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第234話 東大陸本格遠征
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お隣から最新薬を頂いての最終打ち合わせ。
黒竜様へのご挨拶は時間が掛かるので来年以降。
全員グレー皮上下に各自好きな上着。
ベストのみでも防寒は北大陸極寒仕様。その上俺とフィーネは獄炎コート。
ちょいと気になった事。
「アローマのブラウスは」
「カフス釦は小袋に。本体は予備の保存袋に入れ姉に預けました。必ず無事に帰ると約束をして」
「大丈夫。ブーツだけでも逃げ回れるし。もしもの時は俺とフィーネとロイドで守る」
「西大陸と竜の谷以外で押し負ける要素は無いわ。
私たちが前衛。カルとプレマーレが中衛。クワンティーとグーニャは遊撃。ソプランとアローマは後衛支援。要するに前は気にせず後ろに注意を払って」
「承知しました。従者としては心苦しいですが」
「ああ。こっから先は別次元だからな。背伸びしたって命は無い。人間冒険者は手堅く賢く冒険をするもんさ」
深いっすねぇ。
「ロイドとプレマーレの服は背中に隙間空いてるけど。プレマーレは全身変身すると破けない?」
「羞恥が甦ったので全裸には成りません。レイルダール様の手心を頂き滑らかな鱗に。尻尾は不要です」
「それは残念無念」
フィーネに頬を抓られた。
「茶化さないの」
「すんません」
薬類を均等に分配。フィーネが持っていたゴルスラ君の秘薬はロイドへ移行。クワンは継続所持。
「秘薬は小分けして配布したい所だけど。多分瓶を変えるとメインの魔力回復効果を失う。勿体ないから各員の装備で遣り繰り。プレマーレが使わないといけない場面は無いと思ってる」
「私の広域魔法は特殊ですから。一部を復活させて同士討ちとかをしない限り枯渇はしません」
「反射盾はロイド持ち。最宮ではアローマで」
異論は無し。
「ピーカー君は秘密兵器であり守護対象。最宮の迷宮主戦でも実戦投入はさせない予定。フィーネの戦闘中に弱点とか見えたら教えて」
指定席のフィーネのバッグから顔を出し。
「はい!」と元気に答えた。
「他何かご意見は」
後席のシュルツが挙手。
「私がお預かりした城塞はお持ちにならなくて本当に」
「良いよそのままで。その積もりで作ったし。レイルが留守番してるここに攻め込む馬鹿は居ないと思うけど。真性の馬鹿は何するか解らないから」
「…解りました」
「では解散。俺たちは城に出陣告知して昼食。各自買い物でもして午後に集合。集まったら出発。以上」
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深夜の東大陸西部に降り町には入らず野営。
時間調整と時差ボケ解消で水分以外1食抜き。
朝日が昇るまで惰眠を貪り、ヤーチェ隊の拠点町マスカレイドに宿を取った。
生憎の不在。どの方面に向かったのと町ギルドで尋ねると最宮方面との回答。
暇だから俺たちよりも先にトライしていると思われる。
マスカレイドから南東に向かうと旧シュライツ城。
その間に死霊系迷宮が点在。普通の馬車でジャスト2日掛かる町から2つ目の中難度迷宮を受注。
手頃な距離感とヤーチェ隊かタツリケ隊位しか好んで行く命知らずは居ねえぜとギルド員から聞いたのが理由。
そのサンタネ迷宮最寄りの誰も居ない野営地に内装を一新したコテージを設営。
(行きはクワン転移で帰りはグーニャで爆走予定)
そろそろ面倒になったのでグーニャをお披露目。どうせマッハリア北部と帝国で使ったのは敵に知られてる。
昔のレイルがプッツンして滅ぼした町の住人や魔物の死霊が多く在席。(本人談)
デッドリーがド山に居てもロイド1人で超余裕。その上プレマーレも居るんだから過剰戦力。
2人とグーニャ(転移係)に任せ。1日以上時間を要するなら全員で突入。
踏破を重ねるとソプランが上級に昇格してしまうが既に俺たち夫婦の専属なので心配無し。
中難度を少人数で3つ以上踏破すると他も自動昇格するらしい。高難度は1発で上級。何方も報告を上げなければ昇級はしないので調整は幾らでも出来る。
うっかり自分たちも上がってしまったらタイラント王家にスターレン隊として席を置く。
今の状態と何も変わりません。
タツリケ隊はロロシュ財団所属に移籍した。東大陸内に拠点を残せば何処に行くのも自由。しかし大陸内上級隊は極稀にギルド本部から指名依頼が発生する。
地上でゴッズが湧いた時。故に滅多に緊急討伐は起こらない。他大陸に遠征中だったら受けられないし。理由が明確であればペナルティーも無し。
聖剣休眠中の最大緊急時には本部が持ってる転移具で迎えが飛ぶ事も有るそうな。
(タツリケ談。特秘に尽き内緒)
公にしないのは邪神教団の所為だと推測。それ以外に隠す理由は無いでしょう。
多分本部が俺に早く来てーと言っているのは転移具持ちを公表している為。
パシリの依頼が来たらガッポリ儲けよう。
あれ?もしかして俺って転移で西大陸へ突入出来るのでは?とお思いの貴方。
「転移出来たとして。魔王城の場所は変わってません。転移で飛び込めば即時開戦。邪神教を潰しに行くのに先に魔王と戦ってどうするのですか。聖剣も無しで」
とロイドさんに馬鹿を見る目で諭された。
「そうっすね…。はい」
何事も手間を惜しんではいけません。順序良く!
シトルリン本体の真の狙いも朧気ながらに見えて来る。
賢い天の皆様ならもうお解りだろう。
聖剣奪取と南東大陸の解放が終わったら…2年位遊んで暮らすのも悪くない。グヘヘッ
西への遠征を催促する人物。
そいつがシトルリン本体だ。
そんなこんなで始まります。ロイドとプレマーレとグーニャのサンタネ迷宮攻略!
