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第195話 曰く付きのお宝たち
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自分の隣に居たジェシカの後輩フーリアが探し物のプロでコマネ氏に依頼した案件の一部を担っていたと嫁とロイドにご説明。
「今度どっちかで会ったらお礼言わないとね。こっちはもう大変。這い這いからのヨチヨチ立っちでずっと目が離せなくて。
面倒見の良いモーラちゃんが居なかったらレーラさん絶対鬱になってるわ。
半日でもしんどかったぁ」
「お疲れ様。遊んでてすんません」
「偶にはね。他のご家庭は知らないけど。それでもう1つの話って?」
言語体系の謎と命名に付いての話をした。
「成程ね。だからかぁ。実は水竜様が軽減してくれたの。一度は真名見えたけど私の記憶をぼやかして貰えた」
「流石フィーネは溺愛されてるなぁ。俺を不要品と呼んでくれた上とは大違いだ」
「「ノーコメントで」」
「でもなぁ。ミネストローネは全然流行らなかったのは何故に?」
ロイドが真顔で。
「発表と共に料理名だと言ってしまったからでは?」
「誰も信じないよ、それ」
「おぉ~惜しい。しくじったぁ~。ミだけ使って斬新なの創作すれば良かったのか。次チャンスが有ったらグチャグチャにしてやろ」
「まー悪い人ね。スタンさんは」
「甘えん坊の悪戯っ子。子供ですね」
「何とでも言いなさい。そうだなぁ…
ミミズフロンティア。これで行こう」
「「ミミズフロンティア!?」」
「土壌を肥やして開拓してくれる万物に優しい大変有り難い神様だ。自然を愛する山神教寄りの考え方だな。
半分真面目に」
「信じて、いいのかなぁ」
「どうでしょう。流行るかどうかは大地と山神教の方々次第でしょうか」
「クワッ!」
「ミミズは美味しくないですニャ!」
「おいおいクワンティ君。論点はそこではないぞ。世界に流行るかどうかなんだ」
「クワ」
「そう言えば。キルワの東部で現地人の集団とソラリマを使って会話した時。山神様の天使と間違われて頻りに名前を聞かれました。御神像にしたいだとかで。
山神様には名前が無いのなら脈は有るかも知れないですニャン」
「名乗っちゃったの?」
クワンはブンブン首を横に振った。
「チャンスは有りそうだな。さあ皆様ご一緒に。
ミミズフロンティア!」
「「ミミズフロンティア…」」
「クワッ」
「ミミズフロンティア!ニャ!」
「ねぇ歯磨きしてもう寝よ。スタンさんのテンション可笑しいって」
「はい…」
程良く酔っ払ってます。
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スッキリ爽快な朝。
盛り盛り朝食後。減衰スカーフを着けた俺とフィーネだけで出発しようと…。
同行する積もりだったソプランが抗議。
「何だよ。行かなくていいのかよ」
「ごめん。悩んだけどどんな道具が有るか解らないし。2人だけの方が対処がし易いと思って」
「壊そうとしたら中から何か飛び出たりね。保険としてカルとクワンティたちは置いて行く」
「ん~。しゃーねえなぁ。だったら居残り組で弓の方を購入する。シャインジーネでモメット捕まえればその店も直ぐに解るし、交渉も上手だろ。
お前らはそっちに集中しとけ」
「ロイド様の保有金レベルで足りなければ強引にでも現金で手付金を払います。無字の証文書を数枚頂けませんでしょうか」
「そっか。モメットが居たわ。他にも闇から出された商品無いか聞いといて」
「時間余ったら普通のお買い物もお願い。スマホの連絡はこちらから一通で」
「おう」
「畏まりました」
証文書を5枚渡し。フィーネからロイドへ万年筆セットが渡された。
試しに白紙へロディカルフィナと名前書き。
「うん。綺麗だ。俺よりも…」
「何でも出来るなぁ。私、先行してなかったら負けてたかもね」
「ご心配無く。今世では最初からローレンさん狙いでしたから」
サラッと。父上にちょい嫉妬。
もういっそロイドをマミーと呼んでしまおうか。
「ま、まあいいや。こっち時間押してるから行って来る」
「行って来まーす」
見送りの言葉を受けて今度こそ出発。
「ペット無しで2人切りも中々無いよな」
「不謹慎だけどちょっぴりデート感覚ね」
目的が挨拶と買い物だけならなぁ。
毎度のように東外門から入り南西部の高級住宅街へ。
後を付けられていないか警戒しつつ。
高級住宅街から更に奥。ここらにはこの国の要人がわんさと固まりご近所付き合いは皆無。
後ろ暗い人たちの溜まり場みたいなもんで。
何時来ても表裏の通りには人っ子一人居ない。
そして裏手の勝手口をノックした。
奥に人の気配を感じ、フードの下でスカーフを外す。
「今日は裏口なのか?」
「前回気を遣えと言ったのは誰だっけ?」
「変装までして来たのに?」
「そうだったな。入ってくれ」
ちょっと顔色悪い?
連れられてリビングに入ると見慣れぬ女性が脇に控えていた。
こちらもフードを外してご挨拶。
「初めましてスターレン様、フィーネ様。ご機嫌麗しく。
私はコロロア。司教の秘書官兼メイド役の者です」
直下の部下さんね。
席に着く直前でローレライがトイレに立った。
「前より酷くなってない?」
「はい…。前回スターレン様から頂いたお薬で改善したのですが、逆に無理をしてしまい。最近では寝不足で」
「ダメじゃん。ちょっとローレライだけお白湯にして」
「良い物有るから」
「畏まりました。少々お待ちを」
席に戻ったローレライにリゼルオイルを垂らした白湯を飲ませると幾分顔色が改善。
「ふー。落ち着く香りだな。素直に生き返る」
「普通じゃない大陸封鎖でストレス溜まってるならもう解除してもいいよ。各所から苦情来てるんだろ」
「封鎖はまだ大丈夫だ。今日後で見せる道具さえ引き取って貰えれば心も休まる」
「ホントかよ。ちょっと肩出せ。体調見てやるから」
素直に肌着になったおっさんの肩を白手袋を着け触診。
「おーカッチカチ」
状態:胃腸炎、睡眠不足、重度の肩凝り
「呪いは受けてない。完全にストレス性の胃腸炎だ。そのオイル一瓶やるから食前やティータイムに垂らして飲め。
下手な胃薬より断然効く。放置して我慢すると癌って恐ろしい病気を併発するから暫く消化の良い物食って寝ろ」
「がん…か。初めて聞くが嫌な響きだ」
「助かりました」
コロロアが代わりに一礼。
気になったので彼女も近場の椅子に座らせ、首の背から肩口を触診。
状態:頭痛、鈍痛、生理痛、呪詛(各種痛みが持続)
「チッ。君の方が呪い受けて重傷だ。普段より生理長引いてないか?」
「は、はい…。言われてみれば」
「色んな痛みが持続する呪いだよ。変な道具類を素手で触ったりしたか」
「…いえ。先日倉庫を整理している時はハンカチを」
「でそのハンカチは」
「こちらに」
腰のポケットから白いハンカチを出した。
受け取って鑑定してみるとやはり呪いが掛かっていた。
「駄目じゃないか。怪しい道具に直に触れた物を取って置くなんて。これは大切な物?」
「特に思い入れの無い市販品です。済みません…」
汚れたハンカチをそのまま暖炉へIN。代わりの物をフィーネから。
「これどーぞ。浄化能力が有って呪いは寄せ付けない女神教ではお馴染みの。あの布製のハンカチよ。
大切にしてね」
「あの布…。え!?その様な高価な物を」
「遠慮すんなって。受け取る前に呪いを解除する。見てもいいけどちょっと眩しい」
「はい」
彫像を少し離したテーブルの上で発動。
臆する事無く凝視し続け、眩しさから目を閉じた。
俺たちからするとカメラのフラッシュみたいな物でもう慣れた。
対岸で服を着ていたローレライも目を押さえていた。
再び細い首に触れる。
状態:異常無し
「あらま。生理痛まで消えた。どんな感じ?」
「本来終わっている頃なので。嘘のように身体全体が軽くなりました。この上無い感謝を申し上げます。が」
「が?」
「水竜教信徒でお有りのスターレン様がどうして女神様を模した彫像をお持ちなのでしょうか」
そこに引っ掛かったか。
「自分で彫った物を自分で使って何が悪い。改信したとは言え生まれは女神教。人間の浄化作用で言えば水竜様よりも女神様。それでお姿をお借りしたまで。返せだの寄贈しろなどと言われる筋合いは無い。
君らは新興派だ。身勝手に本家を離れた分際で。何の文句が有るのか、言ってみてくれ」
「も、申し訳有りません…」
「スタン。そんな苛めちゃ可哀想でしょ」
「ごめんごめん。折角新しい道に歩み出したのに。新旧ごちゃ混ぜにして形に拘る人って俺嫌いなんだよねぇ。
ローレライが今後どうするか知らんけど。付いて行くならちゃんとした独自の形を確立してから物を言った方がいいと思うよ」
「はい…」
かなり凹ませてしまった。
自分も席に座り直して。
「自分の体調は勿論。直近の部下の体調もちゃんと見てあげないと。団体の統括責任者なら」
「返す言葉が見付からん」
「お茶して落ち着いてからその場所へ行こう。こっから近いの?」
「南に二区画先だ。少し遠回りをしながら半刻程。敷地自体は私の管轄だから問題無い。そこの地下だ」
都内だったのか。最少人数で来て良かった。
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サンタギーナのシャインジーネへ西から入った3人と姿が見えぬ1匹と1羽。
