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第215話 新装開店。開けよ白扉

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新装オープンのカーライルはガチ勢。

金銭が賭けられると人格変わる賭け狂い防止策でレートは低く、賭け金(コイン)の上限を設定。

景品も魔道具を置かず。高級な日用品、家具、
食糧品引換券、王都限定の金券等と健全化。

ゲームメニューは従来のルーレット、ダーツ、ポーカーに加え。ブラックジャック、チェスがお目見え。

チェスは専属ディーラーとの一騎打ちに勝利するか。その勝敗にコインベットする。開店当初はディーラーの圧勝が続き倍額無しの返金+お気持ち。日毎に研究され勝利者が現われ総ベット山分けで沸いた。

一騎打ち勝利者はベットコイン2倍+山分け分加算。
実入りも損失も少ない時間の掛かる完全な暇潰し。

客同士でデュエルする練習台が有り、上限コインが行ったり来たり。弱者はカモにされる為、チェス盤を購入して帰る人が続出。一部の上流階級の中ではブーム到来。

シュルツのお土産にコマ数の多いハード盤を買った。
景品ではない。競える相手も居ない…ので頑張るか。

特別室は撤去され有料休憩ブースが増設。

初期状態で挑んだ結果も振り出し。
フィーネはルーレットで。ソプランはポーカーで。アローマはダーツで+。1日上限全部擂ったのは自分だけっす!
まあこんなもんさ。

程々で切り上げ支配人室でオーランド氏とお話。

「健全に成りましたね」
「ええ。これで気兼ね無く夜道を歩けます。スターレン様とお知恵をご教授頂いたムートン卿には毎日感謝を心で捧げて居ります」
こそばゆいなぁ。
「俺は打診しただけさ」

「闇商が消えて魔道具も入手出来なくなりましたからね。良い時期に商売替えが出来ました。その最後のご恩返しでお渡ししようと取り寄せた物が。少々お待ちを」
「お、なになに」
「何かしらね」

隣室の金庫から持ち出された物。

「指貫?」
「思い出のバザー品。あれの上位互換品が最後の最後で見付かりました」

茶革の指出しグローブ。

名前:投弓手の指貫
性能:射撃精度補正
   射出速度上昇
   射撃飛距離延長
特徴:これで外せる人が居たら是非会いたい

「これ着けてダーツやっていい?」
「良いです。と言うとでも?」
「冗談冗談。その思い出の品もつい最近マッハリアで入手してさ」
「襲って来た馬鹿が着けてたな。あん時は其れ処じゃなかったが」

名射手の指貫をテーブルに置いた。
「おぉ。奇遇とはこの事」
「こいつの呪い解除と改造にこれ使ってもいい?」
「それはご自由に。もうスターレン様の物ですから。旅のお役に立てれば当方、全従業者の幸いです」


暫く談笑を繰り広げ。昼食に進化した卵サンドとハムカツサンドを頂きお隣の新店へ。自宅でもやろう。


新規店舗名はセルフィン。

こちらは遊戯性を強調。ビリヤード、オセロ、
トランプは神経衰弱、7並べ。システムは隣と似てディーラー勝負も可能。2人以上のグループでワイワイ楽しくやる感じ。コインを賭ける場合はディーラー認証。

勝手な賭博行為は摘まみ出されて罰則出禁。

グループのゲーム数を制限して回転率は早め。順番待ちが発生するのは止む無し。

店舗オリジナルトランプ(店内用とは別)が売れ筋。

満員御礼で視察に留め遊戯場では遊ばず支配人室へ。
部屋は1階に入替えられ従業者エリアの奥に配置。妊婦さんでも安心して働ける配慮?だと思われる。

支配人はメルフィスとモンドリア。まだ安定期ではないが元気に夫婦机を並べ事務仕事と会計処理を捌いていた。

俺たちが来てティーブレーク。

「お腹も店も順調そうだね」
「お陰様で。モンドリアも頑張ってくれてますし」
「いやぁ。慣れない仕事ばかりで日々勉強です」
仲良き事は美しきかな。

「図書館の方ってどうなったの?」
「あちらは母のブエテナが就く事に決まりました」
「へぇ。まだ会った事無いな」
「私も」

「元々出不精でして。余り出たがらなかったのですが私の懐妊を知るや否や。身重で二店も掛け持つなんて許しません。と重い腰を上げてくれました」
初孫の為ならば。良いお婆ちゃんだね。まだだけど。
「丸く収まって良かった良かった」
「ホントねぇ」
モンドリアが頭を掻きながら笑う。
「まだ支配人の実感が湧きませんがメルフィスが産休に入るまでに何とか半人前位にはなろうと。補助の会計士にシルビィさんを雇おうと打診していた所…。見事母様に攫われました」
「あー。まあ図書館勤めが決まってたしね」
「仕方なし」

