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第281話 ペリーニャの決意。時の女神との決別
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アッテンハイムの教皇邸から模擬再戦希望の案内が自宅に届いた。
同席者は嫁2人と従者2人。
遠征には不参加のファフレイス。
そのファフレイスと事務棟の打ち合わせで自宅に来ていたシュルツ。
レイルたちはマッサラの自宅。
案内は簡単に明日以降なら何時でも可。とだけ。
時刻は午前10時過ぎ。リビングからペリーニャに通話。
「ペリーニャ。杖の場所には行った?」
「はい。一度だけ入りました。それ程広くはない空間で浅い天然洞窟の入口部を作り替えたような祠でした。
鍵は父預かりですがゼノンとリーゼルが居れば何時でも持ち出せます」
「そか…。杖を俺と見に行く前に。どうしても話して置かなければいけない事が有るんだ。かなり長時間」
「…今後の進路でしょうか。それともそちらに朧気に見える新しい客人に付いてでしょうか」
「客人は直接関わってない。けど進路その他諸々の話と俺自身に付いてまだ話していない事を全て」
「全て…ですか。解りました。今月の行事は入れて居りませんので今日これから何時もの歓待室で。昼食も兼ねてお願い致します」
「うん。用意して持って行く」
「お待ちして居ります」
通話を終えて。
「ふぅー。何作ろっか」
「梅干しと鮭の海苔巻き御握りとお茶と珈琲とか」
「卵巻きに採れ立てトマトにポテトフライなどを簡単に」
「何だかピクニックや遠足みたいだな」
嫁2人が笑い。
「そうね」
「そうですね」
ブランを抱き抱えるシュルツが。
「何故か私の方が緊張しています」
それを励ますファフレイス。
「シュルツさんには私が付いていますよ。ブランも」
「心強いです。頑張って下さいお兄様」
「頑張る。正直に伝える。それ以外に無いな」
お弁当を3人で。お茶と珈琲はアローマが拵えた。
弁当箱を収納してクワンと一緒に3人で歓待部屋へ。
既に神妙な面持ちで席に座る対面に椅子を並べ。
クワンはペリーニャ側の隣席椅子の背もたれに乗った。
お茶と珈琲をコップで配り話を始めた。
異世界日本から蠅に転生した所からロイドとの再会。
次のスタプ世代。ロルーゼから出てラザーリアの城内で人生を終えた話。
そして今のスターレン。成人を待ち。憧れでも有ったタイラントを目指し出発。途中でのフィーネとの出会い。
導かれるように準備が整いラザーリアへ帰還。城の奪還と地下施設の開放。ペリーニャとの出会い。
以降タイラントの外交官と成ってからの遠征や外交で見えて来た闇商を資金源とする闇組織の存在。その裏に隠れていた邪神教団の姿。
それを追い始めた頃からチラ付き出した女神ペリニャートの関与。神域への強制転移で女神本人との邂逅。
生還後から続く旅路。50年前の魔王戦での嘘と虚像。
女神が直接関与した時間操作と調整。
蠅の前のグズルードの存在の発見。裏切りと繰り返し。
時間操作の根源である時空結界の破壊。
女神直下の中域者ヌンタークの素性と死亡。
最後に転生表を見せ。
「俺は元々こちら側の人間。グズルードが起源だった」
昼やトイレ休憩を挟んでもう夕方。
俺もペリーニャも最後の方には泣いていた。
「俺との別れを選んでくれて構わない。でも古代樹の杖だけは交換させて欲しい。責めてもの償いに」
「馬鹿な事を仰らないで下さい!」
「ペリーニャ…?」
「誰に対して負う償いなのですか。スターレン様は被害者です。誰がどう見ても。
お別れなど有り得ません!」
「…」
「やっと…。やっと理解が出来ました。私の監禁されていた二年間の意味が。
どうして女神は助けて下さらないのか。どうして信者が多く住まうラザーリアであんな暴挙を放置されたのか」
「…うん。俺もラザーリア時代にそう思ってた」
「全ては…。私とスターレン様との出会いを遅らせる為に。たったそれだけの為にあんなに多くの犠牲など!」
ペリーニャはテーブルに伏して大声で泣いた。
フィーネが手渡したハンカチを握り締め。彼女は顔を起こして涙と鼻を拭いた。
俺の手持ちは使い物に成らず。
乱れた呼吸を整えると。
「御本人が降臨されるのですね…。杖をスターレン様と見に行く時に」
「必ず。そこまで俺たちで追い込んだ。だから今全部話したんだ」
「そうでしたか…」
ペリーニャは何故かフィーネのバッグを見詰め。
「フィーネ様」
「はい」
「その…予備の避妊具を」
「え…」
「頂けますでしょうか」
「渡す用で準備をしていた物だけど…今?」
「今です。成人は迎えました。杖を交換すれば自由の身。信仰を変えるかは後日に決めます」
俺を見据えて。
「私をここで。大人にして下さい」
「で、でも…」
「私もお迎えして頂けるように特措法を発令されたのですよね?」
「確かにそうだけど」
「鍵は私しか開けられません。人払いはして有ります」
嫁2人とクワンは道具を置いて既に居ない!?
許可が下りてしまった…。
カタリデ入りのバッグをテーブルの上に置き。道具を片手に彼女を抱き起こした。
「後悔なんてさせない」
「後悔なんてしません」
2度目の深いキスはとても切なく甘く感じた。
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旦那を歓待室に放置し帰った自宅。
リビングには出発時の面々。
シュルツの頭を撫で。
「羨ましいと考えちゃ駄目。お楽しみは待ってからの方が幸せよ」
「う~。待ち遠しいです後一年と八ヶ月。長い…」
ペリーニャと同じくテーブルに伏した。
「アローマ、ソプラン、プレマーレ。今夜中に武装の点検と準備。いよいよ明日ご対面。
但し3人は模擬戦で教皇邸内のその他の足留めを。
神格クワンティの存在は認知されている。ブランちゃんを装備して存在消しで上空待機。
杖の祠と首都に北部のゴッズ級を差し向ける可能性有。
無形短剣はプレマーレ回収時にレイルにお預け」
「おけ!」
「いよいよですね」
「クワッ!」
『私も殴りたかった、と』
「どうせスタンさんとペリーニャに殴られた時点で逃げ出すわよ。ストーカー女に留まる度胸なんて無い」
「間違い無く」
「各員今夜は軽食で済ませるように。では解散!」
--------------
裸で抱き合い起きる朝。
お早うのキスを一頻り…。味わった後で現実を認識。
「あ!もう朝」
「い、いけません。湯浴みもしていませんのに」
急遽フィーネさんを呼び出し浄化で証拠隠滅。
そのまま自宅風呂へ直行。恥ずかしいとか言っている暇は無い。
着替えてダイニングに座る頃には隊員集結済。
皆で和風朝食を食べ終わり。
「申し訳無い。もう杖の事なんかどうでも良くなって」
「現実逃避を…してしまい」
フィーネさんはニッコリ。
「私とカルが許可したんだもの」
「大丈夫ですよ。向こう時間ではまだ朝方」
ゆったりと目覚めの珈琲とお茶をしながらペリーニャが。
「本当は前前から可笑しいとは感じていました」
「何が?」
「大切にしろと渡された彫像を急に交換だとか。無形短剣もそうですし。女神を敵視しているような帰来が見え。
夏休みのホテルの時もチラリと」
「「あぁ~」」
滲み出るオーラの中にね。
「これ程スターレン様に嫌われた状態で女神は何と言うのでしょうね」
「さっぱり理解不能な事だろうね。…ちょっと吐きそうだから止めようこの話」
「済みません。止めましょう」
男女別のドレスルームに分かれ装備品のチェック。
とは言えペリーニャの着替えが少々手間なだけ。
マウデリンガードブラを装着。
ブーツもバッグも最新に入替えられ。フレアレギンスと4枚合皮のハーフパンツで下半身もしっかりガード。
フィーネら女性陣が寄って集って着せ替えた様子。
自分は大狼様のジャケットと改造雷帝ズボンのみ。
最初から完全武装では可笑しな話。
リビングに集まり歓待部屋へGO。
邸内の広間に着く前にグリエルパパがこちらを見付けて猛然とダッシュ。
「ペリーニャ!」
「はい御父様」
「無断で外泊とは何事だ!」
「非常に近い将来夫となるスターレン様のご自宅へ。諸先輩奥様のお二人から有り難いお話をお聞きするのが何故悪いのでしょう」
「……」
堂々の結婚宣言。グリエルパパだけでなく周囲の修女や聖騎士隊やゼノン隊の面々も口を全開にして固まった。
そして更に俺の右腕にこれでもかと絡み付いた。
正気に戻ったパパ。
「あれ?何時だろう。そんな話されたかな?
