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第261話 大陸北東部調査とレンブラント公国

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望まぬ事程積み上がる。

女神が俺を利用しているのは知っていた。それに対抗する手段を色々と考えてはいた。

二度目の裏切りが有る事も。

だがこの裏切り方は許せない。断じて。

適当な加護を与え。調子に乗らせ。その実裏では敵側に加担。俺が来るもっと前から。

あんたは俺を嘗め過ぎた。

「スタンさん怖い顔してる。1人の時間は作るけど。1人で遠くへは行かせない。嫌われてでも私は追い掛ける」
「ああごめん。大丈夫だよ。フィーネと仲間が居ないと俺は何も出来ないから」
「良かった」

フィーネとカタリデが一緒に部屋を出た。

寝室には自分1人。高くはない木目の天井を見詰める。
ロイドの念話は切ってくれて正真正銘の1人。

女子とペッツは別室。腕の中も空。
ソプランも別室で1人。

惰眠を貪るのは勿体無いな。

元世界では1人の時間が多いボッチだった。
片親の母に働かせバイトもしない愚かなボッチ。
金が無いのを解っていて小遣いをせびる。最悪な餓鬼。
邪魔になるのも当然。

死因が何であれ憎しみなんて微塵も無い。寧ろ17歳まで育ててくれて感謝しか無い。

母を解放出来て心残りは感じない。
きっと幸せに。

前の話はもういい。こちらに来てからが問題。

女神は誰でも良かったと言った。真っ赤な嘘。
なら何故嘘を吐く必要が有ったのだろう。

最初の疑問。
この世界には存在しなかった魔蟲蠅の王。
名付けを間違えたのは俺。堕天使アザゼルと間違えた。
女神の創作ではない。創造の神はカタリデの方。
ならば別の神。

次の疑問。
スタプ時代。女神の裸婦像を彫った直後の教会の拷問。
誰にも見せてはいない。隠していたし直ぐに修正した。
女神が原本を動かしたのが解る。
娼館に行った事を咎められたが後付けの理由だ。
平民の芸術家で教会員でもなかったのに拷問は異常。
モーツァレラの監禁部屋には裸婦ポスターが有ったとペリーニャから聞いた。
この差は何だ。
魔人の施設に送らなかったのは温情?
それとも単に身体が貧素だったから?
疑問の回答は得られない。

もう少しでタイラント行きの準備金を貯められた。その直前でのフレゼリカの幽閉。
時間を弄って出発の邪魔をした。

次はスターレンに転生してからの疑問。
18歳の成人を迎え南へと向かう俺とセルダさん親子を会わせなかった。会わせて救う事が出来たのに。
施設のマスターキーをあの時点で受け取っても前勇者は倒せなかった。
女神が邪魔になった前勇者を消す為に一度俺をタイラントへ行かせたかったのだと断定。

フィーネと引き合わせたのは何故。疑問は残る。

最初の邪神教団員との接触。
閉じた地下施設に侵入した賊を殺しても良いかを女神に問うたが許可された。
本当は索敵で青色だったサザイヤを真っ赤に塗り替え俺に殺させた。
邪神の真名を知るマイアゼルを消させる為に。

俺を邪神教と決別させたかった…。

あぁ…そうか。そう言う事か。あんたは俺の事を。
そう考えると全てが噛み合う。と同時に腹の底から笑いが込み上げて来た。
「道理で…。アハハハッ。手の甲へのキスを嫌がらなかった訳だ。アハハハッ、はぁ、苦しいぃ」
魔王様と俺を戦わせ。勝利した方とフィーネをくっ付ける。

フィーネとの子供ではなく彼女自身を奪う気だったのか。

腹筋が捩れる。呼吸困難だ。

サンガは奥の手。原本と俺に同時に探させた。
まんまと俺たちが先に。

ベッドから転げ落ちても笑いは暫く止まらなかった。

女神は御方様の仰る通りの人でしたよ。




--------------

昼も1人で宿近くの定食屋へフラフラと。
笑い疲れたぜ。

焼肉定食を注文すると。俺も同じ物をとソプランが対面席へ腰掛けた。

「いざ一人になってもやる事アレしかねえからよ」
「おぉぶっちゃけますねソプランさん。俺も同じだよ。
久々にアレするとスッキリ感が半端無いよなぁ」
男にしか解らない会話で笑い合う。お互い深くは追求しちゃダメな奴。

