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第271.5話 夏期休暇前半

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愛する嫁2人を腕枕に起きる朝。
早朝風呂もペッツたちと一緒に入り優雅な朝食。
3人並んで椅子を近付け食べさせ合ったり幸せな一時。

食後の珈琲や紅茶を飲みながら一息。
「俺思うんだけどさ」
「なーにスタンさん?」
「何ですか改まって」

「もうペリーニャ無理じゃね?」
「「…無理ですね」」
俺たちの失楽園には招けない…。

「頑張って探すかぁ」
「載冠式典で誰を見てたのか」
「教えてくれますかね?」

「まあでも自分で見付けた相手なら大丈夫か」
「真贋の瞳は伊達じゃないよ」
「心配するだけ無駄、なのかも。応援しましょう」
3人で頷き合った。

「父上の所には一度行かないと。ロイドをやっぱり返して下さいって」
「う~ん。余計じゃない?スタンが出るのは」
「それは私自身の口からでないと。ローレン様のプライドが傷付きます」

「そか余計だな。何時行く?」
「午前中にグーニャを連れて行って来ます。早い方がスターレンも気が楽でしょ」
「うん。正直ソワソワする」
「私もドキドキ」
「お任せを。お土産は黒酢で」
「お願いします」

ロイドたちが出掛けた後。入れ替わりに従者2人が来訪。

お茶をしながらリビングで。
「お前はいいよな。毎日二人相手で」
「私一人では身が持ちません…。フィーネ様も恋しくて」

「でもなぁ。2人だけここ泊めると」
「凄く嬉しいけどマッサラの2人がブチキレるわ」

「それは拙いな。姐さん今のは冗談だ」
『抜駆けは許さんぞ。だと』
「しませんて」

ソプランが姿勢を正し。
「真面目な話に戻そう。エルラダさんの目が回復して景色に色彩が戻った。でも完治じゃない。
心臓の方も微回復傾向は変わらず状態は安定。
だがある程度回復予測してライザー殿下とダリア姫の婚姻式典は二十日に決定した」
「国内式なので身内のみ。その後の発表会は不参加で良いとの事です」

「目は順調か。じゃ3日後から19までエリュランテ取るかな」
「それまでに各自の買い物と荷物の整理。忘れ物が無いかの打ち合わせを何処かで。
図書館にも行ってみたいし」
「皆図書館なら俺1人で楽器遊びするよ。過去を振り返る時間作らんと。そっちでも見落とす」
「そうね。エッチしてたら振り返れないもんね」
「減り張りが大切。ベルさんの言う通りだ」
4人で頷き合った。

続けてソプランが解読品目リストを取出し。
「隣の二人に問い合わせた結果がこれだ」

向けられたリストには。
「解毒効果と不妊治療薬に繋がりそうと」
「但し調合が高難度。敢えて今手を出すべき物とは思えないか」
「放置しよっか。密偵2人には申し訳無いけど」
「ペテルギヌ王が調査中の案件に首突っ込んじゃ駄目よ」
「そうそう。ソプランたちはハイネに報告と3日後からのシュルツの予定を聞いて」
「了解」
「畏まりました」

「午後から集まって完成した新宿舎見に行こう。
ペカトーレの配達は明日の午前で」
「行こー。ラフドッグには私とクワンティでお散歩して来る」
「んじゃ早速防音室籠るよ」




--------------

カタリデをレール棚の反対壁に立て置き。
柔らかい馬弦ギターをポロポロ弾く。

俺の長い旅は一匹の蠅から始まった。

燻木智哉の死因はアナフィラキシーショック。
経緯はどうであれ誰にでも起こり得る事例。

どうして俺は選ばれた?
御方様も詳しくは教えてくれない。
御方様が先に選んだ俺の魂を横から時の女神が奪った。

何処で…見てたんだ?
当時神域には居なかった。こちらの中域。若しくは西大陸を見ていた筈だ。

愛する魔王様が前勇者と相打ちに成る瞬間を。
そこから目を離すとは考え難い。

中域のロイドと出会い。そして蠅に成りたいと望み。
御方様が叶えた瞬間?

合わない…。時間軸がズレてる。

相打ち。カタリデが離脱。魔王様の…遺骸があの場所には無かった!?

では蠅は誰から生まれた?
戦場から魔王城まで飛び回り肉片を食い漁った。
その間に鑑定能力に目覚めた。

「カタリデ。前勇者が魔王様と戦った場所って最終的に何処だった?」
「魔王城内よ?」
「城内!?」
「そうだけど?」
「合わない…。何もかも。蠅が生まれた場所は城外だ」
「え…マジで?」
「マジで。時間軸を操作されたのは間違い無い。
いや…待てよ。ひょっとして…蠅の前が居るのか。俺の三世代前が」
「え…」

「記憶は無い。ガンターネかシトルリンに消された。
それに加えて時間を進めてロイドの到着を偽装。あの場所に俺の魂を飛ばした。
三世代前。俺は女神と会っている…」
「うっそ」
「じゃないと女神が俺に執着する理由が全く無い」
「…確かにそうね。別世界に向かっていた貴方を捕まえるのは幾ら神でも困難だったわ。あっちの御方が直で招いてた魂なら尚更」

「ロイド。蠅の発生場所の方角覚えてる?」
私が到着したのは天に飛翔する少し前です。あの女最初から私まで…。
「ロイドの到着は蠅が生まれた後で解らないってさ」
「厳しいわね。あの時魔王城内外で乱戦してたから誰から生まれたか解らないわ」
「て事は…。俺は…外で戦ってた冒険者だ。勇者隊とは別動の。最終間際で何部隊に別れてた?」
「えーちょっと待って思い出す」
「頼む」

暫くの後。
「大きく3つ。城に突入した勇者隊。城南で外からの増援を抑えてた隊。城東側の荒野に魔王の下臣を倒しに向かった隊」
「それだ。荒野に向かった隊員の誰かだ」

「隊長はグズルード。隊員は含めて20人。誰かの特定は難しい。東から連れて行った部隊じゃないから全員は流石に覚えてない。ごめん」
「手掛かりはグズルード。若しくはその本人」
「当時のシトルリンが連れて来たから出自も不明。シトルリンは勇者隊に参加してた」

「もう一度ガンターネに会う必要が有るな」
「女神ちゃん。今の貴方に殺させて過去を抹消しようとしたのね」
「間違い無く。そんな手に誰が乗るかクソ女神。
後でプレマーレにも聞いてみよ」
「だね」

もう1つの手掛かりは西方三国に眠ってる。シトルリンが連れて来たならそちら側。確定ではないが。

過去を振り返る。これからも続けて行こう。

「今日はここまでにしよう。腹が立ち過ぎて」
「それがいいわ。リラックスした時じゃないとね」
「その通り!」


リビングに降りた時。丁度ロイドとグーニャが帰宅。
グーニャを床に下ろし無言で抱き合い熱いキスを交した。

唇を離し。
「忘れる程今夜は寝かさない」
「喜んで。私も忘れたい。3人で深く」

お茶を淹れ直しているとフィーネとクワンが帰宅。
「只今~」
「クワァ~」
ロイドが。
「丁度良かった。今話そうと」
「どうだった?」

3人でリビングソファーに座って仕切り直し。
「もう既にお隣にソフィアーヌと言う穏健派筆頭の令嬢様が居ましたよ。
対外的にも女神教信者でないと具合が悪く。次に来た時に私とのお別れを切り出すお積もりだったそうです。
仮に私を迎えてもスターレン程幸せには出来ないと」
「あぁソフィアーヌさんかぁ。一度しか会った事無いけどあの人なら安心だ」
「やっぱり別で探してたんだ。良かったぁ」
ホッと一息の茶が美味い。

それからフィーネにも思い出した手掛かりを話した。
「三世代前のスタン…。女神が降りて来たら私も3発目に殴らせて」
「どうぞどうぞ。皆でボコボコにしてやろう。最後に神殺し刺したろか」
「名案です」
本体引き摺り出して。

「プレマーレは覚えてない?グズルードの部隊」
『…管理は全てシトルリンで記憶してないと』
「そかぁ」
「残念」
「振り返る度に宿題が増えますね」
「しゃーない。地道に探ろう。部隊のリーダー張るなら30前後。累計80年。更にもっと」
「過去まで増える…」

