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第208話 ギリングス内戦終結

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ペカトーレ案件も片付きお次はギリングス突撃訪問。の前にサダハんにお歳暮ご挨拶。

出張組全員+モメットで王城の門をぶん殴った。

「毎度毎度行き成りだな!」
玉座のサダハんは毎度ご立腹。
「何度も来てるのに顔見せないと逆に怒るでしょ?」
「しなくても怒る。しても怒られる。幼児退行ですか?」
「この玉座の間で王を馬鹿にするでないわ!…で、今日は大勢で何用だ。初めて見る者も居るが。
西か東かその他か」
レイルが居るので棒立ち挨拶がお気に召さなかった様子。

後方で跪いているのは従者とメリリー、ラメルとモメット、フラーメっす。

「年末のご挨拶に来ただけです。お元気そうで何より」
「一応タイラント土産もお持ちしましたが受け取られますでしょうか?」
「挨拶だけか…。まあ良い。折角持って来たのなら置いて行け」
4人の妃様が苦笑いから見せてと言いたげな表情に変化した。

タイラント産の土産と言えばこれ。

進化した大型汎用冷凍庫+冷蔵庫+肩凝り解消按摩器。

玉座の前にドンと置き商品説明。
「外装配色が紫が冷凍庫。痛みの早い魚介や生肉が一瞬で凍り長期保存が可能。配色朱色が冷蔵庫。主立った根菜は低温保存に適しませが真夏に嬉しい冷製料理を直前まで冷やして置くなど使い方はお試しあれ。
温度設定は上下変更可能ですので是非管理者を。
按摩器は肩凝りの激しい方や座り仕事でお疲れの腰回りの滋養に役立ちます。振動は任意で使いながら調整為さって下さい。
夜のいとな」
フィーネさんに頭を叩かれた。
「ご自由にどうぞ」

「つ…遂に、ここにも冷蔵庫が…やっと」
「大変良いですね」
イプシス様が喉を鳴らしてイザベル様は頬を赤らめた。他の2人はワクワク顔。

「冷蔵冷凍庫はお好きな場所に設置しますので後にご案内を願うのと。本題ですが、これからギリングスのカルツェルク城に伺います。何かご伝言でも有るなら伝えますが如何かと」
「そちらが本命なら先に述べよ。もう気付いておるだろうがプリメラとは仲が悪い。犬猿の仲と言う奴だ。国交は全く別だが率先して話はしたくない」
私情を前面に押し出して拒絶。余っ程だ。
「内乱で泣き付いて来たら聞いてやろうと考えていたがお前が解決に導いてしまったからな!」
「私は巻き込まれただけです。半強制的に」
「気位の高い女性は好みではない。の間違いでは?」
とイプシス様が横槍を突っ込んだ。

それは聞こえなかったと咳払い。
「良かろう。こちらからの進言は特に無い。西側海域に溢れた海賊は片して置いたから気にするなと伝えよ」
「承知致しました」
こっちにも流れて来たのか。

案内された地下倉庫に2台設置し即時退城。
                   
シャインジーネで昼食を済ませ自分たちの部屋をエリュダンテに取り訪問メンバー選出。

最上階のレイルたちが取った部屋でお茶しながら。
「行くのは俺とフィーネとクワンは確定。まだ平定してないって聞いたから人数は少ない方が良いと思う。他はどうする?」
「俺らも行く。従者らしく。ちょっとは囓ってるしよ」
「ですね。進捗はこの目で見て置きたいかなと」
ソプランとアローマは参加。

「私は遠慮するよ。何も関わってないから」
フラーメは外れた。

「面倒じゃからの。昨日蝙蝠を飛ばしたが特に見るべき物は無かった。どの道帰れんからここで待つ」
レイルたちは待機。

当然モメットも待機組。

「海方面は戦い起きてた?」
「いや。もう諸島で数カ所。掃気戦じゃな」
「大詰めかぁ。どうするかな…」
「巻き込まれたり…しないよね」
「う~~ん。可能性は大いに感じるけど行ってみよう。個人的にも気になるし」
「城内が荒れてて女王と話も出来ないってなら帰ればいいだろ。何か頼まれても日を改めるとか何とか」
ソプランの言う通り。改めるが正解ぽいな。

