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第226話 お出迎えツアーとカルティエンとの交渉

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初手アッテンハイム組を迎えに行く朝。

シュルツに呼ばれて工房に集まった俺たち居残り組。

作業台に出してくれたのはグレーのブーツ1組。
「天翔程ではありませんが素早さ上昇効果と防御性能に特化させた新作です。
戦いに成るのなら何方かにお渡しを」
「シュルツ…」
詳しくは話してないのに。

「久々にお姉様がサーペントの皮を取って来て頂けたので地王と宙王と中層に獄炎を挟んだ重ね皮です。大地の呼び声の靱性にも耐え得る物を目指しましたが実際は試していないので解りません。
お姉様。合成後に復元をお願いします」
「ええ解ったわ」

合成とリバイブの重ね掛け。表面のグレーは変わらず。

名前:天竺の獄炎ブーツ
性能:総重量350g
   装着者の体温前後を推移保温
   完全防水、高通気、内部湿度管理
   汚染付着防止、水陸両用、
   砂漠・氷山・溶岩流踏破可能
   如何なる環境下でも表面温度を
   摂氏10~40℃内に保つ(内部完全遮断)
   俊敏性補正量+1500
   摩耗劣化無
   超高耐久雷撃、自然環境
   物理・魔法防御力:12000(柔軟性防御付随)
   伸縮性:ベース25cm±10cm
特徴:幼児から末代まで生涯通年を賄える非常に硬い靴
   修理は言わずもがな

「俊敏性が固定で魔力消耗が全く無い」
「常人でも安心して履けるね」
「理想的な仕上がりです」

お礼の両サイドキス。

「もう子供扱いも出来なくなるな」
「立派な淑女に近付いてるもんねぇ」
「それは残念です…。それとダリア様から伝言が一つ。
違う気がする、とだけ。何の事でしょう」

「違う…のか」
「シュルツは気にしなくていいの。悪い事ではないから。
でも慎重に鑑定しないと。責任重大よスタンさん」
「ああ。全力で見極める」
俺の鑑定力を上回る偽装具が有る前提で。

エリセンティと言う例外も存在するのだし。

「じゃあシュルツ、プリタ。行って来る」
「ミランダにも宜しく伝えて。お腹冷やさないようにって」
「了解であります!」
「お気を付けて」


本棟の水竜様に祈りを捧げ、ロロシュ氏に出発の挨拶をしてからの出発。




--------------

本館前広間に集められた遠征組を前に諸注意を。
「特別歓待宿舎は100名収容可能な国別。本式までの間で城下の教会を回る時は護衛の人数を各10名前後に絞って下さい」
「西外門の手続きから城まで私たちが引率します。はぐれる様な子供はいな…」

「姉上だけ狡いよぉぉぉ」
遠巻きにイレイスフィアに抱えられながらも暴れ倒す絶賛反抗期グラハム君の姿。

呆れたペリーニャが。
「ご説明の続きは転移後に」
「そうすっか」


西本街道砦前に転移。
「入国手続きしてる間に各自トイレ休憩を」
「城下西部の町並みは2年前とは見違える程綺麗になっているのでペリーニャも安心して歩けますよ」
「ゼノン。目隠しは不要です。仕舞いなさい」
「ハッ!」


衛兵隊を先頭に約3時間程練り歩き城内の歓待宿舎へ。
馬車を降りて歩きたいと言うペリーニャの意向に沿い多目に時間を掛けた。

歓待宿舎のエントランスで従者と専属警備隊との顔合わせを実施。

管理者正副2名。給仕係5名。料理人5名。侍女10名。
警備隊16名。

正管理者が一歩前に。
「アッテンハイムの皆様。聖女様とケイブラハム卿のお側仕えが出来。我が生涯最高の至福と栄誉。内定してから一同今か今かと心待ちにして居りました。
総管理者私リャンス。副管理者のタクアで皆々様のご要望にお応えし。料理係と給仕係以外の者も昼夜半数は常駐して居ります。
風呂場は一階奥の男女別の大風呂のみ。洗面所も一階浴場に隣接。食堂はロビー奥手。その他設備に関しては侍女たちからご案内を。
エリュダー商団系のホテルには遠く及びませんが。ご滞在期間中、何卒ご緩りとお過ごし頂ければ幸いです」

