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第227話 載冠式典・内式

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昨日の雨が嘘みたいに朝から晴天。

気分も晴れやか。右肩は包帯でグルグル巻き。

1日は貴族院承認会
2日は外部院認会(前王家からの完全移行)後載冠式
3日は新王就任演説&新王妃成婚の儀

自分たちが出るのは2日。ここには各国の代表者1名ずつが出席。俺たちは親族枠で特例の夫婦揃って参列。

ロルーゼはカルティエンの退場(ザマァ)でマルセンド。
アッテンハイムからはケイブラハム卿。
帝国からはエンバミル元帥閣下。
タイラントからはメイザー王太子。

カルティエンは早朝に国外退去で王都から追い出されてサヨナラバイバイ。

朝食後にメイザー&メルシャンとの打ち合わせ。
「問題は…無さそうだな」
「名演技だったそうで」
「いやーカルティエンが手を出してくれる馬鹿で良かった」
「スタンが視線投げてくれてなきゃ私が投げ飛ばしてたとこだったよ」
「敵地では暴れないと信じてましたさ」

「私たちも目で会話出来る位になりませんと」
「あぁ…。敷居が高いな」
「もう。そこは」
「ぜ、善処するから。ゆっくりと」
殿下はのんびり屋だな。

「明日は予定通り殿下の後方に座ります。ド緊張したスタルフに発言を求められたら激励の一言をお願いします。
将来の御自分の予行演習だと思って」
「む…。痛い所を突くな。私まで緊張するではないか」
「見られないのが残念ですわ」

「スタンに振られたりして?」
「堂々とこの格好で行くから。上着羽織った重傷人には振らないよ…。多分…。一応考えとくか…」
自信無くなって来た。

「フィーに振られたら?」
「え…。スタンさん一緒に考えよっか」

「簡潔な一言だから難しくはないよ。それは良しとして。
今日の午後にロルーゼの貴族院長が来城。あっちの話し合いでマルセンドからアルアンドレフに交代するかも知れません。
殿下は覚えてますか」
「印象は薄いが顔を見れば思い出すだろう。昨年も挨拶をしただけで特にどうと言う話はしなかった。
マルセンドは挨拶も無ければ謝罪も無い。タイラントなど眼中に無いと態度で示されては真面に取り合う気も起きんな」
「その最後の痩せ我慢ももう直ぐ終わる。我々が勝利すれば掌返しますよ」
「やらしぃー」
「ですわね」

「外事の役人としては長い物には巻かれる的な態度も悪いとは言わないが。それも過ぎれば他の反感を買うのが解らないとは些か失望だ」
「大多数の民が盾にされている状態ですからね。立場も難しいのかなと。俺もフラジミゼールが無ければ整然と無視を決め込むのに」
「まあまあ。小難しい政治のお話は式典後に。殿下の本日のご予定は」

「アッテンハイム宿舎へ挨拶に伺う。午後は南部の視察に行こうと考えていたが…君のその格好では無理か」
「午後なら私が付き添いますよ。メルの隣で。ロイドたちと擦れ違っても他人の振りをお忘れ無く」
「解っているさ」
「他は帰国前にします。エスコートお願いね、フィー」
「喜んで」

「俺はここでゴロゴロと。クワン連れて隣遊びに行くかな」
「クワァ」
「随分と奔放な怪我人だな」
「アハハッ」


午前。主要上層が貴族院議事塔に集中している頃を狙い転移禁止結界張りを。

当然ながら父上も議塔で今回もペリルが付き添い。

「坊ちゃま。奇想天外で鮮やかなお手並み。ローレン様も大変驚かれて居りました。私もですが」
「まあね。掴んでくれって尻尾見せてくれたから」
「服汚した甲斐が有ったね」

「そろそろ憲兵隊がスレインの屋敷に向かう頃。旧派の一角で何も出ないでしょうが打撃は与えられます」
「本番直前でシャーリッツ家を外せたのは大きいよ」
「然様で」
「私ももっと勉強しなきゃね」
「今晩詳しく説明するよ。何も知らない演技はお任せで」
「お馬鹿な嫁を演じるのも大変ねぇ」

などと小声で話しながら今日も来ました天球階。

前回同様ペリルに下を見張って貰い結界装置に手を…。
「どれ位消耗するかな」
「全損はしないと思うけど…」

不安に駆られ俺は右腕に霊廟装。フィーネは首元全域にファントム装。更に煉獄とポセラ槍を装備。

「行けるかなぁ」
「どうでしょう」
「クワッ!」
心配したクワンがソラリマ装備でフィーネの手の甲に飛び乗った。

「2人とクワン分なら」
「きっと大丈夫」
「クワ」

左手に投影器を搭載して強制発動!