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コテージからの出掛けに床に白紙を広げ時計回路の図を引くスターレンに声を掛けられた。
「いってらー。2人は夕食何がいい?」
遊びに行くのではないですが…。
「お魚系の酢漬けでも」
「私はモーランゼアの巨峰ワインで」
「おっけー。ワイン切らしてるから後で買って来る。品切れだったら付近の上級酒で」
「気を付けてねー」
フィーネも横で図面を見ながら上機嫌。
「俺たちはクワンティーと北の低難度迷宮で肩慣らしだ」
「お互いに気を引き締めて参りましょう」
「クワッ!」
従者たちは真面目。
悪霊の呼び声が木霊するサンタネ迷宮入口前。
「不思議ですね」
「ええ。大昔から敵対していた私たちが世代と種族を越えこうして肩を並べられるとは。背中が擽ったいと言うか何と言うか。
それもこれもあの二人。神さえも予測不能に世界を捻じ曲げて彼らは覇王にでも成るのでしょうか」
「フフッ。きっと面倒だからやりませんよ」
「でしょうね。渡された皿を叩き壊すのもまた彼ら。シトルリンを倒せば私も消え去る。レイルダール様と一緒にもっと先が見たい。今更消えたくないと願うのは我が儘なのでしょうか」
「それで良いのです。人や魔族。神も皆。好きなように生き何を想うも願うも自由ですから」
「夢見るは自由。果たされるかは別にして。良い耳触り。
では参りましょう」
彼女の獲物は中槍を構えた。
私は氷炎戦斧。
肩に乗るグーニャが目を輝かせ。
「火は吹きますかニャ?」
「一瞬で終わるので止めて頂きたい」
「布が燃え果てるので困ります」
「ニャー。また出番無しだニャ~」
しょんぼりして胸の谷間に収まった。
グーニャは仲間として存在しているだけで良いのです。
「暇ですニャ。ふぁ~。終わったら起こして下さいニャ」
「はい」
サンタネ迷宮は全10層。
取り尽くされた宝箱は全無視。
布入手と迷宮主を倒せば終了。
天然洞窟でありながら長い年月を経て迷宮主が増改築を繰り返した半人工構造。
私が聖氷で漬けにした後プレマーレが雷槍で魂砕きをする流れ作業が続いた。
1から2層までは余裕で襲い掛かって来たグールやレイスたちが3層を越える頃には私たちから逃げ惑うように変わった。
「止めでー」
「聖属性は嫌ぁーーー」
「地下で雷なんて有り得ないよーー」
「ぎえだぐねぇ」
消えたくないと切なく願う死霊たち。それらも全て無視。
「喧しい」
「大人しく生まれ直し為さい」
5層でデッドリーが登場。
層内全てを駆逐し私が薄汚れた布を運搬用収納袋に詰め込み。プレマーレが落下武装を吟味。
「何れもこれも粗末な品。合成しても使えません」
雷棍棒に持ち替え粉々にして回った。
6層からハードワーカーが参戦。
人間動物魔物の異種混合キメラグールである。
必死に何かを叫んでいたが爆炎で2つに割り、プレマーレが棍棒で真ん中の魔石コアを砕いた。
ドロップは砕けた闇魔石。他無し。
「美味しくないですね」
「繰り返し狩られていますから。どんなに運が良くても無い物は出ませんよ」
「迷宮主に魔石を喰わせて強化しましょう。力量が上昇してレアドロップ率も上がります」
「名案ですね」
不謹慎だが楽しさも上昇。
7層の主はギュリネジャ。レイス系の最強種。
「ここで出るとは珍しい」
「運が向いて来ましたね」
「よくも同胞たちを殺してくれたな!」
「「お前はもう死んでいる!」」
「…」
放たれた瘴気と呪詛には構わず聖氷の氷柱を真上に落下させ。突き刺さった所に棍棒の追撃を浴びせ倒した。
「き…消えて行く…我らのおんね」
最期の台詞も吐き切れずに消え去った。
ドロップは魔石と浄化済みの布束。
「浄化の手間が省けました」
「私には使えませんが」
「シュルツさんなら何か対策をしてくれますよ」
「淡くも期待します」
8層はカライメライ。リビングメイルと同類系。
小型の鎧や盾を崩すと奥で固まり集積。合体して階層主へと進化した。
特に何も考えず両サイドから肉薄して打撃戦。
プレマーレの棍棒から出た電撃が反対側まで伝わっても避雷石を所持中で無効。プレマーレ自身は持っていなくともスターレンが常時発動して拡散している為自軍は被弾しない。
非常に便利。
では他は不所持で良いのかと言うとそうでもない。孤立化して阻害障壁等に隔離されると適応外になる可能性を秘めている。
都度状況に応じて防衛道具を入替え、ソプランとアローマを主体に配分すれば間違いは起こらない。
今はフィーネの石がアローマに。レイルさんの石がソプランに渡されているように。ソプランはラザーリア以前から気に入られている感じがする。根が真面目な男性が好みなら存外に許容値は広いのかも知れない。
ドロップ品は魔石と指輪版の渇望の魔装。
リビングメイルと同じ系統で予想はしていた。
「透明化の指輪はこいつが出すのですね」
「故に激レア品なのでしょう。スターレンの看破カフスで透明化していたのか不明ですが。途中分裂した時に透明になっていたのかも知れません」
「常々便利です」
もう1つドロップした眺望の盾。防御性能は並だが盾の反対側が透けて見える高機能。
盾を眺めながらお茶休憩を挟んだ。
自分は普通の紅茶。彼女はブランデーを垂らして。
「反射盾に合成出来れば視界が開けます」
「盾装備に慣れていないアローマにピッタリ。所でトイレは出しますか?」
「後でお願いします。しかし…上位種の身体は排泄を要しないとは夢のよう。
私のような半端者には真似出来ません」
トイレ事情の話になってしまった。
「全てが魔力に変換されるよりも。出せる方が人間や並の魔族ぽくて良いと思いますよ。生きている感じがして」
「そう言う物ですかね…」
「のんびり行きましょう。早く帰っても…愛の営みの真っ最中なので」
「だと思いました。フィーネ様がご機嫌でしたから」
今度はエッチな話になった。
「2人切りの時間が少ないですからね。それも生者の特権です。その内にアローマとソプランの時間も設けてあげなくては」
「羨ましい限りで。例えば迷宮の踏破層を分割するなどで時間が作れるのでは?」
「良い案です。何をしに来たんだとソプランが怒りそうですが」
「息抜きも大切だと説きましょう」
「それを理由に私たちは飲み明かしますか」
「名案ですね」
意気投合した所で休憩は終わり。
9層はグロードベンダ。腐敗怪樹の死霊。
残念ながら…爆炎で消臭した後。弱った所を薙ぎ倒して終わった。
装備品が良過ぎて火の海の中でも平気で走れる。
翼を出す間も無く。
ドロップは闇地魔石と空想の杖。
幻術系スキル所有者の操作性を向上させる優れ物。
「私も欲しいですが幻術スキル特化。私の実体化スキルとは毛色が異なります」
「1本しか有りませんね…。2つに割って古代樹の木材と合成するとかも良さそう。操縦タクトも余っていますし」
「後程ご相談で」
そして第10層。
迷宮主の名はリビルドメーカー。多種多様な亡者の願望が詰まった家屋の死霊。
魔石コアを破壊しないと何度でも建て直す厄介な相手。
普通の冒険者には。
最下層はかなり広大。
「一つの村レベルの物件数ですね」
「家家にはデッドリーも隠れています。どうしますか?魔石を食べさせると要塞に発展しそうですが」
「欲張らず。近場の家を壊して魔石を投げ込みましょう。吸収された魔素の流れでコアの位置が特定出来ます」
賢い選択。
最寄りの建物をプレマーレがデッドリー毎粉砕して手頃な闇魔石を投入。
魔人化の腕輪を装着。復元途中のその建物に複数の黒触手を割り込ませ魔素と魔力の流れを同時に追った。
自分は骨槍に魔力を込めて待機。
骨槍が充分な電光を放つ頃。
「あの一番小さな家の真ん中です!」
3階建ての家屋が並ぶその隙間。ポツンと見える平屋。
迷宮主と言うより管理者?
