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第258話 ルーナ両国の要望
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北部2番街をスルーして王都デオンタイザへ向かう俺たち勇者一行。
東背に縦断する運河の対岸にはルーナリオン側のリオンタイザの王都も垣間見える。
フィーネが地図を見ながら。
「言う迄も無いけど。南北番街と各王都は運河を挟んで大体左右対称位置に並んでる。それぞれに橋が1本か2本架かってて。王都間は2本の大橋。北側は予備って感じかなぁ」
双眼鏡でも周囲を覗き。
「姉妹間の仲は悪くなさそう。北1番の町の人たちからも悪い噂は聞かなかった」
「まあ実際の姉妹じゃなくて遠い親戚だからね今は」
「ふむふむ。下手に血の繋がりが有ると付き合いが拗れるもんね。…そんな事よりも!
私たち夫婦とカルとフウ以外は馴染みが無いであろう」
「異世界日本家屋が何故ここに!」
グーニャ号を北側手前の高台で降り王都を拝見。
瓦屋根。土壁。石積みと白壁の立派なお城。城下は和風建築と煉瓦造りが混在。
各所から温泉街特有の湯煙が上り。俺たちがオリオンでひっそり理想としていた風景が目の前にドン!
ロイドとカタリデ。
「私は遠い故郷ではないので懐かしいとは思いませんね」
「あー懐い!いいわこれ。この世界に長く居たのにこんな場所が在ったなんて全く気付かなかった…」
「独自進化で純和風ではないけど風情は感じるな」
「田舎ぽい土地柄で敵も味方も全スルーしてたのかもね」
これぞ陸のガラパゴス。
「これがお前らが前に居た世界の建物か」
「確かにこれまで見た建築物とは一線を画す物ですね」
「ほぅ。お主らが言う温泉郷とはこれの事かえ」
「成程ぉ…私には良く解りませんが」
「そうそう」
「何となく近い。異世界日本て国でも古い方の建物よ」
ペッツたちは余り興味無い様子。クワンは何度か見てる風景だろうし。
「さてと。1番街の女将さんも言っていたように…。問題は大橋と渡し船の構造強度みたいね。スタンのバッグのピーカー君外出て問題点を確認して」
「はい!」
高台先端から左手の大橋と両岸の桟橋に繋がれた渡し船を首をクルクルしながら観察。
「スターレン様ならお解りだと思いますが。橋は土台からして全部駄目です。渡し船と屋形船は根幹の竜骨を船底で分割してしまってる時点で全アウトです」
「だよなー。独自進化で他からの知識が入らず商業ギルドからは勝手に供与出来ずにって感じやね」
「タイラントの図書館で建築関連書を購入しましょうか。船に関してはもう直ぐミリータリアからも打診されると思いますし」
「そうね。まずは宿に入ってお城で要望を聞いてから考えましょう。もしか違う問題かもだし」
「ですね」
「そうすべか」
ピーカー君がバッグに戻り王都へ徒歩移動。
町人は独特な作務衣と足袋に草鞋姿の人々が主流。普通服を着た人も混在。統一感が有るようで無い。自由だ。
町並みを楽しみつつ。案内された和風旅館で好きな部屋を選択後に自室に集まり緑茶と温泉饅頭で寛ぎ。城からの連絡を待った。
着物風衣装の旅館の女将さんと仲居長さん。
「本日はようこそお出で下さいました。城の方へも連絡はしましたが準備中の様子ですので迎えは明日と成りましょう。それまでどうぞご緩りと」
「お食事のご用意もお夕食からと成ります。内食でのご提供ですがこちらへお集まりでしょうか。各お部屋でしょうか」
「どうする?ロイドはここだろうけど他は」
「ここでええじゃろ。机はちと狭いが」
他も全員ここで。
「済みません。畳部屋に平机を追加で座椅子は8脚。リビングテーブルはこのままで」
「畏まりました」
「直ぐにご用意を」
「後お勧めの飲食店とお土産屋さんの案内が有ればそれも頂きたいです」
「机とご一緒にお持ち致します」
女中2人は三つ指着いて一旦退出。
カタリデとソラリマも畳に寝かせて皆でゴロゴロ。
「10人部屋を2人か1人で使えるこの贅沢」
「畳の柔らかい香りも懐かしくて素敵ね」
「匂いが解らないのが辛いわぁ」
『うむ…』
ロイドとレイルも。
「和風は良いですね。奴隷が皆無な国が南東にも存在していたと知れて貸し切り大型旅館も存分に使えます」
「内風呂も大風呂も露天じゃし。全室掛け流しで最高じゃのぉ。妾もこっちまで足を伸ばせば良かったの」
「キリータルニアの南部だけだっけ。入ったの」
「じゃの。東大陸南端から近かったのも有るが。この大陸もこんなもんかと詰まらんで引き返したわ。
勿体ない事をした」
大きな平机2つと座椅子が運び込まれ。案内地図を見ながら再びお茶しながら吟味。
「鮮魚店…。ここまで海魚運べるんですか?」
仲居長のお答え。
「はい。南西一番からの陸路は距離が有るので今はまだ無理ですが。両国共南一番に漁場を設けて居りまして。
タイラント製ではない独自の製氷器を活用し。運河経由で王都までは。ここより北への供給は出来て居りません。
御夕食にもお刺身を少々お入れ致して居ります」
「「へぇ~」」
独自進化も侮れないっす。
ソプランが腕組み。
「冷蔵庫や冷凍庫売ってくれって言われるかもな」
「あぁ有りそう」
定価…知らないんだけどどうしよか。
勿論行ったのは大部屋が取れる海鮮丼屋。
ピーカー君はバッグの中で岩塩。ダメスドーテは果物オンリー。魔獣にも好みが色々。
両ギルド支部を訪ねたがルーナ両国は平和だと有力な情報は取れなかった。
低層迷宮もリオン側の東部に2箇所。ペイルロンド国境手前の天然迷宮。主要属性のスライムが出る。
地上には普通動物が生息し魔物は不在。国内各町で使われている魔石は全てこの迷宮産。豊富に採れるのでペイルロンド西部へも一部が販売され財政も安定。
ルーナ両国間の関係は良好。魔石とご当地物産や加工品の物物交換が主要取引。お金はミリータリアの行商や冒険者が落とすが仕事は行商護衛がメイン。スライム迷宮専属隊が数隊リオン側に定住しているだけでデオン側の定住者はとても少ないと。
衣類や食糧品ばかりで現金を殆ど持ち歩かず。狙う野盗は極僅か。暇な冒険者や国軍に簡単に捕えられ。壁外の野ざらし牢屋へぶち込まれて放置される。
敢えてペイルロンドの情報は聞かなかったが良く米類を買いに行く北部のカカンカとラカンカ村を見る限りルーナ両国と同じ位平和そうなイメージ。
商業ギルド職員に悪代官は居ないのか!と突っ込んでみたが多分居ますけど聞いた事は無いっす!と返された。
後続2人をどうしよう…とフィーネさんは頭を悩ませた。
ちょっと休ませるかペイルロンドへ先送りするかで。
夕方前に露天内風呂に2人切りで浸かり空を眺め。
「来る時期完全に間違えてる気がする…」
「雨期前に来られて良かったんじゃない…」
カタリデとソラリマを足元に投入。
「混浴するにしてもあんたたち恥ずかしくないの?せ、背中から抱き締めるとか…」
「何よ今更」
「俺たち結婚前からずっとこんなだから平気。フィーネが可愛くて偶に元気になっちゃうけど」
「もー止めてよ。隣に聞こえちゃうじゃない」
「はぁ…。唯々凄いわぁ」
『ずっと変わらんな。偶に我を入れっ放しで置き忘れられる事も有る』
「雑っ!」
「カタリデは自分で動けるじゃん。ソラリマは後ろから
おいっ!て突っ込んでくれるし」
「もう満腹です」
「そろそろ上がりましょ。早めにドアの鍵開けないと」
「そやねー」
上がり際にキスを交して夕方風呂はお開き。
お楽しみの夕食は。
刺身3種盛り。ポークステーキ。鮑の酒蒸し。天麩羅。
葉物野菜の煮浸し。
白米は少な目で純米大吟醸酒を追加発注。
「隣王都と被らぬようメニューを御組みして居ります。
デザートにはグレープフルーツと豆乳仕立ての杏仁豆腐を。足りなければ揚げ物のお摘まみをご用意も可能ですが如何致しましょうか」
「ペット用にフルーツを早めで。杏仁豆腐は順番通りでその後にお摘まみを半数分お願いします」
「畏まりました。では後程。他に御用の際は廊下脇の呼び鈴を鳴らして頂ければ直ぐに参ります」
味付けはしっかり出汁を利かせた上品な風味。
「語彙力無くなるぅ。堪りませんな」
「堪りませんねぇ。もう何度も来る事確定だわ」
「冷えた米酒も料理に合わせてあるし。温泉も最高。油断すると長居しちまいそうだぜ」
「殺伐としていた心が安らぎます」
「心まで清らかに。洗われるかのよう」
「隣のメニューも楽しみじゃのぉ」
「忘れられた秘境とも呼べない大きさですが。人には余り知られて欲しくない国です」
「良し決めた。明日女王様と上層部とお会いして。変な人居なければ。推定無害な国として後続2人は何方かの王都に一泊させてペイルロンドへ出発して貰います。
入ってない方のリオンの方が良いかな。そのまま東に真っ直ぐだし」
「2国同時に解決出来るなら先行させても良いな。全行程後追いだと怪しまれるし。ペイルロンド王都までの道程も安全そうでそっちに時間掛けて貰えれば。俺たちもこっちに時間使える」
「うんうん。一挙数得ね」
まだ女王とも会って居ない内から皆で祝杯を挙げた。
思い返すと意味が解らないが楽しかったからどうでもいいっす。
後続2人は無事メルランカの町へと入った。
一泊は様子見。
