り占め。水竜様とお話とか?」
「それも有るけど…。ブリッジの件でレイルにどうして悪用したのかを尋問された思い出の場所。あれが切っ掛けで解除を考え始めた場所なの」
「そっか。ここでレイルとフィーネが決意を固めたんだ。全く逆方向に」
少し笑い。
「ホントそれ。直ぐに解除してたらレイルも怒らなかったのに臆病な私が邪魔をした。スタンに…嫌われたくなくてウジウジ躊躇ってた」
「うん…。俺からも言うべきだった。俺もフィーネがどっかに居なくなるんじゃないかって怖くて言い出せず。やっぱり俺たち」
「似た物夫婦だね。出会った最初から」
顔を寄せてキスを交す。涙は無いのに切ない味がした。
唇を離したフィーネが。
「今後も。人数が増えても個別デート組んでもいいかな」
「勿論。1人1人の時間作らんと。南極も被りたくないから遠征以外は月跨ぎで2つ場所に固定するとか」
「被ると合流しちゃうもんね」
「そそ。個別の意味無くさないように」
「うん。その辺も調整しなきゃね。後の2人が嫌がるかも知れないし。各自宅も使えるんだし。何よりシュルツの心を傷付けないようにしないと」
「だね。彼女自身には辛くても。シュルツが未成年で良かった。成人してたらとっくに勇者隊は崩壊してたと思う」
「間違い無いわ。シュルツはストッパーで私たちの最後の良心ね」
「ピッタリな言葉だ。で、これからのご予定は」
「当然鰻、と言いたい所ですがスタンさんが毎日鰻重に成ってしまいますので諦めまして。デオンタイザの点心お持ち帰りを買いつつ近くでお茶も。その後は言葉にしなくともご理解下さい。自分からは恥ずかしいよ」
「ごめん。今のは俺が悪い。デリカシーが無かった。反省すると共に同じ気持ちです」
「ありがと♡」
いかんいかん。デリケートな女性に対しての配慮を忘れてはいけない。
時間の掛かる点心セットを注文し真向かいの茶店でのんびりと待つ間に王都内外の近況を聞いた。
城での選考では未だ強者は現われず。来年前半で一応の区切りを付けるかも。
先週の旅行中にメルシャンの第一子女児誕生。母子共に健康で名前はライザーが付けたアネモネ。
昨年生まれていたメルフィスの第一子男児はモンテルクと言う名。
マリーシャの所も無事12月始めに男の子。
ミーシャとシルビィもそれぞれ年始めに婚約成立。4月の晩餐会後に同時に婚姻の流れ。もう尻に敷かれてる状態らしい。
ジョゼの料理の腕が全く上達せず。キレたソプランがアローマと一緒にスパルタ教育を実施。何の料理本を読んでるんだと問い正した所。何も読まずに我流だと堂々と答えアローマが平手打ち。首根を掴み幾つか本を読ませてロロシュ邸本棟料理人に弟子入りさせ。整えば来月のお花見会で幾つか出品させる。
ライザーのお相手確定。ウィンザート旧派閥貴族の御令嬢でリシャーノ。こちらも晩餐会でお披露目。直ぐ後5月内に婚礼まで。流石に3度目はシャレに成らないので俺が会うのは婚礼後。もう枠は埋まってますと強く念押し済。
「リシャーノさんは面識無いから大丈夫っしょ」
「そう考えてるのはスタンさんだけよ。クインザの海賊船から助け出した当時16歳の女の子と言えば?」
「ヤバいっす。助かりました」
「予防線を張るのは大変なのです」
話題を変更。
「ジョゼ我流だったのか。フィーネは食べた?」
「壮絶に酷かった。ピーカー君在住時のフラーメよりも味付けが濃くて。焼き物揚げ物煮込み物。全部真っ黒イカ墨入れたんですか?状態まで黒焦げ。ティンダーさん良く死ななかったなと皆で感心した程よ」
「うわぁ~」
「自分事ですが、うわぁ~」
口外出来る世間話を続け点心セットが届き。俺から南極拠点へ誘い夜まで2人切りでしっとり愛を育んだ日。
-------------
順調に個別デートを重ね。
秘密の宴3日前。最後にレイルと。
これまでの営みや秘薬や愛の囁きで全部の壁が壊れた彼女は俺の前でだけ甘えるように進化した。
その日は朝から南極拠点に入り浸り。愛を重ねて彼女の手作り。トマトとベーコンとレタスサンドと苺のムースを昼に食べ。
食べ終わりと同時に膝上に乗り首に巻き付き。
「どうだった?今日のは全部私が作ったのよ」