中心目掛けて骨槍をオーバースロー。
スフィンスラーでのフィーネを真似て。
吹き飛ぶ建物群と管理小屋。中に潜んでいた人型の何かと共に悲痛な叫びの大合唱。
「煩いニャ~」
胸で安眠していたグーニャも目覚める。
「直に消えますよ」
管理者の消失と道連れに。全ての建物とデッドリーの姿も塵の中に溶けた。
奥の壁面に深々と刺さった骨槍を回収。
抉られ歪んだ管理小屋の跡地には。大きな闇魔石と1枚の銅板。それと空洞しか無い木製の桶。
桶は1m四方の正四面体。木組みではなく1本木から削り出したよう。
「何が出ました?」
「えーっと…」
問われ中級鑑定眼鏡を掛け直した。
「銅板は良いですね。建物や船。建造物の何処かに張り付け名前を書き込むと許可者以外の侵入を拒絶する大きな鍵のような機能を備えています」
「それは中々に重宝しそうですね」
鍵を掛け忘れてももう安心。
「桶は…。中に24時間建物のミニチュアを置くと最寄りの平場に指定倍率で出現する建設器です」
「建築業の人間が失業しますね」
「最大でも20倍ですので少し大きな一軒家が造れる程度ですよ」
「失業は免れましたか」
何も無い更地を見渡し。
「終わりましたね」
「ですね…。これが中難度?」
「私に聞かれましても」
2人でも戦力過剰。
「これは失礼。一つ南の迷宮を野良で攻めるには半端な時間。ロイド様とも一度手合わせを願いたいのですが」
「主に似て戦闘狂ですね。私でも構いませんが…」
谷間に埋もれるグーニャを摘まみ出し。
「ニャ?帰るかニャ?」
「プレマーレが消化不良だそうですよ」
「ニャ!上位魔族と手合わせニャー」
「成長を続けるゴッズ。ならば相手に取って不足無し!」
邪魔者が居ない10層で始まる臨時戦。
高速の空中戦はプレマーレに軍配。経験不足と飛行速度で劣るグーニャは空を捨て地上から蔦攻撃に切り替え。
負けじと腕輪の触手を出したが5本だけ。無尽蔵に枝分かれする蔦の前に為す術無し。
槍での回旋迎撃も腕から絡まれ封じられ。苦し紛れの瘴気ブレスも大火力の火炎で消滅。前髪チリチリ。
竜人変化するも一手遅れ。全身翼まで巻き取られて硬い地面に打ち据えられた。
「その蔦!ひっ!きょう!ですよ!!」
「触手は水没の海月で見慣れてるのニャ~。
降参かニャ?降参かニャ~~」
「降参!降参するから!止めてぇー」
相性が悪過ぎましたね。
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ソプランたちより少し遅くに戻ったロイド組。
「どったのプレマーレ。1人だけボロボロじゃん」
「強敵居たの?」
「聞かないで下さい。強敵なら直ぐ傍に…。先にお風呂を頂きます…」
げんなりなプレマーレが肩を落としてバスルームに直行。
「消化不良でグーニャとの模擬戦で惨敗しただけです」
「勝ちましたニャー」
「言わないで下さい!!」
叫びと共に涙声。
「「あぁ~」」
「やる前に戦略練れば良かったじゃねえか」
「模擬戦ですしね」
「うわぁーん」
絵に描いたような泣き声。
「サンタネは無事踏破しました。ソプランたちの方は」
「こっちは完全野良だったからな。詳しくは後で話すが先客隊が居てな」
「上級に昇格間際の」
風呂上がりのプレマーレは巨砲ワインをグラスで一気飲みして。
「あースッキリした。次は負けませんよ」
「ハイニャ!」
「一人で戦略練り上げるのでお食事どうぞ」
ボトルとグラスを持ちソファー席で黙した。
鯵の南国(南蛮)漬けをメインにポテサラと若芽スープとラメル君特製スコーンの残りで夕食。
「どう?ロイドの好みは」
「カルが酸っぱい物が好きって初めて知ったかも」
「充分です。好みで言えばもう少し欲しいですね」
「マジかよ。これかなりキツいぞ」
「喉にガツンと来ますね」
ロイドはかなり酸っぱ目が好きと。
「自分で作るなら個別にしますからご安心を」
「そうして欲しいかなぁ」
「う~んごめん。私もこれ位が限度」
今後の自炊はプレマーレ以外でローテする予定。
手が空く人で臨機応変に。
食器を片し自分たちも巨峰ワインで晩酌。
報告はソプランから。
「先客は若手の二隊合同。十三人位だったか。入口で待機が三人いたから色々話聞いて来た。
去年の十一月の下旬に最宮前で順番待ちのヤーチェ隊が先に入って出て来たメレディス十人隊と揉めて死闘が起こったらしい。
勝負は略隊長同士の一騎打ちでヤーチェの勝利。誰が見ても死んだと思う程だったのに。残りの隊員は大事そうに荷台に乗せて港付近まで運んで突然転移してどっかに飛んでった。
それが丁度ラザーリアの式典中に被る」
「って事は…」
「その隊長が『刹那の潮騒』埋めてたぽいな。ヤーチェが刺した剣も偶然聖属性付きだったって話だ」
「すんごい偶然」
「有るのねぇ。お礼言うのも変だけど」
「まあ終わった話だ。自爆狙いの心理なんて解りたくもねえし。
後北西のダンプサイト乗っ取った組織の傭兵部隊は中央道の町から集まった合同討伐隊に十二月中旬辺りで狩られて全滅したってよ」
「お。手間が省けた」
「出向かずに済みました」
プレマーレがまたグラスを一口。
「俺たちがダンプサイト掃除したのが好転した形だな。あれが無かったら住民の退避も出来てなかった」
「思わぬ所で繋がるもんだなぁ」
「転移で逃げた奴も居ないらしい。陸路で逃げても海岸か山間の昆虫魔窟。生き残ってても精々数人。
海に出た船も聖剣に大穴空けられて沈んだって話だ。
安心は出来ねえが一段落は付いたな」
「うんうん」
「なんでペラペラ話してくれたかって言うと」
「クワンティを肩に乗せていたのでお二人だと勘違いされまして」
ちょっと面白い。
「誤解を解いて詫びの酒渡したら喜ばれてよ」
「その流れで昼食を一緒に」
「飯食い終わったら中の隊員が出て来て」
「怪我人が居たので薬で治療しました」
「更に喜ばれて動ける奴等で一緒に残りの踏破やろうってなった」
「のですが…。女性が私一人でお腹が痛くなりまして」
照れたアローマも久し振りだ。
「あーあるあるだなぁ」
「女冒険者少ないからねぇ」
「中には入らずに周辺散策して帰って来た」
「こちらの収穫は情報だけです」
「いやいや充分だよ」
「そうそう。我慢は身体に悪いから」
ロイドたちの報告と収集品を拝見。
「おーいいねぇ。表札も拡大桶も。投影箱は玩具に使えなくなったし。これは実物だ。超欲しい!どっかにこっそり別荘建てたい」
「幻術強化の杖も素敵♡」
「これ…また宝具級じゃね?」
「常識から外れていますね。一般論として」
「杖はプレマーレも欲しい物ですし。未熟な内から道具に頼るのも宜しく有りません」
「そうだけどさぁ。カルの意地悪」
「ベースの鍛錬を怠るとロストした時苦労しますよ?」
「う…胸が痛い」
「直ぐにどうこうと言う物では無いので使い道はじっくり考えて行きましょう。杖は私が一旦お預かりを。
その他でギルド報告は充分かと思います」
「うーん。桶は行き過ぎかなぁ。表札だけでいいよ。10層の迷宮をたった2人で数時間で踏破する冒険者なんて変に思われるし…2日間位置くか」
「行きの分もカットしたしねぇ」
「この空き時間に何をするかは明日相談しよう。
取り敢えず今から盾の合成と布の浄化お願い。ゆっくりやってもあっち早朝だから」
「ほい。折角だから外で巫女の祈り試してみる。プレマーレは1km位離れてくれる?」
「ざっくりですね。まあ聖属性を浴びるよりは良いですが」
「だって初めてなんだもん」
急に背中に悪寒が…走る。
「ちょい待ちフィーネさん」
「なんでしょか」
「酔ってる?何時も以上に」
「普段よりは酔ってるかなぁ」
うん間違い無くフニャフニャだ。可愛い!じゃなくて。
「祈りは中止で。俺の直感が警鐘を鳴らしてる」
「何それ。理由は?」
「祈りに失敗すると黒竜様怒るぞ。多分」
「ちょっと意味が」
「チョーカーが進化して念話相手が彼の者じゃなく彼の者たちに変化してるじゃん」
「あ…あぁ。念話先を間違えちゃう?」
「そう。試しはこの大陸でやっちゃ駄目。少なくとも酒飲んで捧げるもんじゃない」
「確かにね。それはスタンさんの言う通り。酔っ払っての祈りは良くなかった。でも念話先を間違えるなんて事は無いよぉ。
だって私さっきから水竜様と…あれ?何方様で…?」
「ヤバいヤバいヤバい!今直ぐ謝れ。謝っとけ」
ロイドが北東方向を見上げながら絶望の序曲を。
「スターレン…」
「手遅れですニャ~」
「私…蜥蜴なのに鳥肌が…」
上手い事言ってんじゃねえよプレマーレ!