外結界の修復時よりも強く白く大空が輝いた。

3者分の魔力が7割消し飛び。結果は成功。
外結界内面全域に逆転移禁止が付与された。
消失期限は何と50年。

「クワンが居なかったら全然足りなかったわ」
「だねぇ」
「クワァ」

目立ってしまったのは記憶から消去。
仕上げで小結界の台座にマウデリンチップを合成し硬い殻をイメージしながら強化付与。

『レイルから。ルーナの卵の殻も合成しろと』
「お、助言が来た」
「ずっと未使用だったから良いわね」

一番大きな殻の破片を合成。3者で台座に触れながら付与を実行した。

装備を解除してからペリルを呼んで施錠。

結界具を包んだのは白色半透明ではなくピンク半透明。
ちょっぴりエロい。と思ってしまうのは男の性。

名前:内部保護結界・強化版
性能:全ての外因から内包物を保護する
   内包物が持続型の物だった場合
   消費期限が5倍に延長される
   台座部破損時でも保護効果は5年間継続
特徴:貴方の守りたい物は何ですか?

「素晴らしいお色と性能ですな」
「毎度毎度遣り過ぎてしまう俺たち」
「これ位じゃないと安心出来ないよ」

転移禁止期限が250年になってしまい。台座鍵の処遇に悩む3人。

「正鍵と一緒に宝物庫の奥に納めるか」
「タイラントで預かっちゃうとか?」
「それだと移動や引っ越し時に難が出ますな。次の三世代以上先へ引き継ぐにも少々。殊更ランディスも既知の場所での保管は不適切」
「「確かに」」
ペリルの指摘に納得。
「保管場所は私にお任せを。ローレン様と相談し。偽物を宝物庫へ。本物は…一つ心当りが」

気になるが知らない方が良い事も有る。ペリルに任せ天球階を立ち去った。




--------------

内式2日目。

クワンは透明化してフィーネの肩の上。

俺から逃げ回り続けたランディスも観念したかのように旧派閥残りの御三家代表を引き連れ現われた。

包帯巻きの姿を見た4人は一様に顔を顰める。
ランディスは一瞥を。御三家は揃って俺を睨み付けた。
強欲なカルティエンを呼び寄せたお前らが悪いんじゃw

ボブリ・ディカルソン。最も大きな旧派閥筆頭。
カイト・マクライン。シャーリッツ家の残部を引き受け2番手に躍り出た急進派。
ココットリィ・ノアンマイズ。旧派の中では最古参。実質的な取締役だと目される。