「どっか一人で飲める店作りてえな」
「タイラントじゃ難しいもんな。あ、モーランゼアの東町。
ティンダーが出身のサルサイスに静かで良い店有るから年末辺り3人で行ってみよっか」
「あーいいなそれ。前は買い物だけで通り過ぎたし。俺も転移具使えたら尚いいんだが」
「俺を止めてくれる人が減るのは困る」
「荷が重いぜ普通人間には」
「そこを何とか。男メンバーが居ないと俺マジで気が狂っちゃうよ」
美女ばっかで。
「辛えよなぁ。こればっかしは嫁さんにも説明出来ねえしよ」
「理解して貰えないのがねぇ」
女子には。

注文品が盆に乗せられ届けられた。

大蒜たっぷり醤油のザ焼肉定食。
スッキリした心身に染み渡るガツンと豪快なお味。

臭い消しに濃い抹茶とミントティーを。


帰宿後にレイルの調査報告を拝聴。
「大蒜臭かったらごめん」
「悪いな姐さん」

「まあ良い。偶には息抜きもな」
最近のレイルはとても優しい。切っ掛けはやはり…。

オホンと咳払い。気の所為かお顔が赤い気がします。
「オーナルディア方面の調査じゃが。目立つ場所には不審な点は無かった。
王都ディアオーナでも。王都から近場の迷宮や深い渓谷や自然洞窟も幾つか見させたがの。
隠れる場所は腐る程有るからのぉ。取り敢えず王都の地下の侵入経路を探っておる所じゃ。
薄い結界は外壁に。城や城下の活気は並。怪しげな集団も従属を受けた者も居らん。
迷宮踏破や勇者の号外は町中に張られ。踏み付けられたような紙も見当たらん。
ひょっとしたら招待状は送られおるかも知れんの」
「教団関係者が奪ったか鳩を撃ち落としたかもか」

「それ有りそう。帝国送りにしたファンスが鳥類の能力落とす笛持ってたし」
「有るね」
「撃ち落されたとしたらボルトイエガルが怪しくなるな。あっちも森ばっかだろ」
「じゃの。ディアオーナは程々で次は北西に向かわせる。移動は予定通り明日で良いぞ」

「うん。キリータルニアは出せない。オーナルディアは出してるかも。コーレルサブデは不明。若しくは送っても来ないだろうと諦めてる。
ボルトイエガルが急浮上。
レンブラントへの移動中にクワンティはコーレルの様子を見て来て。それでかなり絞れるわ」
「クワッ」

「明日。朝食はお断りして北上。首都フィオグラまで3日を掛け。国境越え以外は何処にも寄らず。
スフィンスラーに転移して食材消費と腹ごなしに未閉層踏破と金属案山子をボコります。
模擬戦やりたい人はご自由に。私とスタンは遠征中に大怪我出来ないから模擬は後日。
フウを抜いて爆上がりしたオーラと模擬したいなら迷宮を破壊しないように気を付けて」
レイル&ロイド。
「面白そうじゃが…」
「今腸が煮え返っているので抑えが利くかどうか」

「オーラとの模擬は無しで。案山子でストレス発散を。
レンブラント観光最後は勇者の木の見物。
淡い期待で原本が出て来てくれたらハッピー。
スタンの予測線は昼、夜?後天気と密偵2人は?」

「夕方。空が赤く染まり始める頃。天気は快晴。木々は乾いて雨期ではない。密偵2人は居ない。けど燃える木は何も見えない。
燃え木に関しては本物を見た事が無いから出ないだけかも知れない」
「見物する時間帯を合わせてみましょう。密偵が首都に居る間ならその状況が作り出せるわ。
西のルーナ国が7月上旬から雨期。レンブラントは少し遅れる。
フィオグラ到着が丁度7月頭。時期的にジャスト。
寧ろそれ以外無いと私は思う」

「成程…。状況で絞り込むのか。それはやった事無いな」
「結構名案でしょ」
「名案っす。8月だと東部地方が雨期に入るし」

「じゃあアローマ。明日の朝食のお断りを。特別な物が用意されていたなら買い取って」
「畏まりました」




--------------

又してもとんでもない物を鳩様から頂いた。

尻置き用に曲線の付いた敷板。それと荷室で使う首当ての添え木。

単なる薄い木材なのに。
御者台や荷室の座席に張り付き。粗末な車輪の馬車でも一切振動が尻や足腰に伝わらなくなる!?

