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第199話 宴の続きとギリングス海賊団討伐

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胸元の血痕を見たカメノス邸の門番に心配されたが鼻血だよと偽り別館の控え室で着替えた。

フィーネが突撃して来ない所を見ると先程の失態はどうやら一瞬過ぎて気付かれていない模様。

嫁も良い感じに酔ってるな。酔うと縛り癖が寛容になるらしい。悪用はしないが覚えて置こう。

多分マミーから伝わってしまうし。と思ってたら会場の前で2人に挟まれた。

「大丈夫なの?ヒールしようか?」
服の隙間に手を入れて胸をペタペタ。
「擽ったいよ。瞬時に塞がったから大丈夫。興奮しちゃうから止めて~」

「どうして転移しなかったのですか」
「シュルツと自分。餌にするならどっちが良いか、て話。
1人にならんと寄って来ないだろ。身代わり人形の有効性とルーナの再生能力の検証もしたかったし」

ここで唐突に属性色と相関関係を述べる。

属性色

水 水色・青色
氷 濃い青色・群青色
火 赤色
炎 濃い朱色・紅色
風 緑色
地 黄色・橙色
雷 紫色
魔 灰色
闇 黒色
光 白色
聖 乳白色
無 無色(推定)

セット魔石は混合色。上位に来る物の色が勝る
各最上位には他色も混じる事も有る故にこれらは概略

聖魔四竦み
上位 聖:闇 下位 光・魔
闇は光に強く聖に反発。聖は魔に強く闇に反発
故に最上位は聖光と闇魔魔石のセット順となる

これまで曖昧だった物が無属性以外確定されて来たので総纏め。

「無属性の突剣落としてくれたしさ。他にも何か持ってそうだったから一旦逃した。ガードの上から股間を粉砕したから暫くは動けない筈」
「うわぁ…。良く解らないけど痛そう…」
「今頃地獄の苦しみを味わっておるじゃろう。フフッ」
「益々悪い人ですね。シュルツさんを犠牲にしてはいけませんが単独行動は控えて下さい」
マミーのお小言まで頂いた。
「へーい。それより何か食べさせてよ。鼻血位は出血したし腹減って死にそう」

「ごめんごめん。どうぞ入って。自宅じゃないけども」

小宴会場の9組のカップルたちに挨拶をしてから大宴会場へ移動。成立してた…俺たちが直接関わらんでも。

成婚まで行ったら100%看板を下ろすのを諦めようか。

プレッシャーばかりが増して行く…。

周りに挨拶しながら比較的穏やかな上席に座った。

鮪料理だけでなく鶏と豚の唐揚げ。ポテトフライ。
人参、ほうれん草、コーン、若芽のスープ。焼き立てパンなどが運ばれて来た。

食前酒にはハイネーブルまで。

「こんなに食べ切れませんよ」
カメノス氏が笑いながら。
「生物以外は持ち帰れば良い。揚げ物もリゼルオイルで揚げたから幾ら食べても胃もたれとは無縁。それでも余れば自分たちで消化する。心配は要らんぞ」
「なら安心だ」

鶏唐を頬張った瞬間背中からクワンの視線を感じ、両手を合せて謝罪するとプイと横を向いた。確実に怒ってる。

「大丈夫よ。私たちも散々食べたし。怒ってるのはさっきスタンが1人になったからよ」
「あぁそれでか」
皆して過保護だねぇ。

隣卓のレイルが。
「蝙蝠に追わせて居場所を特定したがどうするのじゃ」
「仕事が早いね。遠くに逃げられても厄介だから現状維持でお願いしたけど。因みにどの辺?」

「マッサラ南部の小屋じゃった。妾の眼を回潜るとは中々の度胸と道具持ちじゃな」
「おーやっぱまだ何か持ってるな。明後日までは殺さないで。俺に重傷負わせたって油断してると思うから」
「ふむ。メリーは数日こっちじゃな」
「私は何方でも。レイル様のお側に居られるのなら」
何時でも熱いブレないメリリー。ラメル君はもう慣れてしまった様子。


デザートの林檎タルトを食し。お開きになる前に特別室を見せて貰った。

全面遮音壁。隣部屋に繋がる小窓付き中扉。中扉と同じ壁面には横長長方形のマジックミラーの覗き窓。控え室側の音声は一切漏れない安心設計。

「反射窓は少々遣り過ぎでは」
「元々地下に置いた設備を上に上げただけだ。拷問部屋にしていた部屋だがアルシェも知っている。警戒こそすれ逃げ出しはしない。中には豪華な椅子とテーブルを備えるだけだしな」
「そうっすか」

「今相手にしている海賊の尋問もここで遣るかね」
「そうですね。詳しく聴取するのは1人か2人だけなんでご迷惑でなければ試しに」
「人様には聞かせられない台詞が飛び出るかも知れませんので中に入る人は限定しますが」

「遮音性を確認する上でも重要な実験だ。遠慮は要らん。問題点が見付かれば後で教えてくれ」
「了解です。明日の深夜から明後日の朝に掛けて中庭に直接飛んで来るんで警備に伝えて置いて下さい」
「うむ」

ロロシュ氏が残念そうに。
「今回こちらの出番は無い様だな」
「万が一タラティーノを取り逃したらシュルツを狙う可能性が高いんで。普段通りの警備態勢に色を加える程度でお願いします」
「ふむ。奴が立ち入ったのはシュベインが使っていた棟までだからな。今の内に経路を潰して置こう」