全員厳つい爺さんモブ。

ロルーゼ席にはマルセンド(初対面)が座り、方々に会釈と笑顔を振り撒いた。まあ胡散臭い。
一癖も二癖もありそ。

最初の一瞥以降でランディスと目が合う事は無かった。
索敵オーラは4人共一般人の赤。俺かスタルフを敵視している模様。強敵感は微塵も感じない人間らしい風体。

元々のランディスはプライドの塊のような王子。変態勇者のそれも同程度と考える。性格的な相性で上書きに選ばれたと推測した。

上書きした時期は脳が成熟した成人前後以降と思われる。

残念ながら美女フィーネでは興味を引けなかった。奴が変態勇者であるなら必ず食い付く物はたった1つ。

こちら側を振り返る瞬間にバッグから女神のルビー彫像を覗かせてみた。

華麗なるビンゴでランディスは彫像を二度見。目を剥いてガン見(笑)し奴が変態勇者であると確信。

暴れようと抗議しようと旧派に反対票の権利は無い。
玉座の間での載冠を見届ける役割。

各国からの非承認は零。当然です。


模造の金王冠がランディスから父上に手渡され議塔での儀式は終了。

緊張感から水をガブ飲みしたスタルフが自滅トイレを我慢しながら各国代表4人に弁を求めた。

そんな飲むなよ…。

柔やかなマルセンドの激励が意外に長くて青い顔。

「と、トイレ休憩を挟み。玉座の間へ移動せよ」
返す言葉が情け無い。何故か年々お茶目度がUPしてる気がしてならない。

僅かに場(旧派4人以外)が和んだ。


客賓用トイレから出るとランディス一行が出待ち。
横を通り過ぎようとすると。
「待て」
多分俺じゃない。無視して通り過ぎると回り込まれた。
「待て!」
「私語は慎め大罪人。トイレなら空いている」
「ち、違うわ!先程出そうとしていた彫像を見せろ」
「お前は誰に口を利いているんだ?」
「貴様だスターレン。良いから見せろ」
「黙れ一族の恥さらしが!呼捨てにするな」
「ス、スターレンさ、ま。先程の、彫像を見せてく、ださい」
そんなに敬語が嫌なのか!

「仕方ない。こうして話すのも6年振りか」
嘘です。3年前のこいつの誕生月会で話したのが最初で最後だった。
それも挨拶を交わしただけで腹を蹴られた展開。
「そ、そうだな…」
上書きしたのは5年以内。3年前が濃厚。

あの時の怒りがじわりと過る。

バッグの中から昨晩夜なべで拵えた誰にも似ていない艶出し朱色に塗った木彫り人形を出した。

「違う…。それじゃない!ぼ、僕が見間違えるわけ」
「僕?お前そんな喋り方だったか?」
「そ、そんな事は、無いで、す」
この世界語下手糞か。
「違うと言われても知らんぞ。これは新王が幼少期に抱いて寝ていた人形で久々に屋敷の地下蔵から出て来た物。
何と見間違えた?」
「もう、いい…」

踵を返して玉座への回廊へと向かう一行の後ろを。少し距離を置いて付いて歩いた。

奴の歩行に問題は見当たらない。気になったのはココットリィの足運び。膝の具合が悪いのか僅かに右足を引き摺っていた。

見た目は初老だが足を痛めるには早い気がする。


父から子へ。最高位の役人から新王への載冠。
厳かで感慨深い。2年前は想像もしていなかった。出来なかった光景。

新王が紡ぐ新しいマッハリア。過去から脱却し真の平和へと向かう希望の象徴。

弟が道を踏み外す時。止める役目は父か俺か。

祝福の拍手が送られる中。新品の玉座にスタルフ王が腰を下ろした。

両サイドの妃席が埋まるのは明日。

温かな祝賀ムードの中でもやっぱり4人は拍手をしなかった。平和を望まぬ過去に囚われた哀れな者たち。

信じる神すらあやふやで不確かな。目指す果てさえバラバラで。そんな先に望んだ明日は無いと俺は思う。

例え俺たちに勝てたとしても。この世界にはまだ魔王様が居るんだぜ?

まあ負ける要素は見付からないけどな。自分たちが大きなミスをしなければ。




--------------

楽団の練習も佳境。泣いても笑っても後二日。

昨日の朝カルティエンの旅団が東外門から追い出され楽団の存続が危ぶまれたがロイド様が城に直接陳情しに行き事無きを得た。

催し物の代表者がマルセンドに入れ替わった。

カルティエンが飛び。旧派閥の一角が落ちてこれで終わりかと思いきやそうでも無く。暗躍部隊は王都に留まり活動を止めてない。

部隊人数は把握分で十二人。その中にトワンクスとレンデルが含まれる。含まれてはいるが他の十人と違い。一切旧派閥の屋敷へ出入りした形跡は無かった。

俺やジョゼの知らない所での接触が有るのか。目的同一の完全別動か微妙なラインだ。

毎晩のように飲みに連れ出してもボロは出さない。毎回二人は夜の店にも行かず真っ直ぐ宿に帰る。

昨日は楽団の精神面を考慮して休養日にした。その間に何か動いたのだろうか。

一人で多数を追うには限度が有る。
ここは趣向を変えて原点回帰。冒険者ギルドへ行こう。

と思い立ち会議場を抜け出し玄関を潜っ…。
「ちょっと」
後ろから来たジョゼに建物の影に引っ張られた。

「何だ」
「何だじゃないわよ。カルティエンが追放されちゃったじゃない」
「そうだな」
「くっ…。あんたに取っちゃ他人事だもんね。もうこれで終わりなの?」
「聞きたいならお前が最後にどんな指示受けたのか教えろよ。情報交換だ」