じゃあ行こうと席を立った時にレイルが催促。
「何か、忘れておろうが」
「バレてる?」
「クワンティの眼を通してな」
ピーカーの存在を。

「はぁ…仕方ないわね。ピーカーちゃーん。出たい?出たくない?」
バッグの蓋を開けると超小型狼が顔を出した。
「き、緊張しますが…」
意を決して震えながらテーブルの上に飛び乗った。
「お…お久し振りです。レイルダール様。ご、ご機嫌麗しゅう…」
「うむ。苦しゅうない。妾の使い魔に」
「駄目だって言ってるでしょ。何時も何時も。何でも欲しがるの止めて!」
保護者フィーネがピーカーに手を伸ばそうとしたレイルの手を叩き落とした。

「冗談じゃて。何時も何時も怒るでないわ」
普通にモフモフを味わいながら。
「従魔契約はせん方が良いじゃろな。魔物であって魔物でない。聖獣はゴルスラのような精霊に近しい生物じゃ。
主となった者の身に何が起こるか。妾でも想像出来ん」
「ふ、ふーん。する積もりは無かったから大丈夫よ。教えてくれてありがと」
何が起きるんだ?ちょっとだけ気になる。

モメット然り他の人が凄い!珍しい!言葉を喋る!可愛いの賛辞を叫ぶ中でフラーメは違った。
「この子がずっと私の中に居た子かぁ。何だか懐かしいような切ないような…寂しいような」
飽きたレイルからピーカーを受け取り掌の上に乗せ、感慨深げに眺めた。
「人間に憑依するのはもう…。依頼が無い限り控えます。また出られなくなったら困るので」
姿形や言葉遣いこそ全く違うがこの2者は雰囲気が似ていると感じた。20年と言う長い年月一緒に居ればね。

「美味しい物でも食べて元気出せよ。ペカトーレはきっと上手く乗り切れる。布石も打った。俺たちも放置して逃げる訳じゃない」
「うん…。そうするよ」

返却されたピーカーをフィーネが受け東に出発。




---------------

王宮前の広場に飛び出た俺たちを出迎えてくれたのはここへ送り届けたサイラス隊の大多数。

偶然にも討伐報告を上げに通り掛かった所に出会した。
相変わらず運が良き。

隊長サイラスを捕まえて。
「久し振り。討伐の進捗は」
「今朝方丁度。残党狩りが終わりました。人質となっていた者たちは…全員では有りません。ですが、遺体は綺麗な状態で収容出来ました。
その家族だった討伐員が暴走したのも有り、多少の混乱は起きましたが何とか」
自分一人の運勢では全ては救えない、か。

何の慰めにも成らない二の句は飲み込み。サイラス隊や衛兵と一緒に宮内へ参じた。

先に謁見の間へサイラス隊が入り俺たちはその報告後。

隊員は端に避けられ座前には自分たち。フィーネは隣にソプランたちは後ろで跪く。

恒例の挨拶を経て顔を上げた。

前よりも多少疲れてはいるが顔色は良い。先に終結報告を聞いたからか。

「大筋の結果は先程サイラスから聞きました。終結御目出度う御座います、プリメラ陛下」
女王の隣席には笑顔のマルシュワ。対岸は空席。相変わらず王様は不在。

「先祖代々の念願。悩みの種。他国に恥じる膿。海賊討伐が漸く。漸くに成就した。善き日だ…」
一呼吸置いて。
「此度の助力に感謝を、スターレン殿。隣が」
「お初にお目に掛かります。妻で外交次官のフィーネと申します。先回は別仕事で同席為らず、大変な失礼を。
後ろは専属の従者にて」

「何を言うか。無理に呼び立てたのはこの私。謝罪を述べるべきはこちらだ。娘も無事に帰してくれて何の文句が言えよう。
祝辞と持て成しの宴を設けたいが時節が悪い。親しき者を失った者。戦いの中で倒れた者。それらの保証や事後処理も有る。年明けの予定はどうだ」
何とお祝いの席にお呼ばれ。
「1月中でしたら。2月以降は長期でタイラントを離れる予定が有りますがご招待を頂けるのでしたら是非とも調整をしたいと」
この場でお断りするのは失礼に当る。

「一月か…。間に合えば案内状を送ろう。間に合わずとも借り物の返還では呼び出す。それまで暫くの借用延長を頼みたい」
遠距離攻撃防止道具の事か。
「お役に立てたなら幸いです。貸与は御心のままに。不要となった暁に返却頂ければ良いかと存じます」
「うむ。あれが無ければ被害は最小には留まらなかったであろう。重ねて感謝する」