「俺たちここで死ぬのか…」
「短い人生でした」
「諦めるな!全員フル防具。武器は持つな。俺が説得してみせる!」
「どうしよスタンさん。無言です。物凄く無言です!」
「落ち着け。外に出て謝罪だ」
俺の右腕は無反応。ギプスシートを外し。
「おいルーナ。こんな時に気絶すな!」
叱咤届かず完全沈黙。
「クワン。飛ばなくていい。ここで逃げたら二度と接見出来なくなる」
「ク…クワ…」
俺とフィーネを前列に全員お外で膝着き横並び。
--------------
北東の夜空に舞う黒い影。
吹き飛ばされそうな程の暴風が辺りを包む。
「でけぇ…」
目視で推定80m級(翼を除く)
その巨体が木々を踏み潰しながら前方に着陸した。
激震と衝撃で腹の底が震える。
鼻息は荒く。吐き出す吐息で更に空間が揺れた
『谷を出たのは何百年振りか。余に何用だ半魔の娘よ』
思っていた程低くはない豪声。
「申し訳有りません!念話先を間違えました!」
正直者!
『間違い…。間違いで余に会いたいなどと囀ったのか』
会いたいって言ってたの!?
「嬉しい事や。楽しい気分になると。水竜様にお会いしたくなってしまって。つい!」
このうっかりさん!
デッカいお鼻からフンと突風が漏れ出す。
『水竜と余を間違えた…。そう言いたいのだな』
「はい!」
目線が隣の俺に向く。
『バグナーデを腕に納めし勇者よ。この番の間違いをどう正す』
「言って聞かせます。一度の過ちは繰り返さないのが我が嫁の取り柄の1つ。過分な力を極最近手に入れてしまい。修練不足で起きた事。お許し頂けるならば!
今回はその修練であると流しては頂けないかと!」
赤青林檎の箱詰めを差し出した。
『林檎か…』
「はい!中央大陸の南部産の赤と青林檎です。甘みが増す収穫時期とは違う為。少々酸味が強い代物。
お口に合えば幸い。どうぞお納め下さい!」
ぶっとい尻尾で地面を一叩き。
衝撃で俺たちの身体が浮いた。
『多い!それでは食べ切る前に腐ってしまう』
慌てて保存用の収納袋を提示。
「こちらの保存袋へ入れて置けば。最低でも5年は今の鮮度を保ちます。それを過ぎると徐々に劣化をしますが外に出さねば直ぐに腐る事は有りません。
如何でしょうか!」
『…ふむ。ならば良い。半分ずつ袋に入れよ』
「はい!」
せっせと虫喰いに注意して選別しながら保存袋へ収納。
首を天に持ち上げ鼻をスンと鳴らした。
何もかも大音量。
『林檎と同じ匂いが貴様の腰袋からするな…』
「ははっ!」
ハイネーブルとマーテリヌの酒瓶を出して並べた。
「こちら林檎の実と皮の部分を発酵させた酒精が強めの酒に御座います。
青は発泡酒で舌先と喉に気持ちの良い刺激。赤は蒸留酒で滑らかな口当たりとなっております!
共に熟成目標が来年9月以降。その頃にこれらをお持ちしご挨拶に伺おうと考えて居りました!
この様な形と成ってしまい。
深く!深くお詫び申し上げます!」
一同で土下座。
『人間が造る酒か…。ベルが持って来て以来だな。
しかし瓶が邪魔だ。舌を出すから青色から注げ』
「はい!」
頭上まで首が伸び。大きなお口と真っ赤な舌が出された。
黒竜様にお酌するのは恐らく人類史上2人目の誉れ。
ベルさん…俺。チビってるよ…。
目前に迫る舌先と向こう側の牙。歯茎はピンクで健康そうな歯並び。俺は何を冷静に分析してるん?
無臭の舌先の凹みに1瓶全部注いだ。
スルッと戻る舌。1滴も溢さず。
首を持ち上げテイスティング。
『程良い刺激だ。甘さも悪くない。次は赤を』
「ははっ!」
同じ動作をリフレイン。赤い舌に赤の液体を注入。
『色味と違い爽やかな酸味と甘みだ』
「有り難う御座います!」
『次は小屋の中から漂う葡萄酒だ』
「ははっ!」
余分に買っといて良かったー。
凄い!今日だけで3回もお酌出来た。この後踏み潰されて死ぬのかな…。一瞬で死ねるのは寧ろ僥倖。
『甘いな…。懐かしい甘さだ。林檎の適性時期は何時頃だ』
「毎年10月頃が蜜が最も乗る時期です」
『良かろう。来年の十月。今の三種の酒と林檎を各十個持って谷に来い』
「慎みまして!」
『その装備なら途中で果てる事は無いだろう。全員顔は覚えた。屍でないのなら一人も漏らさず辿り着け』
「はい!」
一同元気良くお返事。
『吸血姫は何方でも良い。…半魔の娘よ』
「何でしょうか!」
『恐れず酌をした番に免じて余との念話を許す』
「有り難う御座います!」
『しかし修練は積め。油断すると西の天竜に繋がる。因子持ちと戦う準備が無いのなら注意しろ』
「充二分に注意を払います!」
『異界の天使よ』
「はい」
『最近聖剣が喚いて喧しい。何時行くのだ』
「近々の1月以内には」
『ならば良し。…蜥蜴の娘』
「はい!!」
『情に流されればお前一人負ける。真に欲するは過去か未来か決せよ』
「…決はもう出て居ります!」
『そうか…。吸血姫に見限られたら余の下に来い。一度だけ加護を与えてやろう』
「有り難きお言葉!
ですが、その様な事は起こり得ません!」
『ふむ…。後ろの人間の二人』
「「はい!」」
『特に無い…。精々足元に気を付ける事だ』
「「ハッ!」」
『狼猫』
「ハイニャ!」
『北の主に次は五百年後辺りかと問え』
「……その辺りですニャ!」
『楽しみだ』
何が起きるんですか!まあ生きてないからいっか。
『白鳩』
「クワッ」
『交配を望むなら並に戻れ。今のままで見合う相手は存在しない』
「クワァ~」
ちょっぴり涙目。
『無垢の狼よ』
「はい!」
『戦う力を欲するなら一度金精霊に会え。しかし高望みはするな。その先には虚無が待っている』
「欲張りません!」
『久々に喋った…。帰る』
そう言い残し。両翼200m近い傘を開き飛び立った。
林檎を詰めた袋は背から現われた小型の黒飛竜がそっと摘まみ上げ。
遠離る黒竜様のお背中を見上げながら。
「ベルさん…。模擬戦なんて無理だよ…」
改めてソロで挑んだベルさんを尊敬します。
「ごめんなさーーい」
号泣する嫁を抱き留め。
「良かった良かった。誰にでも間違いは有る。酔っても相手を間違えない練習をして行こう」
「うん…うん…」
大型のバスタブを置き虹玉を張り溜め。
「もう面倒臭い!全部明日に回して服のまま風呂だ!」
「助かるぜ。上から下まで色んなもんが出てびっちょりだ」
「俺もやで!」
アローマがぷるぷる震えて。
「今頃震えが…。惚れ直しました、スターレン様」
「素直に有り難う!」
防具を外して皆で虹玉へ飛び込み。
今夜は熱めです!