凹凸が貧しい胸元から紫色の小瓶を取り出し。
「楽団の本番前の食事に入れろって。弱い下剤渡された」
「馬鹿かお前。それだけでも終わりじゃないって解るだろ」
「馬鹿って言わないでよ。混乱してるの!」
自己申告する混乱とは。

「ったくガキのお守りじゃねえんだぞ。ロディさんが買い取れたのは上っ面。帰国後の部分は取れなかった。
頭がマルセンドに挿げ変わっても契約は生きてる。詰り本番でロルーゼに泥塗った状態で国帰ればどうなる」
「…契約違反」

「めっちゃ簡単じゃねえか。で次は」
「…額に因っては奴隷落ち」
首がガックリ垂れた。こいつ解ってて言ってるな。
「それがバーミンガム家の狙いだ。毒盛ったお前は確定犯で奴隷。綺麗所の踊り子は性処理の道具。良くて高官の愛人。出来た子供は奪われ。男手は強制労働。
あいつらは時代遅れの奴隷商売で最後の一稼ぎがしたいのさ」
本当はそれだけじゃ終わらない。もっと悲惨だ。

新たな魔人化研究の実験台にされる。フレゼリカが居なくなった後の設備を使って。

「…」
「お前って言葉で聞かないと受け入れないタイプか?」
「…御免。良く解った。あの二人がそれに加担してるって見てるのね」

「あいつらは運び屋だ。奴隷商直轄の。お前の知らない所で別の指示を受けて仕事してる。
奴隷は美人ってだけで取引値は跳ね上がる。お前は踊り子を安心させる為に用意された謂わば疑似餌。あんな雑魚に踊らされてどうすんだ。
男を手玉に取るのが上等な女ってもんだろ」
「私…不得意なの」

「だろうなぁ。幼馴染みってだけで信用して。借金帳消しで助けられるって聞いてホイホイ毒盛ろうとするし。
取れもしない金見越して多夫一妻目指そうとしてるし。典型的な駄目女だ」
「う…ううっ…そこまで言わなくても…」
膝を抱えて泣き出してしまった。ヤッベ言い過ぎた。

「泣いたって最悪展開は変わらん。そもそも城に上がる時に毒瓶持ってたら牢屋行き。
お前を切り捨て動揺を誘い。何らかの方法で手荷物検査を通過したあいつらが大事を仕出かす流れだ」
「…」
「何かが起きるとすれば明後日の移動日。入城前後。止めたいお前がややこしくしてどうすんだ?」
「だから…何もせず見守れって言ったの?」

「そう。疑う事を捨てたお前にチョロチョロされるとハッキリ言って迷惑だ。お前まで助ける義理は無い。
もう一度だけ言うぞ。あいつらの本性と本心を知った時お前は今と同じ答えを出せるのか。その覚悟をしとけ」
「…」
無言で小さく頷いた。

「さっきの下剤寄越せ。もう他に無いんだよな?」
するともう一瓶。赤瓶を出して見せた。
「チッ」
ムカついたから軽くデコピン一発。
「痛い!」
「天罰だ。特別に鑑定してやるよ」

スターレンに借りてる双眼鏡で焦点を絞って鑑定。
「…紫は下剤じゃなくて強度の痺れ薬。赤は一滴で死ねる致死毒だな。この赤は何て渡された」
「下痢止め。疑われたらそれを飲んで逃げろって…」
また泣き出した。

「何処までも馬鹿だなぁお前。泣くな。俺が泣かしたみたいに思われるじゃねえか」
「全部ソフテルさんが悪いんです!」

「人の所為にすんな。この瓶ロディさんに渡して慰めて貰えよ。間違っても姐さんは駄目だ。
ロディさんなら教会の知り合いに頼んで適切に処分してくれるから」
「うん…」

もし妹が居たらこんな感じかと思いつつ。ジョゼを置いて立ち去った。


商業、冒険者両ギルドで掲示板を眺めたが。式典後の運搬に関わる仕事は無かった。そらそうだ。

表には出せない人身売買。人手は自前で用意する。
それが確定した。

会議場に戻ると嫁さんから平手打ちを頂戴した。
「痛てぇ…」
タイトジットの防御力は何処へ。
「泣かした女性を放置して出歩くなんて!」

そうか!愛の鞭は攻撃に入らない?