ロイドの発案。
「気分を変えて。昼食でも作りましょうか」
考え過ぎても始まらない。
「クワンティの好きな蛤と帆立買ったから。お吸い物と炒飯作ろう。ピリ辛豆板醤で」
「決まりだな。レイルたちも来る?」
『解り切った事を聞くでないと』
「良し!作ろう。多目に」

ソプランたちも呼び。シュルツと侍女衆も来て楽しい昼食会と成りました。

気分転換も大切。




--------------

シュルツの案内で共有部門の新宿舎内覧。

中継橋を挟んで北側の事務棟の工事も進み。2階部の骨組みも見えた。

「新宿舎北棟南棟。それぞれ四階建て。一階部を除き各階四部屋の合計二十四部屋。両方一階部の二部屋は守衛や警備の控え室と交代休憩室と成っています。

室内間取りはダイニングキッチン。リビングは無し。
全室フローリングの三部屋。荷物や衣服クローゼット。
合わせて四部屋の中間にトイレ、二人用バス、洗面。
洗濯器用スペース。
玄関には靴箱と用具入れの棚を設置して有ります。
家族向け想定なので大人数の宴会には向きません」

実際の室内を拝見。
「おぉ。立派な家族向けだ。これって」
「最初の頃に私たちが希望してた広さね」
「はい。ご自宅は御爺様と私の我が儘で大きくしてしまいましたので。こちらで再現してみました」
2人で順にシュルツをハグ。

「隣接部屋間には隙間を設けて防音材を詰め込みましたのでお隣上下の騒音は聞こえません。普通の人間には」
「騒音問題は外せないよなぁ」
「抜け目なしね」

「各棟両側に常用階段。棟の裏角に非常階段と梯子。
両棟の屋上を繋ぐ形で大型家具を引き上げ用の滑車レールを橋渡しにしています」
「ちゃんと将来性まで考えてる」
「シュルツは偉いねぇ。私は基本自分の事しか考えない人間だったから尊敬するわ」
「…だった?」
慌てて。
「な、何でも無いの。私も前よりは成長したって話よ。
別次元に」
突入しました。連れて行かれた?
「成程」

裏の非常階段方面へ移動。
「来月からティンダー隊の入居。タツリケ隊の出張用控え室として北棟二階から順に埋まります。
ソプランさんたちのお部屋も北棟からお選びを」
「助かりますお嬢様」
「両邸の往き来が楽に。感謝致します」

「将来レイル様の従者家族をこちらに住まわせるのかマッサラに拠点を置くのかは今後のご相談で」
「うむ。ラメルの店を何処に置くかでも変わるからの」
「ですね。もう既に一流の腕を持ち。年内にご成人を迎えられるので来年に入ってからご本人たちを交えて相談会を開きましょう」
「出来た子じゃ。頼んだぞ」
「はい。その分のお部屋は南棟最上階に確保します。
橋の北に見えるのが専用の事務棟。三階建ての構想ですが増やした方が良いでしょうか」
「大丈夫。大会議室と執務室が有れば」
「2階建てでも充分よ」
「解りました。
三階に大会議室と執務室。二階に小会議室を四部屋。
一階部は大型厨房と食堂。関係者控え室。給仕や料理人の控え室を置く予定です。ご自宅で捌けない本鮪でも余裕の広さを目指します」
「そっちで料理するのも有りだな」
「うんうん。橋を渡れば直ぐに運べるしね」

「新宿舎の南側には室内訓練施設と地下プールを二つ。
の予定でしたが」
「「が?」」
「お風呂場が無い事に後から気付きまして」
「「おぉ」」
「地下は勇者隊の専用プールとシャワールーム。
訓練者用のお風呂場に分ける事にしました。泳ぐ訓練所はラフドッグに建設します。海水と淡水に分けまして」
「賢い」
「訓練なら両方大切ね。プールを2つにするのは敷地制限も有るし」
「なので広々ゆったり専用プールを目指します」
「「有り難う」」
特に今は。

「訓練棟は宿舎内の関係者と勇者隊。隊の関係者のみの使用で部外者用の入口は設けず中継橋から直接繋ぐ連絡路をロロシュ邸側に増設します」
「助かります」
「何時でも行けるね」

「訓練棟は事務棟完成間際からの着工予定です」
皆で拍手を贈った。


折角皆が集まったので忘れ物事項の打ち合わせ。
シュルツも同席。

「ライザー王子とダリアの婚礼式は全員ではないけど半数は確定で今月20日。
ルーナ両国の再訪問と工事施工結果確認は21日以降の一週間前後。
10月下旬のコーレルサブデの案件は無視決定で再訪問の必要は無し。
その代わりに深海遺跡チャレンジ本番をその辺り。
11月上旬予定のペリーニャの成人の儀以降で古代樹の杖の現物確認。
以上が年内の大項目。

最果て町のお見合い仲人は10月上旬にしようか」
「そうね。双方頃合いだと思う」

「新作の長剣と包丁セットは明日の午後に確認。完成していれば受け取り。
シュルツの方には連絡来た?」
「まだですね。思ったより加工が難しいのかも知れません」
「師匠が出来ると言ってまだ出来てない…」
「ヤンさんと2人掛かりで?」

「相当難しいんじゃねえのか。特殊金属は初めてだろうし」
「重量バランスかな。それとも混ざらない」
「それ有るかも」
「取り敢えず確認をと。他に直近で忘れ物無いかな」

シュルツが手を挙げた。
「お兄様。私の休暇予定は聞かれましたが。ペリーニャ様のご予定は聞かれましたか?」
「へ?」
想定外。
「自分の式典準備で忙しいだろうと」
「こっちからは何も聞いてない」

「式典内容を削りに削って既に準備は終わっているそうで何時呼ばれるのかなぁ、と言っていましたが?」
「ぬわんってこった」
「打ち合わせ終わったら通話してみるわ。
他には何か有るかな?」

レイルが。
「特殊マウデリンをシュルツに見せよ。遣い道の案出しに」
「あ、そだね」
「特殊なマウデリン?」

オーナルディアの迷宮で拾ったんだと説明してシュルツの前に塊を置いた。

愛用の三ツ葉眼鏡でふむふむと眺め。よいしょと持ち上げたり。
「おぉ凄いですね…。荷重変動。負荷率可変。
締結力向上。
あ!これ新作の長剣作成に使えそうです。
特殊な白金とタングステン。特殊でないマウデリン。
配合が上手く行かないなら普通マウデリンが邪魔をしている所為かも知れません。こちらに入替えれば」
「「お!」」

「それ見た事か」
「レイルさんの手柄では無いですよ」
「見せよと言うたのは妾じゃ」
怒る素振りのレイルの手をロイドがまあまあと撫でた。
それを見たシュルツが。
「…レイル様とロイド様は仲が悪かったのでは?」
2人が速攻手を離す。
「な、何でもないのじゃ」
「略毎日一緒にお風呂に入っていたので普通ですよ」

「お風呂は相性まで乗り越えるのですね」
凄いですとニッコリ笑った。

「じゃあこれは」
「工房行き決定ね」

他に忘れ物は浮かばず早速ペリーニャに通話。
「ごめん。てっきりアッテンハイムから出ないもんだと」
「思い込んでた」
「良かったです伝わって。直接催促するのは図々しいと思いシュルツさんに」
「成程ね。予定は3日後10日から19までラフドッグ。
シュルツに合わせるなら10から12だけどどうする?」
「シュルツさんとご一緒で。既に準備済みです」

「じゃあ決定で。こっちから迎えに行くよ」
「シュルツが居てホント良かったぁ。乗せられないけどとっても珍しい船を拾ったからお楽しみに」
「あぁ良いですね。今から胸が弾みます」

無事に通話終了。しかしアローマが。
「現時点の潜水艇をお見せするのは…。拙いような」
「あ!やっちゃったぁ」
フィーネが頭を抱えた。
「ま、まあ見せるだけなら。乗せないって言ったし」
「お姉様。しっかり私がペリーニャ様の手を握って連れ回しますので」
「ごめんねぇ。潜行試験中は私船の後方に張り付くから。他に誰か地上で2人の保護を」
プレマーレが挙手。
「絶望的に女神と相性の悪い私が見守りましょう。フィーネ様の代わりに」
「お願いねプレマーレ」
何とか事無きを得た。

