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第251話 南東遠征準備・1

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今日も朝からシュルツと一緒にランニングと瞑想。

朝食後に天才シュルツは遠征組を工房に集めて重要な品をご披露。

「ズバリ…。バッグの外装袋です」
外観一般品の布袋。
「だろうね」
「でしょうね」

「済みません。ブーツの配色は都内でも流行らせた蛇皮模様で偽装もバッチリなのですが。バッグの方は他の物で再現出来ず。これを上から被せて頂いて」
「謝る事は無いよ」
「全然。私たちが気にせず見せびらかしたのが悪いの」
全員頷く。

「一応一般の物よりは耐火性と防水防靱性は優れるよう仕上げました。外袋の上蓋も捲り易く。少し慣れれば中の本体蓋への影響は軽微かと。
問題はクワンティーの前パックの方なのですが…。どうしたら良いものかと」
全員クワンを注目。
「まーーー。無理やねクワンに関しては。白い鳩も珍しいのに純白ガードルとマント着けた鳩なんて他に存在しないからそのままで」
「クワンティは常時何時でも透明化が出来るし。町中で肩に乗せても問題無いし。殆ど真上をお散歩してるし。
気にしなくてもいいよ」
「クワッ」
「手が無いので二枚蓋はちょっと厳しいです。普通のお手紙が自分で出せないニャ。収納側にも入替え面倒な砲丸の球が入っているのでここままが良いですニャン」
「そうですか…。解りました。そちらは現状維持で。工作師としては負けたようで悔しいですが。又暇を見付けて考案してみます。
他に何か遠征に必要な品などは」

「お隣から薬類を補充するだけだね。各自のインナーも足りてるし。そもそも今回は戦闘の場面が少ない歓待訪問がメインだからさ」
「シュルツはこっちに集中してて。うっかり1人で外にお出掛けするのは絶対許しません」
「はい。それは絶対に。後ハイネの特務班分の収納袋はどうしましょうか。まだ資材は充分ですが」

「そっちかぁ…。どうすればいいかなソプラン」
「止めといた方がいいな。軽装での移動は目立つ。大容量袋での町中行動は更に目立つ。そこら辺は旅慣れた二人に任せた方がいい。ハイネには優秀な用品店有るしよ」
「議論の余地無し」
「はい。ではその様に」

早速偽装袋にバッグを入れて巻き直し。

シュルツ以外で自宅へ戻って。
「さあ運命の時がやって参りました」
「緊張しますねぇ。私が行く訳じゃないのに」
「クワァ~」

「過去の俺とロイドとレイルとプレマーレ以外。見た事も無い最終目的地に単身で向かわせるのは非常に胸が痛みます」
「無事に帰って来てね。まだ喧嘩しちゃ駄目。魔王様を探っても駄目。呼び止められても全部無視」
「クワ」
「ハイニャ」

モーランゼアと西大陸の暫定地図をテーブルの上に世界図配置。

「モーランゼアは何処まで把握してる?」
「クワァ」
「西の港町までバッチリですニャ」

「良いねぇ。魔王城へ直進するルートは港町ナノスモアの丁度南端から飛び立てばいい。
多少ズレても上空からなら間違えようが無い。格好良くて厳つい灰色の大きなお城だから軌道修正は任せます。
大体10km圏内に入ったら透明化を解いて。結界が張られててもソラリマで貫通。
玉座への最短ルートは…どうだったかな」
過去の記憶を探り探り。
「クワッ」
「過去に崩れた部分は修正されてるでしょうから自分で探しますニャ」
「それもそうか。何言ってんだ俺。
レイルさん。他に注意点は」
「特に無いの。結界も人間の侵入を検知する物じゃ。鳩なら擦り抜ける。強力な弓も飛ぶがクワンティには当らぬ。
強いて言えばピーカー製の耳栓を着けて行け」
「クワ」

フィーネが木製耳栓装着させた。

「ロイド。女神様からお叱りの連絡は」
「好きにせよと。寧ろ喜んでますね」

「現代の勇者としてはとても微妙な気持ちですが。深く追求するのは止めます。
カタリデは何か有る?」
「私も無いわ。ソラリマさん装備の最高速鳩を捕えられる存在はこの世界に居ないもの。例え因子持ちでもかなり困難よ」

「良し。ピーカー君。バッグの中で小箱に魔王城メダルと昨日書いたお手紙入れて」
「入れました!」

小箱を出してクワンに授与式。
両手と両翼で受け渡し。

「配達お願いします」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
「クワッ!」
「行って来ますニャ!」

クワンはリビングテーブルから転移した。

アローマ以外全員着席。
「お茶をお淹れしますね」
「俺珈琲。自分でやるから」
「お前はいい。座っとけ。俺がやる」
ソプランが立てるのは珍しい。
「濃さは任せるよ」
「飛び切り濃いの淹れてやる。どうせ後で買いに行くんだろ」
「まあね。じゃあ濃い目で」

緊張の一時が流れ。約40分後。

「遅いな…」
「遅いね…」
と俺たち夫婦が呟いた次の瞬間。
「クワッ!」
「只今帰りましたニャ!」

全員が胸を撫で下ろした次に。
「クワァ~」
「善くぞ鍵を届けてくれたと喜ばれ!?」
「「へ?」」
何が…起きた…。

「血抜き本鮪を置いたら更に喜ばれ!?」
「な…何を…言って」

「手紙を読み。今度の勇者は話が解る奴だなと大変喜ばれて!?」
「……」
クワンとグーニャ以外言葉を失った。

「何度でも通るが良い!?対戦を楽しみにしている。
前の奴みたいに不意打ちで背中を狙うなよ。あれされたら誰でも怒るだろと!?」
「そんな事したんですかカタリデさん!」
「ええ…。やってたわね。眷属の子供を人質にしたり。
汚い手を尽くしてたわ…。私を振り回して。
思い出すだけでも気分が悪い」
「何て事を…」
誰っすかそんな奴呼んだのは…。