鳩のクワンティはロイドが持つ大きな旅行鞄に先。猫のグーニャはアローマのコートに隠れた腕の中。
5名は早速商業ギルドへ向かい。ロイドのカードを使い人捜しを願い出た。
「サンタギーナ内に居るモメットと言う商人の所在を探しています。お問い合わせを」
「真新しいカードのようです。本人同士の繋がりが無ければ何も出ませんが。それでも宜しいでしょうか?」
「構いませんわ。本人との面識は数度持ち合わせを」
「畏まりました。暫く後ろの席でお待ち下さい」
今回は新規登録カードが何処まで使えるのかの実験も兼ねている。
モメット本人はスターレンの人捜しコンパスで事前に調べ隣町のロメーランに居るのは把握していた。
恐らく向こうのギルド近くの定宿で間違い無い。
コンパスは借りなかったがスターレンの索敵スキルの簡易版は持っている。町に入りさえすれば辿り着くのは容易。
船で出られると厄介ではあるが。急がば回れだ。
数分後に受付嬢が小さなメモ用紙とカードを持って戻って来た。
「無事に出ましたね。モメット様はこちらに」
同時に返されたメモ紙には目的の宿屋が記されていた。
「素朴な疑問なのですが。知人であれば誰でも探せるのでしょうか。国外からでも」
「相手方本人様が情報開示を停止してさえいなければ。遠距離ですと時間は多く要します」
「成程便利ですね」
「流石に移動中の方や所在を申請されていない方は無理ですがね。ギルドカードの使用履歴。詰り足跡は残りますのでカードは商人の必須アイテムとなっています。
紛失されない様ご注意を」
「ご忠告有り難う」
ギルドを出た所でソプランとアローマが。
「知らなかったぜ。手紙出すのと現金引き出すのにしか使ってなかったから」
「良く考えれば成り済ましの防止やお手紙の宛先となる物ですからね。所在が不明になると何処かで止まる。実に合理的です」
「開示拒否は受け取り拒否でもある。シンプルで便利な機能ですね。
さ、隣町へと参りましょう」
町の外へと移動しながら商業ギルドを振り返った。
薄々とは感じ。そして誰もが知っている。
世界各地の造幣局は何処なのか。誰が担っているのか。
もう答えは明白だ。
ギルドを攻撃すれば全資産が露と消える。だから誰も攻撃しない。国はそれを守ろうとする。
もしも王都パージェントの局長がムートン卿ではなくクインザだったら…。想像するだけでも恐ろしい。
ロメーランに移動し。宿屋で寛ぐモメットを連れ出した。
宿から近い個室付きの茶店へ。
「丁度良かったですぅ。スターレン様が居ないのはとても残念ですが。明後日にはサドハド島に出港だったので」
「二人は夫婦で遠出です。現在の島との頻度はどの位なのですか?」
「益々残念…。頻度は月一で次で年内最後です。
あちらはギリングスの海賊船が度々現われるようですが。数倍の船影にも臆する事無く接近して白兵戦。味方は無傷で全戦全勝。
船首で勝ち鬨を挙げる勇ましきニーナ様のお姿は真に海上の戦乙女だと海賊たちには恐れられるように成り。
今ではこの国の英雌と称えられていますね」
「へぇ。そんなんで疲弊してねえのか」
「いいえ全く。島民は元気一杯。国からの援助や増援船も送られるように成りましたし。手前の無人島には簡易軍港も建設中なんです。
主力はカラードでニーナ様の親衛隊を務めたメンバーなんでお暇な時に顔を見せてやって下さいな」
「おぅ、あいつらにも伝えるぜ」
「楽しみですね」
本題に移って。
「今日はカーラケルトへ特殊品の買付に来たのです。東町はお詳しいですか」
「あぁ成程そう言う。はい。しっかり頭の中に入ってますよ国内全町隈無く隅々まで」
「話が早くて助かります」
「カーラケルトならお二人は居ない方が正解でしたねぇ」
「それはまたどうして」
「ギリングス中央が憔悴した海賊を一挙に叩こうと。お二人に討伐隊へ参加して欲しいなぁ。
でも何の繋がりも無いから招待状も送れなーい。
こっちへ救援求めるのはプライドが許さなーい。
お近付きになりたいから国境の近くに来ないかなー。
現われたら取り囲んで歓待するのになー。
て感じになってます」
「うへぇ。じゃあ今日買いに行く物も釣り餌ぽいな」
「どんな品なんです?それは」
「店の場所はここら辺」
ソプランが簡易地図を広げて見せた。
「そこの雑貨屋みたいな店に属性付きの弓が置いてるらしいんだ」
モメットが地図を手に取り。
「南側の雑貨屋…特殊弓…。あぁー、確かに餌ぽい。とするとソプラン様とアローマ様は別動でお買い物を。
私と面が割れてないロイド様で行くのが良いですねぇ。
ソプラン様たちの方にゾロゾロ付いてくと思うんでその隙にササッと」
「俺たちが誘導係か」
「お買い物がし辛いですね…」
「カーラの特産はこの町と変わらないんでお帰りにこちらで済ませば良いですよ」
「では目的の物が買えたら即時撤収を。町中の2人には透明化したクワンティを飛ばします。合流は西外で」
「クワッ」
「さっさと済ませてこっちで飯にするか」
「ですね」
「ニャ~」
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悄気て拗ねてしまったコロロアに謝り倒してご機嫌を取る。
「どうしてお持ちなのかをお聞きしただけなのに…。あんに怒られるとは…」
「だからごめんって」
「コロロアにもオイルあげるから。ご機嫌直して」
「はい…」
何とか立ち直ってくれたコロロアと一緒に。4人でフードを深く被ってお出掛け。
一般人に出会したらどうするの?と思っていたが。ちゃんと計算され尽くした迷路のような路地裏を回り歩いた。
両サイドを高い壁で囲い。高い建物は接近していない。死角の下を潜っている感覚。
小川を越え側道を下り。この国の鎧を着込んだ4人が構える場所へと辿り着いた。
ローレライがフードを外して手を振った。
両脇に避けたその真ん中を歩み、先のT字を左へと曲がるとそこにも衛兵姿の4人。後方の右手にも4人。
一切言葉を発する事無く突き進んだ。
更に先のT字を右へ入ると側面扉の前に2人。
ローレライの顔を確認して反対壁へ退いた。
その扉を自ら開いて中へ。入って漸くコロロアもフードを外して息を吐いた。
「ここから先は全て地下道です。フードは外して頂いて結構です」
進みながらローレライが問う。
「どうだったかね外は」
「全体の壁に反響防止。透視阻害も掛かってたね。低レベルでも重ね掛けでそれなりに」
「あー方向感覚鈍るよね、あれ」
「君らには簡単過ぎたか。高度な鑑定眼や道具には見破られるが複雑にし過ぎると警備が混乱するからな」
「まあね」
あれが双方の限界。
全ての通路は広い。天井も高くかなりの大物でも入れられる設計。
数人の巡回兵と行き違う。その度に兵士たちがローレライに一礼。
新興派の頂点は伊達じゃない。
最後の分岐だと言うY字路に着いた。
「右手が警備兵の休憩準備室。その先が地上階段。地上の建物は関係者と警備兵たちの宿舎が並んでいる。上の人間の中には私の裏の顔を知らぬ者も多い。地上から訪ねて苛めないでやってくれ」
「やる程暇じゃないって」
「何も知らない人を巻き込んじゃ駄目よね」
「左が倉庫で行き止まり。大扉は通気の為に穴だらけだが他意は無い。下階層も無いが疑うなら気が済むまで鑑定してくれれば良い」
隠す積もりは無いよと。
重厚な大扉が見えた。ローレライが近付くと扉両脇に立つ屈強な兵士が手前に引いた。
照明は明るい白色灯。全貌が丸見え。
左右の棚に小物から大物まで計10品。突き当たりの壁にはシートに包まれた縦長4m近い長物が鎮座。
コンタクトとグラサンと清浄手袋を装着。
「奥のが気になるけど。コロロアがハンカチで触っちゃった物はどれ?」
「左棚の小槌です。見た目の印象よりも重くて床に落としてしまいました」
柄の部分は10cm。先端までを含めると25cm程度。
先端部に左右均等な平筒が付いたオーソドッグスな造り。
名前:重圧の小槌
性能:攻撃力2000
与えたダメージが対象に反響し続け
継続ダメージを与え続ける
推定重量:30kg
物理破壊困難
溶解温度10000℃以上
特徴:人を殴る鈍器ではない。飽くまで鍛冶用品
若しくは筋トレウエイト
「確かにクソ重いな」
「化け物みたいな質量ね。材質が気になるわ」
「普通の炉じゃ溶かすのも無理だ」
融点が低い物と合成すれば行ける気がする。
新しい布で先端をグルグル巻きにして収納。
奥壁の長物。
名前:パイルバンカー(設置具一体型)
性能:攻撃力未知
タングステンが含まれた硬い岩盤でも貫ける
物理破壊困難
特徴:これを武器として見る貴方は頭が可笑しい
井戸掘りや地盤アンカー打ちに向く
「こんなの掘削機じゃ…あれ?」
片手で軽く持ち上がった。土台まで全部。
「驚いただろう。小槌とは違って異常に軽いんだ。それなら武器としても使えてしまう。無理矢理だがな」
「確かに表には流せないね。呪いは無くても危険過ぎる」
闇魔の魔石の使い方が朧気ながら見えたような。
シートをそのまま貰って収納。
左の棚の箱物…と思ったらアコーディオン。形は良く似ているが樹脂部品や木製部品が見当たらない。
真ん中のカーテン部まで全面金属。何じゃこれ。
名前:破心の重奏器
性能:奏でると周囲の異性が混乱・狂慌状態に陥る
効果範囲:音が聞こえる範囲
物理破壊困難
特徴:周囲を異性の敵に包囲された場合の最後の一手
両柄を同時に持たなければ無害