「お話は変わりますが。タイラントに来た海賊共から押収した船45隻は如何致しましょうか。無傷で当海域でお預かりしたままで、処遇に難儀して居ります」
「船か…」
隣のマルシュワに視線を送ったが彼女は首を横に振った。
「良い思い出など欠片も無い忌まわしき船。もう二度と見たくも有りません。
私の気の所為かも知れませんが…。あれらの船全体から何か呪いの様な、不穏な気配を感じていました。

乗せられた時は目隠しされ目視では有りません。
スターレン様。お手数ですが調査の後に解体を。木材や鉄等の金属は当国の復興や復旧、新たな船の建造に役立ちます。
資材として貴国と当国で折半すると言うのは如何でしょう。貴国に対する謝罪費、慰謝料の代価としても」
船、全体から…。

「その点、盲点でした。至急大型船から調査し解体してみます。
部材でなら幾つかの収納袋で分け、一度で運ぶ事も可能です故」
妥協案としても申し分ない。俺たちのバッグの性能をお披露目しなくて済む。一挙両得。
「次の召還時迄にはご用意を整えるとお約束致します」

速攻で船の処分方法が決まった。

金銭ではギリングス側の復興の妨げにも成る。姫は前々から考案していたのかもな。

「ではその様に。此度の大義、苦労を掛けた」
「いえ。ご心労には及ばず。我らは只、こことの往き来をしただけです」

ミラン様からの慰安の代わりだとプリメラ様にも大型冷凍冷蔵庫2台と按摩器数個を献上し退城。


船全体は見てなかったなぁ、と話しながら王宮前広場に歩く途次。丁度門間に差し掛かった時。

前方から1人の赤色が急速接近。堂々と?城内を?

誰よりも早く動き出したソプランに。
「待て、殺すな。ここでの処罰は拙い。どうやら標的は俺のようだ」
「チッ…」
異国の城内での勝手な殺生は好ましくない。

普通に歩く俺たち。俺に向かって走って来る者。そいつは門番や衛兵の間を擦り抜けると抜剣して叫んだ。
「貴様がスターレンだなぁぁぁーーー」
大粒の涙を流し泣きながら。

大勢から恨み辛みを買い過ぎて心当りが山程。

ギリングスの兵装をした男。彼に気付いた衛兵たちも動き出す。

「あの野郎…この国の兵だったか」
「あれは…」
ソプランとアローマには心当り有る様子。

衛兵の動きよりも早く。ソプランが暴漢の長剣を籠手打ちで叩き落とし、脇腹に蹴りを入れて後ろ手を取り床に組み伏せた。

一瞬の出来事。他の衛兵では誰も付いて行けない。

「こんな所で何してやがる!」
そう叫んだのはソプラン。
「お前らが!!お前が!もう少し…。後数日…早く動いてくれれば!俺の…俺の妻は。うぉぉぉおぉぉ」
「逆恨みか…」
残念そうに一言。

どうやら亡くなった捕虜の夫。

俺たちも前に行き。
「誰かの家族か」
「確か男の名はサインジョ。カーラケルトで私たちに声を掛けて来た行商です」
アローマが代わりに説明してくれた。

「ルイダは…。ルイダは隣に居た子供を庇って…。ぐそぉぉぉ!!」
「希望を持たせて済まなかったな…」
あの時はあれで最短だった。虚しい言い訳。

泣き叫ぶサインジョを近くの衛兵に引き渡し。
「俺を恨んでくれて構わない。憎しみで生きられるならそれでも。頼むから生きてくれ。そのルイダさんの為にも」

後味はとても悪い結果だが。俺に剣を向けた行為は不問とし酌量を言付けて中門を潜った。

「甘いな、お前にしては」
ソプランの苦言に苦さ半分。
「偶にはね」
「私は好きよ。そんなスタンも」
「胸に留めて、流しましょう」
難しいね。人助けって。




---------------

翌日にサドハド島に訪れ年末見舞い。島民皆大病も無く元気で安泰。新鮮な土産に海胆を貰って幸せ。こちらの土産は魔石コンロ、冷蔵庫、浄水器等の日用品雑貨。

帰国後。自宅で解散した後にロロシュ氏と城に南国訪問結果を報告してからギリングス海賊船が停泊する無人島へ転移した。

今は船を監視する兵士隊が島の北と南海岸にテントを張って駐留。

隊長に陛下から貰った解除命令書を手渡した。
「ご苦労。休憩したらウィンザートに帰っていいよ」
「ライザー殿下に報告も。交代で休暇を取ってね」
「ハッ!野営テントを片したら直ぐに。監視中も船に特別な変化は無く…正直退屈で死にそうでした」
だろうね。
「船本体には触れてないよね」
「一切触るなとのご命令でしたので。接近する不審者も人影も皆無で…。船は解体と有りますがお手伝いは」
「要らない。ロープ使うから見たければ好きにして」