荷室で寝転がっても首が痛くならずに安定化して快眠出来る!?弾んでも舌を噛まない…。

宿場の小屋でトロイヤと。何だこれどうなってんだと議論してみたが答えは当然出ない。

借りた時は不機嫌だった馬二頭も何故か上機嫌に。

「これが…普通の杉材だとは」
「信じられんな」

噂をすればで裏手の窓をノックされた。
何時ものように招き入れカーテンを閉め切る。

「追加の木製シートと横に倒せる折畳み式のアルミベンチフレームを持って来たわ。フレームはテント用品店で売られてる市販品の改良版。腰の位置に木製シートが填められて前のを尻に敷けばハンモックみたいにフワフワ。
御者台でもより快適になる」
「…あざっす」
「組立も…簡単そうです」

「何か不満点でも?」
「いえいえそんな」
「今でも快適過ぎて。嵩張らなくてとても重宝してます」

「なら良かった。気になる所が見付かれば帰国後シュルツちゃんに伝えて。ベンチフレーム作ってくれた本人よ。

ここからなら明日国境越え?」
「はい。その予定で」
「レンブラント領一つ目の宿場へ」

「国境手前でご主人様たちが追い越すのは気にしないで。南町マレンタイトには入らずそのまま二日置いて首都フィオグラに入る。
馬車と似たようなペースになるけど時間調整。
マレンの滞在は二人に任せる。町を北に出たら拾ってショートカットで首都へ先送りにします。出なかったら予定日数でこちらが先行入りで」
「「はい」」

「キリータルニアもチラ見してかなり東部の状況把握と敵の潜伏先が絞れて来た。
今の見立てでは北のボルトイエガル。フィオグラ内は以前から敵も味方も入り乱れてた。
二人も最後まで気を抜かないで。
マインかフィオグラに必ず敵関係者が居るわ。トロイヤを知る者もね」
「…気を引き締めて掛かります」
「いよいよだな」

「ご主人様たちに不幸の知らせを届けさせないで。皆で笑って帰りましょう」
「「はい」」

何時ものように鳩様は翼を振って消えた。

ベンチフレームを組立。距離を離して二人で寝てみた。
「何の抵抗も感じない」
「記憶に無いが揺り籠ってこんな感じかな」

「なあトロイヤ」
「ん?」
「怖いか」
「不思議なもんで。全く恐怖を感じないんだ。どんな強大な敵でもあの世界最高戦力の七人と鳩様と猫様。オマケに最上位竜が敗北する図が浮かばない」
「だよな。俺も同じ。俺たちは只…後ろで遊ばせて貰ってるだけだ」
「勇者隊には。この世界は狭すぎるんだよ。きっと」

「地上の配達屋」
「本気で考えてみるか。配達屋トルティーヤ商会」

笑い合い。一口だけ酒を飲み。
そのままベンチで眠った。




--------------

スフィンスラーで選んだのは15層の森林伐採。

初見であり瞬間火力に劣る従者2人は蠢く大木を前に悪戦苦闘。それでも何とか連携して土壁や反射盾を駆使しながら各個撃破を果たした。

スフィンスラー迷宮残りチャレンジ回数。

1~4層…3回
5層…2回
6層…✕
7~9層…2回
10層…✕
11層…1回?
12~14層…✕
15~16層…1回
17層…1回
18~19層…✕
最下層…推定1回

前回の16層も今回の15層も残りは1回。

両方素材は出尽くした感が有る。ではあったが15、16は最後まで出し切りたい。特に16層の宝石。あのベルさんが金銭的価値しかない石を置くだろうかと。15は貴重な古代樹関連素材だが目玉は杖と樹液だけだろうかと。

皆が口々に最後に何か有りそうだと意見が一致した。

消耗が激しいソプランとアローマ。
「短剣と小太刀じゃ大木はキッツいの何の。リーチが足りなさ過ぎて核まで届きゃしねえし」
「斬った傍から再生もしましたしね。蔦の鞭も重なりゴーレム戦より遙かに厳しかったです」

「そやなぁ…」
「2人共2番武器にショートアクス取り入れてみたら?
普通装備だと重いばかりだけど加護付きの上級装備なら難無く扱えるわ。基本は普通装備でマスターして」
「ルーナで貰った布巻いて生身に負荷掛けてみるとかな」
「あー有りっちゃ有りだな」
「練習台は金属案山子で間に合いますね」
「私たちも負荷テストしてみよっか」
「基礎力向上狙うか。反動疲労は竜血剤で抑えて」

プレマーレとペッツたちも遣りたがり。
「布は四枚しかないので私にも貸して下さい。引き離されるばかりでソプランとアローマにも勝てなくなる…」
「あたしも試したいですぅ」
「我輩もニャ。ダメスも竜血舐められるニャン」

「妾も反動には興味が有るのぉ。ダメスの特訓にも」
「でやんすかね~」
「レイルさんと私は竜血は舐められませんが反動疲労は通常回復薬で何とか。基礎力向上は大切です」