「どんな状況やねん」
「頑張って壊すか隠すかバッグに入れっ放しか」
「カーテン部なら何とか斬れそう」
零状態のまま縄で縛って取り敢えず収納。
次は鞘付き短剣。
名前:心中の短剣
性能:攻撃力600
抜剣装備時。対象に60秒間刃を当てると
如何なる対象物でも破裂して破壊
装備・行使者自身も全身破裂して死亡
物理破壊不能
特徴:あいつを殺して俺も必ず死ぬ
狂った貴方にこの1本
「怖い怖い怖い!」
「是が非でも破壊したいその1本!」
これこそ適当な柔らかい武器と合成して壊さなくては。
次は鏡面仕上げの小盾。
名前:渇望の標
性能:防御力未知
差し向けた相手の生命力を奪い防御性能を上昇
直後に装備者の手腕が腐り始める(再生不可)
生命力を吸い尽くされた相手は
不死者であっても暫く復活不能
現在保有力:2475
物理破壊不能
特徴:未知には上限が有り、到達時に別の何かが起きる
だが試せた者は『存在しない』
「うひょ~」
「誰が得するのよ…」
これも弱体化させたい候補。シートで巻いて収納。
左棚最後の歪で細い短槍。
名前:魔槍ドルタヘイメン
性能:攻撃力3200
殺傷相手と装備者
憎しみを込めると最後まで憎しみ合い相打ち
愛情を込めると一晩だけ愛し合い双方屍
無感情時に真価を発揮。攻撃力4倍
(攻撃途中で感情を持つと攻撃力4分の1)
攻撃対象が無機物、金属、植物等、
意志を持たぬ物体ならば特に何も起きない
主要属性:闇魔(微弱な聖光)
物理・魔法破壊不能
特徴:感情に乏しい又は完全制御出来る者の最終武装
「超激ムズだけど…」
「身近に1人だけ居るわね。扱えそうな人」
現状プレドラ一択。
左棚は終了。右棚の大きめの箱物から。
名前:複製の筺
性能:筺に入れられる物を複製する
複製可能品のみ(出来ない物は出来ない)
破損・欠損・複合・複雑製品は不可
可能な物なら蓋を閉じて24時間後に複製完了
途中で開けると失敗(開けた者も即死)
発動者は成否問わず、発動から3日後に死亡
(死因は不定。必ず回避不能な不幸が降り注ぐ)
物理破壊不能
特徴:一か八か。ギャンブルには代償が必要
「機能や性能を落としてでも逆改造出来れば」
「これ以上は無い複製道具ね」
もう1つの水晶玉が乗った長方形の小箱。
名前:平板作成道具
性能:片手を玉に置き。空き手で握った素材で平板作成
断面積は排出口面積までが限度
板長は握った素材量次第
単一木材、金属が望ましい
発動者のイメージが添加された外観が出せる
偽造不可能な証明証などを作成するのに最適
但し発動者の手から二度と離れなくなる
(解除例:手首の切断、掌の皮肉引き千切り)
物理破壊不能
特徴:カード類作成の最上品
「その道具はギルドカードなどの発行道具に似ているが呪いの特色と木材や金属以外の素材でも強引に作成出来てしまう危険が有ると判断して引き取った」
「流石は元締めの専門家」
「解除対策すれば悪用し放題ね」
動物剥製の手足を使うとか。
「その隣の弦楽器は間違っても鳴らさないでくれ。音色を耳に入れると激しい睡魔に襲われる。多分君ら以外は耐えられない」
「了解」
慎重に慎重に。そっと指先で触れるハンドハープ。
名前:オメロニアンの涙
性能:一掻き鳴らせば周囲の睡眠機能を持つ者全てが
深い睡眠状態に陥る
効果範囲:音が届く範囲
主要属性:聖風
物理破壊困難
特徴:太古の昔に居たとされる音楽の女神オメロニアン
彼女が戦争を繰り返す人間を憂いて流した涙
の結晶だとされる物
「平和を愛する神様もちゃんと居たんだ」
「真実だといいわね」
きっちり布で包んでから収納。
次は色々と使えそうな両翼が開いたバックルセット。
名前:鵬翼の留具
性能:自軍の身近な有翼種の翼を模倣し身に着けられる
飛行性能は相互の信頼関係に依存
人間の場合人体への接触を避けること
マントやベルト用の留具を強く推奨
人体への接触で背中から
二度と外れない翼が生える
物理破壊困難
特徴:浪漫装備ではあるが人間には操作が極めて難しい
最悪脳が崩壊して廃人
「微妙っす」
「憧れちゃうけどね。空を飛ぶの」
最後はこの世界では珍しいフェンシングに使えそうなタイプの刺突剣。
名前:魔穿フェンサー
性能:貫通力未知
多大な魔力を注げば貫通無効さえも貫ける
靱性に乏しく、飽くまで貫通特化
柄の部分に毒を仕込めば相手の体内に
直接注入可能(故に被毒無効を無視)
物理破壊困難
特徴:どうしても倒し切れない難敵にお勧め
仕込み毒に属性魔石を配合すれば更に…
「この中で一番危険な装備だな」
「敵側に渡っていたらと思うとゾッとするわね」
〆にフィーネがグルリと周囲を双眼鏡で確認し。使用済み手袋を塵袋に入れてローレライと握手。
「ご協力感謝します。一部を除いて改造すれば使い道が有りそうなんで」
「こちらこそだ。邪神教が壊滅され召喚が阻止出来るなら安い物。任せ切りで済まない」
いえいえと新品の清浄手袋5組をコロロアに渡した。
「鑑定すれば解るけど。普通の手袋としても優秀だから次からそれ使いな。だからさっきのは水に流して」
「はい。もう忘れました」
軽く仲直りの握手を交わした。
ローレライに直り。
「ここって転移結界張ってる?」
「当然張っているがそれが何か」
「結界破りの道具持ってるから。壊しちゃ悪いと思って」
「正直困るな」
「じゃあ次に何か見付かったら。暗号文でいいから手紙で知らせて」
「うむ。そろそろ我々も表で動き出したい。だが未だに権力を持つ闇側の先代。その老害を排除してからとなる」
居るんだねぇ何処にでも。
「なら暫くは現状維持か」
素直に来た道を戻り。途中で別れ、閉店間際の市場へと走った。
---------------
帰宅したのはタイラント時間の昼過ぎ。
腹は減れども我慢して。裏の焼却炉で使用済み手袋を燃し。聖水と彫像でお清め。からの2人切りのお風呂。
「いやぁ。もう色々拾い過ぎて訳解らん」
「同じく。見逃さないように取り敢えず呪い系以外は全部出す。シュルツには手袋着けさせて」
肩を寄せ合い。
頭を預けて来たフィーネと一緒に天窓を眺めた。
「今なら誰も居ませんね?」
「だーめ。南がどうなったか聞いて」
「へーい」
ロイドさん。こっちの落とし物拾いは無事終了。そっちはどう?
「こちらは…。弓は無事に買えました。がギリングスの追手を巻くのに少し手間取っています」
追手?何それ。
「詳しくは帰ってから説明します。敵ではないのでご安心を。スターレンとフィーネを国に迎えたい勧誘者たちです。帰りは夕方位かと」
了解。遅くなりそうならアローマかロイドで連絡お願い。
「承知」
「何か良く解らんけど。俺たちを勧誘したいギリングスの連中に囲まれてるんだって。多分帰りは夕方以降」
「あー弓は餌だったのかぁ」
「時間、空きましたね」
「駄目だってば。ミランダとプリタが来る頃だし。シュルツも来たら困るでしょ。それにお腹ペコペコ」
「ちぇ」
今はキスだけで我慢。
有り余る冷蔵庫のオイルの絞り粕でパンケーキを焼き。リビング側で食べながら推移表を眺めた。
「先月末で底突きしてから変化無し、か」
「そっちもシュルツとプリタの変化点の報告待ちでいいかもね」
「管理も任せちゃおうか。手を離して」
「全部見切るのは無理無理。絶対何処かでミスるし。これからは1つ1つ知人や仲間に預ければいいのよ」
「せやねぇ。所で万年筆とインクの予備って幾つ有る?」
「後2セット。あそこも段々人が近付いて来てて。地上が観光地化されそうだから。行き方考えないと」
「ふーん」
「陛下とメルたちには1セットずつ渡したよ。他に誰かに贈りたいの?」
「ララードの種と一緒にコマネ氏に渡そうかなぁって」
「あぁ樹脂板に使うもんね。足りないと困るし。いいわ、行く時教えて」
「おけ」
「明日の予定は夕食だけだから午前に1回水没潜る。
グーニャと一緒に」
「俺も城行ってエドガントの遺品見て来る。そこで一旦区切って鑑定会を明後日からやろう。
シュルツの予定聞いて」
弓ってどんなかなぁと楽しみに。2人でシュルツの工房へパンケーキを差し入れに行った。
---------------
一言でうぜえ。こんな事なら転移道具をアローマに持たせれば良かった。
昼前に俺たちペアで顔を晒して先行して町に入ったのが拙かった。
多分門番もギリングスとグルだ。
一般で通れるのは東西門のみ。北は港と直結。南側通用門は国軍専用。
俺とアローマが町内部に入った途端に東西門から行商隊に扮したギリングスの連中が押し寄せて来た。
数分遅れで町に入ったロイド様たちは無事に買い物を済ませたようでクワンティがアローマの肩に留まった。
俺たちも離脱すれば終わりの筈だった。
現在クワンティは完全透明化中。人前で道具の受け渡しも出来ねえし。アローマのスマホも取り出せない。
まして道具を使える鳩なんて晒せねえ。
市場の東西を半封鎖されて徒歩での逃げ場が無い。そもそも逃げる理由も無い。
連中で話し掛けられるのも厄介だ。
接点を持った時点で繋がりが出来上がる。話の次の句は主にこの訴状を渡してくれ、だろう。
そんなクソ無駄な手土産なんか要らねえぜ。
事前にギリングスの動きを聞き。南東でエスカルの話を聞いていたのにも関わらず。何の対策もせず素顔を晒したのは大失敗だった。
凡ミスもいいとこ。
まさか従者である自分たちの面が未訪問国の末端にまで知れ渡ってるだなんて普通考えないよな?
