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第250話 勇者爆誕
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襲撃のニュースは世界を巡り西大陸の複製シトルリンの元まで届けられた。
受け取った中央大陸の号外書を両手で握り潰して床へと投げ付け座っていた椅子を蹴り上げた。
かはさて置き。
俺たちの自宅が在る王都パージェントも当然沸きに沸き。
数日間お外へは出られぬ状態に。
気になるスターレン専属共有部門は。
ロロシュ邸とカメノス邸との間の中街道を1本丸々ぶっ潰して。もういっそ両邸を共有部門で繋げてしまえと。
オリオンに関わる人員以外の全てを集結させ。奴隷層の人員も借り出し急ピッチで建造が進められた。
5月の時点で既に地下から1階部分の土台が出来つつ。
4区のド真ん中が封鎖され関係者以外は通れぬ道へ。
ロロシュ邸の自宅側から双眼鏡で工事の様子を眺め。
「シュルツ…早過ぎじゃ」
「何を仰いますかお兄様。もう勇者誕生の号外は世界へ回っているのです。
オリオン事業を止めてでも一日でも早くお建てしなくては間に合いません」
「そ、そうっすか…」
「シュルツに任せるしかないよ。私たち動けないんだから」
「はいお姉様。その通りにて。
必ず立派な事務棟と集合宿舎と訓練設備を」
「増えてない?」
「増えてるね」
「まだまだ増えます。
地下にはお二人関係者専用と一般訓練用温水プ-ル。
事務棟屋上には広々転移ポイント。
表端には大型弩弓三基。
中間域には両邸と事務棟を繋ぐ渡り橋等々。
ピーカー君には負けられません!」
「「そっちか」」
シュルツがライバル心を滾らせるその相手。ピーカー君はレイルの影の中で新築入替え物件を構築中。
必要資材はポム工房からのお裾分けと無断でペカトーレ北部の樹海でゲット。序でに茸狩りも。
見付かったらマホロバに謝ろう。
転移要員の変装アローマが付き添い。
レイル、メリリー、プレマーレが居るマッサラの自宅へ出張中で不在。パシリ担当の変装ソプランがその他物品を王都やマッサラで爆買い中。
変装ロイドは図書館閲覧層で何か無いかと物色中。
「じゃあそろそろ城に」
「そうね。いい加減待たせるのもあれだし」
「私も行きます!どうして私にはお見せして下さらないのですか!」
「だってシュルツ」
「直ぐ触ろうとするじゃない」
俺のバッグの中から。
「駄目よシュルツちゃん。後2年と2ヶ月の辛抱よ。何度言えば解ってくれるの」
「解りたく有りません!私だけが触れられないなんて!」
帰宅直後から見せて見せてとお強請り。
消滅の危険が有ると何度説明してもこの通り。
好奇心爆発娘は17歳の誕生月が過ぎるのを待ち切れないとご立腹。
「解った。絶対に、触るなよ」
「見るだけよ」
とフィーネが背中からそっと羽交い締め。
「ぐぬぬぬ。工事の監督をしなくてならないので…。見るだけで我慢します。
お姉様。もっとしっかり抱いて下さい」
「うん。ちゃんと抱いてるから」
全く別の…。まあいいや。
2人から充分に距離を取り。カタリデを床に置いた。
「ふぐっ」
「ちょっとシュルツ暴れないで」
「完全に引き寄せられてるわね」
「落ち着くんだシュルツ。これを乗り越えないと二度と出さないからな」
「ふー、ふー…。…うぐっ…ううっ…うわーん」
遂には大声で泣き出した。
「おーヨシヨシ」
シュルツをクルリと反転させ胸に収めた。
「久々の泣き虫さんだねぇ」
「うぐぅ」
「駄目だこりゃ」
「こればっかしはどうにも…」
「しゃーない。定期的に見せて訓練しよう。取り敢えずフィーネはシュルツを頼む。
俺はゼファーさんかフギンさん借りて城行って来るから」
「もーシュルツったら。御免ねスタン。そっちお願い」
背中にカタリデを張り付けお城へ出陣。
擦れ違う警備や侍女も振り返りカーネギまで寄って来た。
「それが、聖剣…」
「そそ」
「初めまして」
「初め、まして。カーネギ、と申します」
一礼じゃなくて土下座で挨拶。
「そこまでせんでも」
「まー大変」
「いや、俺、む、無理」
感涙するカーネギ。それは周囲にも伝染し。近くの邸内従事者たちも次々に膝を着く。
「止めろ!カーネギがそんな事するから勘違いしちゃったじゃん。立て。頼むから立って」
「可笑しいわねぇ。こんな反応は初めてよ」
「マジっすか」
「マジよ。先代の塵を除いて今の貴方同じ程度のカリスマ持ってた勇者は何人か居たの。私もそれに引っ張られるんだけど見ただけで感動して泣く人は初めて」
「カーネギってそんな涙脆かった?」
「じ、自分でも。解らん」
城に行くのも大変だ。
カーネギを強制的に立たせて本棟側へ。
玄関前でゼファーを呼び出し。ただけなのに。打ち合わせ中だったロロシュ氏とカメノス氏も表に登場。
「ほぉ~それが」
「生きてる間に本物が見られるとは」
「初めまして」
「「お初に!」」
俺とカタリデに改めて集いし一同が一礼。
「触っちゃ駄目ですよ。シュルツが触れなくてさっき悔し泣きしてたんで」
「む、むぅ。後二年の辛抱か」
「死ぬ訳には行きませんな。卿よ」
ゼファーが歩み寄り。
「勇者様と聖剣様のお供に預かれるなど光栄の極み。
お背中後方の雑事はお任せを。寄り付く者は例え王でも蹴り倒します故」
「下手すると死刑だからそれは止めよ。じゃあ行こうか」
「参りましょう」
この組み合わせも久し振りだねなどと話しながら地下道を潜った。
城側へ出た途端。昇降口を守護する衛兵隊が。
「ス、スターレン様がお越しだ!
伝令兵!全力で王宮へ走れ!!」
「ハッ!」
「どうした。今までそんな反応じゃなかっただろ」
名前は知らないが顔は良く知ってる。
「緊張しているのです。ここの皆も城内も。上からの噂では王陛下も勇者様を下に使って良い物か、と悩み始めたとか」
「えー。事前会議と全然違うじゃん。立場は変わらずちょっと肩書きが増えただけさ。どれ位待てば良い?」
「どうでしょう。王宮広間に集結中でしょうから三十分程ではないかと。それまでそちらの待機所でお待ちを」
「しゃーないなぁ」
「大変ねぇ」
他人事みたいに…。
待機所まで歩く時も。後ろのゼファーが。
「勇者様の後ろに回り込むとは何事か!」
と武装した兵員を蹴り転がしていた。
皆聖剣を一目見ようと必死。
「カタリデ。面倒だから真上に浮いて」
「しゃーなしね」
背中から離れて俺の頭上に移動。
待機所横のベンチに腰掛けゼファーの様子を…。
「腑抜け共めが!仮にも勇者様へ繋がる通用口を守る兵隊風情!その鎧と帯剣と槍は玩具か飾りか!