ロイドさんが。
「…それに関しては謝罪すると。最初は素直で良い子だったのに。
具現化した私を見た途端に豹変したの、と上から」

「お話しちゃ駄目って言ったのにぃ」
「クワァ」
「箱を置いた瞬間に歓喜の渦でしたニャ」

お散歩に出掛けると数倍のお土産を持ち帰るクワン。
今回も特大のお土産を。
「でも良かった無事で。通行許可まで持ち帰るなんて。
これでかなり西の組立が明るくなったよ」
「ありがとね。クワンティ」
「クワッ」
「ソラリマも通訳ありがとな」
『我は念を読んだだけ。今なら魔王以外は単騎で狩れそうだったが』
「「狩っちゃ駄目!」」

レイル&プレマーレ。
「お、恐ろしい鳩じゃ…」
「もう鳩では有りません。鳩の姿をした神です…」
ミミズフロンティアだもんね…。もっと良い名前にしてあげれば良かった。ごめんクワン。
「レイルは向こうの様子覗かなかったの?」
「妾の存在を知られる訳には行かんからな。現時点で」

「ふーん。じゃあ俺たちハイネの保管品貰って来るよ」
「昼からラフドッグでアルカナ号見てスタフィー号で鮪釣りに行きます。
行く人挙手」
全員挙手。
「もうのんびり出来るの。海の上しかねえだろが」
「それなぁ…」




--------------

そこはハイネの異空間。
前と変わらぬ静けさが覆う路地裏。

フレットの店。玄関前に立つとクローズの看板。
「あらま」
「閉めてくれてたの」

玄関小窓から店内を覗くと中の男と目が合った。

こちらがスカーフを外す前に扉が開き。
「外さなくていいっす。早く中へ」

店奥カウンター席にはルビアンダの姿も。

スカーフを外しながら。
「フレット。帰って来てたんだ」
「私はバザー以来。お久し振り」
「お久し振りです。丁度一昨日帰って来ました。
まさかお二人がこんな大物に成るだなんて夢にも。
母も俺も驚きで」
「私は何となくこう成るんじゃないかって。大迷宮の号外見た時からね」

「ごめんねルビアンダさん。ゆっくり時間作れなくて」
「小国群のお話聞きたいんですが」
「何時でもいいさ。長旅が終わった後にでも。あんたたちの次の号外を楽しみに長生きする積もりだからね」

2人の案内で裏の納屋の地下室へ。

「物は一昨日俺が持ち帰った国内最後の異常品含めて計五点。何れも変な呪いは無いですが素人が扱うには度を超した武器です」
「特殊な隠蔽布で包んであるからそのまま持ってきな。布もまあまあ使える品さ」
「「へぇ」」
唐草風呂敷1枚使えないから布は有り難い。

地下室の床板を外すと割に深い縦穴。床板直下にランタンを引っ掛け。フレットがスコップ片手に飛び降りて穴掘り開始。

「手伝おうか?」
「大丈夫です。出した物をロープで拾ってくれれば」
「中身は後の楽しみに取って置きな」
「じゃあ」
「お言葉に甘えて」

灰色の布に包まれた大小5点を土付きで回収。

上の納屋で2種の珈琲豆を大袋で1袋ずつオマケ祝いで貰い受け。

店舗に戻ってルビアンダさんが立てた珈琲で一休み。

「やっぱ同じ豆でも立てる人に因って全然変わるなぁ」
「個性が出るのね。紅茶よりも」
「嬉しいねぇ。勇者夫婦に褒められるのは」

少しだけ過去のバザーの話をしているとカタリデが。
「スターレン。外へ出して」
「え?いいけどなんで?」
「いいから」

「おぉ…こんな間近で見れるのかい」
「聖剣を…」
フレットが喉を鳴らした。

カタリデは自立して対面2人の後ろを往復。
その間も2人は目を剥いておぉおぉと感動。

「ルビアンダの右腕。フレットの左肩。長年多種の異常魔道具に触り過ぎて壊死が始まってる。
良い物貰った礼に治してあげるわ」
「ホントかい!?」
「マジッすか…。全然気付いてなかった。単なる肩凝りだと思って」

「但しこの1回限り。2度は出来ない。これからは素手で触らないのは勿論。普通の軍手でも駄目。スターレンが持つ浄化手袋を渡してあげて」
「おけ」
真っ白な手袋を2セットずつ進呈。
「ルビアンダは右。フレットは左の掌で私の鞘に触れて」
「じゃ、じゃあ…」
「し、失礼します…」
2人の真ん中上に移動したカタリデの鞘にそっと触れた。

腕と肩の露出部が淡白く輝きフワリと消える。
「おぉ…怠かったのが消えたよ」
「俺も…肩の痛みが無くなった」

「まだコマネ氏には見せても触らせてもないんで」
「内緒でどうか」
「勿論さぁ」
「一生の宝にします。どんな道具よりも嬉しいっす」
2人共感涙。

帰りは何度も頭を下げられた。


ロロシュ邸に戻り本棟で昼食。ラフドッグ行きにシュルツを誘ったが。
「いいえ。こちらの仕事も有りますし。まだまだお兄様のバッグに引き寄せられるので一人で瞑想をします。
雑念を排除した方が成熟は早いかと」
「大人やぁ」
「日に日に成長を遂げる天才少女」
「瞑想は自分自身への問い掛け。ペースは彼女に任せた方がいいわ。焦っては駄目」

「勉強に成る」
「ウンウン」

メリリーもラメル君も今回はそれぞれの仕事が忙しいとパスを申し出て結局遠征組だけでラフドッグの専用ドッグ前に転移移動。

現場指揮のピレリからアルカナ号の進捗を聞き。お祝いを受けながらスタフィー号で出港。

お馴染みの釣り場で停泊。

デッキに人数分のパラソルとデッキチェアーを並べ。私服で寝転がり青空を見上げた。

「静かだなぁ」
「まだ開かんのかえ」
「せっかちか!フィーネとグーニャが戻ってからだよ」
「直ぐ戻るって姐さん。今日は大狼様の分は要らないんだからよ」
「ぬぅ」
早く布を解けとソワソワしっ放し。