と心で言い訳しつつ、さてどうしたもんか。
市場内のベンチに座り、アローマとクワンティに顔を寄せて小声で話した。
「クワンティ。直ぐ北寄りの視界の広そうな茶店に入る。
向こうの二人を西一つ目の宿場まで送って。茶店の屋根に戻って来てくれ」
「クワッ」
超小声が聞こえてアローマの肩から飛んだ。
「テラス席だと誰かに話し掛けられるのでは」
「奥席とかテラスが無いと完全に逃げ場が無くなるだろ」
「確かに…そうですね」
「堂々としてた方が俺たちには話し掛け辛い。何たって恐れられてるからな。
最悪宿屋に泊まって深夜か早朝にダッシュで逃げる。高級宿で面会全部遮断してな」
「はい」
茶店一階のテラス席。
日差しが強く、冬が遅れる南国で助かった。
潮風は強めでも寒さは微塵も感じない。
「従者が凡ミスで主の仕事増やしたなんて知れたら。ゼフ先生にボッコボコされちまうぜ、ったくよぉ」
「厳しいですものね。先生は」
二人共ホットティーと軽食を注文。
「折角だから偽名でも考えるか」
「私は誰も知らない本名が有るのでそれで」
「ミルフィンが使えるのはいいな。あー俺何にすっかなぁ」
「ソーン、ではどうです?知り合いには居ませんし」
「ソーンか…。悪くはねえが渾名ぽいな」
アローマが決意を固めたような顔で。
「ずっと考えていたんです」
「ん?何を?」
「あの絵を頂いてから。子供の名前を」
「気が早い感じだが。因みに」
「女の子の名前は私のをそのまま。男の子の方はソフテルと提案しようかと」
「おぉ…殆ど決まりじゃねえか。どうせ俺はセンスの欠片もねえし。じゃあ先行でその名前借りてもいいか」
「ええ。名前の方が先に生まれてしまいましたね」
ニコリと笑う彼女は穏やかで。数年後にあんな鬼嫁になるとはこの時の俺は何も気付かぬ坊やだった…。
偽名処か未だ見ぬ子供の名前まで決まってしまった昼下がりのカーラケルト。
食事と茶が運ばれまったり出来たのは悪くない。
頭上の日指の端からトントンとクワンティのノックも聞こえさあ離脱をするばかり。だったのだがその団欒を打ち破ろうとする猛者が現われた。
店の内席に座った行商風の男が勇気を奮ってテラス席の俺たちに話し掛けて来た。
「ソ、ソプラン様とアローマ様ではないでしょうか」
「ソプラン?誰だそれ。てか誰だお前」
「違いますけど…。何方様ですか?」
「ち、違う…。あ、私はサインジョと言う食糧品を扱う行商でして。お近付きの印にこちらを」
赤ワインぽい丸いボトルを見せ付けた。
「知らねぇ。見て解らねえのか。デート中だぞ」
「人違いですのでお戻りを」
「ではお詫びの印としてこちらを」
「要らん。何処の誰かも知らん奴から飲み物なんて受け取れるかアホ。失せろ」
「気持ち悪い」
大袈裟に身震いして見せた。
「嫁が震えてるじゃねえか。十秒以内に戻らねえと駐屯所に駆け込んで衛兵呼ぶぞ」
「し、失礼を…。結構値の張る高級酒なんですが」
チラッと目線を送られたが無視をして残りのサンドイッチを頬張った。
内席に戻った男を尻目に。
「早めに切り抜けねえと拙いなこりゃ」
「ですね。変なのに絡まれたと言う理由で小走りにしませんか?隙間は有るので」
「そうすっか」
段々と穏便な対応にも飽きて来た。
会計を済ませ店を出てから腹ごなし。
一旦南に走ってから東に向かい商業ギルドを目指した。
三つ在る受付は既に大渋滞。
邪魔だと俺の背中を突き飛ばそうとした馬鹿な男が接近するよりも早くギルドの外に出た。
もう駄目だと諦め西門に向かって中走り。
両脇の路地から子供が飛び出すよりも。見通しの良い路地裏で若い女が暴漢に襲われるよりも。行商風の一団が積荷を打ち撒けるよりも断然早く駆け抜けた。
何かの紙束持って向かって来る奴も居たっけな。
後は西門で手続き済ませて外に出るだけだ。と思っていたら入る時に受付した奴らが絡んで来た。
「ソプラン様。町中でご身分を偽られたとか。方々から申告が御座いまして」
しつけぇー。
「スプランとか聞こえたから違うと答えたまでだ」
「私はマローアとお聞きしました。身分と言われる物を披露した覚えも。身分証の提示すらして居りません。
そもそも私共は平民であり従者。履き違えるのも甚だしく穢らわしい。即刻門を通しなさい」
「…」
平民が異国の兵士に命令してしまった。
「嫁の機嫌が正常な内にさっさと通せや」
「話を聞く気は無いと」
「あん?お前らは何だ!サンタギーナの国紋引っ提げた兵士じゃねえのか!!」
「変ですね。国境を越えた覚えも無いのに。この町はサンタギーナ領内とは違うのでしょうか。サダハ様にお問い合わせした方が…」
「し、失礼しました!どうぞ。どうぞお通り下さい」
兵士たちの前を抜け切る間際。若い兵士が剣の柄に手を掛けた。
即座にそいつの柄尻を押さえて封じる。
「止めろ馬鹿が。その一抜きが戦争を引き起こす。て言ってもタイラントが南西から手を引くだけだが。
そんな事をすればあいつらはもう二度と来ねえぞ」
「…」
腕の力が抜けた。
「そんなに呼びたきゃ正式要請を陛下に送れ!
但し条件は海賊が溜め込んだ人質以外のお宝十割全てと国宝級の品を五点以上寄越せ。それ位じゃないと訴状は暖炉で灰になる。
何処まで伝わるか知らんが女王様に伝えるこったな」
「九割九歩では駄目ですよ」
「…」
抜剣し掛けた兵士がその場で両膝を崩した。
「足元見やがって…」
「知るかボケ。その威勢が有るなら自力でやれや」
「甘えたいのなら誠意と正式手順をお踏み為さい」
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夕方にモメットを連れて帰ったロイドたちからカーラケルトでの詳細を聞いた。
「ほぇ~。そこまでして俺たちを巻き込みたいのか。助かったよソプラン。条件は…」
「ちょっと厳し過ぎない?」
「安請け合いすると調子に乗るばっかだ。次から次へと。
これでもまだ安い。次は南の大物を倒したいとか言ってスリーサウジアとかな」
「「まあねぇ」」
今国を救ってる余裕が無いのは事実。
「明日陛下に直接予告して来るよ。燃やす前にどんな内容か読ませてって」
「モメットも勧誘気を付けてね」
「私は大丈夫ですよぉ。この見た目と趣向で誰も寄り付かないんで。悪い子はと・く・に♡」
「ま、まあ普通の色仕掛けは通用せんもんな」
「うふ♡」
「じゃそっちで買えた弓見せてよ」
ロイドが複雑な表情で。
「他に属性を感じる物は無かったので恐らくこれだと…」
バッグから取り出された物にそれを見ていなかった俺たちとソプランたちの4人が言葉を失った。
矢筒を結ぶとかの騒ぎじゃない。矢筒の中身を逆置きして直接マガジンにしてしまう長物。
宛ら電動式ガトリング銃の姿だった。
こっちの世界にガトリングさんは居ないと思うので。
「連射式ボーガンか」
「付与じゃなくて駆動に雷魔石使ってるから属性付きなのね」
「装填入替え無しで撃ち放題じゃねえか。無限矢筒入れればな」
「かなり。いえ途轍もない兵器ですね」
「恐らくお二人が他国の武器屋には殆ど入らないと踏んで雑貨屋に置いたんでしょうねぇ。お店の周りにわんさと監視が居たんでぇ」
「成程なぁ。一々国に購入許可取るの面倒だしさ」
役人となった今では。
まずは鑑定。見た目程重くはないが両手持ちがベター。
名前:雷鳴の連装弓
性能:攻撃性能、飛距離、射出間隔、
命中精度、飛射速度、
装備者の供給魔力量で変動(上限設定無し)
ロックオン追尾機能搭載
主要属性:闇魔雷
本体物理破壊困難
特徴:無尽蔵な魔力の持ち主でないと真面に扱えない
(要訓練)
弓師涎物の逸品ではあるが…
その姿が弓師と呼べるのかは甚だ疑問
「もうそれスタンの専用装備ね」
「全く弓が上達しない俺には打って付け」
「そんなもんトームに見せるなよ。泣くぞあいつ」
「解ってるよ」
早速矢筒を逆セットして収納。
「これ幾らだったの?」
「共通金貨2千でした」
「捨て値でもない絶妙な値段設定だな」
「そんなの誰も買いませんよぉ。知ってても」
「真にお前用の餌、だったな」
「そやねぇ。しっかしこんな物造れるなら海賊なんて余裕で葬れるだろ」
これにはモメットが答えた。
「どうでしょうねぇ。海賊側に類似品を扱える者が居たり広範囲に人質が居たりして思うように打ち込めないとか色々考えられますよね」
「「おぉ…」」
頭痛くなってきた。
だから俺たちを巻き込みたいと。
他の闇からの流出品はそれぞれの国が買い上げているので南西の表にはもう殆ど無いとのこと。
懸念材料としてはペカトーレがお宝で借金を相殺しに来るかも。
遺族にちゃんと回るなら何でもいいんだけど。
「助かったよモメット。来た序でに飯食ってく?それともパパんとこ行く?」
「ん~。遅くなるんでパパはまた今度。お二人の手料理が食べられるなら喜んで♡」
「オッケー。ロイド用のは先に作ったからシュルツたち呼んで小打上げやりますか」
「やろうやろう。竜肉解禁」
魔物肉と言えばクワンがオークゴッズの肉を丸々持ってたな。
「クワンの持ってたオーク肉はどうした?」
「クワァ」
「先日白蛇の子供たちに全部あげたニャ」
「おーそか。それは名案だな。他のオーク肉は城周辺と6区全体に振舞って消化し切ったって言うし」
「これで王都西部の案件は全部片付いたわね」
抜け漏れ無し!