カタリデの苦言。
「最近はフィーネの方が旦那よりやらかすわね」
「何も言えません…」

ソプランが肩を揉みながら。
「俺も外だ。完成間近の船に接近出来るこのタイミング。
ゼノンとリーゼルを操るならこの時。彼奴らに本気出されたら面倒臭え。理由を付けて引き剥がす」
「妾も外じゃ。深海は次で良い。浜辺に護衛隊を連れ模擬でもしてやろうかの。ソプラン」
「おぉいいね姐さん。動けなくなるまでボロボロにしてやろうぜ」
「フフッ。そっちの方が面白いのぉ」

「皆有り難う」




--------------

身も心も蕩ける夜を過ごした翌日。

ソプランたちと合流して飛んだペカトーレの首相官邸。
目的は薬のお届け。ロイドはお留守番or図書館。

「こんちは~。マホロバは暇?」
受付嬢さんが苦笑い。
「首相が暇な国が有るのでしょうか。お伝えしますのでソファー席でお待ちを」
挨拶がラフ過ぎた。
「スタンさん。何故そんな挨拶を」
「何となく。遊びに来ました感を演出したくて」
「お前なあ」
「スターレン様…」

気持ちを入替え応接室へ。
「薬がもう完成したの?」
「配分割り出しと調整剤に時間が掛かるだけで他は特に。何せ天才が2人も揃ってるし」
「羨ましいなぁタイラント。こっちは優秀な薬師が居ないんだよ」
「それで欲しいって言ったのか」
「そんな感じ」

商品全出し。効能効果。使用方法と使用量を説明。

「神経伝達異常を整える…」
「こっちでは心臓を患ってる人に処方してる。全身に効くから抗鬱作用とか食欲不振とか。飲んで直ぐ効果が有る物じゃないから大人数に配るより絞った方が良い。
と言って置きながら…」
「スタンさん。ペカトーレにも必要な人がきっと居るわ」
嫁に制止され。

「ん?何?」
「何でも無い。詳細説明書に書いてある通り配合割合の紫茸が4割だから全体の4割持って来た。
それで全部。1人に換算すると約半年分」

マホロバとニーメンが背を向けてヒソヒソ。
密談が終わって向き直った。
「紫茸が更に奥で見付かったと言ったら?」
「お、いいね。でもガラハイドの収穫時期詳しく聞いてないから同じ物作れるとは限らないよ。真夏に突入してるし」
値切らなくて良かった…。

「あ~そうか。茸と同じで栽培してる訳じゃないんだ」
「そそ。まあ種の有る果実だから別で育ててるかも」
「じゃあそれに期待して日干しにした物全部渡す。収穫量は前回と略同じ。
勿論忙しいのは承知の上で。次に来れそうなのは」
「来月中旬なら。ガラハイドさえ有ればそれまでには出来てる。追加の契約書書こっか」
「使いたい人は幾らでも。期待してる。
ニーメン書類持って来て」
「直ちに」

書類が届く間に。
「首相て大変?」
「それはもう。王国政だったら面倒な役員門前払い出来るのに公人に成ると全部聞かないと駄目。
この違い君なら解るっしょ」
「うわぁ面倒くさ」
「その一言に尽きる。でも何故か君らが来るとピタッと止まる。なんで?」
「知るか。運が良いんだよ」

「長話したいけどお互い暇じゃないしさ。書類は山。
町に出て挨拶回り。首長の下らない話。接待受け。
おばさんのながーい愚痴。挙げたら切りが無い。
ホント恨むよ」
「そこは御免」
「御免為さい」

「だからちょっとだけこの薬自分で使う。
キタンがどんだけサボってたのか解って胃に穴空きそ」
「是非使ってくれ」
「今度は胃薬も持って来ます」
「助かるぅ」

「婚活もゆっくりしたかったのにさ。このままじゃ次期も続投だよ」
「俺の胸が苦しい…」
「私も…」
裏でハーレムやってますなんて死んでも言えない。

「見合い話も来るけど何れもパッとしない。勇者隊で世界の最高峰見せ付けられて」
「…」
こちら4人全員無言。

「とまあ始まらないからたまーに僅かでいいから俺の愚痴聞いて」
「考えとく」
「同じく」

「今の所キタンは大人しくしてる。息子と一緒に小さな農園始めた。
多趣味で飽き性のあいつが何処まで持つのやら。
スリーサウジア西部とは迷宮弄って貰って以来仲良し。
その二点を考えなくて済むだけ楽」
「良かった」

話題を変えて。
「変な質問していい?」
「どぞ」
「グズルードって昔の冒険者の名前どっかで耳にした事って無い?」
「グズルード?…グズ…。ん?あれ…」
「え?」
「嘘…」
行き成りヒット!?西方三国じゃない?

丁度応接室に戻ったニーメンにマホロバが問う。
「ニーメン。グズルードって冒険者の名前覚え有る?どっかで聞いた気がするんだけど」
「グズルード…?あ、それって三代前の王族ではなかったでしたか?」
「あ、そんな気が」
「「え!?」」
「マジか…」
「何と言う偶然」

「何処と無くスターレン様と状況が似ていますね。第三王子だからと勝手に出家して冒険者の道を歩んだとか。
噂では前勇者隊と西大陸遠征に同行して戦死したとか」
「何てこった」
「こんな事有るんだね」
とカタリデが最後に呟いた。

「その人がどしたの?」
「いや…。大した事じゃないんだけど。来月来る時までに関連記録集めて貰えないかな。今後で重要に成る可能性が有る」
「前の勇者とか?」
「そう。そこに繋がるかも知れない」

「ま、持ちつ持たれつって事で集めてみるよ」
「有り難う」

新しい契約書と今回の完了書に署名し荷物を受け取り。速攻ラフドッグの滋養酒店に向かった。

何時ものおっちゃんに問い合わせ。
「全然自生してますよ。年中。採っても採っても減らないんで昔は捨てて。今はこれに有効活用です。
前にロディ様も気を遣われて遠慮されましたが文字通り腐る程小屋に有るんでお好きなだけ持ってって下さい」
「何と!?」
「買います!ただで頂くと上が煩いんで」

「では銀貨二枚で結構です」
「やっす」
「相場が解らない…」

裏の小屋に案内されて大袋1袋を持ち帰った。
序でに蜂蜜店蜂蜜と苺を少々。

自宅経由でお隣にソプランたちが配達。

リビングでお茶をしながら。
「不思議だ」
「偶然が怖い。でもこれは嬉しい」
「幸運3本柱は女神ちゃんでも崩せませんて」
「「うん…」」

そして俺はふと。
「もしかして。ベルさんが3の数字好きなのって」
「スタンの為の大きなヒントだったのかな」
「有り得るわね」




--------------

昼をパパッと食べて前倒しでデニーロ師匠の自宅へ訪問。

丁度午後の休憩と被り隣含め4人が悩ましそうな顔をしていた。

師匠とヤンが。
「出来る!て豪語して置きながら済まん」
「どうしても混ざらないんです。長剣三種金属が。溶解したのに水と油みたいに綺麗に分離を」
シュルツの予想通りだった。
「やっぱりか」

「やっぱり?」
「上級の鑑定具で見直したら特殊じゃないマウデリンが邪魔をしてるんじゃないかって予想を」
「特殊じゃない…」
「あぁ!成程そう言う。でも特殊同士でも混ざらないんですが」

「特性の違いだと思う」
「と!言う訳で本日持って来たのは何と!両者を繋げる特殊マウデリンを持って参りました」

「と…」
4人が固まった。

「見たくもねえが見よう」
「進みませんからね」

テーブルの真ん中にフィーネがドンと置いた。
それぞれの鑑定具で見た後で溜息。
「あぁ確かにこれなら」
「結合しそうです。でもやはり迷宮産?」
「正解。今回の遠征で潜った1つで落ちた」
「「成程」」

「解った。これでやってみる。だが長剣が全部で4本出来る計算に成るんだがどうする大将」
「うーん。どうしよ」
「相談してからにしましょ」

「だな。取り敢えず2本分は保留。そのままか大剣型にするか相談してから連絡する」
「了解だ」

ヤンが。
「包丁セットの方は出来てます。単体金属なので。料理が上達したフラーメでも元々お上手だったナンシャさんでも当然スッパスパ」
「私も欲しいよ。護身用にも」
「こんな包丁もナイフとしても見た事無いです。プロが使えばそれはもう凄いでしょう」
「おぉ」
「私たちも欲しいよね。でも渡す人は決まってるので。
思い出の1つとして胸に」
「しょーがないね」
「ですね」