数人に別れ。スマホでメールを飛ばし合いながら大きめに発声テストを繰り返したが人間の耳には控え室側の音漏れは一切無かった。

念の為上位2人とペッツは外そう。

ロロシュ氏がカメノス氏の肩を掴み。
「当家の地下にも作ろうか」
「一つ貸しで良いなら喜んで」
「ふん。抜け目の無い奴めが」
「商売敵ですからな」

乾いたおじさんたちの笑い声と共に会は解散。


男衆でエドワンドに顔を出し2時間程滞在して帰宅。

朝までの許可は下りていても重傷者がピンピン歩き回っているのも変だし明日の夜に備えてしっかり寝ないと。

ロイドはたっぷり昼寝したからと新作ベッドを俺たちに譲ってくれた。

今夜も朝まで爆睡コース。




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早朝から一っ走りで汗を流し身体の様子を診た所。僅かに血が滲んだ。

転んで膝を擦り剥いたような傷。

右腕から出たルーナが前から後ろから俺の胸と背中をじっくり観察。

「やはり人間は小さくて難しい。表皮は修練が必要だ」
今のルーナはミニマムなんだが。
「だからって自分を斬り刻むのもなぁ」
「非常時だけで充分よ。皮は傷薬塗って包帯巻きましょ。それらしく見えるし」
新しい傷薬でも治らなければ無属性攻撃の特異性の可能性が有る。その時はフィーネのヒールを使うとした。

単純に自分の習読が足りないのかもと夕方迄書斎に籠ってルーナと一緒に復習。すると一部をルーナが勘違いしている事が発覚した。

主に性別差や器官部機能を。

「我ら竜種は大半が雌雄同体。別性の概念が難しい」
「そりゃまあ単独で卵が産めて繁殖出来るんだから根本的に無い考えだもんな。でも…お任せにしてたらどうなってたんだ?俺の下半身」

「主らの夜の✕✕から雄の✕✕は雌の✕✕✕を✕く武器として✕✕す」
「止めい!危ねえ。聞いといて良かった…」
予習と復習は大切だと改めて実感したお話。


昨晩はエリュグンテにお泊まりしたレイルたちを呼び寄せいよいよ作戦決行となった。




---------------

メリリーとラメルを宿舎に届け。第一段階でレイルの魅了MAXで完落ちした3人の支配権をプレドラに移譲。

適当に食事を取らせ。元々装備していた転移道具類と武装を抜いた収納袋を持たせた。

以前の姿で旅行着に着替えたプレドラとサイラスたち8人を加えて最終打ち合わせを開いた。

南海域の海図を広げプレドラが望郷のコンパスでタラティーノの位置を把握。
「現在値は無人島真っ直ぐ南。七百二十km海上です。スターレン様を負傷させたと踏んで少し早めたのかも知れません。溢れんばかりの喜びの感情が伝わって来ます」

「あんまし時間が無いな。日の出前には着島する勢いだ。
プレドラは徹夜。サイラスたちは禿げに持たせた寝袋で島で一晩。各自の武装はタラティーノの捕獲後に返す。見た途端に特攻されても困るからな」
「ハッ!」

「こちらは仮眠を取りつつここで待機。国内の潜伏犯を押さえに行くのもタラティーノの後。本作戦成功は奴の捕獲に懸かってる。絶対に殺すなよ、プレドラ」
「はい。奴は転移道具を体内に仕込んでいた筈。瞬時の判断は私では難しく」
「その場で抜いて縫合するか…。解った。それはこっちに運んでから麻酔で取り出す」
「お隣の予約しといて正解だったね」
ホンマそれやね。