自分に交代。
「宿舎の配置はここが王宮回廊に最寄り。1つ南に我々タイラント。ここの真向かいが明日迎える帝国。その南2棟が贅沢にも大勢で押し掛けたロルーゼ。
既に何組か先入りしてるので続々と挨拶に来るとは思いますが!個人的にペリーニャには一切会わせたくない。
同じ宗派でも根本が丸で違う脳天気な奴等です。ケイブラハム卿。彼女の盾になって頂けますか」
「志かと心得た。寧ろその為に来たような物だからな」

「安心しました。ペリーニャも挨拶以外の話聞かなくていいから」
「はい。所詮聖女はお飾りなので。政治的な全ては御父様に丸投げして逃げ回ります!」
「逃げちゃえ逃げちゃえ」嫁の悪乗り。
お飾りて言っちゃった。

外周全員耳を塞いでも手遅れ。

「本式会場の円卓の並びはタイラントとアッテンハイムが逆位置になる位で。中央空けの宿舎の並びと同じです。
護衛隊席は円卓後方に配置。全員は座れないので内式後の移動日に下見と選抜をお願いします」
「グーニャがお出掛け中だから。期間中に何か有れば空に向かってクワンティの名を呼んであげて。私たちを呼ぶより早いわ」
「クワッ!」
「宜しくお願いしますね。クワンティ」
聖女の肩に白い鳩…。
「俺たちよりも絵になるなぁ」
「なっちゃいますねぇ」

各員の部屋割りを決め。そのまま宿舎の食堂で昼食会を開いた。


アッテンハイムの宿舎から離れ。王宮回廊に足を向けた時後方ロルーゼ宿舎方面から大きな声で赤服の男に呼び止められた。

無視して足を進めると赤服と数人の付き人にダッシュで回り込まれた。

息を切らせて。
「タイラントの…。スターレン殿とフィーネ嬢、では」
「人違いじゃない?」
「人違いよね」

呼吸を整え。
「水色の正装。タイラントの国章に、白鳩を肩に乗せ、衛兵を連れた別人が居るとでも」
「居るんじゃない?」
「居るわよきっと。世界は広いもの」

「飽くまで白を切る積もりか」
「さっきから失礼な奴だな!俺たちの正式滞在は明後日からだ。公式以外の場での外交は御法度。しかもここは他国の城内だぞ」
「先に名を名乗りなさいよ。寒いし!」

「切り替え…。いや失礼。私はカルティエン・バーミンガムと申す者。ロルーゼの公爵家と言えば解るかな」
知ってる。ロイドの報告で聞いた通りに傲慢な奴だ。
「不勉強で申し訳無いが。全く知らん」
「存じません」

「な…」
「で。政府がガタガタで爵位もカッスカスになった貴族様が俺に何の用?」
「スッカスカ、とも言うわ」
本人取り巻き一同呆然。

「す…。た、確かに権威は失い掛けている。それは認めよう。話は外交でも政治に関する事でもない。商談案件の相談をしたいのだが。時間が許すなら我らの宿舎で話せないだろうか」
お前が建てた宿舎ちゃうぞ!
「商売の話か。残念だが他の組に会うのは避けたい。理由は先程述べた通り」
「タイラントの宿舎も準備中で入れないし。明後日の午後に着替えて城下で話すのでは駄目なの?」

「時間は無いが仕方有るまい。では君の実家で」
何言ってんだこいつは。
「おいおい。お前は外交に不慣れか!ロルーゼ代表の役人は領域侵害と言う言葉を知らんのか?」
「阿呆なの?他国の王都で?現王家の血縁者の家に押し掛ける?しかも御父様は宰相閣下。王宮に詰めている状態で申し送りも無しに上がれると思ってるの?」
「俺ですら帰らずに今日から客賓用の部屋に泊まりだぞ」

馬鹿にされて小刻みに震えてる。相当なお馬鹿だ。
「し、失念していた…。城下の知人貴族の屋敷を開けさせる。明後日の昼食後に君らの宿舎に迎えを送る。それで良いか」
ドドッツの屋敷?だとしたら楽団関連の話か。

カルティエン側からボロを出してくれるとは。

「まあ、それなら」
「殿下と王女様への手土産も忘れずに。変な物贈ったら商売以前に国交断絶よ?」
「…別途用意する。トルティン。手配を急げ」
「ハッ!」
真後ろに居た男が答えた。ふーんこいつがトルティン。