黒竜様へのご挨拶は時間が掛かるので来年以降。
全員グレー皮上下に各自好きな上着。
ベストのみでも防寒は北大陸極寒仕様。その上俺とフィーネは獄炎コート。
ちょいと気になった事。
「アローマのブラウスは」
「カフス釦は小袋に。本体は予備の保存袋に入れ姉に預けました。必ず無事に帰ると約束をして」
「大丈夫。ブーツだけでも逃げ回れるし。もしもの時は俺とフィーネとロイドで守る」
「西大陸と竜の谷以外で押し負ける要素は無いわ。
私たちが前衛。カルとプレマーレが中衛。クワンティーとグーニャは遊撃。ソプランとアローマは後衛支援。要するに前は気にせず後ろに注意を払って」
「承知しました。従者としては心苦しいですが」
「ああ。こっから先は別次元だからな。背伸びしたって命は無い。人間冒険者は手堅く賢く冒険をするもんさ」
深いっすねぇ。
「ロイドとプレマーレの服は背中に隙間空いてるけど。プレマーレは全身変身すると破けない?」
「羞恥が甦ったので全裸には成りません。レイルダール様の手心を頂き滑らかな鱗に。尻尾は不要です」
「それは残念無念」
フィーネに頬を抓られた。
「茶化さないの」
「すんません」
薬類を均等に分配。フィーネが持っていたゴルスラ君の秘薬はロイドへ移行。クワンは継続所持。
「秘薬は小分けして配布したい所だけど。多分瓶を変えるとメインの魔力回復効果を失う。勿体ないから各員の装備で遣り繰り。プレマーレが使わないといけない場面は無いと思ってる」
「私の広域魔法は特殊ですから。一部を復活させて同士討ちとかをしない限り枯渇はしません」
「反射盾はロイド持ち。最宮ではアローマで」
異論は無し。
「ピーカー君は秘密兵器であり守護対象。最宮の迷宮主戦でも実戦投入はさせない予定。フィーネの戦闘中に弱点とか見えたら教えて」
指定席のフィーネのバッグから顔を出し。
「はい!」と元気に答えた。
「他何かご意見は」
後席のシュルツが挙手。
「私がお預かりした城塞はお持ちにならなくて本当に」
「良いよそのままで。その積もりで作ったし。レイルが留守番してるここに攻め込む馬鹿は居ないと思うけど。真性の馬鹿は何するか解らないから」
「…解りました」
「では解散。俺たちは城に出陣告知して昼食。各自買い物でもして午後に集合。集まったら出発。以上」
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深夜の東大陸西部に降り町には入らず野営。
時間調整と時差ボケ解消で水分以外1食抜き。
朝日が昇るまで惰眠を貪り、ヤーチェ隊の拠点町マスカレイドに宿を取った。
生憎の不在。どの方面に向かったのと町ギルドで尋ねると最宮方面との回答。
暇だから俺たちよりも先にトライしていると思われる。
マスカレイドから南東に向かうと旧シュライツ城。
その間に死霊系迷宮が点在。普通の馬車でジャスト2日掛かる町から2つ目の中難度迷宮を受注。
手頃な距離感とヤーチェ隊かタツリケ隊位しか好んで行く命知らずは居ねえぜとギルド員から聞いたのが理由。
そのサンタネ迷宮最寄りの誰も居ない野営地に内装を一新したコテージを設営。
(行きはクワン転移で帰りはグーニャで爆走予定)
そろそろ面倒になったのでグーニャをお披露目。どうせマッハリア北部と帝国で使ったのは敵に知られてる。
昔のレイルがプッツンして滅ぼした町の住人や魔物の死霊が多く在席。(本人談)
デッドリーがド山に居てもロイド1人で超余裕。その上プレマーレも居るんだから過剰戦力。
2人とグーニャ(転移係)に任せ。1日以上時間を要するなら全員で突入。
踏破を重ねるとソプランが上級に昇格してしまうが既に俺たち夫婦の専属なので心配無し。
中難度を少人数で3つ以上踏破すると他も自動昇格するらしい。高難度は1発で上級。何方も報告を上げなければ昇級はしないので調整は幾らでも出来る。
うっかり自分たちも上がってしまったらタイラント王家にスターレン隊として席を置く。
今の状態と何も変わりません。
タツリケ隊はロロシュ財団所属に移籍した。東大陸内に拠点を残せば何処に行くのも自由。しかし大陸内上級隊は極稀にギルド本部から指名依頼が発生する。
地上でゴッズが湧いた時。故に滅多に緊急討伐は起こらない。他大陸に遠征中だったら受けられないし。理由が明確であればペナルティーも無し。
聖剣休眠中の最大緊急時には本部が持ってる転移具で迎えが飛ぶ事も有るそうな。
(タツリケ談。特秘に尽き内緒)
公にしないのは邪神教団の所為だと推測。それ以外に隠す理由は無いでしょう。
多分本部が俺に早く来てーと言っているのは転移具持ちを公表している為。
パシリの依頼が来たらガッポリ儲けよう。
あれ?もしかして俺って転移で西大陸へ突入出来るのでは?とお思いの貴方。
「転移出来たとして。魔王城の場所は変わってません。転移で飛び込めば即時開戦。邪神教を潰しに行くのに先に魔王と戦ってどうするのですか。聖剣も無しで」
とロイドさんに馬鹿を見る目で諭された。
「そうっすね…。はい」
何事も手間を惜しんではいけません。順序良く!
シトルリン本体の真の狙いも朧気ながらに見えて来る。
賢い天の皆様ならもうお解りだろう。
聖剣奪取と南東大陸の解放が終わったら…2年位遊んで暮らすのも悪くない。グヘヘッ
西への遠征を催促する人物。
そいつがシトルリン本体だ。
そんなこんなで始まります。ロイドとプレマーレとグーニャのサンタネ迷宮攻略!