新兵から鍛え直せ!!」
無武装で結局10人の兵員を地面に転がしていた。
「も、申し訳無い…です」
脇隣へ立つゼファーに拍手。
「見事。面倒を掛けた」
「何の。若い者は直ぐに武装に頼る。情け無い」
「み、耳が痛いっす…」
「人間は身も心も脆弱。過ぎたる力は自身と周囲も怠惰に変えてしまう。カタリデ様の御前で恐縮ですが。
老害の戯れ言だとお受け取りを」
一糸乱れぬ振舞いと礼。
「胸に刻みます」
何故か俺までお説教されてしまった。有り難や。
「私が出る幕は無さそうね」
「装備云々よりも生身と精神鍛錬するさ。まだ招待状が揃うまで時間有るし」
「名案だと思うわ」
帰ったらトレーニングと瞑想しよ。兎角俺は心が弱い。
王宮側の兵から呼ばれて王宮広間へ。
城内の主要人物たちが顔を並べる。
膝を折ろうとしたヘルメンちに対し。
「一国の王が部下を前に膝を着くのは許されません」
「はい」
陛下1人が立ち直した。
「私はカタリデ。聖剣の役割を担う物。意思は持てども人為らざる一振りの武具。
勇者と共に歩み、邪を穿つ物なのです。そこには上位も下位も存在はしません。
それ故に東大陸には国を建てませんでした。
これからスターレン宛に多くの招待状が届くでしょう。
今注目しているのは南東ですが他からも続々と。
その全てにスターレンと私が目を通します。敵に繋がる情報が隠れているやも知れません。
戯れ言などと決め付けず。自己の判断で破り、燃やさぬよう為さいませ」
「肝に銘じて!」
カタリデが俺の頭上から降り。集まった者の回りを一周。
「メルシャン姫」
「はい」
「芽吹きが見えます。でも弱い。このままでは流れる危険を感じます。過度に走らず。ゆっくりとした散歩と。
地下プールでの緩やかな遊泳を楽しみつつ。健やかな心身を保ちなさい」
「はい!そのお言葉、有り難く」
「ダリア姫。私の前へ」
「はい」
列から離れカタリデの前へ。
「その力の行使を禁じます。その予言に因りスターレンらの取るべき行動が悪い方へと擦り替わる可能性が有るからです。
私とスターレンらを信じ。その扇を手放しても良いよう瞑想を繰り返し。無心の境地を掴みなさい。貴女はそれが出来る強い人間です」
「はい!」
「フィーネが伝えたように。夢は所詮夢。不安に駆られたらメルシャン姫やミラン妃に打ち明け為さい。
悪夢は弱心が見せる幻だと捉え。扇を抱いて心静かに眠ると良いでしょう」
「有り難う御座います!」
「ヘルメン王」
「ハッ!」
「ご夫婦の仲が良いのは結構では有りますが。長時間の事務仕事で腰を痛める兆候が見られます。
適度な休憩と柔軟体操と運動。お酢を使った料理。カメノス医院の医師との相談など。酷く成る前にその腹回りの贅肉を削ぎなさい」
「はい…。酢は好みではないですが…努力致します」
ミラン様もお顔が真っ赤。
「その他の方々も。眼精疲労を溜めぬよう気を付け。充分な睡眠でこれから押し寄せるスターレン隊への入隊希望者たちに備え。篩いに掛け為さい。
今の所。現存する身近な数名と東大陸の数隊。それを除き西大陸への最終遠征に連れて行ける人材は居ません。
ここに居るアーネセルとギーク。ロロシュ邸のゼファー。
城下町の酒場のデニス。ハイネに居るタツリケ隊を借り出し。ここの訓練場で手合わせをさせると良いでしょう。
恐らく大半がゼファー1人に敗れます。足手纏いだから帰れと切り。代わりの商業仕事や他国への斡旋を促すのが最良かと思います。
これが全てではないですが一案として頼みます」
「ハッ!!」
あれ?
「俺喋る事無くない?」
「貴方は喋ってる途中で調子に乗り出すでしょ。東でも見てたし。フィーネからも聞いてます。
自己紹介だけで充分よ」
然様で御座るか…。
「改めまして勇者と言う大変大きな看板を持ち帰りましたスターレンです。フィーネはとある事情で泣いてしまったシュルツを慰めているのでここには居ません。
将来看板を下ろせても暫く混乱は続くと思われます。
これからも変わらぬご指導とご鞭撻の程宜しくお願い致します。
そして陛下」
「何だ」
「宝物殿の特に危険な代物3点を取り去り我々が処分したいと考えます。
例え正常化出来ても返還する気は有りません。ご了解を頂けるのでしたらご案内をお願い致します」
「三個か…。どうせ使わぬ塵同然。好きに使うと良い。
この後連れて行く」
後宮を抜け宝物殿へ。
ヘルメンちの後ろへ回って肩を揉み揉み。
「気安く触るでない!」
「えー。いいんですかぁ。勇者に肩を揉まれる王様なんて聞いた事無いのにぃ。貴重ですよ?」
「い、言われてみるとそうだな。苦しゅうないぞ。
それより気になる三点とは何だ」
「鑑定する迄も無く。カタリデが接近したら多分微妙に動きます。それが以前の鑑定で気になっていた危険物と重なると思います」
「成程…。聖剣様なら真実を見極められるか」
「その通り。私は聖属性の塊ですから」
1層では支配の王錫。
地下層では死滅の弓、苦渋の槌が微妙にカタリデを拒絶した。
「やっぱこれだったか」
「死滅の弓は一見無敵に見えるけど10発限定。最後の10射目で射撃者の一番大切な人を石に変え。自身も共に絶命する心中弓。
苦渋の槌は百叩きに1回ランダムで。防御を無視して味方の頭を叩き潰す。
王錫はスターレンの鑑定で合ってる。
良くこんな下手物が隠れていたものね。正直ドン引き」
「ス、スターレン。遠慮無く持って行け」
「処分処分」
厳重に布に包んで後日スフィンスラーで溶かします。
気になるのはハイネのフレットの地下に埋葬された物だが今のこの状況だと行けるかは微妙。
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それでもやっぱり気になり2日後にコマネ氏にご相談。
自分たち夫婦とシュルツの瞑想トレーニングを終え。変装してお出掛け。
レイルの自宅リフォームの入替えも終えた頃。
夫婦2人。コマネ邸の門番の目の前で変装スカーフを外すのは面倒臭かった。
「し、失礼ながら。既に腰帯のバッグでもろバレなのですが…」
「「あ!」」
もうバッグだけはどうしようも無い。
「今度からちゃんと隠すよ」
「総代様は在宅かしら」
「はい。ジェシカ様のお子様がお生まれになったので。それはそれは溺愛のご様子。どうぞ中へ」
「おぉ生まれたんだ」
「良かった良かった。ちょっと帰りに挨拶しよう」
会った早々満面の笑みのコマネ氏へ。
「ご出産御目出度う御座います」
「御目出度う御座います」
「有り難うと素直に。頑張ったのはジェシカだが。まさか私にこんな日が来るとは。
そして勇者御目出度うスターレン君。南東に何度も行っている時点で気付いてはいたがな」
「バレてますよねぇそりゃ」
「証見せてないのにね」
「今日は何用だ。娘の顔を見に来たと言う訳でも無さそうだが」
「実は…」
フレットの店の地下に埋葬した破壊不能品が欲しいとストレートに。
「紹介した時点で君たちに渡そうと決めていた。こんなにも早いとは思わなかったがね。
明日手前まで掘り起こさせる。明後日の午前に店を訪ねてくれ。ちゃんとバッグも隠せよ」
「「はい…」」