ロイドに全権取られて焦ってるw

大体式典に血を表わす赤服で来るとかバカ過ぎる。背を向けた赤を見送る事無く回廊へ向かった。

熟々馬鹿だねぇ。
「馬鹿ですね。来た時は真面な紳士だったのですが。まさかずっと赤服のままで居るとは…」
とロイドが答えてくれた。

フェイク張るには役不足だったな。


俺たちの背後に張り付く衛兵隊に声掛け。
「悪いね。城内で無茶して」
「さっきのはお馬鹿な赤服が悪いのよ」

「いえ。新王様の御親族で在らせられるスターレン様とお妃様です故。我らは何も。救国の英雄夫妻様のお側に居られるだけで感無量です」
何だか擽ったいな。久々の有名人気分。

「悪いけどもう少し付き合って。父上の所に行く前に中空庭園周りたい」
「是非拝見を」
「仰せのままに。我らは後方に控えます」

迎賓用に白いカーネーションに植え替えられた庭園を嫁と手繋ぎグルリとデートを愉しんだ。

「ここは初めてだけど綺麗ね」
「盛大に汚しちゃったからなぁ。庭師の皆相当苦労したと思う」
「庭師さんにもご挨拶しなきゃね」
「だなぁ」
後に父上に確認した所。何とペリルが宮廷庭師も兼任しているのが判明した。


王城中層の執務室。

ここも嘗ての見栄を廃し。必要最低限の本棚とデスクと椅子。補佐官(今はペリル)のサブデスクが置かれるのみとなった。

小さな暖炉の排煙設備の所為で逆に底冷え。
忍耐の塊みたいなこの2人は平然と書類整理に勤しんでいた。役人の鑑です。

あれ?俺たち専用の部屋が…無い!
迎えに行く時聞いてみよ。

書類整理に区切りを付けた2人。
「結界を張るのか」
「転移禁止結界は明日か内式中に。今日は現状の外結界の様子を確認に来ました」
「その前にこちらを御父様に」
フィーネが新作ブーツを俺は新たに作ったマウデリン鑑定眼鏡をそれぞれ。

同じ銀縁眼鏡をペリルにも。
「これは凄い。眼鏡もそうだが靴も」
「良く見えますなぁ。老眼の私でもハッキリクッキリ。若い自分を思い出します」
「事務仕事に役立てて下さい。間違っても敵陣の中に飛び込まないように」
「坊ちゃまはご冗談がお好きで」

「それ止めてって言ったじゃん!」
「なんか新鮮」
「坊ちゃまは死ぬまで坊ちゃまです。私の中では」
「じゃあスタルフは」
「王陛下様ですな」
何の違いだ…。

気を取り戻して。
「靴は今日中に隠蔽術を施して改めて明日のお渡しで。今日は何方が案内を」
「ペリルに任せる。私は聖女様とケイブラハム卿にご挨拶に伺わねばならん。不在なら明日帝国組と纏めてな」
「そうでしたね。ロルーゼの客人は全て揃ったのですか」

「王子王女と貴族院長の組が未だだ。貴族院長は一日着予定。他は三日ギリギリに入る見込みだ。特秘だろうが何だろうがカルティエンと同じ宿舎にぶち込んむ」
「素敵ですわ」
「止めてくれ。照れてしまう」
フィーネに褒められ照れる父。
あんまし見たくない光景だ。

部屋の前で二手に分かれペリルは単独。行く場所が特殊なので秘密裏に堂々と。どっち?

2年前も見なかった場所。玉座を裏手に回り込み細い昇階段を上に。
「ここって全部崩れてなかった?」
「崩れましたね。屋根と天井と側壁。瓦礫となって玉座も底が抜けてクライフと共に瓦礫に埋もれました。
結界具は運良く破損していな……おやおや」
「壊れてるかも知れないって?」
「あらあら」
早めに見に来て正解。