--------------
朝食も激ウマ。和風と勝手に呼ぶのは止めにしてルーナ国風だと定義した。
建国当初に誰が関わっていたかは調べる迄も無い事。
昼まで城下を散策してお城での昼食会。
デオン国女王サファエリ様。瑠璃色の髪留めが良く映える黒髪の30代美女。紫色の着物が艶やか。
そのお隣。まさかの隣国リオン女王リエリル様。妹さんですかと問わずには居られない程良く似ていらっしゃる。
翡翠の髪留めに黒髪の30前半女性。紅色の着物が美女度を彩る。
奥座2人から順に両国の役職が並び。末席の俺たちまで軽い自己紹介をしたが「ガ」の付く人物は不在。
胸を撫で下ろすと同時に若干の不安も。
「お招きに預かりました事。光栄で有り難く。次に訪問予定の隣国ルーナリオンの女王様までご同席。こちらの手間を考えての事だとは理解致します。
ですが何故私共にそこまでして頂けるのか。身に覚えが無いと言いますか。何を求められて居られるのかに若干不安も覚えます。
何か理由がお有りならご教授願いたいのですが」
フィーネの問いに女王2人は顔を見合わせ笑い合いサファエリが口を開いた。
「他国の常識には疎い物で。過剰だと受け取られたなら本意では有りません。
建国当初からお客様をお持て成しする事を本懐に両国民皆で邁進して参りました。
勇者隊をお招きするのは初めてで。粗相が有ってはいけないと少々行き過ぎたのかも知れません。
どうぞご容赦を」
「そうでしたか。私共も敵対組織との戦いの連続で少し疑心暗鬼と成っていたようです。こちらもお許しを」
「勇者隊に敵対する組織と言うのは邪神教を名乗る集団の事でしょうか」
「「え!?」」
衝撃フレーズがサラリと零れ落ちた。
「いや…その…」
「ご安心下さいませ。両国内に潜伏していた教団員は全て暗殺して晒し首に。不浄な骸は南海へと投げ捨てて置きました」
「どうぞご安心を」リエリル様も平然と。
「「へ…」」
俺たち全員呆然自失。
「し、失礼ながら…。この平和なお国柄で。何処にその様な戦力が?」
「表向きはそう思われても仕方無き事です。両国の主神は山神教。港にも水竜教の寺院は無く。ミリータリアやペイルロンドから流入する女神教を注視しつつ。それ以外を探れば比較的容易に見付けられました。
国軍は少数の表。油断を誘い敵を懐まで迎え。裏の戦力で押し潰す。実に簡単でしたよ」
「私女王以下役員。町民の半数。主要人物たち。全て暗器遣いの忍び技能に長けて居り。冒険者ギルドには非公開の隠し迷宮で鍛え上げました。
隠蔽道具は気配や臭い。呪術や魔法の発動時には僅かな隙が生まれ。その瞬間さえ有れば我らの前では赤子同然」
「「……」」
最早言葉無し。
「お見逸れ致しました。私共もすっかり油断を…。何1つ気付きませんでした」
全員。レイルやロイドも頷いた。
「嬉しいですわ。高名な勇者隊の皆様に気取らせないこの誉れ。町民皆が喜ぶ事でしょう」
役員全員笑顔で一礼。
この時程裏の顔を知るのが怖いと感じた事は無い。
「ミリータリア側に放った密偵のランナー蜥蜴を蘇生された心優しき巫女様とは…。フィーネ様の事でしょうか」
もう驚き過ぎて鼓動が収まらない。
「…私です」素直に挙手。
「密かに交流を持つスリーサウジアの族長からお聞きしました山神様の御遣い。ミミズフロンティア様とは…。そちらのクワンティ様では有りませんか?」
「クワ…」クワンが硬直。
何が何だか。
女王2人が手を取り合い役員全員が喜ぶ。
「何と素晴らしい!鳩様がお許しならば是非抱かせては頂けないでしょうか」
「お願い致します」
クワンは自分から2人の腕に飛び込んだ。
戻る頃には揉みくちゃで羽根が凄い事に。
「出来れば…。秘密にして頂けないかと」
「勿論ですわ。新たな名をお与えに成ったのも何か理由がお有りでしょうし」
そんな深い意味は無いんです(泣)
リエリル様も柔やかに。
「然れど。スリーサウジアでは既に鳩の銅像が御神体に崇められているとお聞きしました。当両国でも拵えたいのですが宜しいでしょうか」
「ど、どうぞお好きに。銅像だけに」
上手くはない。
俺から一言。
「その銅像の装備品は無しでお願いします。他に見られたら一発でバレるんで」
「「承知を」」
酒粕漬けや味噌漬けなどの焼き物で漸く心を取り戻し。緑茶で乱れを整えた。
「こちらも秘密を。明日か明後日に連れて来る当方の密偵2人を1泊程休ませてペイルロンドへ向かわせたいのですが問題有りますでしょうか。問題有りなら国境手前に降ろして素通りをさせます」
「そうでしたか。でしたら王都でも他の番街でも。同じ宿泊宿でもご自由に。相応の手配を致しましょう」
「どうするスタン」
「うーん…。混乱させるだけだから同じ宿で。話もし易いしそっから運ぶ方が早い」
「ではその様に」
2人には後でクワン便を飛ばします。
改まってサファエリとリエリル。
「お忙しい最中であるのは重々に。お持て成しが本懐だと告げてお願いするのは大変恐縮ですが。我らの願いを聞いては頂けないかと」
「今回のお祝いの品に加えまして。報酬に隠し迷宮産の道具をお付け致します」
「何でしょうか。数日で済むお話であれば。内容を伺ってからの返答にて」
「ご説明が先ですわね。昔から両国では小物や設備の細工に関しては得意なのです。反面で大型の船の造船。
両国を繋ぐ基幹部の橋などの建造が不得手で。毎年七月󠄃から始まる雨期災害に何度も流され困っているのです。
それらの改善案を供与して頂けないかと」
これは想定通りだった。
「大型船に関しては。丁度ミリータリア訪問時に財政対策案の1つとしてこちらルーナデオンに対し技術提供を強く勧めました故何れの後に打診が来ると思います。その技術をリオン側にもご提供と共有化をすればと」
「おぉ何と言う偶然。それなりの資金を用意せねば」
「タイラントの外交官として私とスターレンが調停者と成りましたので。費用面が提示されたら当国のヘルメン陛下へ送って下さい。正統な取引値かどうかは商業ギルドでも判定して貰えます。法外な額が提示されたら両方にお知らせをば」
「解りました」
「船に関してお伺いしたいのですが。川瀬の渡し舟を見る限り船底の竜骨が分割組をされているようだとスターレンらが検分を述べました。
1本物にしない理由が有ればお聞かせを」
「強度不足は存じて居ります。削り出しだと前後に弱く重ね合わせだと左右に弱い。巨木を曲げる工法が見付からず仕方無しかと木組みの方法を取りました」
俺が挙手。
「理由は理解しました。船は今期に間に合わないので以降の下準備を。船や橋脚の材木の切り出しは北部山嶺の麓からでしょうか」
「はい。主に麓の開墾時に出た物を」
「そこからですか…。大橋自体の構造も然る事乍ら。毎年の増水や土石流の原因はその開墾に有ります。責めて間引きに留め太い切り株を残すべきでした。
水源上流だけでなく。その周辺から麓まで。雨水を吸収して地下水に落とし込む土壌不足だと思われます。
河口堰を設ける手も有りますが下流で形成した田畑へ影響が出るのでお勧めでは有りません。
これから鳩で後続に手紙を出した後。最寄りの大橋を詳しく見てから北部の麓へ行ってみます」
「何と…開墾が悪影響を」
「山神様を崇める信者が…。山を痛めていたなんて…」
「開墾や治水の担当者は何方が」
女王2人が挙手。
「私たちが計画し指示を出しました」
「他の配下は橋や船などの建築を」
「では移動出来る軽装に着替えて北側大橋に集まりましょう。こちらは休憩と打ち合わせをしてからなのでゆっくりご準備を」
「「承知しました」」
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「さーて。どうやって班分けしますかね。スタンとピーカー君とクワンティ以外は圧倒的に暇なんですが」
「そやね…。今日は買い物で暇潰しして貰って。明日はタイラントに戻って本買いに行く班と。予定だった南西1番散策する班に分けようか。タイラントはアローマで南西はクワンで飛べるし。誰かとは念話で繋がれるから」
「そうしましょ。詳しくは夕食後に。宿に戻って2人への手紙書くからスタンは身支度。見学する人も軽く着替えて」
総員城から撤収。背中のカタリデが。
「この半分が忍び…。ヤッバ全然解らん」
「モノホンの忍者とくノ一がここに居たなんてなぁ。南東大陸に普通の秘境は無かったと」
「普通の概念が行方不明よ」
フィーネがロイドと一緒に手紙を書いてる隣室でお着替えタイム。
アローマも入室。
「フィーネ様。タイラント時間も頃合いです故。ロイド様と戻って買い物をしたいと」
「あーそだね。本も都合良く在庫有るか確認しないと。カルは図書館。アローマはブートバナナ貰ってその他果物も割と多目に仕入れて」
「畏まりました」
「私も着替えなくては」
メルランカの2人をコンパスで検索…。
「宿に入って夕方までのんびりしてるぽいな」
町外周から読み取った見取り図上に印を付けてクワンに。
「クワッ!」
部屋の窓から大空へ。
おトイレ済ませておいらも出発。
ピーカー君の念はカタリデが読んでお喋りする。
北大橋の袂にはそれなりの人集りが。
真ん中で薄紫と薄桃色の上級作務衣に着替えた女王2人がストレッチをしていた。
レイルがリエリルの作務衣を一目見て。