アローマが身体を起こして。
「何かお作りしましょうか。レイル様」
カタリデが突っ込む。
「そんなに甘やかさなくていいわよ。自分で出来るのに面倒だからやらないだけだから」
「余計な事を抜かすでない」
「レイルの手料理見た事無いな。1回作って」
「嫌じゃ。お主らにもラメルにもロイドにも侍女衆にもメリーにも負ける物を何故態々作らねば為らぬのじゃ。
食材が勿体ないわ。それより今年分のエールビールは出来ておらぬのかのぉ」
「あー出る前に見れば良かったな」
「そう聞いちまうと飲みてえな」
「風はまだ冷たいですが日和りは絶好ですからね」
「私まだ…ビールは飲んでません…」
船上の全員が俺を見ている…。

「解ったよ。メドーニャさんに聞いて来るよ。歓迎受けるだろうから後にしようと思ったのに。クワンさーん」
上空に向かって呼び掛け。
「クワッ?」
「ここと青果市場の往復出来る?」
「クワ」ウンウン。
「今日は一回使っただけなので全然余裕です」
通訳ピーカー。

変装して青果市場裏に飛んだがメドーニャさんには1発でもろバレ。

「やっぱ良く知ってる人にはバレるか」
「そりゃちょっと顔付きと髪色が変わっただけだからね。
ここでお祝いすると騒ぎになるから黙っとくよ。今日は何を買いに?」
「助かります。去年の夏休みに浜辺で飲んだエールビールの樽。今年分まだ無いかなって」
「おぅおぅ。去年大好評で売り切れだったんで。あの後直ぐに作ったんだよ。ちょいと早いけど充分美味しいから持って行きな。
交代してる間に滋養酒の店覗いてやりな。中々面白い物漬けてるからさ」
「お!有り難い。また後で」
「またね」

直ぐ近くの滋養酒店。ここも最近全然寄ってなかった。
それなのに。
「おぉ良く来てくれました。ゆ…」
慌てて自分の口を塞ぎ。
「た、大将。ただで渡すと周りが煩いから定価売りで。大瓶一つでいいですかい?」
「ちらほら気付き始めてるから1瓶でいいよ。ここで収納しちゃうとバレバレだし。何漬けたの?」
「違いないです。漬けた物は高麗人参、杏子、梅、
クコの実。最近見付かったガラハイドの実。
砂糖の代わりに苺屋の蜂蜜を少々ですね」
初耳の植物だ。
「へぇ。ガラハイドは初めて聞いたな」
「人間の舌だと苦いばっかの実なんですがね。見た目は野苺やラズベリーに近くて。家畜の豚や牛の飼料に混ぜたんですがとても美味そうに食べるんで。試しに芋の蒸留酒に漬けてみたらビックリ。蕩けるような甘みに激変したんですよ。
他の実の酸味と相まってそれはもう堪りません。久々の自信作です。年中大将の分は取り置きしてるんで何時でも寄って下さい」
「おーヤバい唾液出て来た。ありがと。絶対来ます」
定価の銀貨20枚を縦財布からお支払い。

大瓶片手にメドーニャさんの後ろに付いてゴーギャン家近くの財団醸造庫を訪ねた。

庫内全二段の棚はビールの樽がびっしりと。室内の湿度や温度もきっちり管理され最適な熟成環境。

「素晴らしい!あぁ夏に来たい…」
「来れなさそうかい?」
「全然解んない。7月に1回は帰る。それまでに半分回れればねぇ。後半予定の9月は微妙」
原本が早めに出て来てくれれば超余裕なんだけど…。
「大変だねぇ。他人事みたいで申し訳無いけど。役人だけでも凄いのに。更に最大の重責背負って帰って来るんだから替わってやりたいとも思えないよ。重すぎて」
「ホントそれ」

「こっちの庫内のなら飲めるまで熟成してる。隣はまだ若くて九月向け。幾つ欲しいんだい?」
「3樽貰える?何時来れるか解らないから」
「半端だから四樽でいいよ。右手奥棚の下段。奥から順に持って行ってくんな。家らからのお祝いで」
「じゃあ遠慮無く」

アルカナ号は凄いねぇ。いえいえ俺たち貰っただけだしなどと話ながら醸造庫を出て倉庫裏から船へと帰還。




--------------

血抜き鮪をデッキ端から吊り下げて。

ビールの前に滋養酒を皆で試飲。
「「甘い!」」
「甘いのぉ。漬け込みだけでこの味が出せるのかえ」
「自然な甘さで諄くねえ。これなら俺も飲めるわ」
「私も好きな甘さです。心が安らぐ感じが堪りません」
「良いですね。上品な甘さに膨よかな香り。鼻から抜ける爽やかさ。夏らしく。お湯割りで冬場でも」
「ほうじゅ…全部言われました…」
俺たち夫婦とプレマーレ。感想撃沈。

ララードの種でサワーにしたり。樽の蛇口からビールをジョッキに注いだり。好きなように好きなだけ。

余韻を楽しみつつ。デッキに5品並べて御開帳。

風乗りの戦斧。
ハンドアクスよりは大きな中サイズの投擲斧。
風魔法が得意なら風に乗せ手放し操作が可能。
道具袋などに1晩入れると所有者固定。
投擲時。何かに衝突後、所有者の手元に戻る。
所有者固定時途中剥奪不能。物理魔法破壊不能品。

鬼人の小太刀。
小剣サイズの懐刀。装備者の怒りやストレス分攻撃力に上乗せ。属性魔法付与可能。
道具袋などに1晩入れると所有者固定。
固定者が認めれば一時貸与可能。
飛翔力上昇。高所からの着地時衝撃全吸収。
吸収した衝撃分攻撃力に上乗せ。
投擲時。何かに衝突、若しくは10秒後に鞘へ帰還。
所有者固定時途中剥奪不能。物理魔法破壊不能品。