包丁セットを受け取り退出。

玄関前で。
「レイルに後で渡すとして。午前に行ったのにエリュロンズの方取るの忘れてた」
「あ…」
「俺もだ」
「薬に頭が行って」

「今回も10人前後だろうから15人分。誰行く?」

私がとアローマが。フィーネとソプランは図書館行き。
俺は自宅でその場で解散。




--------------

自分で珈琲を立て用意して防音室へ上がった。

今日は楽器を持たずにリラックスタイム。
「偶には1人でのんびりリラックス」
「いいと思う。連続で思い出そうとしなくても。それが返ってストレスに成るから」
「だよね」

窓辺へ椅子を運び。外の景色を眺めた。

従業者宿舎とサルベイン棟との間から見える新宿舎の頭。
贅沢だ。

「ちょっと愚痴っていい?ロイドにも聞こえてるけど」
「いいわよ。好きなだけ」
「俺ホントはこんな贅沢望んでなかった。
ラザーリアから出た時持ってたのは金貨10枚と銀銅数枚だけ。タイラントに行ければいい。そこまでは行きたい。
南西大陸への渡航代を稼いでラザーリアの追手から逃げたかった」
「巡り合わせね。誰だって弱い」

「手持ちの金貨でフィーネが雇えた。それは良い事。
今のスターレンの身体で初めて人を殺めた日。人殺しをしてしまった恐怖で震える俺をフィーネが慰めてくれた。
あの時は単なる甘え。それがパージェントに来る頃にはどうしようもなく好きになってた」
「うん」

「あの時甘えていなければ…。彼女をもっと相応しい人と会わせてあげられたんじゃないかって。
フィーネの異常な独占欲喰らっても全然嫌じゃなかったのは俺の方も彼女を誰にも取られたくないって気持ちが有ったから。
でもそれも甘え。彼女の優しさと強さを利用してただけだって最近思う。ハーレム状態になってから。
彼女を操作して縛ってたのは俺だったんじゃないか。彼女の望みは最初から自由だった。
それを知っていながら、俺は…」
「そのたらればは良くないわ。フィーネも良く言ってるじゃない。過去は過去。今が真実。変えられないなら背負わなくていいって」

トワイライトで流した涙と同じ物が頬を伝った。
「こんな…弱くて。不甲斐ない俺で…いいのかな…」
「いいと思う。とっても。正直に伝えなさい。夜に。
この後伝えると寝室行きよ」
「うん…」

「さあ涙を拭いて。鼻水珈琲に入ってるわよ」
「大変だ…。淹れ直さなきゃ…。顔洗って」
「それがいいわ」

その夜。フィーネに本心を打ち明け許しを請うた。

3人で泣きながら深く深く愛し合った夜。
やっと…辿り着けた気がした。これで良いのだと。
幸せな今が真実。




--------------

翌日は3人とペッツで朝から色々な場所へ転移して手繋ぎ腕組み純粋なデートを楽しんだ。

地方の美味しい物を食べ。お土産を買い。山や森や海の景色を肩を並べて眺めた。

そしてラフドッグ休暇1日目。

朝から隊の皆とレイルを集めて打ち合わせ。
「レイルにはラメル君への包丁セットを渡したのでこれで一安心。
長剣2本は出来そう。余った材料でもう2本分作れます。
武器、盾、防具と色々有りますがいったい何作りましょうかと言う相談です。ご意見をどうぞ」
ロイドが一発回答。
「ピーカー君に決めて貰いましょう。特殊マウデリンの権利はピーカー君。それが無ければ完成はしません」

「即決回答が出てしまいました。ではピーカー君のご意見をお願いします」
「うーん…。正直に言っても良いですか?」
「何でも言って」
「来年何に進化するのかは未定ですが。金属可変が付いた物なら僕用の防具にしたいなと。防具で有りながら変形を加えて武器にも出来ます。
外装なら形態変化。取り込めれば自由変化。自由なら最少化しても脱着不要。
なので一旦塊にして温存して頂けないかなと」
「決定です。塊で!」
「何の文句も有りません!」
誰が文句を言えようか。

「塊にする連絡は休暇中の空き時間に飛びます。皆様お忘れ無く」
クワンが翼を広げた。
「手紙を書いて貰えれば届けます」
「有り難うクワン君。後で書きます」
「クワッ」

「続きまして休暇行動予定をざっくりと。
今日から3日間。シュルツとペリーニャを帰すまでは!
我慢に我慢を重ね部屋を各ペアで分散。4日目以降の夜から弾けます。
とは言いましてもそこはホテル内。朝昼夕と食事が運ばれますので。何で全員バスローブやねん!と言う恥ずかしい事に成らないよう。節度を保って。己の精神力で捻じ伏せましょう」
「ましょう!」

「宜しいですか。何時も誰彼構わず襲い始めるレイルさん」
「良い。堪える。堪え凌ぐ。約束じゃ」
言質は取った。
「信じます。では」
「出発!」

余りは塊でと書いた手紙をクワンのパックに入れた。
本来のお仕事でした。


シュルツは天才。
薄々と俺たちの変化に気付き始めている。危険であるがこればかりはどうしようもない。自宅で頻繁に顔を合せる妹なので。

ペリーニャは鑑定眼。
彼女に気取られてはいけない。見抜かれてもいけない。
昔の記憶を思い出して最悪ゲロを吐かれるかも。
だが休暇に招待すると言った以上は腹を括って何とか乗り切らねば。
再来月には重要なイベントが控えてる。現時点で嫌われたらお終い。その為の予行演習だと捉えます。

先にシュルツとカーネギ護衛隊をラフドッグの財団宿舎へ送り届け。続けてアッテンハイムへと転移した。
何時もの特別歓待部屋へ俺たち夫婦2人で。

席に座り彼女たちの到着を待つ間。
「緊張するな」
「緊張するね」
カタリデの温情。
「はぁ…。仕方無いわね。私がブロックしてあげるわよ。
こんな使い方するの初めてなんだからね」
「有り難う。涙出そう」
「フウが人間に成ったら一番にキスするわ。健全な方の」
「止めて。私をそっちに連れてかないで。ブロックしないわよ」
「嘘です。ハグ留めで」
「なら許す」

強い壁を手に入れた俺たちは一安心。
しかし緊張する物はする。

彼女がウキウキ軽い足取りで室内に先頭で入って来た。
その彼女が俺たちを見た途端足を止め…半歩後退った。
「え…」
「え?」
「どうしたの?」
「ん?まさか私の…」

後ろのゼノンたちを振り返り。
「退出を。少しお話をします。廊下からも離れなさい」
「ハッ!」

「「え…?」」

対面席に真顔で座るペリーニャ。
「シュルツさんから何となく全体の雰囲気が変わられたとお聞きしましたが…。まさかこれ程とは」
「私のブロック越えられた!?」

「いえ。大部分は見えません。ですがもう…。隠し切れないオーラが滲み出ています」
「「済みませんでした!」」
何故謝ったのかは不明。

「悪い事だとは言いません。何故そう成ってしまったのか教えて下さい。でないと落ち着いて休暇を楽しめません」
「レイルが…」
「私たちの壁を破壊したの。前回の遠征中に」
「魔族の常識を植え付けたのよ。隊の皆に」

「ロイド様まで」
「そう。吸血姫の全力全開の魅了でね。一瞬でやられて私の対処が遅れたの」

ペリーニャが胸を撫でて一息。
「でも良かったです。地下の変態に抱いたような嫌悪感は微塵も感じません」
もうすっかり大人や。

「仲良き事は素晴らしい事です。その輪の中に入れる自信は有りませんが…。スターレン様をお慕いする気持ちに変わりは無く」
そんなストレートに。
「その気持ちは素直に嬉しい」
「ペリーニャ…。御免。もっと早く私の許容を広げていればこんな事には…」