「おぉ綺麗な桃色じゃのぉ」
行き成り女王の腰を掴んで持ち上げた。
「わ、私があっさりと捕まるとは…。やはり只者では有りませんね勇者隊は」
「正面からでは勝てません」
サファエリも納得顔。
「お土産に同種の新装をお付けしますので降ろしては頂けないかと」
「お、すまんの」
降ろした所から橋の検分を開始。
大木を川底へハの字に刺しただけの橋脚土台。
幅を稼ぐ為に細い嵌め合い組みの殆ど意味無し梁。
風に飛ばされたくないと重くした頭が単なるストレート。
砂利の土手に置いただけの袂の端板。
「詳しくは今日明日にタイラントで建築関連書を買ってからお話しますが。パッと見ただけでも大きく今の4点。
刺しただけの土台足場。防水も防腐処理もされていない様子で1年持つかどうか。防波石も無いので流して下さいと言っているような物です。
強度は稼ぎたいが風当りを軽減したくて細くしてしまった橋脚の梁。両立するには角材に加工せずに橋脚の太さ半分の1本木を通して突き出し部に留め杭を施した方が良かったです。
瓦屋根のように頭を重くする発想は悪くない。ないですが直線ストレートの構造が拙い。これは短距離に使う工法で100mを越える橋に適用したいなら橋脚を今の倍量が必要に成り資材効率がとても悪い。
造り替えなら橋脚毎に分割アーチ状にするか。現状を利用したいなら土台を修正してから頭板裏側をアーチ構造で補強するか。
吊り橋には構築までの時間が足りません。
そして土手に置いただけの袂板。流される事を前提にするなら北橋はしっかり固定。南橋を縄で繋ぎ置き石で仮固定とするなど様々な逃げ道が有ります。両方同じでは非常に勿体ないです」
担当者たちが和紙製のメモ帳にメモメモ。
それ俺も欲しい。
クワンがフィーネの肩に戻ったのを見て。
「鳩を使った転移は人数制限が少ないので。先に私と鳩で数カ所足跡を作って来ます。暫くここでお待ちを」
フィーネに歩み寄り。
「返信は?」
「大丈夫。何も無ければ明日の午前に南外に出るって」
「おけ。他は夕食後に」
転移ポイントを策定し女王2人と補佐数名を引き連れ修正箇所を選別。
本日最後に源流手前の中腹の岩場から麓を見下ろした。
小川が3本に分岐する場所。
「上から見ると何が問題か解るのでは」
サファエリが落胆。
「はい…。下り両側が丸裸で」
リエリルも。
「下から見上げるばかりで。中央の木々だけでは抑え切れなくなっています」
「今年か来年。大きな嵐が来たら今居る場所から大規模な土砂崩れと土石流が発生しそうです。かなり厳しい状況ですが今夜一晩色々考案してみます。
お勧めはしなかった河口堰も候補に入れて」
「何卒宜しく」
「お願い致します」
その場で数枚の風景スケッチを描き解散。
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夕食後も遅くまでスタンはピーカー君とカルとソプラン、アローマとタイラントで購入した本を読み合ったり。スケッチから起こした図面を相談したりしていた。
目の前のレイルたちに。
「今回は私役立たずだから。残りの私たちで南西町行っちゃう?」
「妾も暇じゃしのぉ。行くかえ」
「ですね。デオン側の大きなお店は回りましたし」
プレマーレも同意。
「何気にこの3人で出歩くの初めてかも。クワンティも行きだけだし。ダメスドーテはまだお披露目出来ないし…。
スタンさん。グーニャはそっちに置いた方が良い?」
「あーそっちでいいよ。急に足が必要に成るかもしれないしさ。荷台は蔦で頑張って」
「おー。この際だから練習してみようかな」
「乗り心地が悪かったら走るかの」
「偶には単純な運動でも」
「私が失敗する前提じゃん…」
自信は無いけども。
「自覚は有るんじゃの」
「お有りのようで」
「グサグサ抉らないでよ。2人には実験台に成って貰うとして。移動は私とクワンティで後続を拾って打ち合わせをしてから。それまでのんびりしてて」
「じゃの」
「そろそろ部屋を移動しましょうか」
2人は自分たちの部屋で晩酌。私も冷酒を飲みながら内風呂露天を楽しみたいがスタンは其れ処では無い。
翌午前。スタンたちは朝食後早くにお出掛け。探索コンパスを借りて後続2人を宿へ招き状況説明。
「「……」」
「言いたい事は解ります。このルーナ両国ではまだ何もしてない。既にこう成ってて驚いた。私たちですら半数が暗殺技を備えた忍びだなんて気付かなかったし。
間違いが起きてはいけないから急遽2人を呼んだの」
ティマーンもトロイヤも重めに。
「何と言えば良いやら…」
「南東は奥が深い。外の人間は誰も知らないでしょう。こんな国が存在するだなんて」
「ホントよね。平和な世界だったら完全に観光地だもん。
2人は1泊ここに泊まっても良いし。一度タイラントの自宅に戻っても良い。
昼食は宿お勧めの外。夕食と朝食までは用意されてるからそれは食べてね。
スタンは死んでも行かせないけど遊郭みたいなお店も在るのでご自由に。
私たちもこれから出掛けて戻りは夕方。皆で一緒に食べたかったらスタンの方がちょっと遅くなるかも」
「はい。…着物姿の遊女は正直惹かれますが」
「ちょっと考えます。遊郭行っても話するだけですよ。勇者隊の密偵が浮気男だと噂されても困るんで」
「良かった。今の所の行動予定はここは明日まで滞在。隣王都でも2泊してペイルロンドへ出発。もう1泊分何方かで延ばすかも知れない。
その間に2人はリオン側の東部1番街で新しい馬車を借りて同じくペイルロンド王都方面へ先回り。
国境前までクワンティと3人の内誰かで運ぶ。
もう気付いてるでしょうけどクワンティ自身が単独で転移具を使える。それは極秘だから人間1人は付いてく。話は通じても道具を使わないと喋れないの」
「クワッ」
「でしょうね。勇者隊のペットは常識外れで有名ですよ」
「何処の茂みに隠れてもこちらを探せる時点で大体は」
「今後も宝具の通話はタイラント側からのみ。これまで通り透明化したクワンティで手紙の遣り取りを基本設定で」
「「はい」」
「ではまた夕方に」
2人の割り当て部屋で解散。
レイルとプレマーレ。お供はグーニャと影の中のダメスドーテで南西1番街へクワンティーに運んで貰った。
和洋混在の町並みはこの国の定番。
港には小型の漁船。木造漁船は補強が加えられ一般的な船よりも分厚く重い。町人に話を聞くと近海での延縄漁が主流。数隻で仕掛け網を引き揚げる漁方。沿岸部では素潜り。
温暖で波は穏やか。雨期以外は滅多に荒れる事は無いと水竜様も太鼓判。
それでも水難事故は多少有る。転覆しても余裕で泳いで帰る不屈の漁師ばかりだとか…。
一見穏やかに見える町民たち。裏の顔は未だに全く以て解らない。
両国の南1番港町の方には大きな海水浴場も在ると教えてくれた。
町人たちが遠く離れて誰も居ない岸壁に皆で座り穏やかな海辺の景色を楽しんだ。
「ベルエイガさん…。間違いなく関わってるのに。どうして船や橋なんて重要な部分残したんだろ。山の開き方も」
「お主らが何度も来る理由付けじゃろ」
「それ以外考えられませんね。完璧に過ぎるとそれはそれで目立ちます。開拓技術に疎い田舎の国と見えるようにではないかと」
「ニャ~」
「あぁ~納得ぅ。1割位は私たちの憩いの場かぁ。スタンも目がキラキラしてたし。雨期過ぎには海で泳げるし。ラフドッグでは今年は厳しいし」
「ビール樽買ってこっちで遊ぶかえ」
「良いお考えです。水着はご当地の物を」
「いいねぇ。他の国の人はプールで我慢して貰って」
気持ちの良い潮騒と微風で横髪とポニテが靡いた。
「レイル。深い質問しても良い?」
「何じゃ。大体解るが」
「アモンさんの父親って…」
「解り切った事を聞くでない。それ以外無いじゃろ」
「だよねー」
「ですね」
「ですニャ~」
魔族時代のベルエイガさんか…。
「妾からも質問じゃ。拒否は許さんぞ」
「…何でしょうか」
レイルは私の胸に手を置き。
「ソールブリッジを悪用したのは何故じゃ」
何時か来るとは思っていたこの質問。
「…答えなきゃ駄目?」
「拒否は許さんと言うた。スターレンの自由を奪ってまでする事なのかえ?」
「…それ言われると辛いなぁ。スタンの優しさに甘えて独り占めしたかったのが半分。何処かへフラリと居なくなりそうで怖かったのが半分。かな」
「一度解けたのに何故又使ったのじゃ」
胸が痛い…。レイルに手を当てられ嘘が吐けないのも。
「スタンを傷付けると知りつつ。私から彼を奪おうとした女神がどうしても許せなかったから。その復讐。
次やったら…。今なら迷わず神殺し担いで神域殴り込んで塵も残さず消し飛ばしてやる。の警告を含めて」
「ほぉ。中々面白い警告じゃの」
クスクス笑われた。
「笑い事じゃないって。それに…。女神はスタンの子供を狙ってる気がする。沢山作らせて1人位、みたいな。
心情的に私よりも先に出来るのも悔しい。絶対に私が産める保障も無いし。
だから無理だと解るまでブリッジは外さない」
「ふむ。女神の狙いは有り得るのぉ。将来性も含め周囲に年頃の女を大勢配置して」
「でしょでしょ。そう言う風にしか見えないよ。私たちの成婚率10割の特技は水竜様が用意してくれた対抗策な気がしてる。
だから他の子はシャットアウト。ペリーニャも魔王様には会わせない」