タラティーノも遠距離視認具を持っていると見て。打ち合わせ終了後早々に12人を無人島の洞窟へと運んだ。




---------------

生まれ変わる前の自分を思い返す。タラティーノと私には似ている所が有った。

最たる一つは向上心。所謂出世欲だ。

邪神の呪いに魅入られ。誰よりも一番に寵愛に預かりたい一心で何でも熟した。

あんな重苦しい呪いに魅力を感じていた嘗ての自分が懐かしい。

一度目の召喚失敗で現レイルダール様を呼び出してしまった。経験不足と道具不足。

反省をする上では良かったが結果国は滅び。共謀した私たちは同時に死んだ。

私は長寿の魔族に転生。シトルリンとアノヒハは人間を選び袂を別れた。

裏で初代勇者のベルエイガが動いているとも知らず。私は西大陸で。二人は人間として世代を重ね召喚術の研鑽と道具開発に勤しんだ。

途中に現われた勇者は塵ばかりで魔王の眷属にさえ敗れ去る為体。落胆の毎日だった。

飛んで前勇者の到来。彼は逸材だった。私たちとは全く別次元の方向性で女神自身に異常な執念を燃やした。

変態でも聖剣を操れる力は魅力だと。女神が振り向かないならその上に立てば良いと誘うとホイホイ乗った。

扱い易い前勇者を操り。充分な準備を整え。勇者が魔王を倒した瞬間。小馬鹿にしていた勇者ではなく私たちの方が重大なミスを犯した。

二度目の召喚失敗。現スターレン様となる一匹の異界の蠅を呼び寄せてしまったのだ。

魔王の因子を複数内包しても魂が変質しなかった異常な存在。それが彼自身が名付けたアザゼルである。

実際私は巻き込まれを避けて現場には居なかった。

失敗したのは召喚士だったシトルリンかアノヒハ。何方かが欲を掻いたのだと思う。若しくは女神やベルエイガの手が加わったのかも知れない。

あの二人の存在も現場近くに居たのだから。

再び人間に転生したシトルリンたちに問い正してもあの時の記憶は抹消されて無いと言う。

今では真実は神のみぞ知る。何時か死んだら聞いてみたいものだ。

何故、こんな中途半端な事をしたのかと。気紛れだと言われたら、きっと私は笑ってしまうに違いない。

神の悪戯。数奇な運命。スターレン様の登場で根幹から崩れ行く邪神教。

脆い。私たちの数百年は余りにも脆く。

今の私はもうスターレン様の側。その役割は。暴走を始めたシトルリンと教団を止めてやる事なのかも知れない。

己の不始末は己で着けよと。

一番最初の切っ掛けとは何だろう。それは私の何気無い一言だった様に思う。
「帰れないなら。この世界を全部壊してしまえばいい」
帰してくれないのなら。全てを破壊して。

事を始めた私たち三人は。元居た世界に帰りたい。只それだけの願いで手を取り合った。

呼び出そうとしていた邪神の真髄を知らない私たち以外の信者が真の意味を知った時。どんな顔をするのか少しだけ興味が湧いた。

お前たちが信じている物は破邪神などではないのだと伝えてやったのならば。

遠すぎる過去を振り返り。十一人以外誰も居ない無人島の崖上で。漆黒に染まる南海と打ち付ける潮騒。満天の星空を肴にレイルダール様から頂いた赤ワインを嗜む夜更けにて。

何を見て来たのだろうと我思う。この世界は、こんなにも美しかったのだと。


遙か南から視線を感じた。いよいよ視界に捉えたか。
距離にして五百相当。スターレン様の双眼鏡と同等品。
有用な道具の損失も避けたい所。

岩の出っ張りに腰掛けて南に手を振り返しワインの瓶を喇叭飲み。

大規模船団となると食糧補給は必須。海の真ん中で引き返す術は無い。緋色の結晶石を独自で手に入れていれば話は別だが。白竜のロープでも無い限り持ち帰れるのは極一部。故に必ず上陸はする。

西のサンタギーナ航路に於いても同じ。離島までは距離が有る。ニーナ姫と同時にサドハド列島を奪取するのも失敗したと聞く。

功を急いたか。らしくないぞタラティーノ。実に滑稽だ。

明けの明星にはまだ遠い。分厚いシートを敷いて横に寝ながら優雅に待った。

背後の小山に早朝の白霧が立つ頃に漸く船影を視界に捉えた。

早くはない。予定通りの時間だろう。私を見て戸惑っていたのかも知れない。

私に矢を射る度胸でも有れば褒めてやりたかったが船団は岸から五百m手前で停泊。中央の大型船が動くのかと思えば最前列の一隻が動き目の前の岸壁に横付けした。

隻数は四十五。これは報告通りだ。分割もしないとは間抜けの一興。

「これはプレドラ様。どうしてこの様な場所へ」
甲板の縁から面倒臭そうに。
「どうして?の前に下りて来い。この私を見下すとは良い度胸ね。詫びの一つも言えないの?」
「…詫びとは」

「失望したわタラティーノ。言っても解らないなら」
影から極太の棍棒を取り出し片手で肩に担いだ。
「土下座しないなら後ろの大型基船沈めてやろうか?」
人質の大半を詰めている方舟で従属の呪いを締結する要の船であるのは明白。

「申し訳有りません!直ちに下ります」
「最初からそう為さい。私が寝てる隙に中央取りしようだなんて百年早いわ」

上の縁から岸壁へ橋を渡し護衛も付けずに下りて来た。

疑いもしないタラティーノの敗北が確定する着足間際。

今です!

朝まで残業はその一言を伝えてお終い。

中空から鳩に連れられ舞い降りたフィーネ様がハープを掻き鳴らしてお休み為さい。

意識が遠退く刹那。フィーネ様の背に。無い筈の白い翼が見えた気がした。

あぁ…そうなのか。この二人が出会ってしまった時点で邪神教は敗北していたのだ。後の祭だよ、シトルリン。




---------------

事態はタイムアタックの様相。最短ルートを歩みたい。
マッサラの潜伏犯が起きる前に何とか。

フィーネから遅れて5秒後に仲間を引き連れ岸辺に上陸。

最初にタラティーノを触診。棍棒を抱いて眠るプレドラはレイルが回収。

触診の結果。転移具は胃の左の隙間に古竜の泪とセットで内包している事が判明。贅沢!

薄い手術痕と同じ位置。口の中に仕込み毒は無し。
一旦放置決定。

後方の大型船に飛び移り中枢の従属道具を破壊。計30隻に及ぶ人質の分散を余さず切り分け。彫像で解除して回った。

お姫様を含め人質全員着衣で小綺麗な仕上がり。風呂に入らせる手間が省けた。

フィーネのクリア後。人質を島内に寝かせて鑑定確認。
若干数水分不足と軽度の栄養失調が診られたが大きな障害は無い。

44隻をロープで幅寄せし。接岸中の司令船と接触させ再度双眼鏡で内部スキャン。取り逃した人質無し!