「はい。今居る従業者一同で頑張って凌ぎます。と探している内に慣れてしまう物なのかも知れませんが」
「クワンジアの移民組の中にまだ職先決めてない人居た筈だから声掛けてみれば」
「算術が得意な人も何人か居たと思う」

「それは良い事を聞きました。是非そうします」
昼勤の補助員でも大分仕事量変わるからな。

悪阻が酷かったら食べてみてと竜肉サンドを贈呈。
「悪阻に効くかは眉唾でも。疲労回復効果は有るから」
「信じる者は何とやら。口に合わなかったらモンドリアさんが全部食べて」
「私は重くない方ですが試してみます」
「前回の蛇肉が効いているのかも知れませんね。そして今度は竜肉とは…。これを頂ける僕らは幸運だ」
早速メルフィスが一口パクり、で固まった。が直ぐに再起動で1枚ペロリと平らげた。
「美味しいです!」
もう1枚もメルフィスのお口に吸い込まれた。
「あ、あぁ…。まぁいいか」
食べられなかったモンドリア撃沈。
「新年会でも出すからお楽しみに」
「そ、そうですか。良かった…」
まだまだ在庫は潤沢。上位種3人が食べないから俺たちだけでは食い切れぬ。プレマーレに至っては普段水か酒しか口にしてない。

アッテンハイムの教会内部に付いて2人にリサーチ。

「内部情報は流石に厳しいです。ご存じとは思いますが女神教は規律と従順を重んじ、秘匿が外に漏れる事は滅多に有りません」
「だよねぇ」
モンドリアも。
「お二人の交流と聖女様の帰還の影響で様変わりし。風通しが良くなったとは言え…難しいですね。噂レベルの話ならケイブラハム卿とモーツァレラ卿は物凄く仲が悪いとかは聞いた事が」
「仲が悪い?」
「はい。巡礼に大聖堂を訪れた冒険者ギルド所員が激しく口論していたのを偶々厠へ寄った際に見掛けたとか。
時期的には聖女様が奪われて以降です」
「ほぉ」
「良い事聞いたかも」
「離れた場所で会話の内容迄は聞こえなかったらしいのですが。一方的に怒っていたのはケイブラハム卿だったと」

モーツァレラの中身が入れ替わったと勘付いて問い詰めたんだとしたらケイブラハム卿は白。ペリーニャを守る為に無言に切り替えたなら。

「ありがと。参考に聞いただけだから気にしないで」
「運営頑張ってね」
「御力に成れず。申し訳ありません」
「こちらに専念させて頂きます」
2人は任を解かれた身。今更巻き込めないよ。

いいよいいよと押し問答。ムートン氏やギルマートも知ってる話だから余計な事はしないでねと付け加え撤退。

ぽっかり時間空いたらグループで遊びに来よう。




---------------

ニャ~。欠伸が止まらない。

我輩も大分猫っぽくなったなぁと思う今日この頃。

最近色々な女子に抱かれてふっかふか。眠いのは暖かい所為かニャ。ふわふわの所為かニャァ。

新入りピーカーのお陰で立場が危うい我輩。クワンティ先輩の通訳の座も奪われそう。

昨日からの任務はペリ子を守る事。クワンジアでも南国でも何も起きなかった。ラザーリアでも殆どふわふわお胸に挟まれ寝て過ごした…。

なーんもしてないニャーーー!!!

これはいけない。非常に拙い。褒められるような成功を挙げなければ。

降格、解雇、土に還される!だから頑張るニャ。

でも焦らない。焦りは禁物と毎日のようにスターレン様が反省してる。我輩も見習うのである。

上も下も左も右も。白い壁白い壁白い壁。
白い天井白い祭壇白い石像。お先真っ白ニャ。

女神も信者も白が大好き。お目々が霞む程解る。

ここの人間はペリ子含め見慣れた景色と普通顔。

白い絨毯から続く小さな祭壇。色違いは蝋燭の火の黄色と自分の赤毛と人間の肌と髪色。

人間は全員白装束。ペリ子とペリ子父。ゼノン隊から男女五人。

人払いしてから祭壇後ろを重点的に調べ始めた。

我輩は床に下ろされ壁際でゴロゴロゴロゴロ毛繕い。
毛が抜けないから毛玉も出来ず今日も快調。と呑気に調査風景を眺めていると、自慢のお髭が僅かに戦いだ。

ハニャ?

風の通り道…。いったい何処から。
現在地を起点に鼻をスンスンしながら端を徘徊。風が強く通る場所、臭いが変わる場所を探して。

丁度祭壇の真横に差し掛かった辺りで小さな隆起を床端に発見。しっかりとした風が抜けている。

ペリ子を呼ぶ前に隆起の凸部を前足でポン!