通風口付きの天球階。玉座の真上。城の角の部分。
12分割方位に分厚いガラス板が嵌め込まれ道具を拡散する構造になっている。

中心部台座に鎮座する結界具。それを守る小結界が張られ防御は必要最低限。

ペリルが台座の鍵穴に特殊鍵を差し込むと小結界が解除された。

「小結界も強化しちゃうか」
「そうねぇ。最後の仕上げにしましょ」

現在の発動状態を鑑定トレース…。範囲は外壁まで覆えている。しかし隙間だらけで天井にも大きな穴。
「ボロボロっすね」
「あらまぁ大変」

「ペリル。修理するから階段下見張ってて」
「畏まりました」

久々の登場。締結の鎖。ラスト2回ここで使います。
発動後に微粒子が下方から集まる。その隙間に残り僅かな万寿の樹液と黒灰を少々落とし込み、フィーネが速攻リバイブ。更にマウデリンチップを合成。

「締結もラスト1回か」
「樹液も灰も大体1回分ね」
次の使い道はよーく考えて使いましょう。

純白色から薄グレーに進化した結界具。

名前:外結界・単一強化版
性能:半径25km内
   任意の場所を起点にドーム状の結界を形勢
   全ての魔物・中級魔獣
   中位魔族迄の侵入を阻む
   転移通過は可能
   内部発生は抑制不能
特徴:単一結界としては優秀作

「仲間の事考えてたら弱くなっちゃったのかな」
「効果範囲考えたらこんなもんでしょ。上位魔族の体組織入れた魔人は多くない。と信じます」
「信じましょう」

フィーネと手を重ね、最遠外門をイメージしながら壁強制発動で張り直し。

窓から見える空がかなり強めに輝いた。

「結構光るな」
「まあ天気良いし。空見上げてる人は少ないよ」
だといいな。

下からペリルを呼び小結界を張り直して初日は終了。

だが俺たちは気付いていなかった。
ドーム状が持つ意味を。地下までスッポリ包んでしまっていた事を!

又しても…俺たちは遣り過ぎた。




--------------

帝国組には転移前に諸注意をキッチリ説明。

俺か殿下の偽物が現われる可能性と城外でもしも!戦闘が起きても気にせず自陣防衛を徹底して欲しい旨を伝えてから移動。

無事に宿舎までご案内。しかし生憎の曇り空。

ハルジエの一団が城から下りて帝国の宿舎に入るのを見届け客賓部屋に戻った。

隠蔽クリップを合成した新作ブーツを父上に届け。いよいよやる事が無くなった。

「曇りかぁ」
「曇りねぇ」
「クワァ」
2人とクワンで窓から空を見上げて。

「明日の午後はお出掛けだしなぁ」
「内式中の合間にパパッとやりましょ。天気が悪くても無視で」
「張らないと意味無いしな」
張る前に入り込まれてもアウト。

「偶にはのんびりしようよ。あっちの練習終わるのも夕方で夜も毎晩懇親会らしいし」
「だな」

ロイドが座長に就任し。懇親会後にソプランが要注意者を毎晩連れ回していると言う話。

俺も変装して潜入したいが今は無理。

3者でトランプ(神経衰弱)をしたり。手荷物や道具の総点検に勤しんだ。

深夜アローマ回線を開いて打ち合わせ。

「明日の午後城下のどっか屋敷でカルティエンと商談話するけど何か注意事項とか変わった点は有る?」
「何か久し振りに声聞く気がする」

「三日振りです。楽団の仕上げも順調。買収が成立して以降妨害工作は有りません」
アローマの隣のソプラン。
「カルティエンは限りなく黒だが城に籠ってる所為で尻尾が掴み難い。直下の部下も城下では殆ど動いてない。
ドドッツもランディスの旧派閥とは関係してなさげだ。明日城を出るのと入れ違いで親父さんに途中報告に行くって伝えてくれ」
直接の関係性がまだ見えない。

「伝えとく。うーん。昔の独自調査でもドドッツの名前は出てないしな。別人の屋敷かも知れない。突っ込めたら探ってみるよ」

ロイドにチェンジ。
「商談が楽団関連だった場合こちらの練習風景を見に来るかも知れませんね」
「初対面の感じ出せるかな。カルの顔見たらうっかり挨拶しちゃいそう」
「止めて下さい。ここまでの苦労が台無しです」
「気を付けまーす」