「普通の人間の女が魔王に会おうとは思わんじゃろ」
「女神がペリーニャを操り出したら必然的に化けの皮が剥がれるわ。時を巻き戻せる道具まで用意してる位だし」
「かなり紐解けて来たの」
「怖い怖い。時の神が何かに執着し出せばこの世の終わりですよ」
「怖いよねぇ。ここでお昼にする?南西2番街か南番街港行ってみる?」
「南は改修工事が終わってから皆で行けば良いじゃろ。ここでゆっくり昼にして帰りに南西二番へ寄れば良い」
「そうしますかー」
外してくれないレイルの手に手を重ねた。
「何故に私の胸を揉んでるの?」
「いや…ちょっと待て」
急にレイルが真顔に成って鎖骨下を触診し始めた。
「嘘…。冗談でしょ?」
「まだ小さいが乳腺に腫瘍が有るのぉ」
「え…」
まさかの乳癌発覚。咄嗟にレイルの手を握り人目の無い岩場を探した。
「レイルお願い。手刀で抜いて」
「良かろう。魔神退治の礼をフィーネには与えておらぬからの。幻術が効かぬからかなり痛いぞよ」
「そんな物堪えて見せる。あそこがいいわ」
丁度良い平場が真下の崖下に見えた。
全員で飛び降り上半身の衣服を脱いだ。恥ずかしいとか言っている場合じゃない。
「プレマーレ。背中から両肩押さえて」
「良いでしょう。グーニャ。両腕を蔦で優しく上に」
「ハイニャ!」
レイルが前に立ち。両手で胸から脇下まで丁寧に触診。格好も相まって超絶擽ったい。
「胸を静めよ。見えぬではないか」
「ごめん。静める」
目を閉じ浅い呼吸で整えた。
「うむ。ハンカチを噛み締めよ」
レイルが口元に添えてくれた布ハンカチを深く噛む。
手刀の連打は一瞬の痛み。その後に胸全体を焼くような激痛の波が押し寄せる。
「ふぐぅ!!」
顎を引いて同じ姿勢を保つ。これが再生までの痛み。
初体験をここでするとは思わなかった。
「堪えよ。再生後も見る」
「ふんっ!」
小さく頷き。痛みが引くのを待った。
乱れる呼吸を捻じ伏せ2度目の触診。
「チッ。もう一度じゃ。別の場所に転移しおった。女神の呪いじゃとしたらしつこい雌じゃのぉ」
悪口言ったから?あったま来た。
ソラリマに伝えて返答。
『構わず何度でもやってくれだそうだ』
「うむ。グーニャ。投げ捨てる組織を消炭にせよ」
「ハイニャ!塵も残さないニャ」
追加の1回後更に2回。計4回の苦行を堪え切った。
「良い。除去完了じゃ」
ハンカチを口から落とし。
「はぁ~痛かったぁ。再生ってあんな痛いんだね…」
「出産の痛みだと思え」
「マジですか!?」
レイルが私の股間を撫で。
「ここが裂けるような物じゃからのぉ」
「赤ちゃん欲しいけど怖くなって来たよ」
涎塗れの口元と血塗れ上半身を自分で拭いクリアして服を着直した。
グーニャを肩に乗せ。水を出して3人共手洗い。
代わりのハンカチをレイルに渡し。
「洗っても千切れちゃってるから代わりに。グーニャはスタンだけには絶対内緒で。プッツンしちゃうから」
「ハイニャ~」
「頭来たから美味しい物沢山食べて帰りましょう」
「ちょっとした労働じゃの」
「押さえた腕が痛い痛い。良い運動に成りました。怪力大猿娘のフィーネ様」
「それ言わないでよぉ~」
--------------
船の竜骨は手頃なケヤキが未開の東中腹に在り。間引き後に北東部の小川まで棚段を形成。
剃った樹木はそのままの形を流用。真っ直ぐな物は角材として使う物と大岩を乗せて逸らせる物とに仕分け。出た樹皮と薄木と木屑と松材で1隻試作船を組み。明日に試運転してみる。
書籍を見せながら船の改良はロイドが。橋の改良案は俺とアローマで解説と今後の提案。
大橋現場監督にソプランを置き。手伝わせてと申し出たトロイヤとティマーンを加えて3人橋に残し。ロイドに船関連を任せ。引き続きアローマと一緒に女王部隊を連れ山脈開拓地へ飛んだ。
南側開墾地上方の地盤緩み箇所に溝を設け。ピーカー君お手製の樫材防護柵を設置したり大木の根元に巻き付け補強したり隙間を態と開け土砂滑りの逃げ道を設けた。
逃げ道の先は左右両国に下りる水源川。最北の開墾地の水路が集結するポイントに小さな滝壺を形成。続けて両国の北1番橋の北側手前にも滝壺を。
そこから出た大岩を叩き斬り。既存の木組み橋の南に新たな石橋を建造する主な材料とした。
接着剤用の砕いた石粉と南海岸で集められた貝殻を粉にして一晩野ざらし放置。
「明日。この石貝粉と滝壺を作る時に一緒に取れた粘土を混ぜ。その上に水と火魔石を砕いた粉も混ぜて速乾性の接着剤とします。切り出した岩ブロックも中央橋の土台補強にも使いますので今日はここまでにしましょう」
見上げれば茜空。
「そうですね。源流から治水する事に成ろうとは…」
「自然信奉を謳う自分が恥ずかしいです…」
「豊富な地下水脈と貫通してなくてまだ軽傷です。もっと上だったら防護柵も滝壺も作れませんでしたし。皆さんもしっかり休んで明日に備えましょう」
「中央橋は足場が浮いている頃でしょうから。リオン側へは私めがお運び致します。どうぞお集まりを」
アローマが手を挙げリオン側の人員を引率。
北橋の袂でフィーネたちとも全員集合。
各所の進捗を擦り合わせて帰宿。クワンとグーニャを荷物番にして男女共一気に大風呂。
檜風呂に浸かりながら密偵2人に。
「悪いね手伝わせて」
「身体動かした方が気が休まります」
「かなーり鈍ってたんで丁度良いっすよ」
「俺らは大縄で橋浮かせて川底掠ってただけだしな。半分川遊びだ」
「詳しい話は後にして。風呂上がりの美女たちに囲まれての美味しい夕食と冷え冷えの冷酒。これぞ肉体労働のご褒美!」
「し、刺激が強すぎる…」
「少しタイラントに帰って嫁と子供の顔見に行こう。精神的に堪えられん」
「大いに賛成だ」
「まあゆっくりして来いよ。多少出発延びても余裕だし」
「そうそう」
「長居すると沼に嵌まりそうなんで」
「そこはきっちり区切ります」
「2人共真面目。頼んで良かった」
その2人が俺の右腕を凝視。
「やっぱ気になる?」
「気にならない人間は居ませんよ」
「どうしても目に入ってしまって」
「偶にはルーナも洗ってやろうか」
久々にルーナを具現化して桶の中でゴシゴシ。
「「それは!?」」
「炎属性の最上位竜の化身。東大陸の洞窟で倒して腕の中に納めた」
「そ…」
「んな話は聞いた事も無い」
「恐らく歴代勇者でも初だろう。気安く触るな。腕から噛み千切るぞ」
「「喋った!?」」
「竜種は賢いし最上位だからなぁ。こんなもんでいい?」
「うむ。内風呂で泳ぎたい」
「じゃあ後でな」
腕に収納して風呂上がり。
今日はゲストが居るので女子はしっかりお着替え。
座椅子を増やして10人丁度の楽しい夕食。
ゲストは周りにも料理にもおーおー言って驚いていた。
「メルランカで気になる事は無かった?」
「皆無です。表は」
「通過されて町民たちが酷く落胆してましたね。安堵して笑う者は表には居ませんでした」
「そかぁ」
「西部の組織の連中はここで狩り尽くされたんだろうぜ。
悪即斬で何処から来たとかは聞かなかったらしい。次に罠張るならペイルロンド内だな」
フィーネは溜息。
「農園と自然豊かで平和そうな国なのにねぇ。王都までは行ってないんだけど」
「注意して進みます」
「寧ろこっからが本番だと。東部の国へ近付く程に」
東に居るのか。東部3国を止める権力者の「ガ」が。
「予定通り焦らず慎重に。俺たちはちょっとだけここで一休みさせて貰うから」
「「はい」」
明日午前の行動予定を打ち合わせして前後合同夕食会は解散。
解散後も密偵2人以外は部屋に残り晩酌しながら各部の図面を囲んで話し合いホントの解散。
クワンとグーニャは隣部屋のロイドとご一緒。
ルーナを泳がせて内風呂で高い衝立越しに会話。
「聞こえてる?」
「丸聞こえですよー」
ロイドさんも湯に浸かり上機嫌。
「下手な事出来ませんなぁ」
「ねー。バッチリ外だからサイレント張れないし」
「覗いたら駄目かなー」
「眼球に塩を塗り込みますよー」
隣の嫁には首を絞められた。
「冗談冗談。何かフィーネさんスッキリした顔してない?」
「そうかな。普通よ。南西1番で美味しい貝類のお刺身沢山食べたからかも」
「いいなぁ」
「両国南1番の方が種類が豊富らしいから。工事終わったら皆で行きましょ」
「絶対行こう」
「クワッ」
隣の貝好きクワンも興味津々。
「久々の磯焼き尽し。楽しみだ」
「だね。頑張って手伝うわ。見送りしたら」
徐に遊泳中のルーナをキャッチ。
「や、止めんか!触るな!」
「まだ駄目なの?私嫁だよ?」
「ずっと駄目だ。水竜とは相性が悪い!」
噛み付く素振りを見せたのでリリース。
「先に言ってよぉそれ」
「ふん。我の勝手だ」
許可は永遠に来ないと思われる。
東背に縦断する運河の対岸にはルーナリオン側のリオンタイザの王都も垣間見える。
フィーネが地図を見ながら。
「言う迄も無いけど。南北番街と各王都は運河を挟んで大体左右対称位置に並んでる。それぞれに橋が1本か2本架かってて。王都間は2本の大橋。北側は予備って感じかなぁ」
双眼鏡でも周囲を覗き。
「姉妹間の仲は悪くなさそう。北1番の町の人たちからも悪い噂は聞かなかった」
「まあ実際の姉妹じゃなくて遠い親戚だからね今は」
「ふむふむ。下手に血の繋がりが有ると付き合いが拗れるもんね。…そんな事よりも!