「おぉ…。間近でスターレン様のロープ捌きが見られる!
手空きの者も呼んで見学させて頂きます!」
シュルツ以外真似出来んと思う。

仰々しく敬礼を返しテント群と北側野営地へ散った。


岸壁に寄せ極太の縄で数珠繋ぎにした風景は以前と何ら変わり無い。自分たちでやったのだから。

マルシュワ姫が感じたと言う不穏な気配。しかし兵隊長と同じく別段何も感じ取れなかった。

押収した物品は食糧、調理器具、水樽、捕虜を隷属する首輪や腕輪。丘に埋めた指針器の受信器。埋められた指針器も勿論回収済み。隷属系は粉にした。

指針器と受信器はセットで保管(バッグに収納)中。

タラティーノ海賊団の武装は剥がして人員と一緒にカルツェルク城に全部運び込んだ。

組織の幹部が乗っていたにしては道具類の少なさに違和感は有った。

動力の魔石も残らず抜いて船は動かない。

双眼鏡スキャンでも生物らしき影は映らない…。
「おやおやぁ~」
「何?何か見えたの?」

「操舵室の床下。人一人入れる空間が有る。前は見えなかった」
看破のカフスをフィーネに手渡し覗いて貰う。
「あら、ホント…。床下収納にしては微妙な大きさね。何か置いてるみたい。大型船と左右の船にも同じ小部屋が有るわ」

カフスと双眼鏡をたらい回しで皆で確認。

手に戻った所で。
「ちょいあの小部屋周辺抉ってみる」

岸壁の端からロープを伸ばしてケーキ入刀。ブロック状にカッティング。中央大型船の物から順に狭い砂地に置き周囲の異物を取り除くと…。

透明な(他の人には)黒い石棺が現われた。

並べ直して蓋の把手に手を掛けようとしたその時。
「クワッ!」
クワンが大きく鳴き、フィーネのバッグを叩いた。
「ピーカー?」
バッグを開け。
「他の兵士さんたちは離れてるから喋っていいわよ」
「その蓋は開けないで下さい!非常に危険な臭いがビリビリします」
臭いがビリビリ?ピーカーが言うと何だかアレだな。

「おぉありがと。うっかり考え無しで開けるとこだった。
こんな厳重なのに罠が無い訳無いよな」

白手袋を装着してグラサン再鑑定。
箱の外から何度も何度も丹念に…。

名前:三呪の極大破滅
性能:1個の場合周囲2km内の物質全てを高密度圧縮
   2km内に同種2個の場合更に高密度圧縮
   同種3個の場合、圧縮完了後に極大爆発
   (推定被爆範囲:最低5km。内容物で変動)
特徴:蓋を開けたら最期。猶予はほんの3秒間

「「「「「「…」」」」」」
危ないとかの騒ぎじゃねえ!

「ピ、ピーカー君に何かご褒美あげないと…」
「そ、そうね…。珍しい岩塩でも探しましょうか」
「何も出来ねえ」
「同じく」
「クワァ」
「撫でてくれるだけで結構ですよ」

上等な動物用のシャンプー(カメノス製薬)を購入しよう。

「保管場所に困るな。深海倉庫には時計置いたし」
流石に可逆時計の傍に爆弾は置けない。真上に魚人さんたちが住んでいると聞くし。
「う~。ガチガチに縛ってバッグに入れて置くしか」
バラして持っていても怖いとあって代表して俺が持つ事と相成った。

それから穴が空く程船を観察し、一気に解体処理。金属とその他に仕分けて4つの収納袋へ均等に納めた。

トイレに使われていた箇所は岩場に固めて燃やし撤収作業は完了。処理を始めて2時間と掛からなかった。

見学していた兵士たちの拍手に見送られ帰宅。船に触らなくて本当に良かったなと心で唱えて。




---------------

明くる午前に牢屋で優雅に惰眠を貪るタラティーノを金椅子に座らせて再尋問。

「船に仕掛けられたあの破滅道具は何だ。危うく死ぬとこだったぞ」
「質問され無かったもので。…死んだら良かったのに」
椅子に座っている所為か正直だ。
「素直で宜し、じゃねえよ!あれは誰から受け取った」
「昨年。ペカトーレ支部が健在だった頃に支部長から海上で授受を。西の本部からかクワンジア経由なのか。将又別の迷宮産なのかは不明です」
「出所不明品か。その支部長とは誰だ」

