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第203話 時計の販売権

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モーランゼア再訪問のメインは時計案件。

買い物や配達は嫁さんたちで遣ってくれるんでおらは販権交渉に集中するだ。

旅のお供は鳩ちゃんが居れば寂しくない。

さて見せられる物は出来た。問題は話の持って行き方。

相手が完全に立場が上なんで下手に出るしか無いのだがこれまで拵えた恩の押し売り分強気に出ても通る、気もするのはおらだけだべか。

良しここは一つ。土下座して弟ケイルガード氏の足に縋り付いて懇願し。足の甲でも舐めてみよう。

…具体的プランが何も無いんです!

西城門を潜り代王様の所在を尋ねると普段は時計工房に入り浸っていると答えが返った。

趣味なのか国民へのアピールなのか。又は小型化ではない別の何かを追い求めている?

イイテンが迎えに来るまでの間。門付近の桜並木を眺め歩いた。

満開の秋桜もスルーしてしまったし。もう葉も落ち木々も冬支度を済ませていた。

すっかり禿げ。が正しい表現かは別にして。

「スターレン様」
「久し振り。て言っても一月半位?今日はイイテンだけか」
「それ程でしょうか。工房へご案内するだけですので私一人で充分かと」
「そやね。城内で何か変わった事は」
歩きながら世間話を。

「特には無しです。強いて言えば正王が健常に痩せられた事位でしょうか」
「へぇ。ダイエット成功したんだ」
「目的は体力増強増進で有ったのですが。スターレン様から頂いた盾を片腕に宮内を歩き回られてメキメキと」
あの盾も役に立ったんだ。本来の目的とは違うけど。

他のプライベートは最近ニドレアさんと婚約したそうな。

御目出度うと伝えると尻に敷かれて大変ですね。と惚気が聞けた。

女性が強い方が平和だよ。男はお馬鹿さんだから。


工房内に入るのも見学時以来。今日は見学コースとは違う部屋に案内された。

弟ケイルガード。詰りは工房長の研究私室へと。

一見すると我楽多が積まれた作業台の前で繋ぎの作業着で代王は座っていた。
「良く来た。ここでは茶は出ないがゆっくりして行け。ここへ足を運んだ、と言う事は出来たのだな」
「はい…。本物の代王様ですよね?」
「如何にも。変かね」

「作業着姿の王様って。中々お目に掛からないもので」
「所詮は代理だ。最近の御告げで三年後に正王の退位が決まった。私も晴れて自由の身。今更取り繕う必要も無いのだよ」
そんなあっさり決まる物なの?
「退位と言うのは。ご子息太子に管理が引き継がれるとの認識で」
「良い。存命中に代替えするのは珍しいがね。前例も無くは無い。全ては女神様の御意志で決定される。当人も臣下も誰も喜びこそすれ反対意見など有り得ん。
君からすると不思議だろうがここはそう言う国柄だ」
「な、なるほど…」
最早口を挟めない。

女神様が気を回し。正王が病弱だから退任を早めたのかとも思う。


「早速だが見せてくれ」
「何を見ても驚かないで下さいね」
「覚悟は出来ている」
その自信が揺るがないのを祈ります。

祈りながら作業台の空きに試作版の小型器を出し。背蓋を外してご説明。

「もうここまでに成ったのか…」と声が漏れた。

心臓部:指針器信号受信体と保護・固定板。受信体に白無垢ダイヤと固定板にはペラニウムが使用され、値段を引き上げている要因の1つとなっている。
独自試作版は水属性魔石に変更。正常動作検証済み。

動力部:マウデリンに魔力を込めるか雷魔石で銅板電動とするか。マウデリンのままだと精度は良いが希少金属で人権費も嵩み非常に高価となる。

調整器:外装板はジュラルミンorアルミ+アルマイトが主流。内包する中身の魔石属性で使用用途を変えられる。時計は水。自走車は地。船の推力には水火風など組み合わせが豊富。
ハーメリン王宮工房産では遠距離指針読み取り器・位相計・方位計・深度計がセットになって大型化している。