私たち夫婦とカルとフウ以外は馴染みが無いであろう」
「異世界日本家屋が何故ここに!」
グーニャ号を北側手前の高台で降り王都を拝見。
瓦屋根。土壁。石積みと白壁の立派なお城。城下は和風建築と煉瓦造りが混在。
各所から温泉街特有の湯煙が上り。俺たちがオリオンでひっそり理想としていた風景が目の前にドン!
ロイドとカタリデ。
「私は遠い故郷ではないので懐かしいとは思いませんね」
「あー懐い!いいわこれ。この世界に長く居たのにこんな場所が在ったなんて全く気付かなかった…」
「独自進化で純和風ではないけど風情は感じるな」
「田舎ぽい土地柄で敵も味方も全スルーしてたのかもね」
これぞ陸のガラパゴス。
「これがお前らが前に居た世界の建物か」
「確かにこれまで見た建築物とは一線を画す物ですね」
「ほぅ。お主らが言う温泉郷とはこれの事かえ」
「成程ぉ…私には良く解りませんが」
「そうそう」
「何となく近い。異世界日本て国でも古い方の建物よ」
ペッツたちは余り興味無い様子。クワンは何度か見てる風景だろうし。
「さてと。1番街の女将さんも言っていたように…。問題は大橋と渡し船の構造強度みたいね。スタンのバッグのピーカー君外出て問題点を確認して」
「はい!」
高台先端から左手の大橋と両岸の桟橋に繋がれた渡し船を首をクルクルしながら観察。
「スターレン様ならお解りだと思いますが。橋は土台からして全部駄目です。渡し船と屋形船は根幹の竜骨を船底で分割してしまってる時点で全アウトです」
「だよなー。独自進化で他からの知識が入らず商業ギルドからは勝手に供与出来ずにって感じやね」
「タイラントの図書館で建築関連書を購入しましょうか。船に関してはもう直ぐミリータリアからも打診されると思いますし」
「そうね。まずは宿に入ってお城で要望を聞いてから考えましょう。もしか違う問題かもだし」
「ですね」
「そうすべか」
ピーカー君がバッグに戻り王都へ徒歩移動。
町人は独特な作務衣と足袋に草鞋姿の人々が主流。普通服を着た人も混在。統一感が有るようで無い。自由だ。
町並みを楽しみつつ。案内された和風旅館で好きな部屋を選択後に自室に集まり緑茶と温泉饅頭で寛ぎ。城からの連絡を待った。
着物風衣装の旅館の女将さんと仲居長さん。
「本日はようこそお出で下さいました。城の方へも連絡はしましたが準備中の様子ですので迎えは明日と成りましょう。それまでどうぞご緩りと」
「お食事のご用意もお夕食からと成ります。内食でのご提供ですがこちらへお集まりでしょうか。各お部屋でしょうか」
「どうする?ロイドはここだろうけど他は」
「ここでええじゃろ。机はちと狭いが」
他も全員ここで。
「済みません。畳部屋に平机を追加で座椅子は8脚。リビングテーブルはこのままで」
「畏まりました」
「直ぐにご用意を」
「後お勧めの飲食店とお土産屋さんの案内が有ればそれも頂きたいです」
「机とご一緒にお持ち致します」
女中2人は三つ指着いて一旦退出。
カタリデとソラリマも畳に寝かせて皆でゴロゴロ。
「10人部屋を2人か1人で使えるこの贅沢」
「畳の柔らかい香りも懐かしくて素敵ね」
「匂いが解らないのが辛いわぁ」
『うむ…』
ロイドとレイルも。
「和風は良いですね。奴隷が皆無な国が南東にも存在していたと知れて貸し切り大型旅館も存分に使えます」
「内風呂も大風呂も露天じゃし。全室掛け流しで最高じゃのぉ。妾もこっちまで足を伸ばせば良かったの」
「キリータルニアの南部だけだっけ。入ったの」
「じゃの。東大陸南端から近かったのも有るが。この大陸もこんなもんかと詰まらんで引き返したわ。
勿体ない事をした」
大きな平机2つと座椅子が運び込まれ。案内地図を見ながら再びお茶しながら吟味。
「鮮魚店…。ここまで海魚運べるんですか?」
仲居長のお答え。
「はい。南西一番からの陸路は距離が有るので今はまだ無理ですが。両国共南一番に漁場を設けて居りまして。
タイラント製ではない独自の製氷器を活用し。運河経由で王都までは。ここより北への供給は出来て居りません。
御夕食にもお刺身を少々お入れ致して居ります」
「「へぇ~」」
独自進化も侮れないっす。
ソプランが腕組み。
「冷蔵庫や冷凍庫売ってくれって言われるかもな」
「あぁ有りそう」
定価…知らないんだけどどうしよか。
勿論行ったのは大部屋が取れる海鮮丼屋。
ピーカー君はバッグの中で岩塩。ダメスドーテは果物オンリー。魔獣にも好みが色々。
両ギルド支部を訪ねたがルーナ両国は平和だと有力な情報は取れなかった。
低層迷宮もリオン側の東部に2箇所。ペイルロンド国境手前の天然迷宮。主要属性のスライムが出る。
地上には普通動物が生息し魔物は不在。国内各町で使われている魔石は全てこの迷宮産。豊富に採れるのでペイルロンド西部へも一部が販売され財政も安定。
ルーナ両国間の関係は良好。魔石とご当地物産や加工品の物物交換が主要取引。お金はミリータリアの行商や冒険者が落とすが仕事は行商護衛がメイン。スライム迷宮専属隊が数隊リオン側に定住しているだけでデオン側の定住者はとても少ないと。
衣類や食糧品ばかりで現金を殆ど持ち歩かず。狙う野盗は極僅か。暇な冒険者や国軍に簡単に捕えられ。壁外の野ざらし牢屋へぶち込まれて放置される。
敢えてペイルロンドの情報は聞かなかったが良く米類を買いに行く北部のカカンカとラカンカ村を見る限りルーナ両国と同じ位平和そうなイメージ。
商業ギルド職員に悪代官は居ないのか!と突っ込んでみたが多分居ますけど聞いた事は無いっす!と返された。
後続2人をどうしよう…とフィーネさんは頭を悩ませた。
ちょっと休ませるかペイルロンドへ先送りするかで。
夕方前に露天内風呂に2人切りで浸かり空を眺め。
「来る時期完全に間違えてる気がする…」
「雨期前に来られて良かったんじゃない…」
カタリデとソラリマを足元に投入。
「混浴するにしてもあんたたち恥ずかしくないの?せ、背中から抱き締めるとか…」
「何よ今更」
「俺たち結婚前からずっとこんなだから平気。フィーネが可愛くて偶に元気になっちゃうけど」
「もー止めてよ。隣に聞こえちゃうじゃない」
「はぁ…。唯々凄いわぁ」
『ずっと変わらんな。偶に我を入れっ放しで置き忘れられる事も有る』
「雑っ!」
「カタリデは自分で動けるじゃん。ソラリマは後ろから
おいっ!て突っ込んでくれるし」
「もう満腹です」
「そろそろ上がりましょ。早めにドアの鍵開けないと」
「そやねー」
上がり際にキスを交して夕方風呂はお開き。
お楽しみの夕食は。
刺身3種盛り。ポークステーキ。鮑の酒蒸し。天麩羅。
葉物野菜の煮浸し。
白米は少な目で純米大吟醸酒を追加発注。
「隣王都と被らぬようメニューを御組みして居ります。
デザートにはグレープフルーツと豆乳仕立ての杏仁豆腐を。足りなければ揚げ物のお摘まみをご用意も可能ですが如何致しましょうか」
「ペット用にフルーツを早めで。杏仁豆腐は順番通りでその後にお摘まみを半数分お願いします」
「畏まりました。では後程。他に御用の際は廊下脇の呼び鈴を鳴らして頂ければ直ぐに参ります」
味付けはしっかり出汁を利かせた上品な風味。
「語彙力無くなるぅ。堪りませんな」
「堪りませんねぇ。もう何度も来る事確定だわ」
「冷えた米酒も料理に合わせてあるし。温泉も最高。油断すると長居しちまいそうだぜ」
「殺伐としていた心が安らぎます」
「心まで清らかに。洗われるかのよう」
「隣のメニューも楽しみじゃのぉ」
「忘れられた秘境とも呼べない大きさですが。人には余り知られて欲しくない国です」
「良し決めた。明日女王様と上層部とお会いして。変な人居なければ。推定無害な国として後続2人は何方かの王都に一泊させてペイルロンドへ出発して貰います。
入ってない方のリオンの方が良いかな。そのまま東に真っ直ぐだし」
「2国同時に解決出来るなら先行させても良いな。全行程後追いだと怪しまれるし。ペイルロンド王都までの道程も安全そうでそっちに時間掛けて貰えれば。俺たちもこっちに時間使える」
「うんうん。一挙数得ね」
まだ女王とも会って居ない内から皆で祝杯を挙げた。
思い返すと意味が解らないが楽しかったからどうでもいいっす。
後続2人は無事メルランカの町へと入った。
一泊は様子見。
--------------
朝食も激ウマ。和風と勝手に呼ぶのは止めにしてルーナ国風だと定義した。
建国当初に誰が関わっていたかは調べる迄も無い事。
昼まで城下を散策してお城での昼食会。
デオン国女王サファエリ様。瑠璃色の髪留めが良く映える黒髪の30代美女。紫色の着物が艶やか。
そのお隣。まさかの隣国リオン女王リエリル様。妹さんですかと問わずには居られない程良く似ていらっしゃる。
翡翠の髪留めに黒髪の30前半女性。紅色の着物が美女度を彩る。