「ウィンザートの案件も各地の樹脂板案件も順調だ。追加の材料も受け取ったし。元々国内で採れる代用品でも充二分に間に合う。
早ければ来年の春水族館が出来る」
「「おぉ!」」
「と考えていたが。君たちの共有部門建設案件でこちらからも人員と資材を出した為。多分来年末に間に合うかどうかになった」
「「おぉ…」」
「まあ焦る事は無い。焦らないといけないのは圧倒的に共有部門だ。それ以外は気長に待っていてくれ」
「「はい…」」
「クワンジアのソーヤンとオシオイスは無事に!揃って痴呆症を発症し。半寝た切りで意識混濁。あれなら誰が近付いても使い物に成らん。
自分を差し置き、恐ろしい事をするな君たちは」
「何の事でしょうねぇ」
「思い当たる節が全く…」
コマネ氏は細く笑い。
「裏で協力出来るのもこれまで。後は塵拾いをして何か見付かれば連絡を。今度は表で正々堂々協力する。
そして南東でローレライの他に誰か忘れていないか?」
「あ!」
「マタドルさん!」
「何かの足しには成るだろう。遠征の途中で米でも買う振りをして会ってみてくれ。土産はここの地酒でも」
「行きます」
「是非とも」
肝心な人物をド忘れしてた。
3人でジェシカ母子を訪ねお祝いと抱っこ。話を聞くと何と同時期にパメラも無事に男の子を出産したと。
今度はバッグを隠してお忍びでデニス氏の店へ。
ちょっと変わった位ではデニス氏に直ぐに見抜かれ1杯奢ったり。パメラ母子ともご対面を果たした。
両家母子共に健康。心の底から嬉しいニュース。
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自宅へ戻り夕食を兼ねてレイルとスターレン隊をマッサラから招集。
食後に。
「リフォームした自宅でお風呂を楽しみたいレイルさんに少し真面目な質問をしたいんですが。まだ大丈夫?」
「良い。何じゃ」
上機嫌な内に。
「俺がカタリデを抜いた事で。西の魔王様も本来の力を取り戻した」
レイル以外全員絶句。
「気付いておったか」
「気付かない方が可笑しいよ」
「ごめん。私気付かなかった」
「違う。言葉間違えた。勇者の直感で。
レイルがまだ何も言わないって事はまだ時期じゃないと思うけど。魔王様は魔王城地下迷宮に納められた魔王専用武装を取り出せなくてイライラ最高潮だと思う」
「え…。ちょっとスタン。待ってよ。フウも何で何も言わないのよ」
「私。外道から離れたくて最後の方見てないの」
「相変わらず良い勘をしておるのぉ。正解じゃ。それで」
「南東大陸に届けられる筈だった魔王城迷宮のメダル鍵を俺が保持したまま。
シトルリン原本は世界樹と一緒にメダル鍵も探してる。メダルに関しては見当違いの場所を。
このままだと魔王様は拳1つと魔法と配下だけで南部に居る複製シトルリンを叩きに向かってしまう。
敵に操られた演技を続けているレイルの娘。アモンさんを救出する為に」
「……」
「本に恐ろしい男じゃのぉお主は。何故そこまで読めるのじゃ。西にも部分的に一度入っただけなのに」
「今はまだ誰にも内緒。フィーネにもロイドにもカタリデにも女神様にもこれだけは言えない。誰かに話せば今の俺が抹消されるから」
「訳解らない事言わないでよ」
「時が来たら必ず説明する。それまで信じて待ってて。
レイルに聞きたいのは魔王城のメダルを渡す時期。俺としては今直ぐ渡したい。
シトルリン原本を見付けた後だと手遅れに成りそうで」
レイルは腕組みして考え込んだ。そして腕を解き。
「今でも良いが…。一番厄介な相手を残す事に成るのじゃぞ」
「それでも俺は遣りたい。最後は正々堂々真っ向勝負で全部の決着を着けたい。
そうしなければ。魔族と人間が共存する世界は来ないと考えてる」
深い溜息1つ。
「馬鹿な男じゃ。遣り方を変えれば倒し易い因子持ちを残せるのにのぉ」
「馬鹿で御免。このままだと…。因子を半分持ったレイルと戦わなきゃいけなくなるから。それだけは絶対に嫌だ」
「え…何で?」
レイルはテーブルを叩いて立ち上がった。
「お主は誰から助言を受けておるのじゃ!」
「今はまだ言えない!」
「何時なら言える」
「シトルリン原本と俺が対面した時に。あいつに伝えなきゃいけない事が山程有るからその場で必ず」
椅子に座り直したレイル。
「…必ずじゃぞ」
「この約束だけは違えない。原本が俺とレイルを見て逃げ出さなければ必ずその場面が出る」
「逃さぬように抑え込めば良いのじゃな」
「そう。だからレイルにも南東遠征に参加して欲しい。配下の商人として」
「それも良いが。ここが空に成るぞよ」
「大丈夫。原本は一度。勇者に成ったばかりの俺を全力で叩きに来る。それも南東で。
今潰さないといけないのはレイルよりもこの俺。
あいつが把握してるのは精々カタリデとソラリマと黒竜様の盾と白ロープ。それと勇者装備。霊廟武装や他のメンバー装備は掴み切れてない。
今を逃せば俺に勝てないと勘違いしてる。その時捕まえられるチャンスは訪れる」
「ふぅ…。楽しみに取って置くかえ。してメダルをどう送るのじゃ」
ベルさんが残してくれた小箱を取出し。
「ベルさんが役に立つよと態々教えてくれたこの箱に!」
「メダルを?」
「そうなんですフィーネさん。この箱が使えるとご教授頂いた時から決めてました。
多分これは魔王様も知っている箱。
若しくはメダルが元々入ってたんじゃないかなぁと!」
「何と!」
「明日皆さんでスフィンスラー19層でお休み中の子天竜を寄って集ってリンチした上で!」
「我が夫ながら何ともエグい!」
「その姿を覚えたクワンさんに」
「クワンティに?」
「ソラリマ装備の超特急便で!天竜の親玉に見付からないように。そーっと魔王城真東から玉座ぽい所へ直送して頂きたいなと考えます!」
「まあ…それしか無いよね」
「クワッ!」
「ハイニャ!」
「お散歩せずに真っ直ぐ転移で帰って来ておくれ」
「寄り道しちゃ駄目よ」
「ク…」
「ハイって言って」
「クワッ!」
「ハイニャ!」
「ご挨拶のお手紙を添えまして。訳の解らない邪神教団から取り返しました。まだ戦う気は無いので。数年後に1回だけ西部方面に抜けさせて下さい。勇者よりとお願いをしようと思います。
如何でしょうかレイルさん」
「よ…良かろう。彼奴も文章は読めるしの」
「安心した。で今にもブチ切れそうなソプラン。何か言いたいならどうぞ」
「勇者じゃなければ殴りてえよ。原本と対面する場面が見えてるなら。
とっくに正体にも気付いてたんじゃねえのかよ!」
「残念だけど対峙する相手は真っ黒い影で何も見えてないんだ。現在の情報が足りてなくて。
見えてる場面状況は3つ。
1つは大きな建物の中。相手は誰かを人質に取ってる。
そこにはレイルが居ない。でもアローマが血塗れで床に倒れている。
1つは深い森の中。また相手は誰かを人質に取ってる。
そこにもレイルは居ない。アローマは無事。代わりにプレマーレが相手側の隣に居る。
最後の1つも森の中。同じく誰かを人質に取ってる。
それだけレイルが居て。全員がこちら側で無事」
「チッ。姐さんが居る最後を残したかった訳だ。丸っきり予知じゃねえか!」
「似てるけど違う。これは予測線上の出来事。だから分岐してる。西大陸の予測も含めて」