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コテージからの出掛けに床に白紙を広げ時計回路の図を引くスターレンに声を掛けられた。
「いってらー。2人は夕食何がいい?」
遊びに行くのではないですが…。
「お魚系の酢漬けでも」
「私はモーランゼアの巨峰ワインで」
「おっけー。ワイン切らしてるから後で買って来る。品切れだったら付近の上級酒で」
「気を付けてねー」
フィーネも横で図面を見ながら上機嫌。
「俺たちはクワンティーと北の低難度迷宮で肩慣らしだ」
「お互いに気を引き締めて参りましょう」
「クワッ!」
従者たちは真面目。
悪霊の呼び声が木霊するサンタネ迷宮入口前。
「不思議ですね」
「ええ。大昔から敵対していた私たちが世代と種族を越えこうして肩を並べられるとは。背中が擽ったいと言うか何と言うか。
それもこれもあの二人。神さえも予測不能に世界を捻じ曲げて彼らは覇王にでも成るのでしょうか」
「フフッ。きっと面倒だからやりませんよ」
「でしょうね。渡された皿を叩き壊すのもまた彼ら。シトルリンを倒せば私も消え去る。レイルダール様と一緒にもっと先が見たい。今更消えたくないと願うのは我が儘なのでしょうか」
「それで良いのです。人や魔族。神も皆。好きなように生き何を想うも願うも自由ですから」
「夢見るは自由。果たされるかは別にして。良い耳触り。
では参りましょう」
彼女の獲物は中槍を構えた。
私は氷炎戦斧。
肩に乗るグーニャが目を輝かせ。
「火は吹きますかニャ?」
「一瞬で終わるので止めて頂きたい」
「布が燃え果てるので困ります」
「ニャー。また出番無しだニャ~」
しょんぼりして胸の谷間に収まった。
グーニャは仲間として存在しているだけで良いのです。
「暇ですニャ。ふぁ~。終わったら起こして下さいニャ」
「はい」
サンタネ迷宮は全10層。
取り尽くされた宝箱は全無視。
布入手と迷宮主を倒せば終了。
天然洞窟でありながら長い年月を経て迷宮主が増改築を繰り返した半人工構造。
私が聖氷で漬けにした後プレマーレが雷槍で魂砕きをする流れ作業が続いた。
1から2層までは余裕で襲い掛かって来たグールやレイスたちが3層を越える頃には私たちから逃げ惑うように変わった。
「止めでー」
「聖属性は嫌ぁーーー」
「地下で雷なんて有り得ないよーー」
「ぎえだぐねぇ」
消えたくないと切なく願う死霊たち。それらも全て無視。
「喧しい」
「大人しく生まれ直し為さい」
5層でデッドリーが登場。
層内全てを駆逐し私が薄汚れた布を運搬用収納袋に詰め込み。プレマーレが落下武装を吟味。
「何れもこれも粗末な品。合成しても使えません」
雷棍棒に持ち替え粉々にして回った。
6層からハードワーカーが参戦。
人間動物魔物の異種混合キメラグールである。
必死に何かを叫んでいたが爆炎で2つに割り、プレマーレが棍棒で真ん中の魔石コアを砕いた。
ドロップは砕けた闇魔石。他無し。
「美味しくないですね」
「繰り返し狩られていますから。どんなに運が良くても無い物は出ませんよ」
「迷宮主に魔石を喰わせて強化しましょう。力量が上昇してレアドロップ率も上がります」
「名案ですね」
不謹慎だが楽しさも上昇。
7層の主はギュリネジャ。レイス系の最強種。
「ここで出るとは珍しい」
「運が向いて来ましたね」
「よくも同胞たちを殺してくれたな!」
「「お前はもう死んでいる!」」
「…」
放たれた瘴気と呪詛には構わず聖氷の氷柱を真上に落下させ。突き刺さった所に棍棒の追撃を浴びせ倒した。
「き…消えて行く…我らのおんね」
最期の台詞も吐き切れずに消え去った。
ドロップは魔石と浄化済みの布束。
「浄化の手間が省けました」
「私には使えませんが」
「シュルツさんなら何か対策をしてくれますよ」
「淡くも期待します」
8層はカライメライ。リビングメイルと同類系。
小型の鎧や盾を崩すと奥で固まり集積。合体して階層主へと進化した。
特に何も考えず両サイドから肉薄して打撃戦。
プレマーレの棍棒から出た電撃が反対側まで伝わっても避雷石を所持中で無効。プレマーレ自身は持っていなくともスターレンが常時発動して拡散している為自軍は被弾しない。
非常に便利。
では他は不所持で良いのかと言うとそうでもない。孤立化して阻害障壁等に隔離されると適応外になる可能性を秘めている。
都度状況に応じて防衛道具を入替え、ソプランとアローマを主体に配分すれば間違いは起こらない。
今はフィーネの石がアローマに。レイルさんの石がソプランに渡されているように。ソプランはラザーリア以前から気に入られている感じがする。根が真面目な男性が好みなら存外に許容値は広いのかも知れない。
ドロップ品は魔石と指輪版の渇望の魔装。
リビングメイルと同じ系統で予想はしていた。
「透明化の指輪はこいつが出すのですね」
「故に激レア品なのでしょう。スターレンの看破カフスで透明化していたのか不明ですが。途中分裂した時に透明になっていたのかも知れません」
「常々便利です」
もう1つドロップした眺望の盾。防御性能は並だが盾の反対側が透けて見える高機能。
盾を眺めながらお茶休憩を挟んだ。
自分は普通の紅茶。彼女はブランデーを垂らして。
「反射盾に合成出来れば視界が開けます」
「盾装備に慣れていないアローマにピッタリ。所でトイレは出しますか?」
「後でお願いします。しかし…上位種の身体は排泄を要しないとは夢のよう。
私のような半端者には真似出来ません」
トイレ事情の話になってしまった。
「全てが魔力に変換されるよりも。出せる方が人間や並の魔族ぽくて良いと思いますよ。生きている感じがして」
「そう言う物ですかね…」
「のんびり行きましょう。早く帰っても…愛の営みの真っ最中なので」
「だと思いました。フィーネ様がご機嫌でしたから」
今度はエッチな話になった。
「2人切りの時間が少ないですからね。それも生者の特権です。その内にアローマとソプランの時間も設けてあげなくては」
「羨ましい限りで。例えば迷宮の踏破層を分割するなどで時間が作れるのでは?」
「良い案です。何をしに来たんだとソプランが怒りそうですが」
「息抜きも大切だと説きましょう」
「それを理由に私たちは飲み明かしますか」
「名案ですね」
意気投合した所で休憩は終わり。
9層はグロードベンダ。腐敗怪樹の死霊。
残念ながら…爆炎で消臭した後。弱った所を薙ぎ倒して終わった。
装備品が良過ぎて火の海の中でも平気で走れる。
翼を出す間も無く。
ドロップは闇地魔石と空想の杖。
幻術系スキル所有者の操作性を向上させる優れ物。
「私も欲しいですが幻術スキル特化。私の実体化スキルとは毛色が異なります」
「1本しか有りませんね…。2つに割って古代樹の木材と合成するとかも良さそう。操縦タクトも余っていますし」
「後程ご相談で」
そして第10層。
迷宮主の名はリビルドメーカー。多種多様な亡者の願望が詰まった家屋の死霊。
魔石コアを破壊しないと何度でも建て直す厄介な相手。
普通の冒険者には。
最下層はかなり広大。
「一つの村レベルの物件数ですね」
「家家にはデッドリーも隠れています。どうしますか?魔石を食べさせると要塞に発展しそうですが」
「欲張らず。近場の家を壊して魔石を投げ込みましょう。吸収された魔素の流れでコアの位置が特定出来ます」
賢い選択。
最寄りの建物をプレマーレがデッドリー毎粉砕して手頃な闇魔石を投入。
魔人化の腕輪を装着。復元途中のその建物に複数の黒触手を割り込ませ魔素と魔力の流れを同時に追った。
自分は骨槍に魔力を込めて待機。
骨槍が充分な電光を放つ頃。
「あの一番小さな家の真ん中です!」
3階建ての家屋が並ぶその隙間。ポツンと見える平屋。
迷宮主と言うより管理者?