賑やかな小宴会は過ぎ去り。微酔いのモメットにオイルと石鹸類を山盛り持たせてフィーネが南へ届けた。
来月のモメットの配達に合わせてサドハド島に遊びに行くよと伝言を添えて。
「今度どっちかで会ったらお礼言わないとね。こっちはもう大変。這い這いからのヨチヨチ立っちでずっと目が離せなくて。
面倒見の良いモーラちゃんが居なかったらレーラさん絶対鬱になってるわ。
半日でもしんどかったぁ」
「お疲れ様。遊んでてすんません」
「偶にはね。他のご家庭は知らないけど。それでもう1つの話って?」
言語体系の謎と命名に付いての話をした。
「成程ね。だからかぁ。実は水竜様が軽減してくれたの。一度は真名見えたけど私の記憶をぼやかして貰えた」
「流石フィーネは溺愛されてるなぁ。俺を不要品と呼んでくれた上とは大違いだ」
「「ノーコメントで」」
「でもなぁ。ミネストローネは全然流行らなかったのは何故に?」
ロイドが真顔で。
「発表と共に料理名だと言ってしまったからでは?」
「誰も信じないよ、それ」
「おぉ~惜しい。しくじったぁ~。ミだけ使って斬新なの創作すれば良かったのか。次チャンスが有ったらグチャグチャにしてやろ」
「まー悪い人ね。スタンさんは」
「甘えん坊の悪戯っ子。子供ですね」
「何とでも言いなさい。そうだなぁ…
ミミズフロンティア。これで行こう」
「「ミミズフロンティア!?」」
「土壌を肥やして開拓してくれる万物に優しい大変有り難い神様だ。自然を愛する山神教寄りの考え方だな。
半分真面目に」
「信じて、いいのかなぁ」
「どうでしょう。流行るかどうかは大地と山神教の方々次第でしょうか」
「クワッ!」
「ミミズは美味しくないですニャ!」
「おいおいクワンティ君。論点はそこではないぞ。世界に流行るかどうかなんだ」
「クワ」
「そう言えば。キルワの東部で現地人の集団とソラリマを使って会話した時。山神様の天使と間違われて頻りに名前を聞かれました。御神像にしたいだとかで。
山神様には名前が無いのなら脈は有るかも知れないですニャン」
「名乗っちゃったの?」
クワンはブンブン首を横に振った。
「チャンスは有りそうだな。さあ皆様ご一緒に。
ミミズフロンティア!」
「「ミミズフロンティア…」」
「クワッ」
「ミミズフロンティア!ニャ!」
「ねぇ歯磨きしてもう寝よ。スタンさんのテンション可笑しいって」
「はい…」
程良く酔っ払ってます。
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スッキリ爽快な朝。
盛り盛り朝食後。減衰スカーフを着けた俺とフィーネだけで出発しようと…。
同行する積もりだったソプランが抗議。
「何だよ。行かなくていいのかよ」
「ごめん。悩んだけどどんな道具が有るか解らないし。2人だけの方が対処がし易いと思って」
「壊そうとしたら中から何か飛び出たりね。保険としてカルとクワンティたちは置いて行く」
「ん~。しゃーねえなぁ。だったら居残り組で弓の方を購入する。シャインジーネでモメット捕まえればその店も直ぐに解るし、交渉も上手だろ。
お前らはそっちに集中しとけ」
「ロイド様の保有金レベルで足りなければ強引にでも現金で手付金を払います。無字の証文書を数枚頂けませんでしょうか」
「そっか。モメットが居たわ。他にも闇から出された商品無いか聞いといて」
「時間余ったら普通のお買い物もお願い。スマホの連絡はこちらから一通で」
「おう」
「畏まりました」
証文書を5枚渡し。フィーネからロイドへ万年筆セットが渡された。
試しに白紙へロディカルフィナと名前書き。
「うん。綺麗だ。俺よりも…」
「何でも出来るなぁ。私、先行してなかったら負けてたかもね」
「ご心配無く。今世では最初からローレンさん狙いでしたから」
サラッと。父上にちょい嫉妬。
もういっそロイドをマミーと呼んでしまおうか。
「ま、まあいいや。こっち時間押してるから行って来る」
「行って来まーす」
見送りの言葉を受けて今度こそ出発。
「ペット無しで2人切りも中々無いよな」
「不謹慎だけどちょっぴりデート感覚ね」
目的が挨拶と買い物だけならなぁ。
毎度のように東外門から入り南西部の高級住宅街へ。
後を付けられていないか警戒しつつ。
高級住宅街から更に奥。ここらにはこの国の要人がわんさと固まりご近所付き合いは皆無。
後ろ暗い人たちの溜まり場みたいなもんで。
何時来ても表裏の通りには人っ子一人居ない。
そして裏手の勝手口をノックした。
奥に人の気配を感じ、フードの下でスカーフを外す。
「今日は裏口なのか?」
「前回気を遣えと言ったのは誰だっけ?」
「変装までして来たのに?」
「そうだったな。入ってくれ」
ちょっと顔色悪い?
連れられてリビングに入ると見慣れぬ女性が脇に控えていた。
こちらもフードを外してご挨拶。
「初めましてスターレン様、フィーネ様。ご機嫌麗しく。
私はコロロア。司教の秘書官兼メイド役の者です」
直下の部下さんね。
席に着く直前でローレライがトイレに立った。
「前より酷くなってない?」
「はい…。前回スターレン様から頂いたお薬で改善したのですが、逆に無理をしてしまい。最近では寝不足で」
「ダメじゃん。ちょっとローレライだけお白湯にして」
「良い物有るから」
「畏まりました。少々お待ちを」
席に戻ったローレライにリゼルオイルを垂らした白湯を飲ませると幾分顔色が改善。
「ふー。落ち着く香りだな。素直に生き返る」
「普通じゃない大陸封鎖でストレス溜まってるならもう解除してもいいよ。各所から苦情来てるんだろ」
「封鎖はまだ大丈夫だ。今日後で見せる道具さえ引き取って貰えれば心も休まる」
「ホントかよ。ちょっと肩出せ。体調見てやるから」
素直に肌着になったおっさんの肩を白手袋を着け触診。
「おーカッチカチ」
状態:胃腸炎、睡眠不足、重度の肩凝り
「呪いは受けてない。完全にストレス性の胃腸炎だ。そのオイル一瓶やるから食前やティータイムに垂らして飲め。
下手な胃薬より断然効く。放置して我慢すると癌って恐ろしい病気を併発するから暫く消化の良い物食って寝ろ」
「がん…か。初めて聞くが嫌な響きだ」
「助かりました」
コロロアが代わりに一礼。
気になったので彼女も近場の椅子に座らせ、首の背から肩口を触診。
状態:頭痛、鈍痛、生理痛、呪詛(各種痛みが持続)
「チッ。君の方が呪い受けて重傷だ。普段より生理長引いてないか?」
「は、はい…。言われてみれば」
「色んな痛みが持続する呪いだよ。変な道具類を素手で触ったりしたか」
「…いえ。先日倉庫を整理している時はハンカチを」
「でそのハンカチは」
「こちらに」
腰のポケットから白いハンカチを出した。
受け取って鑑定してみるとやはり呪いが掛かっていた。
「駄目じゃないか。怪しい道具に直に触れた物を取って置くなんて。これは大切な物?」
「特に思い入れの無い市販品です。済みません…」
汚れたハンカチをそのまま暖炉へIN。代わりの物をフィーネから。
「これどーぞ。浄化能力が有って呪いは寄せ付けない女神教ではお馴染みの。あの布製のハンカチよ。
大切にしてね」
「あの布…。え!?その様な高価な物を」
「遠慮すんなって。受け取る前に呪いを解除する。見てもいいけどちょっと眩しい」
「はい」
彫像を少し離したテーブルの上で発動。
臆する事無く凝視し続け、眩しさから目を閉じた。
俺たちからするとカメラのフラッシュみたいな物でもう慣れた。
対岸で服を着ていたローレライも目を押さえていた。
再び細い首に触れる。
状態:異常無し
「あらま。生理痛まで消えた。どんな感じ?」
「本来終わっている頃なので。嘘のように身体全体が軽くなりました。この上無い感謝を申し上げます。が」
「が?」
「水竜教信徒でお有りのスターレン様がどうして女神様を模した彫像をお持ちなのでしょうか」
そこに引っ掛かったか。
「自分で彫った物を自分で使って何が悪い。改信したとは言え生まれは女神教。人間の浄化作用で言えば水竜様よりも女神様。それでお姿をお借りしたまで。返せだの寄贈しろなどと言われる筋合いは無い。
君らは新興派だ。身勝手に本家を離れた分際で。何の文句が有るのか、言ってみてくれ」
「も、申し訳有りません…」
「スタン。そんな苛めちゃ可哀想でしょ」
「ごめんごめん。折角新しい道に歩み出したのに。新旧ごちゃ混ぜにして形に拘る人って俺嫌いなんだよねぇ。
ローレライが今後どうするか知らんけど。付いて行くならちゃんとした独自の形を確立してから物を言った方がいいと思うよ」
「はい…」
かなり凹ませてしまった。
自分も席に座り直して。
「自分の体調は勿論。直近の部下の体調もちゃんと見てあげないと。団体の統括責任者なら」
「返す言葉が見付からん」
「お茶して落ち着いてからその場所へ行こう。こっから近いの?」
「南に二区画先だ。少し遠回りをしながら半刻程。敷地自体は私の管轄だから問題無い。そこの地下だ」
都内だったのか。最少人数で来て良かった。
---------------
サンタギーナのシャインジーネへ西から入った3人と姿が見えぬ1匹と1羽。
鳩のクワンティはロイドが持つ大きな旅行鞄に先。猫のグーニャはアローマのコートに隠れた腕の中。