「あーもー付き合い切れねえ。もういい!明日アローマと観戦してやるから。無様な戦いすんじゃねえぞ」
「了解。子天竜は合計4回以上復活する。
1回目は俺がソロ。2回目以降は誰でもいい。勿論空中戦が出来ないソプランたちは除いてね」
「ああ解った」
「入口付近で反射盾を構えます」
「私…2か」
「妾じゃ」
「レイルは小型黒竜様と戦ったばかりじゃない。私1回も飛んでる竜と戦ってないんだから譲ってよ。どうせ復活毎に弱体化するんでしょ?」
ロイドも。
「困りましたね。今無性に敵を八つ裂きにしたい気分なのですが」
プレマーレも。
「私もですよ!何なんですか二番目の選択肢は」
「クワ?」
「我輩たちの出番は無いのかニャ?」
カタリデが。
「怖いわぁこの小隊。普通の人間要らないわね。2回目以降はくじ引きで」
「聖剣様の意見に賛成だ。二つの意味で」
「同意します。これでは何も決まりません」
「むぅ…」
仲良くくじ引き。
2回目。念願叶ったフィーネ。3回目。ロイド。
4回目。プレマーレ。5回目。レイル。
6回目。クワン&グーニャペア。
7回目以降が出た場合。ソプランペア以外で集団暴行。
今宵もフィーネと抱き合いながら眠る。
「ねえスタン…。私怖いの」
「大丈夫。手順さえ間違えなければ。原本と出会うまでの辛抱さ」
「うん…」
--------------
スフィンスラー19層。
プレマーレの再現で現われた機体。
黄金色を期待していたが不正解。全身艶やかな黄色肌。
艶出し蒲公英花のような色合。
頭頂部には立派な巻き角。そこだけベージュ。
尻尾を除き体長は推定30m級。
『復活出来たと思えば土の中。本に窮く』
女の子寄りのハスキーボイス。
最後まで拝聴せず。カタリデを背中から抜き放ち飛翔。
剣身を延長して首元を斬り付けた。
『な、何をする!』
「失望だ。目の前の敵に斬ってくれと隙を見せるとは」
『貴様は勇者…。それに吸血姫まで。なん』
更にクロスを首に刻んだ。
『ギャァァァ』
「安心しろ。お前は再生能力に長けた全属性持ちの上位竜だ。これ程度では死なん」
「私貴方が魔王に見えるんだけど気の所為?」
「気の所為さ」
20m後方宙空で待機。再生を待つ。
立ち所に傷は塞がり。
『面白いじゃない。やって』
輝く閃光を伴う空刃で斬撃。
『イギャァァァ』
「隙を作るなと言っている!これでは何の練習にも成らんではないか!!」
「あーあ…」
回復を待つ。
『…』
全翼解放に加え甲高い咆哮。直後俺の周囲に全属性の竜巻が発生。
「カタリデとロープ以外。まだ普通の服なのに…。あぁインナーは違うな。
だがしかし。お前の全力はこんな微風が限界なのか!」
竜巻は太く。乱気流と共に内部プラズマが発生。
「やれば出来るじゃないか」
視界は頗る悪いが索敵で相手の位置は丸見え。
子天竜は地表からも熱を吸収。やがて全身火達磨の火竜へと変化。黄色のブレスを吐きながら俺の方に突っ込んで来た。
「単細胞が!!」
紅蓮の炎とプラズマを纏う子天竜。擦れ違い際に噛み破ろうとした大口の端から首元まで裁断。
風には乗らず自力飛翔で背中に飛び乗り胸まで串刺し。
デカい焼き鳥だなこれ。
霊廟で左グローブを作り出しカタリデの剣刃に添えて横に押し斬った。胴と片翼もご一緒に。
『グゴァァァ』
ガラ空きの背中側から細分化。仕上げに前面へ回り込み首元を切り離した。
竜巻は消え去り。元の黄肌バラバラ子天竜が地に落ちる。
寝た振りを決め込む子天竜の角をブーツの踵で踏み躙り。
「起きろ!死んだ振りで誤魔化すな!!」
「怖いわぁ」
再生が始まった所で次のフィーネとハイタッチで交代。
入口の観客席に並んで座り。抜き身のカタリデを空き隣へ置いた。
「御免ソプラン。単なる雑魚やった。黒竜様の飛竜の方が断然上」
「お…おぉ。まあまあだった。一瞬子天竜に同情したが」
こちらを見詰めるレイルに。
「どうだった?合格不合格?本気の2割位だったけど」
「ご…合格じゃ。敵に回る選択肢は止めにしてやろう」
「そうして。大好きな人は出来るだけ斬りたくないから」
「む、むぅ…」
フィーネはポセラ槍を装備。竜巻に対抗し水柱で応戦。
念願の空中戦を満喫。
ロイドは銀翼展開で封じ込め。ファフレイスさんから預かった破邪剣・破波で細切れ。
プレマーレは新生カットランスと雷棍棒で肉塊串揚げ。
レイルはボナーヘルトと憤怒刀で全身の皮を剥ぎ丸裸。
クワン&グーニャは蔦鞭で各部位を引き千切り。止めはソラリマクワンが角を砕いた。
全く再生が始まらなくなった角の周りに集結。
『ま…待って…。私も…その腕の中に…』
どっから喋っているのか不明だが。右腕からルーナを呼び出し。
「こんな事言ってるけど?」
「駄目だ。此奴らは姑息。腕に入って中から食い潰す積もりらしい。そんな事は出来はしないし。こいつは最上位でもない只の下っ端。入れるには値しない。
何より西の最上に位置を把握されて鬱陶しい」
「だってさ。安らかに眠れ。次は竜種以外でな」
『くぅ…』
金角で砕けた天竜角に触れると。そこに残った物は角以外の表皮の一部のみ。
「肉とか魔石とか期待したんだけど」
「戦利品も塩っぱいねぇ」
ルーナが。
「我の血肉で充分だ。此奴らの血肉は心を蝕み。且つとても臭いと聞く。人間の身体には合わぬ」
「ルーナごめん」
「欲張っちゃ駄目ね」
後方のソプラン。
「なあプレマーレ嬢」
「何かしら」
「上の未閉層で復元出来ねえか?俺らも上がった状態を試したいんだが」
「出来れば」
「ここでは切っ掛けを与えただけだからもう一回は余裕ね」
「スターレン。宝石ゴーレムも気になるが。十一層の雷関連品確保しといてもいいんじゃね?」
「名案。この人数なら残り一気に出せるかも。研磨器とか自分でも持ちたいし」
「処分品上で溶かしながら休憩して行ってみよー」
処分品3点はレイルも玩具じゃと投げ捨てたので遠慮無く18層で燃やし溶かした。
それとは別に。サインジョが持ち帰った破砕魔剣を地面に置いて検分。
「ん~。このままでは鞘以外刃に触れた物全てを破壊して使い難いのぉ。効果は魅力的なんじゃが…。
ソプラン。大地の呼び声を見せよ」
「マジかよ姐さん。これ俺の主力武器だぞ。気に入ってたのに」
「見比べるだけじゃて。早うせい」
「わーったよ。ほい」
鞘毎手渡し。その鞘から引き抜き2つを並べた。
「系統は同じ。効果は逆…。合成すると相殺で消えるかも知れんのぉ。スターレン。呼び声が出た迷宮は」
「今は難しいと思うよ。あそこ町からも近いし。スターレン隊が入った迷宮全部大フィーバー。表札迷宮も含めて」
「むぅ。これは暫くお預けじゃな。大事に取って置け」
「ほーい」
呼び声はソプランに返却。破砕魔剣は俺のバッグへ。
超余裕の11層。それぞれ思い思いの戦法で。
ソプランたちも大型魔物を見ても平然とした対応。
カタリデの効果は精神面も強化してくれるらしい。
欲しいと思ってた物品も複数大量に出たのでもう次はいいかなと。
スフィンスラー迷宮残りチャレンジ回数。
1~4層…3回
5層…2回
6層…✕
7~9層…2回
10層…✕
11層…1回?