人質の総数は296名。一発でも運べたが大規模転移具を持っていると知られるのは拙いと考え半数ずつ搬送。

カルツェルク城内広間にて。気付け薬瓶を5個置き。
「先ずは人質半分!この気付け薬の蓋を開けて嗅がせれば起きる!揮発性が高い薬品だから使用後は必ず蓋を閉じること!」
「ハッ!!」
周囲の兵士たちの返答を聞き終え離脱。

次にマルシュワ姫を含む残りを搬送。別枠で囲った25名の症状を伝え。略倍数の海賊兵を武装状態のまま4分割で運んだ。
「積荷の衣服と武装は最後に。呪い類と念話道具はこちらで没収した。仕込み毒も無い。裸に剥いて好きにしろ。
そこの顔面十字傷の男が海賊側のリーダーだ。貴重な情報源だからしっかりと揉んでやれ。
組織側の首謀者タラティーノの聴取に入る。小1時間は掛かる見込みだ。
途中で沿岸諸島の拠点に偽装した連絡員を送り込んで時を稼ぎ出す。タラティーノの聴取が終わるまで挙兵はするなよ」

積荷と連絡員の収納袋に有った食料半分を運び第一段階は終了。

サイラスたちを起こし。ソプランとアローマを置いて待機を指示。タラティーノの捕獲に成功したと伝えてカメノス邸へと移動した。


全身麻酔でグッタリするタラティーノを研究棟地下の執刀室へ運び入れ。天才外科医ペルシェさんと助手モーラスの作業を大窓の外から見守った。

が3分も掛からず縫合完了。傷は極少で4針縫い。痛み止め入りの傷薬をたっぷりと塗り込みガーゼと包帯を巻き。汚れた下を洗浄してオムツを履かせて特別取り調べ室へ移送した。

転移具はマウデリンプレートで俺が持つ手袋と同等。古竜の泪は誰産かは不明。体内に仕込むなら手放し袋は不要なのだと解った。それもそうか。

「変な事考えてない?スタンさん」
「ちょっと考えたけど。体内に器具入れる勇気は無いな」
「良かった」
生きてる間に医療器具を開発したなら改めて自分の身体で試しても良い。

入室前にレイルに確認。
「マッサラの諜報員の動きは?」
「寝て居る。気絶じゃな。寧ろ虫の息じゃて」
急場とは言え去勢してしまったのは少し可哀想だったかもとふと思ったり。優良な再生道具を持ってたりしなかなと期待して取り調べ室の扉を開いた。

室内には俺とタラティーノのみ。隣控え室にフィーネ。
1階の小宴会場にマミー、レイル、グーニャ。
無人島待機班はソプラン、アローマ、クワンと言う配置。

金椅子に軽く縛ったタラティーノに気付け薬を嗅がせると大絶叫と共に飛び起きた。
「煩い黙れ。転移具と古竜の泪は穿り出した。逃げようとしても無駄だ。諦めろ」
「…どうして、貴様が生きている」
「刺された直後に手術して貰って見事生還した。最後まで見届けなかった諜報員が悪い。
質問するのは俺だ。詳細と関連事項に付いて吐け」
「誰が素直に答えます!…何だ、この椅子は!!」

「一々騒がしいな。それは自分の意志とは無関係に洗い浚い正直に吐いてしまう大変有り難い椅子だ。抵抗しても気持ち悪いだけだぞ」
「答える…。答えるものです!クソがっ!」
陽気な馬鹿に質問を浴びせた。

タラティーノが辿ろうとしていた正規手順はこちら。

無人島で拠点設営と休息。食糧物資を補充。
人質との強制交配(同じ人間とは思えない)は未然に防げて良かった。

本日午前に南部連絡員と共に海賊島へタイラント到着連絡をする。

海賊拠点の分散は3カ所。ギリングス海軍の手が足りないが本拠点を落とせば他は何も出来ない低脳の集まり。海賊のリーダーも不在(送還済)で統制は無いも同然。

諸島の拠点配置を地図に書かせた。

犠牲が最少に留まるように願うばかりだ。

無人島に折り返したタラティーノはマッサラ諜報員と連絡を取り元クインザ派閥の残存に声を掛け勧誘。根回し済のウィンザート潜伏犯を動かしライザー隊を釘付け予定。

以降の折衝はライザーを嵌め込む予定。

王都含めその他に活動分子は無し。形勢を逆転させた後に勧誘を行う算段。

ウィンザート内の拠点と勧誘目標のリストを書かせた。

名簿の中にはモヘッド、コマネ氏、シュベインの名も有りそこはアホだと思った。暫くタイラントから離れて土地勘が鈍ったんだろう。

マッサラの諜報員は除きウィンザートの拠点以外に邪神教団員は不在。

ライザー部隊とソプランを動かせば余裕で排除出来る程度の勢力だと解った。

タラティーノ自身がウィンザートに行かないと動き出さないとの事で後回しとした。

地図とリストを目の前で複写。南の地図は3枚。城用と海軍用に。

タイラント内の配置図とリストも3枚ずつ。陛下に渡す用とライザー分と自分たち用。

本日夕方迄に東部連絡員とサイラスたちを連れ東大陸北西部の拠点へ行く。

今日中に遣らなければならないのは2件。ウィンザートの掃除はライザーと打ち合わせをして明日かな。

ホテルは1日ズラせば良い。後ろがキツいが致し方なし。

「ざっとこんなもんか。タイラントとギリングス以外の国の連絡員や諜報員は何処に何人居るんだ」
「東大陸の拠点に一人。ロルーゼから南下中の行商隊に紛れて一人。詳しくはマッサラの諜報員ティマーンが握っています。あの町で合流予定だったので。
メレディスの二人はプレドラ様の部下で現在孤立中。
最も深き迷宮に挑んでいる十人はシトルリン様の部下で他の者の指示は受け付けません。
出て来た所に合わせ、北西の部隊とでスターレン様らを挟撃しようと考えて居りました」
予想とはちょい違ったが大外れはしていない。