五月時雨・幻。
一風変わった片刃長剣。属性魔法付与可能。
道具袋などに1晩入れると所有者固定。
抜剣時。0.2秒毎に最大5体の幻影をその場に残す。
(装備者任意)
無刃で暴打すると外装破壊。所有者自軍には無効果。
所有者固定時途中剥奪不能。物理魔法破壊不能品。

狂乱の短槍。
投擲特化槍。属性魔法付与可能。
投擲時。乱戦時でも自軍には当らず認識した敵に命中。
命中及び地上落下後。所有者の手に帰還。
道具袋などに1晩入れると所有者固定。
所有者固定時途中剥奪不能。物理魔法破壊不能品。
固定者が認めれば一時貸与可能。

大地の叫び。
地属性の短剣。地以外の属性魔法付与可能。
地面や床に突き立てると半径200m内。装備者任意の隆起を発生させる。
室内:天井まで。屋外:無制限(魔力許容内)
材質は突き立てた場所の材質。
魔力消費量は要確認。地形変化解除時、消費5割返還。
刃振動。攻撃時とフィールド展開にも伝達可能。
応用すれば小規模地震を発生させ陸上敵軍を翻弄、蹂躙出来る。
装備者・所有者自軍には影響しない。
当該品落下時。即座に鞘に帰還する。
道具袋などに1晩入れると所有者固定。
所有者固定時途中剥奪不能。物理魔法破壊不能品。
陸上最凶武器の1つ。

「な…なんじゃこの即戦力…」
フィーネが空かさず。
「私投擲槍がいい!」
プレマーレが反論。
「フィーネ様はポセラと言う最上品をお持ちです。ですので槍は私が」
「ポセラは属性付与出来ないもん。メインは私。プレマーレと兼用で」
「くっ…。後でくじ引きを。くじでも負けそうですが」

ロイドが。
「小太刀はアローマですね。私は投擲斧を。風の操作は得意なので」
「新たな修練が必要です…。ストレス発散?」

レイルさん。
「妾は片刃剣じゃ。ソプラン。言いたい事は解るな」
「解るけども!見るからに魔力馬鹿喰いじゃねえか。地形変化一回で気絶しそうだぜ」
「鍛錬して使えねば不使用で良いじゃろ。大地の呼び声を寄越せ」
「ったく。姐さんには温存する、て考えはねえのかよ」
「無い。気になる物は即座に調べる。それが信条じゃ」

フィーネに魔剣を渡して。
「合成してみて。サインジョの努力を無駄にしないように。その間に鮪の下処理するから」
「責任重大。良しやってみよう。私も気になるし」


合計7匹の特大本鮪の腹を捌いて腸を海へ還元。
全て白ロープでの作業。作業中にクワンとグーニャとカタリデが隣へ来た。

フィーネは合成が上手く行かず苦戦中。

「器用ねぇ。そのロープ1本で戦い抜けるんじゃない?
最上の因子持ちを除いて」
「クワァ」
「見事ですニャ」
「クワンとフィーネだけだった頃はそれも考えた。勇者に成れそうな人材探して俺たちがサポーターとか。
旅してる間とかバザーとか。女神様と水竜様がじゃんじゃん上位加護を付け出して。
あれぇ?変だなぁ?可笑しいぞぉ。て思いながらスフィンスラー踏破してみれば…あーあ、て感じ」
「面白いわね。最初は誰に目を付けてたの?」
「面白いで済ますなよ。最初も今も出会った時から聖騎士のゼノンだった。彼以外には居ない。
装備を除けば全部上。人格も何もかも。聖女を救い護る強い信念。俺はここまで来ても生身では適わない単なる張りぼてさ。
今でも時々思う。何で俺だったのかなって」
「さあどうかしら。あの子が考えてる事なんて誰にも解らない。本当の望みも全て」

「気紛れだねぇ、女神さんは。だからそこ。シトルリン原本の気持ちを理解してやれるのは。俺か、本来のプレドラか将又別人か。
神域で女神様に直接誰でも良かった、て言われた時の俺の気持ち解る?」
「ごめん解らない。あの子そんな事言ったんだ」
剣の中のカタリデが笑った。
「笑い事じゃないってホントマジで。さて。
1匹はクワンだな。他は配布と自分たち用…」
「クワッ」

後方フィーネ方面から歓声が上がった。
「よっしゃーーー」
「おぉ見せてみよ…。ほ、ほぉ。何じゃこれは?」
レイルの後にロイドも。
「これは…また。不思議な」

「どれどれ」
後方人員の中央に置かれた一振りの小剣。元の短剣サイズよりは一回り大きく。

それを拾い上げ。
「レイルもロイドも見えない?」
「じゃな」
「はい」
「私にも見えないって何?」
カタリデも困惑。

大地母神の召還。
一度だけ聖剣の中身の人物を具現化する。
消滅間際に使えば希望する姿で復活出来る。
聖剣の中に収納可能。収納時一段階能力値上昇。
具現化の使い処は本人次第。

全員カタリデを凝視。
「や、やったわーーー。フィーネ有り難う。ねえねえ明日マッハリア行かない?ローレンさんに会いたいな。
会いたいな!」
テンション振り切った。

「何じゃ詰まらんのぉ」
「良かったじゃない。でも…」
「まだ余裕有るから行けるけど。今収納しちゃうと魔王様の方も上昇するし。収納時期は終盤戦にしない?」
「そ、そうね…。下手すると西大陸半壊するし。それはフィーネが預かって。一緒のバッグだとうっかり食べちゃいそうだから」
「そうしましょ。では私預かりで」
フィーネのバッグにIN。

「ロイドも最近会ってないから行きたいだろうし。父上今どっちに居るか見てみよか」
「お願い!」
「お願いします」
マッハリアの地図をその場に置いて探索すると運良く実家へ戻っていた。