「とっても美味しかった。サンドのハニーマスタードソースがトマトの程良い酸味と相まって。苺のムースも甘さ控え目で苺本来の味が活きてて濃厚で」
「良かった♡」
流れからの濃厚キス。
辛抱堪らずベッドまで運び押し倒した。
興奮冷めぬままにお顔が接近。
「ねぇねぇスターレン」
「何かな?ご褒美とか?」
「ご褒美は今日と秘密で充分よ。それより私の指輪は何時買ってくれるの?愛人枠なら順番関係無いし何時でもいいのよね?ね?」
「ん~。考えてない訳じゃ勿論無いけど困ったな。来月以降の8人目まで埋まったらじゃ駄目?」
「いーやぁー。遅いよぉ。やる気半減。フィーネじゃないけど救出の手抜きしちゃうよ?」
「それは大問題だ」
レイルの背中と頭を抱きながら暫し考え。
「タイラントじゃ買えないし作れない。今日明日にシュルツとファフに一言入れて。その後ロイドと同じリオンの南2番で買おう。ロイドのとは違う店で他にも2軒良いとこ在ったし」
「うん♡それで良い」
再び濃厚キスからの迷わずもう1回。
その後も夜まで…。
「デレッデレ。魔族の最上位も変われば変わるものねぇ」
「嘗ての面影が…何処にも見付かりません」
夜遅くに帰宅したのでが偶然にもシュルツとファフがリビングで在宅嫁4人と歓談中。
レイルの指輪を先に買いたいと告げると空気が一変。
「それは困りますお兄様」
「困りますね旦那様」
ファフは何時…その呼び名に?
「嫌よ。私は自由枠。序列とは関係無いもの」
「いいえレイル様。これだけは譲れません」
「譲れませんね一歩足とも」
3人の乙女が火花を散らす。その中で冷静にシュルツが。
「妥協案としまして。明日事務棟仕事を放り出し。
私の婚約指輪とファフ様の結婚指輪を都内で購入して頂きます!
レイル様は仮の七番目、と言うのは如何でしょう」
「む…仕方無いわね。ファフがいいなら」
「私もその案に賛成です。誓いの言葉は来年だとしてもレイルさんを心から祝福出来ません」
一瞬で決着。
「ごめんフィーネ。ダリアと事務棟任せてもいいかな?」
「楽勝よ。今日でもエルラダさんと一緒にデスクでずっとお茶しながら編み物してた位だし」
「来月位までは何も起きないと…。未来視ではなく何か起きる要素が皆無で。ゆっくりお買い物を。そちらの方が重要で最優先です」
「じゃあ2人は明日午前トーラスさんの店。レイルは明後日の早朝出発でリオン行き」
「「「はい!」」」
こんな一幕が有りました。どんなに仲が良くても拗れる時は拗れます。多妻って難しい…。
-------------
円満なショート版秘密の宴を乗り越え。登山でも無事に最長不倒をきっちり1週間で果たし。
ダリアとの幸せ絶頂な新婚旅行を経てのお花見会。
ジョゼの外側丸焦げ中は生の謎ハンバーグがお目見えしたがラメル君が修正。焦げを取り除きトマト煮込みと蒸し焼きにして大根下ろしと茸の醤油タレを掛けた和風ハンバーグで出し直された。
「ジョゼさんは…。蒸し料理から始めた方が良いようで」
「私もそう思ってた!」
「思っていたなら最初からお遣りなさい!」
アローマのビンタを喰らって沈んだ。
「これ以上打たないで姉様。余計馬鹿に成る…」
反省の色が違う気がしなくも。
夜は来客を帰し。桜の周囲に壁を張り厳かなキスの嵐。
俺は女性陣全員と。ソプランは自嫁とプレマーレとレイルの限定でたっぷりしっとり長時間。
夜桜の景観もしっかり堪能。
そして遂にやって来たキリータルニアからの報告書と再訪問の案内。
お花見会から2日後の事である。
陛下と関係者の前で読み上げ。
「調査自体よりも根回しに時間を喰っていたようです。両王が呪いで狂っているので仕方無し。
こちらは別案件より必要な鍵と解除対策道具を入手済。
後は飛び込むだけです。陛下のご決断は」
「決断も何も無い。そちらの案件はお前に任せると言ったのだからな。神に囚われた神を救う。前代未聞。誰も成し遂げなかった偉業を為すのだ。
心して掛かれ。出発は何時でも良い。事務棟は稼働させてもダリアの内務業務は今月一杯停止する」
「有り難く」
「御拝命に預かります」
出発は更に2日後の12日早朝に決定した。
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