12~14層…✕
15~16層…2回
17層…1回
18~19層…✕
最下層…推定1回
受け取った中央大陸の号外書を両手で握り潰して床へと投げ付け座っていた椅子を蹴り上げた。
かはさて置き。
俺たちの自宅が在る王都パージェントも当然沸きに沸き。
数日間お外へは出られぬ状態に。
気になるスターレン専属共有部門は。
ロロシュ邸とカメノス邸との間の中街道を1本丸々ぶっ潰して。もういっそ両邸を共有部門で繋げてしまえと。
オリオンに関わる人員以外の全てを集結させ。奴隷層の人員も借り出し急ピッチで建造が進められた。
5月の時点で既に地下から1階部分の土台が出来つつ。
4区のド真ん中が封鎖され関係者以外は通れぬ道へ。
ロロシュ邸の自宅側から双眼鏡で工事の様子を眺め。
「シュルツ…早過ぎじゃ」
「何を仰いますかお兄様。もう勇者誕生の号外は世界へ回っているのです。
オリオン事業を止めてでも一日でも早くお建てしなくては間に合いません」
「そ、そうっすか…」
「シュルツに任せるしかないよ。私たち動けないんだから」
「はいお姉様。その通りにて。
必ず立派な事務棟と集合宿舎と訓練設備を」
「増えてない?」
「増えてるね」
「まだまだ増えます。
地下にはお二人関係者専用と一般訓練用温水プ-ル。
事務棟屋上には広々転移ポイント。
表端には大型弩弓三基。
中間域には両邸と事務棟を繋ぐ渡り橋等々。
ピーカー君には負けられません!」
「「そっちか」」
シュルツがライバル心を滾らせるその相手。ピーカー君はレイルの影の中で新築入替え物件を構築中。
必要資材はポム工房からのお裾分けと無断でペカトーレ北部の樹海でゲット。序でに茸狩りも。
見付かったらマホロバに謝ろう。
転移要員の変装アローマが付き添い。
レイル、メリリー、プレマーレが居るマッサラの自宅へ出張中で不在。パシリ担当の変装ソプランがその他物品を王都やマッサラで爆買い中。
変装ロイドは図書館閲覧層で何か無いかと物色中。
「じゃあそろそろ城に」
「そうね。いい加減待たせるのもあれだし」
「私も行きます!どうして私にはお見せして下さらないのですか!」
「だってシュルツ」
「直ぐ触ろうとするじゃない」
俺のバッグの中から。
「駄目よシュルツちゃん。後2年と2ヶ月の辛抱よ。何度言えば解ってくれるの」
「解りたく有りません!私だけが触れられないなんて!」
帰宅直後から見せて見せてとお強請り。
消滅の危険が有ると何度説明してもこの通り。
好奇心爆発娘は17歳の誕生月が過ぎるのを待ち切れないとご立腹。
「解った。絶対に、触るなよ」
「見るだけよ」
とフィーネが背中からそっと羽交い締め。
「ぐぬぬぬ。工事の監督をしなくてならないので…。見るだけで我慢します。
お姉様。もっとしっかり抱いて下さい」
「うん。ちゃんと抱いてるから」
全く別の…。まあいいや。
2人から充分に距離を取り。カタリデを床に置いた。
「ふぐっ」
「ちょっとシュルツ暴れないで」
「完全に引き寄せられてるわね」
「落ち着くんだシュルツ。これを乗り越えないと二度と出さないからな」
「ふー、ふー…。…うぐっ…ううっ…うわーん」
遂には大声で泣き出した。
「おーヨシヨシ」
シュルツをクルリと反転させ胸に収めた。
「久々の泣き虫さんだねぇ」
「うぐぅ」
「駄目だこりゃ」
「こればっかしはどうにも…」
「しゃーない。定期的に見せて訓練しよう。取り敢えずフィーネはシュルツを頼む。
俺はゼファーさんかフギンさん借りて城行って来るから」
「もーシュルツったら。御免ねスタン。そっちお願い」
背中にカタリデを張り付けお城へ出陣。
擦れ違う警備や侍女も振り返りカーネギまで寄って来た。
「それが、聖剣…」
「そそ」
「初めまして」
「初め、まして。カーネギ、と申します」
一礼じゃなくて土下座で挨拶。
「そこまでせんでも」
「まー大変」
「いや、俺、む、無理」
感涙するカーネギ。それは周囲にも伝染し。近くの邸内従事者たちも次々に膝を着く。
「止めろ!カーネギがそんな事するから勘違いしちゃったじゃん。立て。頼むから立って」
「可笑しいわねぇ。こんな反応は初めてよ」
「マジっすか」
「マジよ。先代の塵を除いて今の貴方同じ程度のカリスマ持ってた勇者は何人か居たの。私もそれに引っ張られるんだけど見ただけで感動して泣く人は初めて」
「カーネギってそんな涙脆かった?」
「じ、自分でも。解らん」
城に行くのも大変だ。
カーネギを強制的に立たせて本棟側へ。
玄関前でゼファーを呼び出し。ただけなのに。打ち合わせ中だったロロシュ氏とカメノス氏も表に登場。
「ほぉ~それが」
「生きてる間に本物が見られるとは」
「初めまして」
「「お初に!」」
俺とカタリデに改めて集いし一同が一礼。
「触っちゃ駄目ですよ。シュルツが触れなくてさっき悔し泣きしてたんで」
「む、むぅ。後二年の辛抱か」
「死ぬ訳には行きませんな。卿よ」
ゼファーが歩み寄り。
「勇者様と聖剣様のお供に預かれるなど光栄の極み。
お背中後方の雑事はお任せを。寄り付く者は例え王でも蹴り倒します故」
「下手すると死刑だからそれは止めよ。じゃあ行こうか」
「参りましょう」
この組み合わせも久し振りだねなどと話しながら地下道を潜った。
城側へ出た途端。昇降口を守護する衛兵隊が。
「ス、スターレン様がお越しだ!
伝令兵!全力で王宮へ走れ!!」
「ハッ!」
「どうした。今までそんな反応じゃなかっただろ」
名前は知らないが顔は良く知ってる。
「緊張しているのです。ここの皆も城内も。上からの噂では王陛下も勇者様を下に使って良い物か、と悩み始めたとか」
「えー。事前会議と全然違うじゃん。立場は変わらずちょっと肩書きが増えただけさ。どれ位待てば良い?」
「どうでしょう。王宮広間に集結中でしょうから三十分程ではないかと。それまでそちらの待機所でお待ちを」
「しゃーないなぁ」
「大変ねぇ」
他人事みたいに…。
待機所まで歩く時も。後ろのゼファーが。
「勇者様の後ろに回り込むとは何事か!」
と武装した兵員を蹴り転がしていた。
皆聖剣を一目見ようと必死。
「カタリデ。面倒だから真上に浮いて」
「しゃーなしね」
背中から離れて俺の頭上に移動。
待機所横のベンチに腰掛けゼファーの様子を…。
「腑抜け共めが!仮にも勇者様へ繋がる通用口を守る兵隊風情!その鎧と帯剣と槍は玩具か飾りか!