「裏で告られて丁重に断ったら泣き出したんだよ!慰めたら良かったのか」
「!?」
ロイド様の胸でジョゼが首を振っている。

他踊り子と女性陣の目が白い。姐さんだけ薄ら笑ってる。
「それは…」

「今なんて言った!」
レンデルの激高と罵声が飛ぶ。
「うっせえゲス野郎。お前らがしっかりしねえからこんな事になんだろが!」
掴みに来た腕が止まった。
「「…」」
トワンクスも無言。後ろめたい物抱えてるもんな!

俺の一喝で冷たい勝利を捥ぎ取った。しかし背中の蝙蝠の爪が突き刺さる。

目の前に居るのに何でだよ!
「何か痛そうね。それは天罰よ。多分きっと」
姐さんの思考が解らねえ…。

女心は永遠に難しいな。




--------------

内式3日目。

貴族院議員。各国承認者と関係者が一同に介し王城前広間を埋め尽くす。

新王はバルコニーに出て所信表明演説を開始。

大型風マイクを片手に空き手を掲げた。
「新しい年。新しい時節。我らのマッハリアは新たな時代へと歩み出す。喜ばしく輝かしい今日この日を迎えられて嬉しく想う」
中々の掴みだ。父上の修正が入ったのかな。

「過去の柵み。歪に捻じ曲がった前王家から脱却して早一年と半年。城も城下も各地の町も。一丸と成り目覚ましい復興を遂げられた。

これも偏に若輩で経験の浅い余を支えてくれた民と新旧貴族。近隣各国の力添えと助力が有ってこその賜物」

「お待ち下さい!!」
その声はこちらの広間から。

遅れて来た上に新王の挨拶にズカズカと中央突破で割り込んだ2つの団体。

ロルーゼの偽王子王女の団体。初めて見るが若い。俺のちょい上?常識と言う概念の持ち合わせは無い。

「余の邪魔をする貴様らは何者だ!」
「ロルーゼから来たテッヘランとシャンディライゼです!
ご挨拶を聞き逃したのでもう一度!!」
新王と偽王子。マイクと地声の応酬。嘘やろ…。

「も…。余は貴様らを招待した覚えは無い!遅れて来て置いて何たる無礼。貴国はマルセンド卿とアルアンドレフ議長が居れば充二分!何が特秘だ馬鹿者め!!
余の独断で排除する。即刻荷物を纏めて退去せよ。二度と我が国の地を踏む事は許さん!!」
これが新王の初仕事となったとさ。

到着早々に国外退去命令が下り。近衛騎士団と衛兵隊に囲まれ摘まみ出される偽りの王子と王女。

王女は醜く泣き叫び。整然と見詰めるアルアンドレフと口を押さえ込み上げる笑いに堪えるマルセンド。

「何が可笑しいマルセンド!」
当人はテッヘランの声に振り返らずに青空を見上げた。

これがホントの阿鼻叫喚?

どうしてロルーゼの邪魔者たちは自ら姿を消して行くのでしょう。

ベルさんの予言通りに事が運ぶ。放って置いても勝手に自滅する真にそれ。


30分後。クリアになった広間でスタルフの挨拶が再開。
「今のは忘れて良い教訓だ。何処まで話したか…」
横下から父上の腕とカンペが出現。
「あぁ…」
軽く咳払い。
「皆の努力でマッハリアは生まれ変わった。過去の失敗から得た学びは多く。又それを忘れず戒めの糧とし。女神様の教えと共に正しき道を歩みたい。

余は若輩故に過ちも多い。広く。議員諸君や民の声に耳を傾けられる。新生初代民主王で在り続ける事をここに誓い宣唱宣言とす!」
新制度を導入する宣言。理解がやや遅れた議員たちから戸惑いの拍手が起きた。

「急激な変化は混乱と軋轢を生む。世襲制の撤廃。奴隷制度の廃止。貴族制度の廃止を今後五年内に達成する所存だ。
しかし案ずるな。現状の個人資産や商業を取り上げる訳でも徴収税を引き上げる訳でも無い。民の代表である議員制は撤廃せず貴族位を無くすとの考え。当然反発する者も居るだろう。
その点、今後で協議を重ねよう」
議員たちの拍手が止んだ。今から反発します意思表示。