右腕の両竜もアピール。
「我らも小型化したままで反動を味わいたいぞ」
「どうせ外に出るなら試したい」
「マジっすかぁ」

詰りピーカー君以外全員。

怯えるカタリデとピーカー。
「何この戦闘狂集団。ピーカー君は戦わなくていいよ。
そんな場面来ないから」
「僕もそんな気がして来ました…」

金属の塊巨大案山子を14層のコテージを中心に。
計12体12方向の壁際へ設置。更に上からピーカー君の防護柵を巻き付けた。

人型武具はこのスフィンスラーで集積した加護無し破壊困難品各種をコテージ前に陳列。

負荷テスト1巡目。
俺と嫁。従者2人。フィアフォンゼル装備から俺とフィーネはロープと蔦鞭を外してトライ。

柱時計もコテージ前に置き時間もキッチリ計測。

30分間の小テスト後に向上布を手首から外した…。
一斉に地面へ倒れる俺たち4人。
「何だ…これ…」
「疲労ってレベルじゃ…」
「ヤベえ、動かねえ」
「全身が鉛のように重く…」

「何を大袈裟な。疲れた振りじゃろ」
「仕方が有りませんね」
「不穏な恐怖を感じます」
「軟弱でやんすねぇ」
優しいロイドさんに竜血剤を飲ませて貰ってやっと回復。
「演技じゃないって」
「やってみれば解るよ」
「姐さんも後で泣き見るぜ」
「忍び修行の真髄を覗いた気がします」

負荷テスト2巡目。同じく30分間。
ロイド、レイル、プレマーレ、ダメス。

4者漏れなく地面に転がった。
「指1本動かない…」
「な…何じゃこれは」
「天井しか、見えない」
「お、重いでやす…」

回復薬と竜血剤を投与。

3巡目のクワン、グーニャ、オーラとルーナも同様に。
「地上動物に成った気分ですぅ」
「ニャンとまあ」
「これが地竜の景色…」
「翼が無い頃に戻った感…」

人型全員水着に着替えて皆で虹玉混浴。
俺とソプランには目福な光景。

「だから言ったろ姐さん」
「油断じゃ…。生まれて此の方味わった事の無い疲労感じゃった」

「基礎力上昇分そっくり返って来る感じ。30分間分の」
「これが反動かぁ。竜血1本飲んでもまだ怠いわ」

プレマーレが。
「天翔ブーツも脱ぐべきでしたね。ブーツ分も反動に上乗せされている気がします…」
「あぁ~」
人型皆納得。

「30分では駄目。明日は1分で試しましょう」
「そんなもんかな。明後日に疲れ残したくないし。の前に巻いて外すのが手間だからシュルツにバンド型に造り替えて貰おう」
「だよねぇ。敵の前で倒れたらどうぞ殺して下さいって言ってるようなもんだし」

当然実戦では使用不可。飽くまで訓練時のみ限定使用可と決議した。議論なんて要りません。


翌日。凄まじい筋肉痛に悩まされた。
入念なストレッチで身体を解し1分間トライ。

ブーツを標準に。全く加算の無い状態でも1分後に両膝を着き暫く動けなかった。

トライ順は前日と同じ。

「1分でもギリギリか」
「昨日の疲れが無ければ何とかね」
「明日も筋肉痛引き摺るぜこれ」
「全身が軋んでいます」

2巡目の4者。
「うぉ普通の小剣が持ち上がらぬ」
「私とレイルさんは回復薬ですから…」
「何とか逃げられる、と言うだけ」
「影に入る前に狩られそうでやんす」

3巡目のペッツ&2竜。
「飛び立てません!」
「尻尾が辛うじて動くニャ…」
「何故翼が動かぬのだろう」
「全身に苦痛を感じるのは何時振りか…」

全てを見ていたカタリデとピーカー。
「私思ったんだけど。各自の肉体限界振り切ってるだけじゃない?」
「常人ではこうは成らないと。女王様も慣れれば短時間は普通に使えると言っていたような」
「……」
2者以外全員沈黙。

限界突破しようとしていただけだと…。

「やっぱ訓練用だ」
「生身で超常域に踏み込んでたのかぁ」
人ならば達人の域。物凄い納得感。

「使い方が確定した所で。竜血剤の連用は身体に過剰。
皆回復薬に留めて自然治癒力を高めましょう。
美味しい物を食べ良く眠る!お風呂に入って揉み解すしかないです。
密偵2人の動向を見守りつつ。責めてクワンティと3人の誰かは動けるように」
「マレン出たのに運べないんじゃお話にならないからな」
「クワッ」
「回復に努めます」
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