新兵から鍛え直せ!!」
無武装で結局10人の兵員を地面に転がしていた。
「も、申し訳無い…です」
脇隣へ立つゼファーに拍手。
「見事。面倒を掛けた」
「何の。若い者は直ぐに武装に頼る。情け無い」
「み、耳が痛いっす…」
「人間は身も心も脆弱。過ぎたる力は自身と周囲も怠惰に変えてしまう。カタリデ様の御前で恐縮ですが。
老害の戯れ言だとお受け取りを」
一糸乱れぬ振舞いと礼。
「胸に刻みます」
何故か俺までお説教されてしまった。有り難や。
「私が出る幕は無さそうね」
「装備云々よりも生身と精神鍛錬するさ。まだ招待状が揃うまで時間有るし」
「名案だと思うわ」
帰ったらトレーニングと瞑想しよ。兎角俺は心が弱い。
王宮側の兵から呼ばれて王宮広間へ。
城内の主要人物たちが顔を並べる。
膝を折ろうとしたヘルメンちに対し。
「一国の王が部下を前に膝を着くのは許されません」
「はい」
陛下1人が立ち直した。
「私はカタリデ。聖剣の役割を担う物。意思は持てども人為らざる一振りの武具。
勇者と共に歩み、邪を穿つ物なのです。そこには上位も下位も存在はしません。
それ故に東大陸には国を建てませんでした。
これからスターレン宛に多くの招待状が届くでしょう。
今注目しているのは南東ですが他からも続々と。
その全てにスターレンと私が目を通します。敵に繋がる情報が隠れているやも知れません。
戯れ言などと決め付けず。自己の判断で破り、燃やさぬよう為さいませ」
「肝に銘じて!」
カタリデが俺の頭上から降り。集まった者の回りを一周。
「メルシャン姫」
「はい」
「芽吹きが見えます。でも弱い。このままでは流れる危険を感じます。過度に走らず。ゆっくりとした散歩と。
地下プールでの緩やかな遊泳を楽しみつつ。健やかな心身を保ちなさい」
「はい!そのお言葉、有り難く」
「ダリア姫。私の前へ」
「はい」
列から離れカタリデの前へ。
「その力の行使を禁じます。その予言に因りスターレンらの取るべき行動が悪い方へと擦り替わる可能性が有るからです。
私とスターレンらを信じ。その扇を手放しても良いよう瞑想を繰り返し。無心の境地を掴みなさい。貴女はそれが出来る強い人間です」
「はい!」
「フィーネが伝えたように。夢は所詮夢。不安に駆られたらメルシャン姫やミラン妃に打ち明け為さい。
悪夢は弱心が見せる幻だと捉え。扇を抱いて心静かに眠ると良いでしょう」
「有り難う御座います!」
「ヘルメン王」
「ハッ!」
「ご夫婦の仲が良いのは結構では有りますが。長時間の事務仕事で腰を痛める兆候が見られます。
適度な休憩と柔軟体操と運動。お酢を使った料理。カメノス医院の医師との相談など。酷く成る前にその腹回りの贅肉を削ぎなさい」
「はい…。酢は好みではないですが…努力致します」
ミラン様もお顔が真っ赤。
「その他の方々も。眼精疲労を溜めぬよう気を付け。充分な睡眠でこれから押し寄せるスターレン隊への入隊希望者たちに備え。篩いに掛け為さい。
今の所。現存する身近な数名と東大陸の数隊。それを除き西大陸への最終遠征に連れて行ける人材は居ません。
ここに居るアーネセルとギーク。ロロシュ邸のゼファー。
城下町の酒場のデニス。ハイネに居るタツリケ隊を借り出し。ここの訓練場で手合わせをさせると良いでしょう。
恐らく大半がゼファー1人に敗れます。足手纏いだから帰れと切り。代わりの商業仕事や他国への斡旋を促すのが最良かと思います。
これが全てではないですが一案として頼みます」
「ハッ!!」
あれ?
「俺喋る事無くない?」
「貴方は喋ってる途中で調子に乗り出すでしょ。東でも見てたし。フィーネからも聞いてます。
自己紹介だけで充分よ」
然様で御座るか…。
「改めまして勇者と言う大変大きな看板を持ち帰りましたスターレンです。フィーネはとある事情で泣いてしまったシュルツを慰めているのでここには居ません。
将来看板を下ろせても暫く混乱は続くと思われます。
これからも変わらぬご指導とご鞭撻の程宜しくお願い致します。
そして陛下」
「何だ」
「宝物殿の特に危険な代物3点を取り去り我々が処分したいと考えます。
例え正常化出来ても返還する気は有りません。ご了解を頂けるのでしたらご案内をお願い致します」
「三個か…。どうせ使わぬ塵同然。好きに使うと良い。
この後連れて行く」
後宮を抜け宝物殿へ。
ヘルメンちの後ろへ回って肩を揉み揉み。
「気安く触るでない!」
「えー。いいんですかぁ。勇者に肩を揉まれる王様なんて聞いた事無いのにぃ。貴重ですよ?」
「い、言われてみるとそうだな。苦しゅうないぞ。
それより気になる三点とは何だ」
「鑑定する迄も無く。カタリデが接近したら多分微妙に動きます。それが以前の鑑定で気になっていた危険物と重なると思います」
「成程…。聖剣様なら真実を見極められるか」
「その通り。私は聖属性の塊ですから」
1層では支配の王錫。
地下層では死滅の弓、苦渋の槌が微妙にカタリデを拒絶した。
「やっぱこれだったか」
「死滅の弓は一見無敵に見えるけど10発限定。最後の10射目で射撃者の一番大切な人を石に変え。自身も共に絶命する心中弓。
苦渋の槌は百叩きに1回ランダムで。防御を無視して味方の頭を叩き潰す。
王錫はスターレンの鑑定で合ってる。
良くこんな下手物が隠れていたものね。正直ドン引き」
「ス、スターレン。遠慮無く持って行け」
「処分処分」
厳重に布に包んで後日スフィンスラーで溶かします。
気になるのはハイネのフレットの地下に埋葬された物だが今のこの状況だと行けるかは微妙。
--------------
それでもやっぱり気になり2日後にコマネ氏にご相談。
自分たち夫婦とシュルツの瞑想トレーニングを終え。変装してお出掛け。
レイルの自宅リフォームの入替えも終えた頃。
夫婦2人。コマネ邸の門番の目の前で変装スカーフを外すのは面倒臭かった。
「し、失礼ながら。既に腰帯のバッグでもろバレなのですが…」
「「あ!」」
もうバッグだけはどうしようも無い。
「今度からちゃんと隠すよ」
「総代様は在宅かしら」
「はい。ジェシカ様のお子様がお生まれになったので。それはそれは溺愛のご様子。どうぞ中へ」
「おぉ生まれたんだ」
「良かった良かった。ちょっと帰りに挨拶しよう」
会った早々満面の笑みのコマネ氏へ。
「ご出産御目出度う御座います」
「御目出度う御座います」
「有り難うと素直に。頑張ったのはジェシカだが。まさか私にこんな日が来るとは。
そして勇者御目出度うスターレン君。南東に何度も行っている時点で気付いてはいたがな」
「バレてますよねぇそりゃ」
「証見せてないのにね」
「今日は何用だ。娘の顔を見に来たと言う訳でも無さそうだが」
「実は…」
フレットの店の地下に埋葬した破壊不能品が欲しいとストレートに。
「紹介した時点で君たちに渡そうと決めていた。こんなにも早いとは思わなかったがね。
明日手前まで掘り起こさせる。明後日の午前に店を訪ねてくれ。ちゃんとバッグも隠せよ」
「「はい…」」
「ウィンザートの案件も各地の樹脂板案件も順調だ。追加の材料も受け取ったし。元々国内で採れる代用品でも充二分に間に合う。