「レイルは誰か気になる奴居た?」
「地下の変態勇者以外特に居らんのぉ。魔の物を内包する者はな。ランディスとやらは何処に居るのじゃ」
「旧派閥家の屋敷を点々として俺から逃げ回ってる。隠れる場所は幾らでも。来月2日は必ず城に上がるよ。
載冠式の立会人として。それすら偽装かも知れんけど。門前で弾かれて終わりだ」
「ふむ。クワンティの目を通して見てやるかの。所でランディスはスマホの存在を知らんのかえ?」
おや?
「あ…あぁ。どの時点で記憶を移したかにも因るけど。知ってる可能性は有るね」
「この通話聞かれてたりして」

「だとすると手遅れやね。そこは割り切ろう。カルティエンの対応に変化が有れば半確定。ランディスの態度が大胆になれば確定」
「聞かれてる前提って心理戦としては不利よね」
ベルさんの最高傑作だと信じているが開発者が前勇者だったら傍受されていても可笑しくない。

「手持ちの素材で傍受防止考えてみるか」
「呪詛防止とか有るけどスマホに対しては不安だもんねぇ」
そろそろ欲しい物ではあった。

ペラニウムのアクセでも可能だが同じスマホにストラップとなるとそれはもう…。

一応似た様な物はそれぞれのバッグに搭載済み。きっとベルさんならスマホに入れてくれていると信じる。

しかしこれ以上の漏洩を避ける為通話を控えた。
今更感。



通話を終え。レイルがソプランに質問。
「ソプラン。何故同時期に出発したロルーゼの王子王女が遅れておるのじゃ?」
「あぁ。想像だが今まで一度も国外に出た事が無い。馬車の長旅も初。間に合わないなら先遣隊送って貴重な転移具で輸送って感じなんだと思う」
「ほぉ…経験不足かえ」
「カルティエン組が待ってられなかったんだろ。総合的に見てもカルティが真っ黒なんだがなぁ」
「ほむ」




--------------

我らタイラント遠征組の輸送は滞り無く。
初の外遊で若干緊張気味のメルシャンをミラン様が励ます光景が微笑ましかった。

嫁と姑問題が無い家庭は安泰だよな。

この日も朝から鈍曇り。自分たちもタイラントの宿舎に手荷物(空の旅行鞄)を移動させての昼食会を終えた頃には強めの土砂降り雨模様。ラザーリアも滅多に雪にはならないがグーニャが居ないと寒いは寒い。

雨男と雨女出て来いや!

クワンをメルシャンの元に据え置き、雨具を準備でカルティエンの遣いを待った。

トルティンと名乗る秘書官と補佐と護衛5人が迎えに。

メイザー&メルシャンに無難なロルーゼ製のタペストリーと骨董品の花瓶が贈られた。ショッボ…。

言葉にせず別の釘を刺す。
「この天気で移動するんだ。相当な儲け話じゃなかったらお前らの主を張り倒すぞ」
「肋でも2,3本砕こうかしら」
「儲け…かどうかは何とも」
「「はあぁ!」」
「私共ではどうにも…。お許し下さい!」
迎えの一同が90度お辞儀。

商談内容がショボいと言われて出るとか…。


どの道この天候では今日中の結界張りは不適。仕方なく仕方なーーーく。南城門正門前でカルティエンが用意した馬車に乗り込んだ。

相変わらずの赤服が対面で足を組む。偉そうに!

「お前ってその赤服しか持ってないのか」
「ん?何か問題でも」
ん?はこっちの台詞じゃい。
「スタルフに喧嘩でも売る積もりか。指名招待ではなく自己推薦の参加で赤は無いだろ。お前ひょっとして外遊した事無いの?」
「いや済まないな。式典用の白紺色は予備と二着しか持って来なかったのだ。これは普段着だと捉えて欲しい」
「常識は最低限で安心したよ」
天気が崩れる事も考慮してなら許す。幾ら何でも旅には慣れてるか。

フィーネが小窓のカーテンを開け。
「何処に向かってるのかそろそろ教えてくれない?」
「…それは直前に。私はスターレン殿と話をしたかったのだが何故フィーネ嬢まで」
「は?」嫁さん唖然。

「出る前に言え。馬車を止めろ!俺たちは下りる。お前との仕事の話は無しだ」
「私は外交次官で商売上も秘書役なのよ?馬鹿にしてるの?」

「ま、待ってくれ!知らなかったのだ。ロルーゼでは女人は滅多に表に出ない。出さないのが常識。貴族特有の通例で弱みを見せない等の風習だ。
今回私の妻と子も行きたいと駄駄を捏ねたが当家の屋敷に置いて来た程に」
必死な弁明。