「おーけー。では確認のお手紙を書くのでクワン君にお届けして貰うのと。実家周辺の様子を見て下さい」
「クワッ」

「その間に釣ったばかりの本鮪を一匹解体しましてそれを手土産に。今夜実家にお泊まりだったらロイドさんを単独でラザーリアの南へ送りまして。
その他の俺たちは明日のお昼にゆーっくりこそーっと訪問したいと思います。
ロイドさんは大至急身支度を!」
「はい!」

バスルームに飛び込んだロイドは別に食堂で手紙を書き書き。
「レイルとプレマーレは行く?」
「私はレイルダール様に従います。ラザーリア産のお酒は前回買いましたし」
「どうするかのぉ。帰りにモルセンナは寄るのかえ?
前に王都よりもサンドイッチが美味いとか言っていたのを見たが」
「そやねぇ。丁度昼過ぎになるから店訪ねるのには頃合いかな。まずはお手紙が先か。ちょっと待って」
「うむ」

在宅確認の手紙をクワンに託し。
「船をラフドッグに戻すからそっち側からの合流で」
「クワッ!」

デッキで解体中の嫁にお声掛け。
「フィーネ。1人で大丈夫?」
「超余裕ー。こっちは任せて」
「船動かすからー」
「はーい」

港帰港よりも先にクワンが船に合流。

「アローマ読み上げ。ソプラン酒樽2つ共撤去」
「はい」
「おぅ」

「読み上げます。丁度今夜は一時帰宅。ロディ嬢を送ってくれるのは大変に嬉しい。しかし実家にだけ寄るのはスタルフの面子が立たない。
二人の王妃も会いたがっている。何とか昼以降で時間を作ってはくれないか」
「まーそうか。そうだよな。良し。明日の昼過ぎアローマがタイラントからレイルとプレマーレをモルセンナに送り届けてソルダちゃん親子に暫く無理そうだと伝えてくれ。
あの町なら俺とフィーネが居なければ騒ぎになる事は無い筈だ」
「畏まりました。町のお土産を購入してタイラントへ直帰致します」

「クワン。城下の様子は」
「クワッ」
「実家方面の人気は疎ら。王城南正門前に人集り。スターレン様の入り待ちの様子ですニャ」

「それでも行くしかない。実家が手薄ならロイドは問題無しだ。ソプラン。城へ上がれる準備は」
「何時でも。着替えて出るぜ」

「カタリデ。急に色気出すなよ。父上は柔軟だがマナーには厳しい。第一印象が肝心。普段通りで居てくれよ」
「普段通り…。普段通り!頑張るわ」

「アローマ。フィーネに鮪1匹分丸々ラザーリア城に献上する事にしたからもう1匹捌いてと伝えて」
「直ちに」

「レイル。明日の帰りは解らない。今日の武装の試し斬りは帰ってから調整で。16層のゴーレムが丁度いい」
「仕方無いのぉ」
「ですね。明日では私の再現魔力もやや不安ですから」

「ソプラン。自宅に帰ったら速攻で明日のラザーリア訪問の件を城に伝えに行ってくれ」
「了解」

ロイドの風呂上がりとフィーネの2匹目解体処理を待ってから帰港した。




--------------

ロイドとグーニャをセットで南砦付近に届けて帰宅。

残ったメンバーで夕方からビール三昧。滋養酒は取り敢えず床下セラーへ納めた。

「ロイドに鮪の短冊持たせて明日の伝言頼んだから良し。明日の訪問着どうしよっか」
「実家だけだと王の面子が丸潰れ。迂闊だったわ。でも服は困ったね。ソプランはグレーの従者衣装でいいけど私たちはタイラントの正装?は何か違うよね。
今度は外交官としての訪問じゃないし」

「だよなぁ。悩むわぁ。あ、レイル。飲み止しで良ければ滋養酒持ってく?俺用で取り置きしてくれるらしいから行けば何時でも買えるし」
「ん~。自宅に置くかの。メリーと三人で晩酌じゃ」
「助かります。少し酔わせないとメリリーさんが情緒不安定に成りますので」
「ややこし」
「遠慮無く持って行って。3人の平和の為に」

時計を見ると16時過ぎ。
「夕食にはちと早い」
「塩昆布でお豆腐作りましょうか。レイルたちのお土産にも成るし。鮪の短冊は持って帰るし」
「いいね。最果て町の熟成途中の醤油舐めてみる?」
「途中とは思えない味わいで驚くわよ」
「みるのじゃ」

アローマが湯を2つの鍋で沸かし始め。
醤油は小さじに垂らしてご提供。

「おぉこの味でまだ途中じゃと…」
「ね。使うお塩でこんなにも違うなんて。初歩的だけど忘れてた」
「お隣にも伝えたし。半年後位にいいのが出来るかなぁと言う淡い期待」
「最果ても年内に行くし。完成版が楽しみね」
「持ち帰るのじゃぞ」
「当然」

「ソプラン…。遅いわね」
「そう言えば…。明日反対されてる?」
「反対されてももう行くって返事送っちゃったじゃない」

かなり遅れてソプランが帰還。

「いやぁ~参ったぜ。俺も一杯貰うぞ」
「どうぞどうぞ」

駆け付け1杯飲み干して。
「かぁー。温い位が丁度いい。…あぁグーニャが居ないのか」
もう1杯注いで着席。

「まず南東からの招待状はまだ半分。ミリータリアは早々に来てた。それに釣られてギリングスも準備に入った。
両港が開通するのは後一週位有れば。そっちは明日午前に見に行ってくれ。
南西の残り二国は訪問したばっかだから来てない。招待状じゃなく単なる祝いの挨拶文書と親書。

問題は中央大陸の他の国。ロルーゼはガン無視で上も合意だが。何とメレディス王都からも来てる。何処にそんな余裕が有るのか意味不明だが」
「えー面倒くさ」
「信じられない。絶対雑事押し付ける気だわ」