歯車:時分秒を分割・等倍する刻み板。

連動板:時分秒間を繋ぐ同期板。繋ぎも歯車に付随すれば不要。

「心臓部と動力部は単一化してしまえば小型化は簡単。石も白ダイヤや青ダイヤでなく水の上位魔石で充分。コスト面でもダイヤに比べればまだ安い。
調整器の水魔石もキューブを止め真球体に。比重計にも似た意味不明な深度計を排除してしまえば小型化は容易だと思われます」

「…調整器は試作していないのかね」

ヤンが試作した樹脂板サンド無し中抜け品を持って来てはいるがどうしよう。
「ここから先は販売営業権を頂かないと見せられません。頂けないなら封印してサメリーへ小型化案を投げます」

「うむ…」
腕組みで唸り目を深く閉じた。
「与えよう。ここまでの分析をした者を認めなくては我が王国の沽券に関わる。
君なら無償で配り歩いてしまうだろうからな。タイラント内外の隣人知人へ」
「良くご存じで。新型調整器や電動式の特許はこちら側になりますし。その分で充分元は取れます」
素案は完成済みで試作して提出するのみ。零から追い掛けられても申請するのはこちらが先。

「君のを見せて貰う前に。こちらも礼儀として昔話をしようと思う。別の部屋に移動するが時間は」
「今日自分はここだけですので幾らでも」

続きは過去作品の展示室。王族しか入れない部屋でお茶をする事と成った。

肩にクワンが乗っかったまんまだがお招きに預かった。


室内には歴代の小型器がズラリと並べられていた。途中途中持ち込んだ試作器と同等の物も。

全て時は刻んでいない壊れた古時計。童謡と同じで少しもの悲しい雰囲気。

「中には動く物も有ったが動力部を抜いて止めてある」
一口茶を啜り。
「不思議だろう。小型化を為せたのに大きな物しか出回っていないのが」
「ええまあ。小型化すると精度が出なかったり国が儲からないからとか邪推しました」

「その一面は否定しない。しかし本筋は別に在る」
「本筋?」

「懐中時計は聖女様に触れさせてはいけないのだよ」
「ん?」
何の話だ。

「その理由はモーランゼアとアッテンハイムの関係性を見れば明らか。
同じ女神教で在りながらモーランゼアでは聖女様は生まれない。
原初はモーランゼアが先なのにだ」
「…あ」
時の女神、だからか。
「女神教発足当時は総本山はここだった。聖女様の血族もここに居られた。
最初の事故が起きたのは五代目の聖女様。当時の時計職人は挙って小型化を進め。遂に生まれてしまった懐中時計が一つ。完成を喜んだ王は聖女様に意図せず渡してしまった。それで起きた悲劇」
「…」

「時を操る能力が発現してしまい。重圧に耐えきれなくなった聖女様はその晩には首を括って自害為されたと史実に残されている」
また茶を啜り。
「遅れて御告げを受け取った王は嘆き悲しみ。総本山を今のアッテンハイムに築き上げ血族一切を移し遠避けた。
時を司り管理するモーランゼア。教義の真髄を受け継ぐアッテンハイム。これが二つの国の始まりの真実だ」
「なる…ほど」
俺のは全く見当違いな邪推だったな。

「二度目の事故は八代目の聖女様。経緯など欠片も知らないモーランゼアの行商が偶然に掌時計を購入。女神様の血を引かれる聖女様にお見せしようとアッテンハイムに向かってしまった。
国には未申請の独自品。過ちに気付いた職人が申告しても手遅れだった。
齢五十を迎えようかと言う当時の老齢。能力に身体が堪え切れず心の臓が動くのを止めたそうだ」