されたっけ…?されとらんわ!!」
「昨夕に決めました。スターレン様と奥様方も了承。
嬉しさ余って強い酒を嗜み。その後の記憶は曖昧です」
「…え?」
「今朝起きてみると裸でしたので。きっとそれなりの事が生じていたのでしょう。ひょっとしたら私が襲い掛かったのかも知れません」
「…へ?」
「不可避で確定です御父様。ねえスターレン様」
「いやぁ済みませんお父さん。ご挨拶が後に成ってしまったようで。この責任はペリーニャを貰い受ける以外に見付からず。後日改めてご挨拶に伺おうかと」
パパは両膝を折り腰を抜かした。
「おと…おと…おとう」
言語障害を起こしたパパにペリーニャが追い打ち。
「御父様。祠の鍵を下さいな。我が夫であるスターレン様が大変興味を示し。共に観光をして参ります。
初めての二人旅。お邪魔はせぬ様願います」
初めてではない。
パニック中のパパは素直に懐から鍵を取り出した。
それを掴み取り。
「これは暫くお預かり致します。見るべき所も少ない故に数回回れば飽きる事でしょう。それでは」
「そ……れではじゃない!待たぬか!!」
「はい何でしょう御父様。観光のお時間が削られてしまいますので手短に」
「か、観光が終わったら今後の話をしようではないか。その位の時間は有るだろう」
「お話合いの必要性を感じませんが。どうですかスターレン様。理解不足の父を躾けるお時間は」
「それ位なら仕方が無し。後のご挨拶を先に倒すだけ。申し開きもその時に」
「う、うむ…。釈然としないが…」
空かさずフィーネさん。
「模擬の再戦の申し込みを受けに来ました。
この場には我が隊からアローマ、ソプラン、プレマーレを残し。他は観光する2人の後方護衛を務めます。
しかしながらプレマーレは一昨日より風邪気味」
「ケホッ、ケホッ」
「この彼女に再び負けるようではペリーニャをここへお返しする事は適いません。気合いを入れて戦い為さい!」
ゼノンたちの目の色が変わった。
ペリーニャの転移で祠西の離れた場所へ。
護衛役はフィーネ、ロイド、グーニャ。上空のクワン。
「ここ何処ら辺?」
「首都から真っ直ぐ東です。この先の浅い渓谷を下った所に祠が有ります」
「足場が悪いね。まあ飛べばいいんだけど」
「低空なら他には見付かりませんよ。上空は神が控えているので」
「そうね。低空で」
ペリーニャが。
「神、とは?まさか…」
「クワンが神格化しちゃった。山神教のミミズフロンティアとして。昨日話すタイミングが無くて。新しい客人はクワン専属の中域者。王都の守護者として契約済み。
後々に紹介するよ。ロイドと同等の強さの美女」
「はぁ遂にクワンティ様が…。
スターレン様が美女と言われるのが引っ掛かりますが後の楽しみとして置きます」
余計な事言ってもーた。
フィーネに道具を。
「大蜘蛛の糸。これを何処かに設置すれば昆虫系なんて入れ食いさ」
「ありがと。どんどん仕事が減っちゃうけど。まあ平和に越した事は無しね」
「そゆこと」
暫く渓谷に向かって歩いていると案の定北部から急接近する魔物の群れ。
ペリーガン、コモドリアン、キラーアント、キラーハニーのゴッズと取り巻き。
上空のクワンにフィーネが指示。
「こっちに全集中か。クワンティ!北部のデビルイール潰して南部のビッグベアゴッズ討伐宜しくー」
「クワッ!」
クワンの声だけが響いた。
戦闘が始まっても俺たちは気にせず祠へデート。
左手でペリーニャの手を握り。
「外野は気にせず参りましょうかお嬢様」
「はい。喜びまして」
そのデートの真っ最中にストーカー女神が天から舞い降りた。渓谷手前に着地。
「出たなストーカー」
「あーあホントに出て来ちゃったクソ女神」
「女神…様」
怯えるペリーニャの前に立つ。
「この先には行かせない!」意味不明。
「いい加減にしろ!そこへ行くと決めた時。お前は反対しなかった。今更何だ!」
「あの時の貴方は杖の詳細を知らなかった。掴んでいても破壊を指示する積もりだったの!」
「知るかボケ!今の俺のラザーリア時代。成人までの間は間違い無くフリーだった。何故あの時お前は下りて来なかったんだ」
「カリスマ値が…まだ好みじゃなかったから…」
「「「はぁぁ??」」」
「脳みそ捻れてるんですかね」
ピーカー君は冷静に分析。
「じゃあ何か。前回の魔王戦の時。お前はグズルードを招いて置きながら魔王様に股を開いてたのは…。
魅力値が原因だとでも言うのか」
「魔王のフェロモンの魅力に抗えなくて…仕方無く相打ちにさせたの」
「「「はぁぁぁ???」」」
「この神終わってますね」
「気持ち悪!何だこいつ」
「説得って次元じゃないわ。どうしよこれ」
「あぁ私は今まで何を信じていたのか…」
「ラザーリアの地下で見付けたフェロモン剤は…俺に飲ませる為の物だったとか」
「そう…」
「想像を絶する淫乱ね」
「色欲の神…だったのですか」
「塩しか出ませんが吐きそうです…」
「もう駄目だ!お前は殴るにも値しない。てか触りたくもない!」
右手に可逆の歯車を握り絞め。
「お前に残された最後の切り札を破壊する!」
「止めてぇぇぇ。壊さないで。私と一緒に誰も居ない過去まで飛んでよ!」
ペリーニャの手を離しその場でリアルゲロを吐いた。
朝食が…。そして背中を擦ってくれて有り難う。
「これは仕方無い。私も人間だったら吐いてたわ」
「ギリギリでした…」
「僕はちょっと出ました。後で掃除します」
口端を拭い立ち上がる。
「終わりだ淫乱女神」
ペリーニャを少し下げ。歯車を握り潰し。カタリデで粉に成るまで切り刻んだ。
「嫌あぁぁぁ」
絶叫と共にどっかに消えた。多分もう二度と会う事は無いだろう。
水魔石で水を生成し手と口とカタリデを洗い流し。消毒液まで掛け。胃薬と回復薬を飲んで漸く落ち着いた。
「洗ってくれてありがと」
「俺は元来綺麗好き」
ペリーニャにも胃薬を渡し。吐いたゲロに周りの土を被せて終了。手を拭きながら。
「何だったんだ今のは」
「さあね。もう神域にも帰れないし。海に潜っても何も無いし。どっかで朽ち果てるのを待つんでしょ」
「水竜教に改信すると今心に決めました。誰が何と言おうとも」
「俺は反対しない」
「出来ないよ」
「出来ませんね。真実を知ってしまっては」
「ペリーニャの改信の為にも杖の交換と永久機関の構築やらないと。今日は鑑定とスケッチまでかな」
「はい。頑張ります」
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面と向かって振られたのは初めてだ。
このままでは終われない。深海に行く前に。
パージェント城に仕掛けたあの座標。
メルシャンのお腹の子は女で確定している。
赤子段階の魂なら憑依するのは容易い。
たった十七年待てば今より成熟し切った彼と出会える。
周りの女を排除するのは困難だとしても傍には居られる。
そう考え座標に向けて転移した。
しかし…その足場に在った物は。灼熱の溶岩溜りだった。
認識しても手遅れ。アッテンハイムのゴッズを強制召喚するのに魔力を使い過ぎた…。
叫びながら溶けて行くしか、手が無かった。
業火に焼かれ再生も追い付かない。
私の何がいけなかったのか。答えはもう解らない。
最後の最後でガンターネに念話を送ってみたが無反応。
やがて私の意識も途絶え。魂は土へと還るのだろう。
海を選ぶべきだった。母なる海。
最初に生まれた身体へと。愛する夫と出会えた身体を。
意識は暗闇に包まれた。
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各方面の成果は上々。やはりゴッズは美味い。
ドロップ品の詳しい鑑定は後日。と言うか多過ぎ。
祠の内部を精細にスケッチ。俺とペリーニャのW鑑定で仕様を隈無く暴き出し記録。大半は予想通り。
一部想定外も有ったがベルさんの最終巻にも記載されていた箇所でシュルツと相談すれば一発終了は確定。
次の訪問で入替えは終わる。
祠外に集まるフィーネたちに淫乱女神との最後の邂逅を説明。
「ごめんレイル。触りたくなかった」
『触れんで良いわ。手が汚れる。それで正解、と』
「ありがと」
「スタンさんの手が腐るのは私も絶対に嫌。有る意味鉄壁の防御ね」
「防御、と呼べる物なのかは疑問です」
「思い出すとまた吐いちゃうから教皇邸戻ろう」
「あぁごめん撤収しましょ」
「忘れましょう。早く」
教皇邸へ戻ると。ペリーニャの自宅引き取りが決定していた。詰り弱体化プレマーレの圧勝。
倒れながら俺と目が合ったゼノンが親指を立てた。
最初からその積もりだったのだと思う。
託された彼女を幸せに。俺が返せるのはそれだけ。
早い昼食を兼ねた別室の小会議室にて。
「娘様を僕に下さい!」
テーブルの上に額を擦った。
「一般的に…それが先ではないのかね」
「済みません。手順を間違えてしまって」
「ゼノン隊も負けてしまったし。特措法の知らせを受け嫌な予感はしていたが。実際こう成ってみると辛い物だ。
君も娘を持つだろう。二十年後位に苦しめ」
「はい。何となく予想はしています」
「ペリーニャ」
「はい御父様」
「供給の儀式以外でも偶には帰って来て欲しい。私もそうだしグラハムも。お前の元気な顔を見られないのは寂しいのだ」
「定期的に帰ります。家族として」
「うむ。奪われた二年間。あれが無ければどんなに良かったか。我が儘を言われ聞いて困らされるのも楽しみだったのに」
「我が儘なら今もこれからも」
軽く笑い返し。
「そうかもな。では。我が儘な娘だが宜しく頼む」
「志かと。幸せに」
私室の荷物をバッグに詰め込み我が家へ。
リビングでお茶をしながら従者2人にも結果報告。
「マジかぁ…。そんな理由かよ」
「変態を司る神も又変態であったと」
「女神がどっか行ったなら。使命の達成報酬どうなんだ」
ソプランの問いにフィーネが。
「フウの消滅が始まればそれが達成の合図。私とカルの分は水竜様が保障してくれた。スタンさんは証が消えるだけで。
今回の件で序列が上がって海の勢力図も変わった。
要するに信者数が上乗せされて力が強くなったから問題無しよ」
「そか。良かったなスターレン」