「それもガン無視で決まりだろ。届いた文書はきっちり残してる。
内陸小国群は特に何も無し。
マッハリアも当然早々と来てた。後二つ。帝国とアッテンハイムの扱いで相談したいとよ。
マッハリアの肩だけ持つと…微妙だな。心情的には親子と兄弟で対面するだけなんだがな。
教皇様と皇帝様からの直筆案内に応えないってのはどうなんだ。ちゃんと転移場所まで用意されてたし」
「あー…」
「まあ帝城と教皇邸に行くだけなら。ペリーニャに後で様子聞きます」

「それも明日返事してくれ。クワンジアとモーランゼアは祝辞文書のみだった」
「まだ1週間有るなら。明後日はスフィンスラー行って」
「明明後日に帝国とアッテンハイム両方行こう。早い方がいいし」
「今なら一日有れば返事は届くし。それが妥当だな」

ラメル君とメリリーも呼んで出来たて塩昆布豆腐の試食会と本棟側で作ってくれたビーフシチューで豪華な夕食。

お土産持たせてレイルたちは変装アローマとソプランが送り届けた。

ソプランたちが帰宅後。4人とクワンだけになっても余った豆腐と刺身でビール三昧。

遅くなってしまったがペリーニャに通話。
「歓待室で会うだけってのは…」
「対外的にちょっと厳しいですね。前の外道を除き。聖剣様をお持ちの勇者様が本殿を訪れない、と言うのは」
「「だよねー」」
「初めましてカタリデよ。聖剣に敬称なんて要らないから気楽にどうぞ」
「は、初めまして。この様な形でお声を聞けるとは」
「平気平気。スターレンとフィーネのお陰で前の心の傷も癒えたし。ペリーニャちゃんなら触らせてあげる。
教皇は駄目。今後の布石の為に」
「有り難う御座います。素直に嬉しいです」
「でも私は女神ちゃんの派閥ではないから自由なのよ。本来はね。今も伝わる様式美は全部後付け。兎角人間社会はややこしい」
「非常に申し訳ないと言いますか…」
「いいのいいの。今後の世代で崩して行けば」
「はい」

明日のこちら午前で正式回答を送ると通話終了。

「この流れはもうタイラントの正装一択やね」
「役人勇者夫婦の肩書き。これ以上増えようが無いと考え直せば気が楽よ。どの道南東では全部正装なんだし」
「溜息しか出ない…。でも考え方か。お、凄い楽になった」
決意を固めたフィーネ。
「決めたわ。南東では全部私が前に出る。スタンとフウは原本への手掛かり探索に集中して」
「遂に伝家の宝刀を抜く時が。宜しくです」
「何だか不安だけど。勇者を尻に敷く傑女は前例が無くて斬新ね。注目が分散していいかも」
「でしょでしょ」

「今後もアローマはスカート無しで行くから大狼様のエプロンドレスが宙に浮いて勿体ない。明日シュルツに加工依頼出して」
「すっかり忘れてたわ」
「暫く着用して居りませんでしたからね。明日午前に必ずご依頼を」
「俺は変装してタイラントの物産土産…殆ど酒だが買って置く」
「今は少量ずつしか買えないからなぁ。物はお任せで」
「おぅ」

「クワ?」
「午前中に南西大陸を僕とお散歩しても良いですか?
赤竜白蛇さんの所とスリーサウジアの反応無しが気に成りまして。ケダムの様子も」
「あーそだね。放置も良く無いな」
「序でにミミズフロンティアの布教活動もしちゃおう。スリーサウジアは無宗教だけど山神教寄りだから」
「クワッ!」
「了解です!」
フィーネのバッグからクワンのパックへ移動。

「ミミズフロンティアて誰のセンスよ」
「お、俺ッす…」
カタリデが大笑い。
「スターレンはセンスの落差も激しいわね。でもまあ平和的な感じがして可愛いじゃない。木菟て梟も居るし」
「あ、それ良い。ミミズクだ。ベースの考え方はそれで行こう。同じ鳥類だから違和感が無い」
「白鳩さんだけどねぇ」
「クワァ」
「ですねぇ」
「後付けで済まぬ…」
俺のネーミングセンスが問われた一面。

後悔はしているが反省はしない。もう今更修正利かず。




--------------

ロロシュ邸本棟、カメノス邸、王城地下へ本鮪を1匹ずつ仕入れた後で地上後宮へ。

陛下に2日後のアッテンハイムと帝国への両訪問意思を伝えて届けられた文書類をフィーネとカタリデとで確認。

ペカトーレのマホロバ首相の。
「やっぱな!だと思ったよ。ったく」
はちょっと笑った。

不審な点は特に無く。暗号めいた文も無し。

メレディスのモンターニュ国王からの。
「助けて助けて。国宝の魔道具沢山渡すから!」
満場一致で塵箱に突っ込んだ。

ロルーゼのアルアンドレフとマルセンドは連名で。
「偽王ペタスティンが最後の悪足掻きでフラジミゼールへ部隊を派兵したが勇者誕生の号外のお陰で兵が誰一人動かなくなった。
やっと偽王自ら玉座を降りてくれたよ。
これから当方アルアンドレフと偽王家シャンディライゼとルイドミルとで三つ巴の国民選挙戦に入る。
一年は掛かる見通し。君が今フラジミゼールを訪ねてしまうとモーゼス伯が引き上げられてしまうので訪問は控えて欲しい」

「間に合ったぁ…」
「間に合ったねぇ。1年は我慢ね」
「良かったじゃない」
「他人事みたいに言うけど。遅れてたらどうなってた?」
「どうなってた?」
「ご、ごめん…。今のは、無しで」

続いての2枚目で。
「妻の偽証の詫びに本物の痕跡を探ってみたが綺麗に消されて何も見付からなかった。また何か見付かれば文書の暗文でヘルメン王陛下へ送る。
君らを利用しようとした事も含め重ねて謝罪する。ロルーゼの正常化で真の詫びの形としたい。
何時か堂々と君らに会える日を胸に抱き」