奥座2人から順に両国の役職が並び。末席の俺たちまで軽い自己紹介をしたが「ガ」の付く人物は不在。
胸を撫で下ろすと同時に若干の不安も。
「お招きに預かりました事。光栄で有り難く。次に訪問予定の隣国ルーナリオンの女王様までご同席。こちらの手間を考えての事だとは理解致します。
ですが何故私共にそこまでして頂けるのか。身に覚えが無いと言いますか。何を求められて居られるのかに若干不安も覚えます。
何か理由がお有りならご教授願いたいのですが」
フィーネの問いに女王2人は顔を見合わせ笑い合いサファエリが口を開いた。
「他国の常識には疎い物で。過剰だと受け取られたなら本意では有りません。
建国当初からお客様をお持て成しする事を本懐に両国民皆で邁進して参りました。
勇者隊をお招きするのは初めてで。粗相が有ってはいけないと少々行き過ぎたのかも知れません。
どうぞご容赦を」
「そうでしたか。私共も敵対組織との戦いの連続で少し疑心暗鬼と成っていたようです。こちらもお許しを」
「勇者隊に敵対する組織と言うのは邪神教を名乗る集団の事でしょうか」
「「え!?」」
衝撃フレーズがサラリと零れ落ちた。
「いや…その…」
「ご安心下さいませ。両国内に潜伏していた教団員は全て暗殺して晒し首に。不浄な骸は南海へと投げ捨てて置きました」
「どうぞご安心を」リエリル様も平然と。
「「へ…」」
俺たち全員呆然自失。
「し、失礼ながら…。この平和なお国柄で。何処にその様な戦力が?」
「表向きはそう思われても仕方無き事です。両国の主神は山神教。港にも水竜教の寺院は無く。ミリータリアやペイルロンドから流入する女神教を注視しつつ。それ以外を探れば比較的容易に見付けられました。
国軍は少数の表。油断を誘い敵を懐まで迎え。裏の戦力で押し潰す。実に簡単でしたよ」
「私女王以下役員。町民の半数。主要人物たち。全て暗器遣いの忍び技能に長けて居り。冒険者ギルドには非公開の隠し迷宮で鍛え上げました。
隠蔽道具は気配や臭い。呪術や魔法の発動時には僅かな隙が生まれ。その瞬間さえ有れば我らの前では赤子同然」
「「……」」
最早言葉無し。
「お見逸れ致しました。私共もすっかり油断を…。何1つ気付きませんでした」
全員。レイルやロイドも頷いた。
「嬉しいですわ。高名な勇者隊の皆様に気取らせないこの誉れ。町民皆が喜ぶ事でしょう」
役員全員笑顔で一礼。
この時程裏の顔を知るのが怖いと感じた事は無い。
「ミリータリア側に放った密偵のランナー蜥蜴を蘇生された心優しき巫女様とは…。フィーネ様の事でしょうか」
もう驚き過ぎて鼓動が収まらない。
「…私です」素直に挙手。
「密かに交流を持つスリーサウジアの族長からお聞きしました山神様の御遣い。ミミズフロンティア様とは…。そちらのクワンティ様では有りませんか?」
「クワ…」クワンが硬直。
何が何だか。
女王2人が手を取り合い役員全員が喜ぶ。
「何と素晴らしい!鳩様がお許しならば是非抱かせては頂けないでしょうか」
「お願い致します」
クワンは自分から2人の腕に飛び込んだ。
戻る頃には揉みくちゃで羽根が凄い事に。
「出来れば…。秘密にして頂けないかと」
「勿論ですわ。新たな名をお与えに成ったのも何か理由がお有りでしょうし」
そんな深い意味は無いんです(泣)
リエリル様も柔やかに。
「然れど。スリーサウジアでは既に鳩の銅像が御神体に崇められているとお聞きしました。当両国でも拵えたいのですが宜しいでしょうか」
「ど、どうぞお好きに。銅像だけに」
上手くはない。
俺から一言。
「その銅像の装備品は無しでお願いします。他に見られたら一発でバレるんで」
「「承知を」」
酒粕漬けや味噌漬けなどの焼き物で漸く心を取り戻し。緑茶で乱れを整えた。
「こちらも秘密を。明日か明後日に連れて来る当方の密偵2人を1泊程休ませてペイルロンドへ向かわせたいのですが問題有りますでしょうか。問題有りなら国境手前に降ろして素通りをさせます」
「そうでしたか。でしたら王都でも他の番街でも。同じ宿泊宿でもご自由に。相応の手配を致しましょう」
「どうするスタン」
「うーん…。混乱させるだけだから同じ宿で。話もし易いしそっから運ぶ方が早い」
「ではその様に」
2人には後でクワン便を飛ばします。
改まってサファエリとリエリル。
「お忙しい最中であるのは重々に。お持て成しが本懐だと告げてお願いするのは大変恐縮ですが。我らの願いを聞いては頂けないかと」
「今回のお祝いの品に加えまして。報酬に隠し迷宮産の道具をお付け致します」
「何でしょうか。数日で済むお話であれば。内容を伺ってからの返答にて」
「ご説明が先ですわね。昔から両国では小物や設備の細工に関しては得意なのです。反面で大型の船の造船。
両国を繋ぐ基幹部の橋などの建造が不得手で。毎年七月󠄃から始まる雨期災害に何度も流され困っているのです。
それらの改善案を供与して頂けないかと」
これは想定通りだった。
「大型船に関しては。丁度ミリータリア訪問時に財政対策案の1つとしてこちらルーナデオンに対し技術提供を強く勧めました故何れの後に打診が来ると思います。その技術をリオン側にもご提供と共有化をすればと」
「おぉ何と言う偶然。それなりの資金を用意せねば」
「タイラントの外交官として私とスターレンが調停者と成りましたので。費用面が提示されたら当国のヘルメン陛下へ送って下さい。正統な取引値かどうかは商業ギルドでも判定して貰えます。法外な額が提示されたら両方にお知らせをば」
「解りました」
「船に関してお伺いしたいのですが。川瀬の渡し舟を見る限り船底の竜骨が分割組をされているようだとスターレンらが検分を述べました。
1本物にしない理由が有ればお聞かせを」
「強度不足は存じて居ります。削り出しだと前後に弱く重ね合わせだと左右に弱い。巨木を曲げる工法が見付からず仕方無しかと木組みの方法を取りました」
俺が挙手。
「理由は理解しました。船は今期に間に合わないので以降の下準備を。船や橋脚の材木の切り出しは北部山嶺の麓からでしょうか」
「はい。主に麓の開墾時に出た物を」
「そこからですか…。大橋自体の構造も然る事乍ら。毎年の増水や土石流の原因はその開墾に有ります。責めて間引きに留め太い切り株を残すべきでした。
水源上流だけでなく。その周辺から麓まで。雨水を吸収して地下水に落とし込む土壌不足だと思われます。
河口堰を設ける手も有りますが下流で形成した田畑へ影響が出るのでお勧めでは有りません。
これから鳩で後続に手紙を出した後。最寄りの大橋を詳しく見てから北部の麓へ行ってみます」
「何と…開墾が悪影響を」
「山神様を崇める信者が…。山を痛めていたなんて…」
「開墾や治水の担当者は何方が」
女王2人が挙手。
「私たちが計画し指示を出しました」
「他の配下は橋や船などの建築を」
「では移動出来る軽装に着替えて北側大橋に集まりましょう。こちらは休憩と打ち合わせをしてからなのでゆっくりご準備を」
「「承知しました」」
--------------
「さーて。どうやって班分けしますかね。スタンとピーカー君とクワンティ以外は圧倒的に暇なんですが」
「そやね…。今日は買い物で暇潰しして貰って。明日はタイラントに戻って本買いに行く班と。予定だった南西1番散策する班に分けようか。タイラントはアローマで南西はクワンで飛べるし。誰かとは念話で繋がれるから」
「そうしましょ。詳しくは夕食後に。宿に戻って2人への手紙書くからスタンは身支度。見学する人も軽く着替えて」
総員城から撤収。背中のカタリデが。
「この半分が忍び…。ヤッバ全然解らん」
「モノホンの忍者とくノ一がここに居たなんてなぁ。南東大陸に普通の秘境は無かったと」
「普通の概念が行方不明よ」
フィーネがロイドと一緒に手紙を書いてる隣室でお着替えタイム。
アローマも入室。
「フィーネ様。タイラント時間も頃合いです故。ロイド様と戻って買い物をしたいと」
「あーそだね。本も都合良く在庫有るか確認しないと。カルは図書館。アローマはブートバナナ貰ってその他果物も割と多目に仕入れて」
「畏まりました」
「私も着替えなくては」
メルランカの2人をコンパスで検索…。
「宿に入って夕方までのんびりしてるぽいな」
町外周から読み取った見取り図上に印を付けてクワンに。
「クワッ!」
部屋の窓から大空へ。
おトイレ済ませておいらも出発。
ピーカー君の念はカタリデが読んでお喋りする。
北大橋の袂にはそれなりの人集りが。
真ん中で薄紫と薄桃色の上級作務衣に着替えた女王2人がストレッチをしていた。
レイルがリエリルの作務衣を一目見て。
「おぉ綺麗な桃色じゃのぉ」
行き成り女王の腰を掴んで持ち上げた。
「わ、私があっさりと捕まるとは…。やはり只者では有りませんね勇者隊は」
「正面からでは勝てません」
サファエリも納得顔。