「フィーネ様が羨ましいと。嫉妬で泣いた夜は幾日も」
「うん…」

「滞在中に一日だけ。手を繋いでデートがしてみたいです。護衛も居ない何処か遠くへ。二人切りで。
ずっと憧れていた普通の生活を。普通の幸せを。
お許し下さい。フィーネ様」
「うん。今はもう平気。好きな場所に2人で行って。ゼノン隊を抑えるのも何とかする。
でも明日は船の運用試験が有る。ペリーニャには見せると言ったけど遠目から。
国家機密が多い船だから元々ゼノン隊には見せられない物なの。
デートは3日目かな」
「有り難う御座います」
「今日明日で何処行きたいか決めてもいいし。任せてくれるならお勧めにエスコートする」
「お任せでお願いします。出発前にハグを」
「おし!」

3人で立ち上がり。フィーネが見守る中で熱く。精一杯優しく身長が伸びたペリーニャを抱き締めた。

彼女の目尻に涙。
「苦しかった?」
「嬉し涙です…」
もう一度抱き締め頭を撫でた。

次にフィーネとも熱い抱擁を交して出発した。




--------------

初日に新作水着を購入してからの毎年恒例海遊び。
吹っ切れたペリーニャは自然に。無邪気に。自分を解放出来る時間が無い彼女の自由時間。

何時もの場所にタープを張って露天の惣菜や冷え冷えビールを飲んだり騒いだり。

そんな中でソプランだけを連れ出し。
「一瞬で見破られた。全部」
「マジかよ…。でも普通に見えるぞ」
「許容してくれたんだよ。でもソプランは距離を取ってくれ。流石に未経験の子にはキツい」
「解った。必ずアローマを挟む」
「ゼノン隊を引き剥がすのも明日じゃなく3日目になった。詳しくは夜に」
「了解」

昼過ぎは予めドックを変えたスタフィー号に乗り込み沖をのんびり遊覧。

そしてホテル最上階での夕食。
ゲストはペリーニャとシュルツ。そのままお泊まりで隊は各部屋に解散。かと思いきや。

ペリーニャが巨大な爆弾を落とした。
「シュルツさんには何故お話されないのですか」と。
「いや…それはちょっと…」
隊員とレイルが固まる。

「何をですか。ペリーニャ様」
「皆様の雰囲気が変わられた原因です。シュルツさんが若いからとお話されないのは如何な物か。
何も疚しい事が無いのなら身近な人には伝えるべきだと私は考えます」
「原因?が有るのですか。お姉様」
「う…。とっても説明が難しいけど…。それを起こさせた最大要因は私だから話す。心を強く持ってね」
「はい…?」
「最悪の場合。自宅のお引っ越しを考えます」

フィーネが経緯とやってしまった事。ハーレムに成っちゃいましたと柔らかく説明。

「全員が全員…。お兄様とソプランさんを除き?」
「…そうなりました」

シュルツは天井を仰ぎ目をパチパチ。
自分の中で解析中。

「凄いですねぇ。鼻血が出そうです」
ペリーニャも含めその感想に全員が驚いた。
「え?シュルツ?」
「はい。お姉様」
「気持ち悪いとか…は?」
「特に」
「え!?」
全員愕然。

「お兄様の魅力には女性なら誰も適いません。
ソプランさんは腹心。他は適齢の女性。長旅を共に過ごされている内にそう言う事も有るのだろうなぁ。
と前から思っていました」
「えぇ…」

「仲良く成られた原因がそれなら納得です」
この子の許容は海よりも深い。
「それよりお姉様」
「はい。何でしょうか」
「嫉妬心が解除されたのなら。どうして真っ先に私に教えて下さらないのですか」
「その内話そうとは、してたんだけど。
忙しそうだったから…」

「前々から私もお兄様とデートしたいと言いましたよね?」
「はい。聞きました…」
「ではもうしても良いと?」
「はい。国内に居る間なら存分に」
「お兄様との添い寝は?」
「シュルツが希望するならどうぞ」
「やりましたー!」
両手を掲げて。
「では早速今夜からお兄様を独り占めです」
慌ててペリーニャが。
「わ、私も…一緒に…」
「大丈夫です。腕は二本有ります。お兄様の場合切っても生える位に頑丈。今夜から良いですかお兄様」
「喜んで。枕にどうぞ」
「襲われても構いませんが。出来れば初めてはピレリ様にと考えていますので」
「絶対しない!それは絶対」
「残念です…。誘い文句は難しいですね。経験不足で」
残念って!?

「ペリーニャ様とのデートは何時ですか」
「明後日。明日は外せない船の試験」
「では私は三日後に。こちらでの休暇を延長しお兄様を独占します」
「はい。何処へでも」

「明後日どうやってゼノン隊の皆様を引き剥がすか。今考えなくては成らないのはその一点。
考えましょう」

天才少女は何時の間にか大人思考を獲得していた。

「そ、その通り」
軽く咳払い。
「どうしようペリーニャ。何か方法は。説得はかなり難しいと思うけど」
「そうですねぇ…。一度帰った振りをしてこちらへ引き返すか。この町の何処かで引き留めている間に離脱するか。後処理は帰ってから考えます。今のアッテンハイムに私を叱責する人間は居りません。
私は成人目前の武闘派聖女です。少し出掛けた位でごちゃごちゃ言うなら水竜教に改信致します」
「いや流石にそれは…」

「と脅してやります」
「おぉそうか。脅し文句だったか」
「ビックリしたぁ」

ソプランが挙手。
「やっぱりの予定通り浜辺で模擬戦やって疲労困憊させるのが一番手っ取り早いんじゃねえか」
「そうじゃの。妾がボコボコに気絶させてやろう」

「レイルは除き勇者隊と聖騎士隊の模擬戦か。
確かに早い。でも見られないのはちと残念。11月以降にアッテンハイムに乗り込む口実として。聖騎士隊のリベンジ戦を受けに来た、と言う流れに繋げたい。
重傷を負わさない程度に気絶させて欲しい」
レイルを含め隊員全員が頷いた。

更にシュルツが。
「再戦にはレイル様は不参加です。結界は壊せません。
レイル様が全勝してしまわれるとアッテンハイムでも再戦を求められます。副隊長よりも下の方で三名程度が望ましいと思いますが如何ですか」
「呼ばれるのは嫌じゃ。結界が有ろうと無かろうと。起因するならその程度に控える。どうせ暇潰しじゃ。
プレマーレが暴れれば良い」
「御意に。再戦時は私が弱体化するので体良く負けるのも有りですね」

「明日は私がペリーニャ様のお手を引き。町東部の農園周辺を散策します。出ても浜辺まで。それか二日連続海水浴を敢行。皆様は気にせず船の方へ。
ペリーニャ様の船見学はデート後戻られる時にサラッとが良いのではないでしょうか」
「助かる。帰りに工房の覗き窓からとかで。
試験は隊員全員が乗る必要は無い。
後追いのフィーネがスタフィー号で追うからそっちの上でもご自由に。
中は俺とロイド。とサポートでアローマ辺りが居れば充分かな」
「畏まりました」

大変理解力の有る2人の女性に俺たちは救われた。


最近はお風呂も一緒にだったがここはグッと我慢。
4人の美女美少女のバスローブ姿は眩しかったぜ。
正直興奮。この目福が3日限りとは残念。

寝室からの女性たちの声が僅かに聞こえる1人風呂。

W腕枕も今日は美少女2人。
「これが男の人の腕ですかぁ」
「意外に柔かいです。もっと硬いのかと」
「力入れなきゃこんなもんだよ」

もっと軽蔑されると思ってた。本当に良かった。
安眠、安眠…。デートは何処に行こうかな。




--------------

つい何時もの癖で起き抜けにおでこへチュー。
「あ…」
シュルツの方にしてしまった。そして起きた。
「目覚めのキスはおでこなのですね」
「ごめん。何時もの癖で」
隣も起きてしまい。
「…私にも」
リクエスト通りに軽くチュー。
「不思議な感じがします」
「しますね」
「口じゃなくて良かったぁ」
「私はもう平気ですよ。何度も頂きましたし」
「シュルツさん…。私はまだ一度も」
「しましょうか。お兄様とならピレリ様も怒りません」
マジか!?
「私にはお相手が居ません。して下さいますか?」
もう堪えられません。