音も無く横壁が動いた。いや回った!
「ニャァ!」
回避が間に合わずに気が付けば壁の向こう側。

「グーニャ?」
ペリ子の心配声が極少で聞こえた。我輩は耳が良いから多分人間には聞こえない小ささ。

戻らねば。そう思い。猫目を駆使してこちら側の凸部を探した。…そこまで難解な仕掛けでもなく発見。

壁際に接近してないのを気配で探り、ポン。白い祭壇場に戻れた。

「ニャ~」と足先で凸部を指し示す。
「グーニャ!良かった…」
即抱き上げられたが他の面々は驚きの顔を浮べる。
「反転壁…だと」
「神聖な場に。犯人が女神教信徒でないのは明らか」
ペリ子父とゼノンは呆然。

リーゼルが前に出て。
「何人通れるか解りません。ここは私が。ペリーニャ様、グーニャをお借りしても」
「いえ私も。これで一人用とは考えられません」
いやいや俺が私がで数分議論。最終的に我輩を手放したくないと訴えるペリ子に皆が折れた。

初手はペリ子とリーゼルに戻り。ランタンを構えたリーゼルが床を探り探り踏んだ。

クルッと回転。通路を確認して我輩が釦を踏ん付けた。

「奥へと続く通路の広さ。この人数なら問題無い様です。
罠も考えられますので我々で前後を」
「うむ。ご苦労」

二人ずつ反対側へ。全員入った所で聖騎士隊に挟まれ慎重に前進した。

中の通路は煉瓦造りで所々白色煉瓦が組み込まれ隠蔽効果を発動させてはいるものの罠の気配は無く。一通通路を右に。その先には人間二人は余裕の白い扉。

とことんな白尽くめ。お腹一杯です。

ゼノンとリーゼルで扉を検査。
「魔力障壁の様な物は感じません。本館地下で掘られた白壁と同じ材質に鉄鋼を混ぜてある様子」
「厚みもかなりの物。破壊は難しく年代も解りません。昔からなのか最近造られた物なのか」
「…その白い材質は鑑定眼との相性が悪いようで。何度見ても中身が見えませんね」
ペリ子が残念そうに漏らした。

合鍵を受け取ったゼノンが鍵穴に差し込み。
「回せそうです。リーゼルと開きますので壁際に」

左右に分かれて離れて待機。我輩は蔦首輪を準備。
ペリ子の前に女性騎士が居て少し邪魔。飛び道具でも全展開すれば掴めるかニャ。

カチャリと施錠が解ける音。重い引き扉が地を擦りながら開かれ…。
「重いな…」
「っす。ふんっ」
一割程開けてからは全力で。上位騎士が全力?

空かさずペリ子が。
「把手に魔力を込めてみて下さい。開けと念じて」
「「ハッ!」」

魔力注入に切替えた途端、嘘みたいに軽く動いた。

五割開いた時。扉の先で小さな音が!人間の耳には届かない音域。

瞬時に蔦を格子編みに伸ばし開口全面に押し込んだ。
「な、何!」
「どうしたのグーニャ」
人間たちが驚く中。蔦の先で受け取る手応えと衝撃。

その数は百を越えた。

打ち止めを待ち。蔦を引き抜くと網に絡まった極太槍が百本以上捕獲成功。

「最初に力任せで動かした所為か…」
「罠が無い、訳が無かったですね。しかし凄い猫だ。お二人のペットは何れも」
「ニャ~」
褒められて良い気分。ペリ子に顎を擽られゴロゴロ喉を鳴かせた。

ペリ子父が直ぐ傍で。
「家にも欲しいな。何処で生息しているんだ」
何処にも居ないニャ。と首を捻って返した。
「内緒、だそうです」
代わりにペリ子が答えた。

元ゴッズだと喋った瞬間ペリ子父は大パニックで卒倒するニャン。信仰する女神様本人には認識されてるのに…。


そこからは更に慎重に。小石や鉄球を幾つも転がしカンテラを追加して槍仕掛けの壁を迂回した。

一本道を回り込んだ先から漂う臭気。強い酒精の中に排泄物の臭いも。我輩だけかニャ~。

接近すると同時に皆も気付き鼻を押さえた。

突き当たりと思われた空間にカンテラを翳すと。
片隅で両膝を抱え譫言と涎を垂れる男の姿が浮かび上がった。髪と髭は伸び放題。装束は汚れ切って穴が空いて見るも無惨な姿。我輩は別に何とも思わないけどニャ。