「律儀な人だな。アルアンドレフ殿は」
「印象変わったね」

気に成る南東大陸。

「ミリータリアとペイルロンドは純粋な歓迎ムード。
南西部のルーナデオンとルーナリオンは…デオンから訪問して欲しい?何だこの指定は」
「姉妹国の姉で立場が上だからじゃない?」
「あぁ成程ね。なら仕方無い。
北部のボルトイエガル。北東部のオーナルディア。
東端の小国コーレルサブデ。南東部のキリータルニア。
4国がまだ案内無しか…。微妙だなぁ北から東全部」
「こっちから催促するのも変だし。行った西部の国に招待案内届いてるかも」
「それは失礼よ。勇者と私に対しても。ヘルメン王に対してもね」

「どうせ全部は回れないから西部で区切ろう。
陛下。予定通りギリングス開通に合わせて出発します。途中で書が届いたらシュルツに伝えて下さい」
「勿論その積もりだ。勝手に返事は出さん。中央での訪問着も正装で行くのか?」

「はい。今こそ特務外交官としての役を使う時かと」
「実に誉れ。多少の泥は被る。存分に使え。掛けられる泥も見付からないがな」
「「はい」」




--------------

自宅でクワンの帰りを待っている間に。フィーネからアローマへ経典の授与。

「フウが近くに居れば魔力消費も軽減されますが。離れて転移具を使う事が多くなったアローマにこの経典を」
俺の顔を見て。
「宜しいのでしょうか。私で」
「もち。重要な所は全部別書に書き写したし。転移が使えないと皆が困る。安心も出来ない。
消費軽減道具がまた見付かれば次はソプラン。グーニャは内部魔素からも供給出来る。
ずっと持ってて」
一礼して受け取り。
「志かとお預かりを」

昼食前のお茶中にソプランとクワンが略同時に帰宅。

「買い物完了。後は飯食って着替えるだけだ」
「「お疲れ~」」

「クワッ」
「只今戻りました」
「ナイスタイミング。檸檬水でも飲んでもろて」
「クワ」
深皿の檸檬水をゴクゴク飲んでいる最中にピーカー君。
「赤竜様は変わらずお元気。風土にも馴染み。周囲の魔物を統制して頂点へと君臨しました。行く行くは次世代の白竜様に成るのではと思います。
お二人が来るのを心待ちにしていると」
「ほぉほぉ」
「時間見付けて挨拶行かないとね。白蛇さんにも」

「続いてスリーサウジアの状況。元々の言語体系が異なる為に号外の伝達が遅れていました。直にペカトーレから伝わるのではと予測します。
ケダム率いる旧ペカトーレの残兵は全員纏めて南海岸の集落の一角に監禁。
同じ集落で三部族の代表者が集まり族長会を開いていましたのでそこへ乗り込み布教活動を。
巨大本鮪一本をドカンと置き。
我が名はミミズフロンティア。山の聖鳥。山神様の御遣いだと名乗り。中央部には赤白の竜が降臨された。
湖を越えての狩りをするなと現地語で伝え。村人全員が土下座をしたのでもう安心かと」
「相変わらず凄い成果だ…」
「現地語…話せたんだ…」

「はい。僕もママたちも大昔からあの場所でしたから聞き慣れた言語です。文字までは書けませんが」

「良し。南西大陸も外せそうだと。昨日のシチューの残りで昼にして早めにラザーリアに行こう。多分実家に辿り着くのも時間掛かる」
「アローマ。プリタとファーナに夕食は本棟で。ちょっと遅くなるかもと伝えて」
「畏まりました」

浮かれるカタリデ。
「どんな方かなぁ~。楽しみだなぁ~」
とても心配だ。




--------------

父上とカタリデの初対面。
「ドストライク!いいわ!凄く良い!!」
「おい!」
「ドストライク…とは」
喉も無いのに咳払い。
「気にしないで。全く関係の無い話だから。初めまして聖剣カタリデです。
お外が凄い事に成ってますが対処方法は」
「お初に。迎えの馬車を呼んだのでそちらで王城までご案内を。進路妨害は先兵が片します」
「解りました。本来勇者と成った者は自由を謳う冒険者の代表として誰にも膝を屈しません。
私が人間の仕来りが嫌いだからです。仕事上ヘルメン王の前で膝を着くのは仕方無しと特別に許容しています。
スタルフ王の前で形式上でも膝を着けと言われるならば私はバッグの中に引っ込みます。その了解は」
「何なりとお気の召すままに。元よりスターレンは救国の英雄でスタルフの兄。膝を折るなど無理な話。
誰が文句を言えましょうか。垂れる者が居るなら蹴り倒して椅子から引き摺り降ろします」

「快いご回答。益々惚れ…いえいえ。
私は政治には関わりません。ですがスターレンは外交官としても忙しく成る身です。今後で何か長引きそうな案件が有るならここで聞きましょう。正直に答えなさい」

「スターレンに関わる案件は皆無です。ですが少し御前を失礼」
と告げた父上は俺の肩を鷲掴みに。
「スターレン」
「な、何か…」
「テナリアに居たユリテーヌが三月から笑い病を患い先月に笑い死んだのだが。お前は何をした!」

「それには深い事情が…」
「時間が勿体無い。簡潔に述べよ」

洗い浚い事情を説明。

「クライフが…娘に記憶を…」
「先王が抜け殻状態に成ったのも随分昔。ロルーゼの有識者が地下施設に居た頃。フレゼリカの愛用本の中に手掛かりを残しました。それがユリテーヌの毛髪。
それを使う道具を持っていたのは本当に偶然です」

「成程…。真に狂王か。娘の身体を」
「ええ。真に」

「益々その有識者に興味が湧いた。来年のロルーゼの選挙後が楽しみだ。必ずセッティングしてくれ」
「はい」
「お前が何も変わってなくて安心した」
「ずっと前から勇者の証は持っていたので。それに道を外そうとしても正してくれる妻や仲間が大勢居ます。
俺はずっとお調子者の俺です。ご安心を」
父は笑いながら俺の背中を強く叩いた。
「お前を誇りに思う。迷わず突き進め。この国は私とスタルフに任せてな」
「はい!」
俺が泣きそう。

カタリデは小さく。
「惚れるわぁ…」
と呟いた。

ロイドも頷き。嫁まで…え!?