南下中の行商隊はアルシェ隊で間違い無い。ミーシャを狙う謎の男がロルーゼ担当者。ティマーンを動かさずに合流させた方が良さそうだ。

メレディスは孤立していて貰おう。詳細はプレドラから聞ける。北大陸の生存者と合流して移動する懸念は有るが現状南東大陸と西大陸以外に逃げ場は無い。

「お前の東大陸拠点の支配権はどれ程だ」
「プレドラ様が行方不明となった時点で全権私に移行されています」

聞きたい事は全て聞き終えフィーネを手招き。嫌がるタラティーノをハープで昏睡。

「俺はこいつ連れて無人島でレイルに連絡員を洗脳して貰うよ」
言ってる内容が超外道。
「私は地図とリスト持ってライザー殿下拾って城で説明して来るわ」

フィーネが持つ冠と書類を交換。下でレイルとロイドを拾って無人島へGO。嫁はグーニャを抱えてウィンザートへ飛んだ。




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完全奴隷(アホ)にしたタラティーノと南部連絡員を海賊本拠点に送り込み。タラが戻って来るまでに転移プレートをアローマの小袋に投函してソプランとサイラスたちに詳細を説明した。

レイルは聞き耳を立てながら無言でタラを遠隔操作中。
器用だな。翼が生えてるからきっと脳みその造りが根本からして違うんでしょう。

ソプランがウィンザートの配置図を見ながら舌打ち。
「まだこんなに蛆虫が居やがったのか。後出しで悪いがメレスの武装適当に見繕って俺にくれ。城に行ってライザー殿下の部隊と合流する」
「はいよ」
メレスには既にアルカンレディア装備が渡っているのでスフィンスラー産で集約した驚く程軽い長剣と小盾。身代わり人形をソプランに渡した。

「私も一緒に」とアローマ。
「駄目だ。様変わりはしたが町の東部の奥はそんなに変わってない。土地勘が無いと素早く動けねえ。アローマはお嬢と一緒に住民の退路の確保だ」
「…解りました。では転移具の練習を」

「保険でクワンも一緒に」
「クワッ!」
アローマの肩に飛び乗った。直後に3者が消えた。

フィーネにソプランも城に行くとメール。

OKの返事を受けて昼食を準備しながらサイラスたちの武装と荷物を返却。
「今からカルツェルク城に海賊島の配置図を渡して来る。そうなれば直ぐに開戦だ。心の準備はいいか」
「何時でも」

意気や良し。レイルの返答を待つばかり。
「うむ出来たぞ。たった今同士討ちを始めた」
「なぅわにを!?」
彼女に任せた自分が悪い!割り切ろう。
「さ、さあいざ行かん!」
「はぁ…」

カルツェルク城にぶっ飛んで配置図を国防大臣に押し付けた。
「ちょっとした手違いで海賊共は同士討ちを始めてしまったようだ。狙うは漁夫の利。
プリメラ様にお伝えしてくれ。今から東方の傭兵部隊を引き剥がして連れて来る!」
「な、何ですと!?」
俺も驚いてます!ちょっと処じゃねえ。

起きてしまった物は諦めるべし。

折り返して無人島。俺が戻った時にはタラティーノと東部連絡員とサイラスたちが飛んだ後。

追い付けないが集中してるレイルに文句も言えず。

俺とロイドと惚けるアホの子駐在員で只レイルを見守るのみ。




---------------

急展開が過ぎる。

スタンからのメール全文を読み上げ復唱。
「意味が解りません陛下!」
「それはこちらの台詞だフィーネ。取り敢えず落ち着け。
国外は一先ず置こう。マッサラの諜報員もロルーゼからのアルシェ隊と合流させるならそれも良し。
最寄りの問題はウィンザートである。ライザー、そちらの状況はどうなのだ」

「はい。把握済の不審者の目撃情報と新たに得られた組織配置図は略酷似。駐屯所から程近い北東寄りの二カ所は損害無しで潰せます。ですが南東側の二カ所までを同時に粛正するのは難しく。大挙するには路地が狭く逆に住民たちが逃げられません」
「うむ蔑ろには出来ぬ。袋小路に一般人が押し込められれば新たな質が挿げ変わるだけだ。
ソプランなら出来ると申すのだな」

「ハッ!カメノス邸のメレスと共に。南東部の二カ所には何度か忍び込んだ経験を持ちます。ライザー殿下の部隊と同調し最南を急撃。北側に気を取られた南中を東側から叩き。万が一逃しても退路は中央通り側。そちらをフィーネ様に構えて頂けたなら」
「余り褒められた話ではないが何故に忍び込んだ」
「自分とスラム仲間への食糧調達の為で有ります」

「ふむ。それは不問で良い。メレスへの話は」
「これからで有ります」
「では急げ。説得後にこちらへ戻りライザーと共に駐屯所へ飛べ。スターレンは明日で良いと言った様だが油断が生じるのが日没だろうと早朝だろうと大差は無い。
フィーネは後で聞いてみろ。しかし指揮責任はライザーに持たせる。逸脱はするな」
「ハッ」