「アデルと名乗る男です。出自は知りません」
「聞いたことないな。誰だ」
「有るような無いような…」
偽名かも。フィーネも朧気。後で検索してみよう。

これ以上は何も聞き出せず尋問を終えた。
「アデルが見付かったらまた来る」
「何か読む物を入れて貰えないでしょうか。ここでは時間が有り過ぎる」
何かに使えると延命しているが只ゴロゴロさせるのもさぞかし暇だろう。
「なんか入れてやるよ」
当たり障りの無い何かを。


嫁ちゃんはモーランゼアと南国土産を持って上へ。俺は自宅に帰ってからロルーゼ訪問を終えたトロイヤから本棟で会食しながら結果を聞いた。

一通り話を聞いて。
「…ローデンマンが平伏する女か。あいつが結婚ねぇ。ちょっと想像出来んな」
「俺も不思議です」
トロイヤは居心地悪そうに周りをキョロキョロ。周囲を行き交う侍女や従者に視線を送っていた。
「情報漏洩なら気にするな。ここの人間は口が堅い」
「ええ、まあ。活気が有るなって」
と曖昧な返事とソプラン経由で渡された古竜の泪をテーブルの上に差し出した。

元はアローマに持たせた物。
「もういいの?」
「こんな大それた代物は持てませんよ。感情抑制の指輪で充分です」
「そか」

反対側に座るアローマの前に置き直した。
「また私で宜しいので?」
「良いよ。人数分足りてるし」
「に、人数分!?」
トロイヤが眼をひん剥いて驚いた。
「内緒だぞ。ティマーンには別仕事を依頼して王都に居ない。奥さん連中はお隣の菜園の手伝い。子供たちには初等教育。ティマーンが帰って来たら全員纏めてハイネ観光を予定してる。
それまで少し空くけど何か気になる事は有る?」
「何から何まで規格外の好待遇。身に余る、と言うか返し切れない」

「気にすんなって。有能な人材には働きに見合った報酬を払う。商人の基本だろ。逃げられない位に恩も売る。
トロイヤの場合は敵本部に固有スキルが認知されてるから狙われ易い。俺たちが本部を叩き潰す迄は派手には飛べないけどな」
「…西に、乗り込むのですか」
「何時かその内。具体的な時期は決めてない」

トロイヤが天井を仰いだ。
「気になるのはやはり俺の両親です。西に近い場所に居て死んだと言う話は聞いてません。出来ればこの手で…」
「いいって。止めろと言っただろ」
「しかし…」

「そんなに気になるなら後で検索してみよう。少なくとも居場所は解る。生きていれば。
アローマたちがクエに行った時って全部壊した訳じゃ無いよな」
「はい。諸島拠点の牢獄周辺だけです」
「下層をちょいとな。上っ面の連中は一般人が混じってたんで手付かずだ」
とソプランが加えた。
「幹部や上層は丸々生きてる。フィオグラの関係者も丸残りでそっちは解散させただけ。ウィンキーと合流する可能性が有るけど。どっちもある程度泳がせないと組織の動きが掴み辛くなる」
「今は居場所を探るに留めるべき、ですか」
「そゆこと」

昼食会が終わり自宅へ移動しようと席を立つ。
「俺が貴方の自宅に入っても?」
「リビングまでな。嫁さんの許可は得てる。俺たちの寝込みを襲うのはかなり難しいぞ」
「…そんな危険が有るのに」

「裏切る積もりなら家族連れてとっくに逃げてるだろ?」
「まあ、確かにそうですが…。もしも俺が敵に操られたりしたら」
「うーん。その時はその時」
複製品の対呪詛指輪の1つをトロイヤに差し出した。
「上位種族の強力な呪いまでは防げないが人間が作った呪詛道具レベルなら防げる指輪だ。抑制指輪の袋に入れておけ」
「またこんな代物を」