ラザーリア王城。玉座の間の扉前。

先頭の父上が急に立ち止まり。
「少し、ここで待っていてくれ」
「ん?」
「単なる予告だ。気にするな」
予告?

父上は1人で玉座に入って3分後に扉は解放された。

赤絨毯を前段まで進み。俺は棒立ち。
他は膝を着いた。

玉座のスタルフを見上げると…左頬に紅葉マーク。
何故?

「二月以来ですね兄上。もう少しで…膝を着けと言ってしまう所でした」
あぁそれで。
「でも…。説明してくれれば解りますよ父上!」
「正しいマナーを覚えるのに痛みが最も身に染み易い。スターレンを待たせるのも忍びない」

「うぅ…久々の平手…。姉上様も後ろの方々もお立ちを」
フィーネたちも立ち上がる。

「兄上。カタリデ様を横へ立てられますか?」
背中から空いている左横に立てた。てか自分で直立。
「私に何か御用?スタルフ王」
「おぉその様なお声でしたか。いえ他意は有りません。
ここに列席する外周が!一声お聞きしたいと!毎日毎日用事も無いのに。自分の仕事を放り出し押し掛けて!
これで満足か!!」
外周納得の表情。

「結構。別場へ移動しお茶でも如何でしょう兄上」
「夕方までは時間有るから問題無い」
「有り難い。ではペリルご案内を。我らは裏手から」
「ハッ!」

玉座は挨拶だけで終わってしまった。

別場とは言ったがそこは別室。新後宮ではなく。
広い中空庭園が窓から覗ける、思い出深いあの部屋。

ロイドと視線を合わせ互いに苦笑い。
「懐かしいな」
「何の因果でしょうね」
「なーに2人共。意味有り気に」
フィーネに耳打ち。
「スタプ時代に毎日彫刻掘ってた部屋さ。そして母上となるリリーナ姫と出会った場所でもある」
「あぁごめん。デリカシー無かった」
「いいよ。別に隠す程じゃない。良くも悪くも思い出は思い出さ」
「うん。私も何でも聞いちゃう甘え癖直さないと」
「あの1つ以外は隠し事は無いよ」
フフッと笑う嫁が眩しい。

少し遅れて王族3人と父上。それからペリルが給仕を連れて入室。

お茶を並べ。ペリルと給仕は一礼した。
「廊下で待機して居ります。御用の際は呼び出しを」
「あぁペリル。デッカい本鮪仕入れて来たから。冷凍庫空いてるか見て来て。これ位」
切り身をロープに乗せて浮かした。
「おぉこれは見事な」
大魚を見た事が無い他父上とハルジエにも。
「捌く前はこんな感じ。スタルフとサンはタイラントの晩餐会で見たと思うけど」
捌いてない本鮪も後ろにドン。

5人共「おぉ~」と漏らした。
「あの時は末席で良く見えなかったんです。近いと迫力が桁違いだ」
「私は更に後ろの壁際でしたので」
特にハルジエは。
「北海でも中々揚がりませんよ。この様な大物は」
父上とペリルも絶賛。

庭園を挟み向かいに並ぶ見物人たちも諸手で拍手。

「庫内は直ぐに確認を」
ソプランからも。
「済まないペリルさん。もう一つ。冷蔵庫か地下の酒造庫にこれを」
エドワンドで出されているシャンパンを3本テーブルに並べた。
「スタルフ王が未成年で行けなくて。悔し涙を流したあの店の物を特別に卸して貰いました」
「あの店…あ!あぁ。飲んでみたかった奴だ。パージェントの美女たちが集まると言うあの店で」
両サイドの嫁から肩叩き。
「痛いって。パージェントは健全な店しか無いからお喋りだけですよね。兄上」
「その通り。勘違いしちゃいけないぞ」
「済みません…」
「つい先に手が…」

「皆飲めるなら1本ここで開けますか。父上」
「そうだな…」
窓の外を見て。
「今日は仕事に成らん。偶にはこんな日が有っても良いだろう。ペリル。確認後にグラスを。自分の分もな」
「畏まりました。では後程に」

「済みません兄上。持て成す方がこんな大量に貰ってしまって。こちらは岩塩三種を数キロずつと大型風マイク三個しか用意してないのに…」
「気にすんな。祝いは気持ちであって金持ってる方が豪勢にするもんだ」
「マッハリアに来たからにはアッテンハイムと帝国にも行くし。ハルジエは帰省したい?直接はここへ来られないから北部砦で待ち合わせとか」
「あぁどうしましょ。悩みますわ。スタルフが良いなら」
「一日位は良いよ。昼に出ても時差有るから数時間。少し長い休憩だと思えば。
姉上様。どれ位の時間予定でしょうか」
「そうねぇ。アッテンハイムが向こう時間で朝。どんなに早くてもこちらは昼過ぎね」
「ほら。最近は内務の方が仕事量多いし。息抜きで」
「ではお言葉に甘えて。昼には外門前の北部砦で待機して居ります」
「明日は別件で。行くのは明後日よ。お間違え無く」
「はい。明後日の昼に」

グラスが運ばれ皆で乾杯。

冷凍庫も冷蔵庫も半分以上空き。帰り際に突っ込む。

マッハリアの動向やらタイラントの状勢やら。政治の話ではない世間話も。

カタリデも普通に会話に馴染み。存在を忘れてしまう位に盛り上がった。
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