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嫁からのコールを受け取り。
「今日の日没狙いか…。いいよそっちは任せる。東大陸はちょい微妙でさ。傭兵の離脱者が百人超えそうなんだ。
クワンをこっちに戻して。混乱に乗じて俺が陸から掠め取って来る」
「オーケー」

クワンが戻った後でロイドとレイルを連れ南岸へ。無人無傷の45隻をどーしよかと。

瞑想中のレイルには話し掛けられないので。
「マミー。どうしたら良いと思う」
「私の呼称を徐々にスライドするのは止めて下さい」
「ヤベバレた。ロイドはどう考える?」
「…国籍違いの船をタイラントで受け入れるのは違いますね。ですが一度に運んだのではスターレンの収納バッグ容量が露呈してしまう。
ここは1つ。混乱只中のギリングス北端島にこっそり返却するのが妥当かと」

「んー。海賊の逃げ足に使われても嫌だし。南の決着付いた直後にしよう」
「それもそうですね」

洞窟前に戻ってレイルの動向を窺う。そして紡ぎ出された答えとは。
「うむ出来た。陸地に食糧を打ち撒けて同士討ちの開幕じゃ。近くに無傷の設置型転移具も有るようじゃから拾って置けよ」
俺より酷い事する人がここに居ました。
「拾って来るぜ!」

サイラス率いる味方傭兵隊126名と設置型転移具を余さず拾い。連絡員とタラティーノも漏れなく回収。

俺の存在を晒してしまった代わりに敵の転移具を根刮ぎ奪って身動きを封じてやった。

クリーンで平和になったダンプサイトが襲われるかと心配になり帰り掛けに様子を見に行くと無人の廃墟と化していた。略奪に遭ったのかと悲しくなったが無人島に戻ってからクワンが教えてくれた。

真面な住人たちは北西海域に船が現われたのを見て町を放棄しピーレットとシャレイド方面に下ったと。

今では各町の住人と協力して守りを固めているそうな。

良かった!これで心置きなく叩き潰せる。餓死で死んでなければ…。

腹ぺこのサイラス隊員たちに出来たてトマトスープとパンを振舞い腹拵えをさせて。
「短時間の休憩を挟んでギリングスへ運ぶ。沿岸部では既に戦闘状態に入ってる。直ぐに動ける程度に腹を満たせ」
「はい!」

「首謀者のタラティーノはタイラントで身柄を預かる。正気を取り戻した連絡員2人から足りない情報は得られる筈だ。プリメラ様のご指示を仰ぎ、海と陸に参戦しろ。
長く苦しんだ海賊時代は今日を以てお終いだ!」
「はい!!」
中には涙を流す者まで。

「泣くのはまだ早い。泣いていいのは勝利の美酒を飲み干してからだ!」
「うぉぉーー!!」
士気は充二分!

参戦しない俺が偉そうに宣う。

タラティーノ以外をカルツェルク城へ運び入れてギリングスは終結。




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廃人同然のタラティーノを城の地下牢へ突っ込み。フィーネを呼んでマッサラに向かった。

諜報員ティマーンの記憶を書き換える為に。

解ってます。邪道で外道な行いであると承知の上。

股間の痛みにうなされるティマーンから転移の指輪を剥ぎ取り叩き起こした。

「き、貴様ぁぁぁ」
「煩い。俺は生きてる。お前は重傷だ。そこで交渉と行こうじゃないか」
獄炎竜生血を数滴含ませた飲用外傷薬の瓶を振って。
「この薬は飲めば外傷が綺麗に治る秘薬だ。宗教を捨て俺の手足と成るならこれをくれてやるぞ」
「…外道め」
自覚してます。

「苦しいだろう。痛いだろう。堪え難い痛みだ。男の俺には良ーく解る。小水を垂れても血尿しか出ない。出す度に裂けるような痛みに悶える。それがこれからもずっとずっと続くんだ」
「…くっ…。ひ、一思いに殺してくれ」
そんな事はしません。実験台なんで。生血で治るのかどうかの。

「そんな連れない事言うなよ。信じる神を捨てて無宗教に戻るだけじゃないか。お前が信じる神が何をしてくれた?
祈りを捧げてその傷を癒してくれたのか?
なぁ折れろよ。全部忘れて俺に服従するだけで楽になれるんだぞ」
瓶を近付けティマーンの耳元で囁いた。

瓶を凝視して生唾を飲み下した。
「薬もやる。働きに応じて報酬も払う。王都の美食も食べ放題。ここなら女も娼館で抱き放題だ。家族が質に取られてるなら助けてやっても良いんだぞ」
「…」
眼が泳ぎ出した。もう一押し。

「タラティーノは捕えて城の牢屋の中。南からの援軍は送り返した。ギリングスの海賊も直ぐに消滅する。あちらの人質は全て解放される。その中に家族が居るなら僥倖。
ウィンザートの反乱分子も今日中に粛正させる。
会いたいだろう。これ以上のお前を縛り付ける足枷が有るのか?教えてくれよ」
「…俺の家族は。南西には居ない。それでもお前は救えると言うんだな」
「場所にも因るが。西大陸以外なら大抵行ける」
「先に薬をくれ。これ以上は、正気が…保てそうにない」