「モーツァレラ…なのか」

ペリ子父の言葉にも反応しない彼は壁の一点を見詰め、また譫言を吐いた。…女神様?何となくそう聞こえた。

皆が視線の先を辿る。そこには一枚の裸婦画。
「何だこの絵は!」
父激怒。ペリ子は顔を背けた。
「ラザーリアの地下施設に飾ってあった絵と同じ構図です。作者が同じ。でも前勇者は自分で描いた物ではないと自慢していました。私に見せ付けながら」

ペリ子は全身を震わせる。悪寒で寒かろうと少しだけ我輩の体温を上げた。
「有り難う。グーニャ…。勇気を」

「何処の何奴か知らないが不愉快!持ち帰り灰にせよ」
「ハッ」

絵を剥がそうとしたゼノンの足に男が縋り付いた。
「うぅ…。あぁぁあぁ…」

「自我が崩壊して見え難いですがモーツァレラ卿で間違い有りません。重度の薬物中毒…。強い洗脳…。竜血薬も逆効果。ヒールも効かない。私の手に負える物では。
縄で縛り猿轡と目隠しを」

リーゼルがモーツァレラを絞め落とし。他の隊員で縛り上げ広いシーツに包んだ。

絵を丸めたゼノンがペリ子に差し出した。
「私が触れて良い物では有りません。お辛いでしょうがお預かりを」
「解りました。後で私が燃します」

リーゼルがモーツァレラを担ぎ出し、その場を後にした。

我輩。また活躍出来んかったニャーーー。




---------------

夜に呼び出された俺たちは医療用の道具と薬品を揃えてアッテンハイムへ飛んだ。

案内されたのは本館の1室。
グリエル様とゼノンたちがお待ち兼ね。

「やっぱり居たか」
「はい。とても酷い状態でしたが。生きてはいます」
ペリーニャが言葉を選ぶ程、酷いのか。

移動前のグリエル様の部屋。寝室のベッドにガリガリに痩せ細った男性が拘束されていた。

部屋に入ってから。
「ここにしたんだ」
「敵がまだ身近に居るなら必ず来ます。下手に他で匿うと露呈する元だと判断して」
割り切って誘い込む策。悪くない。接近を図る者だけ対処すればいい。大量の聖騎士が待ち構えるここで。

「グーニャはもう少し延長ね」
「ニャ~」
フィーネに撫でられマジッすか!の表情。
「新年会でお返しします」
「うん。それでお願い。人間は警戒するけどグーニャの存在を知らなければ油断が生まれる。戦闘力まで知ってる人は極僅かなのよ」
「ニャ…」
渋々頷いた。

さてと。問題のモーツァレラ本人。

自分で掻き毟ったであろう首筋を避け、肩口を触診。

名前は本人。状態は、ボロボロ。
大麻、他麻薬、神経毒、洗脳。脳は萎縮が見られ記憶を戻すのは絶望的。重度の痴呆症と同じだ。

一通り説明した上で。
「口から固形物を食べさせるのは厳禁です。差し水も様子を見ながら。吐いて喉を詰まらせます。
1週間分の点滴を持って来ました。腕の血管に注射して直接水分と最低限の栄養素を与える食塩水です」

ペリーニャと修女と女性騎士に点滴の使い方と消毒などの注意をフィーネから説明。

「年単位の薬物が1週間で解毒出来るかは運次第。彼の生命力に期待するしか有りません。
呼吸状態が乱れず、起きても暴れない。その状態になるまでこのまま。意識を取り戻しても、廃人確定だとしか今は言えません」
「希望は無いのか」
グリエル様が目を交互に向ける。

「運任せですが。起き上がって自分で水を飲めるように成ったら竜血薬を与えましょう。身体との相性が良ければ改善します。全く変化が無ければ…」
「打つ手無し、か」
1月中の復帰を望むのは不可能。寧ろ一生このまま。

「一応浄化掛けてみる。毒に当て嵌まらない麻薬に対しては気休めだろうけど」
「私もお手伝いを」
聖女と水巫女が手を取り合い、片手をモーツァレラの胸に置き深く念じた。

ほんの僅か。呼吸の乱れが収まった。気がする。

終わった後で再触診。
「…消せたのは神経毒だけだな。それでも。脳が縮んで失われた記憶は、道具でも薬でも戻せない。
女神様に祈りましょう。その点、僕らは部外者なので」
「ああ。祈りは我らの領分だとも」
一呼吸置いたグリエル様が。
「死なせては敵の思う壺。警備を強化しつつ。万一容態が急変した場合に、何時でも家族を呼べるよう連絡員を待機させて置け」
控えの聖騎士が跪き。
「ハッ!女神様の御心のままに!」
何度聞いても格好いい!

ゼノンが唱えたその女神のフレーズにモーツァレラが反応した…。今度こそ気の所為かな。
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