モーランゼアが小型時計を秘匿にする理由が解った。
「じゃあペリーニャには触らせてはいけないと」
「女神様の再来とも評される御方だ。当然我々もそう思っていた。しかし最近の御告げではペリーニャ様なら問題無いと授かったらしい」
「問題無い?」

「理由は不明だが君が大きく関わっていると聞く。心当りは無いかね」
「心当りは…な…」くはない。

俺が時間操作のスキルを貰ってしまったから。

「これは私見だが。君の祖母リナディア様はアッテンハイムの皇家の血を引かれる御方だ。まさか君は…」
初耳なんですけど!?詰り俺とスタルフはペリーニャと遠い親戚。
「な、何の事でしょうね。嫌だなケイル様。祖母が血縁だなんて今初めて知りましたよ」
後半はホントっす。

時間操作は突発で発現した訳じゃなかったんだ。驚き半分納得半分。久々に女神様に愛を捧げよう。

最初の扱いは雑でもちゃんと救いの道は与えてくれた。
有り難う御座います!

「しかしペリーニャ様の次の世代は解らない。世代を重ね徐々に時計を広めながら小型化を浸透させようと不可視化したり余計なフェイクを入れてみたり。
と同時に聖女様でも安全に持てる物を目指して日々探求しているのだよ」

賢王を小馬鹿にしてすんませんした!!

「検証出来ないのが辛い所ですが。時計を一般化するのは正しいと思います」
「その心は」
「既に時間の概念は世界に定着しつつ在る昨今。足りないのは内部の知識。それ程複雑でもなく指針器の信号を受け取るだけの安全な構造なのだと幼少の頃から教えてあげて常識化すれば、うっかりスキルが発現する事は先ず無いと考えます」

「物の安全性と常識化か…。成程一理有るな」
「生まれた時から身近に時計が在る生活。時計の針は左には進まないと極自然に覚えられます。未知が未知で無くなれば恐怖も消える」

「ふむ」
「それらを踏まえた上でマウデリンやペラニウムなどの魔力を消費する素材を排除し。同等の雷と水魔石を銅板で繋いだ単一動力部を造り。内部完結型の時計構造にすればより安全です」
それが俺の最終理想形。

雷魔石チップの交換のみで半永久に動き続ける内燃機関を造りたい。

「我らは根本からして間違っていたのかも知れぬな」
「作ってみないと正解かどうかは」
「いやそうでもないぞ。実際に君の試作器は心臓部も水魔石で動いてしまっているからな。単一動力部なら調整器すら不要となる。結局位相計も大型に保つ為のオマケに過ぎない。我らは何に怯えていたのかと先祖が聞いたら涙を流して奥歯を噛み潰すだろう」
言われてみれば時計に調整器は過剰だ。位相計もコンパスも飽くまでオプション機能。
「許可は幾らでも。特許を取り、次の試作品が出来るのは何時頃になる。来年は長期で出掛けると前に聞いたが」

「4月には一度帰国する予定です。タイラントには私を軽く凌駕する天才工作師が居るんで素案図面を渡せば直ぐですよ」
「何時か会いたいものだ。それで開発途中の調整器は」

掌サイズまで落とし込んだ樹脂板レスの調整器を出して見せた。

サイドスリットから球を覗いて。
「ほぉ…。調整器も君の手に掛かるとここまで小さく。小型化の壁は真球体で解決出来るのか。真似したくても削り出せる自信も技術も無い。恐れ入った」
べた褒め。
「光栄です。動作も小型部品を寄せ集めて検証済み。方向性に間違いは有りません」

大きく頷き。
「基幹部品を逆輸入してペリーニャ様への献上品を拵えたい。それも頭に入れて置いてくれ」
「はい」

「四月以降の半年。我らも存分に創意を注ぐ。最後の品評はペリーニャ様にお付け頂くとしよう」
「こちらも相手に取って不足無し、です」
国と個人との対決。実に面白い。のはシュルツ本人か。
ガッツリ関われる時間取れるかなぁ…。