仕方ないなぁと渋々瓶を渡すと一気に飲み干した。しめしめまんまと飲みやがったぜ。グヘヘ

「スタンさんの目が怖いんですけど」
「気の所為です」

見る見る内に元気になったティマーンがトイレに立った。男は俺しか居ないので医療行為として下の世話まで診てやろう。諦めも肝心だ。

血塗れの腰巻きを下ろし。便器に小便を垂れるまで見届けた。

出だしは血尿が出て顔を顰めたが次第に和らぎ小水は黄色く変色した。

大人用オムツを履かせて消毒液で手を洗わせた。

ベッドの端に重そうに腰を下ろしたティマーンの前に金の椅子を置いた。
「痛みに耐えられるならこっちの椅子に座れ」
「耐えられない程じゃないが…。何だその椅子は」
「何でも正直に喋ってしまう有り難い椅子だ」
「断る。理由は…」

シャツを脱いで上半身を晒した。胸に大きな手術痕。
「ある人物に関する項目を喋ると心臓の横に埋められた道具が破裂して死ぬ。知りもしない神の名を告げなくてもな」
何と言う二重構造。そんなに重要な機密情報を持ってるのかこいつは。
「名を知らない?」
「鑑定して貰えば解る。末端で教団が崇める神の真名を知る者など極僅かだ。殆どあんたに殺されたからな」

試しに肩に手を置いて鑑定してみたが教団名は出なかった。それに伴い胸に道具が埋まっているのも解った。

「椅子は止めてやる。その代わり正直に話せ。西大陸とプレドラ。タラティーノと東大陸に派遣された部隊との繋がり。メレディスから出た大部隊の派生であるのも把握済みだからそこは外してもいい」

飲み水を自分で手に取り飲んで溜息。
「流石だな。道理で組織の連中が挙って後手に回る訳だ」

こちらも小テーブルを引き寄せ自前のグラスにお茶を注いで皆に回した。

「流石だと褒めてやりたいがあんたも重要人物を見過ごしてる。その男が俺から嫁子を奪い道具を植え付けた張本人だ」
「見過ごし…」誰だ?

「喋れる範囲で…。
一つ。俺はその男の子飼の従者だった。
一つ。そいつは南東のレンブラント公国首都フィオグラにも拠点を構えている。
一つ。そいつは解体された闇商の大幹部だった。
一つ。闇に流れていた道具に精通し。真の姿を隠すなんて造作も無い」
左手の小指の指輪とトントンと叩き。
「これはそいつが持つ道具に似ている劣化品だ。遠隔からの感情視認を阻害する。あんたの背後が取れた要因でもある。
そいつはこの国には居ない。自ら動くと目立つ人物で来国もした事が無い。
だから優秀な転移具を持っていても直接来る事は出来ず俺を派遣した。俺がタラティーノの配下と成ったのはクインザが死んだ直後。それまではロルーゼとの遣り取りをするだけの連絡員だった。
西大陸とも繋がりを持ち。プレドラ様の目すら欺き続けたアッテンハイムの西の国の一番の金持ち。
ここまで言えばもう解るだろ」

「ソーヤン・グータ…だと」
「嘘…」

ティマーンは頷き返した。
「流石のフィーネ嬢でも見抜けなかったか…。今更だがあんたらの行動は筒抜けだった。あいつに話した部分はな。
ロルーゼのクインケが不自然なタイミングで暴挙に出たのも。メレディスの連中を大会に誘致したのも。ゴッズを呼び出せる指輪を配布したのも全てあいつの差し金だ」
「…」
嘘ーやん。て冗談唱える場面でもないな。

「悉くをあんたに潰されても尚。表も裏もあの国は未だにあいつの支配下だ。だから王様も真の意味で反撃に出られてない。
老衰で死んでくれるのを待ってるような物だが。あいつはあの見た目で既に百歳を軽く超えてる」
「なっ…」
多く見積もっても70前後だったぞ。握手した時に見れば良かったぜ。

「何かの道具を使ってるのかは解らない。フィオグラで自分自身を改造したんじゃないかと俺は睨んでる」
「じゃあクワンジアかレンブラントにお前の家族が居るんだな」
「範囲が広過ぎるわね」

「だから俺は、従うしかない。明日の定期連絡を逃しても胸の道具を取り出しても。家族は消される。
済まないがあんたに絶対服従は誓えない」
「定期連絡ねぇ。あの爺さんはお前に何を調べさせてたんだ?」

「あんたの…。正確にはあんたの仲間の謎だ。マッハリアで突然現われた全身鎧の素性を知りたがっていた。クインケの挙兵時にも居たんだろ。
まさかあんた自身だったとは思わなかったがそれを明日報告しようとしていた」
「ん~~。それ報告したら家族がヤバくないか?」

「かも知れない。だが来週ここに来るロルーゼの連絡員と会うまでは猶予が有るように思う」
「連絡する時間帯は」
「明日の夕刻日の入り前。あちらの午前だよ」

「あの執務室も盗聴器塗れだったのか」
「無いって言われて碌に調べなかったもんねぇ」
仕事が増える増える。

「明日の夕方前に乗り込んで全部吐かせるか。商談持ち掛ければ応じるだろうし。仕込み道具の解除具と家族の居場所と他との繋がり。
来週まで逃げないって誓えるなら助けてやるよ」
「端から俺に逃げ場は無いさ。言葉に甘える代価に幾つか情報を提供する。
一つ。ロルーゼから来る連絡員の素性はあいつしか知らない。俺たちの間では名無しで通っている。素で単独転移スキルを持っていて捕えるのが極めて難しい。