盛大に議場が荒れそう。

「続けて新しい妃を皆に紹介する。平民出身のサン」
右手にサンが出て一礼。
「エストラージ帝国から遙々来国したハルジエ」
左手のハルジエが一礼。

「サンには政治的発言権は付与しない。その代わり余では届かぬ民の声を聞き届ける。
ハルジエは帝国法や帝王学の知見から議会への参加と発言権を与え、新たな風を入れて貰う。

左右の配位に序列は無い。

既知の通り。我が国の議会は女性が全く居ない。悪しき前例のフレゼリカが居た時代にも他の女性議員の突出を許さなかった。

新しき時代には不要な慣習と捉え。来月を目処に隔週で議員諸君の第一夫人の議会同伴を命ずる」
響めく広間。いいぞもっとやれ。
「命ずるとは言え強制ではない。独身者や身体に不便を抱え動けない者らは当然不参加で構わない。
但し!参加希望を有するにも関わらずそれを阻害した議員が判明した場合。翌月には議席から下ろし再選は無いと心得よ」
貴族院政治撤廃の序章であり最終目標。女性議員の選出と男女平等化。何人かの男性議員たちが同伴した奥さんに肩を叩かれ悲鳴を上げた。

場の女性。国外関係者からの拍手喝采。俺たちはモチ。

「新たな休暇制度の導入に関しては後日の議場で提案するとして」
サラッと重そうな改革案を追加して。
「サンとハルジエとの婚姻の儀は行わず。この後の挨拶で儀式は完了とし。当国貴族たちからの献上品の全ては受け付けない。
血税の無駄遣いを排除するその第一段だ!」
おぉ~と各所から感嘆符が漏れる。

「明日からの本式以降で都内城下をパレードし。それを披露目とする。女神様への御報告と御奉納は城下で一般的な身内式のみ。部外者の参列は不要。見栄の塊である豪華絢爛な祝賀祭も行わない。

エストラージ大使団の滞在期間中に挙式するのでハルジエの為に少しばかり延長して貰えると有り難い」
これにエンバミル氏とクルシュが手を振って応えた。

「本式中やそれ以降。サンを朱ら様に無視をする。侮辱する者は即刻退去させ城から追い出す。
それが当国貴族であった場合。最悪爵位剥奪。該当家の解体。資産の凍結、没収も視野に入れる」
議員連中が息を呑んだ。
「この件に関しては一切の反意を認めない。嫌なら自ら退城し帰れ。その様な腐り切った慣習に囚われる貴族議員はこの先で不要。以上を以て所信表明を終える!」

怒気がちらほら隠れる大きな拍手が送られた。

サンとハルジエの挨拶前に父上が前に出て後日正式文書を発行し。城内城下、各町へバラ撒く宣言。物忘れの激しい貴族たちの口を封じた。

サンは形式的な挨拶に留め、ハルジエの挨拶。

「来国して日が浅く。不勉強な部が多いのが現状です。
しかし私が架け橋と成り。故国帝国と新生マッハリアは友好親善和平の道を歩み出しました。

無益な領土争いを廃する為。北の大渓谷の下方に複数の大橋を建造。国境壁は設けず。既存の物は撤去。国境付近の共有化を目指し。真の意味での連合同盟国と成れるその礎を築きます」
本日最大級のビッグニュースかも知れない。

実現すれば中央大陸の3割近くを占める巨大連合国が誕生する。

「皆々様のご理解とご協力が伴えば決して不可能な道では有りません。

アッテンハイムとタイラントとの友好関係は継続。混迷中のロルーゼは…別途協議をして行きましょう。

改革派の名に恥じぬ議員の皆の尽力に期待します。反対意見は議場で随時。儲けや収益が減少するから嫌だ、等との稚拙で矮小な弁を述べぬよう代案の準備を」
最後に釘をぶっ挿した。

不要論と改革と将来性を語るスタルフとハルジエ。サンは末端の国民との差を埋める仲介者。バランスの取れた良い夫婦。

泣いて帰ったシャンディライゼは。本気でこの輪の中に入れると考えていたのだろうか…。

3人目の妃の出現は多分無いな。

この節分宣唱(勝手に命名)から2年後。無いと思われた3人目事案が勃発する事を俺たちはまだ知らない。

たった一人の女性を除き!

2年後のマッハリア王国歴358年2月3日に吹き荒れる大旋風。
特に俺は。女心を全く理解していなかった。
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無能なので辞めさせていただきます!

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ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

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ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

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