中心目掛けて骨槍をオーバースロー。
スフィンスラーでのフィーネを真似て。
吹き飛ぶ建物群と管理小屋。中に潜んでいた人型の何かと共に悲痛な叫びの大合唱。
「煩いニャ~」
胸で安眠していたグーニャも目覚める。
「直に消えますよ」
管理者の消失と道連れに。全ての建物とデッドリーの姿も塵の中に溶けた。
奥の壁面に深々と刺さった骨槍を回収。
抉られ歪んだ管理小屋の跡地には。大きな闇魔石と1枚の銅板。それと空洞しか無い木製の桶。
桶は1m四方の正四面体。木組みではなく1本木から削り出したよう。
「何が出ました?」
「えーっと…」
問われ中級鑑定眼鏡を掛け直した。
「銅板は良いですね。建物や船。建造物の何処かに張り付け名前を書き込むと許可者以外の侵入を拒絶する大きな鍵のような機能を備えています」
「それは中々に重宝しそうですね」
鍵を掛け忘れてももう安心。
「桶は…。中に24時間建物のミニチュアを置くと最寄りの平場に指定倍率で出現する建設器です」
「建築業の人間が失業しますね」
「最大でも20倍ですので少し大きな一軒家が造れる程度ですよ」
「失業は免れましたか」
何も無い更地を見渡し。
「終わりましたね」
「ですね…。これが中難度?」
「私に聞かれましても」
2人でも戦力過剰。
「これは失礼。一つ南の迷宮を野良で攻めるには半端な時間。ロイド様とも一度手合わせを願いたいのですが」
「主に似て戦闘狂ですね。私でも構いませんが…」
谷間に埋もれるグーニャを摘まみ出し。
「ニャ?帰るかニャ?」
「プレマーレが消化不良だそうですよ」
「ニャ!上位魔族と手合わせニャー」
「成長を続けるゴッズ。ならば相手に取って不足無し!」
邪魔者が居ない10層で始まる臨時戦。
高速の空中戦はプレマーレに軍配。経験不足と飛行速度で劣るグーニャは空を捨て地上から蔦攻撃に切り替え。
負けじと腕輪の触手を出したが5本だけ。無尽蔵に枝分かれする蔦の前に為す術無し。
槍での回旋迎撃も腕から絡まれ封じられ。苦し紛れの瘴気ブレスも大火力の火炎で消滅。前髪チリチリ。
竜人変化するも一手遅れ。全身翼まで巻き取られて硬い地面に打ち据えられた。
「その蔦!ひっ!きょう!ですよ!!」
「触手は水没の海月で見慣れてるのニャ~。
降参かニャ?降参かニャ~~」
「降参!降参するから!止めてぇー」
相性が悪過ぎましたね。
--------------
ソプランたちより少し遅くに戻ったロイド組。
「どったのプレマーレ。1人だけボロボロじゃん」
「強敵居たの?」
「聞かないで下さい。強敵なら直ぐ傍に…。先にお風呂を頂きます…」
げんなりなプレマーレが肩を落としてバスルームに直行。
「消化不良でグーニャとの模擬戦で惨敗しただけです」
「勝ちましたニャー」
「言わないで下さい!!」
叫びと共に涙声。
「「あぁ~」」
「やる前に戦略練れば良かったじゃねえか」
「模擬戦ですしね」
「うわぁーん」
絵に描いたような泣き声。
「サンタネは無事踏破しました。ソプランたちの方は」
「こっちは完全野良だったからな。詳しくは後で話すが先客隊が居てな」
「上級に昇格間際の」
風呂上がりのプレマーレは巨砲ワインをグラスで一気飲みして。
「あースッキリした。次は負けませんよ」
「ハイニャ!」
「一人で戦略練り上げるのでお食事どうぞ」
ボトルとグラスを持ちソファー席で黙した。
鯵の南国(南蛮)漬けをメインにポテサラと若芽スープとラメル君特製スコーンの残りで夕食。
「どう?ロイドの好みは」
「カルが酸っぱい物が好きって初めて知ったかも」
「充分です。好みで言えばもう少し欲しいですね」
「マジかよ。これかなりキツいぞ」
「喉にガツンと来ますね」
ロイドはかなり酸っぱ目が好きと。
「自分で作るなら個別にしますからご安心を」
「そうして欲しいかなぁ」
「う~んごめん。私もこれ位が限度」
今後の自炊はプレマーレ以外でローテする予定。
手が空く人で臨機応変に。
食器を片し自分たちも巨峰ワインで晩酌。
報告はソプランから。
「先客は若手の二隊合同。十三人位だったか。入口で待機が三人いたから色々話聞いて来た。
去年の十一月の下旬に最宮前で順番待ちのヤーチェ隊が先に入って出て来たメレディス十人隊と揉めて死闘が起こったらしい。
勝負は略隊長同士の一騎打ちでヤーチェの勝利。誰が見ても死んだと思う程だったのに。残りの隊員は大事そうに荷台に乗せて港付近まで運んで突然転移してどっかに飛んでった。
それが丁度ラザーリアの式典中に被る」
「って事は…」
「その隊長が『刹那の潮騒』埋めてたぽいな。ヤーチェが刺した剣も偶然聖属性付きだったって話だ」
「すんごい偶然」
「有るのねぇ。お礼言うのも変だけど」
「まあ終わった話だ。自爆狙いの心理なんて解りたくもねえし。
後北西のダンプサイト乗っ取った組織の傭兵部隊は中央道の町から集まった合同討伐隊に十二月中旬辺りで狩られて全滅したってよ」
「お。手間が省けた」
「出向かずに済みました」
プレマーレがまたグラスを一口。
「俺たちがダンプサイト掃除したのが好転した形だな。あれが無かったら住民の退避も出来てなかった」
「思わぬ所で繋がるもんだなぁ」
「転移で逃げた奴も居ないらしい。陸路で逃げても海岸か山間の昆虫魔窟。生き残ってても精々数人。
海に出た船も聖剣に大穴空けられて沈んだって話だ。
安心は出来ねえが一段落は付いたな」
「うんうん」
「なんでペラペラ話してくれたかって言うと」
「クワンティを肩に乗せていたのでお二人だと勘違いされまして」
ちょっと面白い。
「誤解を解いて詫びの酒渡したら喜ばれてよ」
「その流れで昼食を一緒に」
「飯食い終わったら中の隊員が出て来て」
「怪我人が居たので薬で治療しました」
「更に喜ばれて動ける奴等で一緒に残りの踏破やろうってなった」
「のですが…。女性が私一人でお腹が痛くなりまして」
照れたアローマも久し振りだ。
「あーあるあるだなぁ」
「女冒険者少ないからねぇ」
「中には入らずに周辺散策して帰って来た」
「こちらの収穫は情報だけです」
「いやいや充分だよ」
「そうそう。我慢は身体に悪いから」
ロイドたちの報告と収集品を拝見。
「おーいいねぇ。表札も拡大桶も。投影箱は玩具に使えなくなったし。これは実物だ。超欲しい!どっかにこっそり別荘建てたい」
「幻術強化の杖も素敵♡」
「これ…また宝具級じゃね?」
「常識から外れていますね。一般論として」
「杖はプレマーレも欲しい物ですし。未熟な内から道具に頼るのも宜しく有りません」
「そうだけどさぁ。カルの意地悪」
「ベースの鍛錬を怠るとロストした時苦労しますよ?」
「う…胸が痛い」
「直ぐにどうこうと言う物では無いので使い道はじっくり考えて行きましょう。杖は私が一旦お預かりを。
その他でギルド報告は充分かと思います」
「うーん。桶は行き過ぎかなぁ。表札だけでいいよ。10層の迷宮をたった2人で数時間で踏破する冒険者なんて変に思われるし…2日間位置くか」
「行きの分もカットしたしねぇ」
「この空き時間に何をするかは明日相談しよう。
取り敢えず今から盾の合成と布の浄化お願い。ゆっくりやってもあっち早朝だから」
「ほい。折角だから外で巫女の祈り試してみる。プレマーレは1km位離れてくれる?」
「ざっくりですね。まあ聖属性を浴びるよりは良いですが」
「だって初めてなんだもん」
急に背中に悪寒が…走る。
「ちょい待ちフィーネさん」
「なんでしょか」
「酔ってる?何時も以上に」
「普段よりは酔ってるかなぁ」
うん間違い無くフニャフニャだ。可愛い!じゃなくて。
「祈りは中止で。俺の直感が警鐘を鳴らしてる」
「何それ。理由は?」
「祈りに失敗すると黒竜様怒るぞ。多分」
「ちょっと意味が」
「チョーカーが進化して念話相手が彼の者じゃなく彼の者たちに変化してるじゃん」
「あ…あぁ。念話先を間違えちゃう?」
「そう。試しはこの大陸でやっちゃ駄目。少なくとも酒飲んで捧げるもんじゃない」
「確かにね。それはスタンさんの言う通り。酔っ払っての祈りは良くなかった。でも念話先を間違えるなんて事は無いよぉ。
だって私さっきから水竜様と…あれ?何方様で…?」
「ヤバいヤバいヤバい!今直ぐ謝れ。謝っとけ」
ロイドが北東方向を見上げながら絶望の序曲を。
「スターレン…」
「手遅れですニャ~」
「私…蜥蜴なのに鳥肌が…」
上手い事言ってんじゃねえよプレマーレ!