「国外に出てまで自国内基準は捨てろ。特にお前は外事に向いてない。何より言葉や説明が足なさ過ぎる。
既に到着している外事省の役人に全て任せるべき所。なのにバーミンガム家の当主ではなく外交下手なお前がここへ来たんだ?」
「今時女性蔑視は流行らないわよ。諸外国ではね」

「指摘の通りだ…。当初の予定では父のルイドミルが代表で私が補佐役だった。それが何処から漏れたか。直前で偽王派の妨害に遭ってな。一度告発した身。新王への口添えで更なる追い打ちを恐れたのだと思う。
弟も出られず止む無く不向きな私だけとなった」
ふむ。一応筋は通ってるか。
「正直に話したのは評価してやる。しかし性別で仕事を切り分けるのは商人としても失格だぞ。肉体労働なら未だしも通常の交易で自由貿易を広く謳うタイラントの人間に対してはな」
「その点は陳謝する」

沈黙が包まれて馬車は進む。

やがて先導車が止まり自馬車もゆっくりと停車した。
「スレイン・シャーリッツ家の屋敷だ」
んん??

「シャ…。フィーネ出るぞ」
「え?いいけど…」
「待て!」

荷台の昇降口扉を蹴破り飛び出したが時既に遅し。

そこはもう敷地内。見渡す限りに雨具を着込んだ従者の参列。丁寧にお辞儀を咬ましてくれた。
「ようこそお出で下さいました。スターレン様と奥方様」

「嵌めてくれたなぁぁ。カルティエン!!」
「ここは何処なの?」
「場所の指定を詳しくされなかったのでな」

「旧派閥の筆頭。シャーリッツ家の屋敷だ」
「チッ。カーテン開けとけば良かった…」
「フフッ。偉そうに説教垂れおって」
まあ余裕の笑み。全部演技だったか。

しかし。
「三下崩れが」
「何だと」
「今の俺はタイラントの商人だ。ケチは付いたが新王には何の影響も無い。ロルーゼの評価は不要。勝手に敵対派閥と解っていて放り込んだお前の罪は重いぞ」
「…」
繋がりを示してくれて有り難う。

「勝った気で居る様子だが甘いな。お前との商談は今を以て決裂した。用済みだ帰れ」
「何を言っている!」
無視無視。
「スレインとやらは中か。この並びに居るのか」
「本館の中で御座います」
代表と思われる中央の男がお辞儀。

無視されたカルティエンが肩を掴んで来た。助かる。
「貴様ぁぁぁ」
「うわぁぁぁ!!!肩が!肩がぁぁぁ!!」
「なっ」

フィーネが動くよりも早く。掴まれた肩を大袈裟に押さえのたうち回り泥遊び。
「痛えぇ!痛えぇぇよぉぉ!!衛兵!衛兵を呼んでくれ!」
「可哀想なスタン。医務室行こーね。他国の屋敷でロルーゼの貴族が暴行を働くなんて!証人は大勢居るわ!ささ早く帰って報告しないと!!」
「なっ!何を!」
更に近寄るお馬鹿なカルティエンに執事風の男が一喝。
「カルティエン様!お下がりを!」
もう遅いぜw

フィーネの肩を借り雨の中泣きながら門を目指す。

トルティンに止められたカルティエンも他の誰も。泣き叫ぶ俺に近寄れる者は居ない。

開けられた門から悠然と。力の限り高らかに叫んだ。
「ロルーゼのカルティエンに肩を折られたぁーーー」
「カルティエンは乱暴者ーーー。知らない屋敷に連れ込んで暴行するだなんてーーー」

似た様な言葉を2人で並べながら北東部の屋敷から城まで宣伝行脚。

城内の医務室でも泣き叫び。救国の英雄(俺)への暴行が確定。翌日に国外退去命令が下りカルティエン退場。

シャーリッツ家にも憲兵隊の査察が入り、スレインに会う事無く旧派閥筆頭の座から降ろされた。

ランディスの足場が崩せて重ね重ね有り難う(爆笑)

内式中にロイドが陳情に上がり。楽団は先着組のマルセンドに引き継がれて存続。

かなり見通しが良好になりました。
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感想 3

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Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

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