早ければ来年の春水族館が出来る」
「「おぉ!」」
「と考えていたが。君たちの共有部門建設案件でこちらからも人員と資材を出した為。多分来年末に間に合うかどうかになった」
「「おぉ…」」
「まあ焦る事は無い。焦らないといけないのは圧倒的に共有部門だ。それ以外は気長に待っていてくれ」
「「はい…」」
「クワンジアのソーヤンとオシオイスは無事に!揃って痴呆症を発症し。半寝た切りで意識混濁。あれなら誰が近付いても使い物に成らん。
自分を差し置き、恐ろしい事をするな君たちは」
「何の事でしょうねぇ」
「思い当たる節が全く…」
コマネ氏は細く笑い。
「裏で協力出来るのもこれまで。後は塵拾いをして何か見付かれば連絡を。今度は表で正々堂々協力する。
そして南東でローレライの他に誰か忘れていないか?」
「あ!」
「マタドルさん!」
「何かの足しには成るだろう。遠征の途中で米でも買う振りをして会ってみてくれ。土産はここの地酒でも」
「行きます」
「是非とも」
肝心な人物をド忘れしてた。
3人でジェシカ母子を訪ねお祝いと抱っこ。話を聞くと何と同時期にパメラも無事に男の子を出産したと。
今度はバッグを隠してお忍びでデニス氏の店へ。
ちょっと変わった位ではデニス氏に直ぐに見抜かれ1杯奢ったり。パメラ母子ともご対面を果たした。
両家母子共に健康。心の底から嬉しいニュース。
--------------
自宅へ戻り夕食を兼ねてレイルとスターレン隊をマッサラから招集。
食後に。
「リフォームした自宅でお風呂を楽しみたいレイルさんに少し真面目な質問をしたいんですが。まだ大丈夫?」
「良い。何じゃ」
上機嫌な内に。
「俺がカタリデを抜いた事で。西の魔王様も本来の力を取り戻した」
レイル以外全員絶句。
「気付いておったか」
「気付かない方が可笑しいよ」
「ごめん。私気付かなかった」
「違う。言葉間違えた。勇者の直感で。
レイルがまだ何も言わないって事はまだ時期じゃないと思うけど。魔王様は魔王城地下迷宮に納められた魔王専用武装を取り出せなくてイライラ最高潮だと思う」
「え…。ちょっとスタン。待ってよ。フウも何で何も言わないのよ」
「私。外道から離れたくて最後の方見てないの」
「相変わらず良い勘をしておるのぉ。正解じゃ。それで」
「南東大陸に届けられる筈だった魔王城迷宮のメダル鍵を俺が保持したまま。
シトルリン原本は世界樹と一緒にメダル鍵も探してる。メダルに関しては見当違いの場所を。
このままだと魔王様は拳1つと魔法と配下だけで南部に居る複製シトルリンを叩きに向かってしまう。
敵に操られた演技を続けているレイルの娘。アモンさんを救出する為に」
「……」
「本に恐ろしい男じゃのぉお主は。何故そこまで読めるのじゃ。西にも部分的に一度入っただけなのに」
「今はまだ誰にも内緒。フィーネにもロイドにもカタリデにも女神様にもこれだけは言えない。誰かに話せば今の俺が抹消されるから」
「訳解らない事言わないでよ」
「時が来たら必ず説明する。それまで信じて待ってて。
レイルに聞きたいのは魔王城のメダルを渡す時期。俺としては今直ぐ渡したい。
シトルリン原本を見付けた後だと手遅れに成りそうで」
レイルは腕組みして考え込んだ。そして腕を解き。
「今でも良いが…。一番厄介な相手を残す事に成るのじゃぞ」
「それでも俺は遣りたい。最後は正々堂々真っ向勝負で全部の決着を着けたい。
そうしなければ。魔族と人間が共存する世界は来ないと考えてる」
深い溜息1つ。
「馬鹿な男じゃ。遣り方を変えれば倒し易い因子持ちを残せるのにのぉ」
「馬鹿で御免。このままだと…。因子を半分持ったレイルと戦わなきゃいけなくなるから。それだけは絶対に嫌だ」
「え…何で?」
レイルはテーブルを叩いて立ち上がった。
「お主は誰から助言を受けておるのじゃ!」
「今はまだ言えない!」
「何時なら言える」
「シトルリン原本と俺が対面した時に。あいつに伝えなきゃいけない事が山程有るからその場で必ず」
椅子に座り直したレイル。
「…必ずじゃぞ」
「この約束だけは違えない。原本が俺とレイルを見て逃げ出さなければ必ずその場面が出る」
「逃さぬように抑え込めば良いのじゃな」
「そう。だからレイルにも南東遠征に参加して欲しい。配下の商人として」
「それも良いが。ここが空に成るぞよ」
「大丈夫。原本は一度。勇者に成ったばかりの俺を全力で叩きに来る。それも南東で。
今潰さないといけないのはレイルよりもこの俺。
あいつが把握してるのは精々カタリデとソラリマと黒竜様の盾と白ロープ。それと勇者装備。霊廟武装や他のメンバー装備は掴み切れてない。
今を逃せば俺に勝てないと勘違いしてる。その時捕まえられるチャンスは訪れる」
「ふぅ…。楽しみに取って置くかえ。してメダルをどう送るのじゃ」
ベルさんが残してくれた小箱を取出し。
「ベルさんが役に立つよと態々教えてくれたこの箱に!」
「メダルを?」
「そうなんですフィーネさん。この箱が使えるとご教授頂いた時から決めてました。
多分これは魔王様も知っている箱。
若しくはメダルが元々入ってたんじゃないかなぁと!」
「何と!」
「明日皆さんでスフィンスラー19層でお休み中の子天竜を寄って集ってリンチした上で!」
「我が夫ながら何ともエグい!」
「その姿を覚えたクワンさんに」
「クワンティに?」
「ソラリマ装備の超特急便で!天竜の親玉に見付からないように。そーっと魔王城真東から玉座ぽい所へ直送して頂きたいなと考えます!」
「まあ…それしか無いよね」
「クワッ!」
「ハイニャ!」
「お散歩せずに真っ直ぐ転移で帰って来ておくれ」
「寄り道しちゃ駄目よ」
「ク…」
「ハイって言って」
「クワッ!」
「ハイニャ!」
「ご挨拶のお手紙を添えまして。訳の解らない邪神教団から取り返しました。まだ戦う気は無いので。数年後に1回だけ西部方面に抜けさせて下さい。勇者よりとお願いをしようと思います。
如何でしょうかレイルさん」
「よ…良かろう。彼奴も文章は読めるしの」
「安心した。で今にもブチ切れそうなソプラン。何か言いたいならどうぞ」
「勇者じゃなければ殴りてえよ。原本と対面する場面が見えてるなら。
とっくに正体にも気付いてたんじゃねえのかよ!」
「残念だけど対峙する相手は真っ黒い影で何も見えてないんだ。現在の情報が足りてなくて。
見えてる場面状況は3つ。
1つは大きな建物の中。相手は誰かを人質に取ってる。
そこにはレイルが居ない。でもアローマが血塗れで床に倒れている。
1つは深い森の中。また相手は誰かを人質に取ってる。
そこにもレイルは居ない。アローマは無事。代わりにプレマーレが相手側の隣に居る。
最後の1つも森の中。同じく誰かを人質に取ってる。
それだけレイルが居て。全員がこちら側で無事」
「チッ。姐さんが居る最後を残したかった訳だ。丸っきり予知じゃねえか!」
「似てるけど違う。これは予測線上の出来事。だから分岐してる。西大陸の予測も含めて」
「あーもー付き合い切れねえ。もういい!明日アローマと観戦してやるから。無様な戦いすんじゃねえぞ」
「了解。子天竜は合計4回以上復活する。