「俺たちここで死ぬのか…」
「短い人生でした」
「諦めるな!全員フル防具。武器は持つな。俺が説得してみせる!」
「どうしよスタンさん。無言です。物凄く無言です!」
「落ち着け。外に出て謝罪だ」
俺の右腕は無反応。ギプスシートを外し。
「おいルーナ。こんな時に気絶すな!」
叱咤届かず完全沈黙。
「クワン。飛ばなくていい。ここで逃げたら二度と接見出来なくなる」
「ク…クワ…」
俺とフィーネを前列に全員お外で膝着き横並び。
--------------
北東の夜空に舞う黒い影。
吹き飛ばされそうな程の暴風が辺りを包む。
「でけぇ…」
目視で推定80m級(翼を除く)
その巨体が木々を踏み潰しながら前方に着陸した。
激震と衝撃で腹の底が震える。
鼻息は荒く。吐き出す吐息で更に空間が揺れた
『谷を出たのは何百年振りか。余に何用だ半魔の娘よ』
思っていた程低くはない豪声。
「申し訳有りません!念話先を間違えました!」
正直者!
『間違い…。間違いで余に会いたいなどと囀ったのか』
会いたいって言ってたの!?
「嬉しい事や。楽しい気分になると。水竜様にお会いしたくなってしまって。つい!」
このうっかりさん!
デッカいお鼻からフンと突風が漏れ出す。
『水竜と余を間違えた…。そう言いたいのだな』
「はい!」
目線が隣の俺に向く。
『バグナーデを腕に納めし勇者よ。この番の間違いをどう正す』
「言って聞かせます。一度の過ちは繰り返さないのが我が嫁の取り柄の1つ。過分な力を極最近手に入れてしまい。修練不足で起きた事。お許し頂けるならば!
今回はその修練であると流しては頂けないかと!」
赤青林檎の箱詰めを差し出した。
『林檎か…』
「はい!中央大陸の南部産の赤と青林檎です。甘みが増す収穫時期とは違う為。少々酸味が強い代物。
お口に合えば幸い。どうぞお納め下さい!」
ぶっとい尻尾で地面を一叩き。
衝撃で俺たちの身体が浮いた。
『多い!それでは食べ切る前に腐ってしまう』
慌てて保存用の収納袋を提示。
「こちらの保存袋へ入れて置けば。最低でも5年は今の鮮度を保ちます。それを過ぎると徐々に劣化をしますが外に出さねば直ぐに腐る事は有りません。
如何でしょうか!」
『…ふむ。ならば良い。半分ずつ袋に入れよ』
「はい!」
せっせと虫喰いに注意して選別しながら保存袋へ収納。
首を天に持ち上げ鼻をスンと鳴らした。
何もかも大音量。
『林檎と同じ匂いが貴様の腰袋からするな…』
「ははっ!」
ハイネーブルとマーテリヌの酒瓶を出して並べた。
「こちら林檎の実と皮の部分を発酵させた酒精が強めの酒に御座います。
青は発泡酒で舌先と喉に気持ちの良い刺激。赤は蒸留酒で滑らかな口当たりとなっております!
共に熟成目標が来年9月以降。その頃にこれらをお持ちしご挨拶に伺おうと考えて居りました!
この様な形と成ってしまい。
深く!深くお詫び申し上げます!」
一同で土下座。
『人間が造る酒か…。ベルが持って来て以来だな。
しかし瓶が邪魔だ。舌を出すから青色から注げ』
「はい!」
頭上まで首が伸び。大きなお口と真っ赤な舌が出された。
黒竜様にお酌するのは恐らく人類史上2人目の誉れ。
ベルさん…俺。チビってるよ…。
目前に迫る舌先と向こう側の牙。歯茎はピンクで健康そうな歯並び。俺は何を冷静に分析してるん?
無臭の舌先の凹みに1瓶全部注いだ。
スルッと戻る舌。1滴も溢さず。
首を持ち上げテイスティング。
『程良い刺激だ。甘さも悪くない。次は赤を』
「ははっ!」
同じ動作をリフレイン。赤い舌に赤の液体を注入。
『色味と違い爽やかな酸味と甘みだ』
「有り難う御座います!」
『次は小屋の中から漂う葡萄酒だ』
「ははっ!」
余分に買っといて良かったー。
凄い!今日だけで3回もお酌出来た。この後踏み潰されて死ぬのかな…。一瞬で死ねるのは寧ろ僥倖。
『甘いな…。懐かしい甘さだ。林檎の適性時期は何時頃だ』
「毎年10月頃が蜜が最も乗る時期です」
『良かろう。来年の十月。今の三種の酒と林檎を各十個持って谷に来い』
「慎みまして!」
『その装備なら途中で果てる事は無いだろう。全員顔は覚えた。屍でないのなら一人も漏らさず辿り着け』
「はい!」
一同元気良くお返事。
『吸血姫は何方でも良い。…半魔の娘よ』
「何でしょうか!」
『恐れず酌をした番に免じて余との念話を許す』
「有り難う御座います!」
『しかし修練は積め。油断すると西の天竜に繋がる。因子持ちと戦う準備が無いのなら注意しろ』
「充二分に注意を払います!」
『異界の天使よ』
「はい」
『最近聖剣が喚いて喧しい。何時行くのだ』
「近々の1月以内には」
『ならば良し。…蜥蜴の娘』
「はい!!」
『情に流されればお前一人負ける。真に欲するは過去か未来か決せよ』
「…決はもう出て居ります!」
『そうか…。吸血姫に見限られたら余の下に来い。一度だけ加護を与えてやろう』
「有り難きお言葉!
ですが、その様な事は起こり得ません!」
『ふむ…。後ろの人間の二人』
「「はい!」」
『特に無い…。精々足元に気を付ける事だ』
「「ハッ!」」
『狼猫』
「ハイニャ!」
『北の主に次は五百年後辺りかと問え』
「……その辺りですニャ!」
『楽しみだ』
何が起きるんですか!まあ生きてないからいっか。
『白鳩』
「クワッ」
『交配を望むなら並に戻れ。今のままで見合う相手は存在しない』
「クワァ~」
ちょっぴり涙目。
『無垢の狼よ』
「はい!」
『戦う力を欲するなら一度金精霊に会え。しかし高望みはするな。その先には虚無が待っている』
「欲張りません!」
『久々に喋った…。帰る』
そう言い残し。両翼200m近い傘を開き飛び立った。
林檎を詰めた袋は背から現われた小型の黒飛竜がそっと摘まみ上げ。
遠離る黒竜様のお背中を見上げながら。
「ベルさん…。模擬戦なんて無理だよ…」
改めてソロで挑んだベルさんを尊敬します。
「ごめんなさーーい」
号泣する嫁を抱き留め。
「良かった良かった。誰にでも間違いは有る。酔っても相手を間違えない練習をして行こう」
「うん…うん…」
大型のバスタブを置き虹玉を張り溜め。
「もう面倒臭い!全部明日に回して服のまま風呂だ!」
「助かるぜ。上から下まで色んなもんが出てびっちょりだ」
「俺もやで!」
アローマがぷるぷる震えて。
「今頃震えが…。惚れ直しました、スターレン様」
「素直に有り難う!」
防具を外して皆で虹玉へ飛び込み。
今夜は熱めです!
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