5名は早速商業ギルドへ向かい。ロイドのカードを使い人捜しを願い出た。
「サンタギーナ内に居るモメットと言う商人の所在を探しています。お問い合わせを」
「真新しいカードのようです。本人同士の繋がりが無ければ何も出ませんが。それでも宜しいでしょうか?」
「構いませんわ。本人との面識は数度持ち合わせを」
「畏まりました。暫く後ろの席でお待ち下さい」
今回は新規登録カードが何処まで使えるのかの実験も兼ねている。
モメット本人はスターレンの人捜しコンパスで事前に調べ隣町のロメーランに居るのは把握していた。
恐らく向こうのギルド近くの定宿で間違い無い。
コンパスは借りなかったがスターレンの索敵スキルの簡易版は持っている。町に入りさえすれば辿り着くのは容易。
船で出られると厄介ではあるが。急がば回れだ。
数分後に受付嬢が小さなメモ用紙とカードを持って戻って来た。
「無事に出ましたね。モメット様はこちらに」
同時に返されたメモ紙には目的の宿屋が記されていた。
「素朴な疑問なのですが。知人であれば誰でも探せるのでしょうか。国外からでも」
「相手方本人様が情報開示を停止してさえいなければ。遠距離ですと時間は多く要します」
「成程便利ですね」
「流石に移動中の方や所在を申請されていない方は無理ですがね。ギルドカードの使用履歴。詰り足跡は残りますのでカードは商人の必須アイテムとなっています。
紛失されない様ご注意を」
「ご忠告有り難う」
ギルドを出た所でソプランとアローマが。
「知らなかったぜ。手紙出すのと現金引き出すのにしか使ってなかったから」
「良く考えれば成り済ましの防止やお手紙の宛先となる物ですからね。所在が不明になると何処かで止まる。実に合理的です」
「開示拒否は受け取り拒否でもある。シンプルで便利な機能ですね。
さ、隣町へと参りましょう」
町の外へと移動しながら商業ギルドを振り返った。
薄々とは感じ。そして誰もが知っている。
世界各地の造幣局は何処なのか。誰が担っているのか。
もう答えは明白だ。
ギルドを攻撃すれば全資産が露と消える。だから誰も攻撃しない。国はそれを守ろうとする。
もしも王都パージェントの局長がムートン卿ではなくクインザだったら…。想像するだけでも恐ろしい。
ロメーランに移動し。宿屋で寛ぐモメットを連れ出した。
宿から近い個室付きの茶店へ。
「丁度良かったですぅ。スターレン様が居ないのはとても残念ですが。明後日にはサドハド島に出港だったので」
「二人は夫婦で遠出です。現在の島との頻度はどの位なのですか?」
「益々残念…。頻度は月一で次で年内最後です。
あちらはギリングスの海賊船が度々現われるようですが。数倍の船影にも臆する事無く接近して白兵戦。味方は無傷で全戦全勝。
船首で勝ち鬨を挙げる勇ましきニーナ様のお姿は真に海上の戦乙女だと海賊たちには恐れられるように成り。
今ではこの国の英雌と称えられていますね」
「へぇ。そんなんで疲弊してねえのか」
「いいえ全く。島民は元気一杯。国からの援助や増援船も送られるように成りましたし。手前の無人島には簡易軍港も建設中なんです。
主力はカラードでニーナ様の親衛隊を務めたメンバーなんでお暇な時に顔を見せてやって下さいな」
「おぅ、あいつらにも伝えるぜ」
「楽しみですね」
本題に移って。
「今日はカーラケルトへ特殊品の買付に来たのです。東町はお詳しいですか」
「あぁ成程そう言う。はい。しっかり頭の中に入ってますよ国内全町隈無く隅々まで」
「話が早くて助かります」
「カーラケルトならお二人は居ない方が正解でしたねぇ」
「それはまたどうして」
「ギリングス中央が憔悴した海賊を一挙に叩こうと。お二人に討伐隊へ参加して欲しいなぁ。
でも何の繋がりも無いから招待状も送れなーい。
こっちへ救援求めるのはプライドが許さなーい。
お近付きになりたいから国境の近くに来ないかなー。
現われたら取り囲んで歓待するのになー。
て感じになってます」
「うへぇ。じゃあ今日買いに行く物も釣り餌ぽいな」
「どんな品なんです?それは」
「店の場所はここら辺」
ソプランが簡易地図を広げて見せた。
「そこの雑貨屋みたいな店に属性付きの弓が置いてるらしいんだ」
モメットが地図を手に取り。
「南側の雑貨屋…特殊弓…。あぁー、確かに餌ぽい。とするとソプラン様とアローマ様は別動でお買い物を。
私と面が割れてないロイド様で行くのが良いですねぇ。
ソプラン様たちの方にゾロゾロ付いてくと思うんでその隙にササッと」
「俺たちが誘導係か」
「お買い物がし辛いですね…」
「カーラの特産はこの町と変わらないんでお帰りにこちらで済ませば良いですよ」
「では目的の物が買えたら即時撤収を。町中の2人には透明化したクワンティを飛ばします。合流は西外で」
「クワッ」
「さっさと済ませてこっちで飯にするか」
「ですね」
「ニャ~」
---------------
悄気て拗ねてしまったコロロアに謝り倒してご機嫌を取る。
「どうしてお持ちなのかをお聞きしただけなのに…。あんに怒られるとは…」
「だからごめんって」
「コロロアにもオイルあげるから。ご機嫌直して」
「はい…」
何とか立ち直ってくれたコロロアと一緒に。4人でフードを深く被ってお出掛け。
一般人に出会したらどうするの?と思っていたが。ちゃんと計算され尽くした迷路のような路地裏を回り歩いた。
両サイドを高い壁で囲い。高い建物は接近していない。死角の下を潜っている感覚。
小川を越え側道を下り。この国の鎧を着込んだ4人が構える場所へと辿り着いた。
ローレライがフードを外して手を振った。
両脇に避けたその真ん中を歩み、先のT字を左へと曲がるとそこにも衛兵姿の4人。後方の右手にも4人。
一切言葉を発する事無く突き進んだ。
更に先のT字を右へ入ると側面扉の前に2人。
ローレライの顔を確認して反対壁へ退いた。
その扉を自ら開いて中へ。入って漸くコロロアもフードを外して息を吐いた。
「ここから先は全て地下道です。フードは外して頂いて結構です」
進みながらローレライが問う。
「どうだったかね外は」
「全体の壁に反響防止。透視阻害も掛かってたね。低レベルでも重ね掛けでそれなりに」
「あー方向感覚鈍るよね、あれ」
「君らには簡単過ぎたか。高度な鑑定眼や道具には見破られるが複雑にし過ぎると警備が混乱するからな」
「まあね」
あれが双方の限界。
全ての通路は広い。天井も高くかなりの大物でも入れられる設計。
数人の巡回兵と行き違う。その度に兵士たちがローレライに一礼。
新興派の頂点は伊達じゃない。
最後の分岐だと言うY字路に着いた。
「右手が警備兵の休憩準備室。その先が地上階段。地上の建物は関係者と警備兵たちの宿舎が並んでいる。上の人間の中には私の裏の顔を知らぬ者も多い。地上から訪ねて苛めないでやってくれ」
「やる程暇じゃないって」
「何も知らない人を巻き込んじゃ駄目よね」
「左が倉庫で行き止まり。大扉は通気の為に穴だらけだが他意は無い。下階層も無いが疑うなら気が済むまで鑑定してくれれば良い」
隠す積もりは無いよと。
重厚な大扉が見えた。ローレライが近付くと扉両脇に立つ屈強な兵士が手前に引いた。
照明は明るい白色灯。全貌が丸見え。
左右の棚に小物から大物まで計10品。突き当たりの壁にはシートに包まれた縦長4m近い長物が鎮座。
コンタクトとグラサンと清浄手袋を装着。
「奥のが気になるけど。コロロアがハンカチで触っちゃった物はどれ?」
「左棚の小槌です。見た目の印象よりも重くて床に落としてしまいました」
柄の部分は10cm。先端までを含めると25cm程度。
先端部に左右均等な平筒が付いたオーソドッグスな造り。
名前:重圧の小槌
性能:攻撃力2000
与えたダメージが対象に反響し続け
継続ダメージを与え続ける
推定重量:30kg
物理破壊困難
溶解温度10000℃以上
特徴:人を殴る鈍器ではない。飽くまで鍛冶用品
若しくは筋トレウエイト
「確かにクソ重いな」
「化け物みたいな質量ね。材質が気になるわ」
「普通の炉じゃ溶かすのも無理だ」
融点が低い物と合成すれば行ける気がする。
新しい布で先端をグルグル巻きにして収納。
奥壁の長物。
名前:パイルバンカー(設置具一体型)
性能:攻撃力未知
タングステンが含まれた硬い岩盤でも貫ける
物理破壊困難
特徴:これを武器として見る貴方は頭が可笑しい
井戸掘りや地盤アンカー打ちに向く
「こんなの掘削機じゃ…あれ?」
片手で軽く持ち上がった。土台まで全部。
「驚いただろう。小槌とは違って異常に軽いんだ。それなら武器としても使えてしまう。無理矢理だがな」
「確かに表には流せないね。呪いは無くても危険過ぎる」
闇魔の魔石の使い方が朧気ながら見えたような。
シートをそのまま貰って収納。
左の棚の箱物…と思ったらアコーディオン。形は良く似ているが樹脂部品や木製部品が見当たらない。
真ん中のカーテン部まで全面金属。何じゃこれ。
名前:破心の重奏器
性能:奏でると周囲の異性が混乱・狂慌状態に陥る
効果範囲:音が聞こえる範囲
物理破壊困難
特徴:周囲を異性の敵に包囲された場合の最後の一手
両柄を同時に持たなければ無害
「どんな状況やねん」
「頑張って壊すか隠すかバッグに入れっ放しか」
「カーテン部なら何とか斬れそう」