「ホントそれ。一番の心配事が無くなった。これでやっと西に集中出来る。まだ先だけど」
ペリーニャを見て。
「ここには私室って部屋が無いんだけど。どうする?新宿舎の部屋とか」
「嫌ですよ一人だけ除け者だなんて。シュルツさんが何か考えているそうなのでずっとこちらです」
「ごめんそんな積もりじゃ。何かっても上に増築かな」
「3階建てねぇ」
「将来家族が増えますし」
朧気なイメージでもそりゃ凄い事に成る。
「そのシュルツはファフレイスと一緒に城で事務棟の打ち合わせ中。
杖の永久機関構築は明日か。ではペリーニャさん」
「はい」
何かを期待する瞳。
「歓迎会」「え…」
「手続き」「はい!」
「の前に?」「え?」
「指輪を買いに行こう」
席を立ち上がり。
「はい!行きます!」
「歓迎会の料理は任せて」
「ごゆっくり」
先輩嫁2人も応援。
「ぽっかり空いた年末まで何を入れるかは杖の案件が片付いてから皆で考えよっか」
「そうね。色々案出ししとく。ここに居る残りの人で」
突然プレマーレが挙手。
「お邪魔をして済みませんスターレン様」
「はい何でしょう」
「何時でも良いので私の絵を。描いては貰えないかと」
「…予想は予想。それで将来を決めたりしない?」
「しません…」
「止めよう。それは駄目。他者の予想に頼り出したら何も自分で決められなくなる」
「…」
「俺が自画像を描かない理由がそれ。未来視を止めさせてるダリアに頼むのも厳禁。絶対に許さん」
「はい…」
「相談する相手が違うぞ」
「済みません。気の迷いです。レイルダール様に怒られに行きます」
「良し。ではペリーニャ。参ろうか」
「参りましょう」
約束と責任と幸せの指輪を買いに。これで3つ目。
6個目は考えていない。それはソプランに失礼だ。
--------------
直接会うのは久し振りのフローラに嫌味を言われ。
「後、何種類のデザインを考案して置けば良いのでしょう」
「…2種類で」
「成程そこまではご予定と。大変良く解りました」
「頼むから広めないで」
「それをしたら店が潰れて私は牢獄行きです。お客様に対する守秘義務は絶対。ご安心を」
「良かった」
「ペリーニャ様。改信をしてしまった後で恐縮ですが。直接お話出来た私個人の記念として。どうか握手を」
「構いませんわ。こちらこそ。私もその予定です」
「え…?」
ペリーニャの方から呆然とするフローラの手を取り握手を交した。
「今のは記憶から消し去ります。忘れました」
「器用だな」
「器用ですね」
丁度店頭に出そうとしていた新作デザインのプラチナペアリングをその場で調整加工。このデザインは出さないと決めてくれた。そこまではしなくて…いいのだけど。
指輪を受け取り。その足でルーナリオン南浜の誓いの岩場へ飛び。指輪交換と誓いの言葉とキスを交した。
海を眺め彼女を背中から抱き締めながらふと思う。
「気の所為かな…。座面が座り易く成ってる」
「きっと気の所為です。所でスターレン様」
「なんだいペリーニャ」
「私もオーラに乗りたいと言ったら…」
「そこまでの防寒着は持ってる?ちょっと手持ちじゃ足りなくてさ」
「そうでした。済みません。また次の機会に」
「気が回らなかった俺の所為さ。謝らなくていい」
「いえいえ。やはり私は我が儘。父の言う通りの」
「正直に言ってもいい?」
「何なりと」
「5人分の差を付けるのが大変なんすよ…」
「あら。私もその内の一人として口にするのは烏滸がましいのですが。頑張って頂きたい所では御座います」
「頑張ります…」
大変だ。これからもっと。嫁以外も居るし…。
まあ良いかとペリーニャの温もりを抱いて過ごす午後。
帰りに手続き寄らないと。忘れずに忘れずに。
--------------
嫁3人と裸で起きる朝。
「あの…皆さん」
「なーにスタンさん」
「何ですか?」
「何でしょう?」
「起きてるやないの。俺を1人で寝かせようと言う」
「ここは自宅。私たちは正統な夫婦。詰り嫌よ」
「嫌です」「嫌ですね」
「腕は2本。胸は2つ。5人目は何処へ?」
フィーネが俺のお腹を擦り。
「特等席が有るじゃない」
「そこの下は特等席ではないと思うのですが」
「それはそれよ」
正妻は強靱。
「そっすか」
物理的に6人目は厳しい。時間配分も。
2日目にして混浴にも慣れてしまったペリーニャも交えての朝風呂。
入る余地が無くなったキッチンに立つ嫁3人を珈琲片手にリビングからボーッと眺める…。
わしゃ何処ぞの帝王か!何時だ?何時からこうなった。
あぁ俺元王子だったわ。グズルードも。一安心。
もう直ぐサダハんに文句言えなくなるな…。
刻んだ人参と椎茸が入った出汁巻き卵を食べ。
「あぁこの卵焼き。基本だけど忘れてた」
「でしょでしょ」フィーネが得意気。
「レシピは基本の積み重ねですね」
「まだまだ全く及びません」
「ペリーニャはナイフも包丁も使え無かったししゃーない」
「救われます。もっと精進せねば」
食後の一時に。
「ペリーニャ」
「はい」
「君が改信をする前に。行きたい場所が有る。そこで女神教最後の祈りを捧げて欲しい。俺たちと君自身の区切りとしても」
「…そのお話を詳しく」
「勿の論です」
モルセンナのカストロさんから聞いた話を余さず伝えた。
「そう…でしたか。私たちに相応しい、ではなく。私たちが捧げるべき祈り。ケジメと言う物なのでしょうか」
「うん。俺もケジメだな。あれだけは」
「私とカルに取っても同じ」
「決締め。切っ掛けはどうであれ。同じ時に集いし者の1人として、ですね」
「序でと言っては語弊が有るけど現時点で父上とソフィアーヌさんにご挨拶を」
「「「はい」」」
「それとフィーネさん」
「はいはい」
「ラザーリアの関係者の中で。最近の俺の知らせを見てブチキレているであろう女性がお1人居られます。それはいったい何方でしょうか?」
フィーネは直ぐに頭を抱え。
「居たぁ…。すっかり忘れてたぁ…。サン王妃」
「正解!一緒に土下座して謝罪しよっか」
「有り難うスタンさん。サン王妃だけは1人じゃ無理」
「直で断った俺にも説明責任が有る。折角安定して来た玉座から下りられたら大問題。スタルフとは絶縁。果ては国交断絶」
「あぁ怖い…。本業の仕事への影響の方がデカいわ。懐妊してても可笑しくない頃だし。身体へも」
「誠心誠意謝ればきっと伝わるさ」
「はい!」
ロイドが挙手。
「スターレン。サン王妃の件は当然口出し出来ませんが帝国の姫君たちを視界から外しているのは何故?」
「クルシュたちなら問題無いよ。大狼様と会う序でに助けたと前置きしてあるし。本人たちも了解済。
しかも白月宮で俺やソプランが疑似ハーレム状態に成っても以前のフィーネが平然と過ごしてた。
それなりの気持ちを持っていてくれてたとしても。レレミィはラーランと恋仲。クルシュ本人は微妙だけど皇帝さんと良好な関係。その他の人とは密接に関わってない。
白月でお喋りした以外は」
「成程安心しました」
「以前の私が判定材料に成ってたのね」
「言い方は悪いけどね。俺との関わり合いの中でフィーネが怒った人物は本気の気持ち。もし例外者が来ても何ですか貴女は状態で断るよ。流石に」
「百里しか無いわ」
「んじゃシュルツとファフレイス呼んで。杖の循環器考えて貰ってる間にお祈りと謝罪行脚へ参りましょうか」
「「「はい」」」
ペリーニャとファフレイスが初対面の挨拶を交し。
ファフレイスにはクワンから伝わっているがシュルツは結果を知らないので説明すると。口を押えてトイレへ駆け込んだ。
その背をファフレイスが優しく撫でた。
「朝食べた物が全部出ました…。どの様なホラー小説よりも恐ろしく。…杖の方はお任せを」
「だ、大丈夫か」
「無理しちゃ駄目。明日でもいいから」
「私の事は気に為ずに」
「お昼は水だけにします。大丈夫です。ファフレイスさんが居るので」
「体調面までしっかり管理します。今のは…不可避と言う事で」
心強い守護者だ。クワンの心が移ったみたいに。
「おけ、こっちは任せた」
「グーニャは行く?」
「我輩はゴロゴロしますニャ~」
「解った。クワンティーはお散歩と外のおトイレを。神域に用事が有るならそちらでも」
「クワッ!」
ラザーリア西部の女神教寺院裏。共同墓地に建てられた小さな石碑。
近くの花屋で買った白いカーネーションを献花に。
多くの観衆が見守る中。聖女ペリーニャの祈りの詠唱。
両手を組み胸の前。俺たちは離れた後ろで跪いた。
「友よ…。我らが友よ…。あの日救えた小さき友よ…。
哀れむ言葉は無く…。悲しき別れをした英霊たちよ…。
どうか安らかに眠れ…。我らは先へ行く…。
その大きな夢を胸に刻み…先へ行く…。
天に召された御霊が…。彼の地で報われる事を願い…。
ここに穏やかな祈りを捧げん」
真っ白な光が周囲に舞い。やがて石碑を包んで空へと揺らいで消えた。
周りの啜り泣く声。膝を崩す者たちの嗚咽。
その中を掻き分け寺院の神父の前に立ち。
「定期の祈りは春の頃に。冬の空では寂し過ぎます故」
「は…はいぃ…」
神父の声は涙に震えていた。
実家方面へ歩く間でもペリーニャを見て涙する者も。
俺を見て罵声を浴びせる人は居なくて助かった。
実家のリビングで昼食中にお邪魔。
父とその隣に座る可憐な淑女ソフィアーヌ。
「食事中失礼を。お久し振りです父上。それとソフィアーヌさん」
「元気を通り越して元気そうで何より。ロディも」
「お陰様でとても幸せです」
「私の事を良く覚えていましたねスターレン様」
「様は止めて下さい。私は美人な方の顔は忘れないタイプの人間です」
「まあお上手。では遠慮無くスターレンと。そして聖女様まで娶るとは…。私は夢でも見ているのでしょうか」
「どうも。私は肩書きだけで至って普通の我が儘娘。父の反対を押し切り実家を飛び出しました。拾って下さいとお願いしたのは私の方で」
「いやぁどうしてこんなにモテるように成ってしまったのかアッハッハッハッ。なーんて冗談はさて置き。
サンの様子は如何でしょう」
困り顔の父上はソフィアーヌと顔を見合わせ。
「それはもう。当然。勿論。至極普通に怒っている」
「「あぁ…」」
怒ってるかぁ。
「懐妊していたりは」
「そっちはまだだ。その面は問題無い」
「「良かったぁ」」
お土産の赤ワインを片隅に置き。
「謝りに行って良いと思いますか。フィーネと揃って」
「微妙だな。どう思うソフィ」
「厳しいですね。同じ女としては何方とも。スタルフ王もスターレンも同じ位に想い揺れている。
懐妊していれば変わったのでしょうが…時節が悪く。聖女様との報まで聞いて今頃城でどうして居るのやら、です」
「う~ん…」
「超絶困りましたね…」
「でもここまで来て帰るのはなぁ」
「引っ張るのは宜しく無い。のは間違い無い」
「食事が終われば先にソフィと城へ上がる。こちらでは用意が無い。何処かで済ませてから来ると良い。只…妃の方まで揃って行くのはどうかと思うが」
「怒っている人に喧嘩を売るのは如何な物かと」
「ですよねー」
「一旦帰って出直します。2人で」
「では挨拶はこの辺りで。近々もう1人。2年後に1人増えてしまう予定です。…この事は内密に」
「言えるか馬鹿者。火に油を注いでどうする」
「お願いします」
自宅で食事を済ませて折り返し。サンの私室。
弟は遠目から心配そうに。ハルジエは中立の立ち位置。
父とソフィアーヌは弟寄り。ペリルはサンを応援する布陣vs俺とフィーネ。
怒れるサンの前に夫婦揃って魂の土下座。
「俺の事は忘れてくれ!」
「弟王も立派に成長されました!」
謝る前に挑発で様子見。
「む~」
顔を覆って返答悩み中。
「子供の頃からの付き合いだが。俺とは元々特別な事は何も無かったじゃないか。お互い淡い想いを抱えていたとしても」
「一途なのは善き事。でも今は幸せに過ごされている。本来望んだ身分ではなくても」
「確かに…そうですけど…」
「スタルフに不満でも有るのか」
「お願いを聞いてくれないとかなの?」
「いいえ。不満は微塵も。大変大切にされて居ります」
「だったら良いじゃないか」
「怒る必要が無い。私たちが怒られる覚えも無い」
「…はい」
「タイラントで再会した時。ここでの戦時後。婚姻を一旦保留にした時も。君は常にスタルフを選んだ。
嫉妬の病の只中に居たフィーネを理由に選んだのか?」
「…違います」
「それがホントの気持ちだよ」
「憧れと恋を履き違えてはいけないわ。夫の間口を解放したからって今の生活を全て捨てる積もりなの?」
「いいえ。捨てません。済みませんでした…」
サンが漸く椅子に座った。
一同安堵の溜息。
「大体なんでそんなに怒ってんだよ」
「羨ましくて…。自分にも可能性が有ったんじゃないかって考え始めたら…感情が抑えられず」
「単なる欲張りじゃん」
「私が居なくても結局スタルフ王を選んでいたわ。きっと必ず。同じ女の勘として」
顔を覆って伏せた。
スタルフを手招き。
「頭撫でてやれ。俺がやると誤解が再発する」
「はい」
素直な弟はサンを抱き締めヨシヨシ。
「一件落着!帰ります!」
「また遊びに来ます!」
--------------
自宅に帰ってシュルツ工房へ移動。
先帰りした2人と共に従者2人と何とレイルまで同席。
「来てくれてたんだレイル」
「妾が助言した物じゃしな。ベルがどんな物を構築したかも気になっての。プレマーレは自宅で昨日の反省文を書かせておる」
「なるほ」
シュルツが解説。
「必要品は揃っています。合成が必要な物が右手に。
無垢の古代樹の杖と骨槍。土台となる台座は黄昏石をピーカー君が加工形成。
出来上がった台座中央部にブラッドキャッツを設置。
その上に杖を支える縦棒。縦棒は既存品を流用。加えて古代樹の木片で背骨板を背面に設置。背骨板の加工はお兄様が。土台図面と共に必要図は書き起こしました。
最上位の風と雷魔石を台座と縦棒の背骨板に一つずつ計四個挿入。
全て組立て杖に魔力量三千五百前後を掛けて起動すれば完成です。
魔石は既にカット済。後は合成と台座と背骨板を作るだけです」
皆の拍手に照れるシュルツ。
「でも魔力量指定か」
「現状の結界範囲を維持するならば。掛け過ぎると隣国や北部を無視して南山脈まで食い込みます」
「意外な盲点」
「難しいわね」
「恐らくベルエイガ様も現地で。杖単体に魔力を掛けて効果範囲を探った物と思われます。元々の台座に差し込めば或は魔力が抜けるのかも知れません。又は上限設定。
今回骨槍を合成してしまうので何処までも掛けられる事に成りますね」
「成程」
「抜く道具が別に有ればか。何か無いかなアローマ」
注目されたアローマは。
「フィーネ様。答えは既にこの中に。冷静に冷静に」
「え…」
言われたフィーネは室内を見渡し一点で目が留まった。
「あ!ブランちゃん。あぁ御免。現地に持ち込んで杖の末端から消去して貰えばいいじゃない…」
「はい。ご明察です」
肩を落とすフィーネに皆で拍手。
「私も反省文書くわ。後で」
フィーネは作業台右側で。自分は反対左側で。
ピーカー君は中央で図面を見つつママさんと交信。
最も早く終わるかと思われたフィーネが最後に残った。
「難しい?」
「正直難しい。これまでで一番。両方最上品で同格。全くの異種同格は初めて。
少しでも配分間違えると骨槍がメインに成っちゃう」
「あぁそれでか」
作業開始から全く動かないのは。
「ちょっと時間が欲しい。何方も予備が有ると油断してる自分が居る。大雑把な私に不向きな難問ね」
「いいよ一晩掛けても。どの道現地行くのは明日以降」
「うん頑張る。私は放置でお喋りしてて。どんな状況でも冷静に集中を」
そう言って2本に手を掛け目を閉じた。
話題を変えて。
「シュルツとファフレイスはダリアと事務棟案件でどんな打ち合わせしてる?」
「主に内装構成ですね。机の配置とかの」
「その通りに」
「ダリアが正式就任したら提案する積もりだったけど。ファフレイスが来てくれたから今話す。
彼女は内務文官も兼任する予定で無理するから。事務棟の方は完全週休2日制を導入させます」
「完全…」
「週休?」
「ファフレイスの契約前に突っ込まれたお休みの件。あの場では答えなかったけどちゃんと考えてたよ。
週休2日に加えて夏季大型連休。ラフドッグまでならシュルツも行ける。ホテルと財団宿舎で分かれても。
夏季の他にも定期で連休。その間事務棟は完全運休。
そもそも役所じゃないから毎日稼働させる積もりも無ければ絶対させない。
従業者の休みも取り難い。交代制での夜間稼働はしない。
事務棟は事務所であってお悩み相談所じゃない。そんなの受け付けてたら俺たちの時間も無くなる。
デートする時間も作れない。自由時間を作り出す為の事務棟が無意味に成る。
シュルツの場合オリオンや自走車案件や時計作り。
ダリアは内務文官。事務棟は週に3日。文官は2日の縛りでそれ以上は許しません。
て今度打ち合わせ行く時に本人と上に伝えて。シュルツ自身のお休みも考えてね」
「はい…」
「そこまで考えられていたとは…。あの時は失礼を」
「ファフレイスも無敵じゃない。全域カバーも要点絞らないと睡眠も食事もゆっくり取れない。
大きな脅威が去った今。守護が本格的に必要に成るのは俺たちが西へ乗り込む段階から。今はまだ大丈夫。
新たな敵が現われても。事務棟の稼働を絞って置けば判定もし易い。
罠を張られる夜間運営なんて有り得ません」
「「はい」」
「シュルツが自由に動けて俺との時間を作れるように成る2年後。
西へ乗り込むのは更に1年後の想定。
それはレイルがヌンタークに伝えた余白時間と同じ。新たな敵が現われるならその時。
隠れているならロルーゼとボルトイエガルとキリータルニアと西大陸。
ロルーゼは来年潰す。キリーも来年様子見。ボルトイエガルは動きを見せるまで静観する。
諸々含め、今は焦らなくていいよ」
「有り難う御座います…お兄様」
「早計でした…」
「ごめんスタンさん。今の話で全然集中出来なかった。
アローマと2人だけにして」
「なにしとんねーーん」
「お嬢…」
「お主も心が弱いのぉ」
「面目無い…」
2人を残して自宅リビングへ撤収。
--------------
自宅リビングでお茶をしながら。
「レイルは夕食何処で食べる?」
「…お主がそれを聞くならここじゃな」
「だと思いました。今日は鶏の唐揚げ、と何か野菜たっぷりのもう一品。
あっさり系?甘酸っぱい系?ガッツリ系?さあ何れ」
「三種も有るのかえ」
「基本同じ具材で味付けを工夫するだけさ」
「ま、待つのじゃ…」
「おやおや。さっき家のフィーネさんを馬鹿にしたのは何方かな」
「それとこれとは違うのじゃ」
「では待ちます」
本気で悩み始めたレイルを待つ時間。
出された答えは。
「ガッツリじゃ。唐揚げも有るしの」
「おーけー。では始めます。
ペリーニャは野菜刻み担当。ロイドは炊飯と茹で担当。
俺は揚げと焼き担当」
「「はい!」」
「シュルツとファフレイスもこっちなら?」
「本棟のお断りを!」
「早急に」
「ソプランは適当に酒でも買っといて」
「おぅ。適当が一番難しいんだがな…。姐さんラフドッグ方面行かね?」
「ええのぉ。行くかえ」
各員が分散。
………
フィーネたちは夕食完成間際に帰宅。
「あぁ~手遅れだったかぁ…」
「ここまで遅いとこう成りますよフィーネ様」
「ガックし…。杖の合成は成功。明日には行ける」
「おっけー。匂いで解ると思うけどもう直ぐ完成」
「定番中の定番ね。手洗って来る」
マッサラから自力で走って来たプレマーレも含めて全員着席。で料理の説明。
「大蒜を利かせた鶏唐揚げと。豆板醤を使った海鮮五目餡掛け丼です!」
一同拍手。
「あっさりと甘酸っぱいじゃとどう変わったのじゃ?」
「あっさりなら薄味醤油。甘酸っぱいなら醤油ベースに黒酢と砂糖少々が加わります」
「成程のぉ。味付け次第かえ」
「そゆこと」
食事が始り1人お箸の操作に苦戦するファフレイス。
「お箸の扱いが…これ程に…難儀な物とは」
「無理をしてはいけませんわファフレイスさん」
隣のシュルツに突っ込まれ。
「きょ、今日は素直にフォークで。自室で特訓します…」
食事後の晩酌中にフィーネが咳払い。
シュルツはオレンジジュース。
「隊員全員集まっていますので年末までの予定をザッと策定したいと思います。
明日。杖と循環器の入替えをスタンさんとペリーニャ。ブランちゃんをお供に。回路の仕上げは連鎖の宝珠にて。
その他隊員は外の警備を。装備もそれなりに。
クソ女神が行方知れずで余裕咬まして油断していましたがスタンさんの大枠予定を耳に。考えを改め。先程の合成中にふと大問題が浮かびました」
「どんな?」
「ペリーニャ。改信急がないと神格化されない?」
「え…」
「あ!拙い。カタリデどう思う」
「ヤバいわね。私もうっかりしてた。今日の昼前の祈りで聖女の片鱗見せちゃったから充分に有り得る。
明日早くしないと…。駄目だわ情報拡散の方が早い。
今直ぐ入替えて。明日の朝一番で改信の手続き!と発表を城も含めて全部使って!教皇への報告は後追い!」
フィーネが立ち上がり。
「工房の荷物は私が持った。隊員遠征準備!直ぐにここから飛びます!」
隊員とペリーニャが2階へと駆け上がった。
優雅に酒飲んでる場合じゃない。
翌早朝。総本堂の受付に並ぶ巡礼者に対し。
「スターレンだ!緊急時に付き、受付待ちの先頭を譲って欲しい!」
さっと横へ動いてくれた列に感謝しながら受付に飛び込み手続き申請。
当然受付嬢は。
「ほ、本当に。聖女様が…宜しいのですか」
「良い。責任は俺が全て取る。兎に角急いで改信の発表まで頼む」
「解りました!」
申請受理と同時に手分けして両ギルドへ。
俺とペリーニャは城内早朝散歩中だった陛下とミラン様を捕まえ事情説明。
「行く前に言えと何度も言うて居ろうが!!」
「済みません!兎に角お急ぎを!」
「ミラン。大至急文書を起こし全鳩射出だ!」
「はい!」
情報戦は辛くも勝利。
後追い説明のグリエル教皇は渋々了承。
「杖を入替えてしまったなら最早反対も出来ぬ…。今後は公募で聖女を選出する。ペリーニャを不幸にしたら私がお前を呪うぞ!」
「甘んじて!必ず幸せにして見せます!」
イカれた淫乱女神が残した最後の罠を発見したのは。
愛する正妻フィーネだった。
同席者は嫁2人と従者2人。
遠征には不参加のファフレイス。
そのファフレイスと事務棟の打ち合わせで自宅に来ていたシュルツ。
レイルたちはマッサラの自宅。
案内は簡単に明日以降なら何時でも可。とだけ。
時刻は午前10時過ぎ。リビングからペリーニャに通話。
「ペリーニャ。杖の場所には行った?」
「はい。一度だけ入りました。それ程広くはない空間で浅い天然洞窟の入口部を作り替えたような祠でした。
鍵は父預かりですがゼノンとリーゼルが居れば何時でも持ち出せます」
「そか…。杖を俺と見に行く前に。どうしても話して置かなければいけない事が有るんだ。かなり長時間」
「…今後の進路でしょうか。それともそちらに朧気に見える新しい客人に付いてでしょうか」
「客人は直接関わってない。けど進路その他諸々の話と俺自身に付いてまだ話していない事を全て」
「全て…ですか。解りました。今月の行事は入れて居りませんので今日これから何時もの歓待室で。昼食も兼ねてお願い致します」
「うん。用意して持って行く」
「お待ちして居ります」
通話を終えて。
「ふぅー。何作ろっか」
「梅干しと鮭の海苔巻き御握りとお茶と珈琲とか」
「卵巻きに採れ立てトマトにポテトフライなどを簡単に」
「何だかピクニックや遠足みたいだな」
嫁2人が笑い。
「そうね」
「そうですね」
ブランを抱き抱えるシュルツが。
「何故か私の方が緊張しています」
それを励ますファフレイス。
「シュルツさんには私が付いていますよ。ブランも」
「心強いです。頑張って下さいお兄様」
「頑張る。正直に伝える。それ以外に無いな」
お弁当を3人で。お茶と珈琲はアローマが拵えた。
弁当箱を収納してクワンと一緒に3人で歓待部屋へ。
既に神妙な面持ちで席に座る対面に椅子を並べ。
クワンはペリーニャ側の隣席椅子の背もたれに乗った。
お茶と珈琲をコップで配り話を始めた。
異世界日本から蠅に転生した所からロイドとの再会。
次のスタプ世代。ロルーゼから出てラザーリアの城内で人生を終えた話。
そして今のスターレン。成人を待ち。憧れでも有ったタイラントを目指し出発。途中でのフィーネとの出会い。
導かれるように準備が整いラザーリアへ帰還。城の奪還と地下施設の開放。ペリーニャとの出会い。
以降タイラントの外交官と成ってからの遠征や外交で見えて来た闇商を資金源とする闇組織の存在。その裏に隠れていた邪神教団の姿。
それを追い始めた頃からチラ付き出した女神ペリニャートの関与。神域への強制転移で女神本人との邂逅。
生還後から続く旅路。50年前の魔王戦での嘘と虚像。
女神が直接関与した時間操作と調整。
蠅の前のグズルードの存在の発見。裏切りと繰り返し。
時間操作の根源である時空結界の破壊。
女神直下の中域者ヌンタークの素性と死亡。
最後に転生表を見せ。
「俺は元々こちら側の人間。グズルードが起源だった」
昼やトイレ休憩を挟んでもう夕方。
俺もペリーニャも最後の方には泣いていた。
「俺との別れを選んでくれて構わない。でも古代樹の杖だけは交換させて欲しい。責めてもの償いに」
「馬鹿な事を仰らないで下さい!」
「ペリーニャ…?」
「誰に対して負う償いなのですか。スターレン様は被害者です。誰がどう見ても。
お別れなど有り得ません!」
「…」
「やっと…。やっと理解が出来ました。私の監禁されていた二年間の意味が。
どうして女神は助けて下さらないのか。どうして信者が多く住まうラザーリアであんな暴挙を放置されたのか」
「…うん。俺もラザーリア時代にそう思ってた」
「全ては…。私とスターレン様との出会いを遅らせる為に。たったそれだけの為にあんなに多くの犠牲など!」
ペリーニャはテーブルに伏して大声で泣いた。
フィーネが手渡したハンカチを握り締め。彼女は顔を起こして涙と鼻を拭いた。
俺の手持ちは使い物に成らず。
乱れた呼吸を整えると。
「御本人が降臨されるのですね…。杖をスターレン様と見に行く時に」
「必ず。そこまで俺たちで追い込んだ。だから今全部話したんだ」
「そうでしたか…」
ペリーニャは何故かフィーネのバッグを見詰め。
「フィーネ様」
「はい」
「その…予備の避妊具を」
「え…」
「頂けますでしょうか」
「渡す用で準備をしていた物だけど…今?」
「今です。成人は迎えました。杖を交換すれば自由の身。信仰を変えるかは後日に決めます」
俺を見据えて。
「私をここで。大人にして下さい」
「で、でも…」
「私もお迎えして頂けるように特措法を発令されたのですよね?」
「確かにそうだけど」
「鍵は私しか開けられません。人払いはして有ります」
嫁2人とクワンは道具を置いて既に居ない!?
許可が下りてしまった…。
カタリデ入りのバッグをテーブルの上に置き。道具を片手に彼女を抱き起こした。
「後悔なんてさせない」
「後悔なんてしません」
2度目の深いキスはとても切なく甘く感じた。
--------------
旦那を歓待室に放置し帰った自宅。
リビングには出発時の面々。
シュルツの頭を撫で。
「羨ましいと考えちゃ駄目。お楽しみは待ってからの方が幸せよ」
「う~。待ち遠しいです後一年と八ヶ月。長い…」
ペリーニャと同じくテーブルに伏した。
「アローマ、ソプラン、プレマーレ。今夜中に武装の点検と準備。いよいよ明日ご対面。
但し3人は模擬戦で教皇邸内のその他の足留めを。
神格クワンティの存在は認知されている。ブランちゃんを装備して存在消しで上空待機。
杖の祠と首都に北部のゴッズ級を差し向ける可能性有。
無形短剣はプレマーレ回収時にレイルにお預け」
「おけ!」
「いよいよですね」
「クワッ!」
『私も殴りたかった、と』
「どうせスタンさんとペリーニャに殴られた時点で逃げ出すわよ。ストーカー女に留まる度胸なんて無い」
「間違い無く」
「各員今夜は軽食で済ませるように。では解散!」
--------------
裸で抱き合い起きる朝。
お早うのキスを一頻り…。味わった後で現実を認識。
「あ!もう朝」
「い、いけません。湯浴みもしていませんのに」
急遽フィーネさんを呼び出し浄化で証拠隠滅。
そのまま自宅風呂へ直行。恥ずかしいとか言っている暇は無い。
着替えてダイニングに座る頃には隊員集結済。
皆で和風朝食を食べ終わり。
「申し訳無い。もう杖の事なんかどうでも良くなって」
「現実逃避を…してしまい」
フィーネさんはニッコリ。
「私とカルが許可したんだもの」
「大丈夫ですよ。向こう時間ではまだ朝方」
ゆったりと目覚めの珈琲とお茶をしながらペリーニャが。
「本当は前前から可笑しいとは感じていました」
「何が?」
「大切にしろと渡された彫像を急に交換だとか。無形短剣もそうですし。女神を敵視しているような帰来が見え。
夏休みのホテルの時もチラリと」
「「あぁ~」」
滲み出るオーラの中にね。
「これ程スターレン様に嫌われた状態で女神は何と言うのでしょうね」
「さっぱり理解不能な事だろうね。…ちょっと吐きそうだから止めようこの話」
「済みません。止めましょう」
男女別のドレスルームに分かれ装備品のチェック。
とは言えペリーニャの着替えが少々手間なだけ。
マウデリンガードブラを装着。
ブーツもバッグも最新に入替えられ。フレアレギンスと4枚合皮のハーフパンツで下半身もしっかりガード。
フィーネら女性陣が寄って集って着せ替えた様子。
自分は大狼様のジャケットと改造雷帝ズボンのみ。
最初から完全武装では可笑しな話。
リビングに集まり歓待部屋へGO。
邸内の広間に着く前にグリエルパパがこちらを見付けて猛然とダッシュ。
「ペリーニャ!」
「はい御父様」
「無断で外泊とは何事だ!」
「非常に近い将来夫となるスターレン様のご自宅へ。諸先輩奥様のお二人から有り難いお話をお聞きするのが何故悪いのでしょう」
「……」
堂々の結婚宣言。グリエルパパだけでなく周囲の修女や聖騎士隊やゼノン隊の面々も口を全開にして固まった。
そして更に俺の右腕にこれでもかと絡み付いた。
正気に戻ったパパ。
「あれ?何時だろう。そんな話されたかな?
されたっけ…?されとらんわ!!」
「昨夕に決めました。スターレン様と奥様方も了承。
嬉しさ余って強い酒を嗜み。その後の記憶は曖昧です」
「…え?」
「今朝起きてみると裸でしたので。きっとそれなりの事が生じていたのでしょう。ひょっとしたら私が襲い掛かったのかも知れません」
「…へ?」
「不可避で確定です御父様。ねえスターレン様」
「いやぁ済みませんお父さん。ご挨拶が後に成ってしまったようで。この責任はペリーニャを貰い受ける以外に見付からず。後日改めてご挨拶に伺おうかと」
パパは両膝を折り腰を抜かした。
「おと…おと…おとう」
言語障害を起こしたパパにペリーニャが追い打ち。
「御父様。祠の鍵を下さいな。我が夫であるスターレン様が大変興味を示し。共に観光をして参ります。
初めての二人旅。お邪魔はせぬ様願います」
初めてではない。
パニック中のパパは素直に懐から鍵を取り出した。
それを掴み取り。
「これは暫くお預かり致します。見るべき所も少ない故に数回回れば飽きる事でしょう。それでは」
「そ……れではじゃない!待たぬか!!」
「はい何でしょう御父様。観光のお時間が削られてしまいますので手短に」
「か、観光が終わったら今後の話をしようではないか。その位の時間は有るだろう」
「お話合いの必要性を感じませんが。どうですかスターレン様。理解不足の父を躾けるお時間は」
「それ位なら仕方が無し。後のご挨拶を先に倒すだけ。申し開きもその時に」
「う、うむ…。釈然としないが…」
空かさずフィーネさん。
「模擬の再戦の申し込みを受けに来ました。
この場には我が隊からアローマ、ソプラン、プレマーレを残し。他は観光する2人の後方護衛を務めます。
しかしながらプレマーレは一昨日より風邪気味」
「ケホッ、ケホッ」
「この彼女に再び負けるようではペリーニャをここへお返しする事は適いません。気合いを入れて戦い為さい!」
ゼノンたちの目の色が変わった。
ペリーニャの転移で祠西の離れた場所へ。
護衛役はフィーネ、ロイド、グーニャ。上空のクワン。
「ここ何処ら辺?」
「首都から真っ直ぐ東です。この先の浅い渓谷を下った所に祠が有ります」
「足場が悪いね。まあ飛べばいいんだけど」
「低空なら他には見付かりませんよ。上空は神が控えているので」
「そうね。低空で」
ペリーニャが。
「神、とは?まさか…」
「クワンが神格化しちゃった。山神教のミミズフロンティアとして。昨日話すタイミングが無くて。新しい客人はクワン専属の中域者。王都の守護者として契約済み。
後々に紹介するよ。ロイドと同等の強さの美女」
「はぁ遂にクワンティ様が…。
スターレン様が美女と言われるのが引っ掛かりますが後の楽しみとして置きます」
余計な事言ってもーた。
フィーネに道具を。
「大蜘蛛の糸。これを何処かに設置すれば昆虫系なんて入れ食いさ」
「ありがと。どんどん仕事が減っちゃうけど。まあ平和に越した事は無しね」
「そゆこと」
暫く渓谷に向かって歩いていると案の定北部から急接近する魔物の群れ。
ペリーガン、コモドリアン、キラーアント、キラーハニーのゴッズと取り巻き。
上空のクワンにフィーネが指示。
「こっちに全集中か。クワンティ!北部のデビルイール潰して南部のビッグベアゴッズ討伐宜しくー」
「クワッ!」
クワンの声だけが響いた。
戦闘が始まっても俺たちは気にせず祠へデート。
左手でペリーニャの手を握り。
「外野は気にせず参りましょうかお嬢様」
「はい。喜びまして」
そのデートの真っ最中にストーカー女神が天から舞い降りた。渓谷手前に着地。
「出たなストーカー」
「あーあホントに出て来ちゃったクソ女神」
「女神…様」
怯えるペリーニャの前に立つ。
「この先には行かせない!」意味不明。
「いい加減にしろ!そこへ行くと決めた時。お前は反対しなかった。今更何だ!」
「あの時の貴方は杖の詳細を知らなかった。掴んでいても破壊を指示する積もりだったの!」
「知るかボケ!今の俺のラザーリア時代。成人までの間は間違い無くフリーだった。何故あの時お前は下りて来なかったんだ」
「カリスマ値が…まだ好みじゃなかったから…」
「「「はぁぁ??」」」
「脳みそ捻れてるんですかね」
ピーカー君は冷静に分析。
「じゃあ何か。前回の魔王戦の時。お前はグズルードを招いて置きながら魔王様に股を開いてたのは…。
魅力値が原因だとでも言うのか」
「魔王のフェロモンの魅力に抗えなくて…仕方無く相打ちにさせたの」
「「「はぁぁぁ???」」」
「この神終わってますね」
「気持ち悪!何だこいつ」
「説得って次元じゃないわ。どうしよこれ」
「あぁ私は今まで何を信じていたのか…」
「ラザーリアの地下で見付けたフェロモン剤は…俺に飲ませる為の物だったとか」
「そう…」
「想像を絶する淫乱ね」
「色欲の神…だったのですか」
「塩しか出ませんが吐きそうです…」
「もう駄目だ!お前は殴るにも値しない。てか触りたくもない!」
右手に可逆の歯車を握り絞め。
「お前に残された最後の切り札を破壊する!」
「止めてぇぇぇ。壊さないで。私と一緒に誰も居ない過去まで飛んでよ!」
ペリーニャの手を離しその場でリアルゲロを吐いた。
朝食が…。そして背中を擦ってくれて有り難う。
「これは仕方無い。私も人間だったら吐いてたわ」
「ギリギリでした…」
「僕はちょっと出ました。後で掃除します」
口端を拭い立ち上がる。
「終わりだ淫乱女神」
ペリーニャを少し下げ。歯車を握り潰し。カタリデで粉に成るまで切り刻んだ。
「嫌あぁぁぁ」
絶叫と共にどっかに消えた。多分もう二度と会う事は無いだろう。
水魔石で水を生成し手と口とカタリデを洗い流し。消毒液まで掛け。胃薬と回復薬を飲んで漸く落ち着いた。
「洗ってくれてありがと」
「俺は元来綺麗好き」
ペリーニャにも胃薬を渡し。吐いたゲロに周りの土を被せて終了。手を拭きながら。
「何だったんだ今のは」
「さあね。もう神域にも帰れないし。海に潜っても何も無いし。どっかで朽ち果てるのを待つんでしょ」
「水竜教に改信すると今心に決めました。誰が何と言おうとも」
「俺は反対しない」
「出来ないよ」
「出来ませんね。真実を知ってしまっては」
「ペリーニャの改信の為にも杖の交換と永久機関の構築やらないと。今日は鑑定とスケッチまでかな」
「はい。頑張ります」
--------------
面と向かって振られたのは初めてだ。
このままでは終われない。深海に行く前に。
パージェント城に仕掛けたあの座標。
メルシャンのお腹の子は女で確定している。
赤子段階の魂なら憑依するのは容易い。
たった十七年待てば今より成熟し切った彼と出会える。
周りの女を排除するのは困難だとしても傍には居られる。
そう考え座標に向けて転移した。
しかし…その足場に在った物は。灼熱の溶岩溜りだった。
認識しても手遅れ。アッテンハイムのゴッズを強制召喚するのに魔力を使い過ぎた…。
叫びながら溶けて行くしか、手が無かった。
業火に焼かれ再生も追い付かない。
私の何がいけなかったのか。答えはもう解らない。
最後の最後でガンターネに念話を送ってみたが無反応。
やがて私の意識も途絶え。魂は土へと還るのだろう。
海を選ぶべきだった。母なる海。
最初に生まれた身体へと。愛する夫と出会えた身体を。
意識は暗闇に包まれた。
--------------
各方面の成果は上々。やはりゴッズは美味い。
ドロップ品の詳しい鑑定は後日。と言うか多過ぎ。
祠の内部を精細にスケッチ。俺とペリーニャのW鑑定で仕様を隈無く暴き出し記録。大半は予想通り。
一部想定外も有ったがベルさんの最終巻にも記載されていた箇所でシュルツと相談すれば一発終了は確定。
次の訪問で入替えは終わる。
祠外に集まるフィーネたちに淫乱女神との最後の邂逅を説明。
「ごめんレイル。触りたくなかった」
『触れんで良いわ。手が汚れる。それで正解、と』
「ありがと」
「スタンさんの手が腐るのは私も絶対に嫌。有る意味鉄壁の防御ね」
「防御、と呼べる物なのかは疑問です」
「思い出すとまた吐いちゃうから教皇邸戻ろう」
「あぁごめん撤収しましょ」
「忘れましょう。早く」
教皇邸へ戻ると。ペリーニャの自宅引き取りが決定していた。詰り弱体化プレマーレの圧勝。
倒れながら俺と目が合ったゼノンが親指を立てた。
最初からその積もりだったのだと思う。
託された彼女を幸せに。俺が返せるのはそれだけ。
早い昼食を兼ねた別室の小会議室にて。
「娘様を僕に下さい!」
テーブルの上に額を擦った。
「一般的に…それが先ではないのかね」
「済みません。手順を間違えてしまって」
「ゼノン隊も負けてしまったし。特措法の知らせを受け嫌な予感はしていたが。実際こう成ってみると辛い物だ。
君も娘を持つだろう。二十年後位に苦しめ」
「はい。何となく予想はしています」
「ペリーニャ」
「はい御父様」
「供給の儀式以外でも偶には帰って来て欲しい。私もそうだしグラハムも。お前の元気な顔を見られないのは寂しいのだ」
「定期的に帰ります。家族として」
「うむ。奪われた二年間。あれが無ければどんなに良かったか。我が儘を言われ聞いて困らされるのも楽しみだったのに」
「我が儘なら今もこれからも」
軽く笑い返し。
「そうかもな。では。我が儘な娘だが宜しく頼む」
「志かと。幸せに」
私室の荷物をバッグに詰め込み我が家へ。
リビングでお茶をしながら従者2人にも結果報告。
「マジかぁ…。そんな理由かよ」
「変態を司る神も又変態であったと」
「女神がどっか行ったなら。使命の達成報酬どうなんだ」
ソプランの問いにフィーネが。
「フウの消滅が始まればそれが達成の合図。私とカルの分は水竜様が保障してくれた。スタンさんは証が消えるだけで。
今回の件で序列が上がって海の勢力図も変わった。
要するに信者数が上乗せされて力が強くなったから問題無しよ」
「そか。良かったなスターレン」
「ホントそれ。一番の心配事が無くなった。これでやっと西に集中出来る。まだ先だけど」
ペリーニャを見て。
「ここには私室って部屋が無いんだけど。どうする?新宿舎の部屋とか」
「嫌ですよ一人だけ除け者だなんて。シュルツさんが何か考えているそうなのでずっとこちらです」
「ごめんそんな積もりじゃ。何かっても上に増築かな」
「3階建てねぇ」
「将来家族が増えますし」
朧気なイメージでもそりゃ凄い事に成る。
「そのシュルツはファフレイスと一緒に城で事務棟の打ち合わせ中。
杖の永久機関構築は明日か。ではペリーニャさん」
「はい」
何かを期待する瞳。
「歓迎会」「え…」
「手続き」「はい!」
「の前に?」「え?」
「指輪を買いに行こう」
席を立ち上がり。
「はい!行きます!」
「歓迎会の料理は任せて」
「ごゆっくり」
先輩嫁2人も応援。
「ぽっかり空いた年末まで何を入れるかは杖の案件が片付いてから皆で考えよっか」
「そうね。色々案出ししとく。ここに居る残りの人で」
突然プレマーレが挙手。
「お邪魔をして済みませんスターレン様」
「はい何でしょう」
「何時でも良いので私の絵を。描いては貰えないかと」
「…予想は予想。それで将来を決めたりしない?」
「しません…」
「止めよう。それは駄目。他者の予想に頼り出したら何も自分で決められなくなる」
「…」
「俺が自画像を描かない理由がそれ。未来視を止めさせてるダリアに頼むのも厳禁。絶対に許さん」
「はい…」
「相談する相手が違うぞ」
「済みません。気の迷いです。レイルダール様に怒られに行きます」
「良し。ではペリーニャ。参ろうか」
「参りましょう」
約束と責任と幸せの指輪を買いに。これで3つ目。
6個目は考えていない。それはソプランに失礼だ。
--------------
直接会うのは久し振りのフローラに嫌味を言われ。
「後、何種類のデザインを考案して置けば良いのでしょう」
「…2種類で」
「成程そこまではご予定と。大変良く解りました」
「頼むから広めないで」
「それをしたら店が潰れて私は牢獄行きです。お客様に対する守秘義務は絶対。ご安心を」
「良かった」
「ペリーニャ様。改信をしてしまった後で恐縮ですが。直接お話出来た私個人の記念として。どうか握手を」
「構いませんわ。こちらこそ。私もその予定です」
「え…?」
ペリーニャの方から呆然とするフローラの手を取り握手を交した。
「今のは記憶から消し去ります。忘れました」
「器用だな」
「器用ですね」
丁度店頭に出そうとしていた新作デザインのプラチナペアリングをその場で調整加工。このデザインは出さないと決めてくれた。そこまではしなくて…いいのだけど。
指輪を受け取り。その足でルーナリオン南浜の誓いの岩場へ飛び。指輪交換と誓いの言葉とキスを交した。
海を眺め彼女を背中から抱き締めながらふと思う。
「気の所為かな…。座面が座り易く成ってる」
「きっと気の所為です。所でスターレン様」
「なんだいペリーニャ」
「私もオーラに乗りたいと言ったら…」
「そこまでの防寒着は持ってる?ちょっと手持ちじゃ足りなくてさ」
「そうでした。済みません。また次の機会に」
「気が回らなかった俺の所為さ。謝らなくていい」
「いえいえ。やはり私は我が儘。父の言う通りの」
「正直に言ってもいい?」
「何なりと」
「5人分の差を付けるのが大変なんすよ…」
「あら。私もその内の一人として口にするのは烏滸がましいのですが。頑張って頂きたい所では御座います」
「頑張ります…」
大変だ。これからもっと。嫁以外も居るし…。
まあ良いかとペリーニャの温もりを抱いて過ごす午後。
帰りに手続き寄らないと。忘れずに忘れずに。
--------------
嫁3人と裸で起きる朝。
「あの…皆さん」
「なーにスタンさん」
「何ですか?」
「何でしょう?」
「起きてるやないの。俺を1人で寝かせようと言う」
「ここは自宅。私たちは正統な夫婦。詰り嫌よ」
「嫌です」「嫌ですね」
「腕は2本。胸は2つ。5人目は何処へ?」
フィーネが俺のお腹を擦り。
「特等席が有るじゃない」
「そこの下は特等席ではないと思うのですが」
「それはそれよ」
正妻は強靱。
「そっすか」
物理的に6人目は厳しい。時間配分も。
2日目にして混浴にも慣れてしまったペリーニャも交えての朝風呂。
入る余地が無くなったキッチンに立つ嫁3人を珈琲片手にリビングからボーッと眺める…。
わしゃ何処ぞの帝王か!何時だ?何時からこうなった。
あぁ俺元王子だったわ。グズルードも。一安心。
もう直ぐサダハんに文句言えなくなるな…。
刻んだ人参と椎茸が入った出汁巻き卵を食べ。
「あぁこの卵焼き。基本だけど忘れてた」
「でしょでしょ」フィーネが得意気。
「レシピは基本の積み重ねですね」
「まだまだ全く及びません」
「ペリーニャはナイフも包丁も使え無かったししゃーない」
「救われます。もっと精進せねば」
食後の一時に。
「ペリーニャ」
「はい」
「君が改信をする前に。行きたい場所が有る。そこで女神教最後の祈りを捧げて欲しい。俺たちと君自身の区切りとしても」
「…そのお話を詳しく」
「勿の論です」
モルセンナのカストロさんから聞いた話を余さず伝えた。
「そう…でしたか。私たちに相応しい、ではなく。私たちが捧げるべき祈り。ケジメと言う物なのでしょうか」
「うん。俺もケジメだな。あれだけは」
「私とカルに取っても同じ」
「決締め。切っ掛けはどうであれ。同じ時に集いし者の1人として、ですね」
「序でと言っては語弊が有るけど現時点で父上とソフィアーヌさんにご挨拶を」
「「「はい」」」
「それとフィーネさん」
「はいはい」
「ラザーリアの関係者の中で。最近の俺の知らせを見てブチキレているであろう女性がお1人居られます。それはいったい何方でしょうか?」
フィーネは直ぐに頭を抱え。
「居たぁ…。すっかり忘れてたぁ…。サン王妃」
「正解!一緒に土下座して謝罪しよっか」
「有り難うスタンさん。サン王妃だけは1人じゃ無理」
「直で断った俺にも説明責任が有る。折角安定して来た玉座から下りられたら大問題。スタルフとは絶縁。果ては国交断絶」
「あぁ怖い…。本業の仕事への影響の方がデカいわ。懐妊してても可笑しくない頃だし。身体へも」
「誠心誠意謝ればきっと伝わるさ」
「はい!」
ロイドが挙手。
「スターレン。サン王妃の件は当然口出し出来ませんが帝国の姫君たちを視界から外しているのは何故?」
「クルシュたちなら問題無いよ。大狼様と会う序でに助けたと前置きしてあるし。本人たちも了解済。
しかも白月宮で俺やソプランが疑似ハーレム状態に成っても以前のフィーネが平然と過ごしてた。
それなりの気持ちを持っていてくれてたとしても。レレミィはラーランと恋仲。クルシュ本人は微妙だけど皇帝さんと良好な関係。その他の人とは密接に関わってない。
白月でお喋りした以外は」
「成程安心しました」
「以前の私が判定材料に成ってたのね」
「言い方は悪いけどね。俺との関わり合いの中でフィーネが怒った人物は本気の気持ち。もし例外者が来ても何ですか貴女は状態で断るよ。流石に」
「百里しか無いわ」
「んじゃシュルツとファフレイス呼んで。杖の循環器考えて貰ってる間にお祈りと謝罪行脚へ参りましょうか」
「「「はい」」」
ペリーニャとファフレイスが初対面の挨拶を交し。
ファフレイスにはクワンから伝わっているがシュルツは結果を知らないので説明すると。口を押えてトイレへ駆け込んだ。
その背をファフレイスが優しく撫でた。
「朝食べた物が全部出ました…。どの様なホラー小説よりも恐ろしく。…杖の方はお任せを」
「だ、大丈夫か」
「無理しちゃ駄目。明日でもいいから」
「私の事は気に為ずに」
「お昼は水だけにします。大丈夫です。ファフレイスさんが居るので」
「体調面までしっかり管理します。今のは…不可避と言う事で」
心強い守護者だ。クワンの心が移ったみたいに。
「おけ、こっちは任せた」
「グーニャは行く?」
「我輩はゴロゴロしますニャ~」
「解った。クワンティーはお散歩と外のおトイレを。神域に用事が有るならそちらでも」
「クワッ!」
ラザーリア西部の女神教寺院裏。共同墓地に建てられた小さな石碑。
近くの花屋で買った白いカーネーションを献花に。
多くの観衆が見守る中。聖女ペリーニャの祈りの詠唱。
両手を組み胸の前。俺たちは離れた後ろで跪いた。
「友よ…。我らが友よ…。あの日救えた小さき友よ…。
哀れむ言葉は無く…。悲しき別れをした英霊たちよ…。
どうか安らかに眠れ…。我らは先へ行く…。
その大きな夢を胸に刻み…先へ行く…。
天に召された御霊が…。彼の地で報われる事を願い…。
ここに穏やかな祈りを捧げん」
真っ白な光が周囲に舞い。やがて石碑を包んで空へと揺らいで消えた。
周りの啜り泣く声。膝を崩す者たちの嗚咽。
その中を掻き分け寺院の神父の前に立ち。
「定期の祈りは春の頃に。冬の空では寂し過ぎます故」
「は…はいぃ…」
神父の声は涙に震えていた。
実家方面へ歩く間でもペリーニャを見て涙する者も。
俺を見て罵声を浴びせる人は居なくて助かった。
実家のリビングで昼食中にお邪魔。
父とその隣に座る可憐な淑女ソフィアーヌ。
「食事中失礼を。お久し振りです父上。それとソフィアーヌさん」
「元気を通り越して元気そうで何より。ロディも」
「お陰様でとても幸せです」
「私の事を良く覚えていましたねスターレン様」
「様は止めて下さい。私は美人な方の顔は忘れないタイプの人間です」
「まあお上手。では遠慮無くスターレンと。そして聖女様まで娶るとは…。私は夢でも見ているのでしょうか」
「どうも。私は肩書きだけで至って普通の我が儘娘。父の反対を押し切り実家を飛び出しました。拾って下さいとお願いしたのは私の方で」
「いやぁどうしてこんなにモテるように成ってしまったのかアッハッハッハッ。なーんて冗談はさて置き。
サンの様子は如何でしょう」
困り顔の父上はソフィアーヌと顔を見合わせ。
「それはもう。当然。勿論。至極普通に怒っている」
「「あぁ…」」
怒ってるかぁ。
「懐妊していたりは」
「そっちはまだだ。その面は問題無い」
「「良かったぁ」」
お土産の赤ワインを片隅に置き。
「謝りに行って良いと思いますか。フィーネと揃って」
「微妙だな。どう思うソフィ」
「厳しいですね。同じ女としては何方とも。スタルフ王もスターレンも同じ位に想い揺れている。
懐妊していれば変わったのでしょうが…時節が悪く。聖女様との報まで聞いて今頃城でどうして居るのやら、です」
「う~ん…」
「超絶困りましたね…」
「でもここまで来て帰るのはなぁ」
「引っ張るのは宜しく無い。のは間違い無い」
「食事が終われば先にソフィと城へ上がる。こちらでは用意が無い。何処かで済ませてから来ると良い。只…妃の方まで揃って行くのはどうかと思うが」
「怒っている人に喧嘩を売るのは如何な物かと」
「ですよねー」
「一旦帰って出直します。2人で」
「では挨拶はこの辺りで。近々もう1人。2年後に1人増えてしまう予定です。…この事は内密に」
「言えるか馬鹿者。火に油を注いでどうする」
「お願いします」
自宅で食事を済ませて折り返し。サンの私室。
弟は遠目から心配そうに。ハルジエは中立の立ち位置。
父とソフィアーヌは弟寄り。ペリルはサンを応援する布陣vs俺とフィーネ。
怒れるサンの前に夫婦揃って魂の土下座。
「俺の事は忘れてくれ!」
「弟王も立派に成長されました!」
謝る前に挑発で様子見。
「む~」
顔を覆って返答悩み中。
「子供の頃からの付き合いだが。俺とは元々特別な事は何も無かったじゃないか。お互い淡い想いを抱えていたとしても」
「一途なのは善き事。でも今は幸せに過ごされている。本来望んだ身分ではなくても」
「確かに…そうですけど…」
「スタルフに不満でも有るのか」
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「憧れと恋を履き違えてはいけないわ。夫の間口を解放したからって今の生活を全て捨てる積もりなの?」
「いいえ。捨てません。済みませんでした…」
サンが漸く椅子に座った。
一同安堵の溜息。
「大体なんでそんなに怒ってんだよ」
「羨ましくて…。自分にも可能性が有ったんじゃないかって考え始めたら…感情が抑えられず」
「単なる欲張りじゃん」
「私が居なくても結局スタルフ王を選んでいたわ。きっと必ず。同じ女の勘として」
顔を覆って伏せた。
スタルフを手招き。
「頭撫でてやれ。俺がやると誤解が再発する」
「はい」
素直な弟はサンを抱き締めヨシヨシ。
「一件落着!帰ります!」
「また遊びに来ます!」
--------------
自宅に帰ってシュルツ工房へ移動。
先帰りした2人と共に従者2人と何とレイルまで同席。
「来てくれてたんだレイル」
「妾が助言した物じゃしな。ベルがどんな物を構築したかも気になっての。プレマーレは自宅で昨日の反省文を書かせておる」
「なるほ」
シュルツが解説。
「必要品は揃っています。合成が必要な物が右手に。
無垢の古代樹の杖と骨槍。土台となる台座は黄昏石をピーカー君が加工形成。
出来上がった台座中央部にブラッドキャッツを設置。
その上に杖を支える縦棒。縦棒は既存品を流用。加えて古代樹の木片で背骨板を背面に設置。背骨板の加工はお兄様が。土台図面と共に必要図は書き起こしました。
最上位の風と雷魔石を台座と縦棒の背骨板に一つずつ計四個挿入。
全て組立て杖に魔力量三千五百前後を掛けて起動すれば完成です。
魔石は既にカット済。後は合成と台座と背骨板を作るだけです」
皆の拍手に照れるシュルツ。
「でも魔力量指定か」
「現状の結界範囲を維持するならば。掛け過ぎると隣国や北部を無視して南山脈まで食い込みます」
「意外な盲点」
「難しいわね」
「恐らくベルエイガ様も現地で。杖単体に魔力を掛けて効果範囲を探った物と思われます。元々の台座に差し込めば或は魔力が抜けるのかも知れません。又は上限設定。
今回骨槍を合成してしまうので何処までも掛けられる事に成りますね」
「成程」
「抜く道具が別に有ればか。何か無いかなアローマ」
注目されたアローマは。
「フィーネ様。答えは既にこの中に。冷静に冷静に」
「え…」
言われたフィーネは室内を見渡し一点で目が留まった。
「あ!ブランちゃん。あぁ御免。現地に持ち込んで杖の末端から消去して貰えばいいじゃない…」
「はい。ご明察です」
肩を落とすフィーネに皆で拍手。
「私も反省文書くわ。後で」
フィーネは作業台右側で。自分は反対左側で。
ピーカー君は中央で図面を見つつママさんと交信。
最も早く終わるかと思われたフィーネが最後に残った。
「難しい?」
「正直難しい。これまでで一番。両方最上品で同格。全くの異種同格は初めて。
少しでも配分間違えると骨槍がメインに成っちゃう」
「あぁそれでか」
作業開始から全く動かないのは。
「ちょっと時間が欲しい。何方も予備が有ると油断してる自分が居る。大雑把な私に不向きな難問ね」
「いいよ一晩掛けても。どの道現地行くのは明日以降」
「うん頑張る。私は放置でお喋りしてて。どんな状況でも冷静に集中を」
そう言って2本に手を掛け目を閉じた。
話題を変えて。
「シュルツとファフレイスはダリアと事務棟案件でどんな打ち合わせしてる?」
「主に内装構成ですね。机の配置とかの」
「その通りに」
「ダリアが正式就任したら提案する積もりだったけど。ファフレイスが来てくれたから今話す。
彼女は内務文官も兼任する予定で無理するから。事務棟の方は完全週休2日制を導入させます」
「完全…」
「週休?」
「ファフレイスの契約前に突っ込まれたお休みの件。あの場では答えなかったけどちゃんと考えてたよ。
週休2日に加えて夏季大型連休。ラフドッグまでならシュルツも行ける。ホテルと財団宿舎で分かれても。
夏季の他にも定期で連休。その間事務棟は完全運休。
そもそも役所じゃないから毎日稼働させる積もりも無ければ絶対させない。
従業者の休みも取り難い。交代制での夜間稼働はしない。
事務棟は事務所であってお悩み相談所じゃない。そんなの受け付けてたら俺たちの時間も無くなる。
デートする時間も作れない。自由時間を作り出す為の事務棟が無意味に成る。
シュルツの場合オリオンや自走車案件や時計作り。
ダリアは内務文官。事務棟は週に3日。文官は2日の縛りでそれ以上は許しません。
て今度打ち合わせ行く時に本人と上に伝えて。シュルツ自身のお休みも考えてね」
「はい…」
「そこまで考えられていたとは…。あの時は失礼を」
「ファフレイスも無敵じゃない。全域カバーも要点絞らないと睡眠も食事もゆっくり取れない。
大きな脅威が去った今。守護が本格的に必要に成るのは俺たちが西へ乗り込む段階から。今はまだ大丈夫。
新たな敵が現われても。事務棟の稼働を絞って置けば判定もし易い。
罠を張られる夜間運営なんて有り得ません」
「「はい」」
「シュルツが自由に動けて俺との時間を作れるように成る2年後。
西へ乗り込むのは更に1年後の想定。
それはレイルがヌンタークに伝えた余白時間と同じ。新たな敵が現われるならその時。
隠れているならロルーゼとボルトイエガルとキリータルニアと西大陸。
ロルーゼは来年潰す。キリーも来年様子見。ボルトイエガルは動きを見せるまで静観する。
諸々含め、今は焦らなくていいよ」
「有り難う御座います…お兄様」
「早計でした…」
「ごめんスタンさん。今の話で全然集中出来なかった。
アローマと2人だけにして」
「なにしとんねーーん」
「お嬢…」
「お主も心が弱いのぉ」
「面目無い…」
2人を残して自宅リビングへ撤収。
--------------
自宅リビングでお茶をしながら。
「レイルは夕食何処で食べる?」
「…お主がそれを聞くならここじゃな」
「だと思いました。今日は鶏の唐揚げ、と何か野菜たっぷりのもう一品。
あっさり系?甘酸っぱい系?ガッツリ系?さあ何れ」
「三種も有るのかえ」
「基本同じ具材で味付けを工夫するだけさ」
「ま、待つのじゃ…」
「おやおや。さっき家のフィーネさんを馬鹿にしたのは何方かな」
「それとこれとは違うのじゃ」
「では待ちます」
本気で悩み始めたレイルを待つ時間。
出された答えは。
「ガッツリじゃ。唐揚げも有るしの」
「おーけー。では始めます。
ペリーニャは野菜刻み担当。ロイドは炊飯と茹で担当。
俺は揚げと焼き担当」
「「はい!」」
「シュルツとファフレイスもこっちなら?」
「本棟のお断りを!」
「早急に」
「ソプランは適当に酒でも買っといて」
「おぅ。適当が一番難しいんだがな…。姐さんラフドッグ方面行かね?」
「ええのぉ。行くかえ」
各員が分散。
………
フィーネたちは夕食完成間際に帰宅。
「あぁ~手遅れだったかぁ…」
「ここまで遅いとこう成りますよフィーネ様」
「ガックし…。杖の合成は成功。明日には行ける」
「おっけー。匂いで解ると思うけどもう直ぐ完成」
「定番中の定番ね。手洗って来る」
マッサラから自力で走って来たプレマーレも含めて全員着席。で料理の説明。
「大蒜を利かせた鶏唐揚げと。豆板醤を使った海鮮五目餡掛け丼です!」
一同拍手。
「あっさりと甘酸っぱいじゃとどう変わったのじゃ?」
「あっさりなら薄味醤油。甘酸っぱいなら醤油ベースに黒酢と砂糖少々が加わります」
「成程のぉ。味付け次第かえ」
「そゆこと」
食事が始り1人お箸の操作に苦戦するファフレイス。
「お箸の扱いが…これ程に…難儀な物とは」
「無理をしてはいけませんわファフレイスさん」
隣のシュルツに突っ込まれ。
「きょ、今日は素直にフォークで。自室で特訓します…」
食事後の晩酌中にフィーネが咳払い。
シュルツはオレンジジュース。
「隊員全員集まっていますので年末までの予定をザッと策定したいと思います。
明日。杖と循環器の入替えをスタンさんとペリーニャ。ブランちゃんをお供に。回路の仕上げは連鎖の宝珠にて。
その他隊員は外の警備を。装備もそれなりに。
クソ女神が行方知れずで余裕咬まして油断していましたがスタンさんの大枠予定を耳に。考えを改め。先程の合成中にふと大問題が浮かびました」
「どんな?」
「ペリーニャ。改信急がないと神格化されない?」
「え…」
「あ!拙い。カタリデどう思う」
「ヤバいわね。私もうっかりしてた。今日の昼前の祈りで聖女の片鱗見せちゃったから充分に有り得る。
明日早くしないと…。駄目だわ情報拡散の方が早い。
今直ぐ入替えて。明日の朝一番で改信の手続き!と発表を城も含めて全部使って!教皇への報告は後追い!」
フィーネが立ち上がり。
「工房の荷物は私が持った。隊員遠征準備!直ぐにここから飛びます!」
隊員とペリーニャが2階へと駆け上がった。
優雅に酒飲んでる場合じゃない。
翌早朝。総本堂の受付に並ぶ巡礼者に対し。
「スターレンだ!緊急時に付き、受付待ちの先頭を譲って欲しい!」
さっと横へ動いてくれた列に感謝しながら受付に飛び込み手続き申請。
当然受付嬢は。
「ほ、本当に。聖女様が…宜しいのですか」
「良い。責任は俺が全て取る。兎に角急いで改信の発表まで頼む」
「解りました!」
申請受理と同時に手分けして両ギルドへ。
俺とペリーニャは城内早朝散歩中だった陛下とミラン様を捕まえ事情説明。
「行く前に言えと何度も言うて居ろうが!!」
「済みません!兎に角お急ぎを!」
「ミラン。大至急文書を起こし全鳩射出だ!」
「はい!」
情報戦は辛くも勝利。
後追い説明のグリエル教皇は渋々了承。
「杖を入替えてしまったなら最早反対も出来ぬ…。今後は公募で聖女を選出する。ペリーニャを不幸にしたら私がお前を呪うぞ!」
「甘んじて!必ず幸せにして見せます!」
イカれた淫乱女神が残した最後の罠を発見したのは。
愛する正妻フィーネだった。
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例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
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