1回目は俺がソロ。2回目以降は誰でもいい。勿論空中戦が出来ないソプランたちは除いてね」
「ああ解った」
「入口付近で反射盾を構えます」
「私…2か」
「妾じゃ」
「レイルは小型黒竜様と戦ったばかりじゃない。私1回も飛んでる竜と戦ってないんだから譲ってよ。どうせ復活毎に弱体化するんでしょ?」
ロイドも。
「困りましたね。今無性に敵を八つ裂きにしたい気分なのですが」
プレマーレも。
「私もですよ!何なんですか二番目の選択肢は」
「クワ?」
「我輩たちの出番は無いのかニャ?」
カタリデが。
「怖いわぁこの小隊。普通の人間要らないわね。2回目以降はくじ引きで」
「聖剣様の意見に賛成だ。二つの意味で」
「同意します。これでは何も決まりません」
「むぅ…」
仲良くくじ引き。
2回目。念願叶ったフィーネ。3回目。ロイド。
4回目。プレマーレ。5回目。レイル。
6回目。クワン&グーニャペア。
7回目以降が出た場合。ソプランペア以外で集団暴行。
今宵もフィーネと抱き合いながら眠る。
「ねえスタン…。私怖いの」
「大丈夫。手順さえ間違えなければ。原本と出会うまでの辛抱さ」
「うん…」
--------------
スフィンスラー19層。
プレマーレの再現で現われた機体。
黄金色を期待していたが不正解。全身艶やかな黄色肌。
艶出し蒲公英花のような色合。
頭頂部には立派な巻き角。そこだけベージュ。
尻尾を除き体長は推定30m級。
『復活出来たと思えば土の中。本に窮く』
女の子寄りのハスキーボイス。
最後まで拝聴せず。カタリデを背中から抜き放ち飛翔。
剣身を延長して首元を斬り付けた。
『な、何をする!』
「失望だ。目の前の敵に斬ってくれと隙を見せるとは」
『貴様は勇者…。それに吸血姫まで。なん』
更にクロスを首に刻んだ。
『ギャァァァ』
「安心しろ。お前は再生能力に長けた全属性持ちの上位竜だ。これ程度では死なん」
「私貴方が魔王に見えるんだけど気の所為?」
「気の所為さ」
20m後方宙空で待機。再生を待つ。
立ち所に傷は塞がり。
『面白いじゃない。やって』
輝く閃光を伴う空刃で斬撃。
『イギャァァァ』
「隙を作るなと言っている!これでは何の練習にも成らんではないか!!」
「あーあ…」
回復を待つ。
『…』
全翼解放に加え甲高い咆哮。直後俺の周囲に全属性の竜巻が発生。
「カタリデとロープ以外。まだ普通の服なのに…。あぁインナーは違うな。
だがしかし。お前の全力はこんな微風が限界なのか!」
竜巻は太く。乱気流と共に内部プラズマが発生。
「やれば出来るじゃないか」
視界は頗る悪いが索敵で相手の位置は丸見え。
子天竜は地表からも熱を吸収。やがて全身火達磨の火竜へと変化。黄色のブレスを吐きながら俺の方に突っ込んで来た。
「単細胞が!!」
紅蓮の炎とプラズマを纏う子天竜。擦れ違い際に噛み破ろうとした大口の端から首元まで裁断。
風には乗らず自力飛翔で背中に飛び乗り胸まで串刺し。
デカい焼き鳥だなこれ。
霊廟で左グローブを作り出しカタリデの剣刃に添えて横に押し斬った。胴と片翼もご一緒に。
『グゴァァァ』
ガラ空きの背中側から細分化。仕上げに前面へ回り込み首元を切り離した。
竜巻は消え去り。元の黄肌バラバラ子天竜が地に落ちる。
寝た振りを決め込む子天竜の角をブーツの踵で踏み躙り。
「起きろ!死んだ振りで誤魔化すな!!」
「怖いわぁ」
再生が始まった所で次のフィーネとハイタッチで交代。
入口の観客席に並んで座り。抜き身のカタリデを空き隣へ置いた。
「御免ソプラン。単なる雑魚やった。黒竜様の飛竜の方が断然上」
「お…おぉ。まあまあだった。一瞬子天竜に同情したが」
こちらを見詰めるレイルに。
「どうだった?合格不合格?本気の2割位だったけど」
「ご…合格じゃ。敵に回る選択肢は止めにしてやろう」
「そうして。大好きな人は出来るだけ斬りたくないから」
「む、むぅ…」
フィーネはポセラ槍を装備。竜巻に対抗し水柱で応戦。
念願の空中戦を満喫。
ロイドは銀翼展開で封じ込め。ファフレイスさんから預かった破邪剣・破波で細切れ。
プレマーレは新生カットランスと雷棍棒で肉塊串揚げ。
レイルはボナーヘルトと憤怒刀で全身の皮を剥ぎ丸裸。
クワン&グーニャは蔦鞭で各部位を引き千切り。止めはソラリマクワンが角を砕いた。
全く再生が始まらなくなった角の周りに集結。
『ま…待って…。私も…その腕の中に…』
どっから喋っているのか不明だが。右腕からルーナを呼び出し。
「こんな事言ってるけど?」
「駄目だ。此奴らは姑息。腕に入って中から食い潰す積もりらしい。そんな事は出来はしないし。こいつは最上位でもない只の下っ端。入れるには値しない。
何より西の最上に位置を把握されて鬱陶しい」
「だってさ。安らかに眠れ。次は竜種以外でな」
『くぅ…』
金角で砕けた天竜角に触れると。そこに残った物は角以外の表皮の一部のみ。
「肉とか魔石とか期待したんだけど」
「戦利品も塩っぱいねぇ」
ルーナが。
「我の血肉で充分だ。此奴らの血肉は心を蝕み。且つとても臭いと聞く。人間の身体には合わぬ」
「ルーナごめん」
「欲張っちゃ駄目ね」
後方のソプラン。
「なあプレマーレ嬢」
「何かしら」
「上の未閉層で復元出来ねえか?俺らも上がった状態を試したいんだが」
「出来れば」
「ここでは切っ掛けを与えただけだからもう一回は余裕ね」
「スターレン。宝石ゴーレムも気になるが。十一層の雷関連品確保しといてもいいんじゃね?」
「名案。この人数なら残り一気に出せるかも。研磨器とか自分でも持ちたいし」
「処分品上で溶かしながら休憩して行ってみよー」
処分品3点はレイルも玩具じゃと投げ捨てたので遠慮無く18層で燃やし溶かした。
それとは別に。サインジョが持ち帰った破砕魔剣を地面に置いて検分。
「ん~。このままでは鞘以外刃に触れた物全てを破壊して使い難いのぉ。効果は魅力的なんじゃが…。
ソプラン。大地の呼び声を見せよ」
「マジかよ姐さん。これ俺の主力武器だぞ。気に入ってたのに」
「見比べるだけじゃて。早うせい」
「わーったよ。ほい」
鞘毎手渡し。その鞘から引き抜き2つを並べた。
「系統は同じ。効果は逆…。合成すると相殺で消えるかも知れんのぉ。スターレン。呼び声が出た迷宮は」
「今は難しいと思うよ。あそこ町からも近いし。スターレン隊が入った迷宮全部大フィーバー。表札迷宮も含めて」
「むぅ。これは暫くお預けじゃな。大事に取って置け」
「ほーい」
呼び声はソプランに返却。破砕魔剣は俺のバッグへ。
超余裕の11層。それぞれ思い思いの戦法で。
ソプランたちも大型魔物を見ても平然とした対応。
カタリデの効果は精神面も強化してくれるらしい。
欲しいと思ってた物品も複数大量に出たのでもう次はいいかなと。
スフィンスラー迷宮残りチャレンジ回数。
1~4層…3回
5層…2回
6層…✕
7~9層…2回
10層…✕
11層…1回?
12~14層…✕
15~16層…2回
17層…1回
18~19層…✕
最下層…推定1回
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