二つ。モーランゼアであんたらが会った陽気な男。奴には特に注意すべきだ。一部ではあいつの後釜と噂されている程の凄腕。モーランゼアに居ながらメレディスの部隊に武装や道具類を届けた配達人だ。転移具も大きな収納袋も持っている。今何を抱えているのか見当も付かん。物に因っては奴も捕えるのが難しい。
メレディスに逃げられたらとても厄介な存在になる。

三つ。明日の定期連絡は収穫無しと報告する。今の俺が出来るのはそこまでだ」
要注意人物まで増える増える。

「充分だ。転移具以外は置いてく。因みに無属性の武器や道具は他に無いか」
「あの突剣だけだ。あれの出所は南西の何処かでタラティーノから受け取った。詳しくはない」
ギリングスに引き渡すのは当面無いな。

「信じてやるよ。今日はいいもん食って寝とけ」
「果報は寝て待て、て良く言われるしね」
あちらの諺みたいな言葉だけど意味合いは万国共通でしょう。

情報料として銀貨を10枚置いて立ち去った。




---------------

フィーネは再びウィンザートへ。自分たちまで行くと敵に警戒されてしまうので自宅でお留守番。

「爺さんは動かないから良いとして。名無しもウィンキーも面倒だなぁ。レイルはソーヤンとは会ってないよね?」
特に素で転移が使える名無しは要注意だ。
「じゃのぉ。二人を通じて見てはいたが然程脅威には感じんかった。プレドラ以外にシトルリンの内通者が居たとは驚きじゃ」
わいもじゃ。

「タラティーノの術は解いた?」
「解いた。妾も気持ち悪いし。長時間感覚共有すると彼奴の脳が腐るぞ。最低でも三日は空けよ」
「ふーん…」

時刻は16時過ぎ。そろそろウィンザートの粛正が始まる頃合。

フィーネとアローマは防御が薄いシュベインの屋敷を拠点として動く。

邸内とお隣の警戒レベルは引き下げつつ一晩継続。夜勤者を増員する程度。

この状況下で自分たちだけ遊んでいてはいけない。

「とりまタラティーノは後回しでいいや。何とか明日の夜までにソーヤンから情報抜き取って…廃人にしちゃうと言い訳が面倒だし。聞き出した時間だけ抹消しよう」
「余り自分都合で廃人を増やしていると上からお叱りを受けますよ」
「だよねぇ~」
これじゃ前勇者とやってる事変わらんもんね。

「ロイドもレイルも城の中には入れないから俺かフィーネでやってみるよ。何かコツみたいなの有る?」
「ハープで周りを眠らせるなら短時間だけ妾を室内に入れれば良いじゃろ」
「今度もやってくれるの?」

「早うせんと何時まで経ってもモーランゼアに遊びに行けぬではないか。
それに妾なら遣り過ぎても誰にも咎められぬしの。過去の記憶も読んで弄って操り、ハチャメチャな指示を配下に下せばフィオグラも崩壊。正気に戻っても記憶無し。ティマーンの家族と主要な道具を拾うだけで終了じゃ」
「スターレンよりも悪い魔族さんが目の前に居ましたね」
「レイルが味方で良かった。大半を握ってるのは部下のオシオイスとウィンキー。繋ぎは護衛長のブーリってとこだろうから同席してたら多少路線は変更するかも」

「うむ。四人も五人も作業は変わらん。纏めて一網打尽じゃて。シトルリンとの繋がりも放棄させれば西の孤立化も進むぞよ」
心強い!

明日の予定が決まった所で右腕が熱くなった。ルーナが出たがっているサインだ。

ギプスを外して外に出してやると。
「何か有った?」
「何かではない。急いで服を脱げ。自分が発熱しているのが解らんのか」
「んんっ!?」

自分の手では解らずロイドの手を借りた。
「熱い…。かなりの高熱です。顔色も平常で気付きませんでした」
気分も至って普通。変なフラつきも無い。

慌てて上の服を脱ぐとガーゼを通り越して包帯から血が滲んでいた。黄色い膿と一緒に…。

「マジか…。背中は」
「背中も同じです。直ぐに取り替えを」

ガーゼを外すと中はドロドロ。刺し傷は半開きで外周が化膿している。

「これが無属性の効果かのぉ」
「縫っても駄目かな」
「無駄だな。傷薬も逆効果。広くも無く深くも無いが丸で初めから何も無かったかの様な。存在自体を否定する。
何度再生しても表皮の下が繋がらないのだ」

「それって詰り…」
「身代わり人形を持っていなかったら。内部出血で死んでいましたね」
怖すぎる無突剣。ギリギリの所で命拾いしてた。

「だとするとヒールも効かないのか」
「傷口より大きく削り下側の健全な部分から再構築するのが良いだろう」
「じゃな。妾のように根本から再生出来れば別じゃがの」
「無理」
身体は普通の人間だから。

「ロイド頼める?嫁さん居らんし」
「私しか居ませんね。クワンティも居ないのでメールは御自分で。風呂場で切りましょう」
「へーい。何て打つかなぁ」

余裕をこいてた私めが数分後に泣き叫んだのは言う迄も無い事象。

胸より背中は絶望的に痛かった。だってお肉が薄いんだもの…。






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お気に召しましたら、お気に、ご感想、ご指摘等々ポチりお願い致します。

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※誤記訂正

人物名称
✕サイカル
○サイラス

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