「前回は止めたが。サメリーからの誘致はどうするのだ」
「許可が頂けるのであの話は破棄します。モーランゼア内の自由競争が正しく活発化するなら、私が横槍を入れるのは無粋ですので」

「そうか。今なら弟子入りを志願する者が押し寄せそうだがな」
「商団規模の工房を抱えられる余裕は有りませんよ。将来的には考えても良いですが」
「その時が来たら私が志願しよう」
「ご冗談を」

心から笑い合い、交渉は満額で締結した。

「許可証と免状は本日中にはエリュライズに送る。名義はストアレン工房で良いのか」
「その様に」
こっちの名前も随分と大きく成った。そろそろフィーネの個人商会を開いてもいい頃かも知れない。合流したら聞いてみよう。




---------------

女性陣よりも早く帰宿。

昼食どうするとメールを入れ複製筺を開けてみた。が複製は出来てなかった。

1品1度迄が標準らしい。ま、無尽蔵に複製出来たら可笑しな話ではある。

次に何を複製するべきか。質量が減衰してしまうなら単体でも上位品は望ましくない。

例題は古竜の泪、幸運の指輪、結合石塊など。幾ら有っても困らないがもし機能面で変質したら嬉しくない物。

「次は何がいいですかね、クワンさん」
「クワァ」
メールで植物はどうかと返って来た。

「植物かぁ。正直頭には無かったわ。変質しても困らないしな」
最悪燃やして灰にすれば良い。
「世界樹の木片でも入れてみよう。どうして女神様が世界樹の杖でなく古代樹の杖を選んだのか。その真相に迫れるかも知れない」
「クワッ」

輪切りで最も小さい端部を複製筺に投入。

時差ボケ欠伸を1つ吐き。

もう1つの謎。属性欠損を考察。どうして闇属性を抜いたのか。それはアッテンハイムの地理を考えれば自然に導かれる。

デリアガンザス大山脈にユニコーンやペガサスがお住まいだからだ。

緊急時に笛で呼ぶ。弱体化して飛べなくなる。詰り、疑問に思う俺はお馬鹿さんである。とても悲しい。幼稚園が有ったらそこからやり直したい。

但し未知の無属性を突っ込んだ場合は予測不能。そこはペリーニャと奥の手でダリアの意見を聞かなければ。

誰にも見えない物なら…困ったな。だから肯定も否定もしないと答えたのだろうか。

女神様でも予測不可なら別の道を探る。アッテンハイムの国民生活を激変させては本末転倒。そこは慎重に。


かなり遅れてフィーネからメール。
「ごめん。そっちで食べてて」
「買い物で忙しいみたいだな」
「クワ」

半分合流するもんだと考えていたので腹ペコ真っ只中。
急遽ホテルランチを発注。ドリンクは果実水と珈琲を。

クワンと差しで食事も珍しいなとサルサソースが堪らない川魚のムニエルサンドと温野菜サラダを頬張っているとアローマからコール。

「あら?」
「連絡事項が一つ。そちらはお忙しいでしょうか」
「今丁度クワンとホテルでお昼食べてる。女性陣はお買い物にご執心」
「そうでしたか。さて置き。こちらの本日夕刻。陛下の下にペカトーレより書状が届けられました。詳しくはソプランから」

「ほぉほぉ」
向こうが入れ替わり。
「詳しくっても…。手紙を読んだ陛下が不機嫌そうに帰ったら直行で城に来い、だと」

「陛下が不機嫌?なんでやろ」
「さあな。俺も手紙の文面までは読んでない。只一言。
下らん!だとよ」

「寧ろ怒ってるよね、それ」
「だな」

キタンの野郎何書きやがったんだ。略無関係なヘルメンちを怒らすなんて。

「マッサラの件は無事認可が下りた。クワンジアからのティマーン行商隊としてギルドに登録した形だな」
「ありがと。亡命扱いには出来ないからそれが一番手っ取り早いか」
下手すりゃ反逆罪でも可笑しくなかった所。ヘルメンちがかなり譲歩してくれた。