零状態のまま縄で縛って取り敢えず収納。
次は鞘付き短剣。
名前:心中の短剣
性能:攻撃力600
抜剣装備時。対象に60秒間刃を当てると
如何なる対象物でも破裂して破壊
装備・行使者自身も全身破裂して死亡
物理破壊不能
特徴:あいつを殺して俺も必ず死ぬ
狂った貴方にこの1本
「怖い怖い怖い!」
「是が非でも破壊したいその1本!」
これこそ適当な柔らかい武器と合成して壊さなくては。
次は鏡面仕上げの小盾。
名前:渇望の標
性能:防御力未知
差し向けた相手の生命力を奪い防御性能を上昇
直後に装備者の手腕が腐り始める(再生不可)
生命力を吸い尽くされた相手は
不死者であっても暫く復活不能
現在保有力:2475
物理破壊不能
特徴:未知には上限が有り、到達時に別の何かが起きる
だが試せた者は『存在しない』
「うひょ~」
「誰が得するのよ…」
これも弱体化させたい候補。シートで巻いて収納。
左棚最後の歪で細い短槍。
名前:魔槍ドルタヘイメン
性能:攻撃力3200
殺傷相手と装備者
憎しみを込めると最後まで憎しみ合い相打ち
愛情を込めると一晩だけ愛し合い双方屍
無感情時に真価を発揮。攻撃力4倍
(攻撃途中で感情を持つと攻撃力4分の1)
攻撃対象が無機物、金属、植物等、
意志を持たぬ物体ならば特に何も起きない
主要属性:闇魔(微弱な聖光)
物理・魔法破壊不能
特徴:感情に乏しい又は完全制御出来る者の最終武装
「超激ムズだけど…」
「身近に1人だけ居るわね。扱えそうな人」
現状プレドラ一択。
左棚は終了。右棚の大きめの箱物から。
名前:複製の筺
性能:筺に入れられる物を複製する
複製可能品のみ(出来ない物は出来ない)
破損・欠損・複合・複雑製品は不可
可能な物なら蓋を閉じて24時間後に複製完了
途中で開けると失敗(開けた者も即死)
発動者は成否問わず、発動から3日後に死亡
(死因は不定。必ず回避不能な不幸が降り注ぐ)
物理破壊不能
特徴:一か八か。ギャンブルには代償が必要
「機能や性能を落としてでも逆改造出来れば」
「これ以上は無い複製道具ね」
もう1つの水晶玉が乗った長方形の小箱。
名前:平板作成道具
性能:片手を玉に置き。空き手で握った素材で平板作成
断面積は排出口面積までが限度
板長は握った素材量次第
単一木材、金属が望ましい
発動者のイメージが添加された外観が出せる
偽造不可能な証明証などを作成するのに最適
但し発動者の手から二度と離れなくなる
(解除例:手首の切断、掌の皮肉引き千切り)
物理破壊不能
特徴:カード類作成の最上品
「その道具はギルドカードなどの発行道具に似ているが呪いの特色と木材や金属以外の素材でも強引に作成出来てしまう危険が有ると判断して引き取った」
「流石は元締めの専門家」
「解除対策すれば悪用し放題ね」
動物剥製の手足を使うとか。
「その隣の弦楽器は間違っても鳴らさないでくれ。音色を耳に入れると激しい睡魔に襲われる。多分君ら以外は耐えられない」
「了解」
慎重に慎重に。そっと指先で触れるハンドハープ。
名前:オメロニアンの涙
性能:一掻き鳴らせば周囲の睡眠機能を持つ者全てが
深い睡眠状態に陥る
効果範囲:音が届く範囲
主要属性:聖風
物理破壊困難
特徴:太古の昔に居たとされる音楽の女神オメロニアン
彼女が戦争を繰り返す人間を憂いて流した涙
の結晶だとされる物
「平和を愛する神様もちゃんと居たんだ」
「真実だといいわね」
きっちり布で包んでから収納。
次は色々と使えそうな両翼が開いたバックルセット。
名前:鵬翼の留具
性能:自軍の身近な有翼種の翼を模倣し身に着けられる
飛行性能は相互の信頼関係に依存
人間の場合人体への接触を避けること
マントやベルト用の留具を強く推奨
人体への接触で背中から
二度と外れない翼が生える
物理破壊困難
特徴:浪漫装備ではあるが人間には操作が極めて難しい
最悪脳が崩壊して廃人
「微妙っす」
「憧れちゃうけどね。空を飛ぶの」
最後はこの世界では珍しいフェンシングに使えそうなタイプの刺突剣。
名前:魔穿フェンサー
性能:貫通力未知
多大な魔力を注げば貫通無効さえも貫ける
靱性に乏しく、飽くまで貫通特化
柄の部分に毒を仕込めば相手の体内に
直接注入可能(故に被毒無効を無視)
物理破壊困難
特徴:どうしても倒し切れない難敵にお勧め
仕込み毒に属性魔石を配合すれば更に…
「この中で一番危険な装備だな」
「敵側に渡っていたらと思うとゾッとするわね」
〆にフィーネがグルリと周囲を双眼鏡で確認し。使用済み手袋を塵袋に入れてローレライと握手。
「ご協力感謝します。一部を除いて改造すれば使い道が有りそうなんで」
「こちらこそだ。邪神教が壊滅され召喚が阻止出来るなら安い物。任せ切りで済まない」
いえいえと新品の清浄手袋5組をコロロアに渡した。
「鑑定すれば解るけど。普通の手袋としても優秀だから次からそれ使いな。だからさっきのは水に流して」
「はい。もう忘れました」
軽く仲直りの握手を交わした。
ローレライに直り。
「ここって転移結界張ってる?」
「当然張っているがそれが何か」
「結界破りの道具持ってるから。壊しちゃ悪いと思って」
「正直困るな」
「じゃあ次に何か見付かったら。暗号文でいいから手紙で知らせて」
「うむ。そろそろ我々も表で動き出したい。だが未だに権力を持つ闇側の先代。その老害を排除してからとなる」
居るんだねぇ何処にでも。
「なら暫くは現状維持か」
素直に来た道を戻り。途中で別れ、閉店間際の市場へと走った。
---------------
帰宅したのはタイラント時間の昼過ぎ。
腹は減れども我慢して。裏の焼却炉で使用済み手袋を燃し。聖水と彫像でお清め。からの2人切りのお風呂。
「いやぁ。もう色々拾い過ぎて訳解らん」
「同じく。見逃さないように取り敢えず呪い系以外は全部出す。シュルツには手袋着けさせて」
肩を寄せ合い。
頭を預けて来たフィーネと一緒に天窓を眺めた。
「今なら誰も居ませんね?」
「だーめ。南がどうなったか聞いて」
「へーい」
ロイドさん。こっちの落とし物拾いは無事終了。そっちはどう?
「こちらは…。弓は無事に買えました。がギリングスの追手を巻くのに少し手間取っています」
追手?何それ。
「詳しくは帰ってから説明します。敵ではないのでご安心を。スターレンとフィーネを国に迎えたい勧誘者たちです。帰りは夕方位かと」
了解。遅くなりそうならアローマかロイドで連絡お願い。
「承知」
「何か良く解らんけど。俺たちを勧誘したいギリングスの連中に囲まれてるんだって。多分帰りは夕方以降」
「あー弓は餌だったのかぁ」
「時間、空きましたね」
「駄目だってば。ミランダとプリタが来る頃だし。シュルツも来たら困るでしょ。それにお腹ペコペコ」
「ちぇ」
今はキスだけで我慢。
有り余る冷蔵庫のオイルの絞り粕でパンケーキを焼き。リビング側で食べながら推移表を眺めた。
「先月末で底突きしてから変化無し、か」
「そっちもシュルツとプリタの変化点の報告待ちでいいかもね」
「管理も任せちゃおうか。手を離して」
「全部見切るのは無理無理。絶対何処かでミスるし。これからは1つ1つ知人や仲間に預ければいいのよ」
「せやねぇ。所で万年筆とインクの予備って幾つ有る?」
「後2セット。あそこも段々人が近付いて来てて。地上が観光地化されそうだから。行き方考えないと」
「ふーん」
「陛下とメルたちには1セットずつ渡したよ。他に誰かに贈りたいの?」
「ララードの種と一緒にコマネ氏に渡そうかなぁって」
「あぁ樹脂板に使うもんね。足りないと困るし。いいわ、行く時教えて」
「おけ」
「明日の予定は夕食だけだから午前に1回水没潜る。
グーニャと一緒に」
「俺も城行ってエドガントの遺品見て来る。そこで一旦区切って鑑定会を明後日からやろう。
シュルツの予定聞いて」
弓ってどんなかなぁと楽しみに。2人でシュルツの工房へパンケーキを差し入れに行った。
---------------
一言でうぜえ。こんな事なら転移道具をアローマに持たせれば良かった。
昼前に俺たちペアで顔を晒して先行して町に入ったのが拙かった。
多分門番もギリングスとグルだ。
一般で通れるのは東西門のみ。北は港と直結。南側通用門は国軍専用。
俺とアローマが町内部に入った途端に東西門から行商隊に扮したギリングスの連中が押し寄せて来た。
数分遅れで町に入ったロイド様たちは無事に買い物を済ませたようでクワンティがアローマの肩に留まった。
俺たちも離脱すれば終わりの筈だった。
現在クワンティは完全透明化中。人前で道具の受け渡しも出来ねえし。アローマのスマホも取り出せない。
まして道具を使える鳩なんて晒せねえ。
市場の東西を半封鎖されて徒歩での逃げ場が無い。そもそも逃げる理由も無い。
連中で話し掛けられるのも厄介だ。
接点を持った時点で繋がりが出来上がる。話の次の句は主にこの訴状を渡してくれ、だろう。
そんなクソ無駄な手土産なんか要らねえぜ。
事前にギリングスの動きを聞き。南東でエスカルの話を聞いていたのにも関わらず。何の対策もせず素顔を晒したのは大失敗だった。
凡ミスもいいとこ。
まさか従者である自分たちの面が未訪問国の末端にまで知れ渡ってるだなんて普通考えないよな?