「面倒臭い奴だなぁ。自由に表を歩きたいんだろ。奥さんや娘さんたちと一緒に」
受け取りを躊躇ったトロイヤだったが意を決して掴み取った。本当の自由を手に入れる架け橋を。
「誠心誠意。貴方様に尽くします!」
「重いって」

仕事が無くなったら鳩みたく手紙を届ける配達員なんて向いてるかもな。などと談笑しながら自宅に移動。

2階の掃除を終えたプリタが1階に下りて来る頃。
「今日は1人?」
「ふぁい。ミランダは定期検診で医院の方へ。整えるだけなので楽勝でっす」
「適当に休憩しろよ」
「はーい。新しいお客様ですね。茶入れはどうされますか」
「私がやりますのでお庭の方を」
入れ替わりアローマがキッチンに入った。

不思議な物でも見るような目をトロイヤが向けていた。
「そんな不思議か?貴族階級の屋敷よりは小さいだろ」
「いえ…。別に不思議では。慣れない、と言うか世間は広いなと」
変な事を言う。

リビングの床に最大の世界地図を広げ自宅位置にコンパスを置いた。

「両親の名前は?家名入れるとより正確に出るよ」
「父がサムス・ランバート。母はニョルです。親戚兄弟は居ません。俺が出た後で養子を取ったかは不明です」
余り大きくはない家柄か。一人息子を奉公に出しちゃう位に並よりは下。

ソーヤンに金積まれてホイホイと。金に汚そうな印象。

何処に出るか。羅針コンパスに指を置き一念。

針はクルクル回り、トロイヤの記憶通りにクエ・イゾルバを指し示した。2人共同じ場所に居る。

✕印を記入。
「2人共中央大陸最寄りの島に居るな」
「やはり…」
「そこなら牢屋の一つが在った島だ」とソプラン。
ふむふむ。
「トロイヤ。アデルって名前に聞き覚えは?」
「アデル…。何処かで聞いた気もしますがハッキリと誰かは解りません」

アデルを検索。何と浮かんだのは2人。初めてのケースだが同名の人物が居ても不思議じゃない。この世界にも億単位の人間が居る。

1人はトロイヤの両親と同じクエ・イゾルバ。島は1つ隣の別島を指した。

もう1人は南島大陸のキリータルニア王国を示した。レイルが行商として冷やかしに訪れた国。浮かんだ位置的に分割王都の第二王都のスリジオンのど真ん中。因みに第一王都はアリデオン。

何故分割さているのか疑問だが実際に見たレイル曰く、都心部は複雑な構造で隠れるには最適だとか。心部には寄らず南側に広がる貧民街と南部の町アーレントを往復して小銭を稼いだらしく詳しくはない。

「同名の人物が2人。断然怪しいのはクエ内に居る方だけどナリオンも捨て難い」
支部長を務めた男が潜伏先として選ぶ場所はどっち。

クワンはフィーネと居るので今は聞けない。

ウィンキーも検索したがまだ浮かばなかった。記憶はロストしたまま。若しくは改名したか。改名だとしたら厄介極まりない。
「この4人の動きをちょくちょく追ってみるか」
「キリータルニア…」
「何か心当りが?」

「一度だけ。ソーヤンが口にしていた記憶が有ります。クエに手が出せないならそっちを任せて貰えませんか?フィオグラなら足で踏んだ場所です。そこから馬車で」
「それだと時間が掛かり過ぎる。近くまで一緒に飛ぶ。
単独行動も許可出来ない。行くならティマーンとセット。
病み上がりのティマーンの完全復調待ち。2人の偽名と商会の作成。武装の新調。
その他準備諸々でやっぱし来年!」

お茶を運んだアローマが穏やかに。
「落ち着かれては。焦りで良い結果が生まれた試しは有りません。何より。奥様にご相談為されたのですか」
「あ…いやそれは、何も」
「今はご家族と腰を据えて過ごされて如何でしょう。失われた時間は短くないとお見受けします。子供の成長は早く逞しい。例え親が居なくとも。
このままでは忘れられてしまいますよ」
「家に帰って。あれ?あの人誰だっけ?て言われるぞ」
「…不徳でした。返す言葉も無い。ロルーゼから来る移民団の知り合いを確認して、今はゆっくりさせて頂きます」
椅子に座り直して出された茶を啜った。

大事を見据えて足元を見ず。では失敗の元。
自分も落ち着いて冷静にと省みた。

今夜は俺もフィーネと話し合おう。近い将来に向けて。
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俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

家ごと異世界ライフ

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突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

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