順番に丁寧なキスをお届け。
「今までと違う気がします」
「私は初めてで。擽ったいのですね」
駄目だ。心の悪魔が囁き始めた。

邪念を殴り殺し。
「起きようか。トイレ行かせて」
「はい」
「起きましょう」

隣ベッドの2人も起きて身嗜み。からの朝食。
ゲスト滞在中の集合は夕食のみ。以外は各部屋で自由。

5人とペッツで和やかな朝食。
「平和だなぁ」
「平和が一番」
「平和ですね」
何もしなかった朝を迎えるのは。

「ペリーニャの方って何か変わった事無かった?最近。
モーツァレラ卿の回復とか復帰とか」
「モーツァレラ卿は回復はされましたが記憶は戻らず。
そのまま引退されお屋敷で静かに暮らして居ります。
後任も他役員で兼任補填し敢えて設けず。私の成人の儀の後に再選考と言う具合。他は特に平穏です」
「アッテンハイムは落ち着いたか」
「はい」

「シュルツは最近ウィンザートとか行ってる?俺たち殆ど寄ってない」
「忙しくて行ってないですね。両親も頑張って居られる様子で。ライザー殿下が半常駐する町ですから心配もしていません。来年始辺りに行こうかと」
「そか。俺たち殆ど国内見れてないし」
「任せ切りでごめん。何時も」
「それが私のお役目です!」
ちょっとプリタに似て来たな。手本が違う気も…。


1階ラウンジで2人の護衛隊を待ち。到着と同時に引き継ぎして船の方へ。

アローマ以外はスタフィー号を選択。
「アローマだけか」
ソプランが。
「中で騒いでも邪魔だろ。再調整も有るだろうし。本番までお預けだ」
「まあね」

乗り込み3人で中へ入り出港。


1時間半を掛け深海2500m域に到達。
目指すアルカンレディアはこの先。

ロングライドに備え自動巡航へ切り替え。自分のトイレ休憩を挟んだ。

アローマの隣に座りロイドもその隣。
「いよいよ見えて来た」
「いよいよですね」
「この先に在るのですね。遺跡が」

アルカナ号の照明では400m辺り先までしか見えない。
上からの光は完全に届かない場所。

暗闇の中にぼんやり浮かぶ船。

工夫長のマンドたちも外を見に来たり降りたり忙しなく。

「落ち着いてマンドさん。本番は来月だ」
「解ってはいるのですが…。自分たちが何処に居るのか境界が見えず。半分は不安ですかね。皆も」

「真っ暗ですからね。
千年二千年後。人間は空を目指す。
深海には未知が眠っているのに星の輝きに魅了され。
ここには何も無く。自分たちには関係無いと。
でも地上の生物の大半は海から生まれた。
ここは人間と生命の原点。暗闇に始り暗闇で終わる。
誰にも等しく。誰もが最後に眠る場所。
安らげる場所で在れ。僕はここをそう感じます」

「…詩人、ですねスターレン様は。正直泣きそうです」
後ろに居た工夫たちも唸った。

「スターレン…」
「スターレン様…。皆を泣かせてどうするのですか」
「御免。ちょっと格好付けたくて」

スマホを取出し嫁に通話。
「そろそろ降りて。ライトは遺跡で使ってたレベルから弱落とし。今の所ソナーに影は無し。
船体は安定。これから手動で高速巡航を目指す。
前は頼んだぜ、フィーネ」
「ラジャー!任せなさい。何が来てもぶち抜いてあげる」
「心強い」

通話を終え。操縦席にロイドと座った。

船内配管を開き。
「これから低から中。中から高速巡航を試みる。
障害物や遮蔽物は無し。ソナーに大型魚影も無し。
しかし海洋魔獣に備え。上から嫁さんが降りて来る。
見物は諦め何を見ても記憶に留めるな。
各員状態確認と共に固定具に掴まり横振れに備えよ」
「船内了解!」

直ぐに広く大きな光が舞い降り。前方周辺を明るく照らし出した。

一挙に展開される巨大パノラマ。上で見た景色とは丸で違う景色と地形。
細かい粒子が舞い躍りキラキラと輝いて。星の中を漂うような桃源世界。

操舵室に居た者皆が息を呑んだ。
「フィーネ狡いなぁ。これを独り占めかぁ」
「悪い子ですね」
「全く…」
「ほぉ~いいわねこれ」カタリデも嬉しそう。
「綺麗です」とピーカー君も小さく呟いた。

そのフィーネがこちらを向いてポセラの槍を振った。

「じゃ行こうか相棒」
「はい。旦那様」

お互いの呼称決めとけば良かったな。
そうですね…。後で考えましょう。


高速巡航は成功。ロイドとなら何処までも出せるが無理をする必要は無い。

海洋魔獣の出現も無く。フィーネの役目は照明と道案内に終わった。

余裕が有ったので蛇行巡航も加えて最終テストを終えた。

ドックに戻り船体の総点検が行われたが目立つ不具合は皆無。結果打ち合わせで18日までなら後1回テストは可能と今後のスケジュールを詰めて帰宿。

細かい物が見付かれば更に検証試験。
後に本番トライを何回か。定員的に。

3人でボチボチ歩きながら。
「呼び方ロイドはロディがいいかなと思うけど」
「スターレンがスターでは今一ですね」
2人でアローマを凝視。
「え…?私が決めるのですか?その様な大事な事を」
「だって皆で考えると時間掛かるし」
「きっと決まりませんよ。好きな愛称が増える一方で」
「む、難しいですねぇ…。こればかりは。個人的に心に思う名は有るのですが」
「おぉ何かな」
「何でしょう」
「…お部屋に戻ってからで。外では恥ずかしく」
そんなに?ロイドと顔を見合わせた。

まだスタフィー号組が帰っていない3人だけの最上階。
お茶を飲みつつ。
「そんなに重要な名前だったら無理に出さんでも」
「将来子供の名前にしようとかなら大切にされた方が」
顔を赤くしたアローマ。
「いえ…。私がスターレン様にご寵愛を頂いている時に心の中でお呼びしている名で。セティ様と…」
「何故か俺まで恥ずかしい。嬉しい意味で」
「意味は有るのですか?」

「スタプ様。スターレン様。大切にされたスタの二文字からセティ様。意味は深くはないのですが波、水面、海。
フィーネ様を優しく包まれるスターレン様にピッタリで。私も幸せな気分に成れるのです。深く、溶けるような」
「駄目だ。これ以上聞くと寝室に行ってしまう。その名は胸の内に。あの時に使って」
「呼称には使えませんね」
「はい。大切に戻します」

「無難にスターで」
「今一ですが無難に。喧嘩にも成りませんし」
結局振り出しに戻った。


夜は腕枕の2人にお休みのキスを強請られ応え。

済まないピレリ。もしもの時。
君には俺を殺す権利が有る。そっと心の中で謝罪。
天才少女の巧みな戦略に墜とされる日はそう遠くはない気がした…。




--------------

ペリーニャの最終滞在日。

午前から浜辺で突発の模擬戦が勃発。

フィーネが木剣でゼノンを指し。
「聖騎士ゼノン。一度貴方の本気を見てみたい。
ビッグベアの時も。クワンジアの闘技大会でも。教皇邸で稽古した時も。貴方は一度も本気を出していなかった。
装備を外せば中身は同等。
差が出るのは日頃の基礎鍛錬。
私たちは強い。しかしそれがどの程度なのかが解らない。その検証に付き合って頂きたい。
私に勝てたら…。前にお誘い頂いた社交ダンスでも踊りましょうか。教皇邸で日を改めて」
「成程。ならば遣り甲斐が有る。本気で参ります!」

超絶見たい場面なのに!
俺はペリーニャと浜辺の露天見て回るよと離れ。近くを散策する振りをして路地裏に入り彼女を誘拐した。

手を取り転移した場所はサンタギーナのシャインジーネ西側の林。

「ではご案内を」
「はい」
出し直された右手を取り街道側へ出た。

擦れ違った馬車の御者が俺を二度見して過ぎ去った。
「なんで似顔絵出回ってないのに気付くんだろ」
「カリスマですよ。異常な」
「間違いないわ。あ、いけないデートよね。口は無いけど口閉じる」
カタリデが自重。

「カリスマねぇ。見た目平凡なのに。何ならスタルフの方が両取りしてイケメンなのに」
ペリーニャがクスッと笑った。

町の西門に辿り着き。衛兵に商業ギルドカードを。
出す前から道を空けてくれた。
「ようこそシャインジーネへ」
「今回はこちらからまさかのお忍びで。今日は善き日。
そして我らは忘れます」
「お気遣いどうも」
「どうも」