と心で言い訳しつつ、さてどうしたもんか。
市場内のベンチに座り、アローマとクワンティに顔を寄せて小声で話した。
「クワンティ。直ぐ北寄りの視界の広そうな茶店に入る。
向こうの二人を西一つ目の宿場まで送って。茶店の屋根に戻って来てくれ」
「クワッ」
超小声が聞こえてアローマの肩から飛んだ。
「テラス席だと誰かに話し掛けられるのでは」
「奥席とかテラスが無いと完全に逃げ場が無くなるだろ」
「確かに…そうですね」
「堂々としてた方が俺たちには話し掛け辛い。何たって恐れられてるからな。
最悪宿屋に泊まって深夜か早朝にダッシュで逃げる。高級宿で面会全部遮断してな」
「はい」
茶店一階のテラス席。
日差しが強く、冬が遅れる南国で助かった。
潮風は強めでも寒さは微塵も感じない。
「従者が凡ミスで主の仕事増やしたなんて知れたら。ゼフ先生にボッコボコされちまうぜ、ったくよぉ」
「厳しいですものね。先生は」
二人共ホットティーと軽食を注文。
「折角だから偽名でも考えるか」
「私は誰も知らない本名が有るのでそれで」
「ミルフィンが使えるのはいいな。あー俺何にすっかなぁ」
「ソーン、ではどうです?知り合いには居ませんし」
「ソーンか…。悪くはねえが渾名ぽいな」
アローマが決意を固めたような顔で。
「ずっと考えていたんです」
「ん?何を?」
「あの絵を頂いてから。子供の名前を」
「気が早い感じだが。因みに」
「女の子の名前は私のをそのまま。男の子の方はソフテルと提案しようかと」
「おぉ…殆ど決まりじゃねえか。どうせ俺はセンスの欠片もねえし。じゃあ先行でその名前借りてもいいか」
「ええ。名前の方が先に生まれてしまいましたね」
ニコリと笑う彼女は穏やかで。数年後にあんな鬼嫁になるとはこの時の俺は何も気付かぬ坊やだった…。
偽名処か未だ見ぬ子供の名前まで決まってしまった昼下がりのカーラケルト。
食事と茶が運ばれまったり出来たのは悪くない。
頭上の日指の端からトントンとクワンティのノックも聞こえさあ離脱をするばかり。だったのだがその団欒を打ち破ろうとする猛者が現われた。
店の内席に座った行商風の男が勇気を奮ってテラス席の俺たちに話し掛けて来た。
「ソ、ソプラン様とアローマ様ではないでしょうか」
「ソプラン?誰だそれ。てか誰だお前」
「違いますけど…。何方様ですか?」
「ち、違う…。あ、私はサインジョと言う食糧品を扱う行商でして。お近付きの印にこちらを」
赤ワインぽい丸いボトルを見せ付けた。
「知らねぇ。見て解らねえのか。デート中だぞ」
「人違いですのでお戻りを」
「ではお詫びの印としてこちらを」
「要らん。何処の誰かも知らん奴から飲み物なんて受け取れるかアホ。失せろ」
「気持ち悪い」
大袈裟に身震いして見せた。
「嫁が震えてるじゃねえか。十秒以内に戻らねえと駐屯所に駆け込んで衛兵呼ぶぞ」
「し、失礼を…。結構値の張る高級酒なんですが」
チラッと目線を送られたが無視をして残りのサンドイッチを頬張った。
内席に戻った男を尻目に。
「早めに切り抜けねえと拙いなこりゃ」
「ですね。変なのに絡まれたと言う理由で小走りにしませんか?隙間は有るので」
「そうすっか」
段々と穏便な対応にも飽きて来た。
会計を済ませ店を出てから腹ごなし。
一旦南に走ってから東に向かい商業ギルドを目指した。
三つ在る受付は既に大渋滞。
邪魔だと俺の背中を突き飛ばそうとした馬鹿な男が接近するよりも早くギルドの外に出た。
もう駄目だと諦め西門に向かって中走り。
両脇の路地から子供が飛び出すよりも。見通しの良い路地裏で若い女が暴漢に襲われるよりも。行商風の一団が積荷を打ち撒けるよりも断然早く駆け抜けた。
何かの紙束持って向かって来る奴も居たっけな。
後は西門で手続き済ませて外に出るだけだ。と思っていたら入る時に受付した奴らが絡んで来た。
「ソプラン様。町中でご身分を偽られたとか。方々から申告が御座いまして」
しつけぇー。
「スプランとか聞こえたから違うと答えたまでだ」
「私はマローアとお聞きしました。身分と言われる物を披露した覚えも。身分証の提示すらして居りません。
そもそも私共は平民であり従者。履き違えるのも甚だしく穢らわしい。即刻門を通しなさい」
「…」
平民が異国の兵士に命令してしまった。
「嫁の機嫌が正常な内にさっさと通せや」
「話を聞く気は無いと」
「あん?お前らは何だ!サンタギーナの国紋引っ提げた兵士じゃねえのか!!」
「変ですね。国境を越えた覚えも無いのに。この町はサンタギーナ領内とは違うのでしょうか。サダハ様にお問い合わせした方が…」
「し、失礼しました!どうぞ。どうぞお通り下さい」
兵士たちの前を抜け切る間際。若い兵士が剣の柄に手を掛けた。
即座にそいつの柄尻を押さえて封じる。
「止めろ馬鹿が。その一抜きが戦争を引き起こす。て言ってもタイラントが南西から手を引くだけだが。
そんな事をすればあいつらはもう二度と来ねえぞ」
「…」
腕の力が抜けた。
「そんなに呼びたきゃ正式要請を陛下に送れ!
但し条件は海賊が溜め込んだ人質以外のお宝十割全てと国宝級の品を五点以上寄越せ。それ位じゃないと訴状は暖炉で灰になる。
何処まで伝わるか知らんが女王様に伝えるこったな」
「九割九歩では駄目ですよ」
「…」
抜剣し掛けた兵士がその場で両膝を崩した。
「足元見やがって…」
「知るかボケ。その威勢が有るなら自力でやれや」
「甘えたいのなら誠意と正式手順をお踏み為さい」
---------------
夕方にモメットを連れて帰ったロイドたちからカーラケルトでの詳細を聞いた。
「ほぇ~。そこまでして俺たちを巻き込みたいのか。助かったよソプラン。条件は…」
「ちょっと厳し過ぎない?」
「安請け合いすると調子に乗るばっかだ。次から次へと。
これでもまだ安い。次は南の大物を倒したいとか言ってスリーサウジアとかな」
「「まあねぇ」」
今国を救ってる余裕が無いのは事実。
「明日陛下に直接予告して来るよ。燃やす前にどんな内容か読ませてって」
「モメットも勧誘気を付けてね」
「私は大丈夫ですよぉ。この見た目と趣向で誰も寄り付かないんで。悪い子はと・く・に♡」
「ま、まあ普通の色仕掛けは通用せんもんな」
「うふ♡」
「じゃそっちで買えた弓見せてよ」
ロイドが複雑な表情で。
「他に属性を感じる物は無かったので恐らくこれだと…」
バッグから取り出された物にそれを見ていなかった俺たちとソプランたちの4人が言葉を失った。
矢筒を結ぶとかの騒ぎじゃない。矢筒の中身を逆置きして直接マガジンにしてしまう長物。
宛ら電動式ガトリング銃の姿だった。
こっちの世界にガトリングさんは居ないと思うので。
「連射式ボーガンか」
「付与じゃなくて駆動に雷魔石使ってるから属性付きなのね」
「装填入替え無しで撃ち放題じゃねえか。無限矢筒入れればな」
「かなり。いえ途轍もない兵器ですね」
「恐らくお二人が他国の武器屋には殆ど入らないと踏んで雑貨屋に置いたんでしょうねぇ。お店の周りにわんさと監視が居たんでぇ」
「成程なぁ。一々国に購入許可取るの面倒だしさ」
役人となった今では。
まずは鑑定。見た目程重くはないが両手持ちがベター。
名前:雷鳴の連装弓
性能:攻撃性能、飛距離、射出間隔、
命中精度、飛射速度、
装備者の供給魔力量で変動(上限設定無し)
ロックオン追尾機能搭載
主要属性:闇魔雷
本体物理破壊困難
特徴:無尽蔵な魔力の持ち主でないと真面に扱えない
(要訓練)
弓師涎物の逸品ではあるが…
その姿が弓師と呼べるのかは甚だ疑問
「もうそれスタンの専用装備ね」
「全く弓が上達しない俺には打って付け」
「そんなもんトームに見せるなよ。泣くぞあいつ」
「解ってるよ」
早速矢筒を逆セットして収納。
「これ幾らだったの?」
「共通金貨2千でした」
「捨て値でもない絶妙な値段設定だな」
「そんなの誰も買いませんよぉ。知ってても」
「真にお前用の餌、だったな」
「そやねぇ。しっかしこんな物造れるなら海賊なんて余裕で葬れるだろ」
これにはモメットが答えた。
「どうでしょうねぇ。海賊側に類似品を扱える者が居たり広範囲に人質が居たりして思うように打ち込めないとか色々考えられますよね」
「「おぉ…」」
頭痛くなってきた。
だから俺たちを巻き込みたいと。
他の闇からの流出品はそれぞれの国が買い上げているので南西の表にはもう殆ど無いとのこと。
懸念材料としてはペカトーレがお宝で借金を相殺しに来るかも。
遺族にちゃんと回るなら何でもいいんだけど。
「助かったよモメット。来た序でに飯食ってく?それともパパんとこ行く?」
「ん~。遅くなるんでパパはまた今度。お二人の手料理が食べられるなら喜んで♡」
「オッケー。ロイド用のは先に作ったからシュルツたち呼んで小打上げやりますか」
「やろうやろう。竜肉解禁」
魔物肉と言えばクワンがオークゴッズの肉を丸々持ってたな。
「クワンの持ってたオーク肉はどうした?」
「クワァ」
「先日白蛇の子供たちに全部あげたニャ」
「おーそか。それは名案だな。他のオーク肉は城周辺と6区全体に振舞って消化し切ったって言うし」
「これで王都西部の案件は全部片付いたわね」
抜け漏れ無し!
賑やかな小宴会は過ぎ去り。微酔いのモメットにオイルと石鹸類を山盛り持たせてフィーネが南へ届けた。
来月のモメットの配達に合わせてサドハド島に遊びに行くよと伝言を添えて。
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