「お土産に同種の新装をお付けしますので降ろしては頂けないかと」
「お、すまんの」
降ろした所から橋の検分を開始。
大木を川底へハの字に刺しただけの橋脚土台。
幅を稼ぐ為に細い嵌め合い組みの殆ど意味無し梁。
風に飛ばされたくないと重くした頭が単なるストレート。
砂利の土手に置いただけの袂の端板。
「詳しくは今日明日にタイラントで建築関連書を買ってからお話しますが。パッと見ただけでも大きく今の4点。
刺しただけの土台足場。防水も防腐処理もされていない様子で1年持つかどうか。防波石も無いので流して下さいと言っているような物です。
強度は稼ぎたいが風当りを軽減したくて細くしてしまった橋脚の梁。両立するには角材に加工せずに橋脚の太さ半分の1本木を通して突き出し部に留め杭を施した方が良かったです。
瓦屋根のように頭を重くする発想は悪くない。ないですが直線ストレートの構造が拙い。これは短距離に使う工法で100mを越える橋に適用したいなら橋脚を今の倍量が必要に成り資材効率がとても悪い。
造り替えなら橋脚毎に分割アーチ状にするか。現状を利用したいなら土台を修正してから頭板裏側をアーチ構造で補強するか。
吊り橋には構築までの時間が足りません。
そして土手に置いただけの袂板。流される事を前提にするなら北橋はしっかり固定。南橋を縄で繋ぎ置き石で仮固定とするなど様々な逃げ道が有ります。両方同じでは非常に勿体ないです」
担当者たちが和紙製のメモ帳にメモメモ。
それ俺も欲しい。
クワンがフィーネの肩に戻ったのを見て。
「鳩を使った転移は人数制限が少ないので。先に私と鳩で数カ所足跡を作って来ます。暫くここでお待ちを」
フィーネに歩み寄り。
「返信は?」
「大丈夫。何も無ければ明日の午前に南外に出るって」
「おけ。他は夕食後に」
転移ポイントを策定し女王2人と補佐数名を引き連れ修正箇所を選別。
本日最後に源流手前の中腹の岩場から麓を見下ろした。
小川が3本に分岐する場所。
「上から見ると何が問題か解るのでは」
サファエリが落胆。
「はい…。下り両側が丸裸で」
リエリルも。
「下から見上げるばかりで。中央の木々だけでは抑え切れなくなっています」
「今年か来年。大きな嵐が来たら今居る場所から大規模な土砂崩れと土石流が発生しそうです。かなり厳しい状況ですが今夜一晩色々考案してみます。
お勧めはしなかった河口堰も候補に入れて」
「何卒宜しく」
「お願い致します」
その場で数枚の風景スケッチを描き解散。
--------------
夕食後も遅くまでスタンはピーカー君とカルとソプラン、アローマとタイラントで購入した本を読み合ったり。スケッチから起こした図面を相談したりしていた。
目の前のレイルたちに。
「今回は私役立たずだから。残りの私たちで南西町行っちゃう?」
「妾も暇じゃしのぉ。行くかえ」
「ですね。デオン側の大きなお店は回りましたし」
プレマーレも同意。
「何気にこの3人で出歩くの初めてかも。クワンティも行きだけだし。ダメスドーテはまだお披露目出来ないし…。
スタンさん。グーニャはそっちに置いた方が良い?」
「あーそっちでいいよ。急に足が必要に成るかもしれないしさ。荷台は蔦で頑張って」
「おー。この際だから練習してみようかな」
「乗り心地が悪かったら走るかの」
「偶には単純な運動でも」
「私が失敗する前提じゃん…」
自信は無いけども。
「自覚は有るんじゃの」
「お有りのようで」
「グサグサ抉らないでよ。2人には実験台に成って貰うとして。移動は私とクワンティで後続を拾って打ち合わせをしてから。それまでのんびりしてて」
「じゃの」
「そろそろ部屋を移動しましょうか」
2人は自分たちの部屋で晩酌。私も冷酒を飲みながら内風呂露天を楽しみたいがスタンは其れ処では無い。
翌午前。スタンたちは朝食後早くにお出掛け。探索コンパスを借りて後続2人を宿へ招き状況説明。
「「……」」
「言いたい事は解ります。このルーナ両国ではまだ何もしてない。既にこう成ってて驚いた。私たちですら半数が暗殺技を備えた忍びだなんて気付かなかったし。
間違いが起きてはいけないから急遽2人を呼んだの」
ティマーンもトロイヤも重めに。
「何と言えば良いやら…」
「南東は奥が深い。外の人間は誰も知らないでしょう。こんな国が存在するだなんて」
「ホントよね。平和な世界だったら完全に観光地だもん。
2人は1泊ここに泊まっても良いし。一度タイラントの自宅に戻っても良い。
昼食は宿お勧めの外。夕食と朝食までは用意されてるからそれは食べてね。
スタンは死んでも行かせないけど遊郭みたいなお店も在るのでご自由に。
私たちもこれから出掛けて戻りは夕方。皆で一緒に食べたかったらスタンの方がちょっと遅くなるかも」
「はい。…着物姿の遊女は正直惹かれますが」
「ちょっと考えます。遊郭行っても話するだけですよ。勇者隊の密偵が浮気男だと噂されても困るんで」
「良かった。今の所の行動予定はここは明日まで滞在。隣王都でも2泊してペイルロンドへ出発。もう1泊分何方かで延ばすかも知れない。
その間に2人はリオン側の東部1番街で新しい馬車を借りて同じくペイルロンド王都方面へ先回り。
国境前までクワンティと3人の内誰かで運ぶ。
もう気付いてるでしょうけどクワンティ自身が単独で転移具を使える。それは極秘だから人間1人は付いてく。話は通じても道具を使わないと喋れないの」
「クワッ」
「でしょうね。勇者隊のペットは常識外れで有名ですよ」
「何処の茂みに隠れてもこちらを探せる時点で大体は」
「今後も宝具の通話はタイラント側からのみ。これまで通り透明化したクワンティで手紙の遣り取りを基本設定で」
「「はい」」
「ではまた夕方に」
2人の割り当て部屋で解散。
レイルとプレマーレ。お供はグーニャと影の中のダメスドーテで南西1番街へクワンティーに運んで貰った。
和洋混在の町並みはこの国の定番。
港には小型の漁船。木造漁船は補強が加えられ一般的な船よりも分厚く重い。町人に話を聞くと近海での延縄漁が主流。数隻で仕掛け網を引き揚げる漁方。沿岸部では素潜り。
温暖で波は穏やか。雨期以外は滅多に荒れる事は無いと水竜様も太鼓判。
それでも水難事故は多少有る。転覆しても余裕で泳いで帰る不屈の漁師ばかりだとか…。
一見穏やかに見える町民たち。裏の顔は未だに全く以て解らない。
両国の南1番港町の方には大きな海水浴場も在ると教えてくれた。
町人たちが遠く離れて誰も居ない岸壁に皆で座り穏やかな海辺の景色を楽しんだ。
「ベルエイガさん…。間違いなく関わってるのに。どうして船や橋なんて重要な部分残したんだろ。山の開き方も」
「お主らが何度も来る理由付けじゃろ」
「それ以外考えられませんね。完璧に過ぎるとそれはそれで目立ちます。開拓技術に疎い田舎の国と見えるようにではないかと」
「ニャ~」
「あぁ~納得ぅ。1割位は私たちの憩いの場かぁ。スタンも目がキラキラしてたし。雨期過ぎには海で泳げるし。ラフドッグでは今年は厳しいし」
「ビール樽買ってこっちで遊ぶかえ」
「良いお考えです。水着はご当地の物を」
「いいねぇ。他の国の人はプールで我慢して貰って」
気持ちの良い潮騒と微風で横髪とポニテが靡いた。
「レイル。深い質問しても良い?」
「何じゃ。大体解るが」
「アモンさんの父親って…」
「解り切った事を聞くでない。それ以外無いじゃろ」
「だよねー」
「ですね」
「ですニャ~」
魔族時代のベルエイガさんか…。
「妾からも質問じゃ。拒否は許さんぞ」
「…何でしょうか」
レイルは私の胸に手を置き。
「ソールブリッジを悪用したのは何故じゃ」
何時か来るとは思っていたこの質問。
「…答えなきゃ駄目?」
「拒否は許さんと言うた。スターレンの自由を奪ってまでする事なのかえ?」
「…それ言われると辛いなぁ。スタンの優しさに甘えて独り占めしたかったのが半分。何処かへフラリと居なくなりそうで怖かったのが半分。かな」
「一度解けたのに何故又使ったのじゃ」
胸が痛い…。レイルに手を当てられ嘘が吐けないのも。
「スタンを傷付けると知りつつ。私から彼を奪おうとした女神がどうしても許せなかったから。その復讐。
次やったら…。今なら迷わず神殺し担いで神域殴り込んで塵も残さず消し飛ばしてやる。の警告を含めて」
「ほぉ。中々面白い警告じゃの」
クスクス笑われた。
「笑い事じゃないって。それに…。女神はスタンの子供を狙ってる気がする。沢山作らせて1人位、みたいな。
心情的に私よりも先に出来るのも悔しい。絶対に私が産める保障も無いし。
だから無理だと解るまでブリッジは外さない」
「ふむ。女神の狙いは有り得るのぉ。将来性も含め周囲に年頃の女を大勢配置して」
「でしょでしょ。そう言う風にしか見えないよ。私たちの成婚率10割の特技は水竜様が用意してくれた対抗策な気がしてる。