アローマに戻り。
「お隣の手術受け入れ予約も取れました。特殊事例ですのでフィーネ様の立ち会いが欲しいそうです。合わせてアルシェ様の説得を。高い確率で割って入るだろうと予想されて居りました」
「ややこし。アルシェさんと同時進行かぁ。説得は俺がやるかな。パパさんと一緒に」
「それが宜しいかと」

ちょっとの間寝て貰おうかと思いつつ。
「時計の販権はさっき取れて免状待ち。明日にでもシュルツに伝えて。帰りはアルシェ隊に合わせる」
「畏まりました」

諸連絡は以上。手紙の内容が気になる。




---------------

昨晩は最上階をレイルペアに譲り下階で夫婦水入らず。

本日の予定はサメリー工房。嫁さんたちは北への納品とレイルは別で自由行動。お目付役が居るので心配無し。

出来たてホヤホヤの営業免許を手に。クワンを肩に。サメリー工房本店へ足を向けた。

2月振りの挨拶を交わし工房内の大部屋で双方の試作器を見せ合う。

サメリー側のは中型と小型の間位の大きさ。持ち込み品よりは二回り大きい。小型化だけには拘らず精度と絶妙なバランスを保ちながらのダウンサイジングを行った良品。

今はまだ調整器に制約がある為これ以上は無理。

詳しくは話さず城工房で小型の調整器が出来たみたいだよと伝えてあげた。

取れたぜと免許を自慢しながらこちらの試作器を分解して見せ。サメリー品も分解。

互いのパーツを並べて品評会を開いた。

サメリアンが嘆き節。
「やっぱタイラントの技術力は桁違いだな」
「クワンジアで勧誘した腕の良い加工職人が居るからね。タイラントの小物職人の知見も合わせて。調整器が小型化すればもう半分は楽勝で行けるよ」

一同感嘆で納得。
「前とは逆だがテレンスを大将に預けたい」
「僕からもお願いします。是非、タイラントで修行を」
予想はしていたが。

「気持ちは嬉しいけど代王様と約束があってさ。マウデリンやペラニウムを抜いた駆動方法を構築して城工房に逆展開する予定なんだ。
ストアレン工房として動くから他の人を入れるのはちょっと控えたい。御免な、その気にさせて」
「んだよ。その流れも考えてたなら教えてくれれば良かったのによぉ」
「残念です…」

「こればっかしは事業の線引きだから譲れない。来年4月頃に小型改良品を持ち込んで将来的な目処付けが出来てからさ」
代王本人も行きたいとか言ってるし。
「誘致するにしてもテレンスだけじゃないだろ?」

「はいまあ…。長期になりそうだと嫁に伝えたら私もと」
結婚してたのね。
「だったら尚更。タイラントの王都も無限に人を受け入れられる訳じゃない。来年に行く人決めて向こうの何処に支店を構えるかとか、他の職人さんも選抜して再来年とか長い目で話し合うのが先」

「まあ確かに、その通りだ。ちょい焦ったな」
「済みません」

「俺から勧誘しといてなんだけど。お互い技術を磨くのは勿論。作った小型器をどの分野で応用して行くかとか。考えてたらあっと言う間だよ」
「むぅ…何も返せねえぜ」

落ち着いた皆さんに昨日作っておいた鮭と昆布の御握りと梅干しをご提供。

今回も米や海産物なんて滅多に食べられないと大好評を博した。


細かい打ち合わせを重ね、ホテルへ戻る前にジェイカーをエリュダー本部で大量ゲット。お値段はまあまあ。

北への配達を終えたフィーネとロイドも無事骨槍を貰い取り溢しは無し。北大陸の残党は消滅してしまったそうな。

可哀想だが救い様が無かった。

引き摺りそうな沈んだ気持ちは午後のプール三昧で流しリフレッシュ。ラフドッグで見られなかったメリリーの水着姿を拝めて有難や。




---------------

4日目は2班(自分とロイド、フィーネとレイルペア)に別れて東部の買い物を済ませ、サルサイスの霧雨亭で小打上げを開き、ハーメリンでもティンダー隊を交えて彼らが行き付けにした酒場で顔合わせ。