そんなユーモア有ったのね。

「衛兵も言ったけどここはサンタギーナの王都と直結したシャインジーネと言う港町。
タイラントと南西大陸を繋ぐ玄関港。ラフドッグから大体真南。模擬戦が勃発した反対側。
俺がラザーリアを出る時。タイラントを越えて最初に目指そうとした町さ。
女神教と水竜教半々位だからまあそれなりにバレる」
「そこは諦めます」

展望台の在る丘の階段をエスコートしながらゆっくりと。
途中ラッキーな浜風が舞い。ペリーニャのスカートが捲れ上がった。
「キャッ」
「おっと」
即座にお姫様抱っこに切り替え、そのまま上へ。
「幸せ過ぎます…」
「今日は存分に。俺もペリーニャを独り占め」
真っ赤なお顔が大変キュート。

頂上で下ろし。海から町並み。王都側の城を一望。
「綺麗…」
「君の方が綺麗さ」
ドキッとした顔が又素敵。
「今の時点で気が変に成りそうです」
「それはいけないな。遣り過ぎました」

天気は快晴。こちら側の日差しはやや弱く。
強めの潮風が心地良い。
腕を絡め静かに景色を堪能。

風で乱れた彼女の髪を手持ちのシュシュで結い町を散策。
下までまたお姫様抱っこで運び手を繋ぐ。

町中の商店。露天。港。また町中。
これまでよりもこれからの話をしたり。

以前に入った飲食店に席を取りお昼を注文。
全ての目がこちらに向こうとも気にせず無視してゆっくりと美味しい料理を堪能。

態と小さなテーブルで。頭を寄せて食べさせ合う日常。

テラス席の在る店で昼下がりの紅茶で一服。
自由に成ったらやってみたい趣味の話。新たに習得した料理やデザートの話。普通に笑い普通に過ごす午後。

折角楽しんでいたのに!邪魔者は現われた。

城からの衛兵隊がカッ飛んで。
「はぁ~も~」
「ここまでですかね」
「いやいやまだまだ引っ張りますよ。こんな早くに帰して堪るか」
「嬉しいです」

衛兵隊の先頭を走る見た顔。
「スターレン様!」
「人違いだ!」
「無理ですよ!聖女様までいらっしゃるのに!」
「どうして解るんだ!そっくりさんかも知れないだろ。
若しくは他人の空似」
「…女神教の関係者が城に来たのですが。お越しだと」
「お前らの頭の中に。お忍びって文字は」
「無いですね!来て頂かなければ私たちの首が」
「解ったよ。挨拶だけだぞ。直ぐに帰るからな!嫁にバレたら俺がぶっ殺されるんだぞ!」
「有り難う御座います!」
一同が礼。

「ちょっとのんびりし過ぎたな。まあ挨拶だけなら」
「時間は取られませんかね」

強制的にお城へ連行。そして謁見の間。

「サダハ王!貴方に偶には私を遊ばせてやろうと言う温情は無いのか」
「聖女様を連れて来てしまう貴殿が悪い!
一般的な王職が挨拶しない訳には行くまいて」
一般的に笑いそうになった。

ペリーニャが一礼。
「アッテンハイムで膝を着くのは女神様です故お許しを。
お初にお目に掛かりますサダハ王様。
ペリーニャと申します。今回はスターレン様にご無理を言って連れて来て頂きました。
お城ではなく大変立派で綺麗な港がお有りだと聞き私用で参りました。その私に何用でしょう」
「用と言う用は無いのだが。建前上は歓迎の意。少しだけ我が妃らと茶でも共にしては貰えぬだろうか」

少し考え。
「帰国の時間が迫って居りますので手短ならば」
「うむ。別室に両者の案内を」

王宮の主席宴会場へGO。

隣で女性陣が談笑する中。
俺の対面席のサダハんを睨み付け。
「私の初期の扱いと随分違いますね。隣の大宴会場でポツーンとさせてくれて」
「国の一役人と女神教の頂上では対応が当然違う。我慢してくれ」
「はぁ。あれから南の迷宮に変わりは」
「無い。再出現もな。カタリデ様のご助言通りに山神教の神官を招いた。将来の町中にも寺院を建てる積もりだ」
「それは良かった。急に呼ばれても困りますので前以て伺いますが。もう他に懸念事項は無いですね」
「もう無い。出し切った。タイラント間の航路は変わらず平常でサドハド島の方も整った。
モメットが帰国をすると言うのも受諾した」
「助かります。ギリングスとの協定は」
「まだ協議までには至ってないが衝突を招く要素は何も無い。君が掃除に協力した物でもある。
変に動かせば隣の妃や下臣や民から総叩きだ」
「なら安心」

隣の世間話も終わり突発お茶会は閉幕。
城内の転移ポイントから逃避行。

次の場所は日暮れ前の砂浜。シーズン中でも海水浴客はもう居ない。

こちらに気付いた町民に手を振り。
「今日はここだけだからー。
何か用事なら町長さん呼んでー。後で聞くー」
「はーい。ごゆっくりー」

ペリーニャと並んで腰を下ろし。
「ここは南東大陸の南西部。ルーナデオンの浜辺」
「南東大陸…。町民の方への挨拶だけで良いのですか?」
「ここ隣のルーナリオンも合わせて凄い国でさ。両国民の半数以上が隠密術に優れた忍び。宗派は山神教。
女神教は殆ど居ない。ここより安心して過ごせる国は他には無い」
「へぇー。凄いんですねぇ」

大狼様のジャケットを彼女の肩に掛け腕を回して抱く。
頭を預けてくれたペリーニャの頭を空き手で撫で。
「後はのんびりダラダラ。トイレは近くに夏用の更衣所が在るからそこで」
「はい…」

町民が近付いて来ないので用事は無いようだ。
1人だったら宿の予約に王都でも良かったが。

帰り際。スカートに着いた砂を払ったペリーニャに抱き着かれ。
「キスを、下さい。大人の方の…」
「まだ愛とは呼べない。大好きって気持ちだけでいいの?」
「充分です。今はそれで」

甘く優しいキスから貪るような大人のキスを。
大切に、時間を掛けて心を込め。

……

ロイドさん。そっちの状況は。
「こちらはゼノン隊に完全勝利。レイルさんは女性副長のみ撃破。他を派手にしたので問題無いでしょう。
エリュロンズのロビーに集めています」
了解。そっちに帰ります。

「帰ろう。エリュロンズのロビーにボロボロにされたゼノン隊が転がってる」
ウフッと笑い。
「これで文句は言えませんね。一番強いスターレン様が引率なのですから」
「そゆこと。11月中旬儀式後に再戦の挑戦状送らせて」
「必ず送ります。帰りましょう」

最後にもう一度キスをして転移した。


アルカナ号専用船工房表通用扉。
そこの小窓からペリーニャに水色に輝く船を見せた。
「あぁ…綺麗。丸いお船は初めて見ました」
「この世界で唯一つの船さ」
「自由に成れたら乗ってみたいです」
「来年かなぁ。暖かくなってから」
「期待して居ります」
「見せたからには責任取りましょう」
どうにかなるさと。


エリュロンズのロビーでグッタリするゼノン隊を拾い集めペリーニャを教皇邸の広間に置き去りに。

少し遅れてホテル夕食に合流。
「ゼノン強かった?」
「ん~。強いは強いね」
フィーネ以外のメンバーも微妙な顔。
「どしたの?」
「私たち。負荷バンド使い過ぎたみたい」
「へ?」
「全員楽勝だった。普段着と普通靴で。まあ私は半魔分のステが有るから超余裕。カルもプレマーレもね」
「スローモーション映像を見ているようでした」
「弱体化しても負ける気がしません。どう演技すれば…」
何とまあ。

「負荷バンド使えるな」
「訓練方法も見直して行かないとねぇ。これからは」

「シュルツはお爺ちゃんの許可取った?」
「はい。バッチリです!お兄様以上の護衛がこの世に存在するだろうかと」
「おっけー」

今日も楽しい夕食会と成りました。




--------------

天才少女は俺の脆弱なモラルの壁を徐々に崩そうと画策していた。

カーネギ護衛隊をロロシュ邸へ送り届けた後。
一旦自宅のリビングで。
「どんなとこ行きたい?それとも決めてる?」
「そうですねぇ…」
妖艶な瞳を向ける若干15歳の娘。
何処で覚えたんや!