だから他の子はシャットアウト。ペリーニャも魔王様には会わせない」
「普通の人間の女が魔王に会おうとは思わんじゃろ」
「女神がペリーニャを操り出したら必然的に化けの皮が剥がれるわ。時を巻き戻せる道具まで用意してる位だし」
「かなり紐解けて来たの」
「怖い怖い。時の神が何かに執着し出せばこの世の終わりですよ」
「怖いよねぇ。ここでお昼にする?南西2番街か南番街港行ってみる?」
「南は改修工事が終わってから皆で行けば良いじゃろ。ここでゆっくり昼にして帰りに南西二番へ寄れば良い」
「そうしますかー」
外してくれないレイルの手に手を重ねた。
「何故に私の胸を揉んでるの?」
「いや…ちょっと待て」
急にレイルが真顔に成って鎖骨下を触診し始めた。
「嘘…。冗談でしょ?」
「まだ小さいが乳腺に腫瘍が有るのぉ」
「え…」
まさかの乳癌発覚。咄嗟にレイルの手を握り人目の無い岩場を探した。
「レイルお願い。手刀で抜いて」
「良かろう。魔神退治の礼をフィーネには与えておらぬからの。幻術が効かぬからかなり痛いぞよ」
「そんな物堪えて見せる。あそこがいいわ」
丁度良い平場が真下の崖下に見えた。
全員で飛び降り上半身の衣服を脱いだ。恥ずかしいとか言っている場合じゃない。
「プレマーレ。背中から両肩押さえて」
「良いでしょう。グーニャ。両腕を蔦で優しく上に」
「ハイニャ!」
レイルが前に立ち。両手で胸から脇下まで丁寧に触診。格好も相まって超絶擽ったい。
「胸を静めよ。見えぬではないか」
「ごめん。静める」
目を閉じ浅い呼吸で整えた。
「うむ。ハンカチを噛み締めよ」
レイルが口元に添えてくれた布ハンカチを深く噛む。
手刀の連打は一瞬の痛み。その後に胸全体を焼くような激痛の波が押し寄せる。
「ふぐぅ!!」
顎を引いて同じ姿勢を保つ。これが再生までの痛み。
初体験をここでするとは思わなかった。
「堪えよ。再生後も見る」
「ふんっ!」
小さく頷き。痛みが引くのを待った。
乱れる呼吸を捻じ伏せ2度目の触診。
「チッ。もう一度じゃ。別の場所に転移しおった。女神の呪いじゃとしたらしつこい雌じゃのぉ」
悪口言ったから?あったま来た。
ソラリマに伝えて返答。
『構わず何度でもやってくれだそうだ』
「うむ。グーニャ。投げ捨てる組織を消炭にせよ」
「ハイニャ!塵も残さないニャ」
追加の1回後更に2回。計4回の苦行を堪え切った。
「良い。除去完了じゃ」
ハンカチを口から落とし。
「はぁ~痛かったぁ。再生ってあんな痛いんだね…」
「出産の痛みだと思え」
「マジですか!?」
レイルが私の股間を撫で。
「ここが裂けるような物じゃからのぉ」
「赤ちゃん欲しいけど怖くなって来たよ」
涎塗れの口元と血塗れ上半身を自分で拭いクリアして服を着直した。
グーニャを肩に乗せ。水を出して3人共手洗い。
代わりのハンカチをレイルに渡し。
「洗っても千切れちゃってるから代わりに。グーニャはスタンだけには絶対内緒で。プッツンしちゃうから」
「ハイニャ~」
「頭来たから美味しい物沢山食べて帰りましょう」
「ちょっとした労働じゃの」
「押さえた腕が痛い痛い。良い運動に成りました。怪力大猿娘のフィーネ様」
「それ言わないでよぉ~」
--------------
船の竜骨は手頃なケヤキが未開の東中腹に在り。間引き後に北東部の小川まで棚段を形成。
剃った樹木はそのままの形を流用。真っ直ぐな物は角材として使う物と大岩を乗せて逸らせる物とに仕分け。出た樹皮と薄木と木屑と松材で1隻試作船を組み。明日に試運転してみる。
書籍を見せながら船の改良はロイドが。橋の改良案は俺とアローマで解説と今後の提案。
大橋現場監督にソプランを置き。手伝わせてと申し出たトロイヤとティマーンを加えて3人橋に残し。ロイドに船関連を任せ。引き続きアローマと一緒に女王部隊を連れ山脈開拓地へ飛んだ。
南側開墾地上方の地盤緩み箇所に溝を設け。ピーカー君お手製の樫材防護柵を設置したり大木の根元に巻き付け補強したり隙間を態と開け土砂滑りの逃げ道を設けた。
逃げ道の先は左右両国に下りる水源川。最北の開墾地の水路が集結するポイントに小さな滝壺を形成。続けて両国の北1番橋の北側手前にも滝壺を。
そこから出た大岩を叩き斬り。既存の木組み橋の南に新たな石橋を建造する主な材料とした。
接着剤用の砕いた石粉と南海岸で集められた貝殻を粉にして一晩野ざらし放置。
「明日。この石貝粉と滝壺を作る時に一緒に取れた粘土を混ぜ。その上に水と火魔石を砕いた粉も混ぜて速乾性の接着剤とします。切り出した岩ブロックも中央橋の土台補強にも使いますので今日はここまでにしましょう」
見上げれば茜空。
「そうですね。源流から治水する事に成ろうとは…」
「自然信奉を謳う自分が恥ずかしいです…」
「豊富な地下水脈と貫通してなくてまだ軽傷です。もっと上だったら防護柵も滝壺も作れませんでしたし。皆さんもしっかり休んで明日に備えましょう」
「中央橋は足場が浮いている頃でしょうから。リオン側へは私めがお運び致します。どうぞお集まりを」
アローマが手を挙げリオン側の人員を引率。
北橋の袂でフィーネたちとも全員集合。
各所の進捗を擦り合わせて帰宿。クワンとグーニャを荷物番にして男女共一気に大風呂。
檜風呂に浸かりながら密偵2人に。
「悪いね手伝わせて」
「身体動かした方が気が休まります」
「かなーり鈍ってたんで丁度良いっすよ」
「俺らは大縄で橋浮かせて川底掠ってただけだしな。半分川遊びだ」
「詳しい話は後にして。風呂上がりの美女たちに囲まれての美味しい夕食と冷え冷えの冷酒。これぞ肉体労働のご褒美!」
「し、刺激が強すぎる…」
「少しタイラントに帰って嫁と子供の顔見に行こう。精神的に堪えられん」
「大いに賛成だ」
「まあゆっくりして来いよ。多少出発延びても余裕だし」
「そうそう」
「長居すると沼に嵌まりそうなんで」
「そこはきっちり区切ります」
「2人共真面目。頼んで良かった」
その2人が俺の右腕を凝視。
「やっぱ気になる?」
「気にならない人間は居ませんよ」
「どうしても目に入ってしまって」
「偶にはルーナも洗ってやろうか」
久々にルーナを具現化して桶の中でゴシゴシ。
「「それは!?」」
「炎属性の最上位竜の化身。東大陸の洞窟で倒して腕の中に納めた」
「そ…」
「んな話は聞いた事も無い」
「恐らく歴代勇者でも初だろう。気安く触るな。腕から噛み千切るぞ」
「「喋った!?」」
「竜種は賢いし最上位だからなぁ。こんなもんでいい?」
「うむ。内風呂で泳ぎたい」
「じゃあ後でな」
腕に収納して風呂上がり。
今日はゲストが居るので女子はしっかりお着替え。
座椅子を増やして10人丁度の楽しい夕食。
ゲストは周りにも料理にもおーおー言って驚いていた。
「メルランカで気になる事は無かった?」
「皆無です。表は」
「通過されて町民たちが酷く落胆してましたね。安堵して笑う者は表には居ませんでした」
「そかぁ」
「西部の組織の連中はここで狩り尽くされたんだろうぜ。
悪即斬で何処から来たとかは聞かなかったらしい。次に罠張るならペイルロンド内だな」
フィーネは溜息。
「農園と自然豊かで平和そうな国なのにねぇ。王都までは行ってないんだけど」
「注意して進みます」
「寧ろこっからが本番だと。東部の国へ近付く程に」
東に居るのか。東部3国を止める権力者の「ガ」が。
「予定通り焦らず慎重に。俺たちはちょっとだけここで一休みさせて貰うから」
「「はい」」
明日午前の行動予定を打ち合わせして前後合同夕食会は解散。
解散後も密偵2人以外は部屋に残り晩酌しながら各部の図面を囲んで話し合いホントの解散。
クワンとグーニャは隣部屋のロイドとご一緒。
ルーナを泳がせて内風呂で高い衝立越しに会話。
「聞こえてる?」
「丸聞こえですよー」
ロイドさんも湯に浸かり上機嫌。
「下手な事出来ませんなぁ」
「ねー。バッチリ外だからサイレント張れないし」
「覗いたら駄目かなー」
「眼球に塩を塗り込みますよー」
隣の嫁には首を絞められた。
「冗談冗談。何かフィーネさんスッキリした顔してない?」
「そうかな。普通よ。南西1番で美味しい貝類のお刺身沢山食べたからかも」
「いいなぁ」
「両国南1番の方が種類が豊富らしいから。工事終わったら皆で行きましょ」
「絶対行こう」
「クワッ」
隣の貝好きクワンも興味津々。
「久々の磯焼き尽し。楽しみだ」
「だね。頑張って手伝うわ。見送りしたら」
徐に遊泳中のルーナをキャッチ。
「や、止めんか!触るな!」
「まだ駄目なの?私嫁だよ?」
「ずっと駄目だ。水竜とは相性が悪い!」
噛み付く素振りを見せたのでリリース。
「先に言ってよぉそれ」
「ふん。我の勝手だ」
許可は永遠に来ないと思われる。
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