美女4人を前に大緊張のアイールバムら4人。

「スターレン様が羨ましい…」
アイール以外の3人も以下同文。
「偶々だよ。モーランゼアは比較的安全な国だから。買い物メインだったし。嫁さん以外は友人だ。勘違いしないように」
「はあ…。まあ何とも」
納得してない歯切れの悪さ。

「若えからな。勘弁してやってくれ」
「ティンダーたちはこれからどうする?タイラントに直送も出来るけど」

「最初から楽させるのは駄目だ。癖になるしこいつらに取っても宜しくない。クワンジアの実家に帰らせて改めて移住するか決めさせる。行かねえならクワンジア内の状勢調べて俺一人でタイラントに向かう」
「そりゃ無いっすよティンダー先輩。一生付いて行きます」

「勢いで決めるな。みっちり扱いて使い物に成りそうにもなかったら俺から切る。来年は多分会えない旦那たちに仕事まで斡旋して貰おうなんて温い考えしてると」
「わ、解ってますって」
内面まで見てくれるのは助かる。にしてもやや厳しい気もしなくもない。

「全く帰らない訳じゃないから。常駐してくれればその内会えるさ」
「結局俺も南方の国は初めてだしよ。のんびり回ってタイラント目指す。どうだい旦那たちの目から見てこいつら」

「どうと言われても初対面だしなぁ」
「悪くはないんじゃない。動機は不純だけど。お金お金言われるよりは全然マシ。
それよりホントに彼女さん居ないの?あっちは大半水竜教だから紹介して後から実は居ましたとか言われても困るし怒るよ」

フィーネに突っ込まれて4人共口籠もる。怪しいな。
「その手の嘘は嫌いだな。金に余裕が出ると浮気しそう」
俺が出来ないからな!
「無いっす。普通に断られるなら未だしも。紹介して貰って置いて泣かすような真似はしません。
同郷の幼馴染みでそれぞれ居ましたけどモーランゼアに来る時に切りました。てか振られました」
色白のソアも追従。
「振られたと言うより…自然消滅みたいな物で。先行き不安な冒険者より専住商人の方が好きだとか。所詮はその程度の付き合いです」
言わんとする所は良く解る。行商なら危険度は同じだが冒険者は自ら危険に首を突っ込む職業だから。

「今の小金持ち状態でタイラントに向かうと告げると掌返しそうなんで。何も言わずにしれっと通り過ぎればいいかなって考えてます」
「スターレン様と知り合いに成れたとかも御法度だな。俺とアイールよりもケイプやリトの方が痛い振られ方してたんでちゃんと隠せば付き纏われる事は無いですよ」
見た目豪胆そうな2人がションボリと。
「恥ずかしいから止めてくれ」
「根底から全否定するグチグチ煩い女でした。それもあって少し女性不信にもなりましたが今はもう大丈夫です」
色々有るよね。
「ふーん。ま、穏便にね。所帯持ちで家族揃って移住するのも珍しくないし宗教も自由だ。何かと都合良く聞こえるけどお金にはドライな国柄だから気を付けて」

「モーランゼアよりも商人気質が強いかも」

フィーネの脅し文句に怯む4人に。ティンダーに教わって人を見極める眼力を養えと助言した。

助言…になったかな。



ホテル滞在5日目の朝。アローマからアルシェ隊のマッサラ到着の報を受け帰国の途に就いた。

早まらなくて良かった良かった。トロイヤの記憶はどうなったのかが気になる。
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