まだ15歳の子供じゃないか。と思っていた俺は激甘に甘かった。

そう彼女は日々爆発的な進化を遂げる怪物傑女。
我が隊の女性陣に俺の弱点を聞きさえすればモラルの壁は薄紙と化す。

そんな単純な事にも気付けない俺は只の雑魚。

「折角ご自宅に帰って来ましたし…」
「うん?」
「まずは一緒にお風呂へ入りましょう」
「はい?」
何を言われたのか一瞬解らず。
「お疲れのお兄様のお背中を流したいなと」
「特に疲れてはいないけど…。最近戦闘してないし」
「私の希望を聞いてくれるのでは?」
…そんな話でしたっけ?
「ま、まあお出掛け前の身嗜みか。だったら入ろうかな」

取り敢えず自宅風呂の準備。
好きな湯温に溜まったので服を脱ぎ腰タオルで椅子に座って待つ。のも暇だったので足を洗った。

お邪魔しますと躊躇い無く入って来た。
「お兄様」
「はい」
呼ばれて振り向くと生まれたままの少女の姿が。
「ブッ」
慌てて目を閉じてももう遅い。完全に焼き付いてしまった。
「何してんだ。服じゃないのか。最低でもバスタオルだろ」
「どうせ濡れてしまうのですから良いでは有りませんか」
意とも平然と。

妹の筈なのに。まだ子供の筈なのに下半身は勝手に主人である俺の意見を無視。

どうして反応するんだ妹に…。そうや血が一滴も繋がってないからや!

味方であるカタリデは脱衣所のバッグの中。ピーカー君も一緒。毎日中で念話を交わしているらしい。
んな事はどうでも良い。

「ど、どうなっても知らないぞ」
「何をするのですか?押し倒すのですか?絶対しないと仰ったのに」
「そ、そうだな。確かに言った。落ち着こう。振り返らなければ大丈夫」
目を閉じたまま壁を向く。

「チッ」
舌打ちのような声が…。
「ん?何?」
「何でも有りません。お背中を流します。その前に髪を洗いましょう」
「どうぞ」

躊躇無く接近する少女。
湯を掛けられシャンプーでサワサワ。お、上手いな。

漸く自我を取り戻した下半身。

柔らかい何かが背中に当るがもう平気。
だってもっと凄い物を略毎日頂いているので何のこれしき平常心。

そう瞑想状態に入ってしまえばいい。これは逃げじゃなく勇気ある撤退だ。

「痒い所は無いですか?」
簡単に連れ戻された。
「な、無いよ。気持ちいい」

これは苦行。俺のモラルが試されている。
シュルツは俺を試しているんだ。獣ではない事を。

やっと魂胆が読めて来た。

髪が終わり。首肩腰と洗ってくれて最後に背中。
前は自分で湯で流し湯船に腰巻きのまま浸かった。
裸のシュルツと対面で。

「シュルツ」
「はい。お兄様…」

「俺に襲わせてピレリと別れる口実を作りたかった。そう言う事だろ」
「…はい」
「シュルツが心から望むならまだいい。
ピレリと引き合わせたのは俺たちだ。でも選んだのはシュルツ自身。これは事実。
そして俺はピレリにシュルツが成人するまで頑張って待てと直接伝えた。今も真面目に仕事をしてる」
「はい」

「今そんな事を俺がしたらピレリに何て思われる?地位や肩書きで未成年にまで手を出したら前時代の女狂いの貴族と同じ屑だ。
成長したシュルツを見て我慢出来ませんでした、と俺に言わせたいのか」
「御免為さい…」

「ここで俺を利用したらどっちも深い傷が付く。心に。
別れを切り出すなら自分で。代わりの人を用意しましたなんて言うな。
逃げずに本心を正直にピレリに伝えろ。でないとピレリが救われない。いいな」
大粒の涙を溢し。
「はい!」

「風呂から出て落ち着いたらピレリに会いに行こう。でも俺は立ち会えない。自分1人で頑張れ」
「はい!」

天才少女はやはりまだ子供だった。


ラフドッグの船工房前に飛び。
アルカナ号の近くで仕事をしていたピレリを呼び出し管理棟の会議室にシュルツと2人切りにした。

廊下で待ち。
出て来たシュルツは涙をハンカチで拭き上げ。
「全部伝えました。そしてお別れを」
後から出て来たピレリは明るい顔で。
「だろうと思いましたよ。誰でもそう思います。血が繋がっていない貴方を兄と呼び。気丈に演じようとするお嬢様の姿は痛々しく」

「俺は謝らない」
「謝って欲しくないですね!」
激怒したピレリは初めてだ。
「最初から何もかも負けていたんで。と言うか貴方に勝てる男が何処に居るんですか」

何も言えない。
俺の中身は只の馬鹿なのに…。身勝手で独り善がりな。

「帰ろうシュルツ。ロロシュさんに報告を。
ピレリはここで待て。直ぐに戻る」
「「はい…」」

シュルツを本棟前に下ろして引き返した。

誰も居ない砂浜へピレリを連れ行き。
腰のバッグと白ロープも外し置いて向かい合う。
そして両手を広げた。
「殴れ」
「え…?」
「俺を好きなだけ殴れ」
「何を…」
「殴れ!何発でも何千発でもいい!俺にケジメを付けさせてくれ!!」
拳を固く握ったピレリは。
「うぉぉぉ」
叫びながら熱い拳を俺にくれた。

痛かった。父上の拳よりも痛かった。
どんな攻撃よりも、心に響き痛かった。
例え傷が瞬時に回復しても。

疲れ果てたピレリを抱き締め。
「有り難う。馬鹿な俺に拳をくれて」
「なんで!なんで貴方は!そんなに強いんだ!!」
「俺は誰よりも弱いさ。中身は碌でも無い人間だ」
「ぐぅぅ…」

「ソプラン連れて。朝まで王都のエドワンド行こうぜ。
馬鹿みたいに騒いで全部忘れよう!」
「はい!吐くまで飲んでやりますよ。記憶飛ぶ位に!」

開店前から3人でエドワンドの特別室に押し入り。文字通り朝まで飲み倒した。

男3人とキャストたちとの熱い馬鹿騒ぎ。


リゼル木の実とブート胚のお陰で酒残り無し。
店横の壁に腰を預け3人並んで昇る朝日をボーッと眺めた。

「いやぁ飲んだな」
「久々にな」
「僕もっす」

「帰って寝るか」
「あー寝みぃ」
「今日は休みます。スターレン様の所為にして」
「休め休め。俺の所為だから」

俺たちはホテルで夕食前までグッスリお休み。

成婚率100%看板が漸く頂点から下りてくれた日。




--------------

夕食後の片付けが終わった後のティータイム。

「昨晩はお待たせして大変申し訳なかった。どっかの誰かがシュルツに余計な事を吹き込んでくれたお陰で危うく押し倒す所だったぞ。正直に挙手!」
何と5人全員が挙手。

「おぉ何と全員とは驚きだ。なら昨日の待ちの謝罪は取り消す」
我が嫁。
「スタンを信じてたからよ。何もしないって」
「成程成程。男のソプラン君はこれを許せるか」
「許せんな。男を試しやがって」

ソプランから渡された精力剤を一気飲み。
「ちょ、それは…」
5人全員が顔を赤くした。

「進化した精力剤に加えて別途気付け薬も用意した。1人100回以上は天国と奈落を味わって貰う」
「「「「「えっ!?」」」」」

「2人掛かりで優しく丁寧に真心込めて!」
「愛情込めてやるからたっぷり味わえ!」
「「「「「…」」」」」

緊張が走る女性陣の中からレイルを立たせて2人でサンドイッチ。
「わ、妾から…」
「待ってたんだろ?大好きだレイル!」
「愛してるぜ姐さん!」
「はぁぁんんっ」

………

翌朝。漸く極上の天国から帰ったセクシーなシルクガウン姿の美女5人を前に余裕の男2人。

「今後あんな危険な罠は張らないように」
「一歩間違えば全員ラメルたち含めてロロシュ邸を追い出されてた所だ。絶対に止めろ」
「「「「「はい…」」」」」

カタリデさんとピーカー君は無実。
「私しーらない。だってシュルツちゃん止められないもん。接触不可で」
「僕は寝てました。風呂場からスターレン様のお説教が聞こえて来るまで」
「この通り!」
「「「「「済みません…」」」」」

反省の色が薄かったのでこの日の夜も